結婚は人生の墓場～惨劇のフィナーレ

■リプレイ

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　――某所公園。
（「誰一人欠ける事無く作戦を成功できますように」）
　何処から彼女が現れてもいいように、公園全体を見渡せる物陰に隠れってシュシュを握り締めて祈り、髪を結いなおす天渡・凜（その手をつないで未来まで・d05491）。
　同じように隠れ場所に待機していた浅葱の袴の神主服に身を包み、祈る様に方位磁石に触れていた氷上・鈴音（去りゆきし紅雪の友に誓う・d04638）がそっと凜の手を握り締めた。
（「大丈夫」）
　――わたしもがんばるから。
　鈴音の手に自らの手を重ね合わせてアイコンタクトでその意志を伝える凜に鈴音が頷く。
　広場にある遊具の影に隠れ息を詰めていた荒谷・耀（一耀・d31795）が無表情で敵の出現を待ち侘びていた。
（「もう、手段は選ばない……」）
　――あの時。
　沖縄の海を一般人の血で汚したあの時に、自分達も所詮ダークネスと変わらない存在と知ったから。
「耀ちゃん」
　隣の柊・玲奈（カミサマを喪した少女・d30607）が耀の肩を優しく叩く。
「玲奈さん……」
「それは耀ちゃんだけが抱える罪じゃないよ。私達皆が抱えて進むべき道。たとえ今がどうであったとしても、耀ちゃんは耀ちゃんだってことは忘れちゃだめだよ？」
　何処となく大人びた微笑みを浮かべる玲奈に、見透かされているな、と耀は思う。
「くっ……思ったよりやられたわ」
　ぼやきながら、40代くらいのキャリアウーマンらしき女性が公園の遊び場に姿を現し、手近のシーソーにベンチ代わりにして腰かける。
　純白のOLスーツが斬り裂かれ剥き出しになった肌は、所々水膨れを起こしていた。
（「どうやら会場班は上手くやってくれたみたいだね。しかも完全に油断している」）
　手近な遊具の影に身を隠していた合瀬・鏡花（鏡に映る虚構・d31209）が、内心でそう思う。
（「これ以上、シアワセな時間……壊させないの……」）
　ジューンブライド・キラーの様子は、彼女からは死角になる茂みに潜んで様子を伺っていたシャオ・フィルナート（猫系おとこのこ・d36107）にも理解できた。
（「六六六はぶっ壊す」）
　ただ、其れだけを思いシャオと共に身を潜めていた神乃夜・柚羽（睡氷煉・d13017）が彼女の死角から襲撃を掛けた。

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「？！」
　死角から突如現れた柚羽の放った漆黒の蓮の花弁に足を斬り裂かれて動揺を浮かべながらベンチから立ち上がるキラー。
　その時、ソプラノによる透き通った歌声が高らかに響いた。
　それは、ライン・ルーイゲン（ツヴァイシュピール・d16171）の歌。
　夜の訪れを表現したラインの歌は玲奈達前衛をジューンブライド・キラーから覆い隠す霧を生み出している。
（「必ずここで、止めます」）
　誓いを籠めたラインの歌は、ともすれば周囲の関心を引きそうだが、誰かが此方へと寄ってくる気配はまるでない。
　柚羽の先手必勝の一撃と並行して発動した凜の戦場の音を遮断する結界と、シャオから放たれた爆発的な殺気が人気を完全に払っていたから。
「……死ねっ！」
　霧と言う闇の中でも輝く松明の様な光を放つ三日月で柚羽が斬り裂いた脚部を更に深々と斬り裂く耀。
　そこに籠められたものは、明確な憎悪と殺意。
　慌てて飛び退く彼女へとエアシューズでするりと懐に滑り込んだ玲奈がクルセイドスラッシュ。
　放たれた斬撃がジューンブライド・キラーの体を袈裟懸けに斬り裂き血飛沫を舞わせた。
「折角の門出を邪魔するとか、どうしようもなく空気読めてないよねー、きっちりと、叩きのめしてあげるとしよっか？」
　ややからかう様に言葉を投げかける玲奈を睨みつけながら態勢を整えなおそうとするジューンブライド・キラーだったが、その時にはスレイヤーカードを解放し、赤黒のミニスカタイプのカウガール風の姿へと変貌を遂げた鈴音が背後から傷だらけの右足の腱を断ち切っている。
「後ろ？！」
「ジューンブライド・キラー。残念だけど此処から先は通行禁止で、此処が君の終焉の地だよ」
　動揺する彼女に鏡花が言い捨て、同じく背後から黒死斬。
　斬撃が水膨れを起こしている左足の傷口を広げ、更にモラルが六文字射撃。
「Gehen Sie!」
　身動きの取れぬキラーを見て、ラインがすかさずシャルに命じる。
　シャルが杖の先端、ト音記号側をまるで指揮者の様に振るうと同時に無数の音符型のシャボン玉を次々に叩きつけた。
「くっ、くぅ、この私がこんなに一方的に……？！」
「あははっ。一方的に痛めつけられるのってどんな気持ちですか？　そうやってあなたも沢山の人を殺してきたんでしょう？」
　耀が明確な殺意を叩きつけながら意地の悪い笑みを浮かべる。
　この時、シャオ達の協力もあり、既に彼女を包囲する陣形は完成していた。
　また身を隠していたことによる奇襲攻撃の成功が、完全に彼女から余裕を奪っている。

　――緒戦はほぼ鏡花達の完勝といって差支えは無さそうだった。

●
「リア充なんて消えてしまえっ！　独身、万歳！」
　ジューンブライド・キラーが叫び自らの傷を癒していく。
　特に腱まで斬り裂かれていた右足の修復は、今の彼女にとっては急務だった。
「独り身の期間が長すぎてこじらせてしまったタイプですね」
　さしたる感情を抱いた様子もなく、柚羽が手刀でその身を斬り裂く。
　斬撃の痕の残るスーツを斬り裂きバッドステータスを確実に蓄積。
「皆を……守るの……」
　シャオが小さく呟きながら、自らの指を噛んで血を滴らせる。
　少量の血液が薄赤い霧を生み出しラインの生み出した黒霧と絡み合い、耀達の力を高め。
「死になさい！」
　耀がその腕を養父アラヤに酷似した物へと変換し突き出した。
　右足の負傷は塞がったが、左足の負傷で僅かに動きの遅れた彼女の胸を強打。
「ガハッ……？！」
　呼吸が詰まり一瞬息を止める彼女に離脱しようとする耀の脇から玲奈のダイダロスベルトが迫り敵をギリギリと締め上げている。
「結構、足にきているみたいだね～」
　その玲奈の背後から、凜のラビリンスアーマーによる支援を受けた鈴音が接近して炎を纏った回し蹴り。
　玲奈のベルトを解いた彼女が身を引くが申し合わせたように鏡花の仕掛けた鋼糸が敵を締め上げ、更にモラルが懐に飛び込み、斬魔刀でその腹部から肩にかけてを斬り裂いている。
「Shall! Chase!」
　敵に永遠の眠りを与える子守歌を歌うラインに命じられ、シャルがト音記号側を渦巻き状に振るって生み出した竜巻が、ジューンブライド・キラーを飲み込んだ。
「……中々やるじゃないの」
　ジューンブライド・キラーが近くの砂場を足で蹴り周囲に煙を巻き起こす。
　一瞬の目晦ましに思わず目を覆う凜の前にふっ、と姿を現した。
　彼女の支援を危険と判断したのだろう。
「っ？！」
「させないわよ！」
　息を呑む凜の前に鈴音が立ちその一撃を受けよろめく。
（「それでも……」）
　かつて自らが救ったエルザやクレンド達会場班の知人達が此処まで敵を追いつめてくれた。
（「だから……負けられない……！」）
　託された想いを糧に踏み留まり自らの全身を帯で覆いその傷を癒していく。
「～っ！　～っ！」
　ラインがフラメンコギター型のバイオレンスギターを弾きながら歌った涼やかな歌が鈴音の傷を癒す。
「シャオさん！」
　凜から放たれた帯がシャオの身を護る盾となり。
「必ず……護る……」
　凜に背を押されたシャオがもふもふな九尾の様なそれを敵に放つ。
　尾に締め上げられるジューンブライド・キラーに柚羽が黒死斬。
　右足を斬り裂かれた彼女の足を、柚羽の背後から飛び出した耀が黒死斬で更に抉った。
　それは連携と言うよりも利用しあうかの様。
（「まあ、灼滅出来ればそれでいいんですけどね」）
　他人に特段期待を抱いている訳じゃない。
　彼女という厘。
　それを灼滅出来るというその厘の隙間を埋める希望がもし壊れてしまうならば、誰かに利用されてでもさっさと厘そのものを破壊した方がいい。
　極端なその価値観は……耀の抱く『殺意』と共鳴しあい、其れが結果として機能している。
（「耀ちゃん……大分追いつめられているみたいだね」）
　肉体的に、ではなく精神的に。
　その様子が玲奈には少しだけ気になる所ではあるけれども。
（「今は……！」）
「悪いけど、人の幸せをぶち壊そうなんて考える輩は、絶対逃がさないよ！」
　耀の想いを肌で感じ取りながら玲奈が炎の線を描いた蹴りを叩きつけ水膨れを起こしていた体を焼き、彼女に強烈な一撃を与えた。
「続くよ！」
　鏡花が割れたガラス片を繋げたようなウロボロスブレイドを伸ばし、締め上げる様に彼女を斬り裂く。
「Shall! Bitte!」
　 モラルの浄霊眼と、シャルのへ音記号側で書きだされたハートが鈴音を癒す。
「あんた、隙だらけよ！」
　ジューンブライド・キラーが捨て身の猛攻を仕掛ける耀へと刃を突き出すが。
　凜から放たれた帯を纏ったシャオが立ちはだかりその攻撃を受け止めていた。
　胸から血が滴り落ち苦痛の表情を浮かべるが、シャオは視線を逸らさない。
「俺は……護るよ……おねーさんに……シアワセな時間……壊させないために……」
（「正直俺には、結婚は、まだムズカシイ……」）
　それでも、笑顔になれるものになることは知っている。
　ステキなもので……それで幸せな人もいることは知っている。
　だからこそ……彼女の様に、自分勝手な理由でシアワセを邪魔するダークネスを許せない。
　それが彼の矜持だった。

●
　――それから数分。
　バッドステータスを確実に累積させながら凜の支援を受けて確実に力を蓄える鏡花達。
　最初から蓄積している殺傷ダメージもあり、ジューンブライド・キラーの動きは確実に鈍くなっていた。
「さっさと倒れなさい、この犬め！」
　シャオや鈴音と連携し、幾度となく凜達を庇い傷だらけになりながらも、浄霊眼による鈴音達の回復を優先していたモラルの死角から彼女が斬撃を繰り出す。
　繰り出された斬撃にモラルが耐え切れずに消滅。
「いつも通り捨て駒の盾役、すまないね。けれども、式場で惨劇を防いだだろう仲間達に顔向けできなくなるような真似はしたくないんだよ」
　モラルに礼と謝罪を述べながら、鏡花が密かに周囲に張り巡らせていた鋼糸を引く。
　公園に仕掛けられていた糸が高速でジューンブライド・キラーに襲い掛かり、彼女をズタズタに斬り裂いていた。
「クァッ……？！」
　これ以上は危険と判断したか、モラルが消滅したことによって僅かに綻びの生じた包囲網を突破しようと傷だらけの足を引きずって行こうとするが。
「あっ、忘れてました。実は私も六月の花嫁だったんですよ」
　後方から追いすがった耀が呟き、薬指に嵌めた『輪廻』をちらつかせる。
　自らの幸福を示す、戦場に不釣り合いな笑みを浮かべて。
「何ですって……？！」
　足を止め、耀へと視線を向けるジューンブライド・キラー。
「うふふ……最高ですよね、結婚って。臨海学校とか、クリスマスとか、バレンタイン・ホワイトデー……そういった行事は勿論、本当に沢山のことを2人でずっと共有できるんですもの」
「あ……あんたっ……！」
「独りじゃ耐えられなくても2人なら耐えられる……そういった幸せは夫婦じゃなきゃ味わえない最高のものですよね♪」
　幸福な笑みは、程なくして嘲笑へと変わり。
　そしてそれは……敵の怒りを煽るには十分だった。
「結婚は人生の墓場。その意味を今ここで教えてやるわ！」
　叫びながら、彼女が耀に向けて十字架による連続攻撃を叩きつける。
　目の前にシャオが割込み、その攻撃のダメージを最小限に止めたが……。
「……っ？！」
　想像以上の痛手となったか、思わず膝をつきそうになりながらもラインの歌を受けて辛うじて立ち続けてきっと敵を睨みつけ全ての罪を浄化し昇華する癒しの剣、『断罪の剣』で逆袈裟に彼女を斬り裂く。
　幾度となく仲間を庇ってきた現状では、自己回復は殆ど意味をなさないと判断したから。
「……そうなりますか」
　戦闘不能寸前のシャオと交代するために、柚羽が前へと飛び出す。
　その隙を逃してしまう程、耀の挑発に乗ったジューンブライド・キラーの隙は大きかった。
　すかさず玲奈が祖父から授けられた黒き刀身の刀『怨京鬼』でジューンブライド・キラーの魂を斬り裂く。
「結婚は人生の墓場かどうか、だけど。私は墓場じゃなくて人生のターニングポイントだと思うよ。新しい出発な訳だしね」
「まあ、よく言われる事ではあると思うけれどね。それで実際に墓場にされたら困るよね」
　同意するように呟きながら、鏡花がガラス片を繋ぎ合わせた刃状のウロボロスブレイドによるティアーズリッパ―で彼女に斬撃を加えている。
　鈴音達が守りやすい位置をキープしながら、エフェクトをばら撒き続けた凜がまばゆい輝きを放つ銀の弓Stargazesに矢を番えて射る。
　肉眼では捉えることの出来ない程遠い星を射抜くことが出来ると言われる程の速さで放たれた矢がジューンブライド・キラーを射抜いた。
「鈴音さん！」
「これで、終わらせる……！」
　凜の合図に傷だらけの鈴音が飛び出し、大上段から日本刀を振り下ろした。
　鈴音の意思の込められた唐竹割の一撃にジューン・ブライドキラーがよろけ、ラインがソプラノで歌を唄い衝撃波を生み出し追撃。
「Shall! Gahen Sie!」
　ラインに命じられたシャルがト音記号側を指揮者の如く振るい、シャボン玉を生み出し彼女に叩きつけていた。
「あははっ……目の前でシアワセを語られた挙句、語った相手に倒されそうになるのってどんな気持ち、負・け・犬さん♪」
　耀がそれらの攻撃で傾いだのを見逃さず、『死』の力を宿した断罪の刃を振り下ろす。
「くっ……くぅっ……！」
　既に虫の息ながらも我武者羅に攻撃を仕掛けてくるジューンブライド・キラーの前に、シャオが立ちはだかった。
「護り……切ったよ……」
　そのままどう、とその場に倒れる。
　それと、ほぼ同時に。
　柚羽がマテリアルロッドの力を解放し、フォースブレイクを叩きつけ。
　更に鏡花達の連続攻撃を受け、ジューンブライド・キラーは程なくして力尽きるのだった。

●
「……時間、掛かりませんでしたね」
　柚羽の嘆息。
　ポジションチェンジ後から殆ど時間が掛からずに敵が倒れた。
　一件落着ではあるが、其れをしていなければシャオが倒れる前に灼滅出来た可能性を考えると、戦術ミスだったかと思う。
（「こういう時は臨機応変に対応できるようにしておいた方が良いんですね」）
　戒めも兼ねて内心で呟く柚羽。
「シャオさん、大丈夫？」
「うん……大丈夫……」
　凜が倒れているシャオの傷を癒す様子を見ながら、鈴音がそっと息をつく。
（「誰一人欠ける事無く帰れてよかったわ……」）
　そして、鏡花達灼滅者は静かにその場を後にした。

　――惨劇のフィナーレを勝利の錦で飾りながら。

作者：長野聖夜	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年6月29日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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