迷宮、カチコミ、六六六人衆

    作者:のらむ


     とある日の深夜。赤い水晶が散りばめられた迷宮に、4人の少年少女達が足を踏み入れた。
     正確に言うなら、つい先日まで少年少女だったもの。闇堕ちし、六六六人衆となった者達である。
     彼等は目の前に立ち塞がるアンデッド達を蹴散らしながら、回廊を突き進んでいた。
    「クッソ弱くて笑えてくるぜ! なんだよこの雑魚共は!! もしくは俺様超強すぎじゃねぇ? 死体如きが俺様に刃向かうなっつーの! 生きてる奴もだけどな!!」
     アンデッドの脳天に突き刺した肉切り包丁を引き抜き、返り血を浴びながらヘラヘラと笑みを浮かべた学ラン姿の男の名は、アッシュ。
     顔と態度がムカついたから、という理由で教師をナイフで刺殺し、闇堕ち。その後同級生や自らの家族を惨殺した元中学2年生である。
    「グアァアアアアア!! コロス!! コロス!! ……ア、コイツラモウシンデタッケ」
     アンデッドを地面に引き倒し、全身がグシャグシャに潰れるまで拳で殴り倒した男の名は、ボーグ。
     いかめしい熊の面を被り、熊の毛皮のコートを羽織ったボーグは、過去に片思いの相手が他の男と付き合った事に激怒し、2人まとめてバットで撲殺。そして闇堕ちした。
     その後2人の身体が完全に壊れるまで、笑いながらバットを振り下ろしていた、という経歴を持つ元高校2年生である。
    「ちょっと! そんな雑な殺り方するからこっちにまで返り血飛んできたじゃない! この服、イケメン10人殺っちゃった記念で買ったお気に入りなのに……殺る時はこう、もうちょっとスマートに殺って頂戴!」
     おおよそ戦場には似つかわしくないブランド物のファッションに身を包んだ女が、鋭い回し蹴りでアンデッド達の首を纏めて刎ね飛ばす。
     この女の名は、ケイト。殺して自分だけの物にしたい位イケメンが好きだったこの女は、その感情を抑えきれず殺っちゃった結果、やはり闇堕ち。今でもイケメンに対する執着は変わらず、出来れば毎日イケメンを殺っちゃいたいと豪語する元高校2年生である。
    「眠い……どうせ殺すんだから、スマートとかどうだっていいじゃん……ミャアちゃんもこんな腐った死体食べてもおいしくないって言ってるし……さっさと終わらせてここから出ようよ……」
     継ぎ接ぎだらけの猫のぬいぐるみを抱えたパジャマ姿の少女の足元から、巨大な猫の形をした影が伸び、アンデッド達の身体をバラバラに引き裂いては、食い散らかしていく。
     この少女の名は、ディア。家族よりも大切な唯一の友達、猫のぬいぐるみのミィを、何かしらの理由で怒った両親の手によって引き裂かれた結果、ショックで闇堕ち。
     元々好きでも無かった両親をぬいぐるみと同じ目に合わせてやった後、新しい友達のミャアと共に、楽しい殺戮ライフを送る元小学5年生である。
     彼等新人六六六人衆4人組は、防御を顧みぬ凄まじい攻勢で、一気に迷宮の最深部、ノーライフキングの居所まで辿り着き、勢いのまま扉を吹き飛ばし中へ押し入った。
    「よお! 根暗引きこもり水晶野郎! 早速だが死ね!!」
    「コロス!! コロス!! コロス!! ガァアアアアア!!」
    「水晶にイケメンもクソも無いじゃない……あーあ、テンション下がるわ」
    「ミャアちゃん、水晶も食べれるかな?」
     呆気に取られているノーライフキングが粉々に砕け散るまで、あと数分。


    「賽子の目が導き出した情報によると、暗殺武闘大会決戦で闇堕ちした久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)さんがどうやら動いているみたいね」
     遥神・鳴歌(高校生エクスブレイン・dn0221)は、教室に集められた灼滅者達を前に、説明を始める。
    「翔さんはどうやらミスター宍戸の計画に協力してるみたいで、ミスター宍戸プロデュースによって闇堕ちした小中高生を引率して、残存するノーライフキングの迷宮の探索訓練を行わせているらしいわ」
     探索を行う小中高生は、六六六人衆になったばかりだが、サイキック・リベレイターの効果もあり、ノーライフキングの撃破は問題なく成功するらしい。
     彼らが経験を積み成長すれば、有力な敵になる可能性は高いだろう。
    「そうなる前に皆には、彼らがノーライフキングを撃破して意気揚々と迷宮から出てきたところを、奇襲して灼滅してほしいのよ」
     六六六人衆達は完全に油断しているので、最初の1分は一方的に攻撃できる奇襲という形になる。
     更に、ノーライフキングの迷宮の戦いでの消耗もある為、敵の数は多いが勝機はあると思われる。
    「戦場になるのは迷宮の出入り口、とある廃ビルの地下室よ。皆はそこで奴らを待ち伏せ、姿を表した所で奇襲を仕掛ける形になるわ」
     姿を現す六六六人衆は4人。それぞれ名前をアッシュ、ボーグ、ケイト、ディナという。
    「本名は全員不明だけど、今はそう名乗っている。彼等は揃いも揃って攻撃的な戦闘スタイルみたいで、当然の如く全員ポジションはクラッシャー。火力馬鹿と言って差し支えない凄まじい勢い、殺られる前に殺るの精神で、猛攻撃を仕掛けてくるわ」
     迷宮での戦闘により、全員が2割から4割程度の殺傷ダメージが溜まっていると思われるが、そんな事はお構いなしに彼等は特攻を仕掛けてくるだろう。
    「更に悪い事に、戦闘が長引いた場合、彼等の引率者の翔さんが救援に現れる可能性があるわ」
     久遠・翔は強力な六六六人衆である為、救援されると勝ちの目はなくなると鳴歌は断言する。
    「幸い翔さんは皆の撃破よりも新人の回収を優先するから、無理に戦わず撤退すれば危険は無いわ。救援が来る前に、可能なら全滅、そうでなくてもなるべく多くの六六六人衆を灼滅して頂戴」
     敵は新人とは言え、リベレイターの効果を受けた六六六人衆。しかも4体。戦闘の難易度は非常に高くなるだろう。
    「新人六六六人衆は、闇堕ちしたばかりだから説得して救出する事も……理屈としては不可能では無いんだけど、彼等は全員元の人間性が六六六人衆に近いらしいから、説得はとても、とても難しいわ」
     そこまでの説明を終え、鳴歌は改めて灼滅者たちと向き合った。
    「これで私の占いの情報は全部。今回翔さんを灼滅或いは救出するのは不可能だけど、彼が目的を達成した後なら、なんらかの隙ができるかもしれないわね……まあなんにせよ、気をつけて。奴らの勢いに負けない戦略もしくは勢いで、勝利を掴み取ってきてね」


    参加者
    刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)
    虚中・真名(蒼翠・d08325)
    香坂・颯(優しき焔・d10661)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    三和・透歌(自己世界・d30585)
    蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)

    ■リプレイ


    「何よコイツ、今のでもう死んじゃった訳?」
    「トロくてマヌケで貧弱とか、ホント救いようねぇな!」
    「熊のフリしてた癖に弱っちいね……」
     それは一瞬の出来事だった。
     ノーライフキング狩りを達成した新人六六六人衆が、愚痴を言い合いながら迷宮の出口に姿を表した時。
     恐らくボーグが灼滅者達の存在を認識するよりもずっと早く、そして速く。
     一斉に放たれた灼滅者達の攻撃が、ボーグを一瞬にして斬り裂き、叩き潰し、殴って蹴って貫いて……そして魂を砕いたのだ。
    「はい、ルーキーの皆さん今晩は……っと。まだ生きている様ですね」
     大量の血を吐きながら床に倒れ伏したボーグに、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)の追撃の弾丸が突き刺さる。
     直後、瀕死のボーグはまさに獣の如く跳躍で跳び、咆哮する。
    「グァアアア!! キサマラ、ユルサン!!」
    「奇遇だね、僕もだよ。子供相手がやりづらいだとか、そんな事を言うつもりがない程度にはね」
     殺気を纏ったボーグの突進を香坂・颯(優しき焔・d10661)が正面から受け止め、その顎先に炎の拳を叩き込む。
    「まぁ、後始末をしてもらえると考えれば悪くないのかもしれないが……それでいたずらに数を増やされても困るから、な。奇襲でも何でもかけさせてもらう」
     よろけたボーグの背を、刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)が投げ放つ7つの刃が切り刻む。
    「…………これで、終わりです」
     血塗れのボーグ目掛け、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)は槍を突き刺した。
    「……!!」
     ボーグは声も発せず再び倒れ。そして息絶えた。
    「使えないわね。役立たずで非イケメンとか、そもそも生きる価値無かったのよ」
     グシャリ、と。死体となったボーグの頭を踏み砕き、ケイトが吐き捨てる。
    「……言うまでもない事だが。お前たちも直にこうなる予定だ」
    「コイツと一緒にすんじゃないわよ甲冑野郎」
     交差して放たれたケイトの蹴りと、蔵座・国臣(殲術病院出身純灼滅者・d31009)の斬撃。
     鳩尾を蹴られた国臣がライドキャリバー 『鉄征』諸共吹き飛ばされる。が、ケイトは一寸遅れて自身の右腕が斬られている事に気づき、舌打ちする。
    「ていうかアンタら何なのよ……まさかこれも訓練の一環とでも言うつもりかしら」
    「まさか。殺すことを楽しむ貴方達に手助けなんて、狂っててもしませんよ」
     虚中・真名(蒼翠・d08325)は国臣の傷を霊力で癒やす。
    「これは実践ですよ。育てる気じゃなく、終わらせる気で来ました」
    「……危険な、芽は、早々に、摘んでしまわないと、ですね」
     神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が放った帯が、ケイトの右足を抉り切る。
    「危険なのはどっちもどっちだっつーの!!」
    「この場に1人も人間は居ないしね……ってミャアちゃんも言ってる」
     アッシュとディアの斬撃が、三和・透歌(自己世界・d30585)目掛け放たれる。初撃が透歌の肩を掠め、
    「新人と言っても、流石に当たると痛いですね」
     透歌は地面を杖で軽く突くと、迫る猫の影を爆風で吹き飛ばした。
     新人六六六人衆、残り3人。


    「ああもう、私はこんな埃だらけの場所にこれ以上用は無いのよ! 私にはイケメン殺しライフが……」
    「賑やかなのは結構だけどね。まだ平穏無事に帰れるつもりなら、ちょっと呑気が過ぎるんじゃないかな?」
     ケイトが放つ炎の連続蹴りを凌ぎながら、颯がそう投げかける。
    「殺人という超えちゃいけない壁を超えた以上、お仕置きは受けて貰うよ」
    「うっさいわね! イケメンだからって何でも許すわけじゃな」
    「後ろガラ空きだけど、大丈夫?」
     ケイトには振り向く隙も無く。背後に回り込んだ颯のビハインド『香坂綾』が霊力を纏わせた一撃を放つ。
    「ありがとう、姉さん」
     ケイトの体勢が崩れた所に、颯が炎の刃を横薙ぎに振るう。身体を斬られ燃やされながら、ケイトは地面に叩きつけられた。
    「痛いって、この……!!」
    「悪いですけど、痛いのはまだ続きます」
     目を剥き立ち上がろうとした所に透歌の魔力の弾丸が降り注ぎ、ケイトは膝を付く。
    「痛いだけでなく、痺れるのもですよ」
     そこに機を合わせ真名が構築した結界が、ケイトの全身を包み動きを封じる。
    「ああもう、うざったい!」
     吐き捨てるケイトの足元に、暗く巨大な影が忍び寄る。颯の影だ。
    「反省している素振りも無いしね。これ以上の殺戮はさせないよ」
     颯が言うと、影はうねり拡がりながら、ケイトの全身を飲み込んだ。
    「気持ち悪い……こんなモノ、見せんじゃないわよ!!」
     影から這い出たケイトは、見せられた悪夢を振り払う様に頭を振り、叫んだ。
    「……ごめんなさい、ボク達は、これ以外に、方法を、知らないんです」
     蒼の灼熱の蹴りが放たれる。咄嗟に傷を負った右腕で蹴りを受け止めたケイトは、そのあまりの痛みに歯ぎしりした。
    「チョコマカと……女でうざいとか最悪よ!!」
    「お前も大概うざいけどな」
    「確かに……あ、今のはミィちゃんが」
     六六六人衆達は更なる連撃を畳み掛ける。その攻撃は予知通りとても激しいものだった。
    「だが、まだ倒れん」
     国臣は鉄征を乗りこなし、多くの攻撃を受けながらも機銃で応戦していた。
     その銃撃の隙間をくぐり抜け、蒼は再びケイトに迫る。
    「……あなたも、もっと、早く、出会って、いたら、灼滅者に、なって、いたの、かも、しれない、のでしょうか」
     蒼が放つ飛び蹴り。ケイトはそれに対し、真正面からの蹴りを打ち込み、相殺した。
    「まるでそれが良い事みたいな言い方ね? 私は今の私で満足よ」
     ケイトは右足に力と殺気を込める。得意の回し蹴りで、蒼の首を刈り取る為に。
    「……ッ!!」
     咄嗟に身を逸らした蒼の鼻先を、ケイトの暴力的な回し蹴りが掠める。後一瞬遅れれば、無事では済まなかっただろう。
     しかし蒼はこの攻撃の空振りをチャンスと捉えた。片腕を鬼の如く変化させ、大きく振り上げた。
    「……ここ、です」
     振り下ろされた鬼の拳が腹を打ち、ケイトの身体は轟音と共に壁に叩きつけられた。
    「痛い……ああ、嫌な気分……なんで私ばっかり狙われるのよ」
    「当然の戦略……どうやら貴女達の引率者は、あまりいい教育係ではなさそうね。血気盛んすぎて、戦略がない」
     晶は瀕死のケイトを目標に据え、リングスラッシャーを分裂させる。
     それと同時に晶のビハインド『仮面』が、レイピアを携えケイトに迫る。
    「チームでこられたら、こうやってやられるだけ」
    「……チッ!!」
     多方向から繰り出される斬撃にケイトは対応できず、全身が浅く切り裂かれる。
     そして傷を負い集中が途切れた一瞬で、『仮面』はケイトの心臓に刃を貫通させた。
    「ゲホッ!! クソ、本当に死んじゃうじゃない!」
     ケイトは再び蹴りを放つ。しかし多くの傷を受けたせいか、その動きは幾らか鈍って見えた。
    「そうね、次はうまくやれば……でも、貴女達に『次』って無いでしょう?」
    「何を言って……!!」
     晶は大鎌で勢い良く空を斬る。すると空間化ら無数の刃が召喚され、幾百とケイトに突き刺さった。
    「ア……ああ、死んだわこれ……まあイケメンに殺されたなら、そんなに悔いは……」
     刃の山に埋もれたケイトはそう言って、広がる血溜まりの中に倒れた。
    「いや、私は……まあいいか。もう死んだ」
     新人六六六人衆、残り2人。


    「役立たず2号が死んだな」
    「3号はどっちになるだろうね……」
    「死ぬ前提かよ」
    「だってもう正直勝ちの目薄くない? ……ってミャアちゃんが」
     残された新人アッシュとディア。2人はペースを緩めず攻撃を仕掛け続けていた。
    「つーかお前まだ生きてんのかよ! どんだけしぶといんだコラ!!」
     アッシュは未だ倒れない国臣に目をつけ、肉切り包丁片手に襲いかかる。
    「それは褒め言葉か?」
    「さっさと死ねっつー意味だよ!!」
     国臣を狙い放たれた斬撃は、僅かに逸れてライドキャリバー『鉄征』に直撃。
     直後、国臣は鉄征のアクセルを全開にし、近付いたアッシュを思い切りはね飛ばした。
    「これを使うか」
     そう呟き、国臣は超宇宙的リングスラッシャー『UFOスラッシャー』放つ。
     味わい深い色合いに変化し続けるUFO的武器が、壁際のアッシュを斬りつけた。
    「追撃するよ」
     そこにジュンが帯の一撃を放ち、アッシュの身体を壁に縫い付けると、
    「痛ぇ……つーか甲冑でバイクでUFOとか、何がしたいんだよ……」
    「あまり深く考えない方がいいぞ」
     突き刺さった帯を引き抜き、吐き捨てるアッシュに、国臣は再びアクセル全開で突撃する。
    「……何度も同じ手は喰わねぇよ!!」
     粗い殺気と共にアッシュが放つ斬撃。この一撃で『鉄征』は修復不可能な傷を負い、爆発した。
    「やるな」
     咄嗟に『鉄征』から飛び退いた国臣は、着地と同時に波打つ刃を持つ剣を振り下ろし。アッシュの身体を一閃した。
    「チッ、お前ら大概に……」
    「それは割とこっちの台詞でもあるかな」
     間髪入れずに颯は炎の刃を振るい、アッシュの両足を焼き斬る。
    「……あなたも、そろそろ、限界の筈、です」
     そこに蒼の鬼の拳が叩きつけられ、アッシュの身体から鈍い音が響いた。
    「ガホッ!! ……こんだけやって、倒したのはバイク1台かよ……嫌になるぜ、全く!! 死ねよさっさと!!」
    「ほら、ボヤかないボヤかない。補習の時間はまだ終わってませんよ」
     ジンザは消音拳銃『B-q.Riot』片手に、暴れ回るアッシュと対峙する。
    「Lesson1、こういう時は各個撃破が基本です」
     拳銃に冷たい魔力を纏わせたジンザは、アッシュの足元に銃口を向ける。
    「そうは言っても、やらせませんけどね……あ、それ水晶じゃなく僕の作った氷ですよ」
     地面に着弾。と同時に出現した鋭い氷塊にアッシュの身体は斬られ凍てつかせられる。
    「何が補習だ……てめぇもあの腐れ教師みたいに頭かち割ってやろうか!?」
    「出来るものなら、どうぞ」
     凍りついた腕を振るい、アッシュはジンザの頭を狙って肉切り包丁を振り回す。
    「まあこの段階で僕を狙う時点で、不合格は確定ですね」
     包丁を振り下ろした瞬間。アッシュの目には、ジンザの姿が掻き消えたかの様に見えた。
    「もう少し勉強してから、出直してきてください」
     アッシュの後頭部に銃口を突きつけ、ジンザは引き金を引く。
     音もなく放たれた魔の弾丸がアッシュの脳天を貫き。アッシュはドサリと倒れた。
    「クソ……まあ後は適当にやれよ、4号……」
    「じゃあね、役立たず3号」
     新人六六六人衆、残り1人。


     残された新人六六六人衆ディア。
     彼女は既に自身の勝ちは無いだろうと理解していたが、大人しく殺されるのは嫌だし、どうせなら1人位道連れにしたかったので、やはりマイペースに攻撃を仕掛け続けていた。
    「ん……本当にしぶといね。もう誰を狙っても、倒せる気がしない」
    「そう思うなら、潔く諦めて下さい」
    「それもちょっと……」
     透歌の言葉にディアは僅かに顔をしかめると、猫の影を広げ、透歌を襲う。
    「あなたは、もう少し頑張れば倒せそう……」
    「またその影ですか」
     振り下ろされる巨大な爪に身体が引き裂かれるが、透歌は眉一つ動かさなかった。
     透歌にとってこの戦いは単なる暇つぶしであり。傷を負おうが、敵を殺そうが敵に殺されようが。そこに大した意味は無かった。
    「まあ、それでもやられっぱなしという訳にはいきませんね」
     透歌は軽い動作で地を蹴り、槍を構えてディアに飛びかかった。
    「ウェッジ」
     透歌の呟きに応え、透歌のライドキャリバー『ウェッジ』がディアに突撃する。
    「下手に抵抗しても、お互いに良いことはありませんよ」
     ウェッジの突撃に膝を付くディア。そこに透歌が槍を突き出し、ディアの腹を大きく抉った。
    「回復は私に任せて、君は攻撃に専念して」
     表情では読み取れないものの、先程の攻撃でかなりのダメージを負った透歌を、晶は小さな光の輪で包みその傷を癒やした。
    「ありがとうございます」
     透歌はそう言い槍を再び振るう。至近距離から放たれた氷の刃が、ディアの肩を貫き凍りつかせた。
    「うーん……今日は適当に訓練して、適応に帰って寝る予定だったんだけどなあ……」
     血に濡れた手で目をこするディア。
    「何か1つでもボタンが掛け違っていたら、互いの立場は逆になっていたかもしれませんね……」
     目の前の少女と、かつての自分達。ジュンはそこに、大した違いは無いかもしれないと感じていた。
     彼等をそのまま倒すには、抵抗があると感じる位には」
    「こうならなかった私達が幸運なのか。こうなってしまったあなた達が不運なのか……」
     そこまで言って、ジュンは小さく首を振る。今は、やるべき事をやり通すのみだと。
     集中し、ジュンは構えた杖に自らの魔力を込めていく。
    「さっき役立たず2……ケイトも言ってたけど。私はこれで満足だから。だから私はこうなった私が幸運だったと思ってるし。こうならなかったあなた達が不運だと思ってるよ」
    「…………行きます」
     迷いを打ち消し、ジュンはディアに突撃する。
    「それはそれとして、死んでくれないかな……」
     ディアも影の斬撃をジュンに浴びせかける。一瞬意識を失いかけるジュンだったが、紙一重の所で繋ぎとめた。
     そして杖が振り下ろされる。その一撃がディアの身体を打ち、膨大な魔力が体内で爆発した。
    「…………痛い」
    「でしょうね。まあ、それももうじき終わりますよ」
     ギュッとぬいぐるみを抱くディアに、ジンザは魔力の弾丸を撃ち放ち追撃する。
    「うーん……強いなあ……灼滅者ってこんなに強かったんだ……ってミャアちゃんが」
    「むしろ、貴方達が弱いんですよ。貴方達は自分の欲望に負けた、弱い人間だから闇堕ちしたんです」
     真名はそう言い切り、清らかな風で仲間たちの傷を癒やしていく。
    「何か言い返したいけど……実際負けてるからなあ……」
    「自覚して下さい。自らが弱いと自覚できず勘違いしてる姿は、見ていて不快です」
    「んー……まあ、死んでから考える……」
     ディアはもはや戦術など無視し、何となくムカつく真名に影を伸ばす。
    「当たりませんよ」
     怒涛の勢いで振り下ろされる影の爪を、真名は帯の斬撃で全て弾き返していく。
    「これで終わりですか? なら、あなたもこれで終わりです」
     真名がそう言うと、連撃が襲いかかる。
     国臣の赤い斬撃が、颯の拳が、ジンザの銃撃が、蒼の炎の蹴りが、晶の無数の刃が、透歌の杖の一撃が、ジュンの槍の刺突が。
     それら全てがディアを襲い、最後に真名が縛霊手を地面に突き立てた。
     そこから広がる巨大な結界がディアを包み込み、その魂を強制停止させた。
    「眠い…………じゃあね、とっても強いお兄ちゃんとお姉ちゃん達……」
     最期に少しだけ笑みを浮かべると、ディアは愛する猫達と共に倒れ、そして息絶えた。
     新人六六六人衆、全員死亡。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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