戦神アポリアの提案~共に生き、共に殺す為の

    作者:魂蛙


     教室に集まった灼滅者達を前に、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が呟く。
    「まさか六六六人衆から同盟締結の提案があるとは、な」
     闇堕ちした灼滅者、狐雅原・あきら(戦神アポリア・d00502)は、六六六人衆の第七一位、戦神アポリアを名乗るダークネスとして活動している。その戦神アポリアが武蔵坂学園に向けて、共闘の為の同盟を締結したい、と呼び掛けてきたのだ。
    「相手の主張を掻い摘んで話そう。六六六人衆は人間社会の支配に興味はない。故に、灼滅者や人類と共存できる可能性がある。が、人間が食事や睡眠といった生命の営みを行うのと同じように、六六六人衆には殺人が必要だ」
     肉食獣が獲物を狩るのと大差ない、自然の摂理である、と言いたいようだ。
    「六六六人衆は殺戮をやめる事はできないが、灼滅者達に共存の意思があるならば、ある程度歩み寄る用意がある、とも言っている。具体的には、一定数の殺害対象を確保できるのならば、六六六人衆は灼滅者達が指定するその範囲内でのみ殺人を行う、という物だ」
     六六六人衆が殺してもいい人間を灼滅者達が指定せよ、とそう言っているのである。
     犯罪者などの悪人か。老人や重病人などの余命が短い者か。灼滅者の個人の感情で選ぶ事さえできるそれは、確かに人間社会の支配権と運営権を灼滅者達に委ねる提案だ。
    「戦神アポリアから日時と場所の指定を受けている。そこに殺してもいい人間をサンプルとして10人連れてくれば、それをもって同盟締結とする。……以上が今回受けた提案だ」
     六六六人衆と武蔵坂学園の戦争となれば、人類にも甚大な被害が出るのは確実だ。と、アポリアは脅迫じみた言葉を提案に添えている。
    「……理に適った提案では、ある。道理にも倫理にも悖るがな」
     しかし、ダークネスの性質を考えれば、これはかつてない程に大きな譲歩である事もまた事実だ。
    「受け取り場所については複数指定されている。戦神アポリアはそれぞれに一般人10人連れてくる事を要求している。過半数の受け取り場所で一般人の引き渡しが成立した場合、例え非成立の指定場所で灼滅者と六六六人衆の戦闘が発生したとしても、武蔵坂学に共闘の意思があると見做し、交渉を次の段階へ進めるとアポリアは言っている」
     逆に、過半数の場所で一般人の引き渡しが不成立だった場合、今回の同盟提案は取り下げられる。そうなれば、六六六人衆との全面戦争に突入する事になる可能性は極めて高い。
    「今回の提案、戦神アポリアの独断というわけではないらしい。ミスター宍戸のプロデュースも絡んでいるんだろう。条件の事を考えても、罠の可能性は低い。この提案をどう扱うか、お前達に任せたい」
     同盟を受け入れるか否かは灼滅者次第だ。受け入れる場合にどんな人間を殺してもいい人間として指定するか、という事まで含めて、班としての意見は統一する必要がある。
    「同盟を結ぶと決めたなら、相手の指定場所に殺してもいい人間10人を連れていき、受け取り役の六六六人衆に引き渡してくれ。提案を受け入れなければ、六六六人衆との戦争となる。敵の戦力を削る為にも、受け取り役の六六六人衆と戦い、灼滅するんだ」
     受け取り役として現れるのは、六六六人衆としては戦闘力の低い捨て駒だ。灼滅者達が同盟を拒絶し、攻撃してくる可能性も織り込み済みなのだろう。
    「お前達に向かってもらう指定場所は、山間にある廃校となった学校の校舎だ。受け取り役は底空・始(そこから・はじめ)。中学生ぐらいの少年のような見た目の六六六人衆だ」
     六六六人衆として前向きで向上心が強く、今回も半ば捨て駒として扱われている事を理解しながらも、逆境を乗り越えて上の序列を目指すつもりでいるらしい。同盟については殺人を禁じられるわけではないので概ね歓迎するが、灼滅者が合意するかについてはやはり懐疑的であるようだ。
    「始は巨大なチェーンソー型の武器を使う。戦闘時はクラッシャーのポジションにつき、殺人鬼のティアーズリッパー、チェーンソー剣のズタズタラッシュとチェーンソー斬り、無敵斬艦刀の森羅万象断と戦神降臨に相当する5種のサイキックを使用する」
     六六六人衆としては戦闘力は低いが、それはあくまで六六六人衆としては、だ。灼滅者達も力をつけてきており、勝てない相手ではないが、万全の対策なしに勝てる相手でもない。舐めてかかるなどもってのほかだ。
    「六六六人衆から奴らなりの譲歩を引き出せたのは、これまでのお前達の戦いがあってこそだ。戦場に赴き血を流してきたお前達の決断ならば、俺は受け入れられる」
     ヤマトは真っ直ぐに信頼の眼差しを向け、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    椎葉・花色(夜の花嫁・d03099)
    秋良・文歌(死中の徒花・d03873)
    無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)
    ペーター・クライン(殺人美学の求道者・d36594)

    ■リプレイ


     校庭から廃校舎を見上げる無常・拓馬(カンパニュラ・d10401)は、隣に立つ各務・樹(カンパニュラ・d02313)に尋ねる。
    「灼滅者に人の生殺与奪の権利があるとは思えないけどね。樹はどう思う?」
    「灼滅者でもただの人間でも、誰かを殺していいなんてことはないわ」
     樹の答えに拓馬が頷く。
     そう。当たり前の事だ。その当たり前を、校舎の窓から手を挙げ灼滅者達に合図を送るあの底空・始(そこからはじめ)に叩き付けるべく、灼滅者達はここに来たのだ。
     生殺与奪。
     木造の階段を軋ませながら登るペーター・クライン(殺人美学の求道者・d36594)の頭を、その単語がちらつく。
     もしも、特定の人間の生殺与奪を握れるなら。人の……いや、姉の尊厳を踏みにじった奴と同種の犯罪者達に、死罰を与える権利があるのなら。
     そこまで考えてペーターは首を振り、己の内から滲み出す闇を払った。
    「大丈夫か?」
    「……ええ。大丈夫です」
     気遣う平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)に、ペーターは己に言い聞かせるように、頷き応えた。
     これは己の闇。ダークネスと言い換えてもいいかもしれない。そして、自分は灼滅者だ。
     廃校舎の2階、椅子と机が端に乱雑に積み上げられた教室で、灼滅者達と六六六人衆の底空・始(そこからはじめ) が対峙する。教卓に胡坐をかく始は、退路を断って取り囲むような灼滅者を敢えて受け入れているようにも見えた。
    「それで、サンプルの姿が見えねえけど? 殺していいのは透明人間だ、なんて言わねえよな」
     冗談交じりに始の言葉に、椎葉・花色(夜の花嫁・d03099)がきっぱりと返答を叩き付ける。
    「同盟はノーセンキューです。てゆうか、ちょっとわたしたちのこと舐めてません?」
     花色はシュババ、とシャドーでパンチを繰り出す。月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)は肩を竦めつつ問い返した。
    「どうせ分かってたんでしょ、私たちがこっちを選ぶことくらい……さ」
    「そうだよなあ。あんたらが受け入れるわけねえか」
     始は残念そうに頭を掻きながら、しかしあっさりと頷いた。
    「落とし所としちゃ、そう悪くねえとも思ったんだけどなあ」
    「テンプレな正義感と数の力任せに定評のある武蔵坂学園に、そんな高度な交渉術と政治力があるわけないだろ馬鹿め!」
    「ああそれ、自分で言っちゃう?」
     煽る様な拓馬の言葉に、寧ろ吹き出す始。
    「そもそも、お前達六六六人衆を信用できん。後ろに宍戸がいるなら、尚更な」
    「仮に同盟が成立したとして、六六六人衆の総意になるとは思えないわ。まず貴方が従う事が出来るの?」
     和守の言葉に、秋良・文歌(死中の徒花・d03873)が頷きながら問い掛ける。
    「他は知らねえけど、俺は構わねえよ。殺人を禁止されるわけじゃねえし、殺害対象も共通なら俺らとしちゃ全員イーブンだろ?」
     頷く始に、灼滅者達を欺こうとする気配はない。1人の六六六人衆としての、忌憚ない意見なのだろう。だが、であるが故に。
    「もっと個人的な、理屈を抜きにして言うなら。命を大切に出来ない存在と共存は出来ないし、する気も無いわ」
     文歌ははっきりとした拒絶を突きつけた。
    「サガって奴だよなあ。俺らと、あんたらの」
    「もう、いいだろう。それとも無駄話がお望みか?」
     淡々と会話を打ち切り構えたのは森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)だ。
    「そうだな。交渉決裂なら、仕方ねえ」
     応じた教卓から降りた始が、身の丈を上回る巨大チェーンソーを軽々振るって肩に担ぐ。
    「俺が上に行く為の、踏み台になってもらうぜ」
     唸るチェーンソーの刃先が僅かに触れただけで、教卓は爆ぜる様に砕け散った。


     拓馬が油断なく構えたまま声を掛ける。
    「ここぞって時は任せるね。チャンスは俺が作ってみせるから」
     樹が信頼を窺わせる微笑を浮かべ頷くと、拓馬は同じ微笑を返してから花色を振り返る。
    「ってわけで、俺は嫌がらせ頑張るから、花ちょんは肉壁ヨロシクね!」
    「合点承知。チャンスを作るチャンスをばっちり作りますよー」
     花色は向かって来る始に正面から突っ込みつつフェニックスドライブを発動する。背中から伸びる炎翼を羽叩かせて花色は加速、翼で覆った腕を盾代わりに始のチェーンソーを受け止めた。
    「ただ、鉄壁と呼んで欲しいところですね!」
    「鉄板くらいなら、俺は軽く引き裂くぞ?」
     笑みを浮かべた始のチェーンソーは出力を上げて回転速度を増し、宣言通りに炎翼の盾を引き裂いていく。
    「ねえねえきみ、宍戸のことって見たことあります? どんなおじさん?」
     花色の問いに一瞬考え込んだ始が、真顔で答える。
    「変なおっさん」
    「変なおっさん」
     真顔で鸚鵡返す花色。
     直後、刃が花色の腕に達するよりも早く、横から飛び込んだ玲がクルセイドソードのKey of Chaosで始に斬りかかる。
    「1人で無理しちゃいけないね、花ちゃん」
    「こりゃかたじけないですね月夜先輩」
     受けには回らずチェーンソーを振り回す始の反撃の刃を、玲は剣で捌いてすかさず打ち込み、始を押し返す。
     バックステップを刻んだ始に息つく暇を与えず、煉夜が追撃する。初めの後退を上回る速度で突進した煉夜は妖の槍の太腿への刺突で始の動きを止め、踏み込み薙ぎ払いで吹っ飛ばした。
     始は黒板に激突、そのまま突き破って隣の教室に突っ込む。
    「すぐに反撃来るぞ!」
     和守が警告と同時に天星弓に番えた矢の牽制を飛ばした直後、チェーンソーが唸り自身で空けた穴を吹っ飛ばし数倍に広げた始が飛び出した。飛び来る矢も薙ぎ払うが、それで一手攻撃が遅れた始は煉夜の退避を許す。
     後方から接近を試みる樹に気付いた始が反転、間合いに捉えられるより早く迎撃態勢を整える。
     高く跳躍した樹のその背後、死角になる位置で拓馬は槍を構え妖冷弾を既に発射していた。始の対応は間に合わず氷弾の速射をまともに浴びた所に、上から襲い来る樹の槍が直撃した。
     言葉すら要さない2人の連携に、始は流石に面喰いつつもすぐさま態勢を整え反撃に出る。飛び退く樹の着地点に突っ込んだ始が繰り出すチェーンソーが、何とかガードだけは上げた樹を突き飛ばした。
    「樹!」
    「大丈夫!」
     声を掛け合う拓馬と樹。それで間合いを確かめた始が地面に踏ん張り急制動、クイックターンから地を蹴り跳んで拓馬を強襲した。
    「鉄壁だと言ったでしょう!」
     刃が拓馬に届くより早く花色が始に体当たりをかまし、フォローに入った玲が飛び蹴りで追撃する。が、踏ん張った始は大振りの一薙ぎで逆襲し花色と玲を弾き飛ばした。
     フォロースルーの勢いのままに飛び出そうとする始の行く手を、矢の速射が阻んだ。矢の射手たる文歌は和守とアイコンタクトを取って治療対象を分担しつつ次射を弓に番え、同時に放ったダイタロスベルトを花色と玲に治療に向かわせた。
     文歌の矢に牽制された始は即座に狙いを変え、後方から支援していた和守とペーター目掛けて駆け出す。
    「来るぞ、ペーター。狙えるか?」
    「……当てて見せます」
     和守は頷くペーターに迎撃を任せ、癒しの矢を樹に向けて放つ。
    「もっと、引き付けて……!」
     構えたガトリングの銃口で高速接近する始を捉えたペーターが、トリガーを引く。狙い過たず弾丸は始に命中、その突進速度を鈍らせた。
    「今だ、ヒトマル!」
     和守の合図でライドキャリバーのヒトマルが横から突進、始に激突する。堪えた始がヒトマルを叩き潰さんとチェーンソーを振り上げた瞬間、戦闘靴2型改二のローラーダッシュで一気に肉迫した和守が更に突進を重ねた。
     始も2馬力の突進は受けきれず、そのまま机と椅子の山へと押し込まれる。
    「今だ、狙え!」
    「はい!」
     和守が前蹴りで始を抑え込みつつのバックダッシュでヒトマルと離脱した直後を、ペーターが再び狙い撃つ。殺到する弾丸は着弾と同時に爆ぜて炎を撒き散らし、始を炎上させた。
    「畳み掛ける!」
    「お供しますよ先輩!」
    「それじゃ、私も!」
     煉夜が飛び出すと続く花色と玲がエアシューズのローラーダッシュで左右に散開し、体を起こした始の退路を塞ぎつつ急接近する。更に、ライドキャリバーのメカサシミが機銃で援護し、始をその場に釘付けにした。
     先に跳んだ玲が壁を蹴り上空から急降下し膝蹴りで強襲、直後にスライディング気味に滑り込んだ花色が膝を折る勢いで足払いを仕掛ける。立ち上がる花色と着地する玲が左右の立ち位置を入れ替え、背中を合わせたままの踏み込みから鏡合わせのハイキックで始を打ち上げた。
     直後、踏み切り跳んだ煉夜が後ろ手に回した槍を回転させながら振り上げ、大上段から振り下ろす一撃で始を机の山へと叩き落とした!
    「キャー! 森本先輩かっくいー!」
     着地した煉夜は、囃し立てる花色も確かな手応えをもたらした連携に免じて大目に見ておく事にする。
     油断だけはするなよ、と煉夜が目配せをした直後、机の山が轟音と共に弾け飛んだ。
     飛び来る机の破片をひょいと躱す玲の隣で、花色が溜息混じりに笑みを浮かべる。
    「まだまだ降参はしてくれないみたいですね」
    「降参? 逃がすつもりも無い癖によく言うぜ。それに――」
     始は傷ついた体に張り付く破片を振り払い、不敵に笑って見せる。
    「――俺もこいつも、ようやくエンジンが掛かってきた所だ!」
     高まりを見せるチェーンソーの原動機が、廃校舎のすえた空気を劈いた。


    「突っ込んで来るぞ!」
    「お察しの通り、真っ直ぐ突っ込むしか能はねえさ。けどな――」
     和守の警告に自嘲した始はしかし不敵な笑みは崩さないまま、突進しつつチェーンソーを地面目掛けて振り下ろす。
    「――突っ込むバリエーションはそれなりにあるんだぜ!」
     振り下ろされたチェーンソーが床に食らいつく。回転する刃はキャタピラの如く始を引きずるように疾駆する。床板を噛み砕きながら駆けるチェーンソーは煉夜を、花色を、玲を次々に撥ね飛ばした。
    「動きを止めます!」
     ペーターが放ったダイタイロスベルトがチェーンソーの進行方向手前の床板を砕き、走るべき地を失ったチェーンソーが跳ね上がった。始はつんのめりながらも踏ん張り体勢を立て直し、手近にいた樹目掛けて突っ込む。
     既に迎撃態勢を整えていた樹は動じる事なく、猛進から振り回されるチェーンソーを槍で受け捌いていく。
     そうすれば、拓馬の援護が来ることは分かっていた。
     バックステップを刻んだ樹と始を分断するように、拓馬が赤の交通標識を叩き付ける。
     それでも、始は止まらない。振り上げるチェーンソーが拓馬を弾き飛ばし、続け様に踏み込み振り下ろす一撃を樹に喰らわせる。
     受け身を取りながらも片膝を着く拓馬に、和守が駆け寄り治療を施した。
    「これ以上攻撃を貰うと、一気に総崩れになりかねんな。だが奴もダメージがない筈もない。まずはあの勢いを止めるのが先決、か」
    「まったく、同感だね」
     和守の分析に拓馬が呆れ混じりに頷く。頷き合った鋼の装甲を纏った2人が、暴走にも似た暴れっぷりを見せる始に突撃する。
     その接近に気付いた始がチェーンソーを振り上げ、迎撃と言うには余りに能動的な突進を仕掛ける。
    「見切ったァっ!」
     始が踏み込んだその右足甲を、拓馬が踵で鋭く踏み抜く。
     攻撃の初動を文字通り踏み潰された始はバランスを崩し、その体が大きく揺らぐ。直後、傾く始の頭に拓馬の後方からローラーダッシュで突っ込んだ和守が組み付き、顎を右の踵でロック、両脚も抱き抱えるように捉え、天地逆転の始の頭から床に叩き付けた!
    「うォおおっ!」
     始を固めたまま地面を滑走した和守が、更に始を蹴り飛ばす。
     その間に文歌が花色を助け起こし、癒しの矢で治療する。
    「なかなかいいのを貰ってしまいました」
    「お返しする物は決まっている、ですよね?」
     笑みを浮かべた文歌に、花色が不敵な笑みを返した。
    「良い事言いますね秋良ちゃん」
     駆け出した2人が、まだ跳ね起きる余力を残していた始に飛び掛かる。
    『お返しは――』
    「――パンチです!」
    「――キックです!」
     花色が流血を炎に変換して纏わせた右拳を打ち込み、それを受ける始の態勢を文歌の飛び蹴りが崩した。
     フォロースルーに体重を掛けて始を圧しつつ、花色が問い掛ける。
    「わたしたちはわかりあえるかい、少年」
    「お互い理解し合っているからこその、この殺し合いだろ?」
    「何とも切ないお話ですねえ」
     そう言いながらも笑みを浮かべた花色の左ストレートが、始を大きく後退らせた。
    「では、ご存分に嫌がらせをどうぞ!」
    「お膳立てのお膳立てとしちゃ、充分だ!」
     花色と入れ代わり前に出た拓馬が、交通標識のアッパースイングで始を打ち上げた。
     そこには既に、跳躍した樹がいる。振り下ろされるマテリアルロッドが燐光の軌跡を描いて始を地面に叩き落とす。
     落下の瞬間に炸裂する魔力の爆裂に大きく跳ね上がる始を、再び拓馬の交通標識が虫網よろしく捕える。拓馬と交差しつつ着地した樹が、即座に鬼神変を発動する。
     背中合わせの2人が振り返るその瞬間は、完全にシンクロしていた。
     拓馬が始を捉えた標識をフルスイングし――、
     樹が鬼神の拳を繰り出し――、
     ――激突する!!
     吹っ飛び地面を転がる始はぼろきれの様になりながらも、チェーンソーを支えにしながら立ち上がる。
    「お前達を殺して、序列を上げてやるんだ……」
    「しゃーないね。これが私達の選択だから」
     玲は肩を竦め、煉夜は構えたまま始を見据える。
    「来い、真っ向から。それがお前のやり方なのだろう」
     それはせめてもの情けではなく、六六六人衆のやり方に相対する灼滅者の確固たる意志として。
     突っ込んだ始の渾身の一撃を、玲のKey of Chaosが火花を散らしながら受け止める。直後に煉夜が繰り出す槍の刺突が、始のチェーンソーを完全に粉砕した。
     同時に引いた後足に力を込めた煉夜と玲が、深く鋭く踏み込む。左右二重の抜き胴で駆け抜け、重なる剣閃が始を――、
    「なるんだ、序列一位に……」
     ――両断した。


    「殺して、一位に……」
     下半身と泣き別れ床を転がった始の上半身が、天井に手を伸ばす。その手は虚空を掴みながら、灰となって消えていくのだった。
     始の灼滅を見届けた樹と拓馬は、同時に振り向き合って駆け寄った。
    「樹」
    「私は大丈夫。あなたも怪我はない?」
     2人は互いの負傷を見て、無事を確認し合う。
    「依頼は完了だ。後は他のチームが結果を決めるさ。俺達は帰ろう」
     拓馬の言葉に、寄り添う樹が頷いた。
     始が消えた跡を半ば睨む様に見つめていた玲は、やがて1つ溜息をついた。
    「この結果がどう転ぶか……。まあ背負う気も気負う気もないけどね」
     答えを貫いた灼滅者達は帰還する。灼滅者と六六六人衆の関係だけに留まらぬ、情勢の巨大なうねりを感じながら。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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