その青銅は闇を喰らう

    作者:麻人

    「もう、やだぁ!」
     シャドウの少女は堪え切れずに悲鳴をあげた。人里離れ、持ち主から忘れ去られた別荘群に身を潜めていた彼女を狩り出したのは青銅の鎧に身を包んだ異形の怪物――クロムナイトの部隊だった。
    (「あいつら、なんなの? 話もわかんない怪物みたいなのにどうして、あんなに連携した動きで襲い掛かってくるのよう!」)
     必死で胸を喘がせ、アスファルトを蹴って走る少女の背中を6体のクロムナイトが追いかける。
    「くそっ!」
     トンネルに逃げ込んだシャドウは振り向きざま、戦闘部位である両の手のひらを闇化させて禍々しく煌めく弾丸を放った。
    「――ギギッ!!」
     先頭にいたクロムナイトが眉間を撃ち抜かれ、その場に倒れる。
    「べーっ、だ! ここまで逃げたんだもの、あんた達なんかにやられたりしないわよ! ――きゃあっ!?」
     これで逃げ切れる、と油断した矢先のことだ。後ろばかり気にしていたシャドウの少女は何か大きくて硬いものに正面からぶつかってその場に尻もちをついた。
    「な、なに? なんでトンネルの真ん中に障害物なんかが……」
     皆まで彼女は言えなかった。
     トッ、という音がして、胸に激痛が走る。
    「あ、あ……!?」
     胸を――光の砲弾が貫いた。
     待ち伏せをしていた2人のクロムナイトは、不意をつかれたシャドウの少女に次々と武器を振り下ろした。
     後方から合流したクロムナイト達は、既に動かなくなっていたシャドウの体に奇妙な剣を突き刺す。それは儀式用の宝剣のように見えた。少女の体から青い光が吸い込まれるように刀身へと消えてゆく。
    「サイキックエナジーのゴウダツにセイコウ、キカンスル」
     そして、彼らはその場を後にする。任務が終わった後のことになどまるで興味がないというような身振りで。

    「これは爵位級ヴァンパイアから離反して潜伏中の元朱雀門高校の会長、ルイス・フロイスからの情報だ」
     村上・麻人(大学生エクスブレイン・dn0224)はそう前置きしてから語り始める。主犯は元朱雀門高校の組織を再編成して爵位級ヴァンパイアの配下となったロード・クロム。
    「まるで独裁者気取りだね。自分に従わないものは粛清し、手駒としてクロムナイトの量産に勤しんでいる。そして、より強力なクロムナイトを生み出すために行っているのがサイキックエナジーの強奪作戦だ」
     ただし、そう簡単にはいかないのが現実だ。
     ロード・クロムに従う構成員の中にはルイス・フロイスのスパイも多く入り込んでいる。彼は武蔵坂学園とは今のところ利害が一致すると考えているようで、その情報をこちらに流してきたのだった。
    「旧朱雀門の部隊が阻止に向かえばスパイの存在を教えることにもなりかねない。更なる粛清が行われる危険は犯せない……と、そういうことらしいね。代わりに武蔵坂の灼滅者にロード・クロムの野望を阻止してもらいたいそうだ」
     どう、とエクスブレインは目で尋ねる。
     行く気はあるかという無言の確認だった。

    「ルイス・フロイスからの情報は以下の通り」
     場所は人気のなくなった別荘地帯。バブルの頃の置き土産と化したロッジのひとつにシャドウの少女が潜伏していたらしい。
     見た目は家出風の少女で、気の強そうな顔立ちをしている。これを狩り出すために派遣されたクロムナイトの数は8人。クルセイドソードやクロスグレイブで武装している。
    「クロムナイト側の戦力はシャドウより勝っているから、おそらくシャドウが逃げ延びることは不可能だろう。となれば、介入するタイミングが重要だね。シャドウとの戦闘中に飛び込むか、あるいは撃破後に奇襲を仕掛けるか……」
     クロムナイトは2人と6人に分かれ、シャドウを挟み撃ちにする作戦らしい。地理的に考えて、追い立てられたシャドウは近くのトンネルを逃走経路として使うだろう。これを読んでいるクロムナイトは、シャドウを襲撃する6人と手分けして残りの2人をあらかじめトンネル内に配置しているようだ。
    「どのように介入するかは任せるよ。ただし、シャドウも逃がさずに灼滅して欲しいんだ。隠れ潜んでいるシャドウを討てる絶好の機会だからね。クロムナイト撃破後にシャドウが生き残っていれば連戦が発生する可能性もあるから、作戦の検討は慎重にね」

     ソウルボードに戻れば吸収されて消滅する運命にあるシャドウは行き場をなくしてさ迷っている。このまま彼らを野放しにすればいずれ、その強大な力で人間に仇なす事になるかもしれない。
    「もちろん、優先事項はシャドウの強力なサイキックエナジーを爵位級ヴァンパイアに渡さないことだけどね。難しい依頼だけど、なんとかやってもらえるかい?」


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    明鏡・止水(大学生シャドウハンター・d07017)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    ロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)
    ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)
    十束・唯織(末那識・d37107)

    ■リプレイ

    ●昏い場所で
    「くそっ!」
     トンネルへと追い込まれたシャドウが襲撃者であるクロムナイトに反撃する。夏至が近いというのに底冷えのするコンクリートに四方を囲まれた闇の中、一匹の蛇――姿を変えた明鏡・止水(大学生シャドウハンター・d07017)がその様子を見守っていた。
     いくらか離れた場所で、クロムナイトの倒れ込む音がする。
     肩で息をするシャドウの少女がこれで助かった、と油断した次の瞬間。何が起こるのかを知っている止水は感情の見えぬ蛇の格好のまま、一度だけ赤い舌を出し入れした。

    「いくわよ!」
     シャドウの断末魔が聞こえた瞬間、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は手筈通りにクロムナイト達の前に躍り出た。
    「Slayer Card,Awaken!」
     アリスは一瞬にして戦闘態勢をとると、息もつかせぬ動きで戦場を凍てつくフィールドへと作り替えてしまう。
    「やっとこさ出番ですね」
     絶対零度の浸食に呻く敵に投げかけられたのはハノン・ミラー(蒼炎・d17118)の台詞だった。彼女はやれやれと肩を竦めながらも解体ナイフを構え、瞬く間にアスファルトを蹴る。
    「まぁ、あいかわらずでなによりです。はい殲滅でーす!」
     同じことばかり繰り返して飽きないの、と言わんばかりの溜息で繰り出す斬撃は複雑な軌道を描いてクロムナイトの全身を切り裂いた。
     背後では蛇変身を解いた止水が用意していた合図の笛を鳴らしている。すぐさまトンネルの向こうで仲間達の動く気配がした。
    「ったく、どんだけサイキックエナジーが必要なんだよ」
     甲高い笛の音から鼓膜を守るように耳の中へと小指を突っ込んだ十束・唯織(末那識・d37107)は、クロムナイト達の逃げ場を塞ぐように左右へ広がって布陣する。同時に放たれるのは純然たる殺気。
     眼鏡の奥の瞳が僅かに眇められ、同時にクロムナイトの動きが鈍る。
    「とっとと決めるか」
     一発では終わらない。
     二度、三度と極上の殺気をぶつけて後に備える。
    「こいつらに手こずってる暇はないからね、手短にいこう」
     肩に乗っていたマオゥが戦場を駆けてゆくのを見送りながら、影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)は暗き思念を練り上げて闇の弾丸を生成する。どこまでも深き漆黒のデッドブラスター。青銅に輝くクロムナイトの四肢を貫くその軌道を虚ろな瞳に映して、淡々と呟く。
    「こうやってダークネス同士が削り合ってくれる分には楽でいいんだけどね。それで片方が強くなっても困るし、まぁやるしかないか」
    「わかってるよ。シャドウと話して何かが変わったかもしれないなんて、考えるのはこいつらを倒してからだ」
     唯織は充分に己の殺気で戦場を満たしたところで、右手の解体ナイフをくるりと構え直した。死愚魔は頷き、アリスの炎に灼かれて身悶えるクロムナイトへと影業を解き放つ。
     敵の動きを阻み、鋭い弧を描いて戦場を舞う止水の鋼糸が銀の閃光なら、それは暗澹たる闇の息吹。
    「急がないとね。戦力をこちらに多く割いている分、あちらはきついはずだから」
    「ええ。反対側のクロムナイトを相手にしてる皆は苦戦してるはずよ、速攻で決めるわ!」
    「おっけーです」
     攻撃手であるアリスとハノンはクロスブレイブの間合いに踏み込み、電光石火の勢いでまずは1体目を灼滅へと追い込んだ。

    ●挟撃の輪舞
    「ちっ、さすがにこの数じゃきついか!」
     敵の剣を半獣化した腕ではじき返した槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)はバク宙の要領で距離を取ると、自らの周囲に聖なる風を巻き起こした。
    (「耐性をつけててこれかよ!」)
     クロムナイトの群れが及ぼす妨害サイキックの厄介さに舌を打ちつつ、自分よりも多い数を引き受けているロスト・エンド(青碧のディスペア・d32868)に伺いを立てる。
    「そっち、大丈夫か!?」
    「いまのところは……」
     ロストの返答は端的ながらも、その視線はクロムナイトから外れず。
    「不死王が滅んで、悪魔どもが弱体化しても終わらぬ悪夢、か……」
     クロムナイトはほとんどが前衛のようで、そのただ中に旋風輪を叩き込んだロストには最も多くの攻撃が集まっている。
     彼のダイダロスベルトはほぼ常に鎧を形成し続け、クロムナイトの機械的な攻撃の波を既に三度以上耐えていた。
     傀儡となり果てた騎士、というのがクロムナイト達と対峙したロストの言葉である。
    「成程」
     ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)の唇が奇怪な形に歪められた。
     降り注ぐ剣戟の幾つかは盾となったビハインドの隣人によって妨げられる。彼女の背後から影のように身を乗り出したニアラの影業が鋭い刃の波濤となってクロムナイトの急所を刺し抜いた。
    「偏に絡繰の如く使い捨てられる貴様等に相応しき忌み名で在る。故に疾く。我が憤怒に粉砕されるべし」
     ――憤怒。
     ニアラの心底に煮えたぎる行き場のない想いは灼滅の刃となってクロムナイトへと叩き付けられる。
    (「影は死んだ。故に影は精神世界の糧と成るべきだ。寄生体どもの欲牙に果てるなど、断じて赦せぬ」)
     理由はもうひとつ。
     クロムナイトの振り回すセイバーの切っ先に頬を耳の先を切られながら、ニアラは独り言のように繰り返す。
    「貴様等を眺めると妙な気分に陥る。某六六六の貌を想起させる。苛々の渦で屠った、盾役影を想起させるのだ。撲り殺さねば」
    「…………」
     彼の怒りに心当たりのある康也は、大きな瞳を見開いた。
    (「言う事が時々難しくてよくわかんねえけど、もしかしてあの時のこと……かな。難しい言葉をいっぱい知っててなんか凄いやつだなーとは思ってたけど」)
     クロムナイトの砲撃から庇いに入りつつ、間近でニアラと目があった康也はにかっと笑ってみせた。同じ修羅場をくぐり抜けた仲間として妙な親近感が湧いたのだろうか。
    「難しいことはよくわかんねーけど、こいつら絶対に倒そうな」
     ニアラは僅かに眉を動かしてから、いつも通りに言い捨てた。
    「是で在る」

     やや距離を置いたトンネルの内部では、2体目のクロムナイトが金属とアスファルトのぶつかり合う耳障りな音を立てて倒れたところだった。
    「……よし」
     息も乱さぬままそれを屠ったばかりの影業を引き戻して、死愚魔はその灼滅を確認。
    「まずは完勝でしょうかね?」
    「OK、行きましょう!」
     アリスは移動の時間すら無駄にしない。シャウトで息を整えながら駆ける。
    「あれが儀式剣だな」
     遠目にも他の装備とは違う剣を装備したクロムナイトを見つけ、止水はまどろむような瞳のほんの僅かに細めた。
     それから戦況を見極め、味方が十分に持ちこたえてくれていることを知る。まだお疲れ、と労うには早すぎる。言葉の代わりにこの癒しの波動たる光条がきつい戦いを引き受けてくれた仲間への礼になるだろうか。
    「――ありがとなっ!!」
     援護を受けた康也は目を輝かせ、もうひと踏ん張りだと深く腰を落として断斬鋏を構えた。耐久戦のなか何とか2体は落としたものの、未だ3体が健在だ。
    「反転攻勢はじめましょ!」
     アリスは相変わらず、手際よく属性の異なる攻撃を打ち込んでいく。
    「ああ」
     止水の回復を受けたロストはそれまで自分を守らせていたダイダロスベルトを解き、代わりにDMWセイバーを抜き払った。
    「いくよ……」
    「いつでもいいぜ!」
     康也の連れている影狼の遠吠えがトンネル内に反響する。
     響き渡る咆哮の中、共に盾を担う康也とロストは一糸乱れぬ連携でクロムナイトへと躍りかかった。反撃しようと剣を構えるクロムナイトだが、その動きが不自然に止まる。
    「先手は打たせてもらったよ」
     祭壇の灯りが照らすのは虚ろな目をした少年――死愚魔。
     いつの間にか展開された除霊結界がクロムナイトの自由を奪っていた。巨大な刀と化したロストの利き腕が唸りを上げて宿敵を一刀両断にする。
    「ギギッ!?」
    「お前の相手はこっちだ!」
     続けて、隣にいたクロムナイトへと康也の蒐執鋏が迫る。
     既に傷ついていたクロムナイトは深い傷を受けてよろめいたものの、致命傷には僅かに足りない。だがその時、敵の死角となる背後に潜り込んでいた唯織のナイフが閃いた。
    「一丁あがりっ!」
     槍へと持ち帰る唯織の背後でクロムナイトが灼滅されてゆく。次、と唯織は槍の穂先を真横に振り抜いた。生み出された氷のつららが向かう先は6体目のクロムナイトだ。その手に見慣れない剣があるのを見て、眉根を寄せる。
     シャドウが1体を迎撃しているため、残りは2体。
     そのうちの片方が例の儀式剣を携えているクロムナイトだ。同じくそれに注目していた止水が顔をしかめる。彼をよく知る者にしか違いがわからないくらい、僅かな差だったが――。
    「仲間を増やしたのだろうが、こちらとしてはごめんこうむりたいな」
    「ギ――」
     完全なる劣勢を悟ったクロムナイトは包囲網を突破しようとするも、白銀のオーラを纏ったアリスと漆黒の影を纏いしニアラの両名に阻まれて行き場を失った。
    「貴様等は此処で塵と成り灰と化す」
     ニアラの言葉に呼応したビハインドがクロムナイトの背後をとり、そちらに気を取られて敵の視線が切れた瞬間、ハノンがその死角をとっていた。
    「聢と遂行する。無聊を齎す寄生蟲。生かして帰すべからず」
    「そういうことですね。恨みっこはなしでお願いしたいなぁ」
     炸裂。
     その言葉しか出てこないほどに、ニアラとハノンの攻撃は熾烈で、無慈悲で、一瞬だった。残された最後のクロムナイトは逃げ場を失い後ずさる。だが、当然そのような退路は皆無。
     今回の作戦は挟撃である。
     故に包囲網は厳然で、いまさら崩れようのないものだった。
    「!?」
     まるでその時を狙っていたかのようにマオゥの肉球パンチがクロムナイトの顔面にお見舞いされる。
     ほぼ同時に死愚魔の吐息が微かに怪談蝋燭の炎を揺らした。
     空間が歪み、けたたましい笑い声が響き渡る。小柄な妖怪たちが青き炎の幻影によって闊歩する百鬼夜行。茫洋とした瞳からその感情は読み取れない。祝福の言葉を紡いで時間を稼ぐクロムナイトへと、死愚魔の代わりにアリスが薄く笑って告げた。
    「悪く思わないでね。このトンネルがあなた達の死地よ」
     眼前に立ちはだかった状態で零距離から放たれるオーラキャノンの強撃――!!
    「シャドウをトンネルに追い込んだつもりで、自分から袋の鼠になってくれて助かったわ」
    「ガッ!!」
     吹き飛ばされながら、クロムナイトは強酸性の液体を激しくまき散らす。それは敵に付着すれば激しい苦痛を伴う攻撃となるはずのものだったが、止水の下す審判の輝きの前には最後の悪あがきに過ぎなかった。
    「このまま、消えてしまえ」
     光条によって視界が白く染め上げられる中、フォースブレイクに切り替えたハノンが横合いから飛び込んだ。クロムナイトが死にもの狂いで振り回した剣はしかし、身を割り込ませた康也のクルセイドソードによって受け止められ、ハノンまでは届かない。
    「させねぇっつってんだろ!?」
     がら空きとなったクロムナイトの胴体にぶち込まれる、ハノンの魔力全てを爆発させるかのような渾身の一振り。体液をまき散らしながら吹き飛ぶクロムナイトが最後に見たのはロストの哀しげにも見える憐憫の眼差しだった。
    「せめて、俺の手で狂った運命の糸を断ち切ってやるよ」
     暗転。
     両目を斬られ、そのまま頭部を薙ぎ払われたクロムナイトはゆっくりとその場にくずおれる。その全てが灼滅されるまで、ロストは目を逸らさなかった。

    ●残された剣
     カードに武装をしまった後で、死愚魔はゆっくりと体をほぐすように首を回した。
    「これでちょっとは敵の戦力削れたならいいんだけどね。先は長いなぁ」
    「ほんとに。どっかで止めたいけど、クロムが出張るのは武蔵坂攻めるときくらいかなぁ……」
     ハノンは面倒くさそうに頷いている。
    「まだまだクロムナイトも尽きないみたいだしねえ」
    「放っておくわけにもいかない、か」
     死愚魔は腕を組み、シャドウが倒されたと思しき場所に視線を移す。
    「こうやってダークネス同士が削り合ってくれる分には楽でいいんだけどね」
     呟きの意図を察したアリスが残念そうに言った。
    「ちょっと、あの子が倒される前に話かったわね」
     僅かに首を振り、皮肉めいた声色で言葉を返したのはロストである。
    「かつての強者も、今となっては逃亡者か……。悪夢を糧にする存在が、悪夢に追われるとはね」
    「――」
     饒舌なニアラが今は言葉なく背を翻す。
     何処だ、とその背中が物語る。
     此の憤怒の真なるぶつけ先は果たしてどこに在る?
    「で、この儀式剣て何なのよ?」
     止水が手にしているそれを指先でつつきながら、唯織はしゃがんだ膝に頬杖をついた。康也が覗き込み、首を傾げる。
    「見た感じ、普通の剣だよな。使ってる最中にしか効果を発動しないのか?」
    「学園に持って帰ればなんかわかるかねぇ」
    「では、そうしようか」
     頷き、止水はそれを持って立ち上がる。
     トンネルの外に出ると待ち構えていたように清涼な風が吹き抜けた。まぶしいな、と誰かが言って額に手をかざす。目が明るさになれるまで、彼らはしばしの間そこに佇んだ。

    作者:麻人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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