殺人演舞の開幕を

    作者:長野聖夜

    ●序幕 僕と私の殺人演舞
     ――暗がりの人気のない町の片隅で。
     宵闇の中を悠然と歩く2つの人影。
     1つは、身長150cm程の、2本の小太刀を腰に差し、背に薙刀、鎖鎌、と思しき影を背負っている。
     その背後に影の様に揺れ動くは、丸眼鏡と『四白眼』だけが鮮明な、2体の男と女の人形を浮かばせる『殺人鬼』。
    「殺人鬼……君は何をしたいんだい?」
     パクパクと男の人形を巧みに操り口にさせれば。
    「そうですね……キキキっ。『死んだ灼滅者の軍団』を操って、六六六人衆を皆殺し。それはとっても面白い……クククっ」
    『私』は人形にそう返す。
    「そんなことは出来ないんだな……」
     人形にそう返させて、『私』はそれにカカカッと嗤った。
     流石に死者の軍団を操ることは出来ないから。
     隣にいる、『私』が差し伸べた手を掴んだ少女が無機質な表情で『私』を見る。
     ――その背に傀儡操りの糸を垂らして。
     と……自分の中で何かが蠢く様な感覚を察し顔を顰める。
    (「貴様、まだ「私」の中に残っているのか。面白い。面白いぞ、人形回し」)

     ――ならばそのノイズを殺すまで。

     『六六六人衆殺人階位狩り』と言う名の殺人演舞を起こし、それを止めに来るであろう灼滅者達を皆殺しにして。

    ●幕間 殺人演舞を止める為に
    「……これは、一刀さんの想いの残滓なのか、それとも殺人鬼の望みなのか……?」
     見えてきた光景の意味を想像し、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が疲れた様に溜息を一つ。
     ふと、顔を見上げれば何人かの灼滅者達が、優希斗の様子を見るべく集まっていた。
    「皆。数ヵ月前に闇堕ちした一刀さんが見つかったよ。……それにしても、闇堕ちして殺人鬼と言うダークネスになっても尚、あの時、一刀さんが堕ちて灼滅した『彼女』もいるとは……何の因果だろうね」
     かつて自らが予知した事件の事を思い起こし複雑な表情でそう告げる優希斗。
    「一刀さんは、深夜の人気のないある町の片隅に姿を現す。……『殺人鬼』と言う名のダークネスとして。更に……彼は2人の人……と言うか傀儡人形を操ってくる」
     一体は、かつて一刀であった『時尾』と言う真名を持つビハインド。
     そしてもう一体は……。
    「かつて灼滅した筈の屍王、『亜里沙』だ」
     それは、リベレイターにより活性化しそして灼滅された屍王の一人。
     その屍王の屍を、『殺人鬼』は従えている。
    「皆には現場に向かって貰い、一刀さん……今は殺人鬼か……達のことを何とかして欲しい。救えるならそれに越したことは無いが、最悪の場合は灼滅を」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。

    ●配役達
    「亜里沙は、かつてままごと遊びに興じていた屍王だ。まあ、あの時は一刀さんが闇堕ちして、その遺体を連れて何処かに去ったんだけれども……どうやら今は、『殺人鬼』の忠実な僕として操られているみたいだね」
     とは言え、今の亜里沙は殺人鬼の使う糸に操られている人形に過ぎない。
     戦闘力は以前ほど高くはない筈だ。
    「まあ、時尾と殺人鬼の壁にされるのは間違いないけれどね。どちらの選択をするにせよ、なんとかしなければならないだろうな」
     そこまで説明したところで、優希斗が小さく溜息を一つ。
    「……問題は、一刀さんを救う時だ」
     実は彼は武蔵坂学園に来るより前に一度闇堕ちしたらしい。
     理由は屍王と化した彼の父親に、自らの想い人を殺されそうになりそれを止める為。
    「最終的に一刀さんは灼滅者に戻った。けれども、その時彼の傍にいたのが……」
     現在は、時尾の真名を持つビハインド。
    「つまりは、そういうことなんだろう。そして今回の闇堕ちで一刀さんは自らを死んだ灼滅者と定義した。……俺から見たらそれ自体が一刀さんが生きている証だと思うんだが。……ただ、自分を既に『死んだ灼滅者』と彼自身が定義している以上、彼が彼として生きれるよう、説得するのは必然だろうね。まあ、殺人鬼にとって一刀さんの意志はノイズ以外の何物でもないけれど」
     そこまで告げたところで、優希斗が溜息を一つ。
    「……もしかしたら一刀さん自身は殺人鬼達と一緒に灼滅してくれ、と言っている恐れがあるんだ」
     そういう意味では、灼滅すると言う選択肢は容易だろう。
     一刀が死んだと言葉を突きつければ、殺人鬼もそれに引き摺られ大幅に弱体化するはずだから。
     救出するのは容易いとは思えないが。
    「いずれにせよ、一刀さんを此処で取り逃がしてしまえば完堕ちするだろうし、その後にどんな災厄が起こるのか予測がつかない。最悪の覚悟はしておいて欲しい。その時は、俺も一緒にその罪を背負うから。……どうか、気をつけて」
     優希斗の一礼を背に、灼滅者たちは静かにその場を後にした。


    参加者
    来須・桐人(十字架の焔・d04616)
    氷上・鈴音(去りゆきし紅雪の友に誓う・d04638)
    七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)
    赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)
    鑢・真理亜(月光・d31199)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)
    華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)

    ■リプレイ


     ――とある町の一隅にある暗闇の中で。
    (「時は満ちました。一刀さんを返してもらいます」)
     鑢・真理亜(月光・d31199)が、自らの中の決意を固めている。
     現れたのは2人の少女と、着物姿の少女の背後霊にも思える眼だけが真っ白な漆黒の影。
    「……頑張ろ、ネコ」
     マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)が目の前に現れた者達の姿を見ながら、ぎゅっ、とネコを抱きしめる。
    「見つけましたよ、一刀さん」
     周囲に強烈な殺気を発して人払いを行う、来須・桐人(十字架の焔・d04616)。
    「クククッ。来ましたか灼滅者の皆さん……」
     殺人鬼の笑いを耳にしながら、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が、戦場の音を周囲から断絶する結界を張った。
    (「もうあの時の過ちを繰り返さない為にも……!」)
    「一刀部長は返してもらうぞ、殺人鬼」
    「そうね。絶対に逃がさないわ」
     チョーカーに静かに触れ、一人も欠ける事も無く最良の形で戦いを終われます様にと祈りながら、氷上・鈴音(去りゆきし紅雪の友に誓う・d04638)がマギー達と殺人鬼を包囲。
     そのまま、スレイヤーカードにキスを一つすると同時に、浅葱の袴の神職服から赤と黒のエナメルのドレス姿に変わる。
    (「自己を死者と定義するのならそれはなんと甘美なのでしょうか。怯え、嘆く必要もないのですから」)
     七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)が自らを『死んだ灼滅者』と定義づけしている彼のことを思いながら、内心でそう呟いていた。
    「同じクラブの一員として、戦友として、俺はまだ一刀と共にいたい。だから連れ帰らせてもらうぞ」
     強き眼差しで敵を睨みつけるは、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)。
    「一刀さん、必ず取り戻すなりよ!」
     華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)が断言するのを、ケケケッと笑う殺人鬼。
    「威勢が良いことでして。それでは、演目を変えると致しましょうか。戯曲・『灼滅者殺し』を」
     殺人鬼の操る糸に踊るように。
     左右に浮かぶ男女の人形と、影の前に立つ亜里沙と時尾が動き出した。


    「雪風が、敵だと言っている」
     先手を取って一瞬で距離を詰めた鞠音が亜里沙に強かな一撃を与えている。
    「キキキッ……」
     殺人鬼の不気味な笑いを背に亜里沙がその手から光の矢を撃ちだす。
    「行く手に危機が待ち受けようと、心の護るものあるならば、たとえ己の命尽きるとも、体を張って守り通す……それがヒーロー……それが……『漢』なり!」
     勇ましく叫びながら玲子が鞠音の前に立ち塞がり、光の矢を正面から受け止めている。
     白餅のふわふわハートに癒されながらレイザースラスト。
    「すまないもう少し我慢して欲しいなりよ。解放してあげるからね!」
     亜里沙の動きを遮る様に鈴音が死角から飛び出し、その足を斬り払った。
     一時的に機動性を削がれた亜里沙に、碧が素早く接近して妖刀《黒百合》を大上段から振り下ろして斬り裂くと同時に月代が己が腕で殴り掛かっている。
     よろける亜里沙をマギーがDCPキャノンで撃ち抜き、続けてネコが肉球パンチ。
    「カカカッ……先ずはこの子からですか」
     糸の震えを感じた殺人鬼が笑い、右の糸で時尾を操る。
     時尾が応じる様に鎖鎌を振るった。
     鎖鎌による衝撃波が影の斬撃となり天音を狙うが……クレンドが不死贄を翳して立っている。
    「クレンドさん!」
    「誰一人やらせない。一刀部長にも、時尾さんにもね」
     クレンドの呟きに応じて不死贄が真紅の結界を生み出し自分達を覆う間に、プリューヌが己の人形による一撃を亜里沙に叩きつけている。
    「キキキッ……簡単にはやらせませんよ……!」
     殺人鬼が、その場の全てが凍てつくような殺気を、桐人達に突きつけた。
    「亜里沙さんを盾扱いする事を、一刀さんは望んでいない!」
     玲子を庇いながら桐人が叫びながらクロスブレイブによる乱打を亜里沙に放つ。
     ――まるで、彼女の罪を浄化するかのように。
    「霧江!」
     桐人の指示と同時に、白い傘を振るう霧江。
    「救いたいと願った亜里沙さんや時尾……大切なものを蔑ろにするのは部長の願いではない筈です。闇さん行きますよ……」
     真理亜がそう一刀へと呼びかけながら清らかなる風を吹かせて鞠音達を癒す。
     傍に控えていた闇さんが静かに頷いて亜里沙に接近、その身に拳を叩きつけて動きを阻害。
    「クククッ……これでは、貴様は使い物にならなくなってしまいますね」
     ボソリと呟く殺人鬼。
     亜里沙が糸に引かれて何かを祈るような仕草を取る。
     プリズムの様に輝く十字架がその場に顕現し、クレンド達を包み込んだ。
    「固く握り合った手は暴力では離れない……! 人、それを……『絆』と呼ぶなり」
     光に身を焼かれながら、玲子が獅炎龍の遺した守りの力を持つ鱗を煌めかせる玲子。
     時尾が背から引き抜いた薙刀を振るい玲子に襲い掛かるが、その目の前には桐人が立ち、その攻撃を受け止めていた。
     その身を喰らおうとせんばかりの一撃にかつて炎を暴走させ、妹を傷つけた時のトラウマに苛まれながら桐人がレイザースラストで亜里沙を締め上げる。
    「一刀さんはあなたの孤独を癒したかったんです」
     でも……いや、だからこそ。
    「あなたはもう、眠るべきだ」
     霧江がその言葉に応じる様に霊障波。
    「殺人鬼の狂劇につき合わせて御免ね。今解放してあげるからな」
     亜里沙を肉壁とした殺人鬼の死角からの糸を、碧が盾となって逸らすその影からクレンドが飛び出しDESアシッド。
     強酸が容赦なく亜里沙の体を焼き、更にプリューヌがポルターガイスト現象を引き起こして叩きつけている。
    「亜里沙ちゃん、悲しい思いをさせて御免ね」
     謝罪と共に鈴音が日本刀を唐竹割に振り下ろし。
    「……お休みなさい」
     祈るように呟かれたその言葉に何処か安らかな笑みを浮かべながら、亜里沙が光となって消えて逝った。


    「死は平等です。理不尽で、いつでも」
     亜里沙が灼滅されるが、気にした様子もなくその場に佇む時尾。
     鞠音が夜色の薄衣……Thousand-Nightgaleを解き放ち、殺人鬼を締め上げた。
    「カカカッ……その子を狙わず、私を殺せるとでも思っているのですか?」
    「一刀も時尾も面識がなくても同じ学園の仲間だもの。あなたの好きにはさせないわ」
     呟きながら、レイザースラストで糸を操る左腕を締め上げるマギー。
     ギリギリと軋む様な音を聞きながら四白眼を真直ぐに見つめる。
    「初めまして、一刀。あなたは自分が死んだと思っているのかしら」
    「キキキッ……『僕』はもう死にました。そして、貴様達も私のモノになるのですよ」
    「一刀の意志はまだ残っているんだろう? なら、お前はまだ死んでない。生きてるんだよ」
    「碧の言うとおりね。灼滅者だって万能じゃない、ほんとに死んでいるなら助けになんて来はしないわ」
     DCPキャノンで碧が殺人鬼を射抜く間に碧の背に後退する月代の隙を埋める様にネコが前足を一回転させて魔法を唱え、殺人鬼の糸を拘束。
     その様子を見て、マギーが微かに首を縦に振った。
    (「わたしにだって、ネコがいる」)
     さみしい時、心細い時、いつも一緒にいてくれたかけがえのない存在が。
     今は友達が沢山出来たけれど、一人ぼっちの時は、ネコが心の支えだった。
     だから……。
    「一刀部長、『お帰りなさい』と言わせてください。貴方は『生きて』おられます。そしてこれからも時尾さんと一緒に『生きて歩む』のです!」
     真理亜がラビリンスアーマーでクレンドを包みながら、叫ぶ。
     闇さんが霊撃を時尾に向けて放つが、それはむなしく空を切っていた。
     ――否、違う。
     見切り防止の為、そして時尾を灼滅しない為、意図的に攻撃を外させたのだ。
    「一刀さん、貴方には何時も帰りを待っている人達がいるなりよ! 負けないで苦しいことがあっても貴方を支えてくれる人がいる!」
     玲子が妖冷弾を撃ちだし殺人鬼の体の一部を凍てつかせる間に、白餅がふわふわハートで桐人を癒している。
    「キキキッ……耳障りですよ、貴様達」
     闇さんの時尾への行動を見て悪戯を思いついた子供の様に笑った殺人鬼が右手の糸を操る。
     中段に刀を構えていた時尾が下段に刀を構えようとするが。
    「ビハインドちゃん! 君も護るべきものは『殺人鬼』じゃない! 一刀只一人の筈だ!」
    「そうよ! 時尾ちゃん、一刀君は私達が必ず助けるわ。だから彼が目覚めた時に側にいてあげて!」
     プリューヌの霊障波で牽制しながら叫ぶクレンドと彗星の如き速度の矢で殺人鬼を射抜く鈴音の言葉に、時尾が一時的に動きを止め、再び中段に。
     時尾の隙を鞠音が見逃さず妖冷弾。
     宵闇の中でも輝く黒髪が、弾丸を撃ちだす時風に靡き、血の紅の瞳が烈火の如き光を宿し、その弾が吸い込まれる様を見つめている。
    「名古屋で何十万も死に、今も人は死にます。貴方は今、ならばいつ死んでも同じと思いましたか」
    「キキキッ……僕はもう死んでいますよ。そんな声が届くわけないでしょう?」
     空いている左手の糸を操り、鞠音を束縛しようとする殺人鬼。
     だが、その攻撃はネコが代わりに受け止めている。
    「それは、否です」
     殺人鬼の問いに鞠音が射抜くように見つめ。
    「だって――貴方は死を拒んでいるでしょう?」
    「キキキッ……?」
    「死を認められないから亜里沙を傀儡として生かし、自己を死の影に埋め、輝く命を見ていたい。そういうことでしょう?」
    「一刀部長、貴方は『生きています』! そしてこれからもビハインドと共に『生きる』んです!」
     鞠音の言葉に重ねる様に訴えるクレンド。
     たとえ状況は異なっていたとしても。
     それでも、似たような境遇だろうとクレンドは思う。
     そして……そういう相手には、同情や慰めは通用しない。
     自分で解決しなければならない問題だと分かっているから。
    「ビハインドのそのひとだって、あなたと一緒に生きていたいんじゃない? 主人であるあなたが消えてしまうなんて望んでいない気がするの。……大切な存在だから一緒に在るのでしょう?」
    「カカカッ……厄介なノイズ達ですね……少し、頭痛がしてきましたよ……」
     殺人鬼が鬱陶しそうに頭を振る。
     どうやら、ノイズが強くなってきているらしい。
    「一刀さん、以前おっしゃいましたよね。僕と霧江の関係が、ご自分に似ているって」
     桐人の言葉と同時に、見切りを気にせず霧江が霊障波。
     その一撃を殺人鬼は躱すがそこには、桐人のダイダロスベルトが待ち受けていて、その身を確りと絡め取った。
    「僕も思ってました、僕は霧江という名の人形でお芝居しているだけだ、って」
     ――元々、霧江は自分のエゴで生み出した、思い通りに動く人形と解釈し、『霧江を幸せにしたい』というのも自らのエゴだと思っていた。
     ――でも。
    「今は思うんです。共に幸せになれる、って。魂を分けた半身……『彼女』の未来は一刀さんが創るんですよ」
    「一刀、お前のビハインドが傀儡とされているこの現状、許せるものか? もし許せないんだったら……誰かに委ねるんじゃなく、自分の手で護って見せろ……抗って見せろよ……!」
     重ねられた碧の叫びに、殺人鬼の中のノイズが強く疼く。
    「カカカッ……まだ抗いますか……『人形回し』……!」
    「一刀さん、私は貴方とは初めて会ったわ。それでも、私は貴方と『彼女』が羨ましい。誰よりも大切な人だから、ずっと一緒にいたい」
     影の刃で殺人鬼を斬り裂く鈴音の脳裏に過るはかつての過去の事。
     ダークネスから自分を護ってくれた兄の最期。
     その悲しみと怒りで堕ちた日の記憶。
     『あの時』のことが……優希斗から聞いた一刀と『彼女』の関係とダブり、涙が零れ落ちてくる。
    「貴方達を紡ぐ絆の糸は綺麗でそして強くて……」
     ――だからこそ。
    「絆の糸が途切れる未来は望まない! 私……いいえ、私達が見たいのは一刀君とビハインドちゃん、2人が共にいる未来なのよ!」
     殺人鬼はそれには答えない。
     ただ、鈴音達へと張り巡らした糸を解放。
     無数の糸が真理亜達を襲うが……。
    「そんな糸で、俺達の『絆』は手繰れないと知れ!」
     クレンドが鈴音を、ネコがマギーを、碧が真理亜を庇い、被害を最小限に食い止めた。
     真理亜が幾度目かの清らかな風で碧達の傷を癒していた。
    「部長の帰りを待っている方々がおられます。何故か分かりますか?」
    「『僕』のことを待つ人がいるとでも……キキキッ」
     時尾が影で真理亜を斬り裂こうとするが、今度は桐人がその前に立ちはだかった。
    「言葉が汚くなりますが妹の真似をさせて貰います……。一刀様がサイコーに好きだからです。これ以上、言葉は要りません」
    「カカカッ……!」
     殺人鬼の笑い声を耳にしながら、月代が霊障波を放ち。
    「一刀、帰って来い! 大切なビハインドを傀儡の様にこいつなんかに……お前を明け渡すことはできないだろう!」
     すかさず碧がDESアシッド。
    「この一閃で……未来を切り開く!」
     鈴音が彗星撃ちでその身を射抜けば。
    「わたしはあなたと『時尾』二人で、戻って来て欲しいわ。それは此処にいるみんな同じ気持ちなのよ。時尾だって……きっとあなたの事を支えたいはずだもの。……わたしにとってのネコと同じように」
     ネコの猫魔法に続けて残影刃でマギーが殺人鬼を斬り裂き。
     玲子がレイザースラストでその身を締め上げ、白餅が竜巻を起こしてその行動を阻害して。
    「大丈夫ですよ。貴方は――とても、人間らしい、生にしがみつくに相応しい優しい人です」
     鞠音がレイザースラストでその身を締め上げ、霧江が霊障波を叩きつけ桐人が黙示録法でその身を撃ち抜く。
    「さあ、帰ろう……一刀!」
     プリューヌの霊障波と同時に、クレンドがDESアシッドでその身を焼くと同時に。
     殺人鬼がその場に倒れ、時尾も頽れる様に横たわった。

     ――正しく、糸の切れた人形の様に。


     ――束の間の、静寂。
     暫くの静寂の後、カカカッ……と言う笑い声が上がる。
    「『死んだ』つもりでいたんだけど……どうやら、僕はまだ生きているみたいなんだな……」
    「! 一刀さん!」
     時尾……否、ビハインドの肩を借りて起き上がる一刀が笑い声を上げる。
    「一刀様……!」
     真理亜が思わず歓喜の声を上げ。
    「お帰り、一刀」
    「お帰りなさい、一刀さん……時尾さん」
     クレンドが優しく微笑み、桐人がそっと言い添える。
    「無事に戻って来たな、一刀」
     碧が月代と共に微笑を浮かべれば。
    「2人とも無事に帰ってきてくれて良かったわ」
     マギーがネコと共に安堵の息をつき。
    「お帰りなり、一刀さん!」
     玲子がはきはきと告げた。
     一刀がキキキッ、と疲れたように笑う。
    「ただいま……なんだな」
    「お帰りなさい、一刀さん」
     最後に鈴音が涙ながらにそう告げてペチュニアの花を亜里沙のいた場所に供える。

     ――其の花言葉の1つは……心の安らぎ。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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