修学旅行2017~あおいろ幻想

    作者:菖蒲

     今年の修学旅行の日程が、7月4日から7月7日までの4日間に決定しました。
     この日程で、小学6年生・中学2年生・高校2年生の生徒達が、一斉に旅立つのです。
     また、大学1年生と大学4年生が、同じ学部の仲間などと親睦を深める為の親睦(卒業)旅行も、同じ日程・スケジュールで行われます。

     修学旅行の行き先は沖縄本島です。
     これには、先日のアッシュ・ランチャーによる上陸作戦の際に、沖縄に取り残されたアンデッドや兵士がいないかの捜索と安全確認を行うという理由もあります。
     が、勿論、旅行先では沖縄料理を食べ歩いたり、美ら海水族館を観光したり、マリンスポーツやトレッキングなど、沖縄ならではの楽しみが満載です。
     さあ、あなたも、修学旅行で楽しい思い出を作りましょう!

    ●あおいろ
     手を伸ばせば届きそうな程の蒼の天蓋がある。
     差し込む光のカーテンはきらり、きらりと空の瞬きの様にも思えた。
     修学旅行も三日目。終日の自由行動での学生たちへの一つの誘いは鮮やかなあおいろを思わせて。
     那覇から少し離れたかりゆしビーチ。数多のマリンスポーツが楽しめるその場所は幸いにも晴天に恵まれ沖縄の風景美を味わう事が出来る。
     穏やかな海を楽しむことのできる海中散歩、水上でのジェットスキーやドラゴンボード。
     青の洞窟までのシュノーケリング等、沖縄の海を丸ごと楽しもうと企画された海のはなし。
     幻想をも思わせる海の中は深い夜を思わせる。
     伸びる光に手を差し伸べて――暫し、穏やかな時に身を任せるのもよいだろう。

    「海は広くて、とても素敵で……知らないことが沢山あるのよ」
     修学旅行のしおりを手に不破・真鶴(高校生エクスブレイン・dn0213)は瞳をきらりと輝かせる。
     青の洞窟と言えばイタリアを彷彿とさせるが、呼び名を同じくした場所が沖縄県にもある。
     海水の浸食により出来上がった自然の風景美。差し込む光は鮮やかな幻想を映しこむ。
     その輝きは朝・昼・夕と姿を変えて――曖昧な輪郭に色を付けていくようだ。
    「わたしは、未知の世界はとても好き。きらきらで、綺麗で……。
     ああ、それでも青の洞窟だけじゃないの。今日はたくさんの『海』を楽しみましょうね」
     手を伸ばせば指先にキスをする小さな魚たち。幻想を思わせたサンゴ礁は東京では滅多に見ることが出来ないから。
    「かりゆしビーチから3m下の風景。世界はがらりと姿を変えてとてもきれいなんだよな」
     海島・汐(潮騒・dn0214)は物思いにふける様にそう告げる。蒼の世界は、想像もつかない程に『ふしぎ』に満ち溢れているから。
     泳ぐ魚たちを追い掛けて、ゆっくりと足を動かせば、まるで人魚のようだと真鶴はからりと笑う。
     海上でのマリンスポーツも沖縄の鮮やかな海ならばどこか違って感じるから。
    「勿論、ビーチで穏やかに過ごすのだっていいし、マリンスポーツを思い切り楽しむのだって素敵なのよ」
     泳ぎが苦手でも大丈夫なのよ、と微笑んで。
     海の魅力を浮かべた様に真鶴は両の手を合わせて首を傾いだ。
     海の底、海の中、空を見上げればそこにあるのは幻想の蒼。
     海の上、浜の中、そこから見る青は何処までも深い色をしているから。
    「折角の修学旅行なの。一緒に海を楽しみましょう?」
     武蔵坂とは違う気候、東京とは違う海。あおいろの幻想へ、いらっしゃい。


    ■リプレイ


     広がる蒼は光を差して、鮮やかな時を感じさせる。
     ゆっくりと海に足先を差し入れれば――見慣れぬ青が其処にある。小さく息を吐き出せば天蓋の蒼はそれを静かに飲み込んだ。
     人気のないビーチをゆっくりと歩きながら紗夜は空を見上げた。泳ぎは苦手だから、ぱしゃりと海を描いた肢。青のシーグラスを手にして「綺麗だね」と呟いて。

     前回の高校2年生の修学旅行からもう2年。時が経つのは早いと真雛は【smomo】のメンバーを見回した。
    「遊ぶぞ~~!」
     うん、と背伸びした織兎は青の洞窟に行こうと提案する仙の言葉に大きく頷く。人の少ないタイミングを見計らって出発すると決めていた仙は眠たげな顔をした乙彦に小さく笑った。
    「楽しみで昨晩は眠れなかったんだ」
     美しい蒼に出会えると思えば眠さも覚める心地だと彼は仙の背中を追い掛けた。入れば入るほどに昏くなっていく世界に真雛は少し怯えた様に振り返る。
     こぽりと水泡が浮かび上がり、楽し気に笑った織兎の顔を見れば心はほっと落ち着いた。
    (「海の中は落ち着くな~……おおおお、青い……!」)
     その両眼に映しこまれたのは鮮やかな青。指先に口づけを残す魚たちへと視線を向けながら真雛は綺麗と声を弾ませた。
    「……すごい、夢のような世界だな」
     乙彦の言葉に皆、大きく頷いた。「熱帯魚のエサやりでもしようか」と誘う仙の声に真雛と織兎は瞳を輝かせる。
     次にここに来るのは大学最後の年になるだろうか――海も皆も、変わりなくいてくれるのを切に願って。

     何処までも澄んだ青い空――東京とは違うその場所で鶉はうん、と背を伸ばした。
    「真鶴さん、泳ぎは大丈夫ですか?
     海の中から見上げる景色というものは、とても素敵なのです。よければご案内いたしましょう」
     冷たい水の中に入り、ゆっくりと海の中へと進んでゆく。小魚たちがくるりと泳ぎ手招く様に空と海が混ざり合う様子は幻想的。
    「真鶴さんの姿もお可愛らしいですわね。私の水着も……ふふ、いかがですか?」
    「とても、素敵なの。いいなぁ」
     プロポーションに自信のある彼女のぽそりと溢し、今年の水着も楽しみにしてると鶉へと柔らかく告げた。

    「うーみー☆」
     瞳をキラキラと輝かせたエミーリアは犬掻きしかできないけれど、と瑞葵とフローレンツィアを振り返る。
     目指すは青の洞窟。「あぷあぷ」と慌てるエミーリアを補佐しながらフローレンツィアは蒼の中へと潜ってゆく。
    「はわ、沖縄の海はきれいなの~♪」
     きらきらと瞳を輝かせた瑞葵はこのままずっと潜って居たいと空と海が混ざり合う光景を両眼に映し込む。
    「ほら、瑞葵、エミーリアいろんなところで写真、撮りましょう?」
     こんなに綺麗な青なんですもの、と心を躍らせたフローレンツィアに瑞葵はこくこくと頷く――が。
    「あら、エミーリア?」
    「はわわわ、じ、人工呼吸なのー!?」
     ひとつのハプニングも楽しい思い出のエッセンスになるはず……なのだ。


     最後に二人で海に来たのは何時振りか。
     高校の修学旅行以来。海のかけらを探した思い出はまだまだ真新しい。
    「春香さんは泳げますか?」
     こてりと首傾げる千鶴に苦手なのだと春香は口の中でもごもごと言う。けれど、それは千鶴も同じ。
    「それじゃあ一緒に海と仲良くなるところから、ですね!」
     海に身を委ねるのは怖いかと不慣れなまま千鶴はふわりと浮かび上がる。
     空を飛んでいるような浮遊感と一面のあおいろが二人を包み込んだ。
    「ねえ、千鶴さん。私たち今、海とひとつになってるね」
    「うん。一緒に来れて、本当に良かった」
     絶対に忘れない思い出がひとつ、増えたねと二人笑い合った。

     最後に行った沖縄の姿――決戦の時、詰まれた死体の山。
     漣香が思い浮かべた世界とはまた違うものが其処にはあった。
    「お、おぉ……すげー透明度」
     岩場の珊瑚も見通せる青の世界。近寄る魚にレンズを寄せて進めば曖昧な蒼色が其処にはある。
     海はこういうものだ。怖くて悍ましい訳ではなく楽しくて心地よい世界――ずっと思い出せなかったこと。
     いのちは皆、ここから生まれてくる――後で泰流に伝えてやろう。やっぱり、海は好きだ、と。

     3年ぶりの沖縄の懐かしさ。隣には愛しい人、桜花は幸せそうに小さく笑う。
    「学部の皆と出掛けて遊んだのもこの海だったな、罰ゲーム賭けたビーチフラッグ勝負なんてしてさ」
     準備を進めながらからりと笑った高明に桜花は大きく頷く。恥ずかしい罰ゲームを回避するために必死に行った勝負がどこか懐かしくて。
     この先がどんな事が待ち受けるかわからない――だから、その思い出を大事にして。
    「お手をどうぞ、俺のお姫様」
     魚と共に記念撮影したら真鶴に見せてやろうと笑う高明に「今日も案内をお願いしますわね、私だけの王子様」と微笑む桜花は大きく頷く。
     時間の移ろいに、大きな手のぬくもりを感じて、今がとても幸せだと。

     颯くんと、一緒――嬉しいと笑みを溢す真花に颯は「沖縄に来たのは3年前が初めて」だと告げた。
    「私は家族旅行で来たんだよ。颯くんは3年前も修学旅行があったんだよね」
     その時と比べてどう、と首傾げた彼女に颯は今は姿を消した悪友の事を思い出し思い出を語る。
     弟が修学旅行で青の洞窟へと向かったらしいと聞き、自分もと彼女を誘ったのだそうだ。
    「青の洞窟、本当に青いね。お魚も沢山いる」
    「魚もだけど、真花も……」
     何もないと言葉を濁らせた彼に首を傾げた真花はまた来たいなあと柔らかに告げた。
    「次は家族と来てもいいかな。賑やかになりそうだし」
     そこに真花が、そこに颯が――そう告げかけた言葉を飲み込んで。

    「わぁ、すごいっすねー」
     きらりと瞳を輝かせた奈々は水面に上がってきて、「ダイビングって初めてだったっすけど」と楽しかったことを口にする。
     悪戦苦闘しながらもダイビングを行った式にとって、恋人と一緒にこうしていられることは――嬉しいことのはずだが、雰囲気はどうやらそういうものではないらしい。
    (「多分、今、このタイミングでキスしたら……」)
     何だか勿体ないなあと式は小さくぼやいた。


    「すごいな! きれいだな!」
     視線と笑顔でリオンに伝えるイオにこくりと大きく頷いた。二人そろって蒼の中、すいすいと気侭に泳げば目の前に魚達が顔を出す。
     見て見て、と魚を指し示すイオのその身振りから何を伝えたいのかは全てわかる。
    (「魚に囲まれてるリオン、何か人魚みてぇ、真鶴が言ってた通りだな!」)
     後で伝えようと進むイオを見つめるリオンも鮮やかな魚たちと共に居る彼が格好良く感じて。
     光と影が澄む蒼を鮮やかに映し出す。幻想的な世界に酔いしれて、リオンは柔らかに微笑んだ。
    「一緒に来てくれてありがとうございます!」
    「こっちこそありがとな、あー、また来たいな沖縄!」

     私、思うのですがドラゴンボートじゃなくてバナナボートですよね。
     そう首を傾いだ小鳥はアリッサが指さした『ドラゴンボート』をまじまじと見つめている。
     早々に敵の排除を行った白菊は「碧く煌めく海を駆け巡るのじゃ!」とやる気も十分。
    「海を走るって楽しいねっ!」
     瞳を輝かせ揺れたりスピードが速くなったり――そんなドラゴンボートに感動を覚えるありすは海に落ちても無問題だと微笑んだ。
    「ひ、ひゃあ……っ!?」
     早速のスタートに春香の大きな黒の瞳に涙が浮かぶ。少年――少女にも見える可愛らしさだ――とは対照的に「ささき、こっち」と手招き全速力で書けるドラゴンボートに「おおー!」と声を上げたベルベットは心躍らせている。
     女子率の高さに心躍っていたのだから其処に楽しさが追加されたら当たり前だ。
    「……」
     じとりと見る恋人の視線を気にしなければ。
    「……い、意外に揺れますのね」
     優雅な雰囲気ながらもその表情は必死そのもの。白雛の隣でぎゅ、とドラゴンボートに捕まるいるかは「すごいです!」と水飛沫を浴びる。新調したばかりのフリルの青ビキニは自慢の一品だ。
    「妾は気に入ったぞ! あれじゃ、もう一度――」
     もう一度をリクエストするカンナにいるかは「バーベキューですよ」とさり気なく促した。
    「それでは食事を済ませてからもう一度乗ってみんか?」
     まずは腹ごしらえと行きましょう!

    「想希、前に想希の修学旅行で一人できたとこやんな」
     どんなものがあるのかと瞳を輝かせる悟に「青」と告げた想希はゆっくりと指をさす。
     蒼い海の下、キラキラと輝く雫の中で最高だとともに笑い合えばその足先に小さな魚がキスをする。
     海に負けないほどの青い魚、一面の青の中、ハートマークを二人の指で作り上げて写真を一つ。
     差し出された手を握ってどこまでも二人で泳いでいこう。
    「光の明日を目指そうや! どや、想希。楽しいか?」
     ああ、二人だったらどんな場所だって楽しいのだから!

     青い洞窟へと進んでゆく。のんびりと茫と見上げた水鳥は魚へと指先を伸ばす。
     至近距離の珊瑚に、水底の奇妙な感覚が足元に伝わってくる。
    (「此処の時間、静止したようですね……」)
     青い水底に差し込む光に手を伸ばす。
     ゆっくりと沈む己の体の感覚を感じながら水鳥は魚たちとじゃれる様に遊んだ。
    (「静かで、すごく、気持ちいいです……」)

    「お二人とも素敵です!」
     瞳を輝かせる紫姫に最初は戸惑いを覚えていた継霧はゆっくりと泳いでゆく。
     人魚に見えますかと楽し気に笑った環に頷いて紫姫は二人の後を追った。
     水泡は真珠の様にきらりと煌めいている。指先にキスを溢す魚達。
     光のグラデーションに人魚体験かと瞬く継霧を手招いて環は青の洞窟へと向かった。
    (「このままずっとお二人と居られますように――」)
     美しい海の神様に祈った紫姫の眼前には鮮やかな青色が広がっている。
    「こんなに美しい青が存在するんですねー……」
    「月並みだが、心が洗われるとはこのことだな」
     茫と告げた継霧に環は大きく頷く。三人で視線を交えて微笑みあれば、本当にここにきてよかったと心の底から思えたから。


    「海いいよねー!」
     泳ぐのはそれなりに慣れたけれどダイビングは違った感じだと樹斉はへらりと笑う。
     のんびり楽しみたいと気合を入れたハリマは「修学旅行で来た時にぶっ飛んだような……」と過去の記憶を掘り起こすが――頭が痛い。
    「んー? ……ハリマセンパイ、前来たことあるし大丈夫だよね?」
     スポーツ全般を得意なハリマならばダイビングも得意だろうと踏んだ樹斉に彼は大きく頷く。
    「灼滅者なら何とかなるなる!」
     ――少し不安だが、きっと何とかなるだろう!
     海の中でアンデッド退治も二人にお任せあれだ。

    「んー……気持ちのいい景色ですねぇ」
     打ち寄せる波と柔らかな砂の感触を確かめながらシオネと蒼は二人で歩む。
     星はきれいに見えるのかもしれないと天蓋を見上げたシオネは別の機会にと小さく笑んだ。
    「……沖縄の、海、透き通って、いて、本当に、綺麗、です、ね」
     ぱちりと瞬く蒼はシオネ君と一緒だから世界がキラキラする――と告げて僅かに視線を落とす。
     その気持ちは二人とも同じ。服が汚れないようにと膝を進める彼に蒼は頬を赤らめる。
    「……前に、修学旅行に、来たときは、」
    「そういえば、そうですね」
     気づけば少し高い視線。伸びた背丈がいとおしくて。
     二人で過ごした時の流れがそこにはあって――二人だから、とても幸せなのだと。

     水色のパーカーの後ろ姿。「雄哉さん」とかけられた声に雄哉は小さく会釈した。アンブレイカブルと戦ったことが彼の心に僅かな変化を与えたのだろうか。
    「……まだ、完全にヒトだとは思えないけど、少しずつ変えていきます」
    「うん、それがいいの。……雄哉さんは、あそばないの?」
     砂浜にぐるりと円を描いた真鶴に首振る雄哉はゆっくりと立ち上がる。下がって、と真鶴に指示を一つ。
     残るアンデッドは全て自身が撃ち砕いて見せる。

     去年も臨海学校で海へ行ったけれど普通の海が良いと梨鈴は小さく笑う。
    「海かー。故郷に居た頃はほとんど行かなかったしなー」
     うん、と背を伸ばした悠里はちら、と彼女を見やって「その、なんだ、似合っててかわいいと思うぞ」と小さく声を潜めた。
     お礼と共に頬を赤らめた梨鈴は体温を下げるように海の中へ。
     きらりきらりと輝いた珊瑚礁と魚たち。視線で合図すれば「きれい」と彼も頷いて見せる。
    「青の洞窟ってのもすげー綺麗だよな!」
     うん、と背を伸ばして。自然の力に圧倒されると笑った彼に梨鈴も大きく頷いて。

     パーカーがはためいた。ジェットスキーで行きながらアルクレインは楽し気に笑った。
     ぴったりとくっついたアルクレインに鼓動が高まった気がして真糸は僅かに目を伏せた。
    「アルクさん行くよー!」
     声上げた真糸にアルクは「きゃー!」と高く声上げる。水飛沫が弾けくるりとターンした真糸にアルクレインは心躍らせた。
    「真糸さん凄いです!!」
     興が乗りばさりとパーカーを脱げば、真糸は合わせた様にターンをし空中で受け止める。
     ぴたりと引っ付いた体温は跳ねる水飛沫と対照的に暖かかった。


     傍らには揺籃。ユリ、と呼べば応じる様に烏芥へと首傾ぐ。
     すいすいと泳ぐ揺籃の姿は本当の人魚――茫と考えた烏芥へとじゃれつく様に揺籃が絡みつく。
     童話の人魚ではなく海へと引き摺り込む人魚だと乙女的思考に至った己を振り払う様に首を振った。
     彼女に手を引かれ、夕刻の褪せぬ彩を歩んでいく。
     脳裏に浮かぶのは彼女の逝った姿。今度は、二人で、『帰ろうか』と口にして。

    「一平、最近、あんまり眠れてないでしょ」
     模糊の言葉に苦笑を返した一平は「まあ、慣れてるから」と小さく返す。
     夜の浜辺でゆっくりと歩む二人の会話は常と同じだ。
    「もうすぐなんだ。もうすぐ親の遺産でもなくまっとうな仕事でまっとうに稼いで、それで」
     仕方ないことは分かっている――けれど、と心配そうに告げる模糊の手をぎゅ、と握り一平は言葉を濁らせた。
    「お前と、一緒になれる日が、さ」
     手に籠められた力。視線を明後日に向けた彼に「試験が終わったら何所か行こうか? アンタが眠れるところに」と模糊は小さく笑う。
    「……ところで、それじゃあプロポーズみたいだけど」
     ぎゅ、と手を握りしめる彼にありたけの力で握り返した。

     ビーチから少しの距離。二人きりの小島で自然を見上げた耀は瞳をきらりと輝かせる。
    「こんな自然の中に二人きりだと、なんだか人類最後の生き残りにでもなったみたい……」
     呟くその言葉に「二人きりで過ごせるなら人類最後の生き残りでも俺は大歓迎だがな」と威司はからりと笑った。
     宛らアダムとイブの様に――まだ帰りたくないとねだった耀に俺もだと返した彼は腕に擦り寄った最愛の妻の唇を指でなぞる。
    「夢みたいな時間だったから……ね」
     ゆっくりと唇を重ね、愛を囁いて。人類最後の生き残りの夢は愛しい彼の腕の中で醒めるのだ。

     白と桃色。可愛らしい水着を身に纏った華夜はビーチパラソルの下、和守と共に夕日を見つめた。
    「こうやって、夕日を眺めるのも良いもんだな……隣に華夜がいるのがいい」
    「ちょっと前までは思いませんでした。隣に好きな人がいて夕日を眺める事が出来るなんて」
     正直言えば、かわいい恋人が寄り添っているだけで理性が爆発しそうだと和守の心は穏やかではない。
     だが――キス位なら許されるだろうか。
    「華夜」
     悪い、と一つ言葉を溢してぐ、と彼女の細い体を引き寄せる。大好きだ、という言葉と共に唇を併せれば緊張で身を固くした愛しい人は僅かに擦り寄った。
    「私も大好きです」
     頬が赤いのは、夕日の所為――だろうか。


    「汐、一緒にいかないか」
     手招く朔耶はヴォルフと共に青の洞窟へと潜ってゆく。赤いワンピースの水着は柔らかに昏い蒼に揺れていた。
     青色に彼が不安を抱えていると知っているから。気遣う様に汐と共に海へと潜るヴォルフは「夜光虫をみるんだ」と告げた。
     勿論だと頷く汐はジェスチャーで「昏いな」と告げた。
    『だから綺麗なんだ』
     きらり、きらり、と落ちる光が鮮やかで。手を伸ばせば届く海の星の輪郭を撫でる様に腕を動かし朔耶は笑った。

    「沖縄の海って綺麗なのね」
     昼間と違った姿――その海を義兄と共に見れることが嬉しいと蓮花は笑みを浮かべる。
     あの岩までのかけっこ、と言うが早いかそのまま走り出した義妹を慌てて追いかける風樹の表情も柔らかで。
    (「……ったく、こういう時は年相応だな」)
     息を切らし遅れを取り戻さんと走った彼を岩の上から見下ろしてにまりと蓮花は小さく笑う。
     飛び降り、頭を撫でてくれた優しい掌に穏やかに笑った彼女へと風樹は一つ、差し出した。
    「ほんとは一緒に南十字星を見れるとよかったな」
     以前見る事の出来た星。その機会はまた今度と約束をして。

     波打ち際をゆっくりと歩きながらアリアーンは己の事を口にした。
     父に愛を貰えなかったこと、弟を愛せなかったこと。
    「……僕は、僕が嫌いだった。だから、不良になった――他人に避けて貰う為に女装をした……」
     その言葉を聞きながら翡桜はゆっくりと目を伏せた。
    「はい」
    「……本当は――俺は、乱暴で堅苦しいことが苦手で大口開けて机に座ってバカ騒ぎしたい……」
     化粧は面白いから良いけれどかわいいや綺麗だけじゃ胸やけがするから。
     綺麗なアリアーンを好きになった。けれど、『俺』と言う彼って好きになれる。
    「……こんな俺でも結婚してくれる?」
    「はい、私で良かったら」
     驚いてしまうかもしれないけれど、これから先は繋がっていくはずだから。

     お揃いの水着でボートに乗って夜の海へ。不意に鈴乃の顔を見た鞠音は「怖いですか」と問うた。
    「鞠音様と一緒なので大丈夫ですよ」
     夜の海は不気味だけれど、と笑う鈴乃に鞠音はゆっくりと目を伏せる。自分たちの行く末が気になるのは仕方がないことなのだろうか――ゆっくりと水中に、抱き締め合って沈んでゆく。
     その儘で二人きり。光も閉ざされた世界で感じるのは二人のことだけ。
     過去も未来も同じ。鼓動を感じ、膚を感じ、温度が暖かい。
     ゆっくりと――頬に手を当て、無口な唇から、痛みを識る鞠音からの贈り物は鈴乃のはじめての希望のぬくもり。
     ぽこりと立った水泡は沖縄の夜を只、彩るかのように。

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月6日
    難度:簡単
    参加:62人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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