修学旅行2017~黄昏サンセットとアメリカンナイト

    作者:朝比奈万理

     今年の修学旅行の日程が、7月4日から7月7日までの4日間に決定しました。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学1年生が同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦旅行、大学4年生の卒業旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄本島。
     これには、先日のアッシュ・ランチャーによる上陸作戦の際に、沖縄に取り残されたアンデッドや兵士がいないかの捜索と安全確認を行うという理由もあります。
     が、勿論、旅行先では沖縄料理を食べ歩いたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツやトレッキングなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

     北谷サンセットビーチ。
     沖縄は北谷町にある碧い海と白い砂浜の、カジュアルで美しいタウンビーチ。
     人口湾なので波は穏やか。そのうえ遠浅なので、泳ぎが苦手な人も安心して楽しめるはず。
     ビーチサイドではビーチバレーも楽しめるほかバーベキューエリアもあり、気の合う友達とビーチバーベキューパーティーも堪能できる。
     昼間は楽しいビーチも、夕方になれば姿は一変する。
     夕日に照らされて、碧かった海は徐々に黄金に変わり黄昏がすべてを包み込み、世界は一瞬にして黄昏オレンジに。
     刻一刻と色を変えるマジックアワーの空と海に、辺りは一気に幻想的に。
     美しい夕焼けをバックにプロポーズをする人も多く、恋人たちのパワースポットにもなっている沖縄屈指の美しい砂浜だ。
     日が暮れたらビーチに隣接する、美浜アメリカンビレッジへ。
     一歩足を踏み入れたらそこはアメリカ西海岸。極彩色の鮮やかな世界が広がる。
     アメカジからサーフ、ミリタリーなど、様々なスタイルのアイテムや、ユニークな雑貨、ポップなデザインとカラーのファッションなどのインポートアイテムをとりそろえるショップがずらり。見ているだけで楽しくなるエリアだ。
     もちろん、沖縄モチーフのアイテムも豊富で、ハイビスカスやプルメリアなどの南国の花モチーフアクセサリーや、琉球ガラスやトンボ玉、美ら玉のアクセサリー、島ぞうり、紅型染などの綺麗でかわいらしいアイテムなどを購入できる、お洒落さんにはたまらないスポットだろう。
     もちろんここのウリはショッピングだけではない。
     トロピカルなタコライスやボリューム満点のステーキ、何段重ねなのだと驚くハンバーガーに、生クリームとフルーツをたっぷり飾ったパンケーキなど、はらぺこさんのお腹も満たしてくれる美味しい食べ物もたくさん取り揃えている。
     たくさん遊んだ後にはゆっくり回る観覧車に。眼下に広がる美しい夜景は、一日の思い出をあなたの心に刻んでくれるはず。

     街とビーチを両方味わえる欲張りエリアで、リゾートを満喫しよう!

    「海いいなぁー」
     海無し県民にとって海はあこがれの一つ。
     山国出身の千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)にとってもそれは例外ではない。
     海が見えると心が躍る。は、彼らが良く言う言葉だが、彼は鼻歌交じりにガイドブックに張り付けた付箋を頼りにページに指を入れ。
    「で、ステキな海岸見つけちゃった♪」
     にっこり笑んで花近はページをめくった。
    「北谷サンセットビーチ。お昼は遠浅の泳ぎやすいビーチで、海水浴もビーチバレーもバーベキューも楽しめるところなんだけど、夕焼け時がとってもきれいなんだって」
     広げたページには、眩いばかりの夕陽と極彩色の空。その下に広がるのは黄昏の空と同じ色の海。
    「夕焼けってなんだかとっても不思議な気持ちになるよね」
     懐かしいくて切なくて、泣きたくなるような、現実から夢の世界へ誘われるような。
     それが美ら海に映るなら、美しさも幻想感も格別。
     きっと、ずっと心に残る景色の一つになるだろう。
     夜になったら美浜アメリカンビレッジへ。
     ショッピングではアメリカのインポートグッズはもちろん、沖縄の小物も購入できる。
    「外国のものってどの小物もオシャレでかわいいよね。それが沖縄の伝統小物にも通じるのも、すごく面白い」
     笑む花近。ガイドブックを見る視線は小物からフードへ。
    「1パウンドって450グラムだっけ? ドンだけ大きいんだろうね」
     と驚きながらステーキの写真を眺める。ステーキの周りには、ビッグアメリカならではの大きいハンバーグや盛りだくさんのベリーを転がしたパンケーキの写真が並び。
    「おいしそうで迷っちゃう♪」
     ね。と周りの集まった仲間と顔を見合わせて笑いあう。
     静かに過ごしたくなったら、光きらめく観覧車へ。
     思い出話に花を咲かせたり物思いにふけったり。過ごし方は自由の15分間の空中散歩。
    「観覧車もとっても魅力的で、行きたいところがたくさんで迷っちゃうねぇ」
     うーんと悩んで花近は君と目を合わせると、小首をかしげて目を細めた。
    「ねぇ、キミも一緒に綺麗な海と黄昏の時間と、賑やかな夜を楽しまない?」


    ■リプレイ

    ●碧い海
     神羅となゆたは手を繋いで砂浜を駆け、海に入っていく。
     ゆったりした動作で水中を泳ぐなゆたの隣で、神羅は彼女に見惚れ。
     昔から可愛かったけど最近綺麗になったと感じる。少しづつ大人の女性に変わっているというべきか。
     と、なゆたが神羅の手を取った。
     出会った頃は小学生。時の流れは二人を成長させて、彼はすごくかっこよくなった。
     海中から顔を出した二人、顔を見合わせて。
    「君と出合えて、また沖縄に来れてよかった」
    「共に成長していこう。ずっと」

     ビーチ端の物陰。
     座り込んだ水花が立ち上がろうとしたいちごの手を引いた。
    「離れていっちゃうの? さみしいから、一緒にいて……」
     片方の腕で隠す胸は今にも零れ落ちそう。泳いでいたらビキニのトップスが外れてしまい、脚も痛めてしまった。そんな彼女を救ったのが、いちご。
     いちごは彼女のためにタオルを取りに行こうと立ち上がり、手を引かれたのだ。
    「ひとりで不安なのはわかりますけど」
     潤む瞳の水花がそのまま手を引いていちごを抱き寄せる。
     一瞬驚いたいちご。だけど彼女を安心させるように優しく撫ではじめた。

    「合法的にスク水を着ることができるのは高校生までなのだよ」
     旗が刺さった砂の山を、紗夜の手がちょっこりと掻いていく。曰く慎重派だ。
    「お前は何を言っている」
     その隣で紫月が後輩にツッコミを入れつつ、ざざっと砂を持っていく。
    「高校卒業したらコスプレになってしまうのだよ?」
    「確かに今しか着られないね!」
     二人に誘われた花近も、砂を持っていく。
     削れていく山と徐々に傾く旗に、はじめこそ大胆だった紫月の手の動きが鈍くなる。
    「削る量見誤ると、旗が倒れるんだよな」
    「難しいよねー」
     と、せせこましくなってゆく花近。
     そんな二人を尻目に、紗夜がごっそり砂を持っていった。
    「おまっ慎重派じゃなかったのか」
    「ん、なんのことかな?」

    「一緒の修学旅行、最高に運命的よねぇ♪」
     愛浩の腕に抱き着いたみかん。愛浩は胸を押し当てられた感触に顔が真っ赤。
    「う、嬉しいの、ですがその、わざわざ当てなくても……」
    「もう、照れちゃってぇ」
     声も上ずる奥手すぎる彼に上目遣いのみかん。
    「みかんをしっかり見てぇ♪」
    「わ、わたくしはみかん様一筋で――!」
     腕を引かれた愛浩が身を屈めた所を不意打ちのキス。
    「大好きぃ♪」
     笑んだみかんに、愛浩は耳まで真っ赤にして。
    「わ、わたくしも大好きでございますとも」
     声を振り絞って、彼女を抱きしめた。

    ●BBQ!
    「準備しよー!」
     【花園】のリーダー、桜花が腕まくりでテーブルに荷物を置いた。
    「桜花ちゃん、はりきってるね」
     肉や野菜を取り出し微笑んだ桃子の隣で、包装を開けていく水鳥も小さく頷く。
     少し遠くでは海辺で遊ぶ他の三人の楽しそうな姿が見えた。
     火をつけた炭火が赤く燃え、網も熱くなってきた頃。
     桜花が三人を呼びに行くと、舞姫と天霧、それと胸を腕で隠したちとせが戻ってくる。彼女はフラグを立てていたが本当にポロリしたようだ。桜花も……。
    「バーベキューだー!!」
     嬉しそうに声を上げたちとせは、スチロール容器に入ったままの肉を見つけた。
    「ちーも手伝うー!」
     と、容器をひっくり返してドンと肉投入。
    「あら、そんなにいっぱい焼いたら食べきれないでしょ?」
    「ちとせさん肉入れすぎっ」
     桜花の隣から天霧が、トングで上の方のお肉を容器に戻していく。
    「え、こんなにいらない? そっかー」
     ちとせの声を聴きながら、水鳥は仕込んだ食材をすぐに焼けるように網のそばに置くと、
    (「イカ、エビ、椎茸、後はマシュマロ……」)
     鉄串にマシュマロを手際よく刺していく。
     次第に漂うのは、お肉の焼けるいい匂い。
    「屋外でのバーベキューは格別じゃのう。どれ、味見は舞姫がしてやろうぞ」
     焼きたての肉を網から拾い、たれを付け、ぱくりとほお張る舞姫。
    「うむ、美味い!」
     続いて続々と網からお肉が消えて、ほお張るみんなはいい笑顔。
    「お肉ばかりじゃなくて野菜も焼かないと」
     食べるのもそこそこに働いている桜花の脳裏にふと過るのは、網奉行の三文字。
    「お野菜もしっかり焼かないとね」
     トウモロコシに玉ねぎ椎茸、魚介も並べて、網の上はさらにいい色どり。
    「ねぇ、私の分のお肉残ってる?」
     不安げな桜花に差し出されたのは、天霧と水鳥が死守したお肉だった。

     【男懇会】の4人も肉、ついでに野菜を焼いていた。人数の割に持参してきた肉が異様に多い。
    「それでは諸君、焼き肉戦争を始めよう」
     大真面目な顔をして箸を構えたのは槐。
    「いや、落ち着いて食べろよ」
     唯織は突っ込みながらも肉を拾い上げ。
    「早くとらなければなくなるぞ?」
     ロードゼンヘンドもひょいひょいと肉を拾い口に運ぶ。
     麗月は焼きたての肉をほお張り、感嘆の息をついた。
    「沖縄でバーベキューできるとは……」
     男4人のバーベキューは肉の減りが速い。
    「槐。ロードゼンヘンドも。お肉食べ過ぎだ」
     各々の皿に野菜を入れていく麗月。
     槐はあからさまな嫌な顔を見せる。椎茸が皿に入ったからだ。
    「野菜入れてんじゃねぇよ。椎茸嫌いなんだよなぁ」
     対してロードゼンヘンドは、
    「好きだからと言ってたくさん食べられるわけではない!」
     食べるけど。と皿に乗せられたキャベツをポロポリ。
    「野菜は槐にやれよ」
     唯織は玉ねぎを何食わぬ顔で槐の皿に乗せていく。玉ねぎを乗せられた槐は嫌い二大巨頭を前に吠える。
    「みんなで食べるのは楽しいな」
     ロードゼンヘンドの呟きは賑やかさに掻き消されるが、それでも満足だった。

     【桜堤キャンパス2年4組】の面々は、先ほど買ってきた材料の仕込みをしている。
    「肉を焼くのはまかせろー。でも野菜も食べましょうね」
     炭火の番は緋凍の担当。慣れた手付きで肉と野菜を焼いていく。
    「可愛さの秘訣は正しい食生活」
     あ、可愛いボクすごくいいこと言ったと大満足。
    「さすが緋凍ちゃん! じゃぁ私は食べる専門で!」
     無邪気な瑞葉。その隣では海星が、でも。と声を上げた。
    「さすがに、緋凍くんに任せっきりは……」
     女子力的にピンチである。
    「う、確かに。じゃぁこのミズハちゃんが一肌脱ごう!」
    「じゃぁまな板抑えて! 得意でしょ!」
     と、海星が危なげない包丁さばきで肉や野菜を切っていく。どういう意味だと吠える瑞葉は、文句を言いつつもまな板を支えていた。
    「では余は、たれを用意したり飲み物注いだりを全力で用意するのである」
     雑用に回る究極守護神。
     究極破壊神は皆の様子を見守るのであった。
     焼きあがった食材は次々と皆の皿に。
    「究極守護神よ、我は心配である」
    「究極破壊神よ、余は守護したいのである」
     お互いの健康が。相手の皿に野菜ばかりを盛りつつ、究極破壊神は肉を食べ進める。対する究極守護神はバランスよく肉と野菜を食べていく。
    「もー、喧嘩しないの!」
     海星は二人を窘めながらも食べ進め。
    「野菜は今回はいいや。別の人にあげるよ」
     瑞葉は皿に乗せられた野菜を他の人におすそ分け。
     今回の網奉行である緋凍は、積極的に食材を焼いていく自分も可愛いのである。

    「『ハゲてねぇし』って書いてある。流行ってんのかな」
     飲み物片手に黒豚ソーセージを転がしながら火の番をしている【BBQし隊】のジンザが、オモシロTシャツを着た人に軽く目を奪われていると。
    「今度こそ、普通にバーベキュー!」
     空いたスペースにエビやホタテを並べながらミカエラが嬉しそうに声を上げた。最近の沖縄や海と言えば戦場だったから楽しめることが嬉しい。
    「ダークネスがいない海水浴場っていいね!」
    「だな、平和って素晴らしい」
     はしゃぐミカエラから飛んできたカニをキャッチながらジンザが呟くと、
    「いつも何かあるからのんびりは貴重だわ」
     銘子も頷いた。
    「肉食べようぜ、肉!」
     織兎も網に肉を広げていく。青い空に肉の焼ける音が響くと、肉の脂の美味しい匂いが各々の鼻腔をくすぐる。
    「パエリアも完成したわよ」
     銘子がダッチオーブンの蓋を開ければ香ばしい香りも広がっていく。思い出すのはこの方法を教えてくれた人。
     トウモロコシも人参もゴーヤも蒟蒻も網に並べて。
    「こん、にゃく?」
    「網目を入れてタレ焼きにするとおいしいのよ」
     戸惑う織兎に、銘子はお肉みたいでと笑む。
     楽しく焼いたら、みんなで楽しく美味しい時間。

    ●マジックアワー
     蒼だけだった空が多彩な色を見せ始める。
     育ての父と見たあの日の海の夕焼けも綺麗だった。
    「神無月様、あのっ」
     ヒトハは優に声を掛けてみたけど言葉に詰まる。
     自分はいつか見捨てられてしまう……。そんな自己嫌悪と止めたのは、
    「ヒトハ」
     名を呼んでくれた優の声と微笑みと頭を撫でてくれる大きな手。
     その笑顔が思い出の人を思い起こさせ、目の前の彼が微かに滲む。
    「寂しいのは……やです」
     彼の小さな呟きに、優はもう一度柔らかく笑んで。
    「約束する、そばにいるよ」
     もうヒトハが迷うことのないように、抱きしめた。

    「わぁ……!」
     刻々変わる世界の色に才葉は思わず息を呑んだ。
     その声が合図。空に憧れ焦がれる朱那はカメラのシャッターを切っていく。
    「世界は、なんてこう綺麗なんだろうな?」
     才葉の言葉に朱那は思わず彼を見たけど、輝く瞳につられて笑んだ。
    「ん、綺麗だね」
    「オレ、一生でどれだけ色んな空を見れるか分かんないけど、毎日楽しみなんだ」
    「あたしもこんな鮮やかな世界で生きていくのが楽しい。君と色んな空を、一緒に見るのも」
    「見尽くせるかな?」
    「見尽くすなんてとんでもない!」
     追えば追うほど世界は広がるから、見尽くせるまで追い続けるのだ。

     士土と宵も、美しい夕焼けを見ていた。
    「この浜辺はカップルさんたちのパワースポットにもなっているそうですよぅ」
    「爆発して砕け散れ」
     呪う。と士土は顔を歪ませた。
    「えっと、その。例えば、士土さんが恋人にするなら、どういう人がいいとかって、あるんですかねぇ」
     宵の問いに焦る士土。
    「なんだ急に。あ、あたしは、あたしを受け入れてくれる奴が」
     言ってみて違和感。
    「居るわけ無いかそんな奴。やっぱ爆発しろ」
    「私は、好きでいてくれて、一緒にいてくれる人が恋人なら、うれしいとは思いますねぇ」
    「あたしは宵の事、好きだぞ」
     恋話をする。これも青春。

     水が苦手な時兎が海に入ったその訳に、聡士は思わず笑んだ。
    「みて、黄昏色。全部聡士の色」
     自分の腕にしがみつきながらもオレンジ色に輝く水と戯れる時兎。
     白い髪も肌も黄昏色に染まって、綺麗だと感じる想いは聡士の心の中に。
    「はは、可愛いこと言うね」
     開いている方の手で頭を撫でられれば、
    「また撫でる!」
     軽く抗議の意を示し時兎は彼の肩に軽い頭突いたけど、見上げると見える顔。
    「ねぇ、陽が落ちるまでこうしてていい? そうしたらもっと好きなのが見られる」
     一つ頷いた聡士と迎えるのは、彼の瞳と同じ、闇夜色。

    ●ショッピング
     花模様の紅型染の髪飾りか、琉球ガラスのスタンドランプか。大切ななお姉さまへのお土産選びに、エミーリアは二つの棚を行ったり来たり。
     彼女の無言のSOSを感じ取っのは、一緒にお店を見てまわっているシャオとコルト。
    「髪飾りはいつでも使えますし、彼女の金髪にはとっても映えると思うの……」
     シャオは髪飾りを手に取って、エミーリアの髪に当ててみる。
    「うん、とってもきれい」
    「て、照れちゃいますからぁーっ!」
     コルトに微笑まれてエミーリアの耳は真っ赤。
    「ランプもお洒落よね」
     と、コルトがランプが入った箱を二つ、棚から取り出した。
    「ランプは私がお金出してあげる。プレゼントよ」
    「え、買ってくださるの? わふー! ありがとうございます」
     笑顔のエミーリアが髪飾りを手にコルトとレジへ向かうのを見送って、シャオは商品棚に向き直る。
     皆へのおみやげも、一緒に買っていこう。

     真剣に沖縄所縁のアクセサリーを選んでいるシアンの近くで、七星は星の砂のアクセサリーに目が留まった。
    「へぇ、細かいな」
    「可愛い!」
     耳元で上がる声に驚く七星。横から同じ棚を覗き込むのはシアン。
    「硝子の中に星の砂入ってるじゃない、すごーい!」
    「綺麗だよね、それ」
    「沖縄っぽいし、これに決定しましょ☆」
     と、シアンはひとつ手に取った。それは青のガラスに金粉と白い星砂が瞬くピアス。
     似合うと言った七星にシアンが笑む。
    「ナナ、これ半分ずつ付けましょ?」
     二人でひとつの双子。それが自分たちのようだったから――。

    ●夕飯は……
     【教育学部4年】の面々の目の前には1パウンドのステーキ。食べ始めて数分、早くも胃が死にかけている者もいればまだまだテンションが爆上げのまま、食欲も下がらない者もいる。
    「なんやかんやで今年で卒業ですね。どうですか、卒論とか、就職とか」
     肉をもぐもぐしつつ仁恵が皆に聞いてみた。
    「卒業後ねぇ。順当に試験受けて、保育園の先生志望。アタシは試験まで余裕あるけど」
     模糊がチラリ見てため息。
    「就職? アタシ普通に小学校のセンセー希望だけど。ってやめてよね採用試験の事思い出したじゃない!」
     来る試験に気が気でない。ヒステリーを起こす一平の口にステーキを突っ込む模糊。
    「学生時代に打ち込んだことは?」
     仁恵の放つ面接空気に、颯と千鶴がうーんと唸り。
    「打ち込んだってわけじゃないけど、実習がてら小学生の弟の勉強おしえてたかな。今年は中高の実習行く予定」
     小学校も含めて行き先を選定中だ。
    「俺はやたら居候にプリン作らされた記憶があるって、プリン職人じゃないから」
     千鶴は皆のほほうな空気を否定して。
    「俺も小学校の先生目指してるよ。武蔵坂の先生として居続けられたら一番嬉しいんだけど」
    「あ、センセなの、ライバルじゃん」
     亡き者にしないと。と千鶴の口に肉を詰め込んでいく一平。
    「にえは他のところに就職?」
     模糊の問いに仁恵はきょとんとして。
    「にえも幼児教育希望ですよ。小学校か幼稚園かは悩むところですけど、このままなら幼稚園希望ですかねー」
     大学4年生の試練は続くから。今は心行くまで肉を食べよう。

     こちらは【コミュ学】。テラス席の一番隅にて進学祝いの乾杯をしたところ。
    「大学生ですから、アゲアゲでウェイウェイなのですよ!」
     大はしゃぎの銀二に、慄くのは侑二郎。
    「高校時代はあんなにおとなしかったのに……」
     これが大学生の魔力。
    「――は置いといて、もう大学生になって3か月なのな!」
     早いもんだと陽斗はグァバジュースをごくり。
    「――かはともかく、テンション上がるね!」
     彦麻呂は目の前の大きなステーキにご満悦。
    「美味しそうな響きでが、銀二さんが美味しいのですか?」
     小首をかしげつつも朔眞は、大きなステーキを上品に小さく切って口に運んだ。
     そんな6人の近くの植込みの茂みから、ぬちゃりと音を立て現れたのは――。
    「アンデッド!? ギャーー!!」
     思わず、ステーキを鉄板ごとアンデッドに投げつけた銀二。
    「くっ、ここは俺に任せて――」
     振り返ると仲間は皆、ステーキをもぐもぐ。
    「ガンバレー」
    「あのくらいなら銀ちゃんひとりでもイケるでしょ」
    「もうちょっと食べてから行きますね」
     と陽斗と彦摩呂、侑二郎は少し薄情なところを見せつつも、やはり灼滅者。仲間も残党を放っておくわけにもいかずに銀二に続く。
    「お肉はあげません」
    「私もお手伝いします」
     朔眞と香乃果も武器を構えた。
    「みんなっ!」
     友情パワーでアンデッドを倒したら、口直し、仕切り直しをしよう。

     一通りの警戒を終えたニコとポンパドールは、頃合いを見て飲食店に入った。
    「おれの本命はハワイアンパンケーキ!」
     ポンパドールが選んだのは、ベリーやトロピカルフルーツ、生クリームが増し増しパンケーキ。
    「夕食にパンケーキが食べたいとはどういう了見だ!? 沖縄の郷土料理にも目もくれず、東京でも食えるパンケーキだと……!?」
     呆れかえりそうなニコに、ポンパドールは慌てて弁明。
    「それに、こないだ頑張ったごほーびじゃないけど……」
     おごってと上目遣いが言っている。ニコはその赤い頭をどついてからウェイターを呼んだ。

     島唄を聴きながらシークヮーサージュースをお供にゴーヤチャンプルに舌鼓を打つアンカー。向かいに座った花近もご相伴に預かる。
     お祭り好きが、楽しみ全てお預けで残党がいないか警戒。今し方腰を落ち着けた所。
    「綺麗な幾千の星空を見続けていたいからね」
     アンカーの言葉に、花近は小首をかしげて窓の外を見た。
    「沖縄の星空は綺麗だよね」
     純粋な笑顔の花近に、アンカーも楽しそうに笑む。
    「まぁ、そんなところかな」

    ●夜景
     観覧車に乗り込んださくらえは、向かいに座ったエリノアに手を伸ばす。
    「誰も見てないから隣においで?」
    「そういうのなら……」
     エリノアはさくらえの手を取って、隣に腰を下ろした。
     二人で外を見下ろせば、眼下には沖縄の夜の光景。人が居なければ輝くことのない光だ。
    「……エリノアはみんなちゃんと守れたんだよ。……だから、誇っていいんだよ」
     彼の言葉が心に沁みてゆく。
    「そういうキミが、僕は好きだよ」
     エリノアは、潤んだ瞳で微笑んだ。
    「ありがとう、さくらえ。大好きよ」

     あの日、この地を守った学生たちのひと時の休息。
     青からマジックアワーの色を経て闇へ染まる景色は――。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月6日
    難度:簡単
    参加:56人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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