朱雀門高校攻略戦~数多の犠牲者達へのレクイエム

    作者:長野聖夜

    ●緊急連絡
    「ルイス・フロイスからヴァンパイア勢力の動きについて新しい情報をリークしてきた」
     教室に現れた北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の表情は強張っている。
    「爵位級ヴァンパイアに従うデモノイドロードの一体、ロード・クロムが朱雀門高校の生徒全てをデモノイド化するという暴挙に出たそうだ」
     尚この情報は、朱雀門高校に留まりつつ、ルイス・フロイスのスパイを行っていた生徒の一人が命からがら逃げだしてきて手に入れた情報らしい。
    「そのお陰で判明した情報だったけれど、結局ルイスに借りを作った形になってしまったな」
     ルイス離脱後、朱雀門高校の組織はロード・クロムが掌握した筈だった。
     だが、組織の中枢は敢えて朱雀門に残ったルイス・フロイスのシンパが握っていたのだ。
     故に、爵位級ヴァンパイアは武蔵坂学園がノーライフキングと決戦を行った『胎蔵界戦争』の時期を察知できず、武蔵坂学園を攻撃する絶好の機会を逃すことになった。
    「その原因として、ロード・クロムは『朱雀門内部にルイス・フロイスのスパイがいる』と考え、自分に忠実な生徒も含め全ての生徒をデモノイド化してしまうという暴挙に出た……と言うことらしい」
     誰がスパイか分からないならいっそ全てを殺してしまえばいい。
     実にダークネスらしい選択とも言える。
    「勿論、全ての生徒がデモノイドになる素質を持っている筈がないから、デモノイド化せずに死亡する者は多いだろうけれど……放置しておけばデモノイドの戦力が増強されるのは間違いないだろうね」
     だからこそ、今朱雀門高校に攻め込めば調整中のデモノイドが動き出す前に灼滅出来る可能性が高い。
    「サイキックアブソーバーの予知が無い状態での突入作戦にはなってしまうけれど、ルイスを信用するのであれば朱雀門高校内部の戦力はデモノイドのみと思われるので、力押しで制圧する事は不可能では無い、と思う。まあ出来れば、デモノイドの首魁の一人、ロード・クロムの灼滅を目指したいけれど、残念ながらロード・クロムの居場所までは特定されていない。彼が朱雀門に残っているかどうかは、賭けになると思うけれど……皆、頼まれて貰えるかな?」
     優希斗の問いかけに灼滅者達は其々の表情で返事を返した。

    ●朱雀門に突入して
    「今回の作戦の目的は、朱雀門高校の今回の作戦の目的は、朱雀門高校のデモノイド勢力を打倒することにある。だから……」
     調整中のデモノイドを灼滅できれば、戦力の増強への歯止めは不可能では無い。
     加えてロード・クロムが何処かにいる可能性もある。
    「もし、ロード・クロムを発見したら可能な限り灼滅を目指して欲しい。この戦いで『ロード』を灼滅出来れば、爵位級ヴァンパイア勢力に少なくない打撃を与えられるのは間違いないからね」
     尚、朱雀門校舎内の何処にデモノイドが、何処に調整中のデモノイドがいるのかも判明していない。
     そこでどのような場所を主に捜索するか、どのような方針で捜索の指針を決めるのは必須となる。
    「襲撃開始後に時間を掛け過ぎれば、爵位級ヴァンパイアの軍勢が増援に現れる可能性もあるから、迅速かつ的確な行動が必要になる。取り敢えず、時間内に全ての調整中のデモノイドを灼滅する事が、目標の一つになるだろうね」
     ロード・クロムに関しては多分いると思われるが、あくまでもルイスからの情報である以上、確実ではない。
     これは未来予知ではないからだ。
    「居るかどうか定かではないロード・クロムの捜索にあまり時間を割く事は出来ないけれども、運よく見つけられたら灼滅した方が間違いなく打撃を与えられるだろうね。とは言え、ロード・クロムは状況が不利になれば撤退する危険もある。もし本気で灼滅する気なら、撤退対策も必要だろう」
     そして、それらの行動を1班だけで出来る筈もない。
     班同士である程度の連携を取ることが理想となるだろう。
    「……ルイスの理想の是非はさておき、今回ルイスが流した情報は恐らく信用していいだろう。少なくとも、此処で武蔵坂学園を裏切るメリットはルイスには薄い筈だ」
     複雑そうな表情を浮かべながら、優希斗が溜息を一つ。
    「……怖いのは、朱雀門高校のかわりに、爵位級ヴァンパイアがミスター宍戸に接触しようとする可能性だね。とは言え、今はそれを気にしている場合でもないだろう。まず最優先されるべきは、手段を選ばず自らの軍勢を強化しようとしているロード・クロムの野望を阻止することにある筈だから。……皆、どうか気を付けて」
     優希斗の呟きに見送られ、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    淳・周(赤き暴風・d05550)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)
    若桜・和弥(山桜花・d31076)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)

    ■リプレイ


    「ルイス君も気前良いね。見取り図をあっさりと提供してくれるんだから」
    「そうだな。まあ、俺達が信じなければ、ルイス達だって俺達を信用して情報を寄越さないだろう。これは、ルイスなりの歩み寄りなんだろうな」
     ルイスから見取り図を得ていた月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)の呟きに文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が答え僅かに表情を曇らせる。
    (「魂の冒涜、か」)
     ロード・クロムによる朱雀門高校学生の全デモノイド化作戦。
     非人道的なこの状況を実際に知らされれば瑠架やリーナもショックだろう。
     事前に察知できなかった自分達の無力さを思い知らされる。
    「これ、クロムの暴走なのか、それとも裏があるのかねえ」
    「情報が無いから何とも。ただ、スパイが分からないから全部殺すと思いきったのは確かだが」
     淳・周(赤き暴風・d05550)の呟きに、レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が小さく呟く。
     見取り図と照らし合わせながら歩いたが怪しい石像、足元への違和感などは特にない。
    (「まあ、そうだよな」)
     箒を使うつもりだったが本校舎の屋上などから敵が警戒している可能性に直ぐに思い当たり、戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)は比良坂・柩(がしゃどくろ・d27049)達と共に外緑部の警戒を徒歩で行い始めた。
    「蔵乃祐、そちらはどうだい? 何か思い出せたか?」
    「いや……何も」
    「そうか。ボクの方もルイスからの見取り図以上に有益な情報は無かったよ」
    「そうだね。そうだろうとは思っていたけれど……」
     天使教皇として此処に在学していた柩に蔵乃祐が頷く。
     フルカスと刺し違える覚悟で闇堕ちし、蓋を開けてみれば自分は1体のソロモンの悪魔、アハスヴェールとしてこの地で行っていたことを振り返るや否や後悔や罪悪感がひしひしと押し寄せてくる。
    (「あの時、僕は此処で……」)
     デモノイドロードを増産する為に人体実験と言う悪虐を愉しんでいた。
     それを思い出したところで、何だというのだろう。
     既に起こしてしまった事を、戻す事なんてできはしないのに。
    「こっちもさっぱりだよ、かいどー先輩。一応久しぶりに来た……て気分になれそうではあるけれど、正直殆ど思い出せないし」
     玲に蔵乃祐が軽く首肯した。
    「……ロード・クロム……無能な王様だったね……なんだか……がっかりなの……」
    「砂の上の城の王様と言うのでしょうか」
     呟くアリス・ドール(絶刀・d32721)に若桜・和弥(山桜花・d31076)が軽く返す。
    (「まあ、これも仕事だしね」)
     ロード・クロムのやり方には色々と思うところはあるが、それを口には出さず周囲の索敵に集中する和弥。
     外縁部を歩きながら足跡の痕跡が濃い所などが無いか注意深く見るが特に見当たらない。
    「……デモノイド化を逃れ生き残っている生徒は居ないんだろうか?」
    「相変わらずだな。あの時もそうだった」
     咲哉の呟きにレイが返す。
    (「誰かを助けたい、という想いは文月らしいな」)
     後から聞いた話だが沖縄の戦いの時、咲哉や周達の班は積極的に一般人の救助活動を行ったらしい。
    「まあ、助けられるならそれで良いと思うぜ! そうやって己を押し通す! 其れが覚悟ってやつだろ!」
     燃える様な周に咲哉が思わず微苦笑を零した。
    「そうだな」
     実際、周の言う通りだ。
     人間だけでなくダークネスもまた、結局のところ『命』。
     ロード・クロムは其々の『命』が抱える想いやその先に望む道……それを否定する残虐な行為に走った。
     今回は朱雀門高校の生徒たち全てが被害者だ。
     他者からすれば変な話かも知れないが……人でもダークネスでも、此処に通っていた生徒が一人でも多く無事だと心から願っていた。
    (「右九兵衛はどう動くだろうな。黒の王に心から忠誠を誓っているとも思えないが」)
     ふとかつて同類足る知人を裏切り、それでも彼が救いたいと願っている彼のことが咲哉の脳裏を過るのだった。


    「うん……ルイスから貰った見取り図と違う施設は無さそうだね。朱雀門私邸もない、か」
     外縁部を回りながら柩が呟く。
     もしかしたらルイスがこの学園を去った後に新しく作られた施設や地下室もあるのではないかと期待していたが今回は空振りだったようだ。
    「クロム以外のレアメタルナンバーが協力していても不思議じゃなかったけれど、ルイスからの情報以上のものは望みは薄そうだね」
    「となると本校舎が一番怪しいね。旧校舎は別棟の上、デモノイドが警備している感じもないし」
     柩の呟きを引き取り、頷く玲に蔵乃祐が軽く肩を竦める。
    「下水道やマンホールで偽装された隠し通路もないか。ルイス時代には緊急脱出路が一つはあるとは聞いていたけれど、特にそれ以外は無さそうだし」
    「やっぱり私達も本校舎に行ってみようか?」
     これだけ念入りに探索して成果が無いのであれば、本校舎に行くのが最善だろう。
     玲がそう提案し、外緑部から内側に向かおうとした丁度、その時。
    「……爆発音……?」
    「本校舎の方ですね」
     本校舎へと目を向けていたアリスが呟き、その爆発音に気が付いた和弥もまた、周囲を警戒していたレイ達へと呼びかける。
    「嫌な予感がするな」
    「ああ、急ごうぜ!」
     レイが呟くのに合わせて周が頷き、本校舎に向かって駆けていく。
     和弥達が駆け付けた時には、本校舎は惨憺たる有様になっていた。
     火災が発生し、窓は激しい音を立てて砕け散り、外壁も崩れ始めている。
    「これはまた……随分と派手にやったものだね」
     呆れた様に、何処か楽しそうに呟く柩。
     絶賛火災中の校舎正門を放置するわけにも行かず駆け付けるとこの惨劇に煽られて校門から外へと出ようとしているデモノイド達。
    「あれはもしや、調整中のデモノイドですか……?」
     蔵乃祐が思わず呟く。
    『ロード』と呼ばれる者を作り続けていたアハスヴェールの罪の証を突き付けられているような気がして舌打ちを一つ。
    (「デモノイドは魂の冒涜だっけか。ほんとクソだな……最低の気分だよ……!」)
    「まずいな。このまま彼等が出て行くのを放置しておけば、一般人に被害が出る」
     蔵乃祐の様子を伺いつつレイが状況を冷静に分析している。
     校舎外に出せば、デモノイド達は外の人々に被害を及ぼすだろう。
     調整中である以上、恐らくそれほど長時間は持たないだろうがその短い時間の間に起きるであろう被害は想像に難くない。
    (「右九兵衛の動きが見えないのは幸いだったかもな」)
     複雑な想いが咲哉の胸の中に渦巻いている。
     今迫って来る10体程のデモノイド達を右九兵衛が率いている様子も無い。
    「だったら、こいつら放っておくわけにはいかねぇだろ!」
    「……そうだね……」
     周の言葉にアリスが頷き、絶刀『Alice The Ripper』を鞘から引き抜き戦闘態勢を整えている。
    「恨みはないけど、捨て置く訳にもいかないからね」
     和弥が首を縦に振り、眼前で両拳を打ち合わせた。
     同時に桜の花びらが風に舞う美しさを思わせるオーラが和弥の周囲を覆い、其れが周囲へと拡散し音を遮断する結界を組み上げていく。
    「ルイス君も気の毒にねー。かつての自分の城がマッドな研究所になってるんだもんねー」
     少しだけ、ざまぁと思いながら玲が構える。
    「……この中にうくべー部長混ざったりしてないよな?」
    「まあ、どっちでも良いじゃないか。結局やることは変わらないんだから」
     周の呟きに柩が軽く肩を竦めた。
    「さぁて……せいぜい楽しませて貰うとしようか」
     何処か愉快そうに呟きながら。


    「どんな悪路だろうが殴り飛ばして灼いて己を押し通すのみ!」
     周が叫び、拳の焔を纏わせて咆哮を上げ突進してくるデモノイドの一体に殴り掛かる。
     放たれたその一撃がデモノイドを焼く様を見ながら、ふわり、と猫の様にしなやかな動きで懐に潜り込むアリス。
    「……斬り裂く……」
     周に合わせて懐に飛び込んでいたアリスが絶刀『Alice The Ripper』で、敵の脇腹から肩にかけてを一気に斬り裂く。
     呻くデモノイドの胸を軽く蹴り、素早く敵の攻撃範囲から離脱すると同時に……。
    「……和弥……」
    「はっ!」
     アリスの声に反応し、無心のままにデモノイドとの距離を詰め、桜の花弁を思わせる雷を帯びた手刀をその巨大な右腕に叩きつけ。
    「咲哉君!」
    「ああ!」
     和弥の一撃で一瞬で体が反転し身動きの取れなくなったデモノイドに咲哉が駆けながら【十六夜】を下段から撥ね上げ、デモノイドの右足を叩き切る。
    「柩、頼むぜ!」
     咲哉の呼びかけに応じて、柩が死者の杖に籠められた魔力を爆発。
     周囲の火すらも飲み込まんばかりの爆発がデモノイドを残骸も残さず塵と化させた。
    「この世の栄華は儚くも虚しく消えるものだよ」
     呟く柩に向けてデモノイドの2体が強酸を吐き出すが一発目は玲が受け止め、二発目はメカサシミが受け止める。
    「ロード・クロム……ね。此処までやけっぱちを起こすキャラだったっけ?」
    (「まあ、正直どっちでも良いんだけど、出来ればここで退場頂きたいよねー」)
     とは言え、探索中に柩が試した通信は使えなかった。
     となれば、彼の事は突入班に託すしかないだろう。
     自らに強酸を浴びせてきたデモノイドに接近しKey of Chaosで斬り裂く玲。
     追撃の様にメカサシミが機銃を掃射してデモノイド達を足止めする間に、レイが玲をラビリンスアーマーで癒している。
    「今のところは私だけで大丈夫だ。戒道は攻撃を」
    「分かりました」
     レイの指示に軽く頷き蔵乃祐が自らの手を銀狼へと変化させて放つ。
     玲の攻撃を受けていたデモノイドを薙ぎ払ったところで唇を噛み締めた。
    (「確かにこいつらを倒せば、一般人への被害はこれ以上増えないけれども……」)
     その為に戦っても今は、自分を庇護する為の欺瞞にしか感じられない。
     何をすれば自分を許せるのか……それが今の彼には分からない。
     デモノイド達が強酸を吐き、『死の光線』を撃ちだし、ある者は己の利き腕を剣へと変えて自分達を斬り裂こうと肉薄する。
    「……当たらないよ……」
     猛禽の様に鋭い眼差しを浮かべるアリスがデモノイドの斬撃を身を引いて躱し、逆に伸びきった腕に乗ってそのまま高く飛び上がる。
     煌めく小太刀『Fang of conviction』を引き抜きアリスが空中で軽く一回転してその頭部を狙って斬り裂き、そのまま頭部を蹴ってその場を離脱するのを追撃するかのように、『死の光線』が放たれた。
     玲がKey of Chaosでその攻撃を斬り裂き負傷を最小限に止める間に、接近してきたデモノイドが玲を斬り裂こうとするが、メカサシミが割込みその攻撃を受け止め。
    「今だよ!」
     メカサシミがスロットルを全開にするのを眺めながら玲が声を張り上げると、咲哉が【十六夜】を大上段から振り下ろしていた。
     振り下ろされた刃に、アリスの一撃を見舞われていたデモノイドがぐらりと傾ぐ。
    「和弥!」
     咲哉の声に応じて和弥が手頃な長さの赤樫の棒を彼の与えた傷に向けて突き込んでいる。
     無心で放たれた螺穿槍がデモノイドの体を深々と貫き杖を伝って来る振動の重さが、和弥の心を打つ。
    (「これは……暴力」)
     その暴力に伴う痛みと罪は決して忘れてはいけないものだと和弥は思う。
     和弥が杖を引き抜くと同時にその場に頽れるデモノイド。
     その屍を踏み越えて腕を剣化したデモノイドが柩に刃を振るう。
     すかさず蔵乃祐が防護符を放った。
     蔵乃祐の放ったそれは柩を守る結界となりその刃の一撃を大きく弱め柩にかすり傷しか負わせられない。
    「邪魔な奴らが来る前にさっさと終わらせるとしようか」
     柩が常に知慧を欲する水晶片を非物質化させてまるで知識を奪うようにその身を斬り裂き周が続けて夜の様に、悪の様に、どこまでも茨状の黒い影の糸を輪状にして放つ。
     円環状になった無数の影が刃となりまるで鋭い紙で皮膚を斬り裂くかのような斬撃を与え玲が炎を帯びた回し蹴りを叩きつけてデモノイドを焼き尽くす。
     やや突出した玲へと生き残りのデモノイドが強酸を吐きだし、ある者は『死の光線』で射抜こうとする。
    「させるわけにはいかないな」
     レイが素早くダイダロスベルトを放ち、玲の全身を覆う。
     玲への攻撃の半分以上が帯の鎧によって雲散霧消。
     帯が解かれた時、玲が自らを祭霊光で傷を癒しながら立っていた。
    「レイくん、ありがとうね!」
    「礼には及ばない。役に立てたのなら幸いだ」
     レイが返す間に、体勢を立て直したデモノイドの一体がアリスに迫る。
     アリスは、チラリ、と反対方向へと視線を送り、振り上げられた刃に思わず足がもつれて転びそうになるような隙を見せた。
     ――だが……。
    「……追いつめてると思ったの? ……くす♪ ……残念……乗せられちゃった……」
    『鏡の花』の別称を持つ繚乱「Thumbelina bouquet」で炎を纏った蹴りを放つ。
     まるで刃の様な軌跡を描いた蹴りは斬撃の様でその炎に全身を焼かれるデモノイドに、メカサシミが体当たりを叩きつけている。
    「そこだな!」
     アリスが離脱する隙間を縫う様にその指を刀に這わせて狙いを定めた咲哉の制約の弾丸が、デモノイドを射抜き周が拳に炎を纏わせてぶん殴り、火傷でボロボロになったデモノイドを焼き尽くし。
     和弥が前進し、周囲に展開した桜の花弁を手に纏わせて振るい、機銃掃射に巻き込まれていたデモノイドを斬り裂いている。
    「勝たなきゃ我を通せないっていうなら、そうしよう」
     動きを止めたデモノイドに、柩がフォースブレイクを叩き込み、その身を木っ端微塵に砕いていた。
     ――そうして戦うこと暫く。

     最後の一体が崩れ落ちた時、蔵乃祐達の中に戦闘不能者は、誰一人としていなかった。


    「一先ず落ち着いた様だ」
    「そうですね……」
     持久戦を想定した陣形故に消耗の少ない咲哉達をイエローサインで回復しながら呟くレイに蔵乃祐が頷く。
    「多分、外の一般人への被害は食い止められただろうな」
    「それなら、いいんだけどね」
     咲哉の呟きに、一つ黙祷を捧げた和弥が軽く額の汗を拭ったその時。
     ――ぴんぽんぱんぽん。
     戦場にはそぐわぬチャイム音が、辺り一帯に響いた。
    「こちら放送室、平・和守だ。皆、聞こえるか? 放送室の制圧、並びに通信機器の電波を妨害していた装置の停止に成功した。そしてたった今、ロード・クロムと交戦していたチームより、ロード・クロムを灼滅したとの報せが入った。繰り返す。ロード・クロムは灼滅された」
    『!』
     放送にアリス達が思わず息を呑む。
     言葉の意味が浸透するのを待つように、1つ呼吸を置く和守。
    「……この戦い、俺達の勝利だ」

     ――其れは、これ以上誰一人の犠牲を出すこともなく勝利することが出来たという万感の思いと確信が込められた、勝鬨の声になるのだった。

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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