結婚は人生の墓場~虐殺のプレリュード

    作者:るう

    ●殺戮劇は唐突に
     某所、某ホテル――。

    「ソレデハ、新郎、新婦! 誓イノきすヲ!」
     荘厳なオルガンの音色に包まれて、互いに見つめあう二人。どんなにそういう儀式なんだと自身に言い聞かせても、どうしても恥じらいが顔に出るのは避けられず、あふれ出る幸せの笑顔が参列者らの注目を浴びる。
     これから始まる新たな人生。互いの指にはダイヤが光り、新郎はゆっくりと新婦のヴェールを上げて。新婦が頬を赤らめて目を閉じて、新郎がその瑞々しい唇を見つめた時……。

    「あら、ご結婚おめでとう」
     唐突に、入口扉が開かれた。
     そこに立つのは一人の女性。キャリアウーマンの様に見える純白のOLスーツに黒縁のメガネ。恐らくは四十代くらいだろう。
     ノシノシと入場してくる女。突然の闖入者に人々は戸惑いを隠せず、スタッフの一人が彼女へと歩み寄る。
    「お、お客様。申し訳ございませんが本日は招待客の方のみとなっておりまして……」
    「ふん、あんたに指図される謂れはないわ」
     スタッフを一瞥し、ズカズカと幸せそうな笑みを浮かべている新郎・新婦の前へ。
    「あたしの目の前で幸せそうにするとか何様のつもり?」
    『えっ……?』
     キョトンとする新郎・新婦にふん、と鼻息を一つ。
    「結婚は人生の墓場だって教えてあげるわ」
     ――パン。
     呟くや否やその手に現れた巨大な十字架から新郎・新婦を光が撃ち抜いている。
     ――一瞬の、静寂。
     女はふん、ともう一度笑った。
    「此処にいる全員に教えてあげるわ。結婚は、人生の墓場だってことをね」
     ――程なくして。
     阿鼻叫喚の地獄絵図が、会場を覆った。

    ●武蔵坂学園、教室
    「六六六人衆に対してサイキック・リベレイターを使ったことで、六六六人衆が起こす殺人事件を未来予測できたよ!」
     須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)はこう語る。
     事件を起こすのは『ジューンブライド・キラー』。結婚は人生の墓場だからと理由をつけて、ホテル上階のチャペルで行なわれる結婚式に乱入し新郎新婦を惨殺する女だ。無論、その後は参列者やスタッフも、殺せるだけ殺してから去ってゆく。
    「ジューンブライド・キラーは元々強力なダークネスだったけど、今はリベレイターの影響で、さらに強化されてるの! だから、被害を防ぐことはできても……灼滅までは難しいかもしれない」
     けれど、同時に……リベレイターの力によって、さらに次の未来予測もできている。
    「ジューンブライド・キラーが逃げ出した後、どこに向かうかもわかってるよ! だから二段構えの作戦で、必ず、ジューンブライド・キラーを灼滅して!」

     それからまりんはこう語る。
    「灼滅の方は北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)さんからの説明があるから、こっちは虐殺の阻止について説明するね。
     ジューンブライド・キラーは、チャペルの後方の扉から現れるの。その後はチャペルの真ん中くらいまで進み出てから新郎と新婦を攻撃するから……その間が戦闘を仕掛けるチャンス!」
     一たび灼滅者たちとの交戦が始まれば、彼女は虐殺を断念せざるを得ないだろう。が、一般人の中に灼滅者がいると気づいたならば、予定よりも早く虐殺を開始し、交戦開始前に一人でも多く殺そうとするはずだ。
    「だから、隠れるなら参列者のフリをして。あるいはチャペル前方のスタッフ用の扉の中。決して、チャペルの中に違和感を残さないこと!」
     交戦開始後は、クロスグレイブと殺人鬼のサイキックを使う彼女に、いかに殺傷ダメージを与えるかが重要だ。他にもカップルを呪う叫びでバッドステータスを吹き飛ばす『独身貴族シャウト』を使ってもくるが……こちらは、一段目のみで仕留めるつもりがなければあまり気にしなくてもいいだろう。
     後には仲間が続いていると、まりんは灼滅者たちに呼びかける。だから、自分たちも仲間のために力を振るうだけだ。
    「一度だけでは難しくても、二度ならきっと勝てるはず! 大切な日を穢す六六六人衆を、みんな、必ず灼滅して!」


    参加者
    神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)
    神條・エルザ(イノセントブラック・d01676)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)
    斎・一刀(人形回し・d27033)
    蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)

    ■リプレイ

    ●現れし災厄
    (「キキキっ……」)
     辺りが一瞬にして騒然となる中で、斎・一刀(人形回し・d27033)の含み笑いは誰にも聞こえない。
     結婚式の参列者には禁忌の白を身に纏い、勝ち誇ったかのように立つ女。彼女は新郎新婦すら知らぬ罠――礼服に身を包んだ参列者の中に『誰も知らぬ人』が混ざっているなどという事実、想像だにできぬに違いない。
    (「親族でも友達でも、見知らぬ人は、いるもんなんだよねェ……クククっ」)
     手の中でスレイヤーカードを弄ぶ一刀。新郎は新婦の知人全てを把握している訳ではないし、そして逆もまた同じ。その上、数人で談笑しながら『プラチナチケット』を翳せば、招待状を持たぬ部外者を見咎めるべき受付役も、灼滅者たちは既に受付を終わらせた人々だろうと信じるのだから……。
     そうしてプラチナチケットを使ったうちの二人、クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)と神坂・鈴音(千天照らすは瑠璃光の魔弾・d01042)は、互いに簡単な目配せを交わしあった……何故なら。
    「ふん、あんたに指図される謂れはないわ」
     大股でチャペルに踏み込んできた女の姿が、次第にクレンドの目の前へと近づいてきていたからだ。
     クレンドの隣には信頼の相手、蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)。正面の鈴音も敵への憤りを、どうにか内心のみに抑えこんでいる。ならば、後は……。
    「あたしの目の前で幸せそうにするとか……」
     その後に続く女の言葉を、灼滅者たちは決行の合図とする算段だった。
    (「全ての準備が順風満帆というわけではなかったけれど……少なくとも今は問題なさそうだ」)
     人々の思考を逃げる事だけに誘導するため、水燈・紗夜(月蝕回帰・d36910)の精神は研ぎ澄まされる。
     スタッフ用扉の側に向かうはずだった彼女が何故ここにいるかといえば、片倉・純也(ソウク・d16862)のプラチナチケットも、スタッフらに同僚だとまで思い込ませられはしなかったためだ。代わりに、自分たちは参列者でサプライズ演出をしたいのだと説明したところ……疑われこそはしなかったものの提案は無下に断られ、体よく式場に押し込まれて今に至る。
     つまり、何だかんだで困ってはいなかった。むしろ、ひと悶着のお蔭で最後列に陣取る羽目になったせいで、避難時に純也がドアをストッパーで開け放っておくのが容易くなった面もある。
     が……そんな回想はもう十分だろう。今、女の次の言葉は放たれたのだから。
    「……何様のつもり?」

    ●死を招く者
     刹那、灼滅者たちの全身が、即座に殲術道具に包まれてゆく。新郎新婦しか眼中になかった六六六人衆も、いざ、自らも十字架を抜くものの……。
    「ただ殺人欲を振り翳すだけの輩め。お前の思い通りになどさせるものか」
     その足元に滑り込むように、神條・エルザ(イノセントブラック・d01676)の爪先が舞い踊っている!
     ヴァージンロードをも焦がすほど、鋭く、激しく蹴り上げるエルザ。一方、女も墓標を振るい……。
    「神條殿、避けられよ!」
     その直前、ルティカ・パーキャット(黒い羊・d23647)の手の中の標識が危急を告げた。咄嗟の身の捻りは十分でなく、十字架が肉を裂かんとするものの、エルザの瞳から意志を奪うには到底足りぬ。
    (「そうだ。お前の敵は新郎新婦ではなく私だ」)
     女を睨めつけるエルザ。女がそれを睨み返している間、新郎新婦はスタッフ扉の奥へと消えつつあった。
     新婦の歩みを妨げるであろうドレスの裾を巻き上げて、しっかりと新婦を抱えて駆けるのは瑠璃。扉奥へと彼女を降ろしたならば、瑠璃は追ってきた新郎と入れ替わりに、戦場と化したチャペル内に向かう。
    (「クレンドさん。すぐに私も参りましょう」)
     無事を願った恋人の元には、ウイングキャットの『アオ』がいるはずだ。けれども自身が彼の傍に立つために、瑠璃は今来た道を戻る。
     するとクレンドは、女へと挑発を投げかけているところだった。
    「『結婚は人生の墓場だって教えてあげるわ』……とでも続けるつもりだったのか?」
     紅き力を増す『不死贄』を、無理に身を捩りながら叩きつけるのは、罪なき人々を巻き込まぬため。もっとも……紗夜の精神波に当てられて正気を失った参列者たちは、戦いの喧騒をも貫くエルザの避難指示を聞き、既に我先に逃げ出している最中なのだけど。
    「悪い?」
    「それで上手い事を言ったつもりか」
     再び構えたエルザ。距離を取り、得意気に得物をぶらつかせる女。
    「そうよ……ほら見える? 結婚するとあんなのと親戚や友人になるの……扉はあんなに大きく開いているのに、ずっと手前、席から通路に出るところで他人を押しのけあってるような人間と。ほら……死ぬべきよ!」
     するとルティカはこれ見よがしに、悦に入っている女へと苦笑した表情を見せてやった。
    「そのような部分にしか目を遣るつもりがない癖に、それを以って結婚を嘲笑うとは。地味じゃのぅ……お主にはエンターテイメント性が足りぬの」
     それからひらりと手を振って、詰まった人々を助けに向かう。女は視線でルティカを追うが……一刀が、振り上げた十字架まで視線に追従させてはくれなかった。
    「カカカっ。人形回しとビハインドの舞、とくとご覧あれ!」
     男女一組の操り人形が、生きているかのように女に飛びかかる。墓碑はそれらを床に叩きつけれども、人形を一刀と繋いでいた絡繰糸は、そして従者の少女は止まらない。
     以上が、入口側の動きだった。それを受け、次第に誰もいなくなった壇上へと追い詰められてゆく女だが……そろそろ、窓側も鈴音が行く手を妨げる。
     鈴音の抱える『魔砲使いの碑』は、ジューンブライド・キラーに早すぎる逃避行など許さなかった。
     無数のスパイクで威力を増した十字架は、ステンドグラスの光を浴びて、神々しいまでの威容を誇る。その姿は鈴音の憤怒を、あたかも体現したものであるかのよう!
    「ジューンブライドは乙女の憧れ。……それを!」
    「だからって……結婚を正当化するつもり?」
     苦しげな表情を隠さぬ女! ……しかし、そんな灼滅者たちの猛攻に対して、けれども女も吼え狂う。
    「ふざけんじゃないわよ!」
     叫びとともに蠕動する殺意。それは自分こそが正しくて、一般人はただ殺されればいいという傲慢さ以外の何物でもない。
     ……ならば。純也は悪魔の紋章を掲げよう。
    (「あの6月の花嫁になり損ねたデモノイドロードの『業』も、吐き気を催すほどだと思ったが」)
     ふと想起する2年前の事件。が、すぐに思い出ごと自らを押し殺し、どこまでも殺意を研ぎ澄ます。
     今や、参列者らの避難を手助けした事すら過去の事。これからは、濃密な『業』の巨象を噛み殺す蟻ならん!
     ……その『蟻』たちを、女は一匹ずつ叩き潰さんとした。けれども、怒りに任せて狙った純也もクレンドも、その度に紗夜の『白羽』が舞い込んだせいで、思ったほどの効果は上がらない……。

    ●計算と思惑
     そうしている間にも、チャペル内には六六六人衆と灼滅者たちしかいなくなっていた。いまだ一人たりとも殺せていない欲求不満に、女の額に青筋が立つ。
    「だから……死になさい」
     ああ。標的は、彼女の目の前にいる灼滅者カップルが調度いい。
     墓標から放たれた凍てつく邪悪が、瑠璃をクレンドの目の前で屠らんとする。迫る放火。憎々しげに吊り上がる口許。
     けれども瑠璃の表情は毅然としたままで、猛る悪意を恐れなどしない。そればかりか彼女は信頼の微笑みを浮かべ、自らの前に浮かぶ布帯を、迷う事なく別の方角へと伸ばし――その直後、紅い色が舞い込んできて、死の一撃を受け止める!
    (「人生はいろいろだ、結婚だけで決まる訳じゃない」)
     不死贄の奥のぎらつく瞳にて、クレンドは女を貫いた。
    (「だが……他者の人生を否定し、ましてや奪い殺す者など許さん」)
     苛烈な衝撃を受け止めた腕が、決して痛まぬわけはない。けれど瑠璃が今しがた捧げた布帯を、強く巻きつけたこの腕が、どうして容易く折れる事があろう?
     が……その姿は六六六人衆には、灼滅者たちが敵の実力を警戒し、傷を舐めあっているようにしか見えなかった。
     最初は人々を、今は瑠璃を守るため、あからさまに女を引きつけているクレンド。新郎新婦の元から戻った後は、常に彼の近くに立ち続け、助けるために立ち回る瑠璃。なるほど、そうも見えるかもしれない。
     瞳に六六六人衆にも負けぬ殺意を湛えた純也すら、表情頭脳言動は全て、忍耐こそが近道と信じているように見えた……自身より広い視野で戦場を俯瞰できているだろう、ルティカの指示を目としながら。
    「折角、全員を無事に帰したのじゃ。間違うても彼奴に追わせるでないぞ」
    「解っている」
     そう答えて純也が入口の側に立ち位置を変えた事までも、ジューンブライド・キラーには灼滅者たちの焦りと映ったに違いなかろう。
     その事に安堵するルティカ。
    (「ここまでは思惑通りじゃの」)
     一般人を守るためという名目で敵を奥へと押し込んで、意図に気づかれぬようにダメージを蓄積する。ここまでは順調だ。
    (「ただ、一つ気がかりがあるとすれば……少々、回復過多になりすぎておるかのぅ?」)
     確かに、灼滅者たち――特に紗夜が攻撃ではなく、クレンドや純也の守りを固める事や、エルザの第六感とも言える戦闘感覚を呼び覚ますのに専念していた事は、死闘を長引かせる方向に働いていた。
     考えうる効果は大きく2つ。
     1つはあるべき攻撃の機会を失う事で、敵の攻撃の機会を増やすもの。舞う白羽は確かに攻撃を防げども、見合うには費やしたより長い時間が必要になる……それは灼滅者たちに癒しきれぬ傷を蓄積させる結果へと繋がって、ともすれば戦線の瓦解を招きうる。
     もう1つは、敵に回復の猶予を与える事。これも普段であれば百害あって一利なし。けれども拳を振るい脚を燃やして敵の肌を焼くエルザ、矢継ぎ早に絡繰糸を食い込ます一刀……止めを次に託す限りは、敵にいかなる猶予を与えど、それらは決して裏切らぬ。
    「ふん……その程度であたしを止められるつもり?」
     女は、鼻白んで攻撃をあしらおうとした。そこへ天高く放り投げられたブーケのように、真上から彼女へと落ちてくる鈴音。
    「守り手たち13万っ、繋ぎとめたまえっ!」
     果たして祈る言葉の通り、鈴音は女をその場に釘付けにした。
     確かに、抱えた棘十字の重量を加えても、彼女の蹴りは軽い部類。せいぜい、女が受けるため掲げた墓碑を通じて、腕に一瞬の痺れを生むくらい。
     が、十分。女が一瞬でも動きを止めたなら、それは一刀の糸捌きの前では、永遠に静止したに等しかろう。
    「ケケケっ。どこに、強敵を万全の状態で戦わせたりする奴がいるもんかねェ」
     二体の人形、『雨姫』と『砂侍』が、嘲るように跳び回った。すると女は糸に縛られて、ビハインドの踊りを避けられぬ。
     さらに、今度はエルザが飛び込んで、意志を無数の拳へと変えてゆく。
     相次いで足捌きを封じられた女がエルザの攻撃を避けるには、さしもの六六六人衆といえども実力と幸運が足りなかった……その上エルザは紗夜によって、その実力を大きく高められているのだから。
    「この……愛なんて幻想に囚われてるお子様の癖に!」
     叫んでがむしゃらに振るった十字架が急所に当たりさえすれば、女は、エルザの哀れみの視線を見る事はなかったろうに。
     が、女は直前でクレンドに突き飛ばされて、彼に辛うじて反撃を為すので精一杯だった。

    ●託されし罠
    「恋を見失った日々がどれほどの生き地獄か……お前には解るまい」
     かつて闇の世界など知らなかった頃、エルザはどれほど人を傷つけたろう?
     愛。恋。皮肉にも再びの闇堕ちを経て、改めて実感したその尊さ。それをジューンブライド・キラーは理解できぬであろう。
    「滅び去れ、ジューンブライド・キラー。その強欲を断罪する!」
    「断罪? 残念ながら、そんなのは御免よ」
     全身に焦げ跡や斬り傷、打撲痕を作りながらも、六六六人衆は墓標を激しく振るい、しぶとくエルザを払い除けた。
    (「まだ余力が残っているか。できれば、もう少し削っておきたいところだが……」)
     そんな純也の思考は次に、そのもう少しがいかに困難かの評価に移る。その時、彼らはどれほどの損害を被っていよう?
     ……いや、それが危険を冒さずにという意味ならば、そもそも最初から困難だったのだ。純也とクレンドが盾を押しつけ敵を引き受けて、アオが我が身を呈してさえくれなかったなら、瑠璃は不運な一撃に見舞われただけで、とうの昔に戦線から離れていたかもしれなかったのだから。
     けれど、クレンドの傍にいる限り、瑠璃がそれを恐れる事はない。そして既に限界近いクレンドが、敵に怯えたりはしない。
     まだ、包囲は解かれなかった。
     それはともすれば自殺的な選択なれども、灼滅者たちの闇堕ちを誘発する危険を考えたなら、余裕を残さないわけではないジューンブライド・キラーとしても、決して乗れはしない勝負。
    「カカカッ。もう少しじっくり削らせて貰いたいのでねェ……」
     人形遣いの狂ったような笑い声が響き、そんな彼女を責め苛んだ。雨姫、砂侍、そしてビハインド……彼自身も含めた四つの踊りは、果たしていつまで続くのだろう?
    「ったく……付きあってらんないわ!」
     殺気が、嵐のように吹きつけた。それは女が継戦を断念し、灼滅者たちを怯ませた隙に逃げ出すためのもの……でも、鈴音はそんなのにたじろぎはしない!
    「これだけは受け慣れてるのよ!」
     学園に戻れば迎えてくれる、大切な彼氏を想いつつ。敵が撤退を遂げる最後の最後まで、自らの責務を果たし……。
     女がこの場から逃れるためには、誰かしらを倒すしかないようだった。
     倒せそうなのは窓側のクレンドか。殺すまでできぬのは惜しい限りだが、今日は、帰ってゆっくりと休むとしよう。
    「そうね。今回はあんた達に勝ちを譲ってあげる」
     墓標でクレンドを弾き飛ばすと、女はステンドグラスを破って宙に身を躍らせる。その耳には、クレンドの後を任せたと祈る言葉も、ルティカの気の毒な女じゃという挑発も、果たして聞こえていたかどうか?
    「かような事を続けておったら、お主がドレスを着られる日は来なかろうにの。同じおなごの身でありながら、自分の為にも誰かの為にも着飾る楽しみも知らぬとは……」

     かくして、一歩間違えれば全滅に繋がる罠を、灼滅者たちは演じきったのだった。
    「じゃあね、行き遅れ独り身おばさん」
     果たして彼女がこの後どんな目に遭うか、紗夜はありうる未来を想像する。さしもの七不思議使いにも、それが真実になるかどうかまでは語れないけれど……。
     エルザは信じるのだ。彼女を闇から救ってくれた恩人とその仲間たちが、必ずやその先を紡いでくれるだろうと。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年6月29日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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