戦神アポリアの提案~死との天秤

    作者:幾夜緋琉

    ●戦神アポリアの提案~死との天秤
    「皆さん、集まりましたね……それでは、早速ですが、説明しますね」
     と、五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達に軽く頭を下げると、早速。
    「……今回、六六六人衆と、武蔵坂学園との共闘を目論見、武蔵坂学園に接触してきたダークネスが現れたのです」
    「接触してきたのは、狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)さん……今は、六六六人衆第七一位『戦神アポリア』を名乗っているようです」
    「今回の呼びかけですが……『戦神アポリア』の独断では無い様で、ミスター宍戸及び、六六六人衆の上層部の意向に従っている為、灼滅者が共闘を決断すれば、灼滅者と六六六人衆の同名が締結される可能性が高いと想われます」
    「この『戦神アポリア』の提案ですが……以下の様なものです」
     と、メモを取り出し。
    「武蔵坂学園が、六六六人衆に対してサイキック・リベレイターを使用した事を確認した。もし、灼滅者が六六六人衆を滅ぼそうとするのならば、全面戦争となり、人間社会へと甚大な被害が出るだろう」
    「ただ、六六六人衆と人類は共存出来る筈。六六六人衆のプロデューサーである、ミスター宍戸は『人間』であるし、六六六人衆は人間社会の支配に興味が無いし、一定以上の数になる事も無い」
    「これは、他のどのダークネス組織にも無い特徴であり『唯一人類と共存が可能なダークネス組織』であると言える。勿論、一般人を殺戮する必要はあるが、これは肉食動物が草食動物を狩るのと同様、自然の摂理の範囲。そして、ある程度であれば、武蔵坂学園の意向に従う用意もある」
    「一定以上の人数を確保出来るのならば、殺戮する人間について、武蔵坂学園側で指定した範囲で行うとする事で、歩み寄ることが出来るだろう。犯罪者に限る、老人に限る、無職者に限る……等々、武蔵坂学園が受け入れられる条件を考えて貰いたい」
    「もし、共存をのぞむのならば、こちらが指定する場所へ『六六六人衆の殺戮しても良い人間のサンプル』を連れてくることで、それを以て同盟の締結としたい……との事です」
     と、そこまでメモを読み上げた後、姫子は。
    「つまり、『戦神アポリア』は、一般人の受け取り場所へ『六六六人衆が殺戮しても良い人間を10名連れて来る様、連絡をしてきたのです」
    「受け取り場所は多数用意されており、それぞれについて『10名』の一般人を連れて来る事を望んでいます。一箇所だけでは、そのチームの独断であり、武蔵坂の総意ではない、という可能性が高いと考えたのでしょう」
    「『戦神アポリア』は、引き渡し場所の過半数において、10名の一般人の受け渡しがされたのならば、他の引き渡し場所にて戦闘が発生したとしても、武蔵坂学園は同盟の意思があるものとして、次の交渉に入ると言っています。逆に、過半数の場所で引き渡しが行われなかった場合、今回の同盟提案は取り下げようとしている様です」
     と……そこまで言うと、姫子は。
    「……情緒的に、この提案を受け入れる事は難しいでしょう。しかし、彼の提案には一定の真実が含まれており、検討の余地はあるでしょう」
    「この同盟提案をどう扱うかは、灼滅者の皆さんにお任せします。受け入れるのならば、10名の一般人を連れて引き渡し場所へ。受け入れないのであれば、戦争は不可避となりますので、敵戦力を削る為にも、引き渡し場所の六六六人衆の撃破をお願いします」
     そして、姫子は。
    「今回、皆さんの向かう場所は……千葉県の町外れにある、既に放棄されて暫し経過した、廃墟の雑居ビルの一室です」
    「幸い、この引き渡し場所に来る六六六人衆は捨て駒の者らしく、六六六人衆としては戦闘能力は低い為、灼滅者8人の力で灼滅する事は可能でしょう」
    「とは言っても、強力なダークネスである事に違いはありません。灼滅を目指す場合は、相応の準備をし、戦闘を挑む様にして下さい」
    「尚、今回の六六六人衆……その武器は影業の様です。足元から伸びる影を利用し、闇に上手く潜みながら、不意を突いた攻撃を次々と繰り出してくる事でしょう」
    「又、ジャマーポジションの効果を纏っている様で、バッドステータスの効果は思った以上に積み重なる事と想われます。バッドステータスも、捕縛と服破り、トラウマの効果が次々と付与される様なので、注意して下さい」
     そして姫子は。
    「こういう提案をしてくるという事は、戦神アポリアの価値観は、ダークネスのものとなっているのかもしれません」
    「とにかく……これにどう対応するかは皆様の決断にお任せします。宜しくお願いします」
     と、深々と頭を下げた。


    参加者
    浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)
    黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)
    レイ・ソウル(黒の切り裂き魔・d21239)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    狼護・田藤(不可思議使い・d35998)
    城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)

    ■リプレイ

    ●命の価値とは
     六六六人衆と武蔵坂学園の共闘を目論み、武蔵坂学園へと接触せしダークネス……七十一位『戦神アポリア』こと、狐雅原・あきら。
     ミスター宍戸及び、六六六人衆の上層部の意向にも従い死しその提案は、六六六人衆と武蔵坂学園の同盟提案。
     ……しかし、その提案内容は……殺しても良い一般人十人を連れて来い、というもの。
    「……六六六人衆からの同盟提案……どうにも胡散臭いし、きな臭いわね……」
     とは、七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)の呟き。
     それに貴夏・葉月(紫縁は希望と勝利の月華のイヴ・d34472)、黒乃・璃羽(ただそこに在る影・d03447)、浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)らも、言葉を選びながら。
    「まぁ……同盟自体は私は構わないとも思うのが、本当この条件はダメだな。殺してもいい一般人……邪魔だし」
    「そうですか? ……私は同盟反対。今迄のから信用出来ないし、生贄を出す気は無いわ。生贄が必要な時点で共存とは言えないわ。それは従属、良くて共存が正しい」
    「そうだな……とは言え今回待ち構えているのはナンバリングなしの様だ。こんな末端が相手では、話にならないがな……とは言え今後のコンタクトの為の糸口となるのならば、御の字と言った所か?」
    「そうね……ま、六六六人衆からすれば、今回の条件は十分譲歩した条件なのだろうけど……でも、口約束にでしかなりそうにない以上、信用は出来ないわね」
    「ええ。人は『人の法』で殺されるべきです」
    「……そうね。全ての命には等しく『尊厳』がある筈。それは一般人でも、ダークネスでも同じ。それを踏み躙る者は赦さない」
     紅音、璃羽……と、その二人の言葉に対し、レイ・ソウル(黒の切り裂き魔・d21239)は。
    「……私は賛成だ。ダークネスは一定数いないとこちらが闇堕ちする。闇堕ちしかけの仲間を救うやり方だって成功率100%ではない。六六六人衆と同盟し、はぐれのダークネスを狩る方が良いと思う」
     それにヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)は大仰に舌打ちした。
    「ああ。ふざけた条件で同盟とは笑わせてくれる。まぁ……そんな奴等とまともにお話しようとしている、こいつらもフザけてんだがな……」
     既に灼滅者の間でも意見が割れている。城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)は、そんな仲間達を横目に見ながら。
    (「……私自身には、生贄に対し何の嫌悪感も感じない……自分では無いから? そうかもしれません……」)
     静かに、手を合せて目を瞑り。
    「……主よ。惑う私を強めて下さい」
     祈りの言葉を捧げる莉々に、狼護・田藤(不可思議使い・d35998)は。
    「……何にせよ、六六六人衆に私達の意思を明らかにする必要があります。その為には……周りから一般人を引き離さねばなりません……」
     と言うと共に、百物語を語り、周囲から念のための人払いを実施。
     周囲から人の気配が名失せるのを確認した後に……灼滅者達は、待ち合わせ場所である、千葉の町外れ、放棄されて暫し時が経過した、廃墟の雑居ビルへと足を踏み入れるのであった。

    ●決意の言葉に
     そして灼滅者達は廃雑居ビルを、上層階の方へ。
     静けさに包まれた中は……何処か不気味な雰囲気を漂わせている。
     そんな中、最上層部の一部屋に、闇の中、静かに待つ六六六人衆の姿がいた。
    『……? お前達が、俺の交渉相手か……殺しても良い一般人はどこだ?』
     と、六六六人衆が問うと、それに紅音が。
    「連れてきて居ないわ」
     と言い放つ。それに六六六人衆は、僅かに殺気を漂わせると。
    『それはつまり……交渉決裂、という訳だな?』
     と。
     ……ただ、灼滅者達は、すぐに手にできる位置にはある物の、手にはせず、一歩前へ躙り寄りながら。
    「同盟条件は認められない。ただ、そちらが後日同盟条件を変更するのならば、再交渉の意思はある」
    『……? どういう事だ?』
     何を言っているのか、というべく、眉を顰める六六六人衆。それに梗香が続く。
    「ダークネスを人類の上位に置く社会体勢など許容出来ない。一般人の犠牲の上に成り立つ『共存』など、言語道断。真に『共存』を望むのなら、我々人類と対等な立場に立って貰いたい」
     と、そんな梗香の言葉に六六六人衆は……ほう、と軽い笑みを僅かに浮かべる。
     その不敵な笑みに対し、紅音が。
    「何よ。私達の提案は、検討するにも値しない、という事かしら?」
     と問いかけると、
    『いや、違う……そうだな。お前達は『ダークネスは人間を殺さない』代わりに『灼滅者達はダークネスを灼滅しない』という提案ならば、受け入れたのか?』
     六六六人衆の、続け加えし提案。
     それに田藤、梗香、葉月が。
    「……どう思う? 梗香」
    「そうだな。どちらも殺し合わない、という所ならば……交渉の余地はあるだろう。勿論、私達だけでなく、灼滅者として、総意ではないが……」
    「互いに一歩ずつ歩み寄れれば……という所かもしれないわね」
     ……しかし、それにレイが指摘する。
    「その条件では、交渉は不可能だ」
    『ほう……何故だ?』
     と六六六人衆が問いただすと、レイは。
    「灼滅者が闇堕ちしない為には、ダークネスを灼滅する必要が有る。つまり『灼滅者はダークネスを灼滅しない』という条件を、それでは呑むことは出来ないだろう」
     ……それは正しく、その通り。
     灼滅者が闇堕ちすることなく、灼滅者であり続ける為には、ダークネスを灼滅し続ける必要がある。それ以外の闇堕ちを避ける術は、いまだ明確ではない。
     灼滅者達がダークネスを灼滅しないならば、たとえダークネスが一切手出しせずとも、遅かれ早かれ全員が闇堕ちし、ダークネスになる。滅びの道だ。
     ……レイの指摘に、一度は頷き掛けていた仲間達も、その提案には従えなくなる。
     と……それに対し、六六六人衆は。
    『灼滅者はダークネスを灼滅する存在で、ダークネスは一般人を苦しめて殺す存在ではある。だが、それを認め、乗り越える事が出来る筈だ』
     と、告げる。そして更に……少し考える様にして。
    『……お前達の言う通りに、片方が片方から、一方的に生贄を得るのならば、それは共存とは言えないかもしれない。しかし、ダークネス側も、灼滅者に対し『殺して良いダークネスを提示し、生贄にする』のならば、その関係は一方的ではないと思うが、どうだ?』
    「つまり……それは、あなた達も生贄を出す用意があるという事でしょうか?」
     今回、灼滅者側が『ダークネスが殺しても良い一般人』のサンプルを提示するのと同様に、ダークネス側が『灼滅者達が殺しても良いダークネス』の例を示す、という事かと莉々が確認する様に問いかけると、六六六人衆は頷いた。
    『ああ。ダークネスは灼滅者が許容出来る範囲で人間を殺す。そして灼滅者はダークネスが許容出来る範囲でダークネスを灼滅する……これが、戦争による被害者を減らす、よりベターな解決法だろう』
     ……それに莉々が。
    「……本当は殺したくは無いのですよね? 肉食獣が草食獣を狩るのは生きる為。故にあなた方も生きる為でそこに悦楽はありませんよね?」
     言葉を選びながら、語りかける。
     強烈な殺人衝動は、灼滅者である殺人鬼すら持ち合わせているものだ。
     悔い改める事を期待した言葉に、六六六人衆は表情すら動かさない。
     葉月と田藤が口を開いた。
    「……ベター、ね……貴方、いや、六六六人衆にとっては、それがベターなのかもしれないけど。私達は殺しに餓えている訳ではないわ」
    「そうだな……それに人を殺さずに暮らすダークネスも居るだろう?」
     と問い返すと、六六六人衆は。
    『人を殺さずにいられる者も確かにいるだろう。だが、それは、特殊な技能や性質によるもので、全てのダークネスが得られるものでは無い。逆に問おう。人に害を及ぼすダークネスは一人残らず死ねという考えなのか? 人間を殺すダークネスを許せないというのならば、ダークネスを殺した灼滅者もまた、許されない存在では無いのか?』
     一瞬、思わず口ごもりながらも、璃羽は答える。
    「……確かに私達は、ダークネスを灼滅しています。それが完全に許される事ではないのは理解しています。ですが……だからと言って、六六六人衆の方々の、殺しても良い一般人を連れて来る理由にはなりません」
     そんな璃羽の言葉に対し、一端瞑目する六六六人衆。
    『……分かった。『人間として』受け入れられないという事であるならば……お前達にひとつ、教えておこう』
     と、暫しの静寂の後に、口を開く六六六人衆は……纏う殺気は変わる事無く。
    『……この提案と同様の条件を、世界の分割支配時に、お前達が守ろうとしている人間の、主要国の元首や、それに類する者達は受け入れていたのだぞ?』
    「……何?」
     と梗香が眉を顰める。
     灼滅者達が戸惑った瞬間、六六六人衆は身を翻していた。
    『お前達が人間として……と言うのならば、この提案を受け入れるべきだ』
     と言うと共に、パッと窓から身を翻し、落下……六六六人衆の姿は灼滅者達の目の前から消え失せる。
    「待てっ!」
     と、ヘイズが追おうとするも……深夜の闇に降り立ち、紛れた六六六人衆は、既に姿を消していたのであった。

    ●別れし影跡
     そして、六六六人衆の退きし後。
     ……後に残るは、ただただ、静寂。
    「逃げたか……」
     と、呟くヘイズ。
     その手の武器の振るう機会は訪れず……燻る心の炎。
    『この提案と同様の条件を、世界の分割支配時に、世界の主要国の元首やそれに類する者達は受け入れていたのだ。人間として……というのならば、この提案を受け入れるべきだ』
    「一般人も許容出来る範囲でのダークネスによる被害を認めていた……? 従属する立場ゆえのことではあるにせよ、それは……」
     璃羽は、残された言葉の意味を考える。
     ……世界の分割支配時に、国家元首達が受け入れた人類の選別。
     勿論、六六六人衆の言が真実かどうか断言することはできないし、仮に真実であったとしても、一般人とダークネスの力の差があるが故に、受け入れざるをえないものであっただろうことも想像はつく。
    (「『我々人類と対等な立場に立って』か……」)
     梗香は、先程の自分の発言と、それに対する六六六人衆の笑みを思い返す。
     一般人と灼滅者をまとめて人類として……あるいはダークネスを人類から除外して、梗香は語った。が、六六六人衆は、灼滅者の意見も立場も、守ろうとする一般人とは明確に異なると指摘していったのだ。
    「……そうね。少なくとも、アッシュ・ランチャーと中国の高官の関係を見る限り……真っ赤な嘘、という事は無いでしょうね」
     と、葉月は考察する。
     それに対し、梗香と田藤が。
    「バベルの鎖は、情報を伝播しなくする……だが、直接交渉をする限りにおいては、人間とも交渉可能だろう。あの六六六人衆が言ったことのが、大統領や総理大臣のみに明かされる秘儀……という可能性はあり得る。まぁ、フィクションの世界ではとかくありがちなパターンだが……」
    「そもそも、ダークネスは数百年も前から世界を分割支配していたんだ。となれば、この位の事、造作も無くやり得るだろう」
    「……そうだな……」
     そんな衝撃的な話に、心は揺れる。

     六六六人衆は去り、灼滅者達がここに留まる理由もなくなった。
     灼滅者達の意思を、あの六六六人衆が本当に、ミスター宍戸らに伝えてくれるか保証されている訳では無い。
     交渉決裂、灼滅者達は一切聞く耳を持たない、と真逆の事を吹聴する事だって……あの六六六人衆の言葉一つに左右されるのだから。
    「……ったく……」
     六六六人衆を逃し、更に交渉の成否も解らない状況に舌打ちし、其の場からさっさと離脱するヘイズ。
     ただ……自ずと、その結果は近々に判明するだろう。
     他の仲間達の作戦の結果も、様々な事態に恐らく繋がる筈。
     その時に向けて、残る灼滅者達も……人の居なくなったがらんどうの廃雑居ビルを、後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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