ガーネットの蓋棺~発端

    作者:佐伯都

     何かの相談中なのか、ああでもないこうでもない、と中庭で車座になった演劇部の生徒が首をひねっている。週中の水曜日は、体力作りも兼ねての発声練習を屋外で行うのが恒例だった。
    「たまには古典、とか面白くない? シェイクスピアとか」
    「うぇええ、それはヤダ。力入りすぎてイタいよ」
    「古典でもなんでもいいけど、自己満はちょっとねー。脚本崩すとか、解釈変えるとか」
     そこで行われていた相談は、文化祭での出し物について。秋の開催だが、脚本や衣装作成の都合上、今から早めに演目を決めておかねば間に合わない。
     校舎を隔てたグラウンドのほうから、野球部が軽快な打音を響かせている初夏の放課後。どこにでもある高校の、ごく普通の光景のはずだった。
    「じゃ何にする? 王女メディア? レ・ミゼラブル? それとも他にやりたいのが」
     あったら、と続くはずだった部長の声が唐突に途切れる。
     何か、暖かい液体を盛大に浴びた副部長の二年生が黙りこんだ。部員と一緒に車座になって座っていた部長の身体が、文字通り真ん中からきれいに半分に割れて転がっている。
     妙にきれいな断面から、青々とした芝生へこぼれだす臓物。血塗れのまま悲鳴も上げられず、背後から近寄ってきた人物を副部長はただ見上げることしかできない。
     白い指先、糸のようなもので連なっているいくつもの赤い宝石が見えた。上品な光沢をのせたベルベットの豪奢な衣装、赤く長い髪を高い位置で結い、殺人者は演劇部のメンバーを緑色の瞳で一瞥する。
     ――ああそうだ、いつだったかの虐殺もこんな学校だった。そして灼滅者が邪魔に来て。また彼等が来るならば、久しぶりに遊んであげてもいいのだけど。
     サルビアの咲き誇る中庭よりもなお赤い、鮮血の円の中で女は艶然と微笑んでいる。
     六六六人衆、ヴェロニカ・グラナート。序列を上げ四一〇位となった彼女は指先の動き一つで、またひとり、女子生徒の首を刎ねた。

    ●ガーネットの蓋棺~発端
    「しばらく足取りの掴めていなかったダークネスが予知に引っかかったよ」
     成宮・樹(大学生エクスブレイン・dn0159)は分厚いルーズリーフから四つほど顔をのぞかせている、青い付箋の部分を順に開いていく。
    「序列四一〇位、ヴェロニカ・グラナート。二年前は四八〇だったからまあ、順当な昇進なのかも」
     かつて現れた時のように魔導書、赤い宝石を繋げたような外観のリングスラッシャーを所持しているのは変わらない。最後に現れた時の黒死斬、ティアーズリッパー、カオスペイン、リングスラッシャー射出、シールドリングのサイキックを駆使してくる所も同じだ。
     元々強敵揃いの六六六人衆だが、サイキック・リベレイターの使用によって強化されたため通常の方法で灼滅するのは難しくなっている。しかし、同時に『六六六人衆が撤退する場所』も予知で割り出せたため、二段構えの作戦を立てることで灼滅を狙えるようになった。
    「まず1チームが普通に現場に向かって一般人を救出しつつ、戦闘。撃退あるいはある程度のダメージを与えて撤退。2チーム目が、撤退してきたヴェロニカを急襲して止めを刺す、って流れになる」
     こちらの担当は、一般人を救出しヴェロニカを撃退するまで、となる。灼滅者の力量が上がったこともあり、強化された六六六人衆相手とは言えよほどの不手際がなければ敗退ということはないはずだ。
     今回、接触時の状況が最初の事件と多少似たシチュエーションなのが気になる所かもしれないが、そこはコンビニへ行くように殺戮をする六六六人衆のこと、別に深い意義も意味も何もない。ただの偶然だ。
    「ある高校の中庭で、放課後に文化祭の相談をしていた演劇部のメンバーが犠牲になる。接触できるタイミングが二人目の犠牲者が出た後だから、この時点で生存している20名を可能な限り保護したうえで、ヴェロニカを撃退してほしい」
     中庭は4階建ての校舎に東西を挟まれている。
     が、最初の事件とは大きく異なって三方を校舎で塞がれているのではなく、南側が壁のない素通しの渡り廊下だ。ブロックで地面を舗装しているだけなので、灼滅者がヴェロニカを物理的に食い止められれば、生徒は自分の足で校舎内なり校庭なりへ逃げこめるだろう。
    「そのかわりヴェロニカを行き止まりへ追い詰める、って作戦は使えない。タイミングさえ間違わなければ接触方法の是非はないから、正攻法で渡り廊下側から押し返してもいいし、人数を割いて挟み撃ちでもいい。詳細は任せるよ」
     元々戦闘能力が高い序列四〇〇番台の六六六人衆なうえ、ヴェロニカはこれまで4度灼滅者と鉾を交え、そして逃げおおせてきた。狡猾であり、頭も回る。灼滅者の考えることは知り尽くしている、と表現していいだろう。
     チームワークも含め、ここで灼滅するという覚悟でもって望むべきかもしれない。
     ここでダメージを積み重ねたぶん、それだけヴェロニカの灼滅は確実なものになる。
    「討ち取りそのものは別チームが行うと言っても、この任務の価値が軽くなるわけじゃない。互いが最善を尽くして、そこで初めて灼滅できるって事を忘れないでほしい」
     ヴェロニカだけではない。この依頼の是非には、演劇部員20名の命がかかってもいるのだ。


    参加者
    橘・彩希(殲鈴・d01890)
    桜之・京(花雅・d02355)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)

    ■リプレイ

     橘・彩希(殲鈴・d01890)が中庭に面した廊下から息を潜めて見守る中庭、そのほぼ中央で高々と二つ目の血飛沫が上がった。そして刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)とハノン・ミラー(蒼炎・d17118)が殺戮者と演劇部員の間の物理的な壁になるべく走る。
    「走れガゼル!! これ以上、奴らの好きにはさせねえ!」
     高いエンジン音。青い芝生を巻き上げ、柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)のライドキャリバーが猛然と演劇部員の輪の中へ突入した。
     あおい芝生の上に大きく二つ、真紅の血溜まり。首から上がどこかに消失してしまった亡骸がどしゃあと音を立てて前倒しになり、どこかから引きつったような悲鳴が細く漏れる。
     遅れて、副部長の生首が目の前に落ちてきた不運な男子生徒の顔が恐怖に歪んだ。
    「早く帰りたいんで、あまり手間取らさないでくれます?」
     校舎と渡り廊下の接続部分に身を潜めていた牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が、牽制も含めでヴェロニカ目掛けてレイザースラストを見舞う。突如現れた灼滅者達をヴェロニカはバックステップで避け、しかし邪魔をされて口惜しげな顔をするでもなく、面白いとばかりに笑みを強めてみせた。
     一体何をすれば灼滅者の機嫌を逆撫でできるのか、そんなものよく知っているとばかりに殺戮者は逃げる高校生の方向へ指先をのばす。
    「立って! 走りなさい、ここから逃げるの!!」
     漣・静佳(黒水晶・d10904)が発した渾身の絶叫。唖然とも、茫然ともとれる表情をしていた演劇部員たちの顔色が変わり、高い悲鳴がはじけた。
     ひゅ、と赤い石の連なりが閃くやいなや、桜之・京(花雅・d02355)はためらいなくその射線へ割りこむ。避難誘導よりも身を挺して生徒を守るべきと判断した華槻・灯倭(月灯りの雪華・d06983)も加わった。
     庇う気満々の二人を相手にしたうえで生徒を狙っても大した精神的ダメージは出ないと考えたようで、ヴェロニカはぎりぎりの所でリングスラッシャーを手元へ引き戻す。
    「二年ぶり、ね。初めましての時を思い出すわ」
    「……誰かと思えば。そう、もうそんなに経っていたの」
     油断なく身構えたまま京が呟くと、やや記憶をさらう間があってからヴェロニカは感慨深げに微笑んだ。
    「あの時私が堕としてあげた彼は元気かしら。それともどこかでまた堕ちた?」
    「さあ、どうだか。少なくとも良くない噂の心当たりはないけど」
     その彼がこのあとヴェロニカが撤退した先で待ち受けているだなんて、いま京が種明かしをしてやる義理など欠片もない。そしてせいぜい、己が命運の尽きたことを悔やめばいいのだ。
    「それは残念。ああでも、……」
     口角を吊りあげる笑い方をして、ヴェロニカは右手の指をばらりと開く。
    「だったら、また堕とせばいいだけ」
     まったくどこまで玩具扱いをしてくれれば気が済むのだろう、と灯倭は無意識に眉を寄せていた。盾役へまわした相棒の一惺が脚をもつれさせている男子生徒を懸命に追い立てているのが見えてひやりとするが、ヴェロニカは今の所、目の前の灼滅者より先に演劇部員を狙う気配はない。
     やはりこちらの力量が上がっていることに気付いたのだろうか、とハノンは考える。
     記憶通りの彼女ならば1対8人という物量など意に介した様子もなく蹂躙しにかかってきたはずだが、妙にこちらの様子を図るような、間合いを読むような素振りが目立つ気がした。
     最初の事件からは約3年、最後の記録からなら2年間。その空白。その間ヴェロニカがどこで何をしていたかなんてハノンは知らないし興味もないが、以前から序列を上げてはいるものの灼滅者の成長がそれを凌駕したとすれば、多少は胸もすくというものだろう。
    「序列持ちの六六六人衆。斬る相手として不足はありませんね」
     静かに雑念を除くように瞼を伏せ、そして見開いた刀が先陣を切った。ビハインドの千鳥を従え攻勢に転じてきた灼滅者を、ヴェロニカは余裕を持って迎え撃つ。
    「斬ります」
     千鳥とそれぞれ二刀、あわせて四刀。四〇〇番台相手に己が剣戟がどこまで通用するかは刀自身にも未知数ではある。しかし課せられた役目が足止めとあれば、むしろ何の気兼ねもなくやれるというものだった。
     足腰に力が入らないのか、ああ、ああ、と呆けたように呻きながら芝生を這っている女子生徒の襟首をふたりまとめて掴み、彩希は渡り廊下の開口部から校舎内へ押し込む。
     誰かと協力し怪力無双で投げこむことも考慮にはあったのだが、すぐそこに殺意をむきだしにした六六六人衆がいる状況で一般人をお手玉するよりかは、直接引っ張ったほうがずっと安全で確実だった。
     これ以上の犠牲は出さない――否、出させない。静佳は彩希が回収しきれなかった、自分の脚で走れそうな生徒を励まし立たせ、校庭へ急がせる。
     可能なら最初の犠牲者ふたりの遺体を回収したい所だが、今はまず生存者の避難が先だ。
    「今までさんざん生命を弄んできた報い、キッチリ受けるんだな!」
     万が一にでも生徒が被弾しないようガゼルを走り回らせ、高明自身もヴェロニカの注意を引く形で積極的に仕掛けていく。
     いくらか耐えれば興が削がれて撤退するというならまだしも、ここには守るべき一般人がおり、そしてここで取り逃がしてもヴェロニカを灼滅せんため待ち受けている別チームが控えているのだ。
     ここで削れば削った分だけ、ヴェロニカを灼滅できる可能性は積み上がる。彩希がまたひとり校舎内に生徒を避難させたのを横目に、高明は何のてらいもない縛霊撃を仕掛けた。
     だが灯倭の相棒・一惺や千鳥にまとわりつかれているものの、それを見逃すヴェロニカではない。
    「報い、ねえ。なりそこないどころかそれ以下の人間を殺したところで、何か問題が?」
     含みのある笑いを漏らしやはりバックステップでかわそうとする足元を、高明は力任せに殴りつけた。クリーンヒットは狙えないまでも、一撃なりとも浴びせれば次につながる、そう信じている。
     しかし、ごつ、と存外いい手応えが返ってきて高明は内心快哉を叫んだ。見れば、ヴェロニカの片脚が膝からおかしな角度でひしゃげていて、どうみても早々に回復しきれるものではない。
     つんのめりかけながらも体勢を立て直し、ヴェロニカは笑みを消した。掲げた魔道書からどろどろと毒々しい色をした原罪がこぼれだして前衛を襲う。
    「ねえ、ちょっといいです? 何度も遊んだことがあるなら分かるでしょ」
     気怠げな表情の下に真意を隠し、麻耶はヨタロウへ前衛の立て直しを命じてからヴェロニカへ話しかけた。背後では灯倭と静佳の気配がしている。
    「自分らがどうしたいか、ここに何しに来たか」
     そんな事を言いながら麻耶は攻め手を緩めない。レイザースラストと妖冷弾を織り交ぜ、さらに十字架戦闘術。それへヴェロニカは赤い宝石を繋げたようなリングスラッシャーで応戦してきた。激しく切り結ぶ腕へ帰ってくる衝撃は重く、一瞬嫌な汗が背ににじむ。
     しかし、届かないという気はしない。不思議なことに。
    「今更そんな事を言われても困るのだけど」
    「まあそうでしょうね」
     けろりとして言い放った麻耶のそれへ被せるように、避難誘導担当の灯倭と静佳の声が響く。
    「お待たせしました、――避難完了、よ」
    「ざぁんねん、ヴェロニカ! 今回は私たちのほうがちょっと上手だったみたい!」
     見れば、すでに命の去った、中庭に無惨な死体を晒している2名以外の演劇部員の退避が完了していた。
    「ほら。だからさ、今回もさっさと撤退すればいいんですよ」
     溜め息でも出てきそうな顔で、ほんともう余計な手間取らさないでくれます? と重ねた麻耶にヴェロニカは目を細めただけだった。
    「随分自信があるようね」
     疲れたように一息ついて、相棒のヨタロウを指先で招く。
    「うんまぁその、何度も言うようですけどさっさと帰りたいんです。無理。もうヤです」
     どうにもなげやりな台詞を吐き、麻耶は十字架戦闘術から影縛りの構えにはいった。咄嗟にシールドリングで守りを固められるが、意に介した様子もなく麻耶は芝生を蹴る。
     ――だから、さっさと逃げちゃって下さい。
     鞭のようにしなる足元の影を操り、麻耶はヴェロニカの脚を狙った。さきほど高明が膝を貫いていたようなのでそれに便乗するのが得策だろう――そんな、麻耶の判断は冷静だ。
    「どうにも貴女はこちらが綺麗になれと押しつけてくるけど、いっそそちらが貴女の血で綺麗になればいいのではなくて?」
     解体ナイフ、【花逝】は掌に隠して左手に。
     彩希のティアーズリッパーと麻耶の影縛り、その両方を無理な体勢からどうにか躱しきり、ヴェロニカはチッと舌打ちした。膝へ受けた傷がよろしくないらしく、足回りが明らかに鈍っている。
     そしてその隙を京は見逃さない。
    「ねえ、譲って貰えないかしら」
    「……ッ、何、を」
     ふふ、とひとつ笑って京は鋼糸を素早く振り抜いた。一瞬遅れて、肉を裂く手応えが指先に伝わる。ぬるりと重く滑る、独特の。
    「貴女の赤色。好きなのよ」
     愛おしいほどに。
     それほどその赤に引かれてあの日、あの場所にいたのだから。
    「灼滅する前に一房譲って貰えないかしら? 宝物にしたいの」
     京のそんな台詞に、ヴェロニカは少なくとも諾と応じるつもりはなかったようだった。もっとも、ハノンの怒号にかき消されて返答は永遠に聞けずじまい。
    「誰も殺させない――肉を斬らせてぶん殴る!!」
     一度生徒達を退避させてしまえば、あとはもう1対多数、の有利にあかせて押しきるだけだった。確実な灼滅でリベンジマッチを望んだ者は多かっただろうが、初見時に煮え湯を飲んだハノンとて例外ではない。
     ただ灼滅にまわるチームに行かなかったというだけで。
     これまでに守り切れなかった命の口惜しさを、ここで一足先に精算させてもらう。たとえここで自分自身が力尽きようが構わなかった。八つ当たりだと言われてもいい、ヴェロニカを斃せさえすれば、どうなってもいい。
     だってこれは本当に過去の犠牲を回避できなかった自分の、ただの八つ当たりでしかないのだから。
    「今回のもてなしはなァ、これだッ!!」
     思いきり左腕をふりかぶって殴りぬいた、シールドバッシュ。
     派手にふらついたヴェロニカへすかさず灯倭が一惺と見事なコンビネーションで追い打ちをかける。
     灼滅班に必要以上の負担を与えないため、灼滅を確実なものにするため。出せるだけの最大ダメージを狙った渾身の神霊剣と一惺の斬魔刀は、ヴェロニカにそれ以上の戦闘を断念させるに十分だった。
    「逃げんのかよ! 序列四〇〇番台も大した事ねぇな!?」
    「それで煽っているつもり? 可愛いわね」
    「そりゃあ、年増のお前さんに比べりゃ俺なんか可愛いモンだろ」
     飄々とした、しかし色々な意味で辛辣な高明の切り返しはさしものヴェロニカも予想していなかったようで、く、と頬を軽く歪めるように笑っただけだった。
    「誰も堕とせなかったことは残念だけど。今日は分が悪いようね」
     待ち望んでいた台詞を引き出したことを知り、高明は背後に隠した【Himmelblau】を握る手をわずかに緩める。
     灼滅するつもりで手加減なく追い詰めるが、必要以上の深追いはしないと申し合わせてあった。もともと二段構えの布陣なのだ、ここでいらぬ無理をして闇堕ちでも出したら目もあてられない。
     それにヴェロニカの様子を観察するかぎり、目的は十分果たしたように静佳には思われた。とりあえずと言った様子で傷を癒やしながら距離を取ろうとするヴェロニカの左膝は、どうみても機能していない。
     身綺麗なままならまだしも、きっちり結われた髪は所々がほつれ衣装もあちこち大きく裂けている。これまでかなりの余裕をもって撤退していたことは過去の報告書から想像に難くないので、今回はこれで十分とすべきだろう。
     また次の機会にと呟いて撤退してゆくヴェロニカの背中を、ハノンは複雑な思いで見送る。
     恐らく、高い確率でその機会は来ないことを知っていた。これが最後。
     そう、これでヴェロニカとの邂逅は、最後だ。
    「そろそろ良いでしょうか」
     懐からおもむろに携帯端末を取り出した刀が、手早く、短い文面を誰かに送信する。『戦闘終了、目標は撤退地点へ向かって移動中。健闘を祈る』、と。
     特に何事もなく送信が完了した画面を見下ろし、刀はふと金色が強まりはじめた西の空を見上げる。湿度と暑気のこごった風が惨劇の血の匂いをすっかり拭いさってくれるには、あともう少しかかりそうだった。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月27日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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