戦神アポリアの提案~その胸の星は輝いているか

    作者:朝比奈万理

    「六六六人衆と武蔵坂学園との共闘を目論んで、武蔵坂学園に接触したダークネスがいるんだ」
     浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)は教壇に資料を置くなり、早速だがと前置きして説明に入った。
     この様子からもかなり重要な依頼であることが伺える。
    「接触してきたのは、狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)君。今は、六六六人衆第七一位『戦神アポリア』を名乗っているがな」
     今回の呼びかけは『戦神アポリア』の独断では無く、ミスター宍戸及び六六六人衆の上層部の意向。灼滅者が共闘を決断すれば、灼滅者と六六六人衆の同盟が締結される可能性が高くなっているという。
    「その呼び掛けが、まぁ、『ムナクソ』ってやつでな――」
     ――武蔵坂学園が六六六人衆に対してサイキック・リベレイターを使用した事を確認。もし我等を滅ぼそうとするなら全面戦争、人間社会に甚大な被害が及ぶ。
     しかし――我等と人類は共存できる筈。理由は明快。こちら側のミスター宍戸は『人間』。そのうえ我等は人間社会の支配に興味は無い。
     また六六六人衆はその名の通り非常に数が少なく、一定以上の数になる事は無い。それゆえ、他のどの組織にも無い『唯一人類と共存が可能なダークネス組織』であると言える。
     六六六人衆の一般人を殺戮する行為は自然の摂理の範囲。そしてある程度は武蔵坂学園の意向に従う用意がある。
     一定の人数を確保できるのならば殺戮する人間については、そちら側で指定した範囲で行うとする事で歩み寄りたい。
     犯罪者、老人、外国人、無職者に限るなど……そちらが受け入れられる条件を提示してほしい。
     もし共存を望む場合はこちらが指定する場所に『六六六人衆が殺戮しても良い人間のサンプル』を連れてこい。それをもって同盟の締結としたい――。
    「ということで『戦神アポリア』は、一般人の受け取り場所に『六六六人衆が殺戮しても良いサンプル、10名連れて来る』よう、連絡してきた」
     殺害していいサンプルって――。千星は重い息をつき小さく頭を振った。
    「あちらが言うところの『サンプル』の受け取り場所だが、多数用意されている。あちらはそこにそれぞれ『10名』の一般人を連れて来ることを望んでいる」
     多数の場所としている理由、それは、1ヶ所だけでは『そのチームの独断』であって『武蔵坂の総意では無い可能性が高い』と考えられるからであろう。
    「『戦神アポリア』は引渡し場所の過半数において、10名の一般人が受け渡されたならば、他の引渡し場所で戦闘が発生したとしても武蔵坂学園は同盟の意思があるものとし、次の交渉に入ると言ってきている」
     ということは。静まり返る教室に千星の声が響く。
    「逆に、過半数の場所で引渡しが行われなかった場合は、今回の同盟提案は取り下げるそうだ」
     要は、灼滅者の選択次第――。
     情緒的にこの提案を受け入れる事は難しいだろう。だけど、彼の提案には一定の真実を含んでいるのもまた事実。悔しいが、検討の余地はあると言わざるを得ないのだ。
     重苦しい空気が流れる教室内。千星も黙ってしまいたかった。
    「……この同盟提案をどう扱うかは皆に任せる。受け入れるならば、10名の一般人を連れて引き渡し場所に向かってくれ。受け入れないのならば、引き渡し場所の六六六人衆との戦争は不可避だ。敵戦力を削る為にも奴の撃破をお願いしたい」
     そう告げると、千星はウサギのパペットをぱくりと操る。
    「皆の交渉相手は六六六人衆としては戦闘力が低く、灼滅者8人でも灼滅が可能。いわゆる捨て駒だ。だけど、強力なダークネスであることは間違いない」
     同盟締結よりも灼滅を目指すなら、それ相応の準備が必要になるだろう。
    「相手の情報だが。序列不明、忌死和田・智二。見た目はチンピラそのもの」
     智二は殺人鬼とバトルオーラ相当のサイキックを使用するという。
    「受け渡し場所だが、多摩湖と狭山湖の間に位置する玉湖(たまのうみ)神社。ここをターゲットサンプルの引き渡し場所として指定してきた」
     玉湖神社は杜の中のひっそりとたたずむ、祀神がいない珍しい社だ。
     この辺りは日中はウォーキングを楽しむ一般人が多いが、夜間は人通りもなく閑散としている。
    「神も人もいない。殺戮を行うにはぴったりの場所というわけか」
     全く何を考えているのか見当もつかんぞ。と、千星は呆れたように小さく頭を振り。
    「六六六人衆には、ハンドレッドナンバーとして合流した闇堕ち灼滅者がいる為、こちらの情報はかなり漏れているのだろうし、この提案をしてくるという事は、戦神アポリアの価値観はダークネスのものとなっているのかもしれないな」
     千星は眉間に皺をよせ爪を噛んだ。そして、もしもの話だがと前置きをして。
    「……卑怯な選択ではあるけど、六六六人衆の力を利用して他のダークネス組織を滅ぼし、その後に奴らとの決戦を行う。という選択もあるかもしれない……」
     一瞬鋭くなった彼女の目は、灼滅者を見渡すときには、もういつも通り。
    「これにどう対応するかは皆の決断に任せる。だけど、後悔だけはしてくれるなよ。皆の胸に輝く星の元、皆も考える最善を尽くしてほしい」
     そういうと千星はいつものように、自信に満ちた笑みを見せた。
     それは灼滅者がどんな選択を選ぼうと灼滅者を信じ共にあろうと思う、彼女の星の輝きだった。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)
    神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017)
    秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    狼久保・惟元(月詠鬼・d27459)
    蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)

    ■リプレイ


     人口湖に挟まれたその社は、異様な静寂に包まれていた。ただ聞こえるのは、湖面を撫でるささやかな風の音。そして時折、車のエンジン音が高らかに唸るだけ。
     灯もない漆黒の闇は、神のいない社すらも隠していた。
    「全く、どんな魂胆じゃ……」
     アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)は鳥居をくぐるなり呆れ気味に息をついた。
     『武蔵坂学園と六六六人衆は共存できる組織同士。半数の取引現場において六六六人衆が殺めてもいいサンプル10人の提示。それをもって同盟は締結される』とは、あちらの提案。
     一部のダークネスと学園は友好関係を築いてきた。とはいえ――。
     8人は足を止めた。目の前には暗がりの中に浮かぶ建屋。そして。
    「こんばんは、忌死和田・智二さん。少しお話をしませんか?」
     蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)が闇夜に向けて声を掛けると、パキパキと耳障りのいい音が鳴り灯りだす。刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)が持参したサイリウムを折る音だ。
     晶は灯らせたサイリウムを地面にバラまいた。すると闇の中に、神のいない小さな社と、社の階段に腰掛けている男の姿が露わになった。
     アロハシャツに破けたチノパン。短髪の髪をくしゃりと掻き上げた眼光は鋭く、ヤクザの鉄砲玉と呼ぶにふさわしい下っ端風情だ。
    「はっ、おめェらが俺の交渉相手か。女子供しかいねェとは聞いてたがよ、まさか本当に女とガキだけとはなァ」
     ガムをくちゃくちゃと噛みながら、ジャリっと足元の砂を鳴らして立ち上がった忌死和田に晶が尋ねる。
    「何故この場所を取引先に指定した?」
    「何故って、誰も居ねェからよ」
     神も人も居ないこの社は、闇取引をするにはもってこいの場所というわけだ。
    「で、見た感じ、サンプルは連れてきてねェみてェだが、どういうこった?」
     忌死和田はわざとらしく辺りを見渡した、暗がりの向こうには人っ子一人いない。
    「残念ですが、この取引には応じられません。生贄を差し出すのはあなたたちの軍門に下るのと同義ですから」
     眼鏡を上げながら、秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)が告げる、提案の否定。同時に灼滅者たちの手に握られたのは、各々の得物だ。
    「おっ、提案は着の代わりに俺を灼滅しようってか? いい度胸じゃねぇか!」
     禍々しいオーラを纏わせ、忌死和田がファイティングポーズをとった。利き足が石畳を蹴ると、目にも止まらぬ速さで清美を殴りつける。
    「提案破棄がどういうことかわかってんのか? 俺らは今まで通り無差別に人間をぶっ殺してもいいってことだ。善人、女子供、有名著名人……全人類が六六六人衆のターゲットになるってコトだぜ?」
    「……っ、確かに大きな被害になるかもしれませんが、どんな結果でも受け止める覚悟はしておりますっ!」
     重い攻撃を受け続けたが、咄嗟に摩擦を溜めた足で蹴りを喰らわせれば、炎が忌死和田との間合いを取ってくれる。ナノナノのサムもひと鳴きして、清美の傷をふわふわとしたハートで癒すと。
     清美に続いて、動いたのは瑠璃と晶。
     人も寄り付かない人口瑚の畔だが、万が一にと瑠璃がサウンドシャッターを展開させる。
     やはり攻撃を仕掛けて来たか。と、晶が顔を顰めたのも一瞬。洗練された神秘的な歌声を境内いっぱいに響かせると、ビハインドの仮面も霊障波を放って忌死和田を双方から蝕んでいく。
     すかさず白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が動く。
    「確かに其方の言う通り、生きるに値しない人間というのは存在する」
     凶悪犯罪者、汚職まみれの政治家官僚、他人に寄生しながら生きている人間……。
    「が、我らも其方も怪物とはいえ、見定め間引く理由にはならなぬだろう。依ってその提案は破断させてもらう」
     足元から舞い上がる影は『桜帰葬』。墨染めの花びらは、音もなく忌死和田を絡めとると、ビハインドの琥界が霊撃を放って敵の動きを鈍くする。
    「失っていい人なんかいないぞ……叩き直す」
     眉根に皺を寄せたアリシア。サンプルになりうる人間を連れて来て、犠牲者を出すつもりなど端からなかった。指先をすっと前に指し伸ばせば、忌死和田に向けて放たれたのは高純度の魔法の弾。
    「分かり易い捨て駒くんには悪いが……それをするくらいなら君たちと殺しあうだけだと言う訳で」
     ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)は冷めた目でチンピラを見据えると、 『Proof of 7.D.C[code:H]』がふわりと靡き。
    「まあ、我々には死んで良い人間を選ぶ等そんな資格は無いという事だ。分かり易い方が好きだろう、お前らも」
     忌死和田目がけて飛んで行く帯の刃は、奴を蹂躙していく。
    「それに、交渉する気ないだろうこれ。我々の性質を考えれば、これを纏め上げるのは不可能だ」
     まったく、いやらしい嫌がらせだよ。と、汚物を見るかの如く、ルフィア目を細めた。
    「俺は十分に交渉の余地があると思うがなァ。てめェらで俺らがぶっ殺していい人間決めていいって言ってるんだからよ」
     頬の傷を拭い、灼滅者を見渡す忌死和田。その瞳は挑発的。
    「貴方自身の考えも聞きたいです」
     独特のイントネーションで、狼久保・惟元(月詠鬼・d27459)が尋ねる。
    「僕達が提案に頷いたとして守れますか? 質を決められ、与えられるものだけを糧にする生き方です」
    「さぁ、どうだろうな。お上次第ってとこじゃねェか?」
     あえて明言を避ける忌死和田。
    「僕は無理だと思います。守ってはもらえないと考えます。貴方達の中には殺人を糧とする以前に、その過程を楽しむ者が居る。人間が食べ物に好みがあるのなら然り……」
     灯りに照らされて浮かび上がるのは狼の耳。忌死和田を倒すべき敵だと見定めて。眼光に鋭さを左手には獣の爪を宿し、仲間に向けて放ったのは白い蜃気楼。この炎を斬り裂いたライドキャリバーの刻朧は敵に向けて突撃していく。
    「この提案は武力をもって、丁重にお断りいたします。同盟を結ぶ時、人の命の価値を僕達の物差しで決める。そうなれば僕達こそ人の敵だ」
     神様じゃああるまいし。そう言って惟元は社を見上げた。
    「いえ、神様も御免です」
    「で、あなたはどのような人間を殺めるのが好みなのでしょうか?」
     神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017)に問われると、忌死和田は厭らしく笑った。
    「ンなこと聞いてどうすンだよ。今更俺好みの獲物でも連れて来てくれンのか?」
     六六六人衆に誰が殺されても、それは運が悪かっただけ。偶々奴等と居合わせてしまったという巡りあわせ。
     六六六人衆の殺戮は、自然災害のようなものだと柚羽は捉えている。
    「……ただの興味ですよ」
     呟いた柚羽はもう一度、目の前のチンピラ風情を見据え。得物の『Memento mori vanitas』を構えて跳べば、一瞬でその男の後ろへと回り込んだ。
    「今一度はっきりとお伝えします。ここには私たちとあなたしかいません。同盟は――」
     ――お断りします。
     敵の脚を斬り裂くと、石畳に赤い花が咲いた。
    「やはり私たちと貴方方は相容れることはないようですね」
     眼鏡の奥の瞳が鋭さを増せば、身に着けていた帯は命を吹き込まれたように動き出し。忌死和田を翻弄していく。
     使いっパシリで序列も下位の部類だろうとはいえ、忌死和田も列記とした六六六人衆。灼滅者の猛攻にも関わらず、まだ傷は浅い。
     が、気性の荒さはすぐに露わになる。
    「……ガキ共が偉そうに高尚たれやがって……! ぶっ殺してやらァ!」
     鋭い殺気は前衛の守り手と攻撃手を一気に覆いつくす。


     夜が更けていくにつれ、涼やかな風が辺りを包みだす。だけど玉湖神社では未だ戦闘が繰り広げられていた。
     忌死和田と灼滅者たち。どちらが優位に立ったかなど、火を見るよりも明らか。手数で圧倒している灼滅者が徐々に忌死和田を追いつめていった。
    「クッ……」
     中盤以降、忌死和田の意識が散漫なのは、灼滅者の抜け穴を見つけ、そこから逃げ出そうという魂胆のあらわれであった。が、逃走に動こうものならそれに警戒していた灼滅者に動きを読まれる始末。
    「往生際の悪い男じゃのう」
     長い髪を揺らしたアリシアは『マジカルロッドangel』の柄を握り込むと、奴の鳩尾目がけて一気にたたき込んだ。
    「クソガキ共になんざ……負けねェ!」
     砂利を蹴った忌死和田。次の瞬間にはルフィアの後ろについていた。
     息を呑むルフィアの呼吸音と、
    「琥界!」
     庇うように命を下す作楽の声が重なる。
     本来傷つけるべき相手を傷つけることができずに、大きな舌打ちをかます忌死和田。
    「全く、野蛮ですね」
     ロケットペンダントを揺らしながら瑠璃がギターで癒しと力をメロディを鳴らせば、傷ついた仲間を癒す。足りない回復はアオが尻尾のリングを光らせて。
    「序列不明。ランク外なのは、弱いって言うこともあるんだろうけど……狡猾さも無いって事だね」
     仮面が先に顔を晒しに行く。晶は手のひらの上に浮いたリングスラッシャーを7つに分割させて勢いよく相手にバラまいていけば、忌死和田は光輪に翻弄されていく。
    「ごり押しで勝てるほど、私達は弱くないよ」
     確かに灼滅者はダークネスより弱い。だけど。
    「少なくとも目の前のお前を倒せるぐらいには強くなってるんだよ!」
    「僕は幼い頃から人の善と悪を教えられました」
     惟元は静かに口を開いた。だけど獲物を狙う姿は鋭く、狼そのもの。右手に装着した縛霊手は忌死和田の横っ面を殴りつける。
     その着地点に走り込んでいく刻朧が突撃を実行して戻ってくる間に、よろめき呻きながら起き上がる忌死和田を静かに見据えた。
    「善から悪を護るのが使命である。でも僕の使命は、同盟のそれじゃない」
     殺されてもいい人間など選び差し出すなど以ての外。
    「死んで良い人間か……」
     ふむと考えるポーズをとったルフィアは『Proof of 7.D.C[code:C]』を構えて走り込んだ。息を呑む忌死和田の面前で止まると、振りかぶったロッドの宝玉が光を受けて煌いた。
    「お前の上司こそ、その筆頭ではあると思うんだがね。そこの所どう思う?」
     言い切って殴りつける。
     一般人でありながら六六六人衆に与するあの男こそ、死すに相応しい。
     たつまきを飛ばして忌死和田を翻弄したサムに続き、清美も炎を纏った得物で相手に襲い掛かる。
    「あなたたちが何を企んでも、止めてみせますよ」
     叩きつけた炎は赤々と燃える。やっとの思いで炎を振り払った忌死和田の前には、鬼の手を持った作楽。
    「どうだ、ガキどもに翻弄される気持ちは」
     振りかぶりながら思う。
     自分が一般人であって、もしこのように腕が巨大化する人間を見たら、きっと恐れをなすのであろう。
     彼らから見れば、自分も怪物にすぎない。
    「だけど、人を弑す畜生には――!」
     堕ちるまいと決意している。琥界の霊障波と同時に、目の前の鬼畜を殴りつけた。
     境内の隅まで飛ばされた忌死和田に、さっきまでの覇気はない。
    「さて、仮の話ではありますが。同盟を結び、私たちの指定範囲の中で殺しを行なっても……計算すればそう遠くない内に0になるのが予想されますが、そうなった時の代替はどうするのでしょう?」
     蓮の花の影を揺らしながら柚羽が迫る。相手は歯をガチガチ鳴らし命乞いをしているようにも見えるが。
    「それが来るたびに決断させられたく無いのです」
     そう言って目を瞑った柚羽。同時に忌死和田の足者には、ふっくらとした蓮の花が咲き――。
    「ぎゃああああ!!」
     まるで食虫植物のように奴を包み込んでいった。
    「交渉は上層と腹を割ってするものです。下っ端に任せている時点で既に、どうでも良いのでしょう」
     呟いて蓮の花が落ちるころには、忌むべき提案の伝達者は何処にもいなかった。


     忌死和田なき後。
     神を祀っていないとはいえ神社で騒ぎ荒らしてしまったお詫びを含めて、後片付けを。と提案したのは晶だった。
     片付けをしながら晶が思うのは、この提案が封じられているハンドレットナンバーの呼び水なのではないかという懸念。
    「……って事は無いと思うけど」
    「他のところはどうなってるかのぅ」
     同時刻に提案の返答を行っているチームもあるだろう。遠くを見たアリシアは何より、一般人がサンプルにされるのを嫌っているのだ。
    「……信じるほか、なさそうですね」
     惟元が呟くと、作楽も木々の間から見える夜景を見下ろして。
    「何とかなってると思いたいな」
     提案を受け入れても破棄しても、事態は刻一刻と動いているに違いない。
    「賽は投げられた……か」
     ルフィアの呟きは、梅雨の晴れ間の夜空に溶けていく。

     自分の胸の星を信じて貫いた彼等の頭上では、夏の星々が凱歌を唄うように煌々と瞬いていた。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ