戦神アポリアの提案～命と価値

■リプレイ

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「あそこか？」
　影道・惡人（シャドウアクト・d00898）の視線の先。
　古びた倉庫がぽつんと建っていた。今回、灼滅者達が目指す六六六人衆が待つ場所。そして、そこはこれから戦場となる死地でもあった。
（「まったく、六六六人衆っていうのは、どうしてこうも不快にさせてくれるのでしょう。わたし達が殺していい相手を紹介するとでも思っているのでしょうか？　……いえ、もしかすると違うかもしれません。敵の本当の目的が、わたし達を罠にはめることだとしたら……嫌な予感がします」）
　何にしても慎重に。
　四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）は、まずは指定された倉庫に慎重に近づいた。寂れた外観から、使われなくなってかなりの時間が経つことが推定される。アンテナやケーブルらしきものなどがあれば切断しておく。
「一般人は当然として六六六人衆以外のダークネス勢力もいるかもしれない……ま、考え過ぎだけど用心に越したコトはないわ」
　鹿島・狭霧（漆黒の鋭刃・d01181）は念の為、取引場所となる建物周囲をチェック。他に一般人などが誰もいないことを確認する。
（「『殺してもいい一般人10名を差し出す』か……胸糞悪い」）
　榎本・彗樹（自然派・d32627）は出入口からそっと中を覗く。
　倉庫の奥には、押し隠せぬ生来の殺意を醸し出すダークネスの姿が見て取れた。
「六六六人衆は……確かにいるようです」
「奇襲の可能性も考えておいたほうが良いでしょうね」
「どちらにせよ、一般人を巻き込むのは避けたいな」
　倉庫の窓から中をうかがいつつ、寺見・嘉月（星渡る清風・d01013）は殺界形成を使用する。神凪・燐（伊邪那美・d06868）が、同様に人払いを行い警戒を強めた。楯無・聖羅（冷厳たる魔刃・d33961）もＥＳＰを使っておく。
「急ごう。早く片付けて出来る限り早く学園に戻りたい」
　突撃の準備が整い。
　峰・清香（大学生ファイアブラッド・d01705）の言葉に、誰も否はなし。灼滅者達は全員そろって薄暗い建物内へと早足で雪崩れ込む。
「灼滅者か？」
「待たせたわね。ご要望通り、１０人揃えて連れて来たわよ」
　佇む六六六人衆に。
　狭霧が顎で示した方向には誰もおらず。
「……どういうことだ？」
「え、いないじゃないかって？　おかしいわね……ああそうか、ゴメン、１０人共バカには見えないんだったわ」
「貴様っ」
「とゆーワケで、これがこちらの返答よ」
　血圧が上がった六六六人衆を嗤って。
　一気に狭霧は距離を詰めて、死角からの斬撃で敵の急所を絶ち。先制して足取りを鈍らせる。
「誰も連れて来なかったということだな！？」
「古代スパルタに倣って言うなら、『来たりて取れ』だ」
　自分の首を指差し、清香は宣戦布告する。
　そして、スレイヤーカード解放の決めゼリフである『狩ったり狩られたりしようか』を高らかに叫ぶ。どんな悪人でも一般人は一般人の理で対処すべきで、そこから外れた灼滅者やダークネスに手を出す資格はない――そんな思いがあった。
「短時間で終わらせます！　ＶＩＴＡＬＩＺＥ！」
　悠花もスレイヤーカードを開放すると同時にサウンドシャッターを発動させ、周囲にケミカルライトをばら撒いた。薄暗い倉庫内に、点々とした光の塊が転がって視界を確保することに一役買う。
「わざわざご足労頂きありがとうございます。早速ですが、ここで死んでもらいますね」
　嘉月がディフェンダーに、防護符を飛ばして味方を守備する。
　その効果を受けた燐は、力一杯に足を踏みしめた。
「大体、今まで貴方達が仕出かした事件を考えると、提案通りの人数で殺しを我慢出来ますか？　無理だと思いますが」
「……」
「私は平安より退魔の任を担ってきた神凪家の当主です。祓うべきは貴方達ダークネス。守るべきは貴方達が差し出せとかいっている一般人。容認することは神凪の意に反するゆえ」
　きっぱりと同盟拒否を伝えた上で、戦闘に入る。
　燐のクルセイドスラッシュが唸りをあげる。破邪の白光を放つ強烈な斬撃が煌めき。攻撃が直撃すると共に、更に防御を強固にする。
「おぅヤローども、殺っちまえ」
　惡人が揶揄するようにレイザースラストで即攻撃する。
　敵な時点で無関心。礼すら不要と考え、ただ『物』として倒す。他人の目や評価も気にせずだ。
「お前達の勢力との同盟締結は却下だ」
　断固拒否という態度を、彗樹とて崩さない。
　周囲を警戒しながら制約の弾丸を放つ。指輪から放たれる魔法弾で、敵の動きに制約を加えた。
「しょせん、灼滅者とは相容れぬか」
「こんな胡散臭い申し出のためにわざわざ手を汚す義理など無かろう？」
　聖羅がリップルバスターで牽制に入る。
　円盤状の光線を発射し、ダークネスを薙ぎ払う。手ぶらで急行し、引き渡し役を問答無用で撃退するのが今回の作戦の意図だ。
「人間を殺す存在を許せないというのでは、ダークネスはダークネスであるから許せないと言っているのと同じだな……全く交渉になりはしない」
　六六六人衆は、懐から刃渡りの長いナイフを取り出すと。
　猛然と鋭く軌跡を描く。灼滅者達に対して、その視線は殺意に満ち溢れている。それは完全に敵と認識した目だった。
（「とんだお笑い種ね。答えは決まってる、断固拒否よ。ま、向こうもこちらが拒否するの恐らく百も承知の上だから……この交渉は囮の可能性も否めない。さっさと片付けて学園に戻った方がいいかもね」）
　狭霧は六六六人衆と激しく斬り合う。
　倉庫の出入口及び窓から目標を遮るような立ち回りを展開。頭数はこちらが有利なのだ。ならば、それを生かすべきだった。

●
「清浄なる風よ……！」
　嘉月が清めの風で皆をヒールする。
　灼滅者とダークネスの戦いは、長引くごとに傷が増え。メディックの仕事も増える。
（「注意を引かないと」）
　悠花がシールドバッシュで踏み込む。
　六六六人衆の身体が大きく揺れ、ディフェンダーである自分へ意識を向けさせる。盾役たる彼女の重要な役割だった。
「隙ありだ」
「っ」
　敵が味方の攻撃で意識を割かれたことを見逃さず。
　清香は蹂躙のバベルインパクトをお見舞いした。ジェット噴射で敵に飛び込み、バベルの鎖が薄くなる死の中心点を貫く。
（「越えるべき大きな壁に向けて、神凪家の誇りをかけて望みます」）
　続けて燐がレイザースラストでつないだ。
　退魔の任を担ってきた当主として。自分の宿敵を、祓うべき魔を。護るべき一般人を生贄として捧げることなどないように。精確に狙いを定めて、サイキックを繰り出す。
「灼滅者が種族としてダークネスを灼滅するのを止められないように、ダークネスは種族として人間を苦しめて殺す事を止められない……その程度も呑み込めないとはな」
「ぁ？　うるせーよ」
　猛然と刃を振るう六六六人衆に対し。
　惡人は攻撃の手を決して止めず。フリージングデスで迎え討った。急激に戦場が熱を失い、敵の右半身が凍りつく。
「俺らにとっちゃ灼滅てなぁ毎日の朝グソと一緒さ。溜まったもん（ダークネス）出すだけの作業さ。なんで便器の言葉を聞かにゃならねんだよ」
　元々相手の話など聞く気はない。
　とにかくとことん攻めの一手で、スピードを尊ぶ。
「早めに決着をつけさせてもらう」
　彗樹が斬影刃で、敵の防御を削る。
　ジャマ―として敵の弱体化を目指し、少しでもこちらに有利な条件を整える。それに伴って、六六六人衆の動きは少しずつ乱れ始めていた。
「このタイミングで共闘を持ちかけるなんて狙っているとしか思えんな。とにかく貴様らと共闘する気は毛頭ないからさっさと消えろ」
　聖羅のティアーズリッパーが高速の動きの中で決まった。
　敵の死角に回り込みながら、身を守るものごと斬り裂き。相手への拒絶を明確に、技へと込めたような一撃であった。
「……我らと同盟を結べば、今後も有利になるだろうに。灼滅者はその程度の計算もできないとはな」
「同盟？　はん、六六六人衆って起きながら寝言言う特技があったのね。知らなかったわ」
「六六六人衆と共存するなんて事態、こちらから願い下げです。同盟など一顧だにする価値もありません、叩き潰しましょう」
　六六六人衆が凶刃を苛烈に舞わせれば。
　狭霧も黙っておらず、ジグザグスラッシュで対抗する。ナイフの刃をジグザグに変形させ、敵の肉を回復しづらい形状に斬り刻み。まだまだこれからですよ、とばかりに、嘉月は敵にやられたダメージを少しでも和らげるために奮闘する。
「ちょろちょろ回復をして……目障りな」
「メディックを狙わせはしません」
　悠花は自分達の生命線である回復役を守りながら、己が得物に炎を纏わせて打突する。
　レーヴァテインによる打撃が、深々と相手の腹部へとめり込み。多大な火傷を負わせることにも成功する。
（「回復は味方に任せて、こちらは相手の隙を作る」）
　清香は積極的に攻めて攻めて攻めまくった。
　蛇咬斬で伸ばした武器を敵に巻き付け、斬り裂きながら動きを封じる。六六六人衆はその果敢な攻撃への対応に追われていくことになる。
「逃がしませんよ。確実に貴方を仕留めると決めていますので」
「ちっ」
　敵が出口を気にし始めたのを敏感に察し。
　燐は先手を打って逃走経路を塞いだ上で通告する。六六六人衆の攻撃を真正面から受ける形になるが、元より敵の攻勢を全て引き受けるつもりの覚悟だ。強い想いで踏ん張って、決して退くことはない。
「くっ。この同盟がなれば……六六六人衆による人間側の実質的な被害も減った可能性もあろうに」
「良いんだよ。おめーらが悪さしてる方がこっちも気軽に灼滅出来るんだからよ」
　惡人は影喰らいで、六六六人衆をすっぱりと飲み込む。
　影に覆われた敵はトラウマを発現されて、更なるダメージを重ねることになる。果たしてそれはどのようなトラウマなのかは知る由もない。
「むしろおめーら灼滅対象出すから許してってならな……ま、要らんが」
　戦闘で損をする思考を嫌う惡人は、あっさりと全てを斬り捨てる。
　この戦いにおいても、最後に味方側が1人でも立ってればOKと思う。
「う……むっつ……」
「身体が重そうだな。パラライズはもう充分か」
　相手の様子を見てとり、彗樹は攻撃方法を変えた。
　神薙刃がホーミングして的を追う。己に降ろしたカミの力によって、激しく渦巻く風の刃を生み出し斬り裂きにかかった。
（「バッドステータスを積極的に付与していく」）
　聖羅はバスタービームでプレッシャーをかける。
　特殊な光線が寸分たがわず、相手の身体の各所に命中。傷とともに、こちらにとっては有利な、相手にとっては不利な効果を導く。
「石頭の灼滅者共が……っ」
「六六六人衆に言われたくはありません」
　戦いは徐々に灼滅者側に傾いていた。
　ダークネスの攻撃を悠花がガードし、逆に魔力のこもった突きをカウンターで入れる。味方に庇ってもらった清香は一気に回り込んだ。
「これを喰らえ」
　渾身のディーヴァズメロディ。
　歌姫を思わせる神秘的な歌声で、敵を催眠状態に陥れた。手繰り寄せたこのチャンスを他の仲間達も最大限に利用する。
「提案の答えは拒否、ってアンタらのボスに伝えなさい。尤も……アンタ自身の口から伝えるコトはできなさそうだけどね」
　狭霧がクラッシャーの火力を如何なく発揮。
　一瞬のタイミングをものとし、荒ぶる斬撃がダークネスを両断する。六六六人衆の片腕が見事に切断されて、倉庫の床を転がっていった。
「貴方達が殺してもいい人間をこちらが選定したとして、供給が追い付かなくなるのは目に見えていますでしょうに」
　そう呟いてから。
　ここは攻撃を優先するべきと、嘉月はリングスラッシャーを射出する。
「飛ばせ！」
　実体を持たないサイキックエナジーの光輪がヒット。
　同時に相手のエンチャントのブレイクにも成功する。追い風が確実に吹いてきているのは間違いない。
「貴様らは……どういう」
「ぁ？　勝ちゃなんでもいんだよ」
「っ」
「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
　惡人は着実にサイキックを効率良く着弾させ。
　勝利のシナリオをなぞる。六六六人衆の身体には夥しい亀裂が走り、見るも無残なボロボロの姿が露わになる。
「こ、のっ……」
「悪あがきは通しません」
　破れかぶれ気味の剣筋を、燐が力強くガードする。
　ラビリンスアーマーを自身に重ね、盾としての己を確固たるものとし。祭霊光やセイクリッドウインドでのフォローも適宜欠かさない。
「問答は無用だ」
「ここは敵を斬り伏せるのみ」
　聖羅が目にも止まらぬ居合斬りを披露すれば。
　彗樹の方は、雲耀剣を上段から発動。まっすぐに早く重い斬撃を振り下ろし、敵のナイフを破壊する。灼滅者達の集中砲火は、果てることなく降り注いだ。
「そこです！」
「！」
　最後の一撃。
　嘉月が叫び、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが炸裂。スターゲイザーに吹き飛ばされた六六六人衆は、末期の言葉もなく。己が役割を完遂することも叶わず、光の泡となってその存在を消滅させた。

「んじゃ後は任せたぜ」
　静謐が戻った倉庫内。
　横着な惡人は、後処理や片付け等は丸投げして去る。
「隠しカメラ等は……見当たらないわね」
「それでは、早く学園にもどりましょう」
「だな」
　狭霧が手早くチェックを終え。
　悠花の言に、清香をはじめとした一同が頷く。灼滅者達は出来る限り素早く現場から去り。破談の跡が残る交渉場所をあとにした。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月11日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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