魔人生徒会~今日は雨でした

    作者:菖蒲

    ●rainy day
     ざ―――雨が降る。
     天気予報に並んだ傘マークは梅雨入りを予見させて。
     幼さを感じさせるかんばせに影を落とし、長い黒髪を揺らした小さな少女は「雨ですね」と淡々と告げた。
    「梅雨ですね。この時期はじめじめして嫌ですが雨の日ならではの楽しみ方もあると思います」
     窓の外に視線を投げかけた後、しっかりと目線を合わせた彼女に海島・汐(潮騒・dn0214)は「そうなぁ」と小さく呟いた。
    「雨の日の楽しみ方を募集したいと思います。各々の楽しみ方……学園が出来る事ならばバックアップしますので、是非」
     椅子にちょこりと腰掛けて、膝の上に読みかけの本を置いた少女は黒曜の瞳をじ、と向けている。
     その後ろで、やはり雨は降っていた。


    「雨だな」
     湿気とじっとりとした暑さを拭いながら汐は「魔人生徒会からのお誘いがあるんだけどさ」と切り出した。
    「何かしら? 室内でドッチボール大会でもする? それとも、カフェにいく?」
     瞳を輝かせる不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)は「あと、読書もいいのね」とそわそわと立ち上がる。
     雨の日の過ごし方――しとしと音を立て乍ら空から降り注ぐ水滴を眺める暇つぶしに興じていたエクスブレインは見かけによらず活動的だ。
     あれもこれもと楽し気に口にした彼女に汐は「そういう感じでさ」と椅子に凭れ掛かった。
    「せっかくの休日だから各々好きに過ごさないか? って話なんだ」
    「素敵ね。少し離れたところにこじんまりしたカフェがあるのだけどそこでのんびり読書とか……あ、あと、ショッピングモールで雨の日を過ごすのもいいのよね」
     ジャズの流れる空間は木の温かみを感じさせる。水出し珈琲とパンケーキを売りとするカフェは真鶴曰く『雨の日にのんびりするのにうってつけ』の場所だ。
     雨で暗鬱とする気持ちを吹き飛ばすならばショッピングモールで買い物や美術館や水族館だって過ごし易い。
    「家でのんびりだらだらゲームってのもありだけどな」
    「汐先輩、結構ソーシャルゲームとかお好きだものね」
     日常会話に花を咲かせて、汐は「こういう日だってたまには必要だよな」と小さく笑った。
     今日は何てことない一日だ。
     灼滅者だって普通の学生。
     しとしとと降る雨の中、今日はのんびりと過ごしませんか?


    ■リプレイ


     ざあ――と雨の音がする。リズミカルに落ちる雫を聞きながらチャイムを鳴らせばいつもの顔がドアから覗く。
     土産のロールケーキを持ち上げた供助に紅茶やよ、と希沙は嬉しそうに小さく笑う。
     小太郎宅での手加減無用のゲーム勝負。雨の日と言えば、こうして遊ぶのだって一興だ。
    「まずは兄弟対決するんやんね?」
     手に汗握る戦闘に思わず声上げる希沙の「かっちょいー!」との声援に小太郎の手元が僅かに緩む。
    「いいカッコばっか、させてやる気はねえよ?」
     兄さんカッコイイと茫とした瞳に光宿した小太郎に供助は歯を見せ笑う。コントローラーを握る事無く白熱していた希沙は冷やした紅茶とロールケーキを机に並べ「ええ勝負でしたね!」と笑った。
    「……希沙のが汗かいてね?」
    「希沙さん、ありがとうございます。一息、ですね」
     バレてる、と視線を逸らして誤魔化しでケーキを頬張れば後半戦のスタート。
    「お手柔らかに」と告げたボタン連打の希沙を後ろからサポートする供助。何度でも戦って、実況も淀みなく。
     そんな日常が孤独の雨を止ませたように快晴で。こうしてこの先進んで行くと実感する供助の口元に僅かに笑み浮かぶ。
     まだ雨はやまないから、もう少し遊んでいよう?

     カレンダーのスケジュール欄は空欄。何もない雨の日は家の中で茫と過ごすのもいいけれど――憂鬱な一日も好きな人が居ればそれでいい。
    「今日、家に遊びに行ってもいい?」
     おいで、と修太郎が笑えば郁は大きく頷いた。御馳走してほしいと告げたその言葉。珈琲を二つテイクアウトして家で彼のお手製パスタに舌鼓を打とう。
     ざぁ、と降る雨の中で。二人並んで歩く速度は常に同じで。
     テイクアウトしたお菓子と雨の日の読書用の文庫本。修太郎の香りのする部屋に腰下して郁はゆっくりと彼の肩に凭れ掛かる。
    「これ、最近見た映画の原作小説なの」
     雨音が、うとうとと眠りに誘っていくから――誰も見てないよと撫でる掌の心地よさに雨がずっと止まなければと少し願って。

    「久しぶりにお菓子作っちゃいます!」
     相棒に元気よく宣言した陽桜はエプロンの紐をきゅ、と締めて笑顔を漏らす。雨の音が聞こえる室内であまおとは大きな瞳をぱちりと瞬かせ嬉しそうにきゅうと鳴いた。
     1パックに10個の玉子。すべてをめいっぱいに使ってココアシフォンケーキと抹茶シフォンケーキ。続いてベイクドチーズケーキとカントリークッキー。
     くい、と足元に抱き着く様に近寄る相棒の頭をぽんと撫でて。作っている様子を興味深そうに見守っている霊犬に笑みを漏らす。
    「あまおともちょこっとだけ食べてみますか? あたし、最近かなり上手になったのですよ」

     雨だな、と呟いて雨に纏わる怪談の話を思い出して大輔は「やめておこうか」と首を振った。
     何気ない独り言と共に訪れたのは図書館。雨に関する本は科学的な物からファンタジーを思わせる小説まで梅雨特集でずらりと並んでいた。
     ふと、別の棚に並んでいた家庭菜園の本が目についた。柚子についての情報が載っているそれに興味をそそられたのは『晴耕雨読』という言葉を思い出したからかと大輔は瞬く。
    「折角だ。この本をお願いするな」
     降る雨の下、読書だって悪くはない。

    「水着が欲しいんでしたっけ」
     こちらです、と呼ぶ結城に満月は「結城さんは、どんな水着が似合うと思いますか」とたどたどしく問いかける。
     悩まし気な結城はシンプルなホルターネックデザインの水着を手に取る。カラーはオレンジ。白い花柄が華やかでいいかもしれないと結城は満月に差し出した。
    「は、はい。そ、その似合ってますでしょうか」
     大きく頷くその声に安堵した満月に結城は「買い物が済んだら喫茶店へ行きましょうか」と笑い掛けた。
     プレゼントはレイヤードワンピースに幅広のベルト。今日を記念しての品に満月は嬉しそうにへにゃりと笑った。


     雨の日は外に出る奴がいないと小さく呟いて未知は周囲を見回した。
    「大和、誰も居ないしさ」
     一緒に歌おうぜ、と傍らの銀髪の青年を見遣る未知は昔歌ったポップスを口ずさむ。傘も差さず、滴る雫がぽたりと落ちて――ああ、曇天でも気分は如何してか晴れやかで。
    「雨の日の野外ライブって感じでテンション上がってくるなこれ」
     謳うのが好きだった相棒の声はもう聴こえない。そのことに僅かに掌に力を込めて「大和」と相棒を呼んだ。
    「ほら、すっかりびしょ濡れだな。風呂でも入ろうぜ?」

     ふわり、と雨に誘われて外出した顕人は自らの格好がいい加減だったかと息を吐く。
     ラフに着こなした白いシャツに黒のズボン。雨の音が周囲を掻き消す気がして――世界の輪郭が曖昧に霞む。あらゆるものの輪郭が溶け混ざって曖昧になってゆく感覚を感じ、カフェの窓際席にゆっくりと腰掛けた。
     僅かに鋭くなる眦は、なんてことない物思いの所為だろうか。
    「こんちは、えーと……ご一緒しても?」
    「ああ、何かをしている訳じゃないが」
     ひらりと手を振った汐は「食べきれないんだ」と皿に盛られた軽食を机に置いた。
     休日は何てことない偶然の連続だ。そうか、と返した顕人はゆっくりと目を伏せた。

     ホワイトキーの新商品、母の言葉に愛莉は、そうね、と笑みを溢した。
    「新しいメニュー? んー……紅茶のロールケーキなんてどうかしら?」
     スポンジ生地にアールグレイ茶ばを粉末状にして混ぜて焼く。そのアイデアを母に提案した愛莉は試しましょうと二人そろって厨房に立つ。
     手際よく母のサポートを行う日常が、こんなにも楽しくて。メニューに加えましょうねと笑う彼女の耳に聞こえたのは確かな来客音。
    「いらっしゃいませ!」
     こんにちは、とひらりと手を振った汐と真鶴に「丁度、焼き立てのお菓子があるの」と愛莉はテーブル席へと手招いた。

     久しぶりの東京下町。半年以上の音信不通で父と弟妹が泣いていたことを思い出して紗里亜は頬を掻く。海外研修で事件に巻き込まれて様々な事情で帰国と報せが困難になったと告げる彼女も苦い言い訳だと困った笑みを隠せない。
    「また、引き籠ってたんでしょ?」
     低く諫めるような声音に紗里亜の肩がぴくりと跳ねる。
     母は闇堕ちなど知る由もなく、母は灼滅者の事情を知る由もなく――それでも、娘の事ならわかるというように母は困った様に「紗里亜」と呼んだ。
    「あなたは昔から頑固なとこがあるから……お迎えに来てくれたお友達、大事になさいね」
     母の言葉に笑みが漏れる。嗚呼、きっと誰よりも適わないのはこの人なのだ。

     雨の日は嫌いじゃない。この時期の紫陽花は美しく、散歩にも適しているのかもしれない。出歩くよりも屋内でゆったり読書するのも好きだと璃羽は机の上に本を積み上げ、文字を追い掛ける。
     雨が弱くなるまで此処に居て、本を濡らす事ないように存分に文の世界を楽しもう。
     璃羽が手にしたのは世界激辛料理大百科。マニアックなものがあるのも学園の図書館ならではか。科学雑誌を傍に置き、こっそりと持ち込んだマイボトルの激辛唐辛子ジュースを思い出し唇を僅かに上げる。
     激辛の世界を思う存分に堪能しよう。

     普段から静かな部屋でお菓子を買い込んだ茅花の様子をちら、と見れば御伽はゆるりと瞬いた。
     白いベッドの上、毛布の塊はもぞりと動くことなく小さな寝息を立てている。雨音と混ざる静かな息遣いは心地よささえ感じさせて。
    「茅花さん」
     ――何か約束した気がするけれど、雨だし、さむいし、ねむいし、おふとんがしあわせで。
     呼ばれた声に、瞬いて。見える黒髪が何よりも愛おしい。ベッドを背に床に座った彼の耳元に顔寄せて。
    「おはよう」
     だいすきなひと。どこかに咲いてた紫陽花や雨に降られた女の子の話、他愛のない一日の事を今から話そう。

     いつも通りのアパートで、いつも通りの時間を過ごす。
    「いちい、何する? えっちな動画鑑賞会でもする?」
     瞬くれん夏に勝手にやってろと適当にあしらって櫟は心身のだるさから布団にそのまま身を埋めた。
    「落ち込みすぎ、今年もかのじょをでーとに誘えなかったからって」
     簡単に泣くよと僅かに顔を上げた櫟にれん夏は「ひーま」と構う事無く飛び付いた。
     こういう時こそ彼女に会いに行くべきだったのだろうか、れん夏のペースに飲まれると櫟は息を吐き出した。
    「めった刺しにしたいな」
    「ドン引き……俺、まだ死にたくないし」
     かわっちゃったのね、と乙女のように呟くれん夏に、あたしの生き方に口出さないでとあしらって。
     元気になったなら、次の言葉は決まっている――「じゃーアイス買いにいこ?」


    「ひーなこちゃんっ♪ こんな所で会うなんて偶然だね、どうしたの?」
     薄い曇色の髪が僅かに揺れる。肩揺らして振り向くその後ろ姿には十分見覚えがあると翼はにぃ、と笑った。
     その笑顔に表情を変えることなく妃奈子は「見ての通りよ」と靴先をとんと鳴らす。
    「それならお城までエスコートしますよ、お姫様?」
     ばさりと音立て傘開き仰々しくお辞儀をしてみせた翼に「生憎だけどお姫様なんて大層な身分じゃないわよ、王子様」と妃奈子は茶化して見せる。
     誰だってお姫様だと笑う翼の傘が僅かに傾ぐ。一人分のスペースに二人は少し狭いから。
    「相合傘、みたいだよね?」
    「……あら? 私はそのつもりだったのだけど」
     冗談を言い合う位、狭い傘の下なら何てことない。降る雨の音は二人の笑い声も飲み込んで。

     昇降口で備考を擽ったのは雨の臭い。湿った土の臭いに、雨音は嫌いじゃないと紗夜は瞬く。
     この位の雨ならば傘を差さずとも、急ぎ足で教室へと向かった彼女の目の前には雨が降り続けている。
    (「――雨宿りが必要だな」)
     居座っていれば、そのうち止むだろうか。それともこのまま降り続けるのだろうか。
     一歩でも踏み出せば雨の世界がそこにはあって、場を隔てる境界線が明確に輪郭を持っているようだ。
    「まー、場所にもよるかもだけど」
     自然にある出入り口。その存在をまざまざと思い知らされる気がして、思考の独り歩きに小さく笑った。

     ぱしゃり、と跳ねた水溜りを見下ろして雄哉は鞄に仕舞った折り畳み傘の事など気に留めず雨に濡れる。
     ――数か月で自分は化け物になってしまった気がする。
     雄哉さん、と傘を僅かに傾け首傾ぐ真鶴は彼の様子に何か感じ瞬く。
    「アンブレイカブルと今の僕と……どう違うんだろう。不破先輩、僕は……ヒト、でしょうか」
    「わたしだって、脳の一部が普通じゃないわ。……その、体じゃなくて、心なのかもしれないの」
     彼が学校にどのような用事で訪れていたのかを真鶴は知らない。けれど、こうして会ったのも縁だ。
    「あなたは、ヒトよ。わたしは、そう思っているの」
     ずきり、と頭が痛む。隠すように曖昧に笑った彼に真鶴はゆっくりと目を伏せった。

     傘が二つ揺れている。真珠、と呼べば赤い瞳を瞬かせた彼女は咲哉にゆるく首を傾げて。
    「真珠は、雨は好きか?」
     傘の下、僅かに笑ったその笑顔が愛らしくて咲哉は「俺は自然の力が直接感じられるのは嫌いじゃない」と大きく頷いた。
     彼女が初めて空を見上げた日、浮かべた笑顔は衝撃と感動と期待と不安と希望と――様々なものが混ざっていた。
     それから4年。情勢は今も尚不安定で。平穏に彼女が出歩けるのは何時になるかわからない。
    「真珠、いつか一緒に世界中を旅してみないか? 山も、海も、いろんなものを見に行こう」
     君が望んでくれるなら――世界平和を掴むヒーローにだってなれると彼女の小さな掌をゆっくりと掴んだ。


     雨は嫌いじゃない。からからと自転車を押しながら傘も差さず歩く日方は聞き覚えのあるハミングを耳にする。楽し気なステップと揺れる傘が彼女らしくて――「イコ」と呼べば彼女は笑う。
    「自転車も傘もお休み。季節を全身で感じられるのって好きなんだ」
     時季だから感じる優しい雨のおと、輝く深緑のいろ、香り立つみどり、温度もすべて。
    「今日、イコと歩けて良かった」
     これから育ちゆく緑のいのちを両眼に映せば彼女のようだなと感じるから。
    「真っ直ぐに穹を目指すみたいな日方くんことこの子たちと同じだわ」
     太陽も雨粒も全部受け止めいのちを謳って――こんなお散歩だって楽しいと水溜りを飛び越える彼女の笑顔は雨降りでも晴れ間の様に鮮やかだった。

     学園祭も近いからと連日の雨の中、軽音部の部室へと足を運んで。明かりを点けても薄暗い部室の中。休日の雨の日の二人だけ、そんな静かな空間が心地よい。
     かち、こち、と音刻むメトロノームが雨垂れのようにポタポタ落ちて。鼓動に近いスピードにすぅ、と息を吸い込んだ。
     カウントと共に始めた緩やかなベース。歌声と声を併せて――思い出がそっと過る。
     葉にとって気まぐれに踏み入れたこの場所で、何となく開いた扉の向こうに居た彼女。
     雨の音、弦の震える音、しっとり染み渡る声、時の流れをたどる旋律は言葉を交わさずともこの部屋に満ちてゆく。
     空気に溶けて消えた最後の音はゆっくりと雨の音に飲み込まれた。

     青空に雲と虹を描いたレインコート。「サイワ!」と呼ぶ朱那の声に才葉はにこりと笑う。
     才葉からの贈り物。晴天のような彼女に似合って嬉しいと才葉は屈託なく笑みを漏らして。
     雨降りの帰り道。レインコートなら雨にぬれてもへっちゃらだと水溜りに飛び込んで。路地裏の蝸牛の驚き顔に二人で笑う。
    「明日は晴れるかな?」
    「どうかな? 次晴れたら、通った事ない道を歩いてみない?」
     そしたら雨の日も同じ道を歩く。同じ場所なのに違って見える表情を二人で見に行こうと走り出す。
     キミと一緒なら、この世界は何よりも鮮やかなのだから!

     テスト対策を口実に、二人でお勉強――なんて、緊張しちゃうと括の視線はうろうろと。
    「括は児童学部だったよね?」
     覗き込む彼女の視線に応える彼は「子供が子供に囲まれてるみたい」と小さく呟いた。
     てし、と腕を叩いた彼女に小さく笑い、勉強しようかと遊太郎は囁いた。
     静かな図書館で、眠気を誘うその空間に植物図鑑を取り出す彼に「ゆうちゃん?」と括は首傾ぐ。
     ピアノの教本から植物図鑑に思考が揺れれば、そこにあるのは雨の花。
    「水色、薄紫、青、ピンク、白、赤……このガクアジサイも可愛いよね」
     帰り道は見に行こうかと笑うその声に瞳を輝かせ、括は小さく袖を引いた。
    「カタツムリとアマガエルもいるかしら? あと、相合傘、したいなぁ……なんて」


     窓際の席で茫と珈琲をお共にジャズと雨の音色の混ざり合う空間を過ごす。
     仙にとって、雨の日は心穏やかにさせるから。
    (「動物も終わりが見えてしまうようで躊躇するから」)
     傍に居る都市伝説を思い出す。表立って連れ歩けない子だけれども喜ぶようなものを買っていくのもありだろうか。
    「不破、この辺に小さい女の子が喜びそうなお菓子のお店ある?」
    「もしよければご案内するの。ご一緒に、どうかしら」
     ね、と店の軒先で傘を持ち上げる真鶴に仙はゆっくりとうなづいた。

     雨の季節は気分もジメジメとするけれど、室内に引き籠る理由になるのは嬉しいとマサムネは向かい合う水鳥に笑み溢す。
    「暖かい珈琲に、パンケーキ。これ以上、幸せな事なんてあるの……?」
     彼女の言葉に「出かけて幸せ増やそうぜ?」と笑うマサムネは珈琲とパンケーキいいなと笑い掛ける。
    「水鳥料理得意なん? 今度オレにも作って欲しいな」
     お嫁さんになって欲しい、とさりげないプロポーズに嫁、と口にした水鳥の頬が赤く染まる。
    「う、うん……これから、ちょっと……考える」
     聞こえただろうか、聞こえなかっただろうか。物陰で「水鳥」と呼ぶ声に彼女はゆっくり顔を上げ――「目、瞑って」
     はじめては不意打ちで、赤くなって隠れようとした彼女の掌をゆっくりと握りしめた。

     二人でショッピングモール。本屋に並んだ雑誌を手に取る千尋はファッションのトレンドをチェック。
    「あ、このTシャツかわいい。……あ、あ、そうだ。夏野菜特集してるらしいから」
     ファッションに料理、女の子だねぇと笑った徒は写真の雑誌を手に取った。カメラ雑誌の写真はどれもアマチュアとプロを感じさせるようなクオリティの高さで。
    「レベル高いんだね! 徒先輩、この間の夜桜、投稿してみる?」
     美しい夜桜の下の千尋。その写真をと進める声に曖昧に笑い「人に見せるのが勿体ない」と小さく呟いた。
    「さて、最後は漫画買って帰ろうかな? 徒先輩は漫画好き?」
     これは、と指さす彼女の声も忘れるようにスポーツ雑誌を見つめてしまって。
    「徒先輩」
     これ貸してあげるよとかけられた声が励ましの音だと気づいて大丈夫だよと笑い掛けた。

     馴染んだ教室、雨の日は一人きり。吹く風は少し涼しくて憂鬱な空気を飛ばしていく。
     さあさあと鳴る淡い音共に白い便せんに昭子は空色インクで思いを描いて。
     思うのは半年前――あのこはわたしです、と。応えることが出来る程に切り離せない鈴音。
    (「わたしが、ここに帰りたかったのと同じくらい――あの子だってかえりたくはなかった」)
     わかっていると口にするたびに皆が呼ぶ声と日常が幸せで。ずるいと言われてしまうだろうか、わがままだと言われるだろうか。
     さらさらと誰にも当てぬ文字を描いて。雨が止むまでいくつもいくつも。
     結び言葉はいつもおなじ――「また、明日」

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月17日
    難度:簡単
    参加:37人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 7
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ