人刈り鎌のジブン探し~饗宴編

    作者:空白革命

     ブロック塀に挟まれた十字路。
     明滅する街灯。
     マンホールにかかる影。
    「かえして……ちょうだい……かえして……」
     殺意と闇で身体を包んだような奇妙な存在が、街灯の下に立っていた。
     いつからだろう。
     いつの間にか現われ。
     いつのまにか見た者の心臓を抜き取っていた。
    「これじゃない……かえして……これじゃない……」
     ソレはまだあたたかい心臓から興味を失ったように捨て、死体を無視して歩いて行く。
     持っていた大きな鎌がアスファルト道路をこすり、がりがりと耳障りな音をたてた。
     人の世から外れた闇なる殺人者。
     六六六人衆。
     人呼んで――『人刈り鎌』。

    ●人狩り鎌
    「サイキックリベレイター照射の影響で六六六人衆の起こす殺人事件を予知できた。が、その一方で照射された六六六人衆たちが更に強化されちまってる。通常の方法で倒すのは難しいだろう。
     というわけで、六六六人衆が殺人を行なうために現われる場所と、戦闘をして撤退した場合逃げ込むであろう場所をそれぞれ予知して二段構えの襲撃作戦を立てることにした」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)はたん、と机を叩いて見せた。
    「そしてこっちのチームは、殺人を回避するために待ち伏せするチームってわけだ!」

     『人狩り鎌』。
     人体の各部位を闇のようなもので包んだ女性の六六六人衆である。
     自分は肉体の殆どを喪ったと思い込んでおり、欠損部位をどこかの他人が持ち去っているという妄想にとらわれている。
     そのため他人を見ると衝動的に部位をもぎ取り、しかし自分のものではないためすぐに捨ててしまうという性質をもっている。
    「まあそんなわけだから話にならないくらいに凶暴だ。殺人に対する意識はこれっぽっちもないが、反復によって洗練されすぎた殺人技術は一般人を気づかないうちに殺してしまえるほどだ。
     戦闘の際にはこちらの損傷も避けられないとは思うから、回復の手は緩めずにいってくれ」

     戦闘を行なうのは住宅街の一角。
     ブロック塀ではさまれた十字路である。
     周囲は人知れぬ殺人が続いた結果廃墟だらけになっており人はほとんど寄りつかない。通勤中のサラリーマンなどが通ることがあるので、気になる場合は殺界形成などのESPを使っておけばいいだろう。
    「高序列の六六六人衆を倒すということはそれだけで高い価値のあることだ。今の俺たちにはそれができる。皆、頼んだぜ!」


    参加者
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    冬城・雪歩(大学生ストリートファイター・d27623)
    カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)
    茨木・一正(狭間の鬼面・d33875)
    七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)
    ニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)
    神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)

    ■リプレイ

    ●終わりへの宴
    「……本当に、六六六人衆は、困った、人が、多い、です、ね」
     明滅する街灯の下。神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)は呟いた。
     今回の灼滅目標『人刈り鎌』は通り魔的に人体部位を奪っては捨てていく凶悪な殺人者であるという。その理由が、自らの欠損部位を他人が持っているからだという妄想だというのだから、手のつけようが無い。
    「めっちゃ厄介で凶悪な性質やな。けんども、退くつもりはこれっぽっちもあらへん」
     カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)がブロック塀に寄りかかるようにして腕組みをした。
     ゆらりとしながら呟くニアラ・ラヴクラフト(宇宙的恐怖・d35780)。
    「他者の部位に執着した物体。構築。再生。復活の為に。幽鬼の如く殺戮する物体か。我が存在に似た理だと思考可能だ。我も常に餓えた灼滅者故。此度の戯れは一幕二幕。否。開幕終幕。緞帳を奴の身体で成すべき」
    「えっ」
     ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)がカルムを二度見した。
     急に難しい言い回しを聞いたのでうまく認識できなかったのだろうか。
     ただ大筋は理解したようで。
    「とりあえず誰か、人の物を取ったらダメだって教えてやりなよ。やる前に諦めちゃダメよ。私は無理だけど」
     両手を頭の後ろで組んで軽口をのせるにとどめた。

     スレイヤーカードを手に、茨木・一正(狭間の鬼面・d33875)は思案にふけっていた。
    「人刈り鎌、か……前にこんなやつ、見たことがあったような……」
     彼の呟きに七夕・紅音(狐華を抱く心壊と追憶の少女・d34540)が僅か以上に反応した。
    「それは、前に戦ったことがあるっていうことかしら」
    「ん? いや、初めてですけど……みんなそうなんじゃないですか?」
    「そう……」
     人刈り鎌。多くの者にとって聞き覚えの無い名前である。
     しかし紅音には、少なからず覚えがあった。
    「どうかした?」
     神無月・優(唯一願の虹薔薇ラファエル・d36383)が横から問いかけてくる。らしくない振る舞いでもしていただろうか。
     紅音は首を横に振った。
    「大丈夫よ。……別物よね、あれは灼滅したはずだもの」
    「そろそろ時間だよ」
     腕時計を見ているわけでもないのに、冬城・雪歩(大学生ストリートファイター・d27623)がぽつりと言った。
    「それにしても、狂ってるなあ人刈り鎌。正直、こういうのがいる時点で同盟とか無理なんじゃないかなあ。ほら、見てよ」
     袖から僅かに出た指で、路地のさきをさす。
     鎌を引きずって歩く、殺意にまみれた物体があった。
     まるで繭にくるまったかのように、ハエの群れにたかられたかのように、全身が殺意や闇で覆われた、人とも思えない何かだった。
    「かえして……ちょうだい……かえして……」
     会話の余地などまるでなく、人刈り鎌は襲い来る。

    ●響け命の果てるまで
     人刈り鎌の闇が深まったその瞬間、紅音は飛び出していた。
     大狼注意と書き込まれた交通標識をどこからともなく引っ張り出し、強引に叩き付ける。
     対抗するように鎌が振り込まれたが、そばについていた霊犬蒼生のフォローを受けて素早く後退。
     すぐさま交通標識を手放すと、足下に出現させた靴でもって強引に蹴りつけ、反動で飛び退いたのだ。
     先刻まで紅音がいた場所を鎌が高速で空振りしていく。
    「さ、はじめよか」
     そんな状況にありながらもマイペースなまま、カルムはバベルブレイカーを装備。相手が振り切った瞬間を狙って強引にドクマスパイクを叩き込んだ。
     全身を覆っている闇を貫き、肉を穿つような手応え。
     足に炎を纏わせると、至近距離から膝蹴りを追加する。
     闇をすりぬけ、内側にある何者かの腹へと直撃した。
     うめき声と共に、再びの鎌が振り込まれる。しかし……。
    「ほらよ!」
     カルムの服を引っ張って、ハノンが入れ替わりに前へ出た。
     フェニックスドライブによって生まれた炎の翼がカルムたちを守り、ついでにグローブから発生したシールドが鎌をはじき返していた。
     かに見えたが、鎌の鋭さはハノンのシールドを切り裂いて彼女の手首をも切り裂いた。
    「やんちゃさんは殴って黙らせる。腕でも脚でも内臓でも何でも持っていけ。持ってかれた分だけ殴り返すまで︕」
     もう一方の腕で殴りつけるハノン。
     そんな彼女を守るようにラビリンスアーマーが展開した。
     優が後ろから放ったものだ。
     『どうせ生える』と書かれた冗談みたいな交通標識を杖のように突き立て、黙ってハノンたちの様子を見ている。シールドとして放った黒鎖を引っ張り戻すと、ため息をつくようにして一正のほうへとシールドを展開しはじめる。
     彼の突撃を察したからである。
    「……!」
     口をぎゅっと引き結び、一正はご当地ビームを放ちながら突撃。展開した闇がビームとぶつかり相殺する中で、強引に突っ込んだシールドを拳に展開して強引に殴りつける。
     人刈り鎌はパンチの直撃をうけて吹き飛び、近くの標識に激突。ポールをひしゃげさせた。
     闇が黒い波動となって押し寄せる。
     一正は優のシールドと併せて防御――するが、あまりの衝撃に一正もまた吹き飛ばされた。ブロック塀が破壊され、人の庭を転がる。
     そこへ虹色に輝くダイダロスベルトが伸び、人刈り鎌を闇ごと貫いていく。
     ニアラによるものだ。
     彼は緑色と赤色に塗れた槍を手に取ると、人刈り鎌へと襲いかかる。
     更には女子高生風のビハインドがどこからともなく現われ、人刈り鎌へと襲いかかった。
     人刈り鎌とニアラによる攻防が始まった。
     鎌と槍が幾度となくぶつかり合い、影と影が互いを引きちぎらんと暴れている。
    「……ん……」
     その攻防が途切れた瞬間がチャンスだ。蒼はブロック塀によじ登って高所をとると、助走をつけて人刈り鎌へと飛びかかった。
     いや、正確には蹴りかかった。
     エアシューズのエネルギーを利用して流星の如く蹴り込み、人刈り鎌を蹴り飛ばしたのだ。
     ブロック塀にぶつかり反射するように転がっていく人刈り鎌。
     全身を覆っている闇が乱れ、這いつくばるような姿勢に見える。
     まるで地面を高速で滑るかのような動きで急接近する雪歩。
     余った袖をだらんと垂らすと、銃弾のごとき蹴りや突きを連続で繰り出していく。
     咄嗟に起き上がって防御する人刈り鎌だが、雪歩の熟達した技の前には無力に等しかった。
     大ぶりな蹴りによって飛ばされ、地面をごろごろと転がる人刈り鎌。
     全身を覆っていた闇ははがれ、残されたのは中年男性である。
     まるで女性になりきろうとしているのか、サイズのあわない女物の服を強引に着込み、伸ばし放題にした髪を垂らしている。それゆえ見た目の年齢は分かりづらいが、察するに雪歩の父親くらいの歳だろう。
    「……想像以上に狂ってるなあ」
    「かえして……『わたし』を……かえして……!」
     再び闇を纏い、人刈り鎌は暴れ出した。
     なくしたものを取り返すがごとく。

    ●喪失者の末路
    「と……あっぶないなあ」
     カルムは平気そうに、そしていつも通りに言った。うっすらと笑ってさえいる。
     しかし彼の肉体はあちこち激しく損傷し、どこから出血しているのか分からないほどに血まみれだった。
     彼を浄霊眼で回復する霊犬蒼⽣。
    「この痛みと同じ分、お前に返してやるよ」
     カルムは再びバベルブレイカーを装備すると、今度はもう一方の腕に闇を纏い始めた。
    「そぉれ!」
     飛び込みからのドグマスパイク。と同時に腕をもっていかれたが、構わずトラウナックルを叩き込む。
     おびえるように後じさりした人刈り鎌。そこへ紅音が素早く割り込んだ。
     チェーンソーを唸らせて相手の身体を切りつける。同時にこちらも切りつけられたが、構わず腕に畏れを纏わせ、相手の肉体をえぐり取っていく。
     物理法則をたびたび超越するサイキックバトルだが、肉体をえぐられて満足な体術が扱えるものはそうそういない。雪歩はここぞとばかりに相手の背後に回り込むと、蹴りと拳の連打を叩き込んだ。
     最後に掌底を押し当て、霊力網を放射。
     ひっかけられた霊力網を振り払おうと暴れる人刈り鎌。
     ようやく網を引きちぎった所でニアラが強襲をしかけた。
     貝殻じみた影業を沸かせ、虹色に流動する拳を叩き込む。追撃するようにビハインドが霊撃を叩き込む。
     人刈り鎌はそれを影業で阻もうとするが、二人の波状攻撃にまるで追いついていない様子だった。
     途端、辺りを蒼の緋牡丹灯籠が覆う。燃え上がる炎の中、縛霊手を装着した蒼が突っ込み、殴りつける。
     幾重にも連なって放たれる霊力網。
     網にとらわれ、今度こそ動きを阻害された人刈り鎌。
    「そろそろか……」
     優はビハインドに命令を出すと、全力攻撃にシフトした。
     味方の防御に使っていたダイダロスベルトを攻撃にシフト。
     ビハインドの霊障波と周囲に発生させた魔矢に併せて大量に打ち込んでいく。
     少しでもこちらの戦力、もしくは肉体をそごうと考えているのか、闇を纏ったまま手を伸ばしてくる。
     ハノンが接近し、拳を振り上げた。
    「ほら、どこが欲しいか⾔ってみなよ。⾔った数だけぶん殴る」
     答えを待たずして殴りつけ、さらには蹴りつける。
     鎌が走り、ハノンの腕を切りつけてくる。
     それでも構うこと無く相手を掴み、膝蹴りを幾度となく叩き込んでやった。
     人刈り鎌がこの場から逃れたがっているのが分かる。
     一正はチャンスを悟り、仲間たちに合図を出した。
     いかにも三方向から囲んでいるかのように見せつつ、ぱっと見一箇所だけ包囲の穴があるかのように見せかける陣形である。戦闘開始からここまでお互いに激しく動き回っていたのでこの陣形は維持できなかったが、瞬間的に作ることなら充分できる。そして、一瞬できればそれでいい。
    「……」
     人刈り鎌に何か感じたような気がしたが、気のせいだろうか。一正は考えを振り払い、相手を流星の如く蹴りつける。
     反動で一度飛び退くと、クロスグレイブを呼び出した。
     重々しい十字架を担ぎ、ハンマースイングで殴りつける。
     一度は防御した人刈り鎌だが、あまりの強引さに撥ね飛ばされた。
     地面を数度バウンドし、闇が再び乱れていく。
    「とれない……だめ……にげなきゃ……だめ……」
     おびえるように首を振って、人刈り鎌は後じさりした。
     追い詰めるかのように踏み込む一正。
     人刈り鎌はついに、戦場を放棄して逃げ出した。

    ●終焉にむけて
     できることは充分にやった。
     作戦通りに人刈り鎌を追い詰め、逃げるように差し向けたのだ。
     あとはアジトで待ち伏せしているメンバーがカタをつけてくれるだろう。
     八人はそれぞれの思いを抱え、しかし何も口にすること無く、その場を後にした。

     ――終焉編につづく。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月21日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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