それは愛らしく愛ではなく

    作者:陵かなめ

    ●狙われた学生たち
     蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)が皆を呼び出したのは、夕暮れ時の町の中だった。
     家々が夕日に染まり、学校帰りの学生の姿がちらほら見える。平日のごくありふれた風景のように思えた。
    「集まってくれてありがとうなのです」
     榛名はそう言ってから、自分が調べたこの付近での事件を語り始める。
     学校帰りの学生を狙って、花を摘み取るように楽しげに殺人を犯している六六六人衆がいるようだ。可憐な少女の姿である六六六人衆は、恋川ゆいなと名乗っていると言う。特に男子学生をよく狙うようだとも。
    「かわいい女の子に声をかけられて、立ち止まった男子から殺される、と言うわけなのです。それなら、学校帰りの学生のふりをして敵をおびき出したらどうでしょう?」
     おとりを立てて、現れた六六六人衆を撃破しようというのだ。
     一応、男子学生のほうが良い様だが、男装した女子でもおとりは可能だろう。おとりの人数は何人でも良い。楽しげな下校途中の学生を装うのがいいだろう。
    「戦いになれば、きっと殺人鬼相当のサイキックを使ってくると思います」
     そして、恋川ゆいなは断斬鋏を装備しているようなので、そのサイキックも使用してくる可能性があると榛名は言った。
    「これ以上、事件を起こさせてはいけないと思います。頑張りましょう」
     そう言って、ぐっと拳を握り締める榛名だった。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)
    蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)
    十束・唯織(末那識・d37107)
     

    ■リプレイ

    ●囮と待機と
     夕日が辺りを染める頃。灼滅者たちが動き出していた。下校途中の学生に声をかけ、殺してしまうと言うダークネスを倒すため集まった者たちだ。
     逢魔が時とはよく言ったものだと西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は、思った。一日が終わろうとするこの時の、夕日の色は赤い。ただ、惜しむらくは、陽の色に血の赤が混じってしまう事だろうか。
     織久は、ただ静かに拳を握った。
     その拳をベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)がそっと抑える。
    「夕暮れの帰り道と言えば、わたくしは楽しい事を考えてますわね」
     そう言って、弟の様子をしっかりと見て取った。
    「織久は今何を考えて……なんて、わかりきってますわね」
    「それは……」
     溺愛する弟が六六六人衆と戦うと織久ではなく『我等』になってしまうので、弟を奪われる感じがして嫌なのだ。
    「タイミングを見てから一緒に行きましょうね?」
     ベリザリオは少しずつ落ちていく夕日に目をやった。
    「声をかけて呼び止め、立ち止まった相手から殺す。まるで都市伝説ですね」
     その近くで、周囲を警戒しながら華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)が呟く。
     もっとも、回避の方法がある都市伝説よりも余程たちが悪いのだが、と。
     おとり役の仲間たちからは離れすぎない程度の場所で、三人は待機して身を隠していた。
    「携帯から会話は聞こえていますか?」
    「はい。かなりクリアに聞こえています」
     紅緋に問われて織久が手元の携帯を確認する。
     電話の向こう側から、楽しげな声が聞こえてきていた。

     一方。囮として学生を装い敵をおびき出す役目の仲間たちは、夕日に染まる道を見据えていた。
    「むぅ、ちゃんと男の子っぽくなってるのです?」
     いつもより雑にまとめたポニーテイルを触りながら蓬野・榛名(陽映り小町・d33560)が言った。
     かっちりと学生服を着込み、榛名は男装してきている。
    「男子生徒から襲うっていうことだったからね」
     隣を歩く新堂・桃子(鋼鉄の魔法つかい・d31218)も、同じく男子の制服を着て男の子っぽい格好をしていた。更にエイティーンを使い、仲間達と並んで歩くのに違和感のない姿となっている。
    「うぉい、てめぇら、そろそろだぞ」
     十束・唯織(末那識・d37107)が仲間達に声をかけた。
     これから六六六人衆と戦うことを思うと、殺意を抑えるため必死に我慢しているのだ。そのためか、唯織の表情は険しい。だが、今は囮役。我慢我慢だ。
    「じゃあそろそろ囮役行こうか。誰かと一緒に帰れるなんていつぶりかな!」
     ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(赤紅・d36355)がわくわくと期待した表情で皆を見る。
     何にしても、久しぶりに誰かと帰るから、とても楽しみなのだ。
     灼滅者達は頷き合い、楽しく道を歩き始めた。

    ●おびき寄せ
    「そういえば、今週発売のゲームもう買ったか?」
    「あー、あれは俺はまだだな」
     榛名と会話しながら、唯織は耐えていた。
    (「耐えろ俺、ここで俺が殺意を抱けば作戦は水の泡だ」)
     今の自分は囮なのだ。ああ、殺意を押さえることの大変さよ。
    「ゲーム? なにそれ?」
     桃子が振り向いて二人を見る。
    「ぼく買っておいたから遊びに来いよ! あっ、ちゃんとお菓子持参だからな」
     指先でピコピコとボタンを押す真似をしながら榛名が答えた。
    「ほい、今、飴あるよ。あチョコもあった」
     話を聞いていたロードゼンヘンドがポケットからお菓子を取り出す。
    「俺一個もらうわ。ほら、てめぇらも食っとけ」
     唯織がいくつか菓子を手に取り、他の皆に配ってやった。
    「うれしい! ありがとなー!」
    「じゃあ、チョコいただくね」
     榛名と桃子が嬉しそうに手を伸ばす。
     ロードゼンヘンドは仲間の様子を見ながら、笑っていた。
     こんな他愛のない会話を楽しむのも、中々アリかなと。思い始めていた頃合で、ひょこりと少女が姿を現した。
    「こんにちは、お兄さん達!」
     裾にフリルの付いたスカート、優しげな色合いのブラウス、そして緩やかなウェーブの柔らかそうな髪。
     少女はにこやかに灼滅者たちに近づいてきた。
    「君、どうしたの?」
     榛名が首をかしげて見せる。
    「えへっ。お兄さん達、とっても楽しそうね? あたしは恋川ゆいなだよっ。ねえ、あたしと一緒に遊ばない?」
    「何をして遊ぶのかな?」
     桃子の問いかけに、ゆいながやはりにこやかに愛らしい笑顔でこう答えた。
    「あはっ。あたしが殺すでしょ? お兄さん達は泣き叫ぶの! ね? とっても楽しいよ?」
     キラキラと瞳を輝かせ、ゆいなは巨大な鋏を取り出す。それから、こちらの返答を待たずに刃を向けて突撃してきた。
     その間に、待機していた灼滅者達が走りこんでくる。
    「こんにちは、お姉さん! 私達とも遊んでくださいなっ!」
     飛び込んできた紅緋が影を伸ばし、ゆいなの手を絡め取った。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
    「なっ」
     バランスを崩したゆいなに、重ねて織久が影を絡める。
    「我等が怨敵の血潮は余す事無く味わいたいもの」
     影はゆいなを締め上げ、自由を奪った。
    「陽の色を塗り潰す程血飛沫上げてもらおう」
     怨敵を目の前にして織久の口調がいつもと変わっている。
     ベリザリオは弟の様子を見ながら、守りを固めるようにソーサルガーダーを放った。
    「早く倒して一緒に帰りたいですわ」
     身体の自由を奪われ舌打ちをするゆいなをチラリと見て、ベリザリオが一人ごちる。
     囮役の仲間も武器を構え、戦いが本格的に始まった。

    ●恋川ゆいな
    「人殺しはいけません」
     榛名が変装を解き、ダイダロスベルトの帯で全身を覆って防御を固めた。
    「あなたが例えダークネスでも、許されることではないのですよ」
    「な! 女?! ひどい、だましたのね!!」
     鋏を振り回しながら、ゆいなが傷づいた表情を浮かべる。
    「あー、嫌だ嫌だ。男子が涙を流して逃げ惑うのが楽しいのに!!」
     と、勝手なことを口にし、ベリザリオの身体を切り裂こうと踏み込んできた。
    「やっぱり、男の子に執着してるんだね」
     その鋏の刃を、受けたのは桃子だった。変装を解き、戦う姿となり、攻撃を受けた仲間の盾になる。
    「ありがとう、大丈夫だったかしら?」
    「うん。いっくよー! せーのっ!」
     ベリザリオは気遣うように桃子を見た。桃子は頷き、走り出す。流星の煌めきと重力を宿し、一気に距離を詰めた。エアシューズを輝かせ、鋭い飛び蹴りを放つ。
    「くっ、お前も女かー!!」
     吹き飛ぶ敵の姿を追ったのは紅緋だった。
     他のダークネスとは共存の余地があるかもしれないけれど、六六六人衆だけは共に歩むことは出来ない。
    「息をするように人を殺すダークネス。この種族だけは根絶しないと」
     片腕を巨大異形化した紅緋は、地面に転がったゆいな目掛けて、思い切り腕を振り下ろした。
     敵の身体の一部が砕け散る。
     ゆいなはくぐもった悲鳴を上げたが、すぐに身を起こし走り出した。
    「貴様は我等が怨敵」
     その背後に回り込んだ織久は、敵の身体を切り裂く。
    「ふ、ん。やっと男子が来た。あは。お兄さん、こんなに近づいて、すぐにぷちんって、切ってあげるね?」
    「構うものか」
     鋏を構える敵にも構わず、織久は更に一歩踏み出して敵の身体を抉った。
    「一人で出過ぎないようにね?」
     敵の鋏から織久を守るようにベリザリオが前に出る。
     ソーサルガーダーで桃子に守りを飛ばしながら、織久を引き、敵といったん距離を取った。
     代わりに、ロードゼンヘンドが帯を射出しゆいなを狙う。
    「殺人するたびに目をキラキラなんかさせるなよ」
     狙いを定め、帯で敵の身体を貫いた。
    「だって、楽しいんだもん♪ お兄さんだって、好きでしょ? こういうの!」
     身体を貫かれ、血を流しながら、ゆいなが笑顔を浮かべる。
     ロードゼンヘンドは心外だとばかりに首を振った。
    「ボクが楽しむのは戦闘だからな」
     戦闘であって殺人ではない。一緒にはされたくない。
     帯を引き抜き後続に間を譲った。
     ゆいなの身体が揺らぐ。
    「ったくよ。六六六人衆が」
     今まで抑えていた殺気を隠すことをやめた唯織は、険しい表情で敵を見据えた。
     身体から立ち上るどす黒い殺気でゆいなを覆い尽くしていく。
    「ちょっと、なんなのよ! あたしが殺すのよ? あたしが殺されてどーするのよ!」
     自分勝手な敵の言葉も癪に障る。
     唯織は嫌そうに顔を歪め、舌打ちをした。

    ●許せない、許さない
     戦いは続いた。
     敵は器用に鋏を扱い、そこそこ体力を回復しながら攻撃してくる。にこやかに殺人を楽しみながら、戦い方は心得ているようだ。
    「粘りますね、お姉さん。でも、勝負はこれから」
     それでも、灼滅者達は攻撃の手を休めない。
     敵の懐に飛び込んだ紅緋が、オーラを纏った拳で凄まじい連打を繰り出す。勢いに負けてゆいなの身体が仰け反った。
    「今です」
     紅緋が仲間達に声をかけた。
     灼滅者達が弾かれたように走り出す。
    「さあ血飛沫をぶちまけるがいい」
     炎を武器に宿し、織久はゆいなに思い切り叩き付けた。炎が走り、敵の身体に燃え移る。
    「さあ早く終わらせましょう」
     次にベリザリオが走り込みスターゲイザーを放った。
     鋭い飛び蹴りが敵の身体を浮き上がらせる。
     体を捻り、何とか次の攻撃から逃れようとゆいなが足掻いた。
     だが、すでに行動にかなりの制限がかかっており、上手く動けない様子だ。
     そこへ、桃子が飛び込んでいく。
    「逃がさないよっ! これでもくらえっ!」
     鍛えぬかれた超硬度の拳が敵の身体を貫いた。
    「かはっ。何よ、女ばっかり! 許せないわ」
    「うっ……騙してしまってごめんなさい。ですがあなたは、どれだけのいのちを奪ったのですか」
     仲間を癒すため、優しい風を吹かせながら榛名は言う。これ以上、業を重ねて欲しくないのだと。
    「そんなの知らないよ。楽しければそれで良いんじゃないの?」
     ゆいながおかしそうに笑った。
     榛名は静かに相手を見る。言葉だけでは伝わらないのは承知の上だ。だからこそ、自分たちが力を以って止めてみせるのだと。
    「六六六人衆……そして少女、か……。うん興味が無い」
     ロードゼンヘンドが笑みを浮かべて武器を構えた。
    「さっさと終わらせてしまおうか」
     今はもう回復の必要はない。
     地面に打ち付けられ転がる敵に迫り、身体を斬り裂く。
    「同感だな。ぶち殺そうぜ」
     頷いた唯織も攻撃を繰り出した。
     すでに敵は虫の息だ。
     もう鋏を持ち上げる力もないのだろう。
     だが、唯織は一切力を抜かなかった。
     ジグザグに変形させたナイフの刃で、二度と回復しないよう念入りに斬り刻む。
    「なんで、あたしは、たのしく、殺したかった、だけなのに」
     それに答える者はいない。
     六六六人衆はそれで息絶え、消滅した。

    「さあ、一緒に帰りましょう。頑張った後ですから好きなものをたくさん作りましょうね」
    「はい」
     ベリザリオに手を引かれていた織久が振り向いた。
     もう敵はいない。
     戦いは終わったのだ。
     紅緋は辺りを見回し確認するように言う。
    「戦いに巻き込まれた一般人もいませんでしたね」
    「うん。良かったね」
     ロードゼンヘンドが同意すると、紅緋がほっと胸をなでおろした。
    「お、そういえば、まだお菓子残ってるんだよ。良かったら食べるかい? ほら、戦闘後は糖分補給、だ」
     ロードゼンヘンドが残りのお菓子を仲間に配る。
     疲れを取り去るような甘いお菓子を食べながら、灼滅者達は学園に帰った。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月5日
    難度:普通
    参加:7人
    結果:成功!
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