戦神アポリアの提案~意味ってやつをくれてやる

    作者:空白革命

    ●六六六人衆からの提案
    「うーん……」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)が教卓にあぐらをかいて難しい顔をしていた。
     しかし考えていてもしょうがないと思ったのか、頭をがしがしとやって語り始めた。
    「聞いてくれ。武蔵坂学園に六六六人衆のひとりが接触してきた。『戦神アポリア』ってわかるか? そいつが提案を持ちかけてきたんだ」
     狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)。知る人ぞ知る六六六人衆、序列にして七一位。
    「提案っつーのは、な……『六六六人衆は人類の共存』だ」

     むろん、誰も殺さず仲良くしましょうという提案ではない。
     六六六人衆は希少種族であり、互いに殺し合うことで数を一定化に保つ習性をもっている。
     その一方で人類支配に興味が無く、普通に暮らして行ければよいのだそうだ。
    「しかしその『普通』が人間とは違う。食って寝て遊ぶように、六六六人衆は『殺人』をする必要があるんだ。そこで奴らが言うには……」
     六六六人衆の殺人は野生動物の食事と同じで自然の摂理のようなもの。ある程度なら武蔵坂学園の意向に沿う用意がある……というのだ。
    「方法はこうだ。一定の人数を確保して、武蔵坂学園側で指定した人間を殺すというものだ。犯罪者とか、そういうな……。
     その手始めとして、『六六六人衆が殺戮しても良い人間のサンプル』を連れてきてもらい、それを同盟の締結としたい、らしい」

     具体的には、1チームにつき『10名の一般人を受け取り場所に連れてくる』というものだ。
     複数のチームに分けているのは、チームごとの独断ではなく武蔵坂学園全体の総意であることを確認するためのようだ。現に、過半数で引き渡しが行なわれたなら、他のチームが拒んで戦闘に発展したとしても次の交渉に移ると言ってきているが……。
    「ハッキリ言っとこう。俺の愛と心は皆と共にある。
     この申し出をどう受けるか、皆の意志で決めてくれ。
     『受け入れて一般人を引き渡す』か『拒んで戦うか』だ」

     引き渡しを行なったならそれでミッション完了となるが、拒んで戦う場合はどう転んでもその場での六六六人衆と戦闘になるだろう。
    「俺たちが担当してるのは廃棄された製鉄所跡だ。
     場も開けていてひとけもなく、戦うにも引き渡すにも適した場所ってわけだ。
     でもって、ここへ派遣される六六六人衆の情報も予知してある」
     派遣されてくるダークネスの名は踏鞴吹・溶鉄。
     八人の灼滅者が力を合わせてぶつかれば灼滅できる範囲のダークネスだ。
    「俺からこれ以上言うことは無いぜ。皆が決めたなら、俺は全力で肯定する! 愛、ゆえにな!」


    参加者
    神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    遠野森・信彦(蒼炎・d18583)
    荒吹・千鳥(舞風・d29636)
    立花・環(グリーンティアーズ・d34526)

    ■リプレイ

    ●羊たちの社会
     東京湾沿い工業地帯。かつては製鉄所だった場所も、事故によって閉鎖され、今はさびた鉄の山と化していた。
     あちこちにたった錆びた鉄柱。
     そのひとつを、神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)はパンチでへし折った。
    「なにが共存だ! ぶざけたことを抜かしやがって! 絶対に揺るさん!」
    「どうしたんです。やけにお怒りじゃないですか」
     立花・環(グリーンティアーズ・d34526)がやんわりとなだめようとするが、熱志の怒りはまるで収まることがなかった。
    「怒って当然だぞ! ダークネスの殺人は自然の摂理なんかじゃない。殺していい人間を俺らが決めるのも間違いだ。奴らは残らず地獄へ落としてやる!」
    「勢いはともかく、おおむね賛成やねえ」
     荒吹・千鳥(舞風・d29636)がおっとりとした口調でそう述べたことで、熱志の感情は一旦のところ静まった。
    「ダークネスにくれてやる命なんざひとつもあらへん。なあ?」
     千鳥に水を向けられて、環はちらりと目をそらした。
     仮の話をするとして。
     もし『灼滅者が定期的に殺人対象を選択する』という社会構造が生まれたとして、権力者を指定すればその通りに殺してくれるのだろうか。
     アメリカ大統領とその側近を皆殺しにしなさいとかそーゆー命令を?
    「ああ、いや……前提を取り違えましたね。この提案、こちらの思ってる内容とは全然違う所を見てるんですよ。相手は」
    「うみゅ。考えりゅ時間が短かったから勘違いしたが、灼滅者を黙らせりゅためだけの言いくりゅめではないかの」
     こくこくと頷くシルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461)に、遠野森・信彦(蒼炎・d18583)が『なんて?』と振り返った。
    「俺は……六六六人衆は生命維持ができて、俺たちは邪魔な人間を取り除けて、お互いウィンウィンっていう持ちかけをされたと思ってたぜ。としても、俺らはそういうんじゃあねえが」
    「詐術ですよ詐術。殺していいとは言ったけど、殺せとは言ってないんです」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)が苦々しい顔で言った。
    「殺すかどうかは結局相手が選ぶし、なんなら『殺してはいけない』とも言っていないので個人が勝手に動いて殺す危険が保証されてないんです。最初から対等な条件じゃないんですよ」
     ……という考え方になれたのも、提案から時間をおいたからだ。提案されてすぐの頃は、『こいつら仲良くなるつもりがあるのかな?』くらいに思ってしまう内容である。
    「なら、提案に応じる理由は何一つないよね」
     白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が、スレイヤーカードをぎゅっと握った。
     静かに、そして小さく解除コードを呟く。
    「私は、ダークネスに襲われ死も恐怖も伝わること無く消されてしまう、そんな牙無き人々の希望となるために戦ってきました。それゆえに、容認できません」
    「立場の違い。それだけのこと……か」
     鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)は刀の柄に手をかけた。
     約束の時間は近づいている。
    「人を殺すな。それが俺たちのレッドラインだ。だから、六六六人衆が六六六人衆であるかぎり、俺たちは退けない」
     足音が、近づいてくる。

    ●意味ってやつをくれてやる
     踏鞴吹・溶鉄。背が高く、腕が異様に長く、猫背でだらんとした姿勢で歩く。表情の硬そうな男である。格好も無地のTシャツにジーパンにロングヘアと、えらく飾り気がない。
    「遠くない未来だと思っていたが、三年ぴったりか。驚くべき速さだ、な」
    「なんだって?」
    「いや、こっちの話だ。見たところ提案に応じる様子はなさそうだが」
     この場にいるのが灼滅者8人っきりだという事実を見て、踏鞴吹はそんな風に言った。眼鏡を中指であげる環。
    「ご覧の通り、我々の回答は『提案の拒否』です。それはそれとして、どうしてこんな提案を? あなた自信はどう思っているんです?」
    「……」
     踏鞴吹は二度まばたきをしてから、『ああ』と声を発した。自分に話しかけられていると気づかなかったかのようなリアクションである。
    「質問は二つだが、回答すべきことがらは一つだ。……私はこの件に興味がない」
    「なんだと!? あれだけふざけた提案をよこしやがって!」
    「人殺しさえできればいいって外道か。なら遠慮はいらないな!」
     熱志は拳を握り、流希もまた刀を抜いた。
     二人の狙いは至って単純。
    「共存も共栄もあるか馬鹿野郎! こんなもの、お前らを滅ぼせばいいだけだ! 秋葉原ビーム!」
     ポージングから放たれる熱志のビーム。
     ほぼ同時に流希が影業を地面づたいに発射。固定用くい打ちロープの如く地面に爪をたて、伸びた影業のロープが踏鞴吹に巻き付いていく。
     直撃!
    「藤太郎、援護だ!」
     信彦はウィングキャットにリング発光をさせながら、自分は相手の背後に回って剣を振りかざした。
     剣の柄から伝わるように炎が覆い、スイングによて叩き付けられる。
     すぐに、踏鞴吹を激しい炎が包んだ。
    「誰であっても俺たちに人の生き死にを決める権利はない。人々の脅威が俺たちにシフトするだけだ。それに……」
     もしダークネスの立場だったとして、出されたメシだけ喰って生きるなんて生活、きっと無理だろう。そんなのは家畜と一緒だ。
    「そこだ」
     脇差が高速で走り抜け、刀を大きく抜き放っていた。
     一瞬遅れて踏鞴吹から血が噴き出していく。
    「お前は人であることをやめ、人を殺す立場を選んだ。
     俺達は人であることを望み、人を護る立場を選んだ」
     それだけの違いで、それゆえの溝だ。
    「俺が言うのも変な話だが……殺し合いナシにするむなら、そのほうがいいんだがな」
     目を細め、腕を砲台化する環。
    「……」
     無言のままDCPキャノンを乱射。
     それに伴って、ジュンとシルフィーゼが飛び込んでいった。
    「死んでいい人間などいません! あなたはここで倒します!」
     弓そのもので殴りつけるジュン。
     反対側からは、シルフィーゼが剣を叩き付けた。
     むろん一発ずつではない。取り囲んでそれぞれの方向から滅多打ちにするのだ。
     対ダークネス戦なんてものは囲んで当然。タコ殴って当然のバトルである。さながら人食い熊を倒すが如く、そこで手を抜けるほど弱い相手ではないのだ。
     しかしその間。
     否、戦闘が始まってからずっと。
     踏鞴吹は両手をだらんと垂らしたまままるで抵抗しなかった。
     身体を縛り付けられていたからではない。そんな程度で無抵抗になってくれるなら、今頃世界にダークネスなんていない。
    「あんた、相変わらずやねえ」
     側転からのロンダートをかけ、急速に接近した千鳥。
     相手の額に足をつけ、口の端だけで笑った。
    「何かしら答えは出たんか?」
    「……」
     爆発するような衝撃。
     靴裏からのインパクトによって、踏鞴吹はいよいよ大きく吹き飛ばされた。
     鉄製の壁をおおきくへこませ、めりこんで止まる。
    「……いよいよ、その時が来たか」
     踏鞴吹は立ち上がった。
     その身体のどこにも、怪我らしい怪我などなかった。

    ●無価値で無意味な存在
    「ひとつ、質問をしたい」
     ここで初めて。本当に初めて、踏鞴吹は手を上げた。
     指を一本だけ立てて、熱志たちに向ける。
    「この提案を断わった理由はなんだ」
     拳を突き出す熱志。
    「決まってる! お前らの道理が通ってないからだ! 自然の摂理とか犠牲者の選択とか、全部間違ってるんだよ!」
     弓を構えるジュン。
    「人々を守るための戦いです。私にとって、犠牲者を減らすのは妥協でしかありません!」
     刀を八相に構える脇差。
    「俺も同意見だ。人を殺す条件はのめない」
     剣に今度は自らの影技を螺旋状に巻き付けていく信彦。
    「おいおい、言うことどんどん無くなってるじゃねえか。まあ、俺も似たようなところだ。さっき言ったしな」
     半数ほど述べた所で、踏鞴吹は手を下げた。
    「おおむね同意見だ」
    「なんだと! だからダークネスは……んっ」
     思ったのと違った反応に、熱志がわずかにつんのめる。踏鞴吹は続けた。
    「私は六六六人衆。人が呼吸をして酸素を消費するように、殺人によって人命を消費するだけの無価値で無意味な存在だ。悪意はない。余計に殺されるのは、人間がかわいそうだ」
    「…………」
     シルフィーゼが珍しく難しい顔で黙りこくった。
     続けて、という顔で顎をしゃくる流希。
    「だがその一方で、人間が人間を身代わりにして生き延びるさまは、私の目から見ても悪だ。それは、井戸や溶鉱炉に人を落として自分は殺していないと言い張るようなもの。非常に悪質だ」
    「それは、あんた個人の意見なんだよな?」
    「さっきは興味が無いと言ってましたけど?」
     信彦と環の問いかけに。
    「両方イエスだ。今、考えた結論だ」
     調子狂うな、と思ったがやるべきことは変わらない。
    「六六六人衆がこの世から消えるのは、人体に有害な物質が除去されることと同義。だから、おおむねその通りだ。否定する要素がまるでない」
    「あんた、本気で言ってるのか? 自分がいなくなればいいって?」
    「そこまでは思っていない。自分などこの世に必要ないだろうという、そんな矛盾した考えを述べたまで」
    「かわらんなあ、本当に」
     千鳥は呆れた顔で言った。
     そして。
     来るべき攻撃に備えた。

     来るべき攻撃について二文字で述べると、『崩壊』である。
     より詳しく述べるなら――踏鞴吹が地面を殴った途端激しい地割れと振動がおきその衝撃で飛び上がった踏鞴吹が砲撃の如く突っ込んできてその長い両腕で熱志と流希と脇差と信彦をまとめてかっさらったかと思うと背後の製鉄所を端から端まで突き抜けターンし今度は斜めに端から端へ突き抜け最後は全員まとめててっぺんから地下層に至るまで突き抜けて大爆発を起こした……である。
     がれきが吹き飛び、周囲で同時におきる爆発の衝撃の相殺現象で鉄柱ですら宙に浮いたままになるという空間の中で、シルフィーゼと千鳥がジグザグに鉄骨や鉄板を足場にして急接近。
     赤い光を纏った千陽と、青い光を纏ったシルフィーゼ。
     その二人が宙に浮く踏鞴吹を両サイドから交差するように蹴りつけた。
     高速回転しながらそこらじゅうの障害物を破壊し、ピンボールのように撥ねていく踏鞴吹。
    「マジピュア――スターライトシュート!」
     高くへ飛び上がったジュンがすかさず光の矢を発射。
     身体を貫き、地面にくい打ちされる。
     その衝撃だけで、踏鞴吹の腕がもげて飛んでいった。
     それだけではない。腕内部はまるで陶器の置物のように空洞で、身体にもぱきぱきとヒビが入っていた。
     無傷だったわけではない。内部にダメージを蓄積していたのだ。
    「さ、終わりにしましょう」
     環が、取り出したギターを鉄柱に思い切り叩き付けた。
     歪んだ音がそこらじゅうに反響し、音の力を受けて流希がカッと目を見開く。
     それだけではない。熱志も、脇差も、信彦もみな目を開き、そして一斉に踏鞴吹へと飛びかかった。
    「正義の怒りをくらえ!」
     熱志がパンチで顔面を粉砕し、大きな胴体を持ち上げて放り投げる。
     そこへ脇差と流希の斬撃が交差。更に藤太郎の後光を受けた信彦の斬撃が加わり、踏鞴吹は原型が分からなくなるまで八つ裂きになった。

     後日談ではない。
     崩壊した廃墟を背に、八人の灼滅者が歩み去って行く。
     そこにあったのは捨てられたものであり、敗れたものであり、誰にも知られることのないものだった。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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