起死回生の花

    作者:那珂川未来

    ●発端
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)の調査によってつかめた、都市伝説を発生させるラジオウェーブのものと思われるラジオ電波。もう皆も知っている事だろう。
     そのラジオウェーブのラジオ放送が確認されたと告げながら、仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)は依頼内容のプリントを手渡してゆく。
     それはとある蓮池の話。
     何処かで聞いたことがあるような、そんな再生と裏切りの話だった。

    ●起死回生
     その池に唯一残る蓮は古き時代に伝来したものらしく、今でも仏の真言が微かに残っていると云われているらしい。俗世に汚れきっていないの七つまでの子供ならば、遺品を蓮の蕾に差しいれれば、起死回生の真言の力で蘇るという――そんな、荒唐無稽な噂。
     けれどそんな荒唐無稽な噂に縋りたいと思う人間も確かにいる。
    「どうか夕輝を蘇らせてください。どうか夕輝を、どうか……あの子に……逢いたいんです……」
     遺品を蕾に差し入れ、天に、地に、密やかに祈る母親の願いは叶えられる――けれど。
     父の精ではなく。
     母の肉ではなく。
     蓮の花によって再構築されたその子が、同じものになるわけもない。
     人のカタチはしていても、顔は別人。幼子だった我が子はすらりと伸びた少年の手足で、年すら同じではなく。まるで仙人の様に羽衣を靡かせ、手には槍、足には火風巻き起こす車輪に乗り、蓮色の髪を靡かせる美しい面持ちであるものの蓮の花を左目に咲かせた少年が母へと静かに向き直るなり。
    『お母さん……?』
     記憶すら其れではない少年の声に重なる様に、響き渡るのは悲鳴、或は絶叫。生まれた其れが、自分が想像していた其れを遥かに逸脱したものであることへの。
    『……酷い。黄泉返りという禁忌を犯してまで、お母さんの求めに応じたと云うのに』
     未だ人ではないものになり果てた其れへと送られる恐怖の眼差しに抉られた心。蓮の精と化した何かは涙を流しながら、拒絶という裏切りへと報復の一撃を振り下ろす――。

    ●その姿が裏切りか、それとも愛が偽りなのか
    「……道教と記紀神話が混じったのかな。まるで伊邪那岐命が伊邪那美の変わり果てた姿を見て絶叫したと同じ様に。ナタが蓮の花から再生した時の話と同じように。とにかく、ラジオ放送と同じように、子を無くした母親が自分の子供の遺品を差し入れることによって発現する都市伝説によって、殺されてしまう事件が起こってしまうから」
     沙汰の話によると、その蓮へ遺品を入れて発現する時間は深夜らしいので、母親が遺品を入れてしまう前に、こちらが先に蓮池へと向かう事は出来るらしい。
    「結局のところ都市伝説だから、本物の遺品かどうかの判別は出来る訳もないよ。だから、このビー玉でも、中に入れれば都市伝説は発生する。そしてね」
     発生後の姿は、誰の蘇生を願おうともラジオ内容と同じものであるらしい。もちろん何も言葉に出さなかろうと、生まれるものはそれ。
    「その姿はまるで道教のナタにも思える。勿論本物ではないけれど、便宜上今回は、都市伝説をナタとせてもらうね。ラジオ放送の中でナタは蘇ったにもかかわらず生前と違う事で母親に拒絶され嘆き、憎しみを抱いていた。発現させておいて灼滅する事も、結局はそれは彼にとって裏切りでもあるかもしれない。けれど、ナタが本当に願いの中から生まれた揚句拒絶されるより、戦いの中で果ててゆく道士としての終焉、つまりナタへと戦いを挑むという目的の元倒すなら、少しは――」
     ナタも戦いの中に生きた者という設定を汲んでいるのか、戦う事は拒否もしないだろう。だから、特に祈りなど無くてもナタは壊される前に壊すと云う感情のみで襲ってくるだろう。もしも誰かが仮に黄泉返りを願う様な祈りを捧げるならば、道士や戦士としての彼を望むと、感情を交差させた戦いを挑めるかもしれないと沙汰は言った。
     そんなナタの能力はそれとなく本物と似通っていて、乾坤圏で打撃を加え、混天綾で命中力を高めつつ払い、火尖鎗で力を溜めつつ穿ち、風火二輪で燃やしてと攻撃的なものばかりだ。ポジションはメデッイクであるため何かしら面倒である。
    「伝承の道士と戦える機会と思って、戦いに臨んでほしい。やってくる母親は、定石のESPで十分間に合うから」
     ただ純粋に、戦う。
     その黄泉返りという物語に、せめてもの意味を与えてあげるために。


    参加者
    栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)
    サフィ・パール(星のたまご・d10067)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)
    神西・煌希(戴天の煌・d16768)
    深草・水鳥(眠り鳥・d20122)
    白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)
    フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)

    ■リプレイ

    ●思慕
     重苦しい真夏の気温も、木々の隙間を滑る夜風にいずこかへと浚われて。涼しさに洗われた大気に流れる月の帯は鮮明で、虫の声は鈴の様に心地よく耳に届いていた。
     夏山を楽しむように。軽い歩調で畦道進む神西・煌希(戴天の煌・d16768)は、その手の光を弄ぶように揺らしていたなら。水面に反射する光のゆらぎ、蓮の陰影が闇の中に深く浮かぶ。
    「黄泉返り、ねえ……」
     ふと、目の前を過ってゆく蛍の光に、煌希はぽつりと漏らす。
     蛍が霊魂に例えられるような逸話もあるが。ひとつ草を踏めばひとつ飛んでゆくそれらを見ては、まるで此岸へと舞い戻りたい魂達が誰かを待っていたかのようにも見えた。
    「一目でも会えるなら……そう想ってしまう気持ちを止める事は出来ないのかもしれないけど――」

     でも、もし――。

     エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)はその掌を掠めていった蛍の残光へ伸ばしかけた指先を止め、傍らの葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)へと視線を落す。
     そも、大切な人を喪う事など考えたくもなかった。
    「私なら……望まれて……そのうえで拒絶なんてされたら、きっと壊れてしまう」
     百花は無意識にエアンの手を握っていた。怖い運命の入る隙間なんてないくらいに。
     握り返してくれるエアンの温もりは優しくて、信頼を編む様に絡まる指。
     フリル・インレアン(中学生人狼・d32564)はそっと蓮の花の傍らへと膝をつき、
    「失われた命を取り戻すことはできないけど、お母さんの期待に応えて生まれたナタさんにとって、お母さんからの拒絶は絶望だったのですね」
     本来ならば紡ぐはずの未来を憂う。
     けれどラジオウェーブの放送が流れてしまった以上、それを拒否することなどできるはずもない。
    「ナタくん、お母さん、好きだったのですよ、ね?」
     サフィ・パール(星のたまご・d10067)は星を見上げながら。本来であれば辿るはずの、しかし今は自分達が係わることによって消えてゆく星の巡りを見送りながら囁く。
     母の為に黄泉路を戻ってきた痛みさえも、偽りとはいえ愛が成せたという物語。
     だから結末が悲しい。
     辛い。

     傷付くから傷付ける――。

     そんなラジオウェーブの作り出した筋書きに、刹那の生でも母を焦がれたナタへ哀よりも愛が与えられるならと、サフィは願わずにはいられない。
    「……で、でも……それで違う人が出たら、やはり、すぐには受け入れられないよね……?」
     皆より一歩引いた場所で、重度の人見知りである深草・水鳥(眠り鳥・d20122)は俯いたままようやく言葉を紡いだ。
     十数年前にダークネスに攫われた時から両親と離れ離れになった水鳥。今どこにいるか、生きてるかも分からないけれど、可能ならば再会を願う気持ちはずっと心に。
     けれど奪われた時間は、記憶の中の面影にも影響して。思い出のまま生きていられる人間などいようか。歳をとり、変化し、やはり記憶とは違う人が現れたら、本当に? と訝しんでしまうのは、記憶しか判断材料がない水鳥らしい気持だった。
     願いや想いが重すぎれば重すぎるほど、どちらの視点でも、その相違を強く感じてしまうものなのだろう。
    「ま、古来より禁忌の一つとして数えられるものだなあ」
     煌希は呟く。会えない誰かに会いたいと願う想い、そのものは決して悪いことではない。けれどこれが世の理であり、自然の摂理。
    「禁忌を犯したところで誰も幸せにならない、そういう事なんだろうね」
     エアンの声は、何処か切なさを帯びていた。
     闇堕ちした姉は死んだわけじゃなくても、いつかこの手でと願う。これもまた裏切りになるのだろうかと、人であった時の姉へと心の中で問うかの様に。
     もう何処へと消えたのかわからぬ蛍の光。
     まるで殺された家族が、一人一人消えてゆくあの時を思う程宵深くなるこの場所で。栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)は闇に頭を振りながら、
    (「わかってる。もういない人を生き返らせることは誰にもできないんだって……」)
     儚く取り戻せない故に、いのちというものがいかに尊いものであるか――闇に紛れる握りしめた拳が、この都市伝説の悪意を潰さんばかりに震えた。
    (「生き返らせることが、できるなら……」)
     白星・夜奈(星探すヂェーヴァチカ・d25044)は殺界形成を行いながら、煌希の手が蓮の花へと伸びてゆくのを見守っていたが、ふとジェードゥシカを見上げる。
     以前の自分なら、迷わず会いたいと思った。けど今は。
     とても、とても迷うけれど。
     けど。

     ――近い未来、自分が死んだら会いに行くって、きめてるから。きちんと謝ろうって、決めてるから。

     記憶の中、真赤になった自分の手と、血塗れのジェードゥシカ。
     堕ちて人を殺す間違いを、どうして止めてくれなかったのか――。
     百花から音の隔壁が落ちてゆくのを感じながら、懺悔にも、悲愴にも似た様々な想いと共に、ビー玉は蓮の花へと滑りこんでゆく。

    ●蓮始開
     開いた花から生まれた少年は、エクスブレインからの説明のまま。蓮色の髪を靡かせ、伝承で言うならば宝貝で武装した姿、そのままだった。
    『……誰?』
     ゆっくりと振りかえった後、尋ねるナタ。
     最初は機械のような造られた表情だったのも一瞬。割合しんみりとした雰囲気で迎えられて、次第に戸惑いの様子を感じさせていた。
     生まれたばかりの子に、そんな雰囲気を悟らせてはならない。そう思っても。
    「――ひとの都合で呼んで、ごめん」
     最初に口火を切ったのは夜奈だった。
    「でも、ころさせるわけにはいかないの。あなたの手を、汚してしまう前に、ここで、おわらせる」
     紡ぐ言葉は、今のナタが知る筈はない未来。
    「わかってる――これは、ヤナの、ヤナたちの都合」
     機械的に襲ってくるだけのナタを相手にした方が感情無いぶん気は楽だろうが、けれど物語の内容を思えば、それを知らぬまま、何故灼滅されるか分からぬまま終わるなんて、それこそこちらの都合「だけ」になってしまうと夜奈は思った。
     きっと、憎しみをぶつけられても、泣かれても受け止めるくらいの気持なのだろう。
     首をかしげるナタは言葉の意味を探っていたが、
    『僕は誰を殺すの?』
     ただ、素直な疑問を。
     会ってもいない母親の事を言っても、信じてくれないとサフィは思ったから。ただ、
    「ナタ、くん。あなたは……願われて、生まれたのに……生まれるはずだった、のに――」
     ナタの事を、どういう理由であれ様々な思いを以て。そしてナタにとって理不尽であることを分かったうえで倒しに来たのだと謝罪も交えながら、サフィは最後に告げる。
    「新しい悲しみ増やさない為……あなたと、戦うです」
     エクスブレインは腕試しと称して道士や戦士としての彼を望み挑むなら少しは倒す意味を与えられるかもしれないといった。しかしそれはあくまで灼滅者側の罪悪感のみを考えたものだった。
     今、灼滅者達は、ただ正直に対峙し、その存在に偽りない事実のまま、罪悪感も理不尽も受け止め正視する。起こる前の悲劇を語ったところで、普通ならば理解を得られるのは難しい。しかしひとの「願い」から生まれたナタは槍を構え、その手に、足に、炎を吹き上がらせながら。単純な気持だけで殺しに来ているのではない、その「願い」を受け止め。
    『じゃあ戦おうよ。今この身は「妖魔」を倒す為に得たのだから』
     妖魔は灼滅者らを差しているのではなく、何か抽象的なものを言っているのでは、と予感させたのも一瞬。
    「さあ、いい戦いにしようぜえ!」
     火尖鎗を勢いよく振るいあげてきたナタへと、煌希は妖精の様に華やかに舞うニュイと共に、その爪先にストリートファイターの気質を唸らせ、嬉々とした表情で迎え撃つ。

    ●蓮鏡
     炎が荒ぶ。
     風を巻き起こし、空を自在に滑るが如く。滑らか且つ鋭い動きで迫るナタは、伝承の様に幾千もの妖魔を屠った、そのもののようだった。
    「灼滅者ですのでナタさんにとって良かったと思える命が与えられて、意味のある消滅をしていただけるように」
     頑張りますね、と。フリルは精神まで届く赤色の十字架を生みだすと、楔を打ち込むように放ち、水鳥はたゆたう水辺、透き通るようなワルツのリズムを響かせた。
     庇い入った煌希へ乾坤圏が重い響きを伴い、次いで夜を舞う混天綾がエアンの上衣に小さき野花の様な血痕を次々と残す。
    「危ねえなあ。お前の相手は俺だぜえ!」
     鮮血を指で弾くと、ニュイと果敢に肉薄する煌希。
    「えあんさんっ、煌希さんっ」
     百花は皆を守るよう。Blessingの輝くその手を空へと掲げ、その光を灯しながら腕の祭壇を開いて。癒しの瞬きにリアンも尻尾のリングの輝きを添え、前線に力も一緒に分け与えてゆく。しかしついたそれを、容易く壊してゆくナタの一撃は、序盤から激戦を予感させた。
    「дедушка」
    「エル、お願いする、ですよ」
     フリルが放つ大震撃をひらりかわし、休む間もない様に放たれた風火二輪へ、夜奈はジェードゥシカに其れを堰き止めるよう言いつつ己が矢で精度を上げた漆黒の刃を解き放ち、サフィは星輝く鏃に癒しを乗せて祈る様に弦を引く。
     癒しを上回らんばかりに突き出された火尖鎗のうねる炎の中を、エルは火の輪を潜る様に跳躍で飛び越えると、斬魔刀で先の命中精度の恩恵ごと切り裂き、こちらも優位を与えぬよう的確に狙って。
    「気が引けますが――」
     フリルはトラウマを引き出すようなことを申し訳なく思いながらも。小さな狼の影を解き放ち、その滑る様に舞うナタを追い込むと。くるくるとはねる様にして、斬魔刀で飛びつくエル。リアンがふわふわとリングを揺らせば。水鳥が巧みに着地点を浚うカミの風、美しい花弁を巻き上げながら。サフィが放つ星読みの矢と、百花が生む厳かな輝きが前線の維持を的確に補佐してゆく。
     霊撃が空をかするだけだとしても。ちゃんと隙作ったんだから感謝しなさいよねって体でそっぽ向いたニュイへと苦笑返しつつ。
    「ニュイの期待には応えないとなあ」
     勢いよく放った煌希の拳が、戒めの波動を伴いながらナタを打つ。
    『くっ』
     ギシリと鈍い音がして、空を舞う宝貝の速度が緩む。更に生まれた隙へ死角へと回りこんでいたエアンの十字架の先端が、細き死角の道筋へ凛とした軌道を生んだ。
     鮮血が美しい線を引く。
    『やるね』
     八葉蓮華の陣を敷き、流れる鮮血を浄化するナタへ、エアンは紳士的に微笑み返しながら、
    「チームワークこそが俺達の強みでもあるからね」
     互い、ベルトと羽衣を刃の様にしならせ、打ち合せながら、空を交差して。
     着地ざま攻撃に転じようとするナタへと風を纏うかの如き勢いで迫る綾奈。彼女の鋼鉄拳と乾坤圏で迫り合う。
    『これじゃあ負けるよ?』
     勝ち気に笑うナタ。強烈な一撃を返されそうになる綾奈。
    (「目の前のこれは違う。本当の子供と違う――蓮から蘇った子じゃない」)
     悪意を感じないナタを相手するのは、綾奈にとって何か苦しさを感じずにはいられない。ラジオウェーブが作り出した噺が残酷なだけ、心に噴き上がりそうな想いが綾奈の双眼を冷たく震わせる。

     ――けど、今は、泣かない。

    「大丈夫、私は負けないんだから!」
     胸に入った鈍い衝撃は甘んじて。けれど大地を掴んだ足はもう一度前へと向かい、張りあげた声と共に、気合いを込めて鋼鉄拳。
     ごきりと、同じ様にナタの胸を穿ったそれは、蓮よりも赤い花を咲かせて。
    「ナタあ、俺とも打ちあってくれよなあ!」
     豪快に拳を振り上げ、庇いのダメージなどもろともせず突っ込んでゆく煌希。
     花散る程ダメージを受けたとしても、それでも豊かな表情で戦う姿。楽しげに拳をぶつけ合う、煌希と同じような表情をしているナタを見て、水鳥は本当に誰かの魂を呼び寄せたのではないかと思ってしまう。
    「これも、人の願いから生まれた、幻にすぎない……」
     水鳥は女神の詩を口ずさみながらそう呟く。
    「ナタしか出ない、の……」
     言い聞かせるように。
     だから。
     会いたいと願う両親は此処にこない。まだ生きているかもしれないから。だからただ歌う。

     生きて再会することを願う祈りの歌――。

     繊細な歌が月光の様に静かに降る。
     夜奈がジェードゥシカの霊撃によって生まれる夜の花の様に散った輝きの銀盤を舞う様に、繊細な剣技を放つなら。
     ナタも風火二輪で空を滑る軌道は一瞬のパートナーを得た様に、鮮やかに弧を描く。
     哀はなく。
     憎しみもなく。
     けれど明確な何かをもっているナタの姿が、殺意の行き場を失った夜奈にとって、心のどこかに閊えるようで。
     ただその姿は、ナタなりにその存在に意味を得ているように、百花には思えた。
    「母親の負の感情に反応したということは、今のももたちの何に反応しているの……?」
     尋ねた声は、荒ぶ炎に飲まれる。

     ――もし……触れたそれが温かな想いだったとしたら?

     そうすれば、戦わなくて済むのではないのか。
    「……私たちは、灼滅するしかできる事がないのかしら」
     俯きながらも、仲間を支えようと祭霊光を展開し続ける百花の呟き耳に、サフィもしばし肩を振るわせたが。
    「ナタくん」
     サフィにはとうとう終りの星が見えたから。
    「私、あなたのこと好き……ですよ。花も、あなたも、綺麗だな……思うです。素直でやんちゃで優しい人、その力、守る為使えたら救われるのに」
     灼滅はしたくなかった。
     しかし都市伝説として在る以上、灼滅しなければいつか必ず辿り着くだろう拒絶を防げない。
    『ありがとう。僕も君が好きだよ?』
     けれどナタは当り前の様な顔して。
    『それに僕は「救われる為」じゃなく、「応える為」に居るよ?』
     それでいて不思議そうに言うのだ。
    「――ごめん、ね」
     夜奈から迸る夜色のオーラが、おやすみを告げる様に大気に響く。そして、
    「終りにしよう」
     エアンのクロスグレイブから放たれた黒死斬の一撃は、暗い安寧を確かにナタへと刻まれた。
    『君達が僕を呼んだ勇気を、そして僕が「この僕」として在れた事を……』
     賞賛を示しながら鮮血を胸いっぱいに咲かせ、倒れゆくナタ。まるで温かな腕の中眠る子供の様な死に顔で。それを見て、エアンは知る。都市伝説たる自身の容こそ妖魔だったと。その妖魔たる存在であっても、一瞬でも、心だけは人のように通わせたと。そして、その妖魔たる存在を確かに消す為に、彼等の願い通り意味を以て正しい理の中に返る道を選んだ。
     心を通わせたなら、それは唯の魂であったのかもしれない。蓮からうまれようとも、同じ両親からうまれようとも、同じいのちは一つとして生まれない――そうフリルは思うから。
    「ナタくん……」
     はらりはらりと。散ってゆく蓮の花のひとひらを、サフィは涙のまま受け止めながら。
     拒絶すれば拒絶を。
     誠実なら誠実を。
     応える為だというならば、自分達はナタの存在に、きっと意味を与えたのだ。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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