運動会2017~活劇! ダンス&シンガーズ!

    作者:長野聖夜

    ●6月11日は運動会!
    「優希斗さん、優希斗さん! 今年も開催されますよ、運動会!」
    「ああ、うん。無事に開催されて良かったね」
     ラブリンスター・ローレライ(大学生エクスブレイン・dn0244)の溌剌とした様子に苦笑を零しつつ頬を軽く掻く北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)。
     既に皆ご存知かと思うが、最近になって入学してきた人々の為に改めて解説しておこう。
     武蔵坂学園の運動会は組連合対抗のチーム戦だ。
    「皆でワイワイ競い合って、一番ポイント稼いだ組の勝ちですよね! 私、楽しみにしてたんです!」
    「まあ、大体そんな感じだね。今回もまた、色々な競技が開催される予定みたいだけど」
    「やっぱり、そうなんですね! 歌って踊ってエッチは禁止のアイドルを目指す私としてはこういうの凄く楽しみなんです! ……あっ、そう言えば今回はどんな競技を行う予定なんですかね?」
     首を傾げるラブリンスターに、懐から案内を取り出す優希斗。
    「えーと、ラブリンさんが興味を持ちそうなのだと……こういうのもありかな?」
     優希斗の発表をラブリンスターがワクワクした表情で見つめていた。

    ●活劇! ダンス&シンガーズ!
    「何か、如何にもな競技名ですね、それ!」
     頷くラブリンスターに優希斗が頷き返す。
    「うん。去年は行われなかったけど、今回は開催されるみたいだね。具体的な内容としては創作ダンス&ソングと言った感じだな」
    「そ……創作ダンス&ソングですか! 其れはアイドルを目指す者として見逃せません!」
     文字通りこれは、創作ダンスや創作ソングを披露する種目である。
     当然ダンスを振り付けにソングを披露することもOK。
     勿論、組連合としてだけでなく、クラスやクラブ、ペアや個人での参加も可能である。
     尚、各参加者チーム、個人ごとに採点されるようだ。
    「因みにMVPは優勝したチームで基本的に一番上手だった人らしいけど、クラブ参加等で優勝した場合、誰をMVPにするかを推薦することも出来るみたいだよ」
    「つまり、組連合とか考えないで自分達が好きな様にやって良いってことですね!」
     ラブリンスターの言葉に優希斗が軽く首を縦に振る。
    「まあ、そうだね」
    「優希斗さんは如何するんですか?」
     ラブリンスターの言葉に息をつく優希斗。
    「皆を応援する予定だよ。まあ、裏方位なら手伝うかも知れないけど」
    「それじゃあ、私も一緒に皆さんのオリジナルダンスとか歌を観客席から見ながら応援しますね!」
     ラブリンスターの言葉に優希斗はまあ、それが良いと思うよ、と微笑を零した。
    「皆さんの素敵な創作ダンスや創作ソングを見れるのとても楽しみにしています! 皆さん頑張って下さいね!」

     ――それでは皆で……Let’s Create!


    ■リプレイ

    ●さあ舞台が始まるぞ! ……その前に。
     ――運動会創作ダンス&シンガーズ部門。
     今……此処には4名の猛者が集結していた!
     幾ら、相談期間が4日と短いからと言ってこの現実は余りにも無情で悲惨……!
     確かに選抜競技自体も(大人の事情で)昨年の半分位しかなく、また不登校の学生が多くなってきている昨今ではあるが、この哀しみは筆舌に尽くしがたい。
     ふっ……これでは道化だよ……などという台詞が思わず脳裏に思い浮かぶが敢えてスルーする。

     ――閑話休題。

     お集まりいただきました皆様誠にありがとうございます。
     それでは、運動会創作ダンス&シンガーズ部門……開催させて頂きます。

    ●諦めないぞ、泥んこランナー!
    『次回は、沢山の方々の選抜競技へのご参加をお待ちしております!』
     とデカデカと書かれたプラカードを掲げたラブリンスター・ローレライが北条・優希斗と共に応援席から皆の雄姿をその目に焼き付けようと心待ちにしているその様子に、小向・残暑が気合を入れて、一声を上げる。
    「では、わたくしは皆さんの為に、創作ソングをお披露目させて頂きますわ! 題名は……『泥んこランナー!』皆様、御手を拝借下さいませ!」
     残暑のハイテンションに、ラブリンスターがプラカードを振るいながら、パチパチと手を叩く。
     優希斗含め、皆が皆、その歌が始まるのを固唾を呑みつつ見守っていた。

     ――ゴクリ。

     誰かが生唾を飲み込む音が運動会会場全体に響くのを皮切りに。
     残暑がテンションマックスでイェーイとマイクを手に歌い出す!
     そう! アカペラ!
     バックダンサーも音楽もない、ハイテンションな歌声でだ!
    「ぬかるみの上を走ったって」
     突如としてバックにぬかるみを自ら走る残暑の姿。
    「泥だらけになったって」
     シューズでぬかるみを踏み抜くたびに飛び交う飛沫が彼女のブラウスに染みを作るが気にしない。
    「出口が見えなくたって」
     ぬかるみの中泥だらけになりながら走る残暑の先にG・O・A・L! の旗は見えないけれど。
    『見えなくたって!』
     観客達が言葉に合わせて一斉コール。
     人数なんて気にしない!
     テンションさえ上がれば何でもありさ!
    「走り続ければゴールは見えてくる」
     そうだ! ゴールは見えてくる!
     きっと、いつか……いつかは美しく光り輝くG・O・A・Lという未来が開かれるに違いない!
     さあ、だから……!
    「その場にスタートライン引いてよーいどん!」
     そう……人生は何時でも何処でもスタートライン!
     その先に在るのはきっと茨と泥に塗れた苦難の道。
     だけどそれでも……!
    「走り抜けろ泥んこランナー」
     パチン、手拍子を耳にしながら残暑がクルリとその場でバック宙!
    「まだ見ぬものがあるのなら」
     パッ、と左手を開いて朝日の上る方向を指させば!
     手拍子と共に観客達が一斉にそちらを見つめている。
    「泥だらけになっても走り抜けるはず」
    『抜けれるはず!』
     そうだ! それこそがマラソンだ!
     そしてそれこそがランナーだ!
    「立ち上がれ泥んこランナー」
     すってんころりと転びかけたのにグッ、と両足に力を込めて立ち続ける残暑。
    「ぬかるみに足を取られたって~」
     そのままマラソン会場まで走っていきそうな様子で歌い続ける。
     手拍子はまだまだ続く。
    「泥を浴びても立ち上がっていけるはず」
     どんなに苦汁をなめたとしても。
     きっと人は諦めなければ努力し続けられるから。
     だから……!
    「最後は一番泥んこランナー!」
    『ランナー!』
     合いの手が入るのに強く頷き残暑がギュッ、とマイクを握りしめ!
    「泥だらけが優勝者」
    『優勝者!』
     残暑が息を吸って、思いっきり歌いきる。
    「貴方だけの頑張りを誰かが見ているはずだから!」
     残暑の歌いきったそれと共に。
     割れんばかりの拍手が辺り一帯に響き渡った。

    ●モンゴル式応援歌
    「2番。カンナ・プティプラン。妾なりの応援をさせて頂くとするかのぅ」
     頭の横にあるシロフクロウのお面が愛らしさを引き立てさせるカンナ・プティプランの挨拶に観客達は、割れるような拍手を送る。
     割れるような拍手を合図として、景気づけにビシグールを一吹き。
     ヒュラ~!
     何処かチャルメラに似た、けれども独特の音色を持つビシグールに、観客達は思わずそれを凝視している。
     ヒュラ~、ヒュララ~、ヒュ~ラララ~!
     ビシグールを奏でながら、予め机の上にセットしておいた馬頭板を両手にとり、シャカシャカと鳴らし始めた。
    「フレ~、フレ~、1A梅連合!」
     そうしながら、モンゴルの民族衣装であるデールをヒラヒラさせながら、馬頭板の軽快なリズムに合わせてステップを刻み、フワフワとした感じでゆっくりとしゃがむやいなや、パッ、と立ち上がり、ヒラリと上半身を一回転。
     綿飴の様にフワフワと、けれども軽快なステップを刻むその姿にたちまち観客達は見入る様にカンナを見つめている。
    「歌って踊れるのはやっぱりいいですよね!」
     ラブリンスターが嬉しそうにはしゃぐ様子にっこり微笑み、踊りながらややグロテスクな角笛を思わせる、モンゴルのクラリネットエヴェル・ブレーを取り、一吹きする。
     プワァ~、プワァ~とクラリネットに似ながらも遊牧民らしい牧歌的な豊かさをもたらすその音は、観客達を音楽にのめり込ませるには十分で。
     その豊かさに人々が心浸らせ、中にはユラリ、ユラリと体をくゆらす様な観客達がいるのにニッコリ笑いながら、カンナが婆様と慕っていた女性が飼ってくれた大切な馬頭琴をふわりと踊りながら、その背から外して、構えて見せる。
     ル~、ル~、ルル~、ルルル~ル。
     楽し気な中にヴァイオリンとは異なる穏やかな美しい音色を奏でるその楽器をカンナは皆が楽しめる様にという想いを籠めて引きながら、彼女は応援歌を歌う。
    「皆~、頑張れ、頑張れ、運動会~!」
     最初はゆったり穏やかに奏でていた馬頭琴の音色を今度はアップテンポなモンゴル民謡へと変えて。
     そうしながらクルクルと楽しそうに、愉快そうに踊り、歌うカンナの姿は、人々の心に強く響き、其れが終わった後、割れんばかりの拍手と、ともすれば、ほぅとも言える感心の溜息によってそのレベルの高さが証明されたのだった。

    ●一夏の思い出その前に
    「ふふ……皆盛り上がっているね」
     舞台が盛り上がるその裏の準備室の鏡台の前で。
     彩瑠・さくらえが優しくそう呟きながら、氷上・天音の髪を器用な手つきでツインテールに結い上げながらゆったりと微笑む。
    「はい! でも、さくらえ先輩は一緒に参加しないんですか?」
    「ワタシは美容師志望だからね。日本舞踊学部だから踊るのも出来ない事は無いけれど、やっぱり華やかな色合い沿えるお手伝いの方がすごく楽しいし♪」
     軽く首を傾げる天音の言葉に優しくそう返しながら髪を編み上げる。
     中華風のワンピースにカンフーシューズ。
     動きやすいフレアスカートに身を包んだ天音の姿にうんうん、と頷きかける。
    「こういう時って、ツインのお団子が定番じゃないんですか?」
    「そうだね。チャイナ服に似合う定番はキミの言う通りなんだけど、氷上さんの衣装は中華風のワンピースにフレアスカートの組み合わせだからね。きっと、元気一杯の女の子らしさを最大限にアピールできる、ツインテールの方が良いと思うんだ」
    「ありがとうございます。後、あたしこれ持って来たんですけれど……」
     そう言って天音が取り出したのは、白いダリアの髪飾り。
     ダリアの花言葉は……感謝。
    「ふふ……感謝の花言葉を持つ、ダリアの花か。それだったらこんな感じにしてあげればもっと良いかもね」
     穏やかな笑みを浮かべながらさくらえがダリアの髪飾りに赤いリボンをつけて白がより一層際立つように飾り立て、それをアクセントになる様に、前髪にきゅっ、と結びつける。
     情熱の赤と、金髪、そしてその上から際立つ『感謝』の白、と中々に見栄えの良い感じに仕立て上げた。
    「ん、いーんじゃない?」
    「ありがとうございます!」
    「一番魅せたい人達……恋人さんや、優希斗さん達に向けて、しっかりと頑張って来るんだよ~」
    「は……はいっ!」
     恋人、という言葉に少しだけ顔を赤らめる天音。
     それから出かけようとしたところでもう一度だけ天音は尋ねる。
    「そう言えば……さくらえ先輩は、恋人さんの為にこういうことしているんですか?」
    「……秘密だよ。いってらっしゃい」
     少しだけ冗談めかして答え波紋を表した蒼と紅の染分け布の扇で口元を隠して見せるさくらえ。
     きっと微笑んでいるんだろうな、と思い天音は元気一杯、舞台裏を後にした。

    ●未来を歩める現在(いま)に感謝を
     舞台に上がった天音は、一つ息を吸う。
    「3番! 氷上・天音! 皆の為に歌います!」
    (そうだ、あたしは)
     感謝を込めて沢山歌いたい。
     それは、自分の事を支えてくれた人たちへの想い。
     クラブの皆や共闘した仲間達や。
     今、此方に向かって手を振ってくれている優希斗先輩。
     何時も離れたところからだけれど、応援してくれる姉貴。
     そして……あたしの大好きな人の為に。
    「未来が見えなくて立ち止まった日もあった」
     溌溂で、ありったけの想いを籠めて歌われるその歌は、今までの応援歌とはまた異なっていて。これはこれで人々の注目を集めている。
    「それでもあたしが前に進めたのは」
     沢山の事があって傷つきながらも、前に進んでいくその歌は、果たして誰に向けられている者なのであろうか。
    「そう、君に出会えたから」
     それは、この学園で会った沢山の人達。
     『縁』としては、まだ薄いかもしれない。
     けれども……それでも、その思いは本物で。
    「君の紡ぐ言の葉達は」
     自分の事を想って紡がれるその言葉は。
     まるで、夜空に煌めく星々の様に。
    「キラキラキラリと輝いて」
     それはまるで、切々と訴えかけられる祈りの様で。
     人々はシン、としてその歌に聞き入っている。
    「迷う心を導いた」
     ――そう、だから。
    「だから有難うの代わりに君に誓う」
    「貰った幾千の想いの欠片達」
    「これからもずっと護ってみせる」
     そう、それは自らに課した誓い。
     沢山の人々と出会い別れを繰り返し……そしてようやく掴んだ感謝の想い。
     まるで、その髪に飾られた白いダリアの花の様に。
     その歌は快活なロックナンバーをバックに歌われながらも……何処か犯しがたい美しさが存在していた。
     その快活な美しさが、彼女の愛らしい姿と踊りと嵌り。
     全てを歌い終わったとき……会場は拍手に包み込まれていた。

    ●結果発表!
     ――こうして、創作ダンス&シンガーズ部門は終了した。
     優勝者は誰もが其々の個性を打ち出したハイレベルな演目であり結論までの議論は縺れに縺れたが……『応援合戦』ではなく、『創作ソング&シンガーズ』というオリジナリティを尊重する部門であるが故に生み出すされたであろう、天音の人々への感謝を込めた歌と踊りがMVPとして選ばれた。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月11日
    難度:簡単
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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