戦神アポリアの提案~命の選択を

    作者:三ノ木咲紀

    「六六六人衆と武蔵坂学園との共闘を目論んで、武蔵坂学園に接触したダークネスがおるんや」
     集まった灼滅者達に、くるみは真剣な表情で語り掛けた。
     今回接触してきたのは、狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)さんで、今は六六六人衆第七一位『戦神アポリア』を名乗っているようだ。
     今回の呼びかけは戦神アポリアの独断ではなく、ミスター宍戸や六六六人衆の上層部の意向に従っている。
     灼滅者達が共闘を決断すれば、灼滅者と六六六人衆の同盟が締結される可能性が高くなる。
     戦神アポリアは、こう呼びかけている。
     武蔵坂学園が、六六六人衆に対してサイキック・リベレイターを使用した事を確認した。
     もし灼滅者が六六六人衆を滅ぼそうとするのならば、全面戦争となり人間社会に甚大な被害が出てしまうだろう。
     しかし、六六六人衆と人類は共存できる筈だ。
     六六六人衆のプロデューサーであるミスター宍戸は『人間』であるし、六六六人衆は人間社会の支配に興味は無いのだから。
     六六六人衆は序列を争って、互いに殺し合う事で一定以上の数になる事は無い。
     そのため『唯一人類と共存が可能なダークネス組織』であると言えるだろう。
     六六六人衆は、人間が食事をし睡眠を取り娯楽を楽しむように、一般人を殺戮する必要はある。
     だが、これは肉食動物が草食動物を狩るような自然の摂理の範囲であるし、ある程度、武蔵坂学園の意向に従う用意がある。
     一定の人数を確保でき、武蔵坂学園が受け入れられる条件を考えて欲しい。
     例えば犯罪者に限る、老人に限る、外国人に限る、無職者に限るなど。
     もし共存を望む場合、こちらが指定する場所に『六六六人衆が殺戮しても良い人間のサンプル』を連れてきてもらえれば、それをもって同盟の締結としたい。
     長い説明を終えたくるみは、淡々と続けた。
    「戦神アポリアは、一般人の受け取り場所に六六六人衆が殺してもええ人間を十名連れてくるよう連絡をしてきたんや」
     受け取り場所は多数用意されており、それぞれについて十名の一般人を連れてくることを望んでいる。
     一か所だけではそのチームの独断であり、武蔵坂の総意ではない可能性が高いと考えたのだろう。
     引き渡し場所の過半数において十名の一般人が受け渡されたならば、他の引き渡し場所で戦闘が発生したとしても、武蔵坂学園は同盟の意思があるものとして次の交渉に入る。
    「……この同盟案をどうするかは、皆に任せるわ。受け入れるんやったら、十名の一般人を連れて引き渡し場所に。受け入れないんやったら、戦争は不可避や。敵戦力を削る為にも、引き渡し場所の六六六人衆を灼滅したってや」
     引き渡し場所は、片田舎の雑居ビル。廃ビルとなって久しく、人の気配はない。
     引き渡し場所に来る六六六人衆は捨て駒らしく、六六六人衆としては戦闘力が低い。
     八人の灼滅者達の力で灼滅することも可能だが、灼滅を目指す場合相応の準備をして戦闘を挑んで欲しい。
    「この同盟案も、ミスター宍戸のプロデュースなんやろな。……戦争による死者か、回避するために選ぶ死者か。重い命の選択やけど、どう対応するかは、皆の決断に任せるで。よろしゅう、頼んだで」
     くるみは苦い笑顔を浮かべると、頭を下げた。


    参加者
    堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)
    大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)
    黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)
    イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)
    日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)

    ■リプレイ

     廃工場の一角に、一人の青年が佇んでいた。
     退屈そうに解体ナイフを弄ぶ青年は、現れた灼滅者達に顔を上げた。
    「よう来たか。サンプルはどうした? 連れて来る伝手もないのか?」
     一般人を一人も連れて来なかった灼滅者達を、青年は嘲笑う。
     臨戦態勢を整える仲間を押しとどめた物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)は、両手を広げて青年に見せた。
     まずは話し合う意思を見せた暦生は、攻撃を仕掛けてこない青年に語り掛けた。
    「まず、同盟に対してだが……。論外だ、俺らが人間の選別なんぞ出来る立場じゃねえよ」
    「……やっぱなー。灼滅者ってのはそうだよなぁ」
     ケラケラと笑う青年に、暦生は続けた。
    「代わりにこちらが検討可能な案がある」
    「へえ?」
    「人間殺害及び密室への拉致の禁止。破った者は六六六人衆か武蔵坂で灼滅。アンブレイカブルについては以前の武人の街のような形態でなら共存する事も可能だ。これらの条件を飲めるなら、こちらも検討位は出来る」
    「……」
    「以前に慈眼衆との同盟時に向うから持ちかけられたものとほぼ同じだ。こちらが受け入れられる最低限度のラインってヤツだな。できればこれらの要求を持ち帰って……」
    「無理だな!」
     ケラケラ笑った青年は、いじっていた解体ナイフを暦生へ向けた。
    「俺たちが人を苦しめて殺すのは、子孫を増やすのに必要だからだよ。それを禁止されたんじゃ、俺たちに滅びろっていうのと同じだぜ?」
     言い終わるのが早いか、青年はナイフを掲げた。
    「まずは貴様が去勢するっていうなら、考えてやる!」
     振り下ろされるナイフの切っ先から、猛毒の霧が後衛へ迫る。
     思わず身構えた暦生の前に、大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)が割って入った。
    「……お前の言いたいことは分かった。でも……」
     襲い来る毒の吐き気に耐えながら霧を振り払った彩は、大きく息を吐くと青年を睨んだ。
    「それでも! わたし達にも六六六人衆にも、人を殺していい権利なんてない!」
    「境を繋ぐ堺の守護ヒーロー、ここに参上!」
     風のように駆け抜けスレイヤーカードを解放した堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)は、その勢いのまま展開したWOKシールドを青年に叩きつけた。
     猛毒の霧を抜けて鼻頭を強打された青年は、縊り殺しそうな目で丁を睨み付けた。
    「この女……!」
    「あなた達も妥協してくれたんだろうけど、六六六人衆がそんな約束を守るとは思えないね!」
    「最初から信用する気ゼロじゃあ、交渉なんて成り立たねぇな!」
     挑発するように笑む青年に、十字架が迫った。
    「んー、今までのことを思うとねぇ」
     どこか緊張感のない声を上げた日輪・瑠璃(汝は人狼なりや・d27489)は、構えたクロスグレイブを振りぬいた。
     強烈な一撃を叩きこまれ、たたらを踏んだ青年の背中に、鋭い斬撃が走った。
     暦生との交渉中に背後方向へ移動していた黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)が放つ黒死斬が、のけぞって衝撃を逃がそうとしていた青年の背中を切り裂く。
    「ボクは正直、条件問わずダークネスとの同盟はしたくないんだ」
    「へっ……! 俺だって正直、お断りだよ!」
    「そうか。意見が合ったな」
     冷静に言い放ったイサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)が放つレイザースラストを何とか避けた青年に、イサは感心したような声を上げた。
    「ほう、よく避けたな」
    「俺にもプライドがあるんでね!」
    「だが、所詮捨て駒だろう」
     冷淡なイサの言葉に、青年は眉根を上げた。
    「ミスター宍戸はプロデュースするだけ。同盟などどう転ぼうとも構わず、劇的な演出ができればそれでいいのだろう」
    「乗っても断っても面倒な感じの提案だからね。とはいえ、何も選ばないって訳には行かないのがまたね。ミスター宍戸が好きそうだ」
     肩を竦めた影龍・死愚魔(ツギハギマインド・d25262)の足元から、影が伸びた。
     まっすぐ伸びた影が青年の足元で大きく膨らみ、体を捕縛する。
     動きを止めた青年の耳に、高らかな声が響いた。
    「あなたを見逃したら、他の人を殺すのでしょう? 絶対に許しませんわ!」
     白と黒の炎を纏った黒嬢・白雛(天翔黒凰シロビナ・d26809)の姿が宙を舞い、青年に降り注ぐ光が一瞬陰った直後、蹴りが炸裂した。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     脳天を直撃した蹴りの衝撃から立ち直った青年に、白雛の宣戦布告が響いた。


     解体ナイフを舐めた青年は、怒りに満ちた目で丁を睨んだ。
    「まずは女……。てめぇを解体してやる!」
     大ぶりのナイフの刃を閃かせた青年は、丁の懐に一気に入り込むと大きく切り裂いた。
     丁の至近距離に迫った青年に、ライドキャリバーのザインが迫った。
     主から遠ざけるように突撃する車輪の圧力に大きく下がった青年は、迫るサイキックソードの攻撃に膝をついた。
     まるで読んでいたかのような瑠璃の攻撃に、青年は歯を食いしばった。
    「くっ……!」
    「すぐに逃げるかと思いましたが、粘りますね」
     意外そうに目を見開いた瑠璃は、ふと口元に笑みを浮かべると小さく笑った。
    「……ああ。お使いも手ぶらじゃ帰れないですよね。上のほうから決裂したら灼滅者の首を取ってこい、とか言われてないです?」
     煽る瑠璃の声に、青年は激高したように顔を赤くした。
    「殺しの腕を磨けるチャンス、逃がせねぇだけだ!」
    「そんなだから、君達との同盟なんてできないんだよ」
     起動したエアシューズで青年の腹に蹴りを入れた柘榴は、腹立たし気に青年を指差した。
    「一般人を殺す時点で許せないのに、それの技術を競うなんて論外」
    「俺達だって、命を選べるような立場じゃないし。そもそも一般人に犠牲を出すのは好きじゃないしね」
     よろける青年に追撃を仕掛けるように交通標識を構えた死愚魔は、「同盟反対」と書かれた赤い標識を振りぬいた。
     乗った勢いを弧を描きながら収めた死愚魔は、ふと複雑な笑みを零した。
    「……その視点が短絡的だとしても」
    「だとしても。生贄によって成り立つ同盟など同盟ではない。それはただのディストピアだ。何れどこかから瓦解する砂の城だ」
     死愚魔の自嘲にも似た笑みに応えたイサは、日本刀を青年に突き付けた。
    「そして何より……生贄を選定できる……。つまり、お互いに一般人を管理できるという高い所からの物言い……傲慢な悪の言葉だ」
     言い終わるが早いか。
     床を蹴ったイサは、青年だけではない何かを切り裂くように日本刀を袈裟懸けに振るった。
    「私はその様な悪と戦っているのだ。これまでも、今も、これからもな……」
    「だから、私はダークネスを許しませんの!」
     大きく構えた罪救炎鎌ブレイズメシアに焔を宿した白雛は、空高くジャンプすると青年を刈り取るように振りぬいた。
     大きくよろけ、血を吐いた青年を前に、丁は祭壇を展開した。
     自分の頭上に展開した祭壇が、解体ナイフで受けた傷を癒していく。
    「私らが長生きすることでアタッカーも長生きするんだよ! ほら、かかってきてよ!」
    「この、女ぁっ!」
     丁の挑発に奥歯を噛み締めた青年は、怒りに燃えた目で丁に斬ってかかった。
     加速する戦場に、暦生は小さくため息をついた。
    「結局、彼はメッセンジャーにはなりそうにないねぇ」
     言いながらワイドガードを後衛に展開した暦生に、集気法で丁を回復した彩は首を傾げた。
    「物部先輩、どうしたんですか?」
    「ん? いや……。たとえ相手がダークネスでも、対話する意思は見せるべきだ。俺らは人間なんだからな。だが、それもできそうにないなと。ま、元人間のダークネスを殺しまくってる俺らがどの口がって感じだがな」
    「そうですね。六六六人衆がどういう意図でこの話を持ってきたのか、不気味です」
     いつもの元気さの裏で気を張り詰める彩の手に、毛並みが寄り添った。
     毒霧のダメージを癒す霊犬のシロが、心配そうに主を見上げる。
     元気づけるように近くに寄った死愚魔のウイングキャット・マオゥのリングが光り、癒しきれない毒のダメージを消し去っていく。
    「ありがとう、二人とも」
     二匹のサーヴァントの頭を撫でた彩は、殲術道具を構えると注意深く青年の動向を睨んだ。


     戦いは進んだ。
     六六六人衆は元々強力なダークネスだ。
     捨て駒とはいえ、サイキックリベレイターで強化された青年の攻撃力は侮れないものがある。
     列攻撃を織り込んだ青年の攻撃は、じわじわと前衛の体力を削っていく。
     青年側が優勢に思われたが、灼滅者達の連携のとれた攻撃の前には多勢に無勢。
     青年は徐々に押されていった。

    「死ねぇっ!」
     青年が放つどす黒い殺気が前衛を包み込む。
    「お仕事は……果たせたか、な?」
    「十分ですよ、丁さん!」
     殺気に巻かれて気を失った丁を守るように飛び出した瑠璃は、サイキックソードを振りかぶった。
    「手土産なんて、渡しませんから!」
     瑠璃が放つ強烈な一撃に、青年は大きくぐらついた。
     ダメージを受けた前衛に、彩は暦生をチラリと見た。
     青年はだいぶ手負いだ。ここで手を緩めずに灼滅できるのならばしたい。
     前衛も殺傷ダメージが累積してきている。次に強力な列攻撃を受けたら危ない。
     回復よりも、攻撃を優先するべき。
     ここが正念場だ。
    「暦生先輩、お願いしますね!」
    「了解。まあ奴を、放っておく訳にもイカンからなぁ」
     言いながら構えたクルセイドソードから吹き抜ける清浄な風が、前衛を癒し吹き抜けていく。
     癒える傷を肌で感じながら駆け出した彩は、白焔豪腕・猛火に力を込めた。
    「お前達の思い通りに、殺させたりなんかしない!」
     裂帛の気合を込めた巨大な腕が、青年を捕らえ吹き飛ばす。
     吹き飛んだ先を読んだように、死愚魔は交通標識を構えた。
    「ここから先は、通行止めだよ」
     カウンターのように放たれたレッドストライクが、吹き飛ぶ勢いを相殺する。
     膝をついた青年が凍り付いた。
    「さぁ、罪人よ。凍てつき朽ちろ。氷獄がお前を待っている」
     イサが構えた冰槍「モリス・テンプス」から放たれる氷のつららが、青年をその場に縫い付ける。
    「くそっ……! あと少しだったのによ!」
     歯噛みする青年に、二つの影が迫った。
    「これで、終わりだよ!」
     柘榴の日本刀が、青年を上段から真っすぐに切り裂く。
     半ば以上切断された青年の胴に、咎人の大鎌が迫った。
    「さぁ……断罪の時間ですの!」
     白雛が持つ大鎌が、焔を宿す。
     青年の胴を真っ二つに割いた大鎌が、夕日を受けて煌めいた。


     大鎌を収めた白雛は、夕日が差し込む室内を探索した。
     どこかにカメラ等がないか探してみたが、それらしい物はなかった。
    「こっちにはないみたいですわ」
    「んー、こっちもないみたい」
     人狼の嗅覚で周囲をガサゴソ漁っていた瑠璃は、廃棄された文房具を床に戻した。
    「残念。もしあったら、こちらの条件を録画して残しておこうと思ったんだけどねぇ」
     やれやれと肩を竦めた暦に、死愚魔はふと夕日へ視線を向けた。
    「……この判断がどう出るかな。今はまだ分からないけど」
     死愚魔の懸念を乗せた夕日は、ゆっくりと地平線へと落ちていった。

    作者:三ノ木咲紀 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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