朱雀門高校攻略戦～ロード・クロムの暴挙

■リプレイ

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（「俺は朱雀門の結末を見届ける義務がある」）
　無常・拓馬（カンパニュラ・d10401）が真っ直ぐに朱雀門の建物を睨んだ。かつてシャドウ大戦時に朱雀門との交渉を発案し仲間を集めて提案したものだ。だからこそ、朱雀門の最期を見届ける意志は固い。
　当時の狙いは吸血鬼の横槍を潰すことであり。
　朱雀門の崩壊により半年以上経って叶ったかもしれない。
（「朱雀門高校に攻め入る日が来るなんて。瑠架さんはどう思うのでしょうね。でも、これは敵の拠点を直に見る、またとないチャンスです。ロード・クロムの暴挙を止めるっていうのが目的ではありますが、しっかりと情報収集しないと」）
　四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）としても、感慨深いものがある。
　これから飛び込むのは長年争ってきた者達の場所。身心ともに力が入るのは当然と言えた。
「これ以上、デモノイドの量産をさせるわけにはいかないね。運命に弄ばれるのは、俺だけで十分だよ」
「朱雀門高校とはそのうちわかりあって友好を結べたらと思ってたのに、残念っす」
　ロスト・エンド（青碧のディスペア・d32868）が軽く息を吐き。
　その横で山田・菜々（家出娘・d12340）は、道の小石を何ともなしに蹴飛ばした。
　白い小石はチームの仲間達の横を転がって、他の班の灼滅者達の足元まで迷い込む。ここにいるのは、正面から突入する予定の者達だった。
「これだけ味方がいると心強いおっ！」
「ここ以外からも侵入組あり。万全を期した布陣なり」
　マリナ・ガーラント（兵器少女・d11401）や卜部・泰孝（大正浪漫・d03626）の言う通り。今回は正面から行く班と、他のポイントから入る班がいる。そこから各々のチームで動く予定だった。
「当然というか、学校の門は閉鎖されているね」
　矢崎・愛梨（高校生人狼・d34160）が見据える先には、固く閉ざされた門。
　侵入者を拒む雰囲気を醸し出している。
「――となれば」
　打ち破るのみ。
　白石・明日香（教団広報室長補佐・d31470）が言葉を終えるのと、皆が駆けるのとどちらが早いか。灼滅者達は鬨の声をあげて、強引に門を強行突破する。すると、騒ぎを聞きつけたのか６体のデモノイドが迎撃に出てきたが――。
「この程度！」
　今回は戦力差が違う。明日香が気炎をあげ、他の班員とともにサイキックを放ち。数の力で圧倒して灼滅、そのまま敷地内に足を踏み入れた。
「ロード・ウラベだった卜部泰孝の帰還だ、道をあけな」
「おおっ！？　や、泰孝お兄ちゃんのまともな喋り久々に聞いたけど、本物かおっ？」
「我、平易な言い回しも可能故」
　泰孝は包帯を破り捨てて素顔を晒し、自班の先頭を歩く。
　普段とは異なる仲間の口調に、マリナは驚きながら用意しておいた灯油を撒いた。ちなみに、マリナは泰孝の包帯の下に冷や汗が滲んでいることに気付くことはなかった。
「よし、準備完了。火をつけようか」
　他のチームが校舎内に入ったのを確認。
　拓馬は撒いた油に点火する。学校部分の建造物は鉄筋コンクリートで作られているが、構造自体は通常の建築物。自然、火は次第に大きく膨れ上がり、普通に火災へと発展する。
「今回、こちらは派手に動いて目立つ必要があります」
「おいらたちは陽動ってわけっすね」
　悠花の言葉に、菜々が頷く。
　この班は破壊工作に重きをおきつつ、注意を引きつけてかき回す役目を負っていた。それにより少しでも、他チームが上手く動けるようになるはずだった。
「何もかもぶっ飛ばします」
「校舎は壊してしまっても構わないよね」
　燃え盛る校舎の壁を、愛梨が高らかに壊す。
　ロストもDESアシッドで強酸性の液体を飛ばし、校内を腐食させていった。最後尾から派手にゆっくりと行軍する。
（「退路だけは考えておかないと」）
　明日香は意識を研ぎ澄ませた。
　敵と遭遇した場合に囲まれることだけは避けたい。そう考えていると、ちょうどブルーの鎧騎士がゆらゆらと現れる。
「ククク……我が全裸に魅せられし者共が集っておるわ……！」
「オオオオオ！！」
　拓馬はいつの間にか紙袋と股間に禁則事項と書かれた前貼り一つのナリになっていた。目立つことで敵を引きつけるためである……あくまでも。そんな彼に、敵はまっすぐ突進してくる。
「おっ、クロムナイト！」
　横合いからマリナが斬影刃を放つ。
　影の先端が鋭い刃に変わり、敵を斬り裂きにかかる。拓馬に気をとらわれていたデモノイドは、それをまともに喰らう。
「さあ、かかってくるっす。おいらたちが相手っすよ」
　菜々もはりきって、レッドストライクを繰り出す。
　思い切り相手を殴り飛ばして、びしりと敵に対して宣戦布告を行う。クロムナイトはくらくらと二歩三歩と後ずさった。
（「敵に脅威と思われるようにしないとですね」）
　悠花はオーラキャノンをホーミングさせる。
　両手に集中させたオーラを、敵に目掛けて放出し。スナイパーとして、ピンポイントで頭部へと命中させる。
「オオ……オオオオオオオオ！！！」
「 どうした、壊されたくないなら出てきたらどうだ、クロムよぉ。折角のデモノイド設備、他に大切な場所もあるだろ、壊されたくないなら出てきたらどうだ？」
　泰孝はクロムナイトの剣を見切って躱し。
　目の前の相手に対して、というより。どこかにいるであろうこの騒動の元締めへ向けて言い放ち。ヴォルテックスを展開した。敵と校舎がずたずたとなる魔術だ。
「やい、ロード・クロムとやら、出てこい！」
　続いて愛梨も叫び。
　クロムナイトへサイキックフラッシュを浴びせる。剣を構成する光を爆発させて、敵の武器を封じにかかった。
「まずは守りを固めようか」
　ロストはディフェンダーにラビリンスアーマーを施す。
　壁役たる拓馬の身体を、帯で鎧の如く覆い。格好的に防御力に不安のある仲間を補強した。
「一気にいく」
　明日香はクラッシャーの火力を如何なく発揮。
　間合いを急速に詰め、雲耀剣を振るう。中段の構えから、まっすぐに早く重い斬撃を振り下ろし、相手の剣ごと断ち切る。 クロムナイトの右肩に深く刃がめりこんだ。
「凍ってもらおうか」
　畳み掛けるように、拓馬はフリージングデスを唱えた。
　急激に熱量を奪われた青の騎士。身体の各所が氷づき、動きのぎこちなさに拍車がかかる。
「ジャマをスルナ！　灼滅者！！」
「おっ、と。危ない危ない」
　ダメージを受けたクロムナイトは、戦意を上げて大剣を振り回す。
　マリナはそれを日本刀で受け止め、逆にカウンターで斬り結び。メディックの菜々は、味方の回復を主体に務め態勢を整える。
（「生徒全員をデモノイド化するなんてひどいっす。とにかく、放置するわけにもいかないっすし、仲間と協力して、できることをやるっすよ」）
　身心ともに気力が充実する。
　そして、今できることは皆で前に立ち塞がる敵を打倒することのはずだった。
「確実に狙っていきます」
　悠花は攻撃のたびに何度も丁寧に射線を引いた。
　クロムナイトは逃げおおせることはできず。的確に相手を削っていき、身体中に負傷の跡が出来上がった。
「私たちは負けない！」
「同感だね」
　果敢に攻める愛梨の鋼鉄拳が深々と、敵の腹部にめりこみ。
　ロストがレイザースラストで追いうちをかける。地震で建物が倒壊するがごとく、クロムナイトの巨体が大きく揺れる。
「恨むなら、自分の主人を恨みな」
　泰孝による渾身のロケットスマッシュ。
　その衝突音は校舎内に響き渡り、クロムナイトは主の名を呼び間もなく四肢を粉砕され。二度と起き上がることはなかった。

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「灼滅者！　灼滅者！！」
「わんこそば形式っすね。次々来るっす」
　菜々はうんざりしたように、今日何度目か分からないヒールを使う。
　最初のクロムナイトを皮切りにしたように、次々と敵が現れて連戦が続いたのだ。移動しては遭遇、遭遇しては戦闘。その繰り返し。
「しかも、通信機の類は一切使用できないしな」
「せっかく色々準備したのにおっ」
　明日香は黒死斬で敵を斬り伏せ。マリナはイカロスウイングで捕縛をかける。もう何体も敵を倒してきた。そういったことも含めて、味方と情報を共有したかったが。校舎内では連絡する手段が使えなくなっていた。おかげで、他の班がどう動いているかは不明な状況だ。
「恐らくは、なにか妨害装置のようなものがあるのだろう」
「敵地だし。それは考えられるね」
　ロストの言葉に、拓馬が頷きつつクルセイドスラッシュで敵を薙ぎ払う。
　一刀両断されたクロムナイトが動かなくなるのを確認して、一行は周囲を見回した。自分達以外に立っている者はおらず何回目かの戦闘が終わる。
「さて、またまたウラベのお通りだ」
　泰孝はルイスから提供された見取り図を手に、再び歩き出す。内部情報を持ったルイス達が離反しているのは相手も知っているので、対策として改築を行ったり、逆用して罠にはめるような事をしている危険があるので、あくまでも参考程度の情報ではあるが。
「何にしても。かき回しはこちらがするから、細かいところは任せるしかわないわね」
「予定は当初と変わらずですね」
　愛梨が校舎を破壊しつつ進軍し、悠花は轟雷を所かまわず放ちながらついていった。念のために、王者の風を使っておくことも忘れない。灼滅者達がこうした破壊活動を行い続けた成果として、朱雀門の校舎内は暴風雨が通り過ぎたような有様となっており。時が過ぎるごとにひどくなっていく。
　そんな灼滅者達の前に新たな影が一つ二つと現れる。
　それは――。
「デモノイド……か」
「しかも未完成型みたいだおっ」
　ダークネス達の後ろには、割れたガラスのカプセルのようなものが佇んでいた。どうやら、灼滅者達が建物の破壊をした結果、デモノイド化装置が故障し、未完成のデモノイドが動き出してしまったようだった。
「ウガアアアアアアアァアア！！！」
「ひょっとして、今まで倒してきたのも」
「調整中に出てきた輩だったのかもしれんな」
　吼えて向かってくる怪物達に、拓馬がフリージングデスをぶつけ。泰孝は大震撃で迎え撃つ。周囲の温度が急激に下がり、地面が激しく揺れ動いた。
「人の命を道具としか思えない……。奴らも不死王や悪魔どもと同じだね」
　ロストはラビリンスアーマーで味方を支援する。あまり感情を表に出すことはないが、ロード・クロムに対しては、ただ嫌悪感と怒りしかない。未完成のデモノイドを破壊するのにも躊躇いはないものの、複雑な心境ではあった。
「後ろからも来ています」
　悠花はバックアタックを阻止せんと、ヴォルテックスを起動させる。
　魔術によって生み出された竜巻がデモノイドを切り刻み、未完成な身体の肉をえぐり取る。
「ヌオオオオオオ！！」
　このデモノイド達は数時間程度で自壊して死滅する運命だ。ただし、ただ自壊を待っているわけにはいかない。最後の最後まで暴力的な力を如何なく発揮して、灼滅者達へと遅いかかかってくる。
「油断しちゃだめっすよ」
「ええ、分かってる」
　菜々はイエローサインを使って、皆をヒールした上で耐性をあげる。
　今こそが踏ん張りどころだった。愛梨もシャウトで回復する。
「錆となって消えろ」
「ッツ！」
　明日香のフォースブレイクが炸裂。
　ボロボロとなった肉体に内側から魔力を流し込まれ。大爆発を起こして四散して、一体のデモノイドが沈む。
「コロスッツ、コロスッツ！」
「させないよ」
　拓馬はがっちりと相手と組み合い、剣を閃かせた。
　守りの要が自分一人のため倒されないことを重視し、装甲をより強固にして盾役としての役割をどこまでも全うする。
「縛り上げるよおっ」
　マリナが影縛りで、相手の全身を封じる。
　影で作った触手を放ち、敵を絡めとり動きを制限し。彼女が創り出した好機を逃さず、そこを仲間達が一気に叩く。
「せめて、安らかに眠れ」
　泰孝のトラウナックルが火を吹く。
　少し前まで人間であったダークネスは、ひとたまりもなく瞬殺される。恐らくは苦しむ間も嘆く間もなく逝ったことであろう。
「手加減はしません」
　悠花がリングスラッシャー射出を射出。
　サイキックエナジーの光輪がどこまでも標的を追い続け、敵の首を掻き斬るまで止まることはない。
「オ……オオ……」
「俺が君達にできることは、こうして呪縛から解放してやることだけだよ」
　ロストはデモノイドに対しては哀れな犠牲者としか思っていない。それでも攻撃の手は緩めない。せめてもの介錯。コールドファイアによって、満身創痍だった敵にトドメを刺す。
「人間として生きてる人は本当に誰もいないんすね」
　少なくともこの区画において、この場においては。
　自分達の前に広がる光景はそうだ。
　仲間を癒しながら、菜々は崩れゆくデモノイド達をじっと眺めつづけていた。
「ちょっと可哀想な気もするけど……。悪いのは『ヤツ』よ」
　愛梨のブレイドサイクロンが吹き荒れ。
　大方の勝敗は既に決しようとしていた。

　ぴんぽんぱんぽん。
　戦場にはそぐわぬチャイム音は、それ故に際立つ。
「何だ？」
「校内放送？」
　デモノイド達を倒しながら、更に進行していた灼滅者達だったが。拓馬が耳にとまった音に首を傾げ。明日香も思わず足を止める。
『こちら放送室、平・和守だ。皆、聞こえるか？』
　それは他チームの灼滅者達からのメッセージだった。
　全員が自然と耳をすませる。
『放送室の制圧、並びに通信機器の電波を妨害していた装置の停止に成功した。そしてたった今、ロード・クロムと交戦していたチームより、ロード・クロムを灼滅したとの報せが入った』
　思わず皆が顔を見合わせる。
　聞き間違いだろうか。
「ロード・クロム――」
「――を灼滅？」
「本当に？」
　泰孝を始め、ロストや愛梨がその意味を吟味するより前に。
　放送の言葉が駄目押しをする。
『繰り返す。ロード・クロムは灼滅された』
　この瞬間。
　万感の思いを込めた勝利宣言が、陥落した朱雀門高校に響き渡った。
「みんなはうまくいってるみたいっすね」
「やったおっ！」
　嬉しそうに菜々が頷いた。
　はしゃいだマリナの拍手が雨のように降り注ぐ。きっと他の所でも同じように実感していることだろう。自分達は勝ったのだ。
「長居は無用ですね。残敵掃討して撤退しましょう」
　退路を確認した悠花に促され。
　灼滅者達は意気揚々と歩を進める。ロード・クロムの暴挙は、その主の撃破という成果をもって制圧された。派手に壊した校舎内の火はまだ止みそうなかった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月4日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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