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週末の昼時。様々な客で混雑するショッピングセンターを、一人の女が闊歩していた。
タンクトップにデニムのパンツという涼しげな姿は、一見すると暇を持て余した女学生といった様子だが――。
「いやぁ、六月だってのにもう夏本番ね。雨すら降りゃしないから暑いったらないわ」
こう暑いと、屋内に籠もりたくなるわね――そんなことを呟きながら、女はおもむろに、すれ違い様の家族連れへと手刀を見舞った。
「ま、雨が降ったら降ったで鬱陶しくて籠もりたくなるんだけどね、てへ」
あまりに自然な動作だったので、その凶行の一瞬は誰の目にも留まらなかった。だが次の瞬間、親子は首から鮮血を迸らせながら、その場に倒れ伏す。
刹那の静寂のあと、周囲へと伝播していく恐慌。逃げ惑う客たちだが、ダークネス――六六六人衆から逃れることはかなわない。
瞬く間に距離を詰め、一人また一人と客を手にかけていく女。そして一頻りフロアを血の海に変えると、満足したのか血塗れの手をハンカチで拭う。
「はぁ、スッキリした。帰ってシャワーでも浴びますかね」
女はハンカチを放りつつ、死の静寂に包まれたショッピングセンターをあとにするのだった。
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「諸君、六六六人衆による新たな事件だ」
教室へとやってきて、そう切り出す宮本・軍(大学生エクスブレイン・dn0176)。
「六六六人衆に対してサイキック・リベレイターが使用されたのは知っているな。それにより、奴らが起こす殺人事件について、より精緻に予知できるようになったのだ。
もっともサイキック・リベレイターの影響により、元より強敵だった奴らは、更に強化されている。そこで今回は、厄介な連中を確実に灼滅するための二段構えの作戦を行うぞ」
軍によるとこの作戦は、精密な予知で『六六六人衆の戦闘後の撤退先』まで割り出せるようになり実現したという。
そして軍は、予知された事件と作戦の概要について説明する。
「まず第一のチームが、そのショッピングセンターにて殺人を阻止しつつ、六六六人衆と交戦。敵を撃退するか、あるいはある程度のダメージを与えたところで撤退してほしい。
続く第二のチームが、負傷して撤退する六六六人衆へと追撃をかけ、止めを刺す――という手筈だ」
そしてこの場に集められた灼滅者たちは、第一のチームだという。
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「諸君らは、敵が一般客を手にかける直前に接触し、客を救出しつつ戦闘を開始してくれ。つまり普段の依頼とそう変わらない段取りだな」
敵である六六六人衆は、その場の一般人を皆殺しにするのが目的ではないらしい。そのため灼滅者たちが現れれば、一般人から注意を逸らすことができるだろう、と軍は言う。
「戦闘が始まれば一般人は自ずと避難するだろうが、戦闘の余波に巻き込まぬよう、積極的な誘導や支援は必要かもしれないな。
それとこの敵は、一般人に対しては徒手だが、本来の得物は断斬鋏のようだぞ。諸君には遠慮なく使ってくるだろうから、注意してくれ」
現在の六六六人衆は、サイキック・リベレイターの影響でより強力になっている。今回の敵も、一度の攻撃で灼滅することは困難だろう。
そのためこの依頼は、後続の仲間が確実に仕留められるよう、できるだけダメージを与えたうえで帰還するのが基本的な方針となる。
「相手は強敵だが、所詮は単独。そしてこちらには、背を任せられる仲間がいるのだ。必ず灼滅へと繋げることができるだろう」
軍の激励を受け、灼滅者たちは行動を開始した。
参加者 | |
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椿森・郁(カメリア・d00466) |
森田・依子(焔時雨・d02777) |
天峰・結城(皆の保安官・d02939) |
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
東雲・菜々乃(本をください・d18427) |
リアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549) |
神鳴・洋(アニソンラバー・d30069) |
ラプラエロ・クロス(高校生サウンドソルジャー・d37566) |
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予知の現場であるショッピングモールへとやってきた灼滅者たち。まずはフロアの中を探索して、ダークネスらしき人物を探す。
「……この通路は少し行けば出口が見えてきますね。戦闘が始まったら、一般客はこちらへ誘導するのがいいかもしれません」
敵を探しながらも施設内の構造も観察し、避難に適した経路を仲間へと耳打ちする天峰・結城(皆の保安官・d02939)。
「そうですね、天峰先輩。さっきの道はフロアガイドによると出口に近いですけど、実際は陳列棚とかのせいで入り組んでるみたいですし」
結城の言葉に、椿森・郁(カメリア・d00466)が応じる。事前に施設内のマップでも避難経路の検討をつけていた彼女だが、実際の様子はこうして目にするのが一番である。
「あんまり面倒な道だと、パニック状態の客は迷うかもしれないしな。少々距離があっても分かり易い方に誘導するのが良さそうだZ!」
神鳴・洋(アニソンラバー・d30069)も賛同しつつ、雑踏の中から敵を見付けるべく油断なく見回している。
そうして彼らは、伝え聞いた風貌の女を発見した。灼滅者である彼らには、その女が強力なダークネスであることははっきりと分かった。
敵に気取られぬようただの友人連れを装いながら、灼滅者たちは距離を取って様子を窺う。
きょろきょろと周囲を見やっていた女は、予知の通り親子連れに目を付けたのか、ゆらりと家族へと近付いていった。
そして手刀を見舞うべく腕を振り上げるダークネス。――そこへ、森田・依子(焔時雨・d02777)が割って入った。
「させないわ。そんなに暴れたいというなら、私たちが相手よ」
敵の腕を掴んで動きを封じる依子。女は、突然の敵襲に瞠目する。
「こんにちはおねーさん、お手をどうぞ。お暇ならお相手くださいな」
飄々とした口調で言う郁。容易ならざる相手ではあるが、不安な心を見せるわけにはいかない。
「……あら、灼滅者の登場とは予想外ね。でも確かに、アンタたちの方が楽しめそうだわ」
ニヤリと笑みを浮かべながら、眼前の依子へと殺気を向けるダークネス。
「暑いのが嫌で涼を取りに来たようですが、それなら恐怖体験などどうですか?
冷や汗で死んでしまうほど、涼しくしてあげますよ――私たち、みんなでね」
敵の背後から、獣と化した片腕で斬り付けるリアナ・ディミニ(絶縁のアリア・d18549)。女はその攻撃を防ぎながら、依子の拘束を振り解き飛び退いた。
そんな尋常ならざる攻防を目にし、周囲の一般人へと狂騒が広がっていく。彼らを守るように、女を取り囲む灼滅者たち。
「姐さん、お邪魔するZ!」
殺気で一般人を遠ざけながら、言葉で敵の注意を引く洋。
「ここは危険です。速やかに避難を、できる限り遠くへ!」
そして依子は、敵と真正面から対峙しつつ、周囲の一般客へと声をかける。
「皆さん。あちらが安全ですよ、落ち着いて逃げて下さい」
結城も王者の風を振り撒き、確認しておいた経路へと誘導する。
「――さぁさ、死出の旅路へご案内や!」
スレイヤーカードから、得物を解放する小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)。手にはナイフ、足元からは影の刃が出現する。
郁も足元から、郁子を模した蔓状の影を展開して戦闘に備える。
他の灼滅者たちも、各々の武器を構えた。
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「やっぱ灼滅者ってのは、人間を守りたいもんなのねぇ。
ま、そう心配すんなっての。その辺の雑魚より、アンタらの方がぶっ殺し甲斐がありそうだしね!」
虚空から断斬鋏を取り出した女は、眼前の依子へと斬り掛かった。敵の無造作の一撃を、鈍色の硬貨から展開させたシールドで防ぐ依子。
「なんて重い一撃――でも上等です。放たれたリベレイターの結果で、命の危険を増やすわけにはいかない!」
盾で攻撃を食い止めつつ、もう一方の腕を獣へと変貌させ、鋭い斬撃を見舞った。
そして後衛の東雲・菜々乃(本をください・d18427)が、すぐさま依子へと光輪を放って守護する。
(「ここで消耗させなければいけない作戦ですからね。変に余裕があると見えたら悟られますし、私たちで倒す勢いでかかるのです」)
どの道、余裕のある相手でもないですし――そう胸中で呟きながら、気を引き締める菜々乃。さらに彼女のウイングキャット『プリン』も前衛に加勢すると、敵の動きを封じるべく猫魔法を放った。
「一般人への関心が失せたとは言うが、盾にでもされたら厄介だからな。そこで大人しくしていろ」
敵の背後へと素早く回り込んだ結城。死角から斬り付け、敵に足止めをかけた。
さらにリアナも、敵に反撃の機を与えぬよう攻め立てる。ダイダロスベルトを続け様に射出し、敵を翻弄する。
敵はリアナのベルトを、全て紙一重のところで躱してのけた。
だがそこへ、郁のガンナイフから追尾弾が見舞われる。
「――ッ! やるねぇ!」
灼滅者たちの続け様の攻撃を受け、女は思うように行動ができないでいた。しかしそれでも、敵は愉快そうな笑みを崩さない。
「さあ、粗方の人間どもが逃げるだけの猶予をあげたんだから。ここからは、もっと本腰入れてかかってきな!」
そう言うとダークネスは、漆黒の霧と化した殺気を周囲へと振り撒いた。猛烈な濃霧が、前衛の灼滅者たちを蝕む。
「……っ痛ぁ。でも負けない!」
霧に蝕まれながらも、歌声で反撃をかけるラプラエロ・クロス(高校生サウンドソルジャー・d37566)。
「油断大敵だZ! 姐さんよ!」
後方に控えていた洋が、敵の背後から指輪を突き付ける。その手から放たれた魔法の弾丸は、狙い過たずダークネスへと見舞われた。
同じく殺気の外にいた小町も、素早く敵に肉薄する。刃を歪に変形させたナイフで、敵に更なる傷を刻んだ。
「一撃でも多くねじ込むために、倒れないわ。私も、誰も」
仲間たちの盾である依子は、濃密な殺気を受けても怯むことはない。純白の時計草があしらわれたサーベルを振い、前衛の仲間全体へと癒しの風を吹かせた。
プリンも、尻尾のリングを光らせて前衛たちを治療する。そして負傷の度合いが大きい者は、菜々乃が光輪を付与して防御力を高めた。
「治療をしてもらったんだ、その分は働きで返させてもらう」
チェーンソーを唸らせながら、敵との距離を詰めた結城。回転する刃がダークネスを斬り裂く。
「私も、攻め手としての役目を全うしませんとね」
ダメージをものともせず、槍による螺旋の一撃を繰り出すリアナ。
「ちぃっ、ちょっとは痛がりなよ可愛げのないこと!」
怯みもしない灼滅者たちの様子に、若干表情を歪めるダークネス。しかし敵には、まだ余裕があるようだった。
「そうそうやられるほど、あたいらは甘くないで!」
そう言い放ちつつ、影の刃で斬り付ける小町。だが顔には出さないが、死の気配に聡い彼女である。現状はこちらの分が悪いことに気付いていた。
郁もまた、敵の底知れなさに僅かに戦慄する。しかし決して余裕の表情は崩さない。赤い瞳をギラリと輝かせながら、郁子の葉の如き影を敵へと見舞う。
続け様に影の刃を受け、敵の動きが僅かに鈍った。その隙を逃さず、死角に回り込んだ洋が煌めくシューズで蹴りつける。
ラプラエロもウイングキャットと共に、敵をサイキックで攻め立てる。
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そうして灼滅者たちは、数の利を生かしながら、連携して着実に敵へとダメージを与えていった。
「私の役割は、護ること。だから絶対に倒れない!」
最前線に立ち、幾度も敵の鋏をその身に受ける依子。植物の枝葉の如きダイダロスベルト『燦翠』の鎧を纏い、仲間の盾に徹する。
「今までやられてきましたが、今回ばかりは私たちがやり返しますよ」
菜々乃はサーヴァントのプリンに守護を任せ、後方でひたすら仲間たちの傷を癒やし続ける。
結城もウロボロスブレイドで自らの守りを固めながら、隙を見てチェーンソーの斬撃を見舞い、敵の動きを鈍らせていく。
そしてリアナは、後衛の仲間を信じて攻め手に徹していた。たとえ負傷しようとも、回復のためにと手を止めることはなく、ひたすらに攻撃を仕掛け続ける。槍とダイダロスベルトのサイキックで自らの能力を高めながら、痛烈な一撃を叩き込んでいった。
それでも敵は、倒れることはない。
「なかなか耐えるね、アンタら。お陰で随分楽しめたけどさ、そろそろ限界近いんじゃない?」
「――っく!」
鋏による鋭い斬撃が、依子を燦翠の鎧ごと斬り裂く。その切れ端を得物へと食らわせ、自らの血肉へと変えるダークネス。
負傷した依子のもとへ、すぐさま注射器を手にした小町が駆け寄る。
「……ああ言うても、向こうもダメージは蓄積しとるはず。辛抱や」
時に攻撃、そして時には回復と、巧みにサイキックを使い分ける小町。そうした仲間同士の連携によって、なんとか戦線は維持されている。
「なら、せいぜい仲良しこよしで頑張りな! じっくり一人ずつ削り殺してあげるわ!」
鋏を振り被るダークネス。その一撃を、ナイフで受け流す郁。赤い瞳で敵を見据えながら、至近距離からサイキックソードの刃を射出する。
「――ッチィ」
郁の光刃を受け、僅かに苦悶の顔を示しながら飛び退く敵。そこへ背後から、洋が上段斬りを見舞う。
さらにラプラエロの歌声による攻撃も加わり、ここに来て女は焦燥のような表情を見せた。
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切り裂いた対象を食らう断斬鋏の能力により、攻撃と回復を同時にこなすダークネス。
それに対し灼滅者たちも、次第に癒やし切れぬ傷を負いながらも、なんとか食い下がっていた。
そしてそんな灼滅者たちに対し、敵も決め手を見出せないでいた。
「しつこいね、アンタたち! ここらでいい加減くたばりなよッ!」
怒声と共に、濃密な殺気を噴出するダークネス。前衛をまとめて飲み込む膨大な殺気へと、シールドを展開した依子が立ち塞がった。
仲間たちを守るべく、猛烈な瘴気をその身に引き受ける依子。蓄積したダメージが限界を迎えたのか、遂にその場へ昏倒する。しかし彼女の奮戦によって、未だ他の仲間たちは健在であった。
(「とにかく回復です。こちらがこのまま、ここで勝負を付けようとしてると思わせないと……!」)
無事な前衛へと清めの風を吹かせ、建て直しをはかる菜々乃。彼女のサーヴァントのプリンも満身創痍ながら、リングを光らせ仲間の傷を癒やす。
「これでも一人眠らせたくらい……ね。まったく往生際が悪いこと」
渾身のつもりの一撃すら凌がれ、いよいよ余裕がなくなった様子のダークネス。そこへ、仲間たちが決死の猛攻を仕掛ける。
炎を纏ったエアシューズで、鋭い蹴りを見舞う結城。さらに延焼した炎が、敵を蝕む。
郁も刃の如き風を吹かせ、敵を四方から斬り付ける。ほんの僅かに、敵が怯む。
その刹那の隙を逃さず、指輪による魔力の弾丸を浴びせる洋。
魔力を受け、動きの鈍るダークネス。そこへさらに、リアナの槍から放たれた冷気が襲い掛かる。
ラプラエロとサーヴァントもサイキックを浴びせ、さらに生じる効果で敵の動きを妨害する。
「――ほら、こっちはまだまだやる気十分で!?」
そして続け様の攻撃に翻弄される敵へと、ナイフの斬撃で畳み掛ける小町。
(「そうは言っても、さすがにこれ以上は保たんで、どうする……!?」)
満身創痍の様子の仲間たちを背に、敵と対峙する小町。仲間たちも、各々戦意を振り絞って敵を見据えている。
そんな彼らに対し、ダークネスは――。
「……ふん、アタシはもともと面倒なのは嫌いなんだ。もういい加減疲れてきたし、今日はこの辺で勘弁してやるよ」
女は苦々しげな顔で呟く。そして次の瞬間、女の姿はその場から消え失せていた。
このままやっても負けはしないが、自分も無傷では済まないだろう――そう判断したのかもしれない。実際のところ、既に勝敗は決しつつあったのだが、それでもこの場を凌いだ時点で、灼滅者たちの勝利である。
「なんとか退いてくれましたか。完全に空元気でしたが、少しはハッタリが利いたんでしょうかね」
汗を拭いつつ、誰にともなく呟く結城。
「逃がす訳にはいかへんけど、あたいらができるのはここまでやな。あとは向こうに任せよ」
この場で倒し切れなかったことで、若干悔しそうな様子の小町。
「相手には、まだ幾分余裕があったようですね……。私たちの働きは、十分だったのでしょうか」
そういうリアナは、傷だらけの自身を気にかけることもなく、ただ後続の仲間を心配している。
「でも、こうして撤退するくらいには焦っていたのです。きっと大丈夫ですよ」
昏倒した依子を介抱しながら、リアナに応じる菜々乃。
「うん、私たちはやるだけのことをやったんだし、あとは信じるしかないよ。みんな、お疲れ様」
仲間たちを労いつつ、携帯で何処かへと連絡する郁。
「――それじゃ、あとは任せた」
その相手は、敵を追撃するチームのメンバーである。
敵が撤退した旨を伝え、そして彼らへと灼滅を託したのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年7月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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