朱雀門高校攻略戦~終焉のカンパネラ

    作者:西宮チヒロ

    ●violento
    「かのロード・クロムが、暴挙に出ました。――『朱雀門の一般生徒すべてをデモノイド化するという、暴挙に」
     初夏の夕暮れの彩に染まる教室に、小桜・エマ(大学生エクスブレイン・dn0080)の声が響いた。眼前に集った灼滅者たちから、緊張を孕むその声の続きを視線で促され、娘は静かに頷く。
    「先日の『胎蔵界戦争』は、ロード・クロムにとっては、私たち武蔵坂学園を攻撃する絶好の機会のはずでした。ですが、彼はそれをしなかった。何故なら、その戦争の情報が、彼の許へ届いていなかったからです」
     ロード・クロムが掌握したとされていた、朱雀門高校の組織。
     だが、組織の重要な部分は、敢えて朱雀門に残ったルイス・フロイスの信奉者が握っており、ロード・クロムの情報収集を阻害していたのだ。
     結果、彼は好機を失った。
    「ロード・クロムは、その原因がルイスさんの信奉者……スパイにある、と考えました。ただ、誰が該当者なのかは解らない。だから、全生徒をデモノイド化することにしたんです。――彼に忠実な者も含めて」
     無論、すべての生徒にデモノイド化の素質があるとは限らない。デモノイド化せず命を落とす生徒もいるだろう。それでも、このまま見過ごせば相手の戦力増強となるのも確かだ。
     そしてこの情報は、そんな死地から逃げ出した信奉者が、死に物狂いでもたらしたもの。
     だからこそ、娘は語気を強めて言う。
    「ですから皆さんには、朱雀門高校に攻め込み、警備のデモノイドを倒しつつ、調整中のデモノイド……朱雀門高校の元一般生徒を、灼滅してきて欲しいんです」
     サイキックアブソーバーの予知がない状況下での突入作戦となるが、情報が正しければ、敵戦力はデモノイドのみ。力推しでの制圧も可能だろう。
     逆を言えば、調整中のデモノイドが動き出す前だからこそ可能な作戦。
     この手段が取れるのは、今しかない。
     それと、これはできれば、の話ですが。そう前置きして、エマが添える。
    「デモノイドの首魁の一人、ロード・クロムも灼滅したいところですが……彼がどこにいるかまでは解ってないので、校内にいるかどうかは賭けになります」
     それでも、灼滅者たちは識っている。
     その『賭け』の『確度』を上げるのもまた、戦略次第だということを。
     
    ●rigoroso
     エクスブレインの娘はひとつ息を吐いて間を置くと、肩口から毀れた波打つ髪を耳に掛け、手元の資料を繰る。
    「今回は、まずは朱雀門高校のデモノイド勢力拡大の阻止が目的ですが、校内にもしロード・クロムがいたら、可能な限り灼滅をお願いします」
     この闘いで『ロード』を倒すことができれば、爵位級ヴァンパイア勢に少なくない打撃を与えることとなる。
    「ただ、警備のデモノイド、調整中のデモノイド、そしてロード・クロムがそれぞれどこにいるかは解っていません」
     故に、どんな場所を、どんな方針で捜索するかなど、指針を決めておく必要がある。
     また、襲撃開始後、あまり時間をかけすぎると、爵位級ヴァンパイア勢が増援に現れる可能性もあるから、今回は特に、素早く、的確な行動が求められるだろう。
    「ロード・クロムが校内にいる可能性は高いですが、絶対とは言えません。ですから、いないかもしれない彼の捜索にあまり時間をかけるわけにもいきません」
     それでも、もしいたのなら――是が非でも灼滅するべき対象であることも、確か。
     もし彼を狙うのであれば、状況が不利となれば撤退される恐れもある。そうさせないための対策もまた、必要だ。
     いずれにしても、1チームだけですべてを賄うことは不可能だ。他チームとのある程度の連携が、作戦成功の要となるだろう。
    「朱雀門高校のかわりに、爵位級ヴァンパイアがミスター宍戸に接触する危険性もあります。……そうさせないためにも」
     どうかお願いします。
     そして、ご武運を。
     祈りを言葉に代えて、エクスブレインは灼滅者たちの背を見送った。


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)
    サフィ・パール(星のたまご・d10067)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    ステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)

    ■リプレイ


     幾ら堅牢な門も、圧倒的な力の前では無力に等しかった。容易く破壊され、唯の鉄屑となったそれを踏み越え、灼滅者たちは朱雀門高校の敷地内へとなだれ込む。すぐさま迎撃せんと6体のデモノイドが立ち塞がったが、それすら瞬く間に灼滅され、足止めにすらならなかった。
     放送室占拠を狙う班と分かれた後、サフィ・パール(星のたまご・d10067)たちは、メディックの立ち位置を選んだステラ・バールフリット(氷と炎の魔女・d16005)と葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)を囲むような陣形を維持したまま、途中までルートを同じくする他の2班と共に廊下を疾駆していた。
     傍らを伺う新沢・冬舞(夢綴・d12822)の視線に気づいた詩夜・沙月(紅華護る蒼月花・d03124)は、心苦しそうに首を振った。闇落ち時の記憶というものは、存外残らないらしい。校舎内部の詳細に関しては、昨年秋に堕ちてからひとときの間、朱雀門学園に滞在していた沙月の記憶を頼ることも考えていたが、現地を訪れてもなお、記憶にかかった靄が晴れることはなかった。
     ここへ来る前、以前冬舞たちが闇堕ちから救出したリーナ・ウェルトンにも尋ねてみたが、同じことを言っていた。ならば、それ以上を求めはしまい。「謝ることはない」そう言って、青年は淡く微笑む。
     手許にはルイスから受け取った見取り図があるが、敵とて愚かではない。内部情報を持ったルイスたちの離反を識っているのならば、改築や、あるいは逆にそれを利用して罠を仕掛ける可能性も十分考えられるだろう。
     ならば、参考程度の情報として扱うのが妥当か。とはいえ、潜入というより正面襲撃に近しい今回の作戦ならば、地図通りでなくとも大きな問題にはなるまい。そう心中で思い至り、ステラは改めて前方を見据える。
     仙道・司(オウルバロン・d00813)の胸元では、鎖に通した銀の鈴が揺れていた。既に、携帯電話や無線が通じないことは最初に確認済みだ。そして、それらが通じないのであればハンドフォンとて同じこと。ならば、他班との連絡手段は、このちいさな笛ひとつに掛かっている。
    「……どう?」
    「大丈夫です」
     小声で尋ねたエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)へ、曲がり角で先を伺っていた睦月・恵理(北の魔女・d00531)が振り返り、微笑した。当初恵理は旅人の外套でのカモフラージュを考えてはいたが、ESPとしての効力にも限度がある。自分以外をカバーするのは無理だと察した後は、偵察役たる己自身に使うことで役立てている。
     総勢20名以上による校内特攻。
     その脚を止めたのは、銀の甲冑に身を包んだ12体のクロムナイト部隊だった。咄嗟に陣を展開するも、それが終わるまで待ってくれるような輩でもない。
     先陣を切っていたが故に、排除すべき侵入者として最初に認識されたのが自班だったからだろう。クロムナイト部隊が、容赦なく一斉に襲いかかる。
    「させません、ですよ」
     振り下ろされた巨大な刃を受け止めたのは、護り手たるサフィだった。幼くとも、ちいさくとも、娘とて灼滅者に代わりはない。獲物を払って刃をはじき返すと、その足許をくるりと一巡りした相棒・エルもまた、呼応するように一鳴きする。
     それでも、如何せん敵の数が多すぎた。次々と繰り出される攻撃を防ごうにも、手数が足りない。後方でサウンドシャッターを展開しながら、前線へと百花が叫ぶ。
    「沙月さん、左っ……!」
    「仲間の危機は見過ごせないぜ!」
     言いながら飛び込んできた槌屋・康也が沙月をかばい、
    「はい、ストップ。そっちには行かせないよ」
     影龍・死愚魔もまた、4体のクロムナイトの道をその身で塞ぐ。
    「皆さん、ありがとうございます」
     娘の礼に続き、一同は即座に視線を巡らせ、そして頷き合う。
     1班対12体は厳しくとも、ここにいるのは自班だけではない。心強く頼もしい、2班の仲間がいる。ならば、話は簡単だ。
    「じゃあ、ボクらはこっちの4体ですねっ」
     狙いを定めた司が、そう勝ち気な笑みを浮かべた。


     ステラの治癒の夜霧に包まれながら、恵理の炎が1体を焼き、冬舞の冷弾が1体を凍てつかせた。百花の相棒たるリアンに強化を壊されたところへ放たされサフィの魔矢が、次ぐ1体を屠る。
     攻撃主体の各個撃破。
     相談のうえに立てた戦略が功を奏していることを、誰もが実感していた。容易く御せる相手ではないが、それでも長期戦での疲弊は免れている。司の相棒たるアリアーナをはじめとするちいさな勇士たちも、その確かな一助となっていた。
     残り1体となったクロムナイトの光線を躱しながら、エアンが周囲を手早く見渡した。
    (「さて、当たりかな? それとも……はずれ?」)
     警備が厚ければ、それだけ何かある可能性も高い。ならば、12体も現れたこの場は相応の何かが在ってもおかしくはない。とはいえ、こんな廊下の途中に、調整中デモノイドが入ったカプセルが置かれているとも考えづらい。
     故に、エアン自身も計りかねていた。当たりか――外れか。
     司の星燦めく重い一撃に片膝をついたクロムナイトを、沙月の神風が飲み込んだ。荒れ狂う風は無数の刃となって敵を切り刻み、立ち去った跡にはもう、何も残ってはいなかった。
    「これで終わり……?」
    「いえ……どうやら、出迎えに来てくださったようです」
     百花へと返しながら、ステラは冷めた青い眼差しを廊下の奥へと向けた。暗闇から溶け出すように現れたのは、更なる12体のクロムナイトと、そして。
    「やれやれ。第一陣の出荷が終わった後で、兵が足りないというのに。面倒なことをしてくれたものです」
     ノンフレームの眼鏡を押し上げ、長身の青年が大仰に嘆息した。
     彼こそが今回の元凶――ロード・クロム。
    「しかし、あなた達の方からここへ来てくれたことはある意味幸運でした」
    「幸運……?」
    「あなた達を捕らえて『撤退しなければ殺す』とでも脅せば、腰抜けの灼滅者達は必ず撤退するはずですから」
     そう冬舞たちへ人好きのする笑みすら浮かべて平然と言い放つと、ロード・クロムはおもむろに眼鏡を外した。青い眸が赤く染まり、場の空気が一変する。
    「人質の半分をすぐに解放して、残り半分は俺が撤退する時に残していくといえば、交渉に応じざるを得ないだろう。なあっ!」
     腰の長剣を引き抜くと同時、ロード・クロムの身体が西洋甲冑にも似た青い異形へと転じた。くつくつと笑みながら、不敵に告げる。
    「安心しろ、おまえらは大事な人質だ。命だけは取らないでおいてやるっ!」
     一瞬に間合いを詰め、上段から切っ先を振り下ろす。
     それが、12体のクロムナイトへの、強襲の合図であった。


     瞬く間に混戦となった。
     戦場に光がほとばしり、爆風が沸く。闘いの最中で、各班ある程度は自然と対峙する敵が定まりつつはあったが、それとて誰が決めたものでもない。一瞬、一瞬で変化してゆく戦況に、先の戦闘での疲労が残る灼滅者たちも、場を制するだけの余裕はない。
     エアンの言葉で言えば、ロード・クロムと相まみえられたこの状況は、ある意味『当たり』だったのだろう。
     本来、遭遇できなくてもやむを得ぬ相手だ。そして、彼との戦闘は灼滅者たちの想定内でもあった。
     そう。既に皆、腹は括っていたのだ。
     だからこそ、余裕はなくとも、焦る者も居はしなかった。己の役目を果たしながら、誰しもが戦況を把握せんと、視線と五感を巡らせる。
     仲間の傷を癒しながら、ロード・クロムと対峙している他班の面々が、1人、また1人と崩れ落ちてゆくのを視界の端で捉えていたサフィ。その傍らをエアンが飛び出したのは、自班に襲い来る何体目かのクロムナイトを撃破したところだった。
    「いいだろう。ならば2人まとめてくたばれっ!」
     冬城・雪歩と華宮・紅緋へ目掛け衝撃波を放たんとした男の死角へと回り込み、至近距離からその背を貫く。血濡れの刃を介して伝わる、肉を抉る感触と、流れ込む力。すぐさま距離を取り、こちらを睨めつける男へ優美に微笑む。
    「まだ、これからだろう?」
    「エアンさん!」
     自班も相応に負傷していることは解っていた。けれど、自班のほうがまだ余裕があるのもまた、事実。
    「……喰らうといい」
     手にした十字架を向け再び地を蹴ったエアンに、司も続く。
    「ロード・クロム……不信に苛まれ愚かなことを」
     自らの信奉者にすら施すなぞ、娘にとっては必敗としか思えなかった。寧ろ男を哀れとさえ思う。
     それでも。
    「その行為、赦す訳にはいきませんっ! ――一般生徒を巻き込んだ償い、御身の灼滅という形で受けて貰いましょう」
     身を屈めて、弾丸のように飛び出した娘は、その勢いのまま、ロード・クロムへと炎の脚撃を見舞った。熱に飲まれ呻き声を洩らす男へ、恵理が冷酷な声で告げる。
    「あなただけは、赦しません」
     もう戻れず、後は使い捨てられるだけの運命となった調整中のデモノイドたち。それを倒さねばならぬ重苦しさは、娘の中で静かな怒りへと転じていた。
     彼らを助けることにはならない。けれど、救いになれば。そう強く願いながら振り抜いた銀帯が、ロード・クロムの胸を容赦なく穿った。反動で吹き飛ばされ、激突した壁もろとも床へと崩れ落ちた男へと、冬舞も無慈悲な闇の弾丸を見舞う。
    「戦略的には確かに楽だろう、な。だが、人道的にも超えていけない一線だ」
     だからこそ、逃しはしない。
     一般生徒たちが、この男にそうさせられたように。
     骨もろとも穿った弾が、男の肉体を蝕んでゆく。これが弔いになるかは解らない。それでも、どうか夢の中では良き想い出とともにあることを、青年は願ってやまない。
     それは、沙月も同じだった。
     犠牲者を想えば、その惨さには言葉も出ない。だが、幾ら嘆いても現実は変えられない。間に合わなかった自分に謝罪する資格もない。ならば、これ以上の犠牲を出さぬためにも、ここで討ち果たせるよう力を尽くすまで。
     巨大な十字架がロード・クロムを打撃し、突き、叩き潰す。可憐な娘の繰り出す攻撃には、微塵の情けもありはしない。それでも、ゆらりと起き上がった男は笑みを絶やさない。
    「良い威力だ。だが、いつまでその威勢を保っていられるかな」
    「っ! 後ろ、です……!」
     サフィが反射的に後衛を振り返った瞬間、男が放った光の刃が百花の身体を切り裂いた。深く抉られた胸を押さえた白い指先を、止めどなく溢れる鮮血が伝い落ちる。
    「百花!」
    「もも、は……だいじょう、ぶ」
     悲痛なるエアンの叫びに、それでも娘は笑ってみせた。
     自分とて灼滅者。そして此処では、戦術の要たる癒やし手だ。咄嗟に掛けられたステラの治癒に、己のそれも重ねて傷を塞ぐ。
    「ほう。やはり随分手厚いバックアップのようだな。ならば――おまえたちも奴らから潰せ」
     男の声に、近辺の騎士たちが呼応する。
     攻撃に軸を置いた作戦。その要となる回復役は、同時に弱点でもあった。男がそれを見過ごすはずもない。その後衛が6名いるのなら、尚更。
     それを見越した冬舞が予め鎧の守護をかけていたが、回復威力の低下、そして執拗な集中攻撃が、癒やし手たちの体力を奪い尽くすにはそう時間はかからなかった。司も回復に回るが、それでも蓄積された傷までは癒やしきれない。
    「ごめんなさい……」
     悲痛な面持ちで毀れた呟きに、ステラはゆるりと首を振って微笑んだ。そのまま力なく地に崩れた傍らで、百花も膝をついて倒れ込む。
    「……リ、アン」
     ――リアン、ももは……今持ち場を離れて、えあんさんの隣には行けないから。ももの代わりに、しっかり彼を護ってね?
     この大きなな戦いの中で、特別な人にだけ感情を向けてはいけないと判っている。
     けれど、心はいつだって隣にいるから。
     ――必ず成功させて、揃ってお家に帰ろうね!
     戦場へと赴く前に掛けられた、主の言葉。名を呼ぶ声に応えるように、黒い長毛の仔猫はひとつ鳴いた。その澄んだ声に突き動かされるように、エアンが駆ける。
     決して、赦しはしない。ここが朱雀門故に元より攻撃的だった心中に、一層火が点る。

     だが、戦略は明らかに崩壊を始めていた。
     既に目的を果たしたと見たのだろう。ロード・クロムもまた、目標を前線へと切り替える。次に潤沢な回復役がいるのは、其処だからだ。
    「……っ」
     クロムナイトたちの、そしてロード・クロムの重い一撃に、サフィはそれでも歯を食い縛り、両の脚に力を込めて耐え凌ぐ。
     戦場を元気に駆け巡り、共に闘ってくれていた相棒は既に落ちていた。
     けれど、まだ立ち止まれない。立ち止まってはならない。
     人のために。愚かなる王の贄となった、一般生徒のために。
     ロード・クロムを押さえつつ、クロムナイトにも応戦する。潤沢な回復を失った今、無謀な戦況にしか思えないが、それでも各個撃破という灼滅者たちの策は揺るがない。
    「……これ以上の犠牲は出させません」
     沙月の巨大な腕が騎士を捉え、恵理の燦めく刃がその身体を両断する。決死の覚悟で駆けてきた信奉者。そして犠牲となった者への敬意と祈りを込めた一撃に、抗うものを持たぬ騎士は唯々霧散して消えてゆく。
     それでも尚、男は嘲笑う。
    「それで攻勢に転じたつもりか? ――甘いな」
     武力でもって男を押さえていたエアンへと向けられる凶刃。
    「エアン、さん……っ」
    「サフィさん、無茶ですっ……!」
     咄嗟に飛び出した星の娘へ、司が叫ぶ。いかに護り手のサフィとて、既に体力の限界に達しているのは火を見るよりも明らかだった。
     上手くいっていれば避けられたかもしれない闘いを前に、胸の底に溜まってゆくのは、朱雀門の生徒たちへの罪悪感ばかり。その想いが、今はサフィを駆り立てた。
     自分たちの縋る信念は、脆い物かもしれない。それでも、幸福な世界をと、信じ願いたい。
     瞬間、男の後方から勇ましい声が響く。
    「ここからはウチらが相手になるんよぉ!!」
     その後頭部を激しく蹴り飛ばしたのは、雲・丹だった。次いで他の灼滅者も駆けつける。
     継いでくれたのだ。仲間たちが。
     何よりも心強い加勢を受けて、残った者たちも体制を立て直す。
     冬舞の刃が、その頑強な鎧ごと最後のクロムナイトを屠ったのと、ロード・クロムが最期を迎えたのはほぼ同時であった。
     静寂を取り戻した廊下に、ひとつのコール音が響く。僅かな通話ののち、すぐさま校内放送を知らせるメロディが流れた。
    「こちら放送室、平・和守だ。皆、聞こえるか?」
     伝えられるのは、放送室の制圧、通信機器妨害電波の停止と、そして。
    「たった今、ロード・クロムと交戦していたチームより、ロード・クロムを灼滅したとの報せが入った。繰り返す。ロード・クロムは灼滅された……この戦い、俺達の勝利だ」
     終焉の鐘の余韻が残る中、それは紛うことのない、武蔵坂学園の勝利宣言であった。

    作者:西宮チヒロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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