修学旅行2017~ようこそ夜の沖縄肝試しへ

    作者:陵かなめ

    ●修学旅行
     今年の修学旅行の日程が、7月4日から7月7日までの4日間に決定しました。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学1年生と大学4年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦(卒業)旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄本島です。
     これには、先日のアッシュ・ランチャーによる上陸作戦の際に、沖縄に取り残されたアンデッドや兵士がいないかの捜索と安全確認を行うという理由もあります。
     が、勿論、旅行先では沖縄料理を食べ歩いたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツやトレッキングなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

    ●ようこそ夜の沖縄肝試しへ
    「修学旅行には肝試しがあるって、知ってた?」
     どこか陰鬱な雰囲気をかもし出しながら、千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)が静かに語り出した。
     楽しい沖縄。青い空に白い雲。皆心行くまで沖縄を楽しむことだろう。
     しかしである。
     夜は必ず来るのだ。
    「今年は、広い墓地の近くの林に行くんだよ。夜にね、この肝試しのために貸し切りバスが出るからね」
     墓場の隣にある林が肝試しの会場だ。参加者は2~3人の組になり、林の中にあるお堂を目指す。お堂には参加人数分のろうそくが置いてあるので、それを取って帰ってくると言うわけだ。
     ちなみに、林に潜んで脅かす役も募集中である。この場合は、貸し切りバスの到着より前に現地入りし、参加者を待ち構えておいてほしい。暗闇の危険もあるので、できればこちらもそれぞれ2~3人のグループでお願いしたいとのことだ。
    「一応の注意なんだけど、もし沖縄に取り残されたアンデッドや兵士を見つけた場合は、すみやかに撃退してね」
     肝試しをするにしても、脅かす役目にしても、暗い林の中で、大好きな恋人や気になるあの人との距離をぐっと縮めるチャンス、かもしれない。
     本当のアンデッドが出たら撃退して、そうでなければめいっぱい騒いで怖がって肝試しを楽しもうというわけだ。
     なお、お堂は林の最深部にある。入り口から道をたどっていけばたどり着けるはずだ。また、肝試し中はESPの使用は禁止である。己の勘や肉体のみでろうそくをゲットするのだ。アンデッドと遭遇した場合に限り、力の解放が許される。すみやかにサイキックの攻撃で撃破しよう。
     夜とはいえ、きっと暑いに違いない。風通しのよい服装や、水分補給などにも気をつけて楽しもう。
     それから少し考えて、太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握り締めた。
    「あの。いちおう、僕も参加しようと思うんだよ。林の中でみんなを待ってるからね。どうやって脅かそうかなー」
     くまのぬいぐるみをぴょこぴょこ操る太郎は、いつもと違ってちょっぴり悪ぶった笑顔で皆を見る。
    「ね、一緒に肝試し行こうね! 修学旅行の夜って、なんだかわくわくするよね!」
     そう言って、話を終わった。


    ■リプレイ


     さて、肝試しの夜が来た。生徒たちが、肝試し場所へ到着したのだ。
    「お姉ちゃん、なんだか怖いよー」
     沙希は、言いながら翠の腕にしがみついた。
    「お、おねーちゃんがついているのですよっ」
     上ずった声で翠が周囲をきょろきょろと見回す。実は肝試しは苦手だけれど抱きついてくる沙希のためにも、しっかりおねーちゃんしないと、と頑張っているのである。
     突然、木の上から何かが飛び出してきた。
     とっさに沙希が拳を握り締める。だが、よく見るとそれは糸に吊るされた黒い塊だ。
     沙希は冷静に判断し、きゃあと叫び声をあげた。
    「ど、どうしましたですか?! なにかいましたです!?」
     その声に驚いたのか、翠もひっとのどを鳴らす。
    「なにか、黒くて冷たいものが!! お姉ちゃん、怖いよー」
    「ええ?!」
     沙希が派手に怖がり抱きつくと、翠も心の底から震え上がった。気のせいだろうか、ぴちゃん、ぴちゃんと、水の滴る音まで聞こえてくる。
    「だ、だいじょうぶなのです」
    「うん」
     二人は抱き合いながら逃げていった。
    「日野森沙希さんでしたね」
     こんにゃくを付けた釣竿を抱え藍が茂みの中から姿を現した。
     たっぷりと驚かせることができただろうか。次の参加者のために、こんにゃくを氷水に浸しながら辺りを見る。
    「なんとなく悲鳴がわざとらしかった気もするけど」
     良太が黒子服の覆面を取った。
    「湿った足音と水音、すごかったです」
     藍がグッジョブと親指を立てて良太を見る。
    「裏方は任せてね」
     良太は手元の道具を確認し、茂みへと潜んだ。
    「沙希ちゃんでしたか。怖かったか聞いてみたかったですね」
     近くの茂みから今度は清美がひょっこり顔を出す。
    「しっ、次の人がくるよ」
     木の陰から登の声が聞こえた。
     2年7組の仲間たちは、顔を見合わせて静かに配置につく。
     まだまだ肝試しは始まったばかりだ。
     彼らは息を殺し次の参加者が通りかかるのを待ち構えた。

     林の中では、戦いの音も聞こえている。
    「ふたりいっしょに戦うコトってめったになかったから、なんか新鮮!」
     ポンパドールが、アンデッドをねじ伏せた。
    「そうだな、確かに二人揃って依頼に行くということは滅多に無かったな」
     ニコが頷き、アンデッドにとどめの一撃を喰らわせる。息の合った攻撃に、アンデッドが消し飛んだ。
    「じゃあ、いこうよ、キモダメシ」
    「大丈夫なのか?」
     ニコの言葉を「まさかそんなガチじゃないっしょ?」と笑い飛ばし、ポンパドールがのしのしと先を歩き出す。
     二人が林の散策を再開した、その時。
    「ひとーつ」
     と、暗い声が背後から聞こえた。
    「?!?!?!」
     ポンパドールが声にならない驚愕の声を上げ、肩を振るわせる。
    「ふたーつ不埒なラブラブ三昧。みっつ醜い浮世のカップルを、退治てくれよう昔の落武者」
     と、そこには、日本刀を構えた鎧武者が佇んでいた。
    「……っく」
     後じさりをするポンパドールと、そのリアクションを見て笑いをこらえるニコ。
     二人の様子に構わず、血糊のついた鎧武者が日本刀を振り回して迫ってきた。
     追い討ちをかけるようにポンポンポンポンポンポン……と、怪しの鼓の音まで聞こえてくる。
     暗い林に、深い闇夜。何かよからぬことを呟く鎧武者は、見ようによっては不気味だなと、ニコは思った。
    「う、うわああぁぁぁぁぁ!!!!!」
     一方、ポンパドールはついに絶叫して走り出す。
    「お前の所為で怖いどころか面白くて仕方が無い」
     そう言って、ニコは友の後を追った。
    「鼓の音も案外効果あるね」
     茂みの中からくすくすと良太の笑い声が聞こえる。
    「このカツラ、かぶっててよかった! あんなに驚いてくれてうれしい!」
     日本刀を構えた登は、驚かせることができたことに気分をよくし、ガッツポーズをとった。

    「こんな蒸し暑い中よくやりますよね。僕ら下手な怪談とかよりヤバいもんいくらでも相手にしてるでしょ。今更肝試しとか……」
     ゲイルは同意を求めるように、隣の千尋を見た。
    「ゾンビなんざ出ない出ない……出」
     表向き平気なフリをしてた千尋は、しかしゲイルの言葉を聞く余裕があまりないようだ。
     近くの茂みで、何かがガザガザと音を立てた。
    「ヒィィイ~~ッ!?」
     まだ相手の姿も見えないけれど、千尋がゲイルに飛ぶように縋り付いた。
    「あ、それはそれで別物みたいですね。ほら、よく見てください」
    「ヴ、ア、アアアアアアア」
    「え?」
     なぁんだ。茂みから飛び出したのはただのアンデッドでした。
     千尋はゆっくりと顔を上げ、敵を見る。
     正体見たり。
    「ひ、人の恋路を邪魔するヤツは~ッ!」
     両手を挙げて戦闘態勢に入ったアンデッドに、千尋の剛拳が炸裂した。
     おー、と。ゲイルが感嘆の声をあげて拍手を送る。
     気を取り直して、二人は再び林の道を歩き出した。
     次にその場所を訪れたのは銀静だった。
     黒いコートを身に纏い、暗い雰囲気でふらふらと歩いてくる。
     背後に気配を感じた。
    「きひっきひひひひひっ……!」
     同時に、狂ったような笑みを浮かべ銀静が振り向く。
    「この僕の物になれ……この僕を愛せ……それが出来なければ……散れぇ!!!」
    「ごごごごごご、ごめんなさーい!!」
     脅かす役目の生徒が怯えたように叫び声をあげて逃げ去っていく。
     銀静は一つ頷き、再び歩き出した。
     さて、討ち捨てられたアンデッドを見つけ、紫姫が痛そうだなと目を向けている。
     そして、いつの間にか一緒に来た二人の姿が見えないことに気づいた。
     はぐれたのだろうか? 分からない。おろおろと辺りを見回してみるも、やっぱり二人の姿はない。
     風が木の葉を揺らす音が響く。今までは平気だったのに、何故かとても怖くなって。
     ふらふらと道を探す紫姫の目の前を、ふいに炎蝶が舞った。
     その少し前。
    「おい……紫姫はどこいった」
     継霧が後ろに付いてきているはずの名前を呼んだ。
    「って、あれ。お嬢さんはどこにー?」
     環もきょろきょろと辺りを見回す。
     どうやら、はぐれてしまったらしい。一刻も早く見つけなければと、来た道を帰ろうとする環を継霧が呼び止めた。
    「ほら、手を貸せ。お前は傍を離れるなよ」
     環が差し出された手を握り、二人揃って来た道を戻る。
     はたして、遠くに見覚えのある姿があった。
     紫姫は二人の姿を見つけ、泣きそうになりながら駆けてくる。
    「心配を掛けさせるな……肝が冷えた」
     怪我をしていないか確認し、継霧は紫姫の頬を浅く摘む。ひとまず、安堵したのだ。
    「ふぁ、しゅみましぇん」
    「無事で良かったですー。さあ、行きましょーか。紫姫」
     環が差し出した手に、紫姫が手を重ねる。
     握り締められた手は絶対に離さない。
     三人は再び蝋燭を探しに歩き出した。

     遠くに、肝試しの悲鳴が漏れ聞こえてくる。
     だが、この辺りは静かだ。
     奏音は近くに誰も居ないことを確認して立ち止まった。
    「知ってた? ずっと前から武流くんの事、好きだったの」
     いつになく真剣な表情で、武流を見る。
     今日はずっと前から秘めていた想いを打ち明けるため武流を誘ったのだ。
     一つ間をおき、武流がゆっくりと答えた。
    「ごめんな。奏音の気持ち、実は気づいてたんだ」
     もっとも気づいたのはかなり後だったけど、その頃には、武流にはすでに好きな人がいた。
     だからせめて友達として付き合おうとしていた、と武流が言うと、奏音はぐっとこらえて顔を上げた。
    「今でもあなたが好き。でも、それは許されない。あなたには大切な人がいるから」
     もちろん実らない恋だって知っている。
     だから、ここできちんと終わらせたい。
    「だからお願い。あなたの手で、あたしの初恋にピリオドを打って」
     武流は思った。中途半端なままじゃ失礼だよな、と。
    「ありがとう。でも、ごめん」
     バカな奴で、本当にごめん。こんな俺で良ければ、これからも友達でいてくれないか? と。
    「Thanx♪」
     それでいい。奏音は一歩前に出て、武流の頬にキスをした。
    「最後なんだから、このくらい許されるでしょ? それじゃ、改めて友達としてよろしくね♪」
     沖縄の風が二人の頬をそっとなでた。

     いちごと朱鷺も並んで夜の林の中を歩いていた。
    「暗いですから気を付けて……ひゃっ?!」
     そこで草が音を立てた気がする。いちごが驚いて悲鳴を上げた。
    『何もいない? 何もいない?』
     朱鷺も少し震えながら周囲を見回す。
     と、いちごが躓き、バランスを崩して倒れ掛かってきた。
     咄嗟に動けず、朱鷺が身体で受け止める。
     地面に打ち付けられるような最悪の事態だけは避けられた。
     いちごは安堵の息を漏らし、手に当たった何かをふにふにと揉みしだいた。
     ふにふにと。なにか、やわらかいものが手のひらに。
    「……ん、この感触は……まさか……?」
    「~~~っ!!」
     顔を上げたいちごと声にならぬ悲鳴を上げた朱鷺の視線が交差する。
     胸をもまれた朱鷺は、顔を真っ赤にしてタブレットでいちごを叩いた。全力で。パニックだから仕方がなかった。手で払うなんて、思いつかなかったから!
    「ご、ごめんなさい!」
     いちごの意識が薄れていく。
     最後に残ったのは、手から伝わる胸の感触だけ。
     ああ、これ、あとで土下座案件だと、頭の隅でそんな事を思った。
    「ふふっ……このリアルな猫とセットでいけるはずですね」
    「暗がりからいきなりですから、きっと怖いですよね?」
     近くの茂みで菜々乃と清美がにやりと視線を交わす。
     2年7組の仲間たちの脅かし役に続けと、二人も次の参加者を心待ちにしていた。
     菜々乃は猫の着ぐるみ、清美は王冠を被ったシーサーの着ぐるみである。
     白い布を被って準備が整った菜々乃の目の前に参加者がやってきた。
    「わーっ」
    「がオー」
     二人が同時に飛び出すと、盛大な悲鳴が辺りにこだまする。
    「おばけなんて! こわくもなんとひぎゃあああああ、今何かッていったひうあううぅいっぅぅぅぅぅ!!!」
    「おー。流石ゆいなさん、全力で肝試し楽しんでるのー。ならルビーはナビゲートの方でがんばるの! 任せてほしいの!」
     そして、悲鳴を上げて意識を失いかけているゆいなは、にこやかに笑うルビードールに引きずられていってしまった。
    「これって、大成功でしょうかね?」
    「た、たぶん。あっちにお堂はないですけど」
     あの二人はゴールにたどり着けるのだろうか。着ぐるみ二人は、悲鳴が遠のいていくのを静かに見送るしかなかった。

    「ふふふ……ついにですね」
     生徒が近づいてくるのを感じ、結島は静かに墓の中にスタンバイする。
    「静菜さん、マイクとスピーカー、準備したよ」
     こそこそと話しかけるのは太郎だ。二人は意気投合して脅しの準備を整えたのだ。
     やってきたのは、唯織、槐、麗月の三人だった。
     なぜ肝試しに来てしまったのか、麗月と槐が口論をしているようだ。二人とも唯織の腕にしがみつき、へっぴり腰でにらみ合っている。
    「どっちも怖がりを認めなかったからこうなったんだろ。あと、歩きづらい腕を離せ」
     唯織が右手に持った懐中電灯で足元を照らした。
     ふと、ギィギィと不快な音がしたかと思うと、続けて壊れたような沖縄三線の音が響いてくる。
     槐がぎゃと悲鳴を上げた。
    「あかん、あかんまじであかんってこれ!!」
     叫んで飛び上がり、無我夢中で唯織に抱きつく。
    「うぉ、ビックリしたぁ」
     全身の体重を預けられた唯織は、体を傾けながら冷静に周辺を照らした。よく見ると、スピーカーや人の影がちらほらと見え隠れしている。
     そして、今度は反対側から引っ張られ、見てみると麗月が声も出さずに腰を抜かしていた。
    「あぁ!! もう、二人とも落ち着けよ!!」
     両側から引っ張られ抱きつかれ、唯織は疲れたようにため息を漏らす。
    「早く行こう。そしたら終わる。早く終わろう」
     目の据わった麗月がガチガチと身体を硬くして二人を促した。
     再び三人が歩き出す。
    「ふふふ、やりましたね」
    「バッチリだね!」
     三線を弾いていた静菜と、マイクで効果音を作っていた太郎が目配せをして喜び合った。
     と、その時。
     近くの茂みからアンデッドが飛び出してきた。
    「そこ、焼くから、いったん下がれ」
     次に燈が姿を現す。
     静菜は太郎を背に庇いながらすぐに後ろに下がった。
     燈の炎がアンデッドを焼き、打ち倒す。
    「ああ、ありがとうございます。ええと、あなたはお一人でアンデッド狩りを?」
    「あ、え? 一人で参加だけど――そんな目で見るなよ」
     嫁とは学年違いだと、燈が静菜に答えた。
     生き残りが居るのはヤバイからと、手が空く限りアンデッドを駆逐していたのだ。
    「助かったよ。えっと、もしよかったら燈さんも一緒に驚かさない?」
     太郎も礼を言う。
     燈はふむと考え、ふわふわの毛玉を取り出した。
     糸を引いて動かせば、キジムナーのように見えるだろうか。
     三人は墓や茂みに身を潜め、次の参加者を静かに待った。

    「高校に引き続き沖縄旅行とは、なんだがか縁を感じますねぇ~」
     菖蒲は旭の手を取り林の道を進んでいた。
     好奇心と高揚とで瞳を輝かせる菖蒲に手を引かれ、旭は言う。
    「また二人揃って修学旅行に参加できるとはなぁ」
     と、その時。
     音もなく一人の男が二人の背後に現れた。
    「ひゃっ!」
     闇の中、血に塗れた軍服を纏いし誰かが日本刀を構えにじり寄ってくる。
     故意に驚かされると弱い菖蒲が悲鳴を上げた。
     傷だらけの顔をした男が口の端を持ち上げて笑う。
     旭は何かに気づき菖蒲の袖を引っ張った。
    「も、もう! もうーいい加減にしてくださいー」
     ようやく脅し役の誰かだと分かり菖蒲が頬を膨らませる。
    「ここまで生き延びて来られたんだ、俺はまた来たいな。菖蒲さんと、一緒に」
     逃げながら、旭が言葉にした。
    「なんですか改まって……まぁ、そうですね」
    「ふふ、改まりもするよ、菖蒲さん相手だもの」
     もう日本刀を持った男の姿は見えない。
    「私と旭さんの仲です、いつでもウエルカムです♪」
     二人は頷きあい、先を目指した。
     日本刀を振るっていた明は、ぴたりと動きを止め二人を見送る。
     しかし、なかなか楽しくて、これはこれで嵌りそうだ。
     そう思いながら、そういえば一緒に来ていたキィンはどこに行ったのだろうかと辺りを見回した。
     と、突如枯葉の中から何かが飛び出す。
     少しだけ驚き、明が表情を歪め――。
    「ブハッ、ゲホゲホォッ」
     棍棒を担いで鬼のような装いのキィンを見たとたん、無表情に戻した。
    「本気で息苦しかったぞチクショウ」
     キィンは顔に纏わり付いた葉を払いながら、何度か咳き込む。
    「なんだ木嶋か。よくそんな所に潜んでたな……」
     どうやら彼は、暗闇の茂みの中、仰向けになり人が通るのを待ち続けていたらしい。枯葉に埋もれ、さぞや息苦しかっただろうに。
    「ちょっとは驚いたか、不動峰?」
    「何? 私に勝負を挑んでくるか」
     そして、何故かキィンが棍棒を明に向けた。明も日本刀を構えこれに対峙する。
    「ヴァアアアアッ」
     ところが、偶然にも茂みからアンデッドが飛び出してきた。
    「驚かす側のイザコザってことでひとつ」
     キィンはガンナイフでアンデッドを撃ち、倒れた敵の身体を踏み台にして明へ向かっていった。
    「……良いだろう。受けて立つぞ!」
     初撃を避け、明がキィンの背後に回りこむ。
     目の端に映ったアンデッドを切り裂いて勢いを殺し、明は走る方向を瞬時に変更した。
     二人が再び向かい合い、打ち合う。
     その足元で、アンデッドは静かに消え去った。
    「……ったく、サボってねぇで戦えっての」
    「あ、忘れてた……ゴメン、任す。カバーはするからロハにしといて」
     幽と狐狗狸子の二人も、アンデッドに遭遇し戦っていた。
     前に出るのは幽で、敵の攻撃は狐狗狸子が受け、捌く。
     大きく跳躍した幽が重い一撃を叩き込むと、アンデッドの身体は崩れた。
     狐狗狸子が息を吐き出す。
    「幽ってば、もうちょっと怖がったげなさいよ」
     そう言って振り向いた目の前に、急いで変装をした幽が、ぼうっと淡い光で自分の顔を照らしていた。闇夜に浮かび上がる不気味な顔。
     ふう、と、吐き出した息が狐狗狸子にかかる。
    「ふぎゃっ!?」
     これには驚いた。
    「おー……予想はしていたけど、全く色気ねぇ悲鳴だな」
     幽がしてやったりと笑う。
    「……いーい度胸ね! アンタをお化けみたいな顔にしてやるわ……!」
    「ぬりかべみてぇな胸して、お化けはそっちだろ」
     狐狗狸子が飛び掛り、幽はひらりと逃げ走る。
     二人の追いかけっこがしばらく続いた。

    「え、えーっと、お堂ってこっちですよね?」
     さて、涙目のゆいながルビードールに不安を訴えた。
    「……お堂? そこにもおばけ、いるの?」
     ルビードールが首を傾げる。
     肝試しとは、おばけに会うのが目的なのでは?
     なお、ゴールは分からない。ルビードールは迷子の常習犯である。
    「え? ちょ、いあ、まってそんなの肝試すどころじゃなくて潰れちゃいますよ私のレバああぁぁぁ!!???」
     互いの認識のずれに気づき、ゆいながルビードールの肩をがくがくと揺らした。
    「おぉ~落ち着くのぉ~ゆいなさんっ。任せて。次は親切なおばけさん探して、道おしえてもらうの~」
    「もう……おばけさんでもなんでもいいから、助けて……!」
     闇夜にゆいなの絶望的な声が響いた。
     辺りのアンデッドは退治したけれど、肝試しはまだまだ続く。
     暗い闇夜が明けるまで、しばらく時間はあるのだから。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月4日
    難度:簡単
    参加:32人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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