人刈り鎌のジブン探し～終焉編

■リプレイ

●狂気の終焉
　別働隊から連絡を受け、八人の灼滅者たちはある廃墟へと忍び込んでいた。
　傷ついたダークネスがここへと逃げ帰り、二階の寝室で傷を癒やすとされているからだ。
　立花・誘（神薙の魔女・d37519）は一階の部屋に隠れ、仲間たちに合図を送った。
「他者の身体部位を切り取るなんて、猟奇的なダークネスですね。灼滅者って、そんな風にされても平気なんでしょうか」
「さあ……なんにせよ、嫌な妄想にとりつかれたダークネスみたいやね」
　小野屋・小町（二面性の死神モドキ・d15372）もまた同じように隠れつつ、ダークネスの到来を待っていた。
　六六六人衆、人刈り鎌。
　自分の欠損部位を他人が持っていると思い込み、他者の身体部位を奪って回る殺人者。
　怨恨による殺人者ともシリアルキラーとも違う、明らかなほどの狂人だった。
　たとえダークネスでなかったとしても、危険きわまりない人物である。
「これは、ダークネスとしても人としてもダメね。壊れすぎてる」
　アリス・バークリー（ホワイトウィッシュ・d00814）もまた、ため息をつくように言った。
「どんな経緯で闇堕ちしたのか興味はあるけど、文字通りの闇を覗きたくはないわね」
　闇を覗けば自らもまた闇に染まるという。アリスは首を振って今度こそため息をついた。
　そんなダークネスが相手だからだろうか。氷川・紗子（大学生神薙使い・d31152）は不安げな表情だった。
「住宅街の一角で人刈り鎌と戦闘しているみなさんが無事でいるといいのですけど……」
　彼女の不安を察してか、小町が全員無事の旨が書かれたメールを見せてくれた。
　しかし不安はそれだけで収まらないようで、緒垣・翠（空の青夕日の赤・d15649）は不安と恐怖を露わにしていた。
「そっその、あの、こっ怖いけれど、がっがんばります……」
「……」
　翠の言葉を受けてなお、三和・透歌（自己世界・d30585）は沈黙を続けている。それが翠の不安を煽ったが、透歌は気にせず、ただ戦いの時を待っていた。
「大丈夫だ！」
　秦・明彦（白き雷・d33618）がぐっと拳を握ってみせる。
「人刈り鎌という生ける狂刃を叩き折る！　必ずだ！」
　な、と同意を求めた相手は篠崎・悠斗（黒白のマジシャン・d37418）だった。悠斗は整った笑顔を浮かべて頷いてみせる。
「前の人達が頑張ってくれたんだ。だからこそ俺たちも、人刈り鎌を灼滅するために頑張ろう」
　うまく一つにまとまったところで、誰かが『そろそろ時間だ』と言った。
　決着の時が、迫りつつある。

●殺戮の終焉
　人刈り鎌は血の跡を作りながら廃屋へとやってきた。
　ゆっくりと階段を上り、寝室へと入り、そして汚らしいベッドへと倒れ込む。
　その瞬間を、小町は的確に狙い撃った。
「さあ、始めようかい！」
　窓を突き破って飛び込んだ小町は即座に封縛糸を展開。
　ベッドごと縛り付けた人刈り鎌に飛び乗ると、先に展開していたヴァンパイアミストで部屋を満たしていく。
　奇襲をかけたのは悠斗も同じだ。クローゼットから飛び出すと、カードから取り出したガンナイフでもって勢いよく切りつける。
　ティアーズリッパーからの黒死斬。具体的には相手の足を狙った素早い切りつけである。
　対する人刈り鎌とて無力な一般人ではない。すぐさま自らを縛った糸を引きちぎり、周囲をベッドごと切り裂いた。
　そこへ飛び込む透歌。
　カードを翳してライドキャリバー・ウェッジを呼び出し、突撃をかけさせる。
　人刈り鎌はそれをいとも簡単にはねのけ、一階から上がってきた透歌たちめがけて飛び込んできた。
　強引な縛霊撃で迎撃。
　相手が網に絡んだところで鋭い蹴りの追撃を浴びせる。
　しぶとく起き上がったウェッジが横から突撃をかけ、人刈り鎌を壁に叩き付けた。
　傷ついたウェッジや小町たちへ清めの風を送る誘。
「心臓を抜き取るような相手です。手足を切り取るくらい朝飯前でしょう。皆さん、気をつけて」
「最後まで私がみなさんを守ります」
　そんな宣言と共に紗子が部屋に飛び込み、イエローサインを展開。続けて天魔光臨陣も展開し始める。
　誘や紗子が位置的に邪魔になったのか、それとも強敵と察したのか、人刈り鎌は鎌を振り回しながら再度突撃をかけてくる。
　鎌の攻撃をくらい、もつれるように階段を転げ落ちていく。
　が、追撃によって腕を切り取られる前に、アリスのマジックミサイルが人刈り鎌の腕に命中。
　煽られるように傾く人刈り鎌に、オーラキャノンを連射していく。
「隠れん坊はお仕舞い。今度は私達と遊んでちょうだい、人刈り鎌！」
　オーラの射撃を繰り返しながらあえて距離を詰めるアリス。
「ひっ！？　こっ恐い……」
　翠もおびえながらも螺穿槍を繰り出し、続けざまにレイザースラストを叩き込んでいく。
　二人の攻撃をまともにくらった人刈り鎌は転がるようにキッチンへ。
　しかしキッチン側から飛び出してきた明彦によってそれは阻まれた。
「その狂った妄想をここで滅する」
　明彦は強く宣言すると、幻狼銀爪撃を放った。
　床をぶち抜くほどの衝撃が走り、人刈り鎌もまた吹き飛んでいく。
　逃すまいと明彦の放った影縛りが、人刈り鎌に巻き付いていった。

●妄想の終焉
　人刈り鎌の容姿について、もう一度詳しく述べておくべきかもしれない。
　人間を殺意や闇が覆った、まるで繭にくるまれたような、もしくはハエにたかられたような見た目をした六六六人衆。それが人刈り鎌である。
　鎌を携えていること以外に人物的特徴は見えず、その年齢や性別も分からなかったが、灼滅者たちの猛攻によって闇は強引に引きはがされていた。
「かえして……」
　年齢は明彦たちよりずっと上。親の世代と同じだろうか。
　見た目からして中年男性なのだが、少女の着るような服を無理矢理着込んでいた。サイズが合っていないせいでところどころ引きちぎれ、血や泥によってぼろぼろになっている。
　伸ばし放題にした髪で顔が半分隠れていたが、見たところ欠損部位のようなものは無かった。臓器はわからないが、目に見える部位のどこも無くしたようには見えない。
「ちょうだい……かえして……！」
　再び闇を纏い、襲いかかってくる人刈り鎌。
　あまりに狂い過ぎた容姿に恐怖すら感じたが、紗子は気を張ってこらえた。
　一方で彼女にダメージを負わせまいと前にでた明彦が人刈り鎌の斬撃を引きつける。
　天魔光臨陣を展開して回復する紗子と、オーラや影業で防御する明彦。さらには誘が追加する強力な防護符でやっとダメージに対抗できている状態である。
「お前に俺達の⾝体はやらん、⾃分の⾝体を抱いて散っていけ︕」
　明彦はクロスグレイブを呼び出すと、必死に斬撃を浴びせてくる人刈り鎌に強烈なハンマースイングを叩き込んでやった。
　壁ごと粉砕され、野外へと転がり出ていく人刈り鎌。
　覆っていた闇も吹き払われ、醜い中年男性だけが残った。
　持っていた鎌も飛んでいき、隣の民家の壁に突き刺さっている。
「かえして……『私』を……かえして……」
　人刈り鎌が、男が、血の涙を流しながらわめいている。
　紗子と悠斗は油断なく相手をおいつめにかかった。
　その後ろで、誘はすっと目を細める。
　これで終わるとは、とても思えない。そんな目だった。
　そして、その予想は的中した。
　中年男性は突然えづき、激しく闇を嘔吐した。誰かの骨や髪の毛や、形容不能な闇めいたものを大量にはき出し、一方で男性は中身を喪った水風船のごとくしぼんでいく。
　はき出された闇が、まるで人間のように起き上がる。
　起き上がり、まるで呼吸するように明彦や紗子の身体部位を奪い取った。
　あまりの速さと蓄積しきった殺傷ダメージに回復が追いつかず、崩れ落ちる二人。
　誘は危機を察してその場から飛び退いた。
　入れ替わりに飛び込んでいくアリスと小町。
「なんなのよその姿は。⾃分は探すものじゃない、創るものよ︕　その様子じゃ言葉も届かないんでしょうけど！」
　真の人刈り鎌とも言うべき物体に、光の剣で切りつける。
　殺意の塊は切り裂かれたが、それでも人型をなすには充分な質量をもっていた。いや、明彦たちの部位を奪ったことでより充分な人型を成すようになったようだ。
　このまま逃してはいけない。アリスの、そして小町の直感がそう告げた。
　小町は自らの影業を大量にわき出させ、人刈り鎌へと殺到させる。
　刃に変えた影業があらゆる方向から人刈り鎌を切りつけ、それに紛れて接近した小町が鎌でもって人刈り鎌を真っ二つに切断した。
　ぶわり、と散っていく人刈り鎌。
　しかし倒した手応えは無い。
　次の瞬間、周囲に充満した殺意がアリスと小町の身体部位を奪っていった。
　やがて人に近く、どこか美しい少女のようなシルエットを形成していく人刈り鎌。
　きわめて濁った声で何かを言ったような気がしたが、構っている余裕は無い。
　今し方の攻撃でアリスと小町によって維持されていた前衛ラインがほぼ壊滅してしまったのだ。
「ウェッジ」
　頼みの綱であるライドキャリバー・ウェッジを突撃させ、自分もまた突撃する透歌。
　どこからともなく槍を取り出すと、螺旋のエネルギーを纏わせて人刈り鎌へと投擲した。
　肉体を貫いていく槍。そこへぶつかるウェッジ。
　助走をつけ、ウェッジを踏み台にし、透歌は人刈り鎌の顔面に当たる部分を蹴りつけた。
「ひっ……」
　あまりに人間離れした様子に恐怖しつつも、翠はレイザースラストを乱射。
　中に混ぜ込むようにして神薙刃を大量に放った。
　人刈り鎌のシルエットが徐々に喪われていく。
　だがまだ不十分だ。
　翠は意を決して腕を異形化させると、人刈り鎌めがけて鬼神変を叩き込んだ。
　爆発するように散っていくシルエット。
　その直後に、透歌と翠の身体部位が奪われた。
　そうして現われたのは、美しい少女そのものだった。
　しかしあまりにもいびつで、あまりにも狂った造形の少女だった。
　もはや言うべきことなどないというふうに、悠斗がガンナイフを向ける。
　引き金をひき、アンチサイキックレイを放った。
　シルエットを貫き、まき散らし、周囲を覆っていた殺意の塊をも消滅させる。
　いくつも奪った人刈り鎌は、後に何も残すこと無く消え去った。
「苦労する相手だったね。やれやれ、今後はどうなることやら」
　悠斗はそうとだけ言って、人刈り鎌が居た場所に背を向けた。
「俺達はどんな選択を取ればいいんだろうね。出来れば悔いのない選択をしたいものだよ」
　彼の目は、既に人刈り鎌には向いていなかった。未来を、世界を見ていた。

　人刈り鎌という六六六人衆がいた。
　他者から奪い、捨て、更に奪うという狂ったダークネスだった。
　しかし灼滅者たちの力で狂気は潰え、闇は払われ、ダークネスは灼滅された。
　廃墟だらけの住宅街を、回復した灼滅者たちが去って行く。
　やがてこの場所にも日常が訪れ、かつての狂気などなかったかのように人々が住み着くだろう。
　灼滅者たちが人知れず守った日常として。

作者：空白革命	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月21日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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