「六六六人衆から、同盟の提案、あった」
手にしたドーナッツを口にしないまま、灼滅者達をじっと見つめて八鳩・秋羽(中学生エクスブレイン・dn0089)は話し出した。
今は序列第71位にある闇堕ちした狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)が武蔵坂学園に接触してきて、六六六人衆上層部及びミスター宍戸の意向を伝えてきたという。
まず、六六六人衆について確認しよう。
序列争いで互いに殺し合うため一定以上の数にならず、非常に数が少ない。
人間社会の支配に興味はなく、ミスター宍戸を例とするように人間とも手を組める。
これは他のどのダークネス組織にもない特徴だ、と示した上で。
「一般人の殺戮、武蔵坂学園が指定した範囲でだけにする、って……」
人間が食事をし睡眠をとり娯楽を楽しむように、六六六人衆は一般人を殺戮する。
これは自然の摂理であるため全てを止めることはできない。
だが、一定の人数を確保できるのであれば、殺戮対象を武蔵坂学園の意向に従って絞りこむことで歩み寄りたい、というのだ。
「提案に乗るなら、サンプルを10人、連れてきてほしい、って」
言いながら秋羽が地図に示したのは、寂れた地域にあるとある廃ビル。
ここに、武蔵坂学園が受け入れられる条件に合う、六六六人衆が殺戮してもいい人間を連れて来て欲しい、という。
尚、指定された場所は多数あり、それぞれに10人を連れて行くことになる。
1ヶ所だけでは、武蔵坂学園の総意ではない可能性があると考えたのだろう。
ゆえに、多数ある場所のうち過半数で引き渡しが行われれば同盟締結と判断するそうだ。
「……どうするか、皆に任せる」
提案を受け入れるならば、10人の一般人を連れて廃ビルへ赴くことになる。
受け渡しのために廃ビルに現れる六六六人衆は、真木と名乗る鋼糸使い。
銀縁眼鏡に黒スーツ姿で、お堅い秘書の如くビジネスライクな相手だ。
遣いっ走りにされる程度の捨て駒らしく、実力はさほど高くない。
といっても六六六人衆の1人ではあるため、油断は禁物。
また、提案を断るならば、敵戦力を削るためにも廃ビルで真木を灼滅すべきだろう。
一通りの説明を終えて、秋羽はふっと視線を落とした。
同盟が締結されても誰も死なない未来とはならない。
それでも、六六六人衆との全面対決で出る犠牲よりは遥かに少ない可能性も高い。
六六六人衆を利用して他のダークネス組織を滅ぼしてから、改めて決着をつけるという、先延ばしの同盟という選択肢もあるのだろう。
考慮の余地が全くない無謀な提案ではない。
だからこそ。
秋羽は顔を上げ、灼滅者達をじっと見つめて。
「皆で話し合って、選んで」
その決断を信じて頷いた。
参加者 | |
---|---|
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) |
橘・彩希(殲鈴・d01890) |
神威・天狼(十六夜の道化師・d02510) |
ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183) |
天宮・黒斗(黒の残滓・d10986) |
久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363) |
ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431) |
シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905) |
●提案への答え
使われなくなって長いのだろう。
その廃ビルは武骨な建材を剥き出しにした壁で佇んでいた。
だが、じりじりと焦がすような太陽光を遮るには充分で。
とうの昔に硝子どころか窓枠すら壊れたような窓からの風が心地いい。
ボロボロのカーテンがあっさり役目を放棄しているため、内部も明るく。
床には壊れたパテーションや取り残された照明器具などがまばらに放置されていたが、それらに足を取られることもなく、灼滅者達は指定されたフロアまで進むことができた。
「ああ、時間通りですね」
そこには既に、黒スーツを着た男が立っていた。
ちらりと左手首の腕時計で時刻を確認してから、男は銀縁眼鏡の下で薄く笑う。
「初めまして灼滅者の皆さん。
この場所での取引を担当させていただきます、真木と申します」
さすがに名刺は出さなかったが、それに近い雰囲気で六六六人衆は名乗る。
羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、皆に視線を送ってから真木の前へと進み出た。
並び立つのはシエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)。
そして久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)がその後ろに立ち、ウィングキャットのねこさんをぎゅっと抱きしめて、真木と相対する2人の様子をじっと見つめる。
やや下がった位置で足を止めた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は、真木の後ろにある扉が閉ざされ、針金やチェーンで固定されているのを確認。
空いている扉、廊下や階段へ繋がる場所は、自分達が入ってきた入口だけと認識して肩越しにそっと伺えば、そこには橘・彩希(殲鈴・d01890)が立ち止まっていて。
窓へ視線を動かすと、ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)が外の様子を見る体で、その場所を抑えていた。
建物を珍し気に見ながら神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)がさり気なく窓際を歩き、あわよくば真木の死角にまでと足を進めるけれども。
さすがにその動きは見過ごせなかったのか真木が顔を向けるのを見て、天狼は肩を竦め、真木の横手で立ち止まる。
それぞれの意図をもって展開する仲間の動きと、何より真木の動向を注視しながら、ジンザ・オールドマン(ガンオウル・d06183)は全体を見渡せる壁際に位置取った。
真木はぐるりと灼滅者達を見渡して。
「一般人がいないということは……」
「ええ。御足労掛けましたが返答はNOで」
導き出された結論を、ジンザが言葉で提示する。
向けられた真木の視線に、ジンザは話はそちらで、と陽桜とシエナとを手で指し示し、自身は1歩下がると壁に背を預けて見せた。
「残念ながら、わたし以外は全員反対でしたの」
ジンザの動きに従って正面へ顔を戻した真木に、シエナが口を開く。
「殺してもいい人間を選べと言う時点で、この同盟はありえないです」
陽桜も真っ直ぐに真木を見て、答えを告げた。
誰かが悪人だと言った人も、別の誰かには善人に見えているかもしれない。
常に多面的なのが人間だから。
一面からだけを見て善悪を判じるなどできないと、それを断じれるほど灼滅者が偉い存在ではないはずだと、賛成反対を話し合った時のことを思い出す。
それに。
(「『絶対悪』なんて、ない……」)
どこかでそう信じたい自分もいる。
甘いと、偽善的と分かっていても、陽桜は『悪』を決めきれない。
だからこそ『殺してもいい人間』を選べない。
ぎゅっと握られた手を見上げて、霊犬・あまおとが、そっと主に寄り添った。
「私個人としては、宍戸みたいなの10人差し出せるなら良いかとは思ったけどさ」
そんな陽桜の後ろから、黒斗が声を飛ばす。
「お前達は本当にサンプルのような一般人のみを殺すだろうか?
その確認はこっちで出来ないし、そっちがするとも思えない」
不信を露わにする黒斗は、真木を睨むように見据えた。
「というか、根本的に六六六人衆を信用出来ないんだよな」
「確かに、信用のない契約は成り立ちませんね」
ふむ、と納得の表情を見せる真木に、再び陽桜は声を上げる。
「六六六人衆は皆、殺しの業から逃れられないのですか?
こんな同盟ではなくて、他に手段はないのでしょうか?」
必死に訴えかける陽桜だが、真木は、お分かりのようですが、と前置いて。
「私達に殺しを禁ずるのは、生きるなと、子孫を増やすなと言うのと同じです」
冷静な瞳が眼鏡越しに陽桜を射抜く。
「他の手段を、と言われるのなら、具体的に提案を出すのが筋でしょう」
言われて陽桜はぐっと唇を噛んだ。
ならばとシエナが口を開こうとしたところに。
「さて、どうやらこれ以上は非能率的のようです。
会談はここまでといたしましょうか」
真木は遮るように、見せつけるようにその手に鋼糸を出した。
「ねえ、それって挑発?」
相手の武装に合わせて天狼も槍を構えながら、笑顔で問いかければ。
まさか、と真木は嘲笑う。
「挑発しているのはそちらでしょう?
同盟締結を望まないだけなら、この場所に来る理由はないはず。
他の目的があるからこそアクションを起こしたのでしょう?
同盟を望むでもなく、交渉を持ちかけるでもない。
となれば、私と戦うためにきた、としか思えませんね」
さらに真木を取り囲むような布陣を見せていれば、灼滅者達の戦意は明確だっただろう。
わざとらしく眼鏡を直す仕草を見せた真木は、再び灼滅者達を見渡して。
「時間外手当については後で申請するとしましょうか」
彩希の手に腕程の長さの黒刃が握られ、ダグラスが拳を構える。
ジンザが壁から背を離し、杏子の腕の中からねこさんがふわりと浮かび上がった。
シエナの傍らにライドキャリバーのヴァグノジャルムも姿を現し、エンジン音を立てて。
それを満足気に見た真木は。
「では……始めましょう」
にやり、と六六六人衆らしく獰猛な笑みを零した。
●真木
戦いが、始まる。
呆然とそれを認識したシエナの目の前で、空間が煌めく。
それが自身を狙った鋼糸だと気付いた時には、視界は一面ピンクに染まっていた。
「シエナさん、下がっていてください」
抱き付くようにしてシエナを庇った陽桜が、痛みを堪えて声をかける。
ピンク色の短髪が揺れる中、鋼糸と共に血飛沫が舞うのをシエナは見上げて。
ぎり、と奥歯を噛みしめながら、ヴィオロンテを展開して陽桜の盾とした。
そこに飛び込んだダグラスが、シエナの腕を引き、真木から引き離す方向へと突き離す。
緑色の長髪が靡き、戸惑う緑瞳がこちらを見ているのを感じながらも、ダグラスはシエナに背を向けて。
真木の前へと飛び込むと、雷を纏った拳を掬い上げるように撃ち出した。
勢いに逆らわずに後ろへ下がった真木を追いかけた黒斗が、網状の霊力を放射すると共に殴り掛かり。
天狼が槍を穿ち突くその隙に、彩希が死角から真木の足元を狙い動きを鈍らせんとする。
「見ず知らずの他人の命は私にとっては価値はないけれど」
花逝の黒刃を翻しながら告げるのは、彩希なりの同盟提案への答え。
「やっぱり貴方達を信用できないし、何より、気に入らないの」
紅き雫を飛沫かせて微笑む彩希に、肩を並べた天狼が槍の穂先を真木に突き付けた。
油断なく真木を見据える天狼の心中は、同盟案からの不快感に歪んでいた。
その傲慢さが、まるで闇堕ち後の自分を彷彿とさせるようで。
しかし、揺れる心の内を欠片も漏らすことなく、天狼は余裕の笑みを浮かべて見せる。
「武蔵坂学園は、人に優劣をつけるような傲慢な集まりじゃないと思うんだよね」
絶対口に出しては言わないけれど心の底から信じられる友人達を思い出して。
その友人達が集う学園を誇るように、笑顔を咲かせる。
「譲歩している様に見せ掛けちゃいるが、生け贄差し出すなら大人しくしていてやるっつー事だろうが」
「ええ。申し出る割りには随分マウント取ってくるな、と思うわけですよ」
不快さを隠そうともせず言い放つダグラスに、B-q.Riotを構えるジンザも頷いて。
「まぁ、ソレに、もうこちらは戦争仕掛ける気でしたし。
同盟が成らない予想はついているのでしょうけど」
おどけたように肩を竦めて見せながら横に避けると、空いたその空間に、片腕を異形巨大化させた陽桜が飛び込んできた。
殴り掛かる小柄な影を追い、真木が避け離れたところに、ダグラスは追撃とばかりに炎を纏った蹴りを放つ。
「……元々気に喰わねえが、更に気に喰わねえ」
ぽつりと零した声は、粗さの中から苦味を滲ませていた。
光輪を盾として展開し、仲間を支える杏子は、胸元でぎゅっと手を握りしめる。
「あたしは、ね。諦めてないの」
緑瞳は真っ直ぐに、戦い続ける真木の姿を見据えて。
「あたしは全部守りたいって思うの。
あたしはとっても、ワガママ、だから」
ふと苦笑するその脳裏に、誰よりも大切な友の姿を思い描く。
その出会いと交流の記憶を胸に、杏子は真木に問いかけた。
「ねえ、真木さん。人間に戻ること、できないかなあ?」
それは杏子の考え得る、精一杯の提案。
無理だと理解していても、信じて信じて、理屈を壊してしまいたいと願って。
「あなたが闇堕ちした理由も知らない。否定出来る立場じゃない。
でも、殺す事が当たり前……そんなあなたを、あたしは絶対に否定する。
でもね、それでも、『そういう種族だから殺されて当たり前』なんて思われるダークネスのままあなたを帰したくないの!」
杏子の声に応えるように、ねこさんが尻尾のリングを光らせる。
「ダークネスを人に、ですか。
確かに、それが叶うなら多くの問題が解決するでしょうね。
その方法が存在するのなら、ですが」
だがその想いを嘲笑い、真木はジンザが放つ魔法弾を受けながら、杏子に向けて両手を広げて見せた。
「所詮、私はダークネス。それだけで灼滅者の敵足りうる存在です」
その手から煌めいた鋼糸を、庇いに入ったねこさんが受け止める。
「あたしは……ダークネス全てに敵意を持っているわけじゃないです。
忘れられない大切なダークネスも居ますから」
真木に向かって走り行くあまおとの真っ白な背中を見つめて、陽桜はそっと自身の胸に手を当てた。
藍色の瞳を揺らすその横で、黒斗もふと視線を彷徨わせる。
思い起こすのは、今は学園に『ガイオウガの尾』として眠る『協調の意志』。
その中にいる、心を通わせることができたダークネスの存在。
だから黒斗も、ダークネスだから敵、という単純な図式を持ってはいない。
けれども、六六六人衆は殺人欲求を持つから。
「今後どこかで殺しをするだろう相手を、私が見逃してあげる筈もないでしょう?」
意見を代弁するかのように微笑んだ彩希が、海色の瞳を鮮やかに輝かせて。
漆黒の長髪と共に黒刃が舞い踊る。
「それに私、本業は暗殺なのよね」
真木を深く切り裂けば、お返しのように鋼糸が煌めいた。
よろめく彩希を支えるように、天狼が隣に立つ。
「彩希先輩、あまり無茶は……って言っても今更ですね」
「あら天くん、分かってるじゃない」
いつもと変わらず、艶やかな花のように微笑む彩希に苦笑して、天狼は足並みを揃える。
今後の脅威を逃すことはできない、その意見は同じだから。
傷を負ってもなお軽やかに、2人は真木へとまた向かっていく。
「個人的な興味で聞きますが、序列71位の座とか魅力的じゃないです?」
ジンザは銃についたナイフを振るうと共に、好奇心から問いかけも添えて。
「奪取に協力するから、そっちも手を貸してくれって言ったら。どうします?」
「その提案も面白い。
ですが、それこそ信用がなければ成り立たない契約ですね」
応戦する中で、真木はにやりと答えて見せる。
その身体には負傷が重なり、余裕などあるはずもないのだが。
六六六人衆らしく真木は愉しそうに鋼糸を繰り、陽桜に深い傷が刻まれた。
杏子がシエナが、すぐさま癒しの曲を紡ぎ、黒斗の光刃が真木を貫いて。
鋼糸の輝きとそれによる負傷をものともせず、ダグラスはMiachを振りかぶる。
ドリルの如き杭は見事に真木を突き刺して、その肉体をねじ切り。
「……テメェも損な仕事引き受けたモンだな」
「ええ。これでは……採算が取れません、ね……」
ダグラスに軽口で応えようとするけれども、その言葉は途切れ、がくんと膝が落ちる。
そこに彩希と天狼が揃って蹴りを放てば、仰向けに床へと倒れ伏し。
振り下ろされるジンザのナイフを虚ろに眺めながら。
真木は笑って、その最期を迎えた。
●共存とは
戦いを終えた灼滅者達は、静かに互いの負傷の手当てを始める。
重傷者はいないが、浅くも少なくもない傷はそれぞれに刻まれていた。
それぞれの身体に。
そして……心に。
シエナは陽桜の傷を癒しながら、真木が消えた場所へと視線を投げる。
「六六六人衆と大差のない人でも一般人なら守らなきゃいけないですの?」
ぽつりと零れるのは、同盟案に対してシエナが抱いた想いの欠片。
迷い悩み続ける命題。
ゆえにシエナは戦いの間回復に徹し、真木への攻撃を一度として行わず。
ヴァグノジャルムも主に倣い、味方の庇い以外には動かなかった。
何かを応えようと口を開きかけた黒斗を、ダグラスがそっと制して首を振る。
「それならわたし達がダークネスを殺す権利もない筈ですの」
続く呟きにも、誰の声も返らない。
彩希は隣に座る天狼の肩にそっと頭を持たれかけて。
あまおとを優しく撫でながら、陽桜も瞳を閉じる。
肩を竦めたジンザが視線を反らすと、硝子のない窓の向こうに青空が広がっていた。
この同盟提案への正答が何かはきっと誰にも分からない。
それぞれがそれぞれの答えを導き出すしかないのだから。
ふわりと浮かぶねこさんを、杏子は抱き寄せ、また抱きしめて。
その口から流れ出る鎮魂歌が、静かに廃ビルの中に響いていった。
作者:佐和 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年7月11日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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