ロードローラーの選別殺人~埠頭の闇に沈む

    作者:御剣鋼


     地下に建設が進められている、古代ギリシャ風の神殿内に用意された円卓の間。
     そこには、ハンドレッドナンバー以上の序列を持つ六六六人衆とアンブレイカブルが集まっている。
     その中で序列をもたない出席者は、2名。
    「サイキック・リベレイターは、六六六人衆に対して使用されとります。つまり、近日中に武蔵坂学園が六六六人衆に対して大攻勢をかけてきますやろなあ。その時、同盟を結んでいれば、爵位級ヴァンパイアの主力が援軍として協力させていただきますえ」
     黒の王からの特使である、銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が告げた同盟の条件は、爵位級ヴァンパイアが支配した世界の中で、六六六人衆に対して『体制をゆるがせない範囲で、自由に人間を殺し楽しむ事』を認めるというものだった。
    「爵位級ヴァンパイアの支配する世界は想像がつきますが、随分と堅苦しい世界になるでしょう。灼滅者が支配した世界の方が、六六六人衆にとって、楽しめる世界になりますね」
     プロデューサーである一般人、ミスター宍戸の口調からは、爵位級ヴァンパイアだけでなく、武蔵坂学園も同盟の候補であるとする事で、交渉の主導権を握ろうという戦略も見え隠れするが……。
    「そうは言わはりますけど、武蔵坂はダークネス絶対殺す組織、灼滅者はダークネス絶対殺すマシンやで。同盟なんて、まずありえへんのと違います?」
     けれど、闇堕ち灼滅者である右九兵衛の言葉には、充分な説得力がある。
     ミスター宍戸は「わかりました」と答え、ハンドレッドナンバーの1体に顔を向けた。
    「武蔵坂学園との同盟の可能性が潰えたならば、爵位級ヴァンパイアとの同盟を受け入れましょう。ロードローラーさん」
     ――あなたの出番です。灼滅者との同盟の可能性、とくと調べてきてください。

     そして、とある埠頭にある地下室。
     その重厚な扉には「廃棄物処理場」と書かれており、広々とした部屋には鼻腔を鋭く突くような液体が入ったドラム缶が、幾つも並べられている。
     死にも似た静寂は、1人の男が転がり込むように部屋に飛び込むと同時に、破られた。
    「うわああああああ!」
     その男の外向けの顔は、この倉庫の責任者だった。
    「誰でもいい、助けてくれ! おい、誰か返事しろ!! ……ッ!」
     ――刹那。入ってきた扉が壁ごと破壊され、ドラム缶が次々と横倒しになる。
     異臭と共に濁った液体が床に広がり、眼鏡や靴のような物体だけが、姿を見せた。
     男の正体は『裁判で無罪になったが、本当は幾つもの殺人を犯していた犯罪者』だった……。
    『…………』
     床に広がる人の身体をも溶かす液体を物ともせず、瓦礫をなぎ倒しながら部屋に入ってきたのは、緑色のロードローラー。
     その先端には人のような顔がついており、一見シュールに見えなくもないが、只ならぬ殺意と恐怖に、男は魂削るような短い悲鳴をあげる。
     他の従業員や警備員はESPで戦意を喪失しているのだろう、駆けつける者はいない。
     そして、部屋の隅に追い詰められた男は、そのままゆるりとロードローラーに押し潰されていくのだった。

    ●埠頭の闇に沈む
    「戦神アポリアの提案への対応では、苦しいご決断もあったと存じますが、皆様が誇りをもって選んだ選択は何よりも尊重すべきものだと、わたくしは思います」
     里中・清政(執事エクスブレイン・dn0122)は集まった灼滅者達を労うと「進展がございました」と口元を結ぶ。
    「戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)様も危惧されておりましたが、朱雀門を完全に失った爵位級ヴァンパイアは、失った『目と耳』の代わりに、六六六人衆との同盟を模索している事が判明したのです」
     六六六人衆側は灼滅者との同盟を諦めていないが、それが不可能となれば爵位級ヴァンパイアとの同盟を締結してしまうという。
     六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟が実現した場合、武蔵坂学園の劣勢は免れないだろう。
    「そして、灼滅者との同盟の可能性を探るべく、ハンドレッドナンバーの『ロードローラー』が、動き出そうとしております」
     ロードローラーは、灼滅者が提示した条件である『犯罪組織トップ』『確実に殺人を行っているが法で裁けずにいる悪徳経営者』『法で裁けない犯罪者』『ダークネスに積極的に協力する一般人』を襲撃しようとしている。
     このロードローラーの襲撃を灼滅者が認めるか否かで、同盟の可能性の有無を判断しようとしているのだ。
    「皆様に担当して頂きたいのは、とある埠頭の倉庫を隠れ蓑にしている犯罪者を強襲しようとしている、緑色のロードローラーが起こす事件でございます。おそらく、様々な犯罪情報からミスター宍戸がピックアップしたのかと」
     その犯罪者が犯した事件を口にするのもはばかられるのか、バインダーに視線を落とした執事エクスブレインの表情は固く「法では裁けない犯罪者の分類でございます」と、淡々と告げた。
    「ロードローラーは周囲の一般人をESPで無力化し、着実に犯罪者を殺害しようとします」
     このロードローラーは分体であるため、灼滅者が攻撃を仕掛けてきた場合、犯罪者の殺害を中止して迎撃してくる事。また、灼滅者が撤退すれば追撃せず、灼滅者に止めを刺す事はしてこないと、執事エクスブレインは付け加える。
    「このロードローラーは分体でございますので、交渉や会話をする事はできませんが、分体が得た知識は本体のロードローラーに伝わるため、伝言を伝えるという事は問題なくできると思われます」
     今後の事を考えれば、ロードローラーが引き起こす事件には目を瞑るのが正しいのかもしれない。
     しかし、それが灼滅者として、正しい行動であるのかは、わからない……。
    「皆様が真剣に考えて選んだ選択肢ならば、それこそが正しい行動になると、わたくしは思います」
     執事エクスブレインはそう微笑み、灼滅者達を激励するように、深々と頭を下げた。


    参加者
    苑城寺・蛍(チェンジリング・d01663)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    森田・供助(月桂杖・d03292)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    村山・一途(回想機関・d04649)
    アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)
    深草・水鳥(眠り鳥・d20122)
    平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)

    ■リプレイ

    ●埠頭の闇に現れしモノ
     半壊した地下室に足を踏み入れた灼滅者達を出迎えたのは、薄闇と刺激臭。
     無機質な床に広がる薬品と残骸。それをも楽しそうに挽き潰すロードローラーに、深草・水鳥(眠り鳥・d20122)の肩がビクっと震える。
     けれど、それも一瞬。
     壁の隅に追い詰められた男が視界に入るや否や、金色の双眸を静かに細めた。
    「オレ達は殺人を阻止するために来た、相手になろう」
     ロードローラーの意識を男から遠ざけるように、アイナー・フライハイト(フェルシュング・d08384)が交通標識を構えると、見た目とは反する動きでロードローラーの体が素早く回転し、滑稽な顔と敵意がアイナーに向けられる。
     ――その刹那。颯爽と割り込んだ影が、ロードローラーが伸ばした影を受け流した。
    「それがどうかしました? 別に、目の前で罪を犯したわけでもあるまいし、私がこの人に悪感情を持つ理由はないですよね」
     味方を庇うように現れた村山・一途(回想機関・d04649)は、地下室に入る前よりも目が据わっており、何時も以上に冷たさすら感じられて。
    「それよりも六六六人衆、あなた達が人を選別し、まるで正義のように人を殺そうとすることこそ、私には度し難いですけどね」
     反撃に転じた一途が足取りを鈍らせる斬撃を見舞った瞬間、灼滅者達はロードローラーと腰を抜かした男の間に素早く陣取り、態勢を整える。
    「た、助けてく――ッ!!」
    「こいつはお前のやったことの結果、お前を殺しに来た奴で、俺らは、こいつに用があるだけ。助けじゃねえ、死にたくなきゃ隅に隠れてろ」
     しがみ付こうとした男を、森田・供助(月桂杖・d03292)が目線だけで威圧し、柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)が、巻き込まれないように物陰へと転がす。
    「目に焼き付け後悔を刻め、刑期をくれてやる。それがお前が受けるべき罰だ。悔い続けろ、安易な死は許さねえ」
    「逃げるなよ。見てろ。動いたほうが、当たるぞ」
     高明が持つ一対の翼を模した鋏が煌めき、己の片腕を異形化させた供助が凄まじい膂力でロードローラーを殴り始める。前門の虎、後門の狼とは、まさにこのことか。
    「こんな怖い人がいるなんてケイすっごいコワ~い。こーゆー人たち全員ころしてくれるってホント? 宍戸のおじさん天才~!」
     後方で長い付け睫毛を瞬かせた苑城寺・蛍(チェンジリング・d01663)は、棒読みな言葉とは裏腹に、しっかり出入り口を塞いでいる。
     男が涙目で「あんたらの方が怖いよ!」と訴えていたけれど、そこはスルーであーる。
    「助かった、とか思ってるかもだけど、今回は、俺達の意地に引っかかってラッキー、ってだけだ」
     どす黒い殺気を無尽蔵に放出するロードローラーから、庇うように半歩前に出た槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)が、軽く脅すように口を開く。
    「インガオーホーとかいうらしいし、次も助かるとは限んねーぜ」
     言葉と口は男に。けれど、康也の橙色の瞳だけは、心配そうに別方向に止まったまま。
     普段の陽気さが消え失せて、冷酷に闇の気配すら醸し出していた、兄貴分の高明に……。
    「ヒトマル、頼む」
     平・和守(国防系メタルヒーロー・d31867)は、ライドキャリバーのヒトマルに男の護衛に付くように命じ、更に敵の機動力を奪わんと間合いを狭める。
     そのまま戦闘靴に流星の如き煌めきを乗せ、弧を描くように強烈な蹴りを見舞うと、無骨なクロスグレイブを軽々と構えた蛍が一途と和守の攻撃に、織りまぜるように乱暴な格闘術を繰り出し、アイナーの黄色標識の支援を受けた康也も、戦いに集中するように獣の形をした影を伸ばした。
    「大丈夫そうか」
     ロードローラーの意識が完全に男から外れたのは、中衛のアイナーが見ても明らかで。
     男を注視していた水鳥も、最前線に戻った供助を支えるように、癒しの風を起こした。

    ●分身体との語らい
    「よぉ、久しぶりだなロードローラー。そっちのふざけた提案ごと、ぶっ飛ばしにきたぜ!」
     暴風を伴う強烈なローリングで、護りごと薙ぎ払わんとするロードローラーに向けて、爽快に啖呵を切った康也は、炎を宿した獲物で押し返すように肉薄する、が。
    (「……ん?」)
     武器を通して腕に浸透する感覚は、以前に戦った個体よりも、確かな手応えがある。
     自分が強くなったことを加算しても、弱い。――と、言うことは。
    「高兄、このロードローラー、以前よりも弱いタイプだ!」
    「その情報、頼らせて貰うぜ」
     半ば直感で叫んだ康也に、ライドキャリバーのガゼルに護りを託していた高明の口元が僅かに緩む。高明が見ても、ロードローラーの動きが鈍り始めているのは、事実だ。
    「お前というよりは宍戸にだがな。ダークネスとの同盟や和解自体は、武蔵坂はこれまで何度も行っている。天界大僧正、アイドル淫魔の一派、穏健派イフリートにルイスの一派。ナミダ姫とも一部協力関係にあるな」
     伝言できるタイミングは、戦っている僅かな間しかない。
     ロードローラーの力を削ぐことも兼ねて、和守が中段の構えから重い斬撃を振う。
    「……今回の話を蹴った一番の理由。それは持ちかけてきたのが「六六六人衆」だから、だよ。宍戸。あんたが本気で共存を視野に入れているのなら「そこ」ほど不適切な場所は無い。ご当地かヴァンパイア辺りにでも移籍をお勧めする」
     和守の刃と緑色の鋼が鈍く交差し、態勢を立て直さんとロードローラーが半歩下がる。
     その時、一途のクロスグレイブの銃口から「業」を凍結する光の砲弾が、放たれた。
    「私、殺人鬼ですから、いつだって殺す理由は個人的です」
     しれっと物騒なことを告げた一途の漆黒の瞳は、許し難い怒りで爛々と燃えていて。
     殺人とは即ち全て許されざるものと思っている彼女にとって、人を試すような殺人を許容することは出来ない。
    「殺人鬼も六六六人衆も、どうせ悪にしかなれませんよ、烏滸がましい」
     吐き捨てるように言い終えた一途は、鋭く射抜くように、ロードローラーを見据える。
     対するロードローラーも、自らのジャマー能力を高めようとし――。
    「生粋の邪悪がムリして正義気取んなくていーわよ」
     バッチリ決めたメイクに反して、冷静に状況を判断した蛍が、身を屈めて距離を詰める。
    「まずはあたしたちと踊ってよ、その後は好きにすれば?」
     素早く懐に潜り込んだ蛍が繰り出した格闘術が、ロードローラーの装甲を護りごと打ち砕き、その様子に供助は頼もしさを感じながら、横腹に張り付いた。
    「交渉って、選択追い詰めてするもんか? 大半は、其方の提示した形で組めんって示したはずだけどな。再交渉の場作ってくれるなら、俺は行くが、これは確認にしたって雑だし、NOだよ」
     面白くなるのなら、手を組む相手は誰でも構わないという所も、気に食わない。
     供助は古めかしい杖を握る手に力を込め、擦れ違いざまに魔力の奔流を叩き込む。
    「結果を都合よく捻じ曲げた上の脅しなど、交渉とは呼べぬだろう」
     回復に徹する水鳥と男の位置関係に気を配りつつ、アイナーは手の平で解体ナイフをくるりと一回転。瞬時にジグザグに変形した刃で、大破したロードローラーの横腹を、更に複雑な形状に斬り刻んだ。
    「足元ばかり見やがって、やってる事が脅迫くせえんだよ」
     ――ただ面白おかしくしたいだけなんじゃねえか、なあエンターテイナー。
     高明は直ぐに口元を引き締めると、味方の火力を安定させるべく、網状の霊力で装甲を縛り上げる。
     弱いとはいえ油断できない。何よりも、全員の意思が殺害阻止ではないからだ。
    「選別殺人……あんな人一人位殺させて、後でたくさんの人を守れるなら…特に、なにもしない、つもり」
     後方から戦況を見極め、供助と康也を同時に癒していた水鳥が、辿々しく告げる。
    「この程度に抑えれば、見過ごしてもいい……」
     すぐ後方で男の短い悲鳴が上がり、アイナーは一瞬だけ後ろを見やる。
     水鳥は助けを乞う男を視線で一瞥するものの、戦う仲間に対しては体力を心算し、癒しの手を止めることはない。
     意見は違えども、ダークネスはダークネスで、仲間は仲間だ。
    「でも、そんなのが当たり前になった世界で、あたし笑えない」
     ふと蛍の胸元で、小さなマスクの形をした、チョーカーが揺れる。
     水鳥の意思は尊重するし批判もしない。……それでも、蛍は思う。
    「あたしは愉しく生きるって、あたしに約束したのよ」
     六六六人集と共に、表裏のバランスを手に取るディストピアなんて、真っ平御免だ。
     何よりも、知らない振りしては、生きれないから。
    「こいつが死ぬのは自業自得×100って感じだケド、こっちと無関係なとこでヨロシク?」
     最後はマイペースそのものだけど、真っ直ぐ前を見据えた蛍に、揺らぐモノはない。
    「殺してもいいとか死んで当然とか、そういうの誰が決めるんですか?」
     少しだけ疲労を濃くした和守を庇いながら、一途も呼び掛ける。
    「私は殺したいから殺します。あなたは、どうですか」
     ――私は殺人鬼。決して正義の味方ではない。
     自分の理屈に拘る殺人鬼の問い掛けに、しかしロードローラーは答えない。
     死角から繰り出された蛍の斬撃で急所を絶たれ、至近距離から一途の乱暴な格闘術を受けた満身創痍のロードローラーに、アイナーと和守が確信を持って頷いた。
    「そろそろ幕引きか」
    「他に伝言がなければ、一気に畳み掛けたい所だな」
     反対側に素早く回り込んだアイナーが、ロードローラーの護りを更に斬り裂かんと高速の斬撃を見舞い、和守のサイキックソードから放たれた光刃が、装甲を深く抉り取る。
     好敵手を求めるように駆け出した康也に残る傷を癒そうと、水鳥が護符を輝かせた。
    「ちゃんと、働くから…そこは、安心してください…」
     仲間に対しても何処か怯えるように。けれど、終始回復で前線を支える水鳥の途切れ途切れの言葉に、全員が然りと頷く。
     今後が不利になって沢山の人々が死ぬ可能性があっても、1人の悪人を救うという考えが到底理解できないという、少女の気持ちはわかる。
     何よりも、仲間を支える役割を忘れないという意思は、信に値するものがあった。
    「全員キッチリ守り切る! てめーはぶっ飛ばす! 俺の意地を、通す!」
     確かな癒しを背中で受けた康也は、己が路を切り開かんと、更に速度をあげる。
     その横を併走するように駆け出した高明と呼吸を合わせて、断斬鋏を突きつけた。
    「クズであろうが手にかけさせねえ。人間を罰するのは人間の手でなきゃならねえんだよ。それが分からねえ、ましてや殺しを楽しむ連中と歩めるか」
     如何なる犯罪者でも、ダークネスの手に掛けさせる訳には行かない。
     高明は康也の斬撃と交差させるように、高速の軌跡を織り交ぜながら、鋭く告げる。
    「何であれ、命を選別する権利を押し付ける、それ自体が俺達への侮辱だ」
     弟分と息を合わせた高明の渾身の一閃を受け、身を沈ませたロードローラーの前に、薄紺と黒の市松模様の裾が、ふわりと揺れる。
    「宍戸へ、伝わるなら、伝えてくれ。現状の条件、やり方では組まん」
     自分が戦うのは、癒しを得ることが目的じゃないと、供助は苦笑する。
     結果的にそうなっていることは否定しないし、今回の選択の結果、荊の道を歩むことになっても、示さないと行けないものがある、と。
     人の生き死にを選定する立場を取った場合、人を、真っ直ぐ見れなくなるから――。
    「宍戸、探して、倒すよ。そして、こいつは、人に預けるよ。まだ、力だけは人だから」
     ――裁くのは、人の力で。
     供助を中心に激しい風が渦巻き、風の刃となって、一気に戦場を駆け抜ける。
     風は、動きを止めたロードローラーの全てを斬り刻み、後には静寂だけが残った……。

    ●償いと残されたモノ
    「終わりましたか」
     クロスグレイブを下ろした一途の視界に、出口に向かって這いずろうとした男の姿が飛び込んでくるけれど、直ぐに男の前に回り込んだ蛍が踏み付ける。
    「うえ~マジ気持ち悪~~よくまあ見つかんなかったよねぇ」
    「相手は人だし、ほどほどにな」
     派手な指先で金髪を弄びながら周囲を見回す蛍を横目に、供助は男を縛り上げる。
     静けさが戻った地下室はロードローラーに蹂躙されており、物的証拠はほぼ丸裸。
     この状況なら、証拠を完全に隠すことは、不可能だろう。
    「次は無い。裁かれる以外の道が欲しいなら……己が手を下した人達に縋ればいい、あの世で」
     証拠になりそうな物はそのままに、アイナーは拘束された男を床に転がす。
     そして簡潔に、バケモノ――ダークネスが法を逃れた悪人を殺して良い存在として狙っていること。自分達は決して悪人の味方ではないこと。人の社会で裁かれない限り、今後も同様に狙われ続けることを伝えると、和守も駄目押しするように、口を開いた。
    「ま、信じるも信じないもあんたの勝手だが、間違いなく目はつけられた。また来るだろう」
    「……嫌だッ!! た、助けてくれ、何でもする!!」
     終始、眼前で恐怖をたっぷりと味わせられた現実は、かなり酷だったらしい。
     男は魂削るような短い悲鳴をあげ、救いを乞うと、和守は指を2本突きつけた。
    「何でもするなら選べ。真っ当に人間らしく裁かれて奴から逃げるか。手前の罪から逃げ続けて、惨たらしくペッチャンコになるか。それとも……」
     ――今ここで、あんたを殺したいって奴も居るのを、お忘れ無く。
     和守の視線が、自分達から少し離れた所で、証拠を集めていた水鳥に止まる。
     法でも裁けなかったと言うことは、また逃がしてしまう可能性がある。――ならば。
    「どうしようもなく悪いままなら…ここで片付けるつもり…」
     水鳥の沈黙に似た視線と殺意は、今も男に真っ直ぐ向けられている。
     男は深く項垂れ「……警察に、連絡してくれ」と、振り絞るように声を洩らした。
    「今度こそ、実刑は免れんだろうさ」
    「そうですね、勝算もなくはないでしょう」
     供助と手分けして所々に通報を終えた高明が皆に告げると、この状況を静かに見守っていた一途も頷き、踵を返す。
     兄貴分と無愛想でマイペースな殺人鬼の後に続こうとした康也は、焼け焦げて壊れた髪留めの残骸に、そっと触れる。
    (「俺は全部守りたい。仲間が罪を犯すってんなら、それからも……」)
     正義がどうとか関係ない、滅茶苦茶なのはわかっている。
     それでも、自分は自分の守りたいものを守りたい。その思いは、今も色褪せていない。
    「あとは宍戸がどう出るか、だね」
     地上に出ると、天高く広がる空は来た時とほぼ同じ、黄昏色のまま……。
     アイナーは夜の帳が落ち始めた空を見上げる。自分達の意思が、届くことを願って――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月26日
    難度:やや易
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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