●武蔵坂学園、調理実習室
「茶倉・紫月(影縫い・d35017)さんが調査して下さっていたのですが」
そう語り始めた西園寺・アベル(大学生エクスブレイン・dn0191)の前には世界各地の料理が並んでいた。
ベトナムの生春巻き、ゴイクオン。イギリスの揚げ物、ヨークシャー・プディング。四川のスープ、酸辣湯。ポーランドの煮込み料理、ビゴス。中東のお菓子、クナーファ……。
「このように、世界には様々な名産品が存在します。しかし……」
ここでアベルは言葉を切ると、すぐに次のように話を続けた。
「……それらを広める人々の中に、邪な思惑を持つ者たちがいるかもしれないのです。例えば、商業的な成功を度外視した格安体験や無料配布などは、日本でガイアパワーを集めんとしている海外ご当地怪人の活動であるかもしれません」
現状、サイキックリベレイターは六六六人衆とアンブレイカブルに向いており、ご当地怪人の動向を未来予測する事はできていない。が……灼滅者たちならばその陰謀を発見し、打ち砕いてくれるのではないかとアベルは期待している。
そこで、彼はこんな説明をした。
「恐らく、実際の活動の中心となっているのは、海外で活動していた元ソロモンの悪魔の信者となるでしょう。皆さんがそれを暴いたならば……海外ご当地怪人配下の海外ご当地ペナント怪人が、数体程度は駆けつけてくるはずです」
もっとも、アベルは推測する……ただでさえサイキックエナジーの枯渇した海外で活動していた悪魔信者は、力など持たない一般人に違いない、と。つまり、ペナント怪人さえ倒せば簡単に後始末ができるはずだ。
が……活動しているのが一般人だからこそ逆に、間違って『本当に海外の良いものを広げる活動をしている人たち』を妨害してしまわないようにする必要がある。調査成功のためには、いかにその区別をするかが重要になるだろう。
そこまで語ると、アベルは灼滅者たちにも料理を食べるよう促した。
「調査さえ上手くゆけば、決して難しい話ではないのです。もちろん、油断すればどうなるかは判りませんが、皆さんは彼らの広めている名産品を元に、怪人たちがどんな性格でどんな攻撃をしてくるか、想像できるようになっているでしょうから」
たとえば、彼らの活動がインドカレーにまつわるものなら、インドペナント怪人がスパイシーな攻撃をしてくるだろう。オーストラリアのカンガルー肉関連のイベントの裏には、ボクシングに長けたカンガルーペナント怪人が潜んでいると推測できるだろう。
「その調査を、全てお任せしてしまうのは申し訳ない限りですが……その代わり皆さん、この料理を好きなだけ食べてから任務に望んで下さい」
参加者 | |
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八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863) |
神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017) |
船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718) |
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
茶倉・紫月(影縫い・d35017) |
●金色のビラコチャ
「あの金色の仮面は、インカの神ビラコチャでは……? ねえゆーさん」
茶倉・紫月(影縫い・d35017)は振り向いた。そして、さっきまでそこにいたはずの神乃夜・柚羽(睡氷煉・d13017)の姿がないのに気づき、ゆーさーん、ともう一度不安そうに名前を呼んでみる。
(「返事がない……やっぱり、段ボール箱を被ってスニーキングミッションなんてしてるから引かれたんだろうか」)
正直、『旅人の外套』を纏っているのに段ボール箱を被る意味なんてない。しーくん的には単なる洒落のつもりだったのだけど、ゆーさんに呆れて見捨てられてしまったのではないかとがっくり肩を落とす。
けれど、すぐに気を取り直し。
(「考えたら、こんなツンドラ対応、別に普段のゆーさんと変わらないじゃないか。ここであいつらの正体を暴いてみせれば、ゆーさんも少しは見直してくれるはず」)
でもさ……ビラコチャの正体が実は南米研究サークルに所属する大学生たちで、紫月は興奮した遺跡マニアお姉様の遺跡談義を長々と聞いてたんだって知ったら、柚羽はなんて言うんだろうね?
●アイ・ラブ・コーヒー
……が、その頃のゆーさんは。
「珈琲店で、様々なコーヒーを無料で飲み比べ……ですか」
うん。心を鬼にして別行動にしてよかった。こんな雰囲気のあるお店にふたりで来たら、しーくんが、どんなに砂糖を入れたコーヒーよりも甘々になりそうだ。それでは調査どころじゃなくなる気しかしない。
ともあれ……折角なのでいただいてみる。うん、やっぱりキリマンジャロの酸味と香りは柚羽好みだ。
「コーヒーといったらどこの国になるのでしょうか?」
その味わいを堪能しながら、柚羽が店員に尋ねてみると、老紳士は難しいねと困った顔になった。それから、こんな風に丁寧に答えてくれる。
「生産量で言えばブラジル、ベトナム。品質でいえばジャマイカのブルーマウンテンになりるのでしょうか。といっても豆ごとに楽しみ方も違いますから、一概にどこと一言では」
「なるほど、ありがとうございます」
彼は、本当にコーヒーを多くの人に知って貰いたいだけなのだ。決して、特定の国を贔屓するつもりはないらしい……贔屓しかしないご当地怪人どもとは違い。
(「なら……他の方から連絡がくるまで、もう少し飲み比べを楽しみましょうか。決して安くはない豆を無料で出して貰える分、ケーキにお金を落としつつ」)
それにしてもしーくんは……どうして、こう肝心な時にいないんだろう?
●メシマズは世界を制す(1)
一方で、八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)、赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)、船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)の3人は……偶然にも同じイベントに目をつけたのだった。
「『英国紳士のマナーを無料で学べるブリティッシュ・レストラン』……なんだか、すごく怪しげだよね」
「ブリティッシュ・レストラン……何故だろう、ローストビーフやスコッチエッグみたいな美味い料理もあるはずなのに、どうしても嫌な予感しかしない」
顔を見合わせるあきと碧。その時あきの目には無意味にメイド装束の碧が映った気がするがそれは置いといて、果たして……2人の予想は正しかったのだ!
「なんで店頭展示がいきなりスターゲイジー・パイなんだよ!!」
にょきにょき魚の頭が生えているパイを見て、思わず頭を抱える碧。由来こそ英雄を称えるものなれど、日本でも知る人ぞ知るそのグロテスクな見た目のために、怖いもの見たさの若者がちらほら入っていっている。
「ある意味で上手い客引きではあるが……これは裏にダークネスがいなくても怖い」
正直、この時点で十中八九ご当地怪人のせいだろう。スタッフらの様子を探りにゆくあきと一時別れて、自身は表から客として様子を伺おう、と碧が覚悟を決めていると……気づいた時には亜綾が見当たらない!
「どこだ……どこへ行った?」
慌てて周囲を見回している碧の耳に、自動ドアの作動音が飛び込んできた。はっとしてそちらに目をやると……霊犬の『烈光さん』をぶらぶらと手から提げ、さも当然のようにブリティッシュ・レストランの中に消えてゆく亜綾の姿!
「大丈夫か……? いや、全員バラバラでも何とかなると俺は信じてるぞ!」
遅れて、碧もレストランの中へと飛びこんでゆく!
●メシマズは世界を制す(2)
店内に忍び込んだあきが最初に見たものは……微妙そうな顔でブリティッシュな不味そうな料理を作り続ける料理人の姿だった。
(「なんだか、嫌々やってそうだね」)
ちょっぴり故郷を思い出す。イギリス人のイギリス料理への感情は、しもつかれに対する栃木人の誇りと嫌悪と似てるのかもしれない。
万が一、近くに怪人がいても気づかれないように、『闇纏い』した上で物陰にも隠れて様子を伺うあき。
大丈夫。誰かに気づかれた様子はない。
そのまま、マナー講座の講師控え室の方に移動。するとひと講習終えてきたばかりの、紳士然とした講師のひとりが、乱暴にジャケットを脱ぎ捨てながら他の講師と何やら英語で喋り始めた。
何やら不満そうな口ぶりに、時折ちらつかせる奇妙な形の銀のアクセサリー。悪魔信仰の聖印かなと、あきは思索を巡らせてみる。
(「たぶん、『何故我らの神ではなくご当地怪人に従わなければいけないのか』って言ってるのかな? それなら間違いないんだけど……よく判らないよ」)
だから……彼らに、もう少しボロを出して貰わないと。
●メシマズは世界を制す(3)
不意に、フロアがどよめいた。
料理の英国面を凝縮したかのような食品群。フィッシュ・アンド・チップスもウナギのゼリー寄せも、製法はイギリス伝統の調理法。
すなわち、素材の味が死ぬまで火を通し、その分を各自が調味料で補う方法。
そんな当のイギリス人ですら辟易する手法の料理がテーブルいっぱい並んでも、亜綾の食欲を阻むことはないようだった。ちなみにどんな料理が出ても、烈光さんは足元でずっとお預け。まあレストラン内だから仕方ないね。
「味つけを自分で選べますからぁ、どれだけ食べても飽きないですぅ」
「まさか、あのハギスまで平然と平らげるとは……さぞかしスコットランドでは歓迎されるだろうね」
ドン引いた様子で洩らす店員は、きっとイングランド人に違いない。彼の言葉をイギリス紳士のマナー通りに解釈するのなら、「ハギスなんて食う輩、イングランド人が歓迎すると思うなよ」になるのだろうか?
その時その店員に、別の店員が食ってかかった。捲くし立てる言葉は訛りのある英語だったので、テスト勉強だけ頑張る派の亜綾には正確には判らないけれど、「言いたい事があるならはっきり言え」とかそんな感じだっただろうか?
(「俺たちがまだ何もしてないうちに、イングランド人対スコットランド人の戦いが始まった……だと?」)
唖然とする碧。こいつら紳士のマナーどこ行った。慌てて状況を全員に連絡すると、真っ先に飛んできたのが立花・環(グリーンティアーズ・d34526)!
「せっかく陰謀の香りがプンプンするチラシを見つけたところだったのですけれど……こちらも負けず劣らずですね」
早速、ハイパーリンガルで宥めつ煽りつ状況操作。なんかここヤバい……という雰囲気がレストランじゅうに広まった辺りで、紫月と柚羽も次々に到着!
「ゆーさん、ようやく見つけ……」
「あなた達、さっさとここから離れてください」
ぞくっ。現れるや否や絶対零度の冷たさで命令する柚羽に怯えて、紫月まで思わず言いなりになりそうになった。
「……しーくんまで離れようとしてどうするんですか」
いやだって、それが『王者の風』だと解っててもですね? ここで従っておかないと、この夏はチョコミントアイスにありつけなくなりそうじゃないですか。
「そんな事より……新手が来るぞ」
一般人の逃げてゆく入口を指し示す碧。見れば数体のペナント怪人が、騒ぎを知って入れ替わりにやってくるところ。
「イギリスとはすなわち我のことなり。イングランドペナント怪人、ただ今参上!」
「深き自然に佇む古城。ケルトの伝説ここにあり。我こそはウェールズペナント怪人!」
「険しい自然なら負けてはいない。伝説のネス湖もあるぞ! スコットランドペナント怪人見参!」
「闘争と融和の歴史の中にこそ真実あり! 北アイルランドペナント怪人とは我の名よ!」
が……彼らの連合攻撃の前に、ご当地ヒーローが立ちはだかるのだ!
「私は、宇都宮餃子ヒーローの八重葎・あき! 連合王国ペナント怪人たち! 各国の文化を使っての悪巧みは赦さないよっ!」
「何をいう、我らの飽くなき美味い飯への探求こそが、我らを大帝国へと導くのだバリツ・キーック!」
だけどそんな独りよがりな攻撃は、不機嫌そうな柚羽にあえなく斬り返された。
「せっかく美味しい珈琲店を見つけたというのに、しーくんの癖に一緒に来ないんです。腹いせにこの場で灼滅されてください」
「待ってゆーさん俺どうなるの」
顔を引きつらせる紫月。勝手にいなくなったのはゆーさんの方じゃないかと文句は言いたいけれど、結局ビラコチャ仮面もダークネスの陰謀には繋がらなかったし、ここは大人しく働くしか道はない。
「ふ……貴様に共感はするが今は敵同士。今は存分に刃を交えようではないか」
北アイルランドペナント怪人に同情される紫月って一体。まあ、涙を拭っている怪人は、碧の『黒百合』にさっくり斬り捨てられる羽目になったんだけどね。
「おのれ、我らが下手に出ていれば灼滅者どもめ! 平たい胸族の分際で、あくまでも偉大なる大英帝国に楯突くつもりか!」
憤る怪人。碧はメイド服は着てても男なんだから平たくて当然、なんて想像などできっこない。だけど……その不用意な煽り文句が、どうやら期せずして環の逆鱗に触れたらしかった。
「キシャー!! 貴様ら……生まれてきたことを後悔させてやる……。これでもCに成長したんですよ!」
メディックとは思えぬ獅子奮迅。回復メインで戦おう、とか思ってた数分前までの環はどこ行った。
「どんだけ成長したところで、ホルスタインには敵わんわい! でもいいじゃない、人間だもの!」
スコットランドペナント怪人、爆発四散。紫月が完全に子犬みたいになって、女の子こわい、ゆーさんごめんなさいってなってる。
「……まあいいですけど」
言いつつ柚羽、無造作に鋏でウェールズペナント怪人をちょん切った。いや変な意味じゃないよ? 怪人のペナントをですよ?
そんなわけで、残る怪人はいつの間にかあと1人。
「我らが連合王国が……おのれ日本人! 日英同盟の恩を忘れたか!」
動揺するイングランドペナント怪人の眼前で、碧の黒百合が一度鞘に収まって……刹那! 瞳の奥の紅き焔が、弾けるように燃え上がる!
「……ならば、あの世でもう一度連合王国になるといい」
一閃する刃。怪人の体は刀に真っ二つに切り裂……かれる前に地面に倒れ伏している!?
「行きますよぉ……必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ!」
急に飛んできた……というか放り投げられてきた烈光さんが、怪人の頭にしがみついて押し倒していたのだった。そして、すっかりテーブルの上の何もかもを平らげた亜綾が天井近くまで飛び上がり、そこへとバベルブレイカーを突き立てる。
「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
刀をスカって固まる碧の前で、腹をさすりながらトリガーを引く。怪人の体は数度跳ね、そして……二度と起き上がらない。
かくして彼らの罪は裁かれたのだった。
だが……六六六人衆を中心に様々な勢力が暗躍を繰り広げる中でも、わらわらと沸いてくるご当地怪人ども。さらに、他のダークネスらも考えたなら、果たしてこの戦いはいつ終わるのだろう?
「先の見えない状況だけど、できることをやっていけば、きっと何とかなる……よね?」
不安げに祈るあきだけど……どうやら今の灼滅者たちには、もうひとつだけ、『できること』があるようだ。
「このビラなのですが……」
そう言って、環が広げたチラシに書かれていたものは……?
●オクラホマミキサーって何だか必殺技感あるよね? ない?
日本においてはフォークダンスの代名詞となっているオクラホマミキサー。
それが、ヴァージニア・リールというフォークダンスの中で使われる一曲の振り付けが、日本全国に伝わる間に変化していったものであると知る者は少ない。曲名もそれ自体が『オクラホマミキサー』だとばかり思われてるけど、本当は『藁の中の七面鳥』だから忘れないでね!
「その誤解を古きよきアメリカ開拓民衣装を着て正そう、までは良いですけれど、今年は盆踊りの代わりにフォークダンス、やら、屋台はステーキやアップルパイに決まり、やらとは穏やかではありませんね……は? 正しいフォークダンスをしないと好きなあの子のひとつ前で曲が終わる呪いをかけるぞ……ですか? そんなもの、我らぼっち公国軍の将兵には通用せぬよコンチクショー!!」
……という環の魂の叫びの後、星条旗ペナント怪人らの陰謀も潰えたのだった。
作者:るう |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2017年7月31日
難度:普通
参加:6人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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