ロードローラーの選別殺人～救出と黙認

■リプレイ

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「やあロードローラー……いやウツロギ……ダークネスとしてずいぶんと楽しんでるようですね。この人は殺らせないですよ。まあこのままこの人の悪行をほっておきはしないですけど」
　近衛・一樹（紅血氷晶・d10268）が、ダークネスと対峙する。
　人気のない夜の街。ロードローラーと指名手配の一般人の間に、間一髪灼滅者達は割って入り。目前で轢き殺されるのを阻止していた。
「悪いけど、私刑を見逃すことは出来ないんでね」
　矢崎・愛梨（高校生人狼・d34160）の拳が、敵の車体にめりこむ。
　ぶっ飛ばされたロードローラーは、その猛烈な前進を止めて後退を余儀なくされる。それは救出対象との距離を生み出せたことと同義であった。
「なっ、お前ら……」
「悪人さん、大人しくしてください」
　船勝宮・亜綾（天然おとぼけミサイル娘・d19718）が王者の風で、取り乱す大島雄一を黙らせた。次には空飛ぶ箒を利用して、戦場を眺められる適当な場所まで運んで貼り付けておく。
「一応、遮音はしておきますね」
　四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）は周囲の状況を確認して、サウンドシャッターを使っておく。今回は相手があらかじめ何かしているのか、他の人間が関わってくることはなさそうだが……念のためだ。
「……」
　そんな光景の中。
　境・楔（中学生殺人鬼・d37477）は闇纏いを発動させて姿を隠し経緯を見届けていた。今回の救出対象である大島雄一に喋りかける気はなく、関わる気もなかったからだ。
「轢いちゃうよ、轢いちゃうよ、ジャマする奴は轢いちゃうよ」
　ロードローラーは標的を完全に変更したらしく。
　車輪を高速回転させて、灼滅者達へと向かってくる。そのスピードと圧力は相当なものだ。
「大方ミスター宍戸の指示でしょう。今のあなたがなにかを企むって柄じゃないでしょうし」
　一樹は敵の突進をひょいと避けると、すれ違いざまに螺穿槍を撃ち放つ。
　螺旋の如き捻りを加えた突きが、敵を穿ち。敵の車体に大きな穴を作り上げた。
「あの突進は当たったら、なかなか痛そうですね」
　大島への処置を終えた亜綾は、戦線へと合流し目をこらす。
　自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させることで、戦闘中の短期行動予測力を飛躍的に向上させているのだ。
「二撃目、いくよ」
　愛梨は抗雷撃を続けざまに放つ。
　闘気を雷に変換して拳に宿し、飛びあがりながらのアッパーカット。相手の身体が大きく揺れて、そのまま僅かに浮かび上がる。
（「よくもこんな犯罪者を探し出したものです。だからといってダークネスに殺させるわけにはいきません。だって、もし闇堕ちする資格を有していたら……。彼にはちゃんと法によって裁いてもらいます」）
　悠花は、まずシールドバッシュで攻撃した。
　今回助けることになる一般人は事情が事情であるだけに、更に他の勢力との均衡もかかわってくるとあって、灼滅者側としても様々な思いが交錯している。
　任務だから助ける者。
　信条として戦う者。
　スルーする者。
　納得しがたい者。
（「何故殺人犯を助けたいの？　僕には理解できないよ」）
　ＥＳＰを使って、少し離れた場所で様子を眺めていた楔。
　その心中は決して穏やかなものではない。
（「僕の家族を八つ裂きにした六六六人衆と、犠牲者を弔う事も出来ないようなミンチにしたこいつの何が違うの？　分からないよ！　遺族だって、こいつが死ぬ事を望んでるよ！　大切な家族を肉片と染みに変えたこいつを殺したいほど憎んでるよ！」）
　貼り付けられた大島に目を向け、渦巻く何かがせめぎ合う刹那。ロードローラーが、今度はこちらを獲物と定めたのか猛烈な勢いで迫る。
　仲間を糾弾するつもりは無い。
　学園に幻滅する気も無い。
「個人の事情で殺人犯を助けるのに心底納得がいかないだけだよ……でも六六六人衆の思い通りになるのも許せないよ!!」
　物見遊山できるのは、ここまでだった。
　好むと好まざると関わらず、目の前の脅威は迎撃しなくてはならない。楔はティアーズリッパーですぐさまに反応。高速の動きで敵の死角に回り込みながら、身を守る装甲ごと斬り裂いた。

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「あなたのその分裂能力。前から思ってたけど気に食わない……。分体を使い本体は安全なところに隠れてるっていうことが」
　一樹のフォースブレイクが唸る。
　勢いよく敵を殴りつけると同時に魔力を流し込み、先方を体内から爆破。ロードローラーは耳をつんざく爆音に包まれた。
「牽制します」
　亜綾はバスタービームでプレッシャーをかけた。
　バスターライフルから発射された魔法光線が、正確無比に的を射抜き。ダークネスに対して隙を作らんとした。
「ぶっ飛ばすよ」
　ロードローラーの動きをわずかに鈍る。味方が作ったタイミングを逃さず、愛梨は拳を振り切った。鍛えぬかれた超硬度の拳が、敵を守りごと撃ち抜く。鈍い音がして、大地そのものが揺れた。
「分体とはいえ、なかなか手ごわいですね」
　悠花はスターゲイザーで足止めをする。
　灼滅者達は間断なく攻撃を加え続けているものの。こちらが強い力で押そうとすれば、あちらも押し返してくる。主導権を用意には握らせてはもらえない。
（「悲しくて、辛くて、怒りが抑えきれなくて。僕にはもう何が正しいのか分からないよ！」）
　楔は考える。
　ダークネスの価値観で、人を殺すことは悪ではない。
　一般人にはダークネスに立ち向かうことは出来ない。
　だから灼滅者は人に出来ない事をする。人々を理不尽で一方的な死から守るために戦い続けた。
　何故なら、人を殺す事は悪だから。
　人の価値観で殺人犯を生かす道理なんて何処にも無い。
（「納得出来ないよ……」）
　迷いつつも、楔は妄葬鋏を振るう。
　いつもより身体が重い気がするのは、気のせいなのか否か。それでもサイキックは鋭さを失うことはない。
「轢いちゃうよ、轢いちゃうよ」
　ロードローラーの車輪が火花を散らす。
　目にも止まらぬスピードで、四方八方を疾駆して灼滅者達を切り刻んでくる。右横に居たと思えば、次の瞬間には左横に回られてといった具合であった。攻守ともに厄介な機動力だ。
「当たらないなら、当たるようにするまでです」
　一樹はレイザースラストで攻撃を繋いでいき。
　命中精度を上げていく。帯を射出し敵を貫き、攻撃する度にダイダロスベルトは学習をしていくのだ。
「少しでも有利な戦況に、ですぅ」
　亜綾はフリージングデスを唱える。
　指定した地点周辺に存在する敵全ての体温や熱量を、急激に奪う。見えない攻撃によって突如ロードローラーの周辺が凍り付く。
「回復と攻撃を同時にいきます」
　悠花は紅蓮斬を見舞う。
　鮮血の如き緋色のオーラを武器に宿し、敵を攻撃。ロードローラーの生命力や魔力を奪う。 こちら側の手傷も増えているので回復によるケアも肝要だった。
「ダメージやＢＳは小まめに消します」
　愛梨は小まめにシャウトを使って建て直す。
　自分達の態勢は整え、相手にはヒールの暇を与えない。それを続けていくことが勝利への近道であるはずだった。
「……本当、面倒な戦いだよ」
　楔はディーヴァズメロディを使う。
　伝説の歌姫を思わせる神秘的な歌声が、敵を催眠状態へと誘う。 ここまできては、一歩も退くわけにはいかない状況だ。
「轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く轢く」
　ロードローラーも決して無傷ではない。
　灼滅者達のつけた傷は次第に増え、ダメージは確実に蓄積されていっている。それでもダークネスは、スピードとパワーを緩めない。
「こちらも攻撃の手を休めることはしません」
　一樹は妖冷弾をこまめに使って、敵を凍結させていった。
　槍の妖気を冷気のつららに変換。撃ち出されたサイキックは、着弾すると氷の結晶となって傷を深く抉る。
「負けませんよぉ」
　スナイパーの亜綾は、攻撃を正確に標的へと命中させることに尽力した。
　そんな主人をディフェンダーのサーヴァントは忠実に守り、時には回復で支援する。戦いは激化の様相を辿ってきていた。
「ダークネスの好き勝手にはさせません」
　悠花はフォースブレイクで追撃する。
　味方の攻撃に遅れずに差し込み、技を振るい畳み掛ける。結果、大爆発が発生して敵を内部から蝕むことに成功した。
（「わたし達がやられたら、ここに救出に来た意味がないからね」）
　愛梨の渾身の光刃放出。
　鋭い光の刃を敵に向けて撃ち出す。実体を待たぬ輝く切っ先の火力は相当なものであり、容赦なく対象を斬り裂く。
「ハサミに食べられるんだね」
　手傷を受けた楔は、攻撃を蒐執鋏に切り替えた。
　敵の身体を断ち斬り、鋏がそれを喰らう。それによって、ロードローラーへのダメージがこちらの力になる。
「ひ、ひひひ轢く？　ひひ、ひひひ、ひひひひひ？」
「――ようやく、天秤が傾いてきたようですね」
　苛烈な攻防が進むにつれ、ロードローラーの身心に亀裂が走る。
　一樹が果敢に駆ける。両足に朱いオーラを纏い、両足で十字を切るようにギルティクロスを叩き込んだ。その威力は絶大で、ダークネスについていた車輪の一つが損傷して使い物にならなくなる。
「もう一息ですねぇ」
　敵の変化に、亜綾も一層気を引き締めて砲火を集中させる。
　尖烈のドグマスパイクが猛り。杭をドリルの如く高速回転させ、突き刺した敵の肉体をねじ切りにかかった。
「ここで――」
「一気にいくよ」
　悠花の足技と。
　愛梨の手技が、連続ヒットする。
　ロードローラーの両側面が深々と凹み、固いボディが大きくひしゃげた。
「……ふう」
　楔は息を整え、エンジェリックボイスで仲間達を後押しする。
　天使を思わせる天上の歌声が、戦場へ響き渡り。サポートを受けた灼滅者達の攻勢が、より際立つ。
「行きますよぉ、烈光さん」
　と、亜綾は呼び戻したサーヴァントを掴んで投球モーションに移行。
　相手にぶん投げ視界を塞ぎ、強引に隙を作る。
　その間に真上へ移動、上空から重力加速度を加えて突撃。バベルブレイカーを突き立てる。
「必殺ぅ、烈光さんミサイル、グラヴィティインパクトっ」
　一呼吸おいてトリガーを引く。
　押し切れる、と判断したら躊躇う必要はない。
「ハートブレイク、エンド、ですぅ」
　さしずめ、戦いによる斬撃こそ伝言代わりといわんばかりに。
　必殺の衝撃がぶつかり合う。その一撃に相手は耐える術を既に持たず。ロードローラーの身体を一気に貫通。宙へと放り出された、ダークネスの車体は光の泡となって完全に消滅した。

「罪は償ってもらうよ」
　ことが終わった後。
　愛梨は確保した大島を殴り倒した。これから警察に突き出すつもりだった。
「悪事を働いてたら、また来るかもですねぇ」
「ひっ」
　亜綾の言葉に、大きなコブを作った指名手配犯は顔を引き攣らせて何度も頷く。
　寧ろ、自主的に警察に赴く勢いで。大島雄一は自首することとなる。灼滅者にダークネス、それぞれの思惑が重なった夜はこうして更けていった。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月26日 難度：やや易 参加：5人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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