戦神アポリアの提案～決断の先に

■リプレイ

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　深夜の暗闇の中に、その廃倉庫はあった。

　ＤＳＫノーズを使い、用心深く周囲を警戒しながら倉庫へ向かう香坂・翔（青い殺戮兵器・d23830）に富士川・見桜（響き渡る声・d31550）だったが、潜伏している不審者や工作は無くひとまず安堵する。
（「アポリア、あきらちゃん。世話が焼けるな、何回もいろんな人に心配かけて。手がかりくらい見つけられたらいいんだけど」）
（「あきら先輩、何考えてるんだよ。こんな同盟冗談だろ？ 先輩が堕ちるのを止められなかったから、せめてこれからの暴挙は止めさせて貰うよ！」）
　あの日、戦神アポリアへ堕ちてしまったあきらを思うと……同盟交渉へ赴く翔の気持ちが一層引き締まるのだった。
「真風招来！」
　片倉・光影（風刃義侠・d11798）はスレイヤーカードを解放し、ライドキャリバー『神風』を倉庫の前に待機させた。
　光源の準備等を済ませ、風化してさび付いた倉庫の扉を開けると、
　屋根や壁に所々、雨風にさらされて空いた穴から外部の光が差し込むものの、倉庫内は外よりも暗かった。
（「出入口は入って来た一か所ダケ、窓もナイ」）
　堀瀬・朱那（空色の欠片・d03561）が素早く逃走されそうな経路を確認する傍ら、矢崎・愛梨（高校生人狼・d34160）が注意深く周囲を見回すと、
「そんなに警戒しなくても、小細工はねぇしオレしか居ねーよ」
　手癖でバタフライナイフを振りながら、いかにも軽薄そうな男が建物奥から現れた。
（「嘘は言っていないみたいだね」）
　極力気配を消して、伏兵や隠しカメラが無いか探っていた長篠・殺識（混沌迷宮・d37682）だったが、男の言う通りそれらしき物は見つからなかった。
「人質は連れて来なかった、なるほどねぇそれが答えって事ね」
「見ての通り交渉は出来ない。一般人を裁くのは、灼滅者でもダークネスでもない」
「今更ンな条件飲むとでも？　イイトコ不要な下っ端あたしらに片付けさせようってトコなんじゃナイの？」
　暴雨・サズヤ（逢魔時・d03349）朱那を筆頭に、皆で素早く男を包囲。
　詰め寄る灼滅者達が身に着けた光源の明かりが揺らめく。
　男は下っ端扱いに苛立って、ナイフをしきりに弄りながら、
「ふーん、こっちは死んじゃった方がマシな人間でも良いって言ってるんだけどねー」
　と、譲歩してやっているんだという態度だ。
「死んでいい人間なんていないよ！ どんな人間の人生にも意味はあったんだよ！」
　愛梨の言うように、全会一致で同盟を断ると決めたのだ。翔ははっきりとそれを告げる。
「同盟はお断りだよ。一般人を誰なら殺して良いなんて、オレ達が決めていい問題じゃない」
「同感ね。それに、人間を管理する事になる気もするしね。それじゃクリスタル・ミラビリスとあまりかわらないんじゃないかな」
　見桜も真剣な眼差しを向け、言葉を紡ぐ。
（「仁と義侠を重んじる自分が、こんな同盟とは名ばかりの供物要求に応じるなんて事、絶対に許す訳にはいかねぇ！！」）
　義憤をぐっと堪えて口を出さずやり取りを見守る光影、そして赤槻・布都乃（悪態憑き・d01959）は問う。
「一応聞きてぇんだがよ。アンタは今回の交渉、どう考えてるんだ？　組織の上が指示した、誰かを殺せるって聞いてきた程度なのかね。灼滅者が一般人を捨てろ、って言われた時の反応とか、考えたコトあるかい？」
「ハッ、くだらねぇ。オレ達ダークネスは人を苦しめて殺す事を止められないんだからさ、せめて殺す人間を選ばせてやったんだろ？　それすら拒否られたら交渉にならねーんだよ」
　同盟への怒りの言葉をぶつけられても、六六六人衆のその男はへらへらと笑っていた。

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「さて。もっとニンゲン寄りの交渉なら、考えるのもアリだったケドよ。悪ぃが、今回は却下だ。あの世で悔いな」
　布都乃は男の懐に潜り、迷いなく斬り掛かった。緋色のオーラが眩く魔力を奪い取るその隙に、ふわりと背後に回り込んだウィングキャットのサヤのしっぽが視界に入り、振り返った頬に肉球パンチを喰らう。
「痛ってぇ……ま、アンタらがそのつもりなら相手してやるわ」
（「逃走される心配は無いようだな」）
「来い、神風」
　光影の呼び出しに答えて神風は倉庫内に突入、包囲網に加わった。
　朱那の手にはカラフルなステッカーサイン標識『non stop』。黄色標識に変化させて掲げ、
　しっかりと閉じた扉を背にサズヤは男に接近、ドリル回転した杭を脇腹にねじ込む。
「ミスター宍戸は、人間。人間に捨て駒として使われていることを、お前は、わかって此処に来ている？」
「捨て駒っていうことは、こいつは何も知らないだろうね」
　畳みかける様に、愛梨が突き出した拳をくらい、
「チッ、好き放題言ってくれやがって」
　苛立ちを隠しもせず愛梨の後ろに回込み、背中に向かってナイフを振り下ろすも、ギュルンと飛び出した神風が代わりに切り裂かれたのだった。
「このやろっ！」
　邪魔が入って悔しがる男、見桜はこの間に乱れた包囲網の穴に進み出て、眩い白光を放つクルセイドソードを振り下ろした。
「蒼の力、我に宿り敵を砕け！」
　翔はスレイヤーカードを解放し、妖の槍を手にして男へ捻り突き。
「次から次へと……」
（「もしかしたら足手まといかも知れないけど、覚悟決めなきゃ」）
　男の背後では、気付かぬうちに殺識の姿があった。頼もしい仲間たちへの信頼を胸に、いつもの笑顔で鋼糸を操り、斬る。

「……調子乗ってんじゃねーぞ」
　男はゆらりと立ち上がり、バタフライナイフに毒の竜巻を宿す。轟轟と威力を増して振りかざした風は、前衛陣を飲み込んだ。
　それをぐっと耐え忍び、風がやむと共に。
「オラァ！」
　布都乃は炎を纏ったシューズで敵の死角へ突っ込んでいく。熱いご主人と対照的に、すまし顔のサヤがしっぽの先のリングを輝かせ仲間達を癒した。
（「援軍が来る気配はないな」）
　であれば目の前の敵に集中できるというもの。サズヤはエアシューズに流星の煌めきと重力を宿し、見桜に目配せ。
　飛び蹴りが決まり膝をつく敵を目がけ、見桜の噴出させたリングスラッシャーが炸裂した。
　男は建物壁際に積まれた古びた段ボールによろけ倒れ、埃を吐いてつぶれた段ボールによりかかったままため息をついた。と、オーラを拳に集束させた愛梨と目が合い、睨み返す。罵倒してくるかと思ったが無言の時間が流れ、
「お、オマエさっきの威勢の良さはどうした？」
「うぅ……」
（「一対一は苦手……」）
　言動で見せる大胆さは、内気さの裏返し。なんとかしなきゃとは思っているが、さっきの様な大勢で居る時の威勢は影を潜める。
「でもっ！」
　攻撃の手は緩めない。目まぐるしく閃光百裂拳を放ち、離脱するのと入れ替わりに、サイケデリックな大鎌が肩口へ振り下ろされた。
「解体、解体♪」
　その持ち主は殺識。小さな体を悠然と捻り出し、攻撃を繰り出す様は愉快そうで。
「くっ……」
　肩を庇いながら、目前に現れた光影からすいっと距離をとる。
（「ならば！」）
　束ねた護符を取り出し空中に放てば、はらりはらりと舞い離れた敵へ降り注ぐのだった。

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　捨て駒、下っ端ーーしかし、六六六人衆に身を置くだけあってしぶとい戦いぶりだ。
　灼滅者達は包囲網を保ったまま絶え間ない攻撃を浴びせるが、男が顔に浮かべる憎たらしい笑みは健在だった。
「もう終わりか？　どんどん来いよー」
　なんて軽口で煽るが心の中では、
（「体しんどくなって来たな……まぁ馬鹿正直に相手してやることもねーな」）
　と考え直した。とんっ、と地面を蹴り出し灼滅者達の包囲網をこじ開けようと走り出すと、
「朱那、そっち頼む」
「お任せあれ！」
　男が出入口に向かうより早く朱那に回り込まれ、背後にはサズヤが立ち挟み撃ち。
「チッ邪魔すんな」
　逃げ場を失い悪態をつく事しかできない男へ、朱那が噴出した無数のダイタロスベルトが襲い掛かる。
　辛辣に、冷徹に。
「そういう無関係な命を天秤にかけるヤリ口、とことん気に食わない」
「……ん」
　背後からピタリと首筋を狙って、サズヤは思い切りナイフで切り裂いた。
　逃げる事が叶わず、男は途端に余裕を無くした様だった。夜霧に身を包み、
「まだ余裕……！」
　と虚勢を張っても、焦燥感が顔に出ているのだった。
「へぇ？　余裕だってんなら、好きにやらせて貰うぜ！」
　猛攻撃開始！　ぶら提げ式の灯りを揺らめかせ、布都乃がギルティクロスを見舞えば、男の上半身に大きく逆十字架の傷が刻まれた。体勢を立て直すよりも早く、雷を纏った愛梨のアッパーカットが決まり、宙を舞う。
「がは……」
　ドサッと派手に音を立てて仰向けに倒れ込むと、納刀状態の日本刀『黒龍』に手を掛けつつ光影が進み出てきた。
「ま、まて！」
　ふらふらと立ち上がった男へ向かって一瞬で抜刀。待ってやる義理などない。たちどころに斬り捨てたのだった。
（「今、かな」）
　敵の死角に位置取り、タイミングを見計らった殺識は静かに足元から影を伸ばした。真黒な闇に飲み込まれた男の見たものは……。
（「殺戮技巧その2ジャック・ザ・リッパー……なんてね」）
「はぁ……はぁ……テメーら許さねぇ、クソが！」
　服も体中も傷だらけ。満身創痍になりながらも、愛用のバタフライナイフを構え直し、刃をジグザグに変形させる。
「覚悟しやがれぇ！」
　襲い掛かってくる敵を正面から受け止める、見桜。
　ざっくりと深手の傷を負っても構わず、意地を張って言う。
「損得や理屈でカタをつけるなんてくだらないよね」
　真剣で命がけで、真っすぐに見つめてくる顔を見れば、私利私欲の赴くままに生き長らえて来た男はバツが悪く目をそらす。
（「オレはあの日を後悔してる。オレが堕ちるか、倒せば良かったんだ。でも、今更後悔したってあの日はやり直せない」）
　翔は利き腕を巨大な刃に変えて男に差し向ける。
（「……だったらせめて、先輩のやろうとしてる事だけは阻止させて貰う」）
「くそ、オレは捨駒じゃねぇ序列を上げるこんな所で死んでたまるかよ……」
　鬼気迫る翔の眼差しが刺さるようだ。それでも悪あがきを口にするその男へーー。
「逃げられるなんて思うなよ！　お前を野放しにするなんて、きっと『俺』は『オレ』を許さないから！」
　ズブリと心臓を貫く刃。急速に目の光が失われていく。
（「殺されていい人間なんて、この世には一人も居ない」）
　動かなくなった男をまじまじと見つめてサズヤはふと、学園に来る前の事を思い出していた。
　狂った正義の元社会の闇を潰していたあの頃。学園で人の日常を守る尊さを学んだ今だからこそ、
（「本当は、お前だって、殺されていい訳じゃなかった」）
　そう思える自分が居るのだった。

　戦いは終わり、静寂を取り戻した廃倉庫で見桜は、念のため周囲を警戒したが、
「何もなさそうね。帰ろう、やるべき事は果たしたよね」
　理不尽な同盟交渉にはっきりと反対の意思表示をして、灼滅者達は学園へと帰って行ったのだった。
　なすべき事を終え帰路につく彼らの背に、朝焼けの光が注ぐ。

作者：ｋｏｇｕｍａ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月11日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 7
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