ようこそ珍獣の森

    作者:日暮ひかり

     ラジオウェーブのラジオ放送が現実の都市伝説事件になりはじめて久しいが。
     これも、そんな矢先に確認された放送のひとつであった。

    ●要するにこういうやつ
     この日、とある熱帯植物園にはこの蒸し暑さにもかかわらず、人が殺到していた。
     なぜか珍獣が大量発生していたからである。
    「あ、あれは! チベットスナギツネが乾いた目でこちらを見ているぞ……!」
    「見て、ナマカフクラガエルがピーピー鳴いてる! かわいい!」
    「なんだ甘食かと思って食ったらフジヤマカシパンじゃねーか」
    「こ、これはトゲトゲ……いや、トゲナシトゲトゲ……違う、トゲアリトゲナシトゲトゲだ!!」
     珍獣といいつつ魚や虫まで混じっているが、とにかく園内はあまたの珍獣的なケダモノが闊歩するカオスジャングルと化していた。
     対応に追われる職員たちを尻目に、SNS用の写真を撮りまくるパーリーなピーポー。
     しかし、その背後に謎の巨大生物の影が忍び寄る……!
    「え……? な、なんだこの生き物は! ぬわーーっっ!!」

    ●海釣りでシーラカンスが釣れちゃう感じの世界観
     とある熱帯植物園が、ラジオウェーブの放送のせいで珍獣パークになる。
     それも『毎週水曜日に』というレディースデーのごとき条件で。
     遠足という名目で急遽一日貸し切ったので、ヌシを狩ってきてくれと鷹神・豊(エクスブレイン・dn0052)は言いだした。
    「ぬ、ヌシ……?」
    「珍獣王だ」
     珍獣王は園内を闊歩するふつうの珍獣たちをふつうに捕まえてもふったりしていると時々姿を現す、らしい。珍獣でしかも王なので出現頻度が低い。
    「外見は一般的な珍獣だがサイズがとても大きく狂暴だ。気をつけろ」
     一般的な珍獣かあ。ずいぶん哲学的な存在である。
     SSSRぐらいの確率で思ったより強いかもしれないが、それならいっそラッキーであろう。珍獣だから。
     なお園内の珍獣たちはどれも一般人の『なんとなくこうかな』を反映したテキトーな珍獣のため、『なんとなくコイツがここにいそう』という場所を頑張って探せばきっといる。
     その行動やサイズ感もテキトーに違いないので、あまり深く考えてはいけない。
     あと検索しても出てこない超コアな珍獣を探して意地悪するのはやめてほしい。
     鷹神がそんな誰向けかわからない解説を長々している時。
    「話は聞かせてもらったよ」
    「げっ、哀川!」
     珍獣大好きマン哀川・龍(降り龍・dn0196)どっからか参上。
    「グッジョブ布都乃! 許せないなラジオ野郎! よし、おれも行く!!」
     すまんがコイツも連れていってやってくれと、鷹神は渋々龍の同行を許可した。

     いいか、遊びに行くんじゃないぞ、遠足は名目で仕事だからな、絶対はしゃぐなよと、鷹神はガミガミ言い聞かせてきたものの。
     皆にはもう『押すなよ絶対押すなよ』的なアレにしか聞こえていなかった。


    参加者
    雨咲・ひより(フラワリー・d00252)
    喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)
    関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)
    風峰・静(サイトハウンド・d28020)

    ■リプレイ

    ●珍獣探検隊・伝説の珍獣王を追え!
    「すごーい! 珍獣天国だよ、さなちゃん!!」
     毎週水曜は珍獣の日。どこを見ても綺麗な色の鳥、名前も知らない動物だらけだ。雨咲・ひより(フラワリー・d00252)と青木・紗奈は手をとりあって喜ぶと、ふわふわの可愛い子を求めて元気よく探検に出発した。
     砂地の植物を一緒に眺めていると、サボテンの裏で大きいお耳がぴこぴこ。
    「見てみて。フェネックさんだよ!」
     ひよりが屈んで手招きすると小さいフェネックさんが近づいてきた。顎の下を優しく撫でると、フェネックさんも宝石みたいな目を細めて気持ちよさそう。その愛くるしさで二人も笑顔になる。
    「わ! ひよりちゃん! こっちのフェネックさん、大きいぬいぐるみみたい!」
    「わわ、ほんとだね。フェネックさんの家族だ!」
     紗奈は頭を撫で、首にもふっと抱きついた。ふかふかな耳が頬に当たるとくすぐったくて、思わずふふ、と笑っちゃう。幸せいっぱい……さなちゃんごと連れて帰っちゃいたいな、なんて。
    「さなちゃん、こっち向いて!」
     ピースする紗奈の写真をぱちり。紗奈もお返しにひよりをぱしゃり。
    「仲良し、ね。良かったら、ご一緒の写真、撮るわ」
    「わ、嬉しい! お願いしよっか」
    「ふふ。こんにちは、もふもふさん」
     通りかかった漣・静佳(黒水晶・d10904)もふかふかフェネックに興味深々。屈んで視線を合わせ、触れる前には挨拶を。静佳ちゃん優しいね、と微笑んだひよりはあれっと思った。よく見れば帽子と水筒装備、おやつまで持ってきている所が実に可愛らしく感じ、笑みが深まる。
    「……浮かれすぎ、かしら。恥ずかしい、わ」
    「ううん、わたしも今すっごくはしゃいでるもん。今日は楽しもうね!」
     その時、足元を小さな影が通過した。ひよりの探していたあの子だ。追いかけようと笑顔で手をとりあって、ひよりと紗奈は森の奥へ駆けだす。
     ああ女の子っていいな。このままずっとこの空気だったらな。が、ここはネタのサバンナ。徐々に様子がおかしくなるがついてきてほしい。

     地図を片手に散策していた喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)は、兎をくわえて茂みを駆ける黒いもふ影に目を留めた。すごい速さだ。あれはきっとSRもふに違いない!
    「確保よ、杣」
     銘子の相棒、四国犬の姿をした杣は猟犬さながらの走りで黒もふに追いすがる。一気に距離を詰め、脚を甘噛み。
    「わ! 待って僕僕!!」
    「静くんだったのね。馴染みすぎていて気付かなかったわ」
    「つい野生に帰っちゃったよ。見て、変な顔のウサギ!」
     野生に帰りすぎてオオカミ化していた風峰・静(サイトハウンド・d28020)が正体を現した。彼の数少ない友人である八千草・保の姿に笑って会釈し、銘子は召し出された獲物を抱える。
    「ビスカッチャね。探していたのよ、嬉しいわ。外見と実際の目科の差異なんて些細な事よね」
    「これウサギじゃないの!? おかしいなー生物は40点とれたことあるのに」
     杣が追いたてたケープハイラックスと一緒に抱きかかえ、もふったりびろーんと変顔させてみたり。至福のもふを堪能しつつ、銘子は地面に這いつくばってクンクンしている静をほのぼのした目で眺めた。
    「でも足跡や臭いで追うのは得意だからねふふふ、絶対逃がさないよ。はっこれは……アンゴラウサギが呼んでる!」
     四足で走っていった静は配管に詰まっていたアンゴラウサギを救出した。友達がいないことまで公表して狼アピールされても、動けば動くほど『犬』って思う。
    「すごい、もふもふしかない……なんでこんな所入ったんだろ余計蒸し暑……でももふもふ……ああ~~……」
    「ぼーるみたいやなぁ。柔らかい……あ、枕にしたら眠れそ…………すー」
     ふかふかに負けた静と保は一瞬で寝落ちした。
    「はっ寝てる場合じゃない。はい冷房の利いた所にホッキョクウサギ! 極めつけのフレミッシュジャイアント!」
     静はウサギをぽいぽい投げてよこした。野生の勘というか、それ以上の何かに只々感心しつつキャッチする保と銘子だが、フレミッシュジャイアントはちょっとでかすぎた。
     どしーん。
    「……重いわ。でももふもふに潰されるなら本望よ」
    「うわあごめんね、っていうか図鑑で見たのよりでかくない!? ふふふ、今日は食べずにひたすらモフってあげるから……!」
     危機を感じたホッキョクウサギがシュッと立ち上がり時速60キロで逃走した。
     すかさず追う静を眺めていた保が、はっと息を止める。生垣の向こうにちらつく白い奴。北極で、大きいといえば――そうアレ。
    「捕まえたーっ! あれ、このウサギ随分大き……は? くま??」
    『ガオオオオオオッ!!!』

    「む、今すごい悲鳴が。でも笛じゃないので大丈夫ですね。一般的な珍獣……草むらとか探せばいるんでしょうか? はたまた池の中とか……沼の中とか!」
     火とか水とか、今日も全く探検に向かないヒラヒラを着た煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)のスカートの中に何か出そうだ。その珍獣はやばいなあと哀川・龍(降り龍・dn0196)は思った。
    「いえ、木を隠すなら森の中……あそこの森が怪しい気が……ん、珍獣を隠すなら……珍獣の中? あれ、何を探してるんでしたっけ!」
    「おれに聞かれても」
    「まったく好き勝手しやがるぜー! コレはちゃんと退治しねーとなー!」
     その時、入場ゲートの方からえらく白々しい大声が。
    「やはりラジオ野郎か……いつ出発する? オレも同行する」
    「あくた院」
     者ども頭が高い、推理を当てし男赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)様のご降臨であるぞ。ピシガシグッグッしてる男子達はほっといて、朔眞はとことこ岩場の方へ。
    「お、例のヤツか」
    「朔眞も会ってみたいですしね。あっ、いました!」
     三人は興奮を抑えつつ布都乃のスマホを覗く。画像と寸分違わぬ姿、手乗りサイズのちっちゃい恐竜アルマジロトカゲだ。
    「うわ丸まったかわいいかっこいい!」
    「早く捕まえてください!」
    「ホラよ。鎧みてぇなフォルムとイカつい顔のわりに大人しくて可愛いヤツなんだぜ? カッコイイよなぁ……なんだよ煌。大学生になったって男子はこういうヤツが好きなモンだ」
     悪態もどこへやら。未だ少年のようなお顔をキラキラさせ、掌のトカゲを夢中でごつごつしてる布都乃様、かわいい。悪いが全く大一に見えない。
    「なんだよサヤまで。そんなに構って欲しいんなら……そらっ!」
     更には呆れ気味のサヤを捕まえくすぐり始めた。このままでは世界の少年偏愛家が『布都乃様は合法……』とむせび泣いて死ぬ。
    「むむ。やりますねあざと院」
    「あ? 何がだよ」
    「ふふふ。でもあざとクイーンの座は渡しません。朔眞は珍獣王さんがゲテモノでも可愛い~って思っちゃいますし、やだ~攻撃できない~って龍さんの影に隠れちゃうかもです」
    「……言ったら意味なくない?」
    「と思わせて、愛を鉄拳で制す。それも素敵だと思いませんか? わっ見てください、可愛いお猿さんのアイアイですよ!」
     童謡を口ずさみ、朔眞はてちてち走っていった。なおアイアイの別名は悪魔の使いという。
    「あれマジだよ。朔眞のセンスやばいから」
    「ワケわかんねぇな。ゴキゲンなお姫サマだぜ」
     二人が笑っていた時、園の西から絶対クーラーじゃない冷気が流れてきた。
     まさか珍獣王――キワモノ達と戯れる朔眞をひっつかみ、駆けつけた彼らが見たものは!
    「そこを退いて頂戴な。もふもふでない蛇はもふ戴天の宿敵……私のもふキックもふソーバーがそう囁くのよ」
     とっても可愛いヴァレーブラックノーズシープに跨ったとっても怖い銘子だった。
     まずなぜ乗ってる。狩ったもふもふの大群を普通に従える杣と、圧倒的バトルオーラを発す銘子様を各自想像してほしい。目が据わっているうえ意味不明なもふ語まで口走っているが、恐らく本人も意味分かってないだろう。
     『もふの暗黒面に堕ちし百もふの珍獣女王』滅威狐。この依頼の裏ボス、SSSRだ。
    「喚島! こりゃ蛇じゃねえ、ツチノコだ。怯えてんだろ」
     やや難の波動で布都乃がイケメン化した。可哀想なツチノコを間一髪、遠くにブン投げる。
     ……。
    「ツチノコ!?」
    「やっぱりいたんですね。朔眞は信じてました、さあゲットです!」
    「イイけどアイアイは置いてけ!」
    「え~!?」
     慌ててツチノコを追う一行。しかしさすが幻の珍獣、二度と会えなかった。

    「見て室本さん、ツチノコ! あっ哀川さん」
    「ツチノコいた!?」
    「今そこに……あれ、いない。でもほら、鳳凰が飛んでる! 貔貅や金蟾もいるよ」
     朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)は無邪気に上を指さした。下手したら王より強そうだが大丈夫か生態系。
    「すご! 拝んどこ」
    「龍、服にモンスターがついてるが……」
    「これ? ニセハナマオウカマキリ!! かっこいいだろ!」
    「……虫が好きなの? さっき虫除けスプレーしちゃった」
    「あああ魔王が逃げた!!」
     常々思う。女子はなぜブサカワで騒ぎ、男子はなぜカッコイイヤツに弱いのか。
     隣の室本・香乃果も木の上で舌を出すキンカジューを眺め、『木登り出来ないの……』という顔で溜息をついている。向こうでは篠村・希沙、鹿野・小太郎、嶌森・イコの珍獣沼トリオがオポッサムの生ぽっくりに感動の拍手を送っていた。
     穂純のATMに灼滅者機能をつけた存在なので童心が乏しい関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)は、貰ったチョコ棒と塩レモン飴を齧りながらチベットスナギツネ化していた。今日も帰りの電車代すらない。食事中のジェレヌクも『キミ新人?』的な顔で見てくる。
    「関島さん、足の下……」
     靴を齧ろうとしていたハダカデバネズミを容赦なく捕獲。すると、巣穴を掘ろうと待っていたかのこが寂しげにきゅーんと鳴いた。肩身の狭さを感じつつ、峻は木に登る。
    「ほら香乃果、スローロリスとキンカジュー。こっちはケツァール。シマエナガ大猟だな」
    「あっ穂純ちゃんたちだ。あっちにトビネズミさんの仲間がたくさんいたよ!」
    「わあい! ピグミージェルボアいるかなあ。雨咲さんと漣さんは会いたい子いますか? 関島さんが捕まえてくれるよ!」
    「モロクトカゲ、トゲトゲ、だけど。いい、かしら」
    「峻さんおれユキヒョウの赤ちゃん!」
    「そちらの枯れ枝……みたいな子もよろしければっ」
     イコの腕の中に昼寝中のタチヨタカが落ちてきた。カッと目を見開いた彼(?)ににらめっこ勝負を仕掛けるも、希沙と一緒に思わず吹き出してしまう。小太郎も憧れマヌルネコとご対面。感動が言葉にならず、戦慄きながら両手でもふもふ。思わず五体投地で、ふかぁ……。
    「……はっ。と、取り乱しました」
    「か、かわ……こたろ……何方もかわわ……!」
    「次はあの子がいいなあ。捕まえたいから手伝って!」
     峻が追いたてたウォンバットのお尻にもふっと飛びこんで、穂純は集まった珍獣たちとかのこを両手いっぱいに抱っこする。可愛い子もかっこいい子もブサカワも、今日はみんな穂純の友達だ。
     珍獣との記念撮影に興じる皆の姿を静佳はじっと見守る。ユキヒョウを肩に乗せた龍が静佳さんはいいの、と尋ねたが、彼女は微笑んで首を振った。
    「じっと見て、記憶や心に、思い出として残しておきたいの」
     学校行事で行く程度だった動物園。こうして皆で『遊びに』来る日がくるなんて。本で読んだたくさんの珍獣達と出会う夢のような一日は、静佳の心に何か大切な、あたたかい想いを芽生えさせた。
    「不思議ね、とても楽しいのよ。哀川さん、ありがとう」
    「礼はラジオ野郎に……それも変か。へへ、でも静佳さんいい顔してる」
     そして、皆は疲れ果てた峻に尊敬と労りの目を向けた。
    「関島さんすごい! 珍獣遠足最高!」
    「すごいです峻さん。可愛い子達が沢山!」
     あれ、今日は世界が優しい。パフォ欄を代償に放った黒魔術の恩恵を感じた悪島先輩は、ヒクイドリを捕まえて豊を喜ばせようと考えた。
     メゴォ!!!
    「関島さんがくの字に折れた! 死ぬ前に忘れずにお小遣いちょうだい!」
     気のせいだった。写真をチェックしていた穂純は、何か異質なモノが写りこんでいる事に気づく。ヒクイドリキックから蘇った峻はカメラを覗いた。
    「普通に写真に残るのか都市伝説。ん、どうした」
    「せ、関島さん、後ろーっ!」

     ニャーン!
     甲高い猫の断末魔に皆はギョッとしたが、すぐに穂純の持っていた珍笛の音だと気づく。
     章を跨いで、珍獣王の正体が明らかに!

    ●張ってないのに回収されし伏線
    「わっ、誰か倒れてます。大丈夫でしょうか」
    「嘘だろ関島……逝く時は呆気ねぇモンだ」
    「あっ平気です、関島さんが死ぬのはお約束だもん。あれ風峰さん、何でホッキョクグマを担いでるの? 喚島さんも何だかすごい!」
    「サブクエスト的なのがちょっとね……主に会えるとは光栄だな」
     駆けつけた四人は珍獣王を見上げた。
     鱗で覆われた体に長い爪。山羊のような大きい巻き角を備えた、知的かつ凶悪で威厳あるトカゲ的巨大生物――。

    『グオオオオオオオオッ!!』
    「……ってわーこれどっからどう見てもドラゴンだ!!」
    「すごい、鳴き声がかっこいいよ! 写真撮れるかな」
     珍獣王こと、ガチでエグめに強そうなドラゴンが咆哮をあげ、放電しながら暴れていた。
     知名度的にまさしく一般的な珍獣。なぜか綺麗にオチるので都市伝説は怖い。
    「でもよく見て、変顔なのよ。気休め程度だけれど」
     確かに顔はスマトラサイ似だが、血走った眼が愛嬌を見事に殺しむしろこわい。きっと花が咲き鳥が歌うピースフルワールドなひよりの殺界よりコイツの殺気のが強いんじゃレベルだ。
    「朔眞が思ってたのとだいぶ違いますが、これはこれで!」
    「可愛いと心が痛むからな。これなら思う存分狩」
     ピシャーン。
     峻が落雷で焦げた。
    「わああ焦げ島さん! 一日三回も死んだら世界新だよう」
    「悟りの表情、ね。シロガオサキ、みたい。魔法系、かしら」
    「カッケェ……! コレだよコレ、男子のロマン!」
     雷属性をつけた布都乃君、大はしゃぎしてるが後で職員室である。先月一緒に死にかけたのに何故俺だけと峻は思ったが、自ら鳥に蹴られに行った結果なので皆は反面教師にしてほしい。
    「さあ龍さん、お好きなポジションで!」
    「いやいや無理無理」
    「私も何だか疲れたから足止めの結界を張りつつ一休みしているわね。静くん、杣、出番よ」
     銘子女王は羊のベッドに寝そべり、アンゴラウサギを枕にしながら下知された。大変優雅だ。
    「よーし武蔵野の鉄砲玉と呼ばれたかった僕が倒すよ、『絶対に』! アルティメットハシビロコウマン・ホワイトベアフォーム!!」
     すっかり群れに組みこまれた静がゴージャスな光と共に変身する。クマから剝ぎ取った的素材でもっふもふになった戦装束にハシビロコウの翼が合体し、大方の予想より遙かにカッコよかった。音もなく飛び立った静は上空から回転体当たりを叩きこみ、華麗に着地する。ひよりは一応ベルトを操ってはいたが、突如壮大なファンタジーが始まったためもう撮影のほうに夢中だった。さっきまで森の妖精だった子が戦場カメラマンになるなんて。
    「いいよ静くん、すごく主人公してるよ! 後で写真送るねっ」
    「やったー!」
     厨二が疼いた布都乃は闇を纏いたくなったが、存在感が消えそうなのでやめた。血塗られた紅の魂魄を拳に宿し、運命周波数を調律せし優先の覇王顔で敵の顎にアッパー。一方、朔眞は自分の立ち位置に迷っていた。
    「これを可愛いって言うとさすがに狙いすぎですか? どうでしょう先生」
    「知らねぇよ好きにしろ! ヒトに迷惑掛ける前に、コイツらと遊んで満足しな。頼むぜサヤ!」
    「はっ、行きますよリオ」
    「かのこも猟犬モードだよ!」
    「任せるわね、杣」
     どんな珍獣よりやっぱりうちの子が一番。小さな相棒達が果敢にまとわりつく中、結局狩る気満々の朔眞が回転を加えた槍を投げつける。その時、背後から力任せの斬撃を喰らい、王が怒りの咆哮をあげた。
    「どけ。俺が対珍獣戦最強だ」
    「アシュ島さん!」
     日頃の鬱憤が爆発し遂に壊れた峻が、右手に斬艦刀左手に大鎌を持ち『何もかも破壊してやる……』という目で笑っていた。暫しぽかんとしていた静佳だが、ぐ、と手に力をこめ『暴竜禁止』の赤看板を準備する。
     この騒々しい状況を楽しめているのがなんだかまだ信じられない。もう会えないなんて惜しいわよね、と銘子も羊を撫でながら笑んだ。
     これはいつか絵本で見たような、どんな本にも書かれなかった、不思議で楽しい冒険の一日。
    「皆がいるから怖くないよ。だって最高に珍獣だもん!」
     穂純はセンザンコウシールド(ルール上意味はない)を構え、雷ブレスを吐く王に突撃した。閃光が、視界いっぱいに広がって――。
    「ごめんね関島さん。思い出を絵にしたかったよう……」
    「死ぬな穂純、遠足の後は美術室に集合だろ!」
     戦場に散った穂純の仇を討つべく、静が駆ける。無慈悲にも振るわれる巨爪を狼の銀爪で受け止めながら、悲壮なる決意を吼えた。
    「ねえ番組打ち切りの臭いすごいけどこの流れでこれ言っていい? 君を倒して……珍獣の王に、僕はなる!!」

     姿は立派でも実力は予想通り。その後難なく王を倒した一行は、お土産を買い帰宅した。
     なお、皆が珍鳥写真を献上したため鷹神の機嫌はすこぶる良かったという。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 8/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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