クエスト・ファーザー

    作者:君島世界

    「おとう、さん」
     ――少女の冷たい、小さな掌の中で、与えられた凶器が啼く。
     跡を追え。
     ただその一言だけを赤い紅い生き血で書き留めた、たった一枚の名刺大の手紙だけが、今の少女がすがる事のできる頼りであった。
     同時に与えられたのは、以前から少女が好きだったクマのぬいぐるみだ。しかしその造形は、胸に抱いて語りかけることも、手を繋いで公園を歩くことも許さない、歪なものだ。
     ぬいぐるみの腹から突き出した真新しいチェーンソーが、ガリガリと地面を削る。持ち手は腰裏、作動グリップは柔らかく、重さは今の少女にとっては何の問題にもならない。
     その活用方法も、使い方もよく理解できぬままに、少女は寮を飛び出した。
     持ち物は以上の二つ。故に足りない路銀も、お腹を満たす食べ物も、どこからか『調達』せねばならない。
    「お金、くれる人、いるかな」
     少女は、『それ』をしてよいものか、しかし未だ迷っている。
     
    「集まってくれたな。今回お前らに向かって欲しいのは、闇堕ちしてダークネスになろうとしている女の子の、保護か灼滅だ」
     教室にやってきた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、教卓の上に資料を放り出して、早速といった体で語りだす。
    「名前はルビードール・ノアテレイン。外国にいる父親がヴァンパイアになったせいで、日本にいるルビーも闇堕ちしちまったんだ。本来ダークネスとして覚醒すると人間としての意識は消えてしまうんだが、何故かルビーは元々の意識を保ったままなんだ。
     ダークネスとしての力を使えるが、まだ完全なダークネスじゃない。
     もしルビーに灼滅者の素質があるならば、お前らの協力で元の人間に戻すことができる。だが、そうでないならば――彼女を灼滅してくれ」
     乱雑に積み重なった資料の中から、ヤマトはルビードールの資料を漁りだす。全寮制の学園に通う小学1年生、小柄で長い金髪、赤い瞳、等々。資料を手回しして外見の特徴を頭に叩き込む灼滅者たちを前に、ヤマトは次の説明を始めた。
    「ルビーの行動理由を簡単に説明すれば、父親に合いたい、ただそれだけだ。父親の手紙と、同時に送られたチェーンソー剣を頼りに、空港からどこかの外国に出ようとしているんだな。お前らがバベルの鎖の予知を抜けてルビーと会うには、空港へ続く高速道路の高架下を、一人だけで歩いているタイミングしかないぜ。まあ、探し出すのには問題ないだろ。
     接触して戦闘になれば、ルビーはチェーンソー剣とヴァンパイアの……お前らで言う所のダンピールのサイキックを使う。闇堕ちしたせいで、戦闘能力は格段に跳ね上がっているから、油断しないで取り掛かってくれ」
     ただ、とヤマトは言葉を繋げる。
    「ただ、どの道『戦闘してKO』するのは必須だが、まだ人としての意識が残っているルビーとは、剣を交える前にやる事が沢山残っているぜ。
     父親が、ダークネスとして完全に闇堕ちしてしまっていることを、ルビーはなんとなく気がついているようだ。それでも父親に会いに行くのは、目的としても手段としても、ルビー自身が取り返しのつかない悪夢(ナイトメア)に足を踏み込む原因になりかねねえ。
     現場に行けない俺が言うのもなんだが、そこのところを上手く――伝えてやってくれ。ルビーを救ってやる助けになるはずだ」
     
     集まった灼滅者たちは資料の回覧を終え、まとめてヤマトに手渡す。受け取ったヤマトは、全員の顔を見回し、その表情に決意が満ちていることに、安堵の雄叫び(ウォークライ)を上げた。
    「――嗚呼、やってくれるようだな、灼滅者(スレイヤー)! そう、やることはシンプルだ! 行って、ルビーを呪縛から解き放ってやってくれ!
     大丈夫だ、俺がずっと信じているぜ! お前らの成功を! あの子の未来を!」
     ヤマトは笑顔で腕を振り上げ、心からの激励を送った。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    七瀬・仁人(ヘマタイト・d02544)
    風見・遥(眠り狼・d02698)
    神無月・晶(3015個の飴玉・d03015)
    川原・咲夜(ニアデビル・d04950)
    龍月・凍矢(飛鳥に舞う氷の矢・d05082)
    月城・清花(小学生ダンピール・d10140)

    ■リプレイ

    ●遠き父
    「――おえ。あと、を……」
     ルビードール・ノアテレインは、着慣れた制服に身を包み、背筋を伸ばして、一歩一歩を決まったリズムで繰り出しながら、人気の少ない高架下を無表情に歩いている。その左手には、クマのぬいぐるみから生えたチェーンソー剣が、無造作に掴まれていてそれを彼女は、小さな折り畳み傘と変わらぬ扱いで持ち支え、時に意味もなく振り回しもした。
    「あと……うしろ……あしあと?」
     ルビードールはポケットから手紙を取り出し、視界に入れる。何度も何度も頭に叩き込んだのだろう、もはや視線の横断も確認の頷きもなく、宝石箱に入れる指輪のように、またポケットにしまいこむのだ。
     そんな作業を何百回繰り返しただろうか。ふと前方に意識を戻すと、八人の男女がたむろしているのが見えた。不審に思うこともなく、ルビードールは横を抜けようとすると、男女のうちの一人――神無月・晶(3015個の飴玉・d03015)が、やあ、と気軽に声を掛けた。
    「やあ。その背格好に左手の荷物、これは間違いなくそうなのだと思うけど、ノアテレイン君だね?」
     そう言ってにこにこと笑う年上の女性に対し、ルビードールの脳裏に、父親の影がよぎる。初対面の人に出会ったらどうするべきか、父の教えが、温かな記憶と共に蘇った。
    「はい。ルビードール・ノアテレイン、七才です。こんにちは」
     小学生が使うにはいささか幼い自己紹介に、同じくこんにちは、と返したのは川原・咲夜(ニアデビル・d04950)だ。今は手紙を持たず空いているルビードールの右掌に手を重ね、おどかさないように優しい口調で語りかけた。
    「お近づきのしるしに。ところでその左手のクマさん、不思議な所にいるんですね。この先で、仮装パーティでもあるんですか?」
     咲夜が手をどけた後には、袋包みのキャンディやクッキーが乗せられている。それを眺めたルビードールは、しかし不思議そうな表情で、菓子の乗った掌をそのまま裏返しにした。
     その仕種が一体どういう意味を持っているのか。ぱらぱらとアスファルトに落ちる菓子を前に、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が声を上げた。
    「お嬢ちゃん! 単刀直入に言うっす。怪物になって、『いなくなった』お父上に、お嬢ちゃん会わせるわけにはいかないっすよ!」
     え、と表情だけでギィに問い返すルビードールに、屈んで視線の高さを合わせた七瀬・仁人(ヘマタイト・d02544)が言葉を繋ぐ。
    「父親に会いたい……か。真っ当な感情だが、今は、ダメだ……」
    「だめ……て、どうして? お父さん、まってるの」
     くたびれ、色あせた赤で記された手紙を取り出したルビードールに、風見・遥(眠り狼・d02698)がゆっくりと話を始めた。
    「その手紙な。それはルビーを奈落に、誰にも手の届かない、暗くて深い嫌な場所に、ルビーを追い込もうとする罠だ。信じたくないかもしれないが、その罠を仕掛けたのは、親父さん――」
    「うそつき」
     ルビードールの一言が、それとわかる剣呑さを秘めて、しかし静かに遥の言葉を遮る。
    「それは、ゆめなの。この字の線をひとつ書くのに、一人のひとを使った、っていう、わるいゆめ。ゆめがうそなんだって、たしかめなくちゃ、いけないの」
     そう言って、手紙を大事そうにポケットにしまったルビードールの右手を、月城・清花(小学生ダンピール・d10140)が優しく制止した。
    「一つ聞かせてください。お菓子ではないなら、今は何が、美味しそうに見えますか?
     それはもしかして――清花たち、ですか?」
     問われたのは、常人ならありえないと笑われるような、ばかげた質問だ。だが一呼吸の後に、雄弁な沈黙をもって、ルビードールは答えた。
    「そうなったのは、ある怪物の影響だ。ルビードール、君の好きな父親は、君がそんな事になるのを望むような人だったのか?」
    「……あ、れ?」
     森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)の更なる問いに、首を傾げるだけの少女はやはり言葉を返さない。単語にならない発声が、時折その口の端から漏れ、その度ごとに必死に、文章にならないよう口をつぐんだ。
     優しい父親の記憶と、彼女自身を人でないものへと変性させる今の父親。その二つの間で葛藤しているのだと、龍月・凍矢(飛鳥に舞う氷の矢・d05082)はルビードールの様子から見抜き、決定的となる一言を口にした。
    「その左手の武器で、君が誰かを傷つけるようになる前に、俺たちは止めてやると決めたんだ。だからお嬢ちゃん、今の状態のまま、父親の元へ行かせるわけにはいかないよ」
    「なにを……言うの、お兄さん。ルビーは会うのよ、お父さんに」
     それは、父親には合わせないという、再度ながら彼女にとっては、自己否定されるに等しい言葉。瞬間で膨らんだ父親への思慕を引き金として、ルビードールは、とりあえず今しなければならないことに、身を任せた。
    「会うの」
     少女のチェーンソー剣が無造作に振り上げられる。

    ●少女の確認
    「それじゃ、いくよ」
     夕闇迫る高架下、きらりと目を光らせて晶がスレイヤーカードの封印を解除した。手中に現れた妖の槍を握り、大回しにルビードールのチェーンソー剣に当てようとする。
     と、回転を始めた鋸刃がまるで牙のように槍の柄に噛み付き、それをガイドとして晶へ向けて落ちて来た。とっさに握り手を緩め直撃を避けるものの、すれ違いざまの斬撃はたやすく晶の手の甲を裂いていく。
    「こっ、んの!」
     晶は空中で支えを失った槍に腕を伸ばして取り戻し、その横回転を前に振り回した。こうして更に獲得した遠心力の全てをまた槍に乗せ、恐るべきダークネスの戦闘能力を見せるルビードールにぶつけていく。
     その様子をすこし離れた場所で観ながら、タイミングを計っていた遥が動き出した。じりじりとした間合い調整から一転、弾けるような踏み込みで一気にルビードールの懐まで駆け寄る。
    「死角を貰う! せやあっ!」
     巨大なチェーンソーの影となる場所を狙った遥の一刀は、すんでの所で一歩を引いたルビードールに防がれた。だが咄嗟の動きにルビードールの姿勢は浮き足立ち、重心を体の外まで吹き飛ばされたところで、きらめく契約の指輪をはめた煉夜が歩み寄る。
    「ノアテレイン! 止まらないというのなら、俺たちが!」
     伸ばした煉夜の腕から、不可視の呪いがほとばしった。体勢を戻すのは間に合わないと判断したルビードールは、地面に残った足裏を全身のバネで叩きつけ、頭部を中心として爪先で円を描くようなトンボを切って直撃を免れる。
    「足のゆびさきが……。でも、うごけるね」
     体を深く沈めた着地から、間を空けずに状態を確認、石化の呪いも痛みもまるで意に介さずに、ルビードールが走り出した。彼女は自分のスペックを確認するように、チェーンソー剣を地に突き立てて跳躍、脚力と腕力を相乗させた高高度の前宙から、着地地点にいた凍矢に襲い掛かる。
    「……いいさ! いくらでも相手してやるぜ、お嬢ちゃん!」
     狙われた凍矢はしかしその場に構え、一瞬の交錯に全力を叩き込んだ。ぬいぐるみの中綿を撒き散らし、高速で落ちてくるチェーンソー剣の刃と刃の間に龍砕斧をねじ込んで、エンジン駆動する鋸刃を強引に止める。
     だがその時、ルビードールは握り手の作動グリップから手を離した。滑り落ちるその体を地に低く屈め、突然の力の消失に泳ぐ敵の脇腹へ、少女はその繊手を横殴りに突き込む。
    「うごける……もっと。お父さんに、近づくためなら」
     弾き飛ばされたチェーンソー剣を後ろ手にキャッチ、間合いを離したルビードールの腕には、紅い液体が面になってこびり付いていた。自分のものではない血が、中指の先から滴り落ちるのを舐め取ろうとして、
    「それだけはさせないっすよ、ルビーちゃん!」
     そこにギィが全力で切りかかっていく。ギィとルビードールが切り結んでいる隙に、咲夜が彼独特の護符揃えを開封して凍矢に放った。
    「凍矢さん! 加勢します!」
     水瓶の天使と逆さまの月を模した護符が、彼の周囲を旋回する。その内部に満ちる癒しの力を借りて、凍矢はギィに叫んだ。
    「ラフィット! 必死で係れ!」
    「了解っすよおおおぉぉぉ!」
     今のルビードールの力を確かめた戦士が出した結論だ。ギィはその言葉を至上として受け止め、燃え上がる魂に刻み付けた。
     この一撃に容赦なく、ギィの大上段がルビードールを強かに打ち飛ばす。ルビードールが肩から地面を滑り、橋脚にぶつかって仰向けになったところに、仁人がガンナイフを逆手に持って走り上がっていった。
     ルビードールの数歩手前で橋脚に向けてジャンプ、頭を下にした壁面への着地から一気に駆け下り、投げ出された少女の膝に飛びかかろうとする。仁人が反応できたのか、それともナイフの切っ先にたまたまそれが合っただけなのか、その攻撃はしかし、チェーンソー剣ではない別の何かによって遮られた。
    「今の力は……」
     着地から呟く仁人の言葉に、心底からの嫌悪感を隠さない咲夜が答える。今の一瞬、あの攻撃をいなした緋色の逆十字の正体は、一つしかない。
    「ええ、おそらくはヴァンパイアの力……。気に入らないですね、ああやって、本人の意思を無視して運命を縛ろうとする、ダークネスは!」
     咲夜の慟哭をよそに、ルビードールはゆっくりと立ち上がり、自分の中にあるその力を実感し、楽しみ始めた。これを最初に使うのなら、教えてくれた――意識させてくれた、美味しそうなあの子がいい、と。
    「……ルビーさん。あなたを――いえ、あなたに」
     ルビードールの邪な視線に気づいた清花は、両手を無防備に広げ、周囲に浮遊していたリングスラッシャーを消していく。無意識の嗜好があったのか、ルビードールは武器ではなく己の腕にオーラを宿し、清花を貫きにかかった。
    「教えてあげます。この力の、怖さを」
     首筋を裂き開く貫手に構わず、清花はルビードールをその体で受け止めると、己の両腕と現出させた赤い光輪とで、その小さな背を抱き締めて微笑んだ。

    ●これまでとこれからの間で
    「……清花も、本当はあなたと同じです。けれど、おかあさまに頂いたこの力であなたの生命を奪って、それでどうして、美味しいなどと感じてしまうのか、清花は怖くてたまらないです。
     できればあなたにも、この強いけれど暗い力の怖さを知ってもらいたいです。――どう、感じていますか?」
     ルビードールは清花の胸を突き飛ばし、離れた。新しくできた背中の傷は浅く開いたままで、どうにかそれを塞がないといけないのに、その為に誰かを食べることが、何故かとてもいけないことのように思える。
    「う、うう……あああ!」
     あの子の言う通りだ。怖い。読み聞かせてもらったおとぎ話の怪物のように、自分がなってしまうことが、怖い。
    「そうそう。人から無理に奪うなんてことに、もし迷いがあるんだったら、……止めとけよルビー。な?」
     刀を一旦納め、長めの髪を手櫛で撫で付けた遥が笑う。咲夜もまた、先ほどまでの不機嫌とは一転、笑顔で少女に語りかけた。
    「自分の本当の気持ちに、隠された『したくない』があるのなら、ルビーさん、どうか私たちに教えてください」
     手助けをすると、差し伸べた咲夜の指先に、ルビーの絶叫が触れる。
     涙と共に放出された魔力の霧が、ルビードールを包み始めた。迷いを、この辛さと痛さを忘れるために、自分をなくしてしまおうという、最後の抵抗だ。
    「あああ、会いたいよぉ! でも、こわくて! どっちを……わたしは、ああ!」
     泣きながらルビードールはチェーンソー剣を掴み揚げる。やたらに振り回されるそれを、晶と凍矢の二人がそれぞれの槍で抑えにかかった。
    「僕たちを殺すことにためらいがあるなら、今はここで踏みとどまって欲しいよ、ノアテレイン君。その為に、僕たちが来たのだから」
    「その力の使い方を間違えるな! 君をそうさせようとする、闇なんかに負けるな! 俺たちがついていてやるから!」
     数度の打ち合いの後、二人は同時にチェーンソー剣を上から叩き、地面に噛み付かせた。予想しない衝撃にルビードールが手を離してしまったところを、狙い済ました煉夜のオーラが狙撃していく。
    「その武器を置くんだ。お前の後先考えない大暴れで、いったいどれほどそのクマが痛めつけられたか、わかっているのか!」
    「――え。いま、エメリーが、なん、て……」
     煉夜に叱り付けられたルビードールが、たった今知らされた、というような驚愕の表情と共に、手放したチェーンソー剣の刃元を覗き込んだ。
    「やあ……エメリー、エメリー! なんで、どうして、誰がこんなこと……!」
     半狂乱になって、少女は大切なクマのぬいぐるみを抜こうとする。だが、僅かに動かしただけでも破れが広がっていくので、結局は何も出来ずに、ただそれを見つめ、泣き喚くことしかできない。
    「気づいていなかったのか? ――いや、そういう余裕も、奪われていたのか」
     忌々しげに頭を振る煉夜。その横に並び立ち、後衛からルビードールの動きを観察していた仁人が、警戒を半ば解いて少女に語りかけた。
    「お前じゃないとしたら、やったのは父親だろう……。そんなことを平気でする化け物に、お前はならなくて済むからな……」
    「おとう、お父さん……? ほんとうに、そんな、そうなの……ね」
     犯人は父親だと聞かされて、ここにきてついに、ルビードールは誤解を悟った。涙を拭い、それでもしゃくりあげながら、七才の女の子は一つだけ、お願い事をした。
    「――やだよぅ。やだから、おねがい」
     助けて。
    「はい! 不肖ギィ・ラフィット、承りましたっす! お嬢ちゃん、あんたの旅路は、ここで終わるっすよー!」
     大旋風を引き連れて、無敵斬艦刀を振り回すギィが、しかし優しくルビードールの眉間を柄頭で小突く。その十分な威力の攻撃は、ルビードールの意識を内側深くへと誘い、同時に内部に巣食っていたダークネスに、回復不能の致命傷を与えた。
    「お友達になりましょう、ルビーさん。まずは清花と、ここにいるみんなの八人で。それから――」
     内部のダークネスを灼滅され、倒れていくルビードールに、清花が手を振りながら言う。その言葉を継いだのは、並み居る灼滅たち全員の、歓迎の言葉だった。
    「武蔵坂学園の、全員と!」

     チェーンソー剣を頭上に当て、横向きに倒れこんだルビードールの淡い視界には、いつの間にかクマのぬいぐるみの姿があった。
    「――おさいほう」
     今の衝撃と自重とで落ちてきたのか、その身は縦横に大きく裂かれていて、それでもなお、守るように腕を少女の鼻の上に腕を乗せてきている。
    「できるようになるからね、エメリー」
     もう心配ないよ、と、ルビードールは言葉にできないながら、確かに伝えたのだった。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 5/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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