ロードローラーの選別殺人～キミたちが闇と闘う意味

■リプレイ

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　邸宅の門を潜り抜けた灼滅者の耳に届いたのは、中年男性の命乞いと、
　硬派気取ったセリフの後の、空気を揺るがす爆音。
　加持・陽司（炎と車輪と中三男子・d36254）が放った殺界は、近所の一般人を遠ざけていた。
　これで一般人を気にすることもない。灼滅者たちはお互い顔を見合わせることもなく現場に急行することを最優先に走り続け、空ぶかしして夜空に爆音を轟かせる世紀末覇車の前に滑り込んだ。
「またアンタか……そのツラと図体も、いい加減見飽きてきたんだけど？」
　鹿島・狭霧（漆黒の鋭刃・d01181）が苛々とため息をついた。
　皆各々、得物を手に世紀末覇車を見据えると世紀末覇車は、やっぱり来たかと言わんばかりにニィっと笑んだ。
　が、珍しいものを見つけてエンジンの空ぶかしをやめた。
　彼の興味を引いたのは、自分に背を向けているひとりの灼滅者。
　――神乃夜・柚羽（睡氷煉・d13017）。
「……っ、ヒィィ……」
　聞こえてきたのは、大物政治家の声。恐怖のあまり言葉を発することもできない。
　無理もない。自分の子どもより年齢が下であろう少女が、まるで親の敵とばかりに自分を鋭い目で見据え、刃の切っ先を自分に向けているのだから。
　中年男のヒューヒューと鳴る荒い息が庭園跡に響き渡る。
「……早まるな、神乃夜」
　ニコ・ベルクシュタイン（花冠の幻・d03078）が咄嗟に柚羽の手首を強くつかんだ。だけど大物政治家へと向かう彼女の力は想像以上で、ニコは持っていかれないように体中に力を入れる。
「命を粗末にするものではないわ。粗末に扱うものでもないけれど」
　桜之・京（花雅・d02355）は柚羽の身体を抱きとめる様に腕で抑える。その反対側には狭霧が同じように彼女を抱えるが、柚羽の足は砂地に深く筋を描いてゆく。
「……どうしてですか。灼滅者が六六六人衆に『殺していい』とサンプルに出した人間を、灼滅者が殺せないのは、おかしいでしょう？」
　私どもがサンプルに差し出しましたこいつらは、人間が作った法でも裁けない悪い人間でございます。六六六人衆さんどうぞお好きに殺していいですよ。え、自分達灼滅者ですか？　そんなそんな、手を汚しませんよ。だって皆様が悪い奴らを抹殺して、世の中を綺麗にしてくださいます。私たちは正義の旗の元、それを見ているだけです。
　と、灼滅者サイドは高みの見物で、その業も責も背負おうとしない。
　そんな傲慢さ無責任さを、柚羽はどうしても許せなかった。
「そんなの、自分可愛さの保身じゃないですか。灼滅者が人間を殺さないという定義があるのなら、ここで、ぶち壊しますよ、私は」
　彼女の声が夜空に虚しく響く。
　あの神のいない神社で、自分たちが護ったものは何だったのか――。遣る瀬無さが荒れる波のように、柚羽を責め立てていた。
　誰もが柚羽を止めたい。だけど、政治家の安全を確保できるまで世紀末覇者から目を離すこともできない。
　久成・杏子（いっぱいがんばるっ・d17363）と陽司は仲間たちを信じてじっと世紀末車を見据え続ける。
　この膠着を崩したのは、オリヴィア・ローゼンタール（蹴撃のクルースニク・d37448）。
「あの冬の教会で、予行演習として言祝いだ者として、あなたの手を人の血で穢すのを見過ごすわけにはいきません！！」
　彼女の言葉に柚羽は小さく体を強張らせ。
　ため息を吐くと力なく首を垂れた。
　その隙にと、月影・木乃葉（深窓の令嬢・d34599）は得物を握る柚羽の手をそっと降ろさせ、
「神乃夜先輩が手を汚す必要はありません。少なくとも、こんな人間に……」
　と無様に震えあがる中年男を一瞥し、世紀末覇者に向き直る。
「人の悪行は人によって裁かれるべきで、ダークネスに裁いてもらう必要はない」
　いつもは柔和な表情の木乃葉。だが、六六六人衆には嫌悪の表情を見せる。
　項垂れていた柚羽は、少しだけ頭を上げる。
「……私は人間でもないしダークネスでもない。だからどちらかの為、なんてやめました。理由をつけて分けてるのは人間だけですから、どうぞご勝手に定義づけください」
　と呟いてゆっくりと世紀末覇者に向き直ると、政治家に向けていた鋭い視線を目の前の族車に向けた。
　京は柚羽のわき腹から手を離すと、政治家を横目でとらえ。
「あなたのことは助けたいわけでも、殺したいわけでもないの。灼滅者としてダークネスを仕留める。ただそれだけよ」
　その言葉にただ震えるだけの政治家。どうやら灼滅者達の存在を知らない部類の政治家のようだ。
「悪いけど、すっこんでて貰える？　邪魔だから」
　感情も何もない狭霧の言葉に政治家は恐れをなして立ち上がろうとするが、腰に力が入らないようでバタバタとするばかり。
　そんな彼を竦ませたのは、凄みを利かせたニコの声。
「ならば其処で見ていろ」
　悪事の限りを尽くしてダークネスに狙われることとなったお前を護る、俺たちの背を――。
　対する世紀末覇車は、ニィっと不敵な笑みを見せる。
　まるで、面白いものを見せて貰ったと言わんばかりに――。

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　再び唸りを上げ始めた世紀末覇車のヘッドライトが眩く光った。
「っ……！」
　狙われているのは自分だと、とっさに防御態勢をとった杏子の目の前に躍り出たのはニコ。光線に打たれ小さく唸り、後ろに倒れそうなニコを杏子は受け止める。
「ニコ先輩っ」
「大丈夫だ久成、心配ない」
　心配顔の後輩に、凛々しい横顔を見せるニコ。見据える先は『族車』。
　ニコは駆け出すと、破邪の白光を宿した剣で世紀末覇車を斬り付けた。
　すると世紀末覇車の派手なオレンジボディに大きな掻き傷が。
「やはりか。俺が以前戦った族車より、脆弱な分体だ」
　ハンドレットナンバー候補の灼滅者を襲うこの族車と、ニコはタイマンでやりあったことがある。援軍である仲間が来るまでの間、箒に跨り逃げるという作戦を取った上でだが。だがその時よりも族車の能力は、攻撃の精度から身の硬さまで、全てにおいて劣っていると感じたのだ。
「なら、油断さえしなければ、こちらのやりたい放題ってわけね」
　タンッと整地された砂地を蹴った狭霧は世紀末覇車の脇に飛び。
「そういえば、今度は爵位級と同盟組むって？　あんな連中に使い潰される道を選ぶワケね。ご愁傷様」
　鼻で笑いながら握る得物に力を込めて。その巨体を一気に斬り刻んでゆくと、続いたのは木乃葉。
「爵位級ヴァンパイア……朱雀門の件はご存知ですかね？」
　己の腕を半獣化させて銀の爪で引っ掻けば、左側のヘッドライトが脱落する。
「所詮使われて捨てられるだけな気がしますが……六六六人衆はいつから『殺人鬼』から『犬』に成り下がったんですかね？」
　挑発的に告げてやるのは、分体が見聞きしたものすべてが本体を経由し、ミスター宍戸の元へ伝わるから。
「ねこさん、お願いね」
　ウイングキャットのねこさんを送り出して、杏子は光の輪でニコを癒しながら。
「勝手に一部の条件だけで選んで、あたし達が受入れるか試して、受入れなかったら別のところと同盟組む？　それって脅迫だよね？」
　ねこさんの肉球パンチが世紀末覇車の額にヒットする。
「そんな、あなた達のあたし達への『交渉の手段』が間違ってるの。だから、あたし達はこの交渉を、あなたの殺人を拒否するよ」
　ねこさんが帰ってきて、代わりに飛び出したのは柚羽。
「あいつも嫌いだけど、ミスターも貴方も嫌い。大嫌い。灼滅されてください」
　ロッドを思いっきり振りかぶってその側面を殴りつければ、世紀末覇者の左側面は大きく凹む。
「腰を据えてお話をする機会があればいいのに。興味くらいは、あるのよ。やがて敵対しなければならないのだとしても」
　たおやかに笑み駆け出した京。赤く灯らせた交通標識を振りかぶり。
「ねぇ、宍戸さん。そちらは、楽しいのかしら。私は灼滅者だから、貴方と同じ目線にはなれないわ」
　京の思う『楽しい』とミスター宍戸の思う『楽しい』は、きっと、違うのだろう。
「だから、聞いてみたい。それは素直な感情でしょう？」
　右側面に回り込み、思い切り叩きつける。
「それにしても、不思議なやり方をするのね。試されているみたい」
　先の同盟提案により、武蔵坂には多種多様な意見を持つ者がいることが表に出た。そしてこの一件でも一般人を殺すか生かすかの難しい選択を迫られ――。
「意見の相違で仲間割れ、が目的？　それとも灼滅者が貫く正義に興味でもお有り？」
　凹んだボディから怪しい機械音が鳴り始める。内部構造の軋みだろう。
　オリヴィアは未だガタガタと震える政治家を自分の背に隠し。
「前回の件で決裂したはずなのに食い下がり、その条件がこれとは……」
　世紀末覇車の顎の下まで駆けてゆくと、赤い雷を纏った跳び膝蹴りが奴の顔を天に向けた。
「あまつさえ吸血鬼と天秤にかける？　ただでさえ怒りを買っているというのに、最低の悪手ですね。穴熊決め込んでいる吸血鬼が出てくるというのなら是非もなし、片っ端から灼滅してくれる！」
　陽司は帯でライドキャリバーのキツネユリに鎧の加護を与えると、
「そもそも人殺しなんて行為自体が気に入らねぇ！　だから、人殺しを条件にした同盟なんざ願い下げだバーカ！」
　砂を巻き上げて突撃してゆくキツネユリ。
　標的になった政治家は悪いことしたが、それはそれであって。
「標的が罪を犯した奴だからって、目の前の殺人を見逃すつもりは無いんだよ！　俺がそうしたいからそうするんだ！」
　世紀末覇車は灼滅者の言い分を黙って聞いていた。時折、口を尖らせモヒカンを揺らしながらふんふんと頷いて見せるあたり、灼滅者を小馬鹿にしているのか。
　が、突然口角を全開に上げるとアクセルも全開でエンジンを吠えさせると、車体から飛んでくるのは突起物。長いものから粒状のものまで多数の突起は、鉄の雨のように降り注ぐ。
　だけど、世紀末覇車のそれも、悪あがきにすぎなかった。
　防御体制から態勢を立て直す灼滅者。傷は浅い。
　威嚇するような空ぶかしを掻き消す様に、天上の歌姫の歌声が響き渡る。
　京の歌だ。
　自分の言葉が伝言ととらえられなくても構わない。こういう考えを持ち興味を持っている灼滅者もいると主張したいだけだ。
「皆の邪魔になるのは憚られるから、黙るべきと思えば口を噤みましょう」
　どうせやることは変わらないのだから。
　木乃葉の足元がとぷんと波打つ。影の波はいつしか三角形の鰭を砂地に出して世紀末覇車の周りをぐるぐると回遊した後、その巨体を縛る檻となる。
　続いたのは得物に己の炎を宿し駆け出した陽司。その後ろにはキツネユリが続き。
「宍戸に伝えろよ！　俺はダークネスや同盟がどうとかじゃなくって、純粋にお前らのやり方が気に食わないんだってな！　どうしてもってんなら自分が出て来やがれ！」
　モヒカン頭に炎を叩きつければ、車体まで一気に炎に包まれる。
「それに、人間社会で生きてく俺たちが、勝手に人殺しだの何だのしたら、それこそ俺たち灼滅者はダークネスと同じだっつの！」
　だから自分たちはここに駆けつけた。悪行の限りを尽くし、自分の手を汚していなくても何人も殺している極悪人を、殺戮から救う。
「悪いことした人間は、人間社会の中で裁く！　テメェら六六六人衆の出る幕なんか……どこにも無ェ！」
　陽司の叫びに呼応するかのようにキツネユリが世紀末覇車に突撃し、脆くなった車体から部品を次々に剥いでゆく。
　未だふざけた表情を見せる世紀末覇車。その顔面に繰り出されるのは、銀の髪を揺らしたオリヴィアの裏拳。
　派手な音とともに顔が変な方を向いた。
　全員が伝言を伝え終わるまで、誰一人として倒れさせないため、ギターを構えたのは杏子。
「『法で裁けない犯罪者』って、『弾みで人を死なせてしまった、殺意の無い未成年者』も、含まれちゃう。そんな穴のある条件は間違ってる」
　猫魔法を繰り出したねこさん。その攻撃は前輪を凹ませた。
「命を奪う為には、もっと色んな視点から見て、総合的に判断しなきゃダメ。それを、あたし達がダークネスに対してしてこなかった、出来なかった、それは正論かもしれない」
　力の湧き上がる音色をかき鳴らす。
「でも、だからこの交渉を受入れるべき？　違うでしょ？　穴のある交渉は受入れちゃダメなの。当たり前の事でしょ。宍戸さんは人間のくせに、何でそんな事がわからないの？
　あたし達の事馬鹿にしないで、ちゃんと交渉の場に出て来なさい！」
　激しく鳴らすギターの音は、傷ついた守り手を癒す。
　力を与えられながら、ポニーテールを揺らして狭霧が走る。
「この間の朱雀門の一件、知ってるでしょ？自分達の身内ですらあの惨状だってのに、アンタらに連中が遠慮する理由なんて微塵もないんじゃない？」
　得物のナイフに力を込めて族車の死角に回り込めば、縦横無尽に斬り刻む。
「アンタのカラフルな分身も、全員デモノイド化して真っ青になるのを楽しみにしてるわ」
　狭霧が嗤えば世紀末覇者の後輪が脱輪し、どすんと激しい音が響く。
「私、ミスターが嫌いなんです」
　たん。と柚羽が車体の上部に降り立つと、振りかざすのは黒い剣。
「愉悦を求めて何もかもを翻弄する。貴方が生きている限り翻弄され続ける。追いかけているのに届かなくて本当にイラつく」
　一撃、一撃、と喰らわせれば、ふざけたシートが粉々になって崩れ去る。
「焦がれる程に殺したいんですよ。だから必ず殺しに行きます」
　一般人を殺してもいい。そう灼滅者が定義づけたなら、一番殺したい一般人はダークネス側について暗躍を続けるミスター宍戸だ。
　続いたのは、ニコ。
「宍戸は同盟同盟とどうしたね、既に相手が有りながら節操の無い事で。俺達と天秤に掛けているお相手が居るそうだが、奴隷にでも成り下がる気か？」
　世紀末覇車の死角へと回り込んで得物を振りかぶれば、見抜いた弱点を徹底的に斬り刻む。それは、エンジン部分。
「一部の灼滅者がサンプルを提示したからといって調子に乗られては困る。『殺しても良い人間を選別する』事自体を絶対に認めない者も居ると知れ」
　腸の煮えくり返るのをぐっと抑え、静かに告げ。
　少なくともここに集まった八人は、そんなことには否なのだ。
　止めを撃たれた世紀末覇車は、濛々と煙を上げてがくりと首を垂れたその刹那。
　激しい音を立てて爆破し、跡形もなく消え去った。

●
「このままでいれば、また同じ目に遭うでしょう……」
「今後の身の振り方を考えた方がいいですよ」
　柚羽によって腕を外された政治家に、木乃葉とオリヴィアがは警告し。
　狭霧は邸宅ないから書類を探し出した。
「今までのツケはしっかり払わないとね」
　そう言って踵を返す。
　残ったのは京の淑やかな笑み。
「見守っていてあげる。貴方がまっとうな道に戻るよう、ずぅっと」

　その後、この政治家が罪を償ったかは、また別の話――。

作者：朝比奈万理	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月26日 難度：やや易 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 1
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