七不思議使いが、狙われる!?

    作者:芦原クロ

     月明かりも無い、夜の真っ暗な墓地。
     ライトを片手にきょろきょろと周りを確認しつつ、青年が歩いている。
    「今年の肝試し場所は、ここで決まりだな。あとは怪談話を考えないとな……沢山の手に捕まって地獄へ引きずり込まれる、とか?」
     どうやら、一般学生たちが少し早い肝試しをおこなうようだ。
     青年は場所を探す係になり、出入り口が封鎖されていない古びた墓地を、こうして歩いてチェックしている。
    『怪談話……ステキね』
    「え?」
     不意に聞こえた声に驚き、青年が正面にライトを照らし、ぎょっとする。
     いつの間にか、長く黒い髪の女性が立っていた。
     青年が驚いたのは、その女性の肩から先だ。
     いくつもの長い手が、ゆらりゆらりと動いている。
     悲鳴をあげる間も無く、青年はその手に捕まり、闇の中へ引きずり込まれていった。

    「……と、いう内容で、ラジオウェーブのラジオ放送が確認されたよ! このまま放っておけば、ラジオ電波から生まれた都市伝説の手によって、ラジオ放送と同様の事件が発生するよ」
     教室に集めた灼滅者たちに、須藤・まりん(高校生エクスブレイン・dn0003)が急いで説明を始める。
     ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響により、都市伝説が発生する前に、その情報を得ることが可能になったエクスブレイン。
     都市伝説はダークネスではないものの、バベルの鎖の効果を持つ。
     その為、警察や一般人では対応が出来ないので、灼滅者だけが討伐可能なのだ。
    「この都市伝説は、怪談話を実体化させるみたいだね。都市伝説に捕まったら、一般人は本当に行方不明になっちゃうけど、灼滅者のみんななら、腰や足に力が入らなくなったり、服の下……素肌を、いくつもの手で撫でられたりする程度かな」
     後半、とんでもないことを言う、まりん。
    「都市伝説は怪談話を求めて来るから、ルーツが七不思議使いのひとは……そういう雰囲気をかぎ取られて、真っ先に狙われそうだね。その次に狙われそうなのが、ポテンシャルが七不思議使いのひとだと思うよ。……怪談話を求めて来るなら、怪談をいくつか話したり、都市伝説が実体化不可能な話をすると、弱ったりするかも!」
     都市伝説も万能では無いことを、告げる。
    「この情報は予知では無くて、ラジオ放送の情報から類推される能力なんだよね。だから、低確率だとは思うけど、予測を上回る能力を持っている可能性が有るんだ。その点は、気をつけてほしいかな」
     まりんは灼滅者たちのことを心配し、深刻な表情になる。
    「えっと、その……感覚が鋭いひとは、撫でられたらツラい……かな」
     重大性に今更気づき、赤面したまりんは、灼滅者にエールを送った。


    参加者
    東当・悟(の身長はプラス三センチ・d00662)
    影道・惡人(シャドウアクト・d00898)
    峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)
    城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)
    秋麻音・軽(虚想・d37824)
    竜ヶ崎・美繰(高校生七不思議使い・d37966)

    ■リプレイ


    「ん、戦闘開始まで待機で」
     影道・惡人(シャドウアクト・d00898)は、仲間が敵を弱らせるまで待機しようと、物陰に素早く向かう。
    「……百物語で人避けして、ここに近づかないようにすっけな」
     少し緊張気味に、竜ヶ崎・美繰(高校生七不思議使い・d37966)は百物語を展開し、人払いを済ませる。
     これで一般人も近づけず、被害に遭うことも無いだろう。
    (「怪談話を求めて来る都市伝説さんですか。撫でられる事はケーキに庇ってもらいましょうか?」)
     雰囲気が出やすいよう蝋燭を片手に、栗須・茉莉(助けてくれた皆様に感謝します・d36201)はウイングキャット、ケーキの頭を優しく撫でる。
    「く……くすぐりは……触れられた瞬間に殴ってしまいそうだ……」
     秋麻音・軽(虚想・d37824)は、気まずそうに目を泳がせている。
    「アル。どう? 無理だったら無理しないで。今、飛んで見せて。……大丈夫なフリして、頑張っちゃう癖はお見通しです」
     ウイングキャット、アルビオンの首にライトをくくりつけ、飛べるかどうかチェックをする、城崎・莉々(純白しか赦せない人・d36385)。
     アルビオンが平気なフリをしているのを見抜き、ライトを外してやる。
    「怪談話を求める都市伝説……ラジオウェーブの影響が強くなってるのか?」
     状況を考え、真剣な思考モードの、峰・清香(大学生ファイアブラッド・d01705)。そういうのは、関係していないハズ。たぶん、きっと。
    「なんかちょっと空気重たいな」
     片手に火のともったロウソクを持ち、逆の手は恋人の手をしっかりと握っている、東当・悟(の身長はプラス三センチ・d00662)。
    「心なしか……肌寒いような……悟も……そう思います?」
     恋人とお揃いの浴衣姿で、同じく繋いでいる手とは逆の手で、ロウソクを持っている、若宮・想希(希望を想う・d01722)。
    「あんな想希、あれはある夏の夜。めっちゃ蒸し暑い日やったんや……ねつけへんからころがっとったら、どっからともなくぶちー……ぶちー……って」
    「え? ぶちー……ぶちー……?」
     不思議がっていた想希だったが、悟の真後ろになにか得体の知れないものが出現したことに気づいた。


    『ステキな怪談話……もっと、聞かせて……』
     いくつもの長い手を、闇の中でゆらりゆらりと動かしながら、女性は悟に手を伸ばそうとする。
    「や、やめっ……悟に触るな……っ」
    「でた! 怪談出たで!」
     想希は悟をかばうようにして間に割り込み、想希の後ろ側で悟が、仲間たちに知らせる。
    「念の為にサウンドシャッターを使用して、一般人の方に聴こえないようにします」
     瞬時に判断し、茉莉はサウンドシャッターを展開。
    「なんの怪談を話すべ……実体化のできない話……」
     美繰も、敵の興味を悟からそらそうと、必死に考える。
    「誰もいないはずの場所から声が聞こえて、それに返事をすると異世界に飲み込まれる……とか」
     考えるより動く派の美繰は、言い終えてから、はたと気づく。
    「実体化できっぺよ、これ……あ、でも、たくさん話をしても弱体化……」
    「おおきに!」
     恋人や仲間たちのサポートに、きちんと礼を言う、悟。
    「……ん、誰かおらに話しかけたけ? ……あ、あれ、足が動かね……今の、もしかして怪談……?」
     異世界に飲み込まれはしないものの、足に力が入らなくなってしまう、美繰。
    『貴方たちからも感じる……怪談の気配』
     敵の興味は、茉莉と美繰に向かった。
    「怪談その一。光は十個の輝きに。赤、青、黄色、緑、紫、黒、白、ピンク、黄緑、橙色の輝きに。それは、色とりどりなひよこたちの物語」
     撫でて来ようとする手を、ケーキが必死で止めている間、茉莉が怪談を語る。
     それは怪談なのだろうかと仲間たちが不思議がるが、敵はその話を実体化してしまう。
     色とりどりの、ひよこたちが出現し、その愛らしさに和みそうになるが、ひよこたちは目をギラギラと光らせ、小さなクチバシで猛烈に突っついて来る。
     なるほど、恐ろしいひよこたち。これなら、立派な怪談だ。
     冷静に納得した清香は、七不思議使いのメンバーをかばおうと動く。
     清香の動きに気づいたように、いくつもの手が、清香の素肌を撫でてしまう。
    「ひゃっ、ん……!」
     普段凛々しい清香からは想像もつかないほど、高めで可愛らしい声が上がる。
     実は敏感な清香は、最初こそ、敵の手を払おうとしたが、力が出ない。
     その間、勝手に出てしまう甘く愛らしい声をどうにかしようと、清香は両手で口を覆うことしか出来ずにいる。
    「強そうな清香さんが……あんなにも簡単に……」
     ぽつりと言葉を零す、想希。
     それを聞き逃さず、悟は想希の前に立って目線を合わせる。
    「想希、怖ないか?」
    「いえ別に怖いわけじゃ……」
    「そうかー?」
     悪戯っぽく笑う悟の頬を、つまんでムニムニとすることで、大分心が和らぐ想希。
     恋人の微々たる変化さえお見通しだとばかりに、悟は笑顔を向ける。
     忍び寄る、お邪魔虫こと都市伝説の手。
    「ちょ、ま! あかん! めっちゃくすぐったいんやけど!」
    「悟……!?」
     触られた悟が、笑いながら転がりまわる。
    「くすぐったいって言うとるやろ!!」
     慌てて救助しようとした想希だったが、悟の胸元にやや大きめの毛玉が勢いよく生えたことで、びくっと動きが止まる。
    「どや! 胸毛の怪や! かっけーやろ!」
     得意げに、キメ顔をする、悟。
    「こいつ、いちおーけうけげんなんやけど。今は俺の胸毛の精や!」
    「ふふ、なるほど。悟の、胸毛の精ですか」
     説明を聞き、想希は楽しそうに笑い、指の先で優しく毛玉を突っつく。
     毛玉はつっつかれて、喜んでいる。
     和やかな2人と毛玉の世界になっていたが、敵の手がまたもや七不思議使いの悟に迫って来た。
    「そういえば、俺もこんな話を知ってるんですが……あれは……盆に悟と帰った時の事です」
     顔の下へと灯りを移動し、想希が雰囲気をバッチリ作ると、迫っていた敵の手がピタリと止まる。
    「夜中にふと気が付くと、背後に気配を感じて……でも、目を開けたら悟は目の前で寝てる。その内生暖かい風が耳元に……」
     注意をそらす為に怪談を話し始めた想希が、耳を触られる感触に少し驚く。
    「って悟、急に触らないでくださいよ。びっくりする……え? じゃあこの手は……ひゃっ」
     敵の手に撫でられ、腰砕けの状態になってしまう、想希。
    「ああ! 今想希に触ったやろ! あほー!」
     想希を急いで支えると、想希はなんとか、悟にくっつく。
     悟は一生懸命、しっしっと敵の手を払いのけていた。


    「あ、当たらない……」
     触れられた瞬間、反射的に殴ろうとした軽の攻撃は、いとも簡単にかわされてしまう。
    「怪談……霊や化け物の出てくる話ですよね。主の御遣わしになる、御使い」
     莉々は聖書の一部を言葉にするが、軽が指摘すると、首をかしげる。
    「え? これは怪談にならないのですか!? 霊が出てきます」
     霊、という言葉に反応したのか、敵の手が莉々に伸びてゆく。
     最初は莉々の頭に触れる、無数の手。
    「えへへ。都市伝説さんに撫でて貰っちゃった。あの、よければもっと……」
     触れ合いがあまり無かった過去を持つ寂しがり屋の莉々は、頭を撫でられていると思い込み、嬉しそうに、自ら敵の手に身をゆだねてしまう。
    「ふぇ、駄目です、ひぇ、くすぐっ……!」
     手が莉々の首を撫でると、くすぐったがりで敏感な莉々は、笑い泣きする。
    「だめ、ひぃあ、くす、ぐったい、です! やめて、やめて本当、辛い」
     わきや横腹などを触られ、体をジタバタ動かし、笑い転げた末に酸欠状態になる、莉々。
     美繰は怪談話をしては、あとで実体化出来ると気づき、何度も実体化した怪談に引っ掛かっていた。
     肌を触られても特に反応しない美繰だが、体の力が抜けたりといった、体の動きが制限されるほうに困っている。
    「怪談その二。関東地方のとある小さな漁港の町。そこに居るのは、三毛、トラ、黒、白、そしてスコティッシュフォールドの五匹の猫……」
    『我々は、肉球戦隊・猫レンジャーにゃん!』
     茉莉の語った怪談が実体化し、愛らしい猫たちが揃うが、やはり先ほどのひよこたちと同様、灼滅者たちを敵と認識している。
    「ところで悟、さっきの話の続きは……」
     悟に支えられながら、気になっていたのか、想希が続きを促す。
    「ああ……アレ俺の親父が俺の頭の毛ぇむしりにきとったんや」
    「あ……ああ……幽霊の正体見たり枯れ尾花、って奴ですかね……」
    「暑そうにしとるから、むしっといたでってしれっと言いよるんやで。酷いと思わんか?」
     唇をとがらせ、不満たっぷりな表情を見せる悟を見て、想希は思う。
    (「お義父さん許すまじ」)
     ……と。
    「俺のも、お義父さんですよ。いつの間にか忍び込まれてたみたいです」
     想希は苦笑しながら、自分のも怪談話では無いことを打ち明ける。
    「想希もか! ……まぁ親父やもんな」
     悟は、ぐったりと肩を落としながらも、納得している。
     すると、敵の動きが完全に止まった。
    『怪談話じゃ……なかった、の?』
     そう強く信じ込んでいた分、ダメージは大きかったのか、敵は怪談話を多く聞けたのも有り、灼滅者たちに伸ばしていたいくつもの手を引いてゆく。
     墓を壊さないようにと、悟は実体化しないような怪談話をしながらひらけた場所へ敵を誘い込む。
    「おぅもういーのか? んじゃ殺っか。感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
     物陰に身をひそめていた惡人が、飛び出し際にレイザースラストを放ち、敵を貫く。
    「狩ったり狩られたりしようか」
    「もう悟には触れさせません」
     カードの解除コードを清香が唱えると同時に、想希は眼鏡を外す。
     赤黒く染まった、ブラッディクルセイドソードから白光を放ち、敵に強烈な斬撃を浴びせる、清香。
    「俺に断りなく悟に触ったお代……払ってもらいますよ?」
     笑顔を浮かべながら、片腕を異形巨大化させる、想希。
    「まぁ……断って触っても許しませんけど」
     小声で呟き、想希は拳を凄まじい勢いで叩き込む。
    「七不思議言うても怖い奴ばっかりやない。生い立ちは怖いもんかもしれへんけど、取り込んだ後どないでもなるもんや。楽しいもんやで!」
     悟が連携し、七不思議の怪談を語って怪奇現象を起こし、敵にダメージを与える。
    「ケーキは猫魔法と肉球パンチを交互に使用して攻撃をお願いしますね」
    「皆で帰るんです。アルはジャマーで敵の足止めをして」
     茉莉と莉々がウイングキャットに指示し、茉莉は螺旋を描くようにして槍を突き出す。
     少ないダメージでも回復をしようと決めていた、メディックの莉々は灼滅者たちを見回し、ダメージを受けている者は居ないか確認後、攻撃に加わる。
     ケーキとアルビオンは指示通り、魔法を放ったり、肉球で敵をパンチした。
    「頑張るべな……」
     軽の攻撃に続き、怨恨系の怪談を語る、美繰。
     ダメージを受けた都市伝説は、消滅寸前だ。
    「ぺちぺち触る七不思議ゲットや」
     悟が素早く、都市伝説を吸収した。


    「んじゃ後は任せたぜ」
     片付けを丸投げして去る、惡人。
    「綺麗に後片付けをしてから帰りましょう」
     対照的に、しっかりと片づけを行なう、茉莉。
    「今年の夏は親父に勝つで!」
    「ええ二人で勝ちましょう」
     拳を合わせている、悟と想希。
    「終わったべな……良かった……」
     美繰は控えめに拍手をし、ぶじに終えられたことをしみじみと実感している。
    「宣言通り、城崎はしっかり助けたぞ」
    「ありがとうございます」
     軽に対し、礼を言う莉々。
    「……ラジオウェーブなんだから、ラジオで流せない過激な都市伝説は止めて欲しいが……聞いてはくれないだろうな」
     片づけを手伝いながら、清香は不満を口にするが、おそらく清香の言う通り、聞いてはくれないだろう。
     出来る範囲で片づけをしてから、灼滅者たちはその場をあとにした。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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