ロードローラーの選別殺人~背徳の児童養護施設長

    作者:るう

    ●円卓の間
     古代ギリシアの神殿を思わせる空間にて、彼らは議論の行く末を見守っていた。
    「……つまり、近日中に武蔵坂学園が六六六人衆に対して大攻勢をかけてきますやろなあ。その時、同盟を結んでいれば、爵位級ヴァンパイアの主力が援軍として協力させていただきますえ」
     演説を打つのは銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)。かつての武蔵坂学園の灼滅者にして、爵位級ヴァンパイア『黒の王』朱雀門・継人の特使。
     対するはプロデューサーとして知られる一般人、ミスター宍戸。
    「爵位級ヴァンパイアの支配する世界は想像がつきますが、随分と堅苦しい世界になるでしょう。灼滅者が支配した世界の方が、六六六人衆にとって、楽しめる世界になりますね」
     聴衆は暴力と殺戮の権化たち。その中で右九兵衛は、ダークネスを灼滅しなければ生きてゆけぬ灼滅者との同盟の可能性に疑問を呈し、自分たちこそ同盟相手に相応しいと再度主張する。
     いかなミスター宍戸といえども、この説得力を覆すのは難しかった。
     だから……宍戸は、とあるハンドレッドナンバーに声をかける。
    「灼滅者との同盟の可能性、とくと調べてきてください」

     かくして六六六人衆『ロードローラー』は分体を生む。
     その姿はまるで玩具のようで、児童養護施設の庭で遊ぶ子供たちの心をぐっと掴む。
     一しきり彼らと遊んだ後で……彼は、ふらっと園長室へと立ち寄った。
     しばらくの超常的な沈黙の後、今度は、ローラーをべったりと赤に染めて出てくるロードローラー。
     その間、子供たちも他のスタッフも、誰も聞きはしなかった。
     上がる悲鳴も、その前に園長に向かって断じられた言葉も。

    「和泉・ヤス子。58歳。アナタは里子に出したと偽って、小児の移植用臓器や性的虐待が目的の富豪に、大金と引き換えに施設の子供たちを売っていた。間違いありませんね?」

    ●武蔵坂学園、教室
    「朱雀門高校攻略戦に引き続き、戦神アポリアへの対応、お疲れ様でした」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)はそう灼滅者たちを労うが、朱雀門高校を失った爵位級ヴァンパイアは、すぐさま次の手を模索し始めたようだ。
    「戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)さんの危惧どおり、彼らは、代わりとなる組織を手に入れるため、六六六人衆に同盟を持ちかける事にしたようです」
     もしも六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟が実現してしまえば、武蔵坂学園にとっては脅威となるだろう。だが、六六六人衆は灼滅者との同盟により期待を寄せているようで、その可能性を探るためにハンドレッドナンバー『ロードローラー』を動かしたのだ。
    「彼の目的は、無秩序な殺戮を停止し限られた人々のみを殺戮する事を、皆さんが許容するかどうかの確認です。『犯罪組織トップ』『確実に殺人を行っているが法で裁けずにいる悪徳経営者』『法で裁けない犯罪者』『ダークネスに積極的に協力する一般人』……標的は、アポリアの提案を承諾した方々が示した条件に合致する人々です」
     分裂したロードローラーのうち、とある1体は、とある児童養護施設の園長を襲撃するという。
     彼女は大金を得るために、施設の子供たちを邪悪な『里親』へと売っている。それも『里親』たちが子供たちを完全に壊してしまう事を承知の上で、誰かに弱みを握られているわけでもなく自らの意思で。
    「その事は、子供たちもスタッフも知りません。なのでロードローラーはESPを使って他の人を遠ざけ、ただ園長だけを殺します。皆さんに攻撃されれば殺害を中止して迎撃はするでしょうけれど、皆さんに止めを刺すことも、撤退する皆さんを追うこともないようです」
     また、分体にすぎない彼が灼滅者との交渉に応じる事はないが、彼の得た知識は全て彼の本体に伝わるという。何か伝言をしておけば、後々、何かの形で影響があるかもしれない。
     いずれにせよ苦渋の選択になるに違いない、と、姫子は難しい顔を浮かべる。
    「けれど……私は信じています。それがどのような決断になるにせよ、皆さんが人類のために下した決断であれば、それこそが正しい行動になる、と」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    咬山・千尋(夜を征く者・d07814)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)
    蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    アリス・ドール(絶刀・d32721)
    菜々野菜野・菜々(七言のナナ・d37737)

    ■リプレイ

    ●せせら笑う暗殺者
     余人の遠ざけられし園長室の中、人知れずその主の悲鳴が上がる。
     暴かれた罪。プラスチックブロックで作った玩具のような六六六人衆の分体は、高らかに女を断罪した後に、目の代わりに『虚』と描かれた頭を振って、次に起こる出来事を心待ちにする。
     女は、袋小路の園長室で、両目を恐怖に見開きながら、何かできぬかと後ろ手に机の上をまさぐった。だが、ロードローラーが愉しそうに体を左右に揺らすのは、彼女の怯えた表情を、たっぷりと堪能するためならず。
     彼が興味隠さず耳を傾けるのは、開け放たれた扉、その向こうから、歌うかのごとく語られる百物語。
    「一方的な殺人を、私達は止めるよ」
     その語り手とは菜々野菜野・菜々(七言のナナ・d37737)。頭にナノナノを乗せて踏みいり、彼女と仲間らが一方的な殺人を止めんとすれば、頭パーツだけをぐるりと回して、暗殺者は彼女とナノナノの姿を、視界の内側へと収めようとする。
     しかし……その目に飛び込んできたのは、彼女とは異なる者の姿だった。
    「殲具解放」
     黒き炎がギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)の腕を這い、さらに身の丈ほどの『剥守割砕』を覆う。迷わず敵の真正面に跳びこんだギィの刀が、ロードローラーのブロックのひとつを溶かしながら貫いて、内側から激しく燃え上がらす!
    「悪いっすけど、うちに人殺しのための相談窓口は用意してないんすよ」
     思わず身を捻ろうとした六六六人衆。けれども不気味に盛り上がった咬山・千尋(夜を征く者・d07814)の腕が百合十字を抱え、高速回転を始めた後輪とフレームとの間にそれを力ずくで挟みこんだ。
    「そういうこと。お前たちと同盟を組むつもりはない……どんな悪党だろうと、人間の作った法で人間が裁かなきゃ意味がないんだからな」
     急ブレーキをかけられる形になったロードローラーは、体をつんのめるように宙に浮かせる羽目になっていた。彼が園長や部屋の中の資料を潰してしまわぬように、竹尾・登(ムートアントグンター・d13258)の真っ赤な手甲が盾となる。
    「時代劇なら『許さん』と言って切り捨て御免にすればいいかもしれないけどね……現代の日本は悪人だからって勝手に殺していいことにはならないよ。だから、ちゃんと裁きを受けてもらわないと」
    「ええ。竹君の言うとおりですよ……」
     そんなのんびりとした同意を示した紅羽・流希(挑戦者・d10975)の左親指が、愛刀の鍔を前に押し出せば、直後……纏う雰囲気が豹変し、敵のローラーに真一文字の傷を残す!
    「六六六人衆が世直し成敗の旅ってか? そういうのはテレビの中だけにしておきな。現実じゃ、『力をもって悪を倒しても、大抵の場合、より悪くにしかならない』……ってな」
     それをアリス・ドール(絶刀・d32721)の言葉を借りて言い直すなら、所詮は人気取りの『デモンストレーション』にすぎない、といったところか。
    「……そんなことをしても……六六六人衆……人間のルールをねじ曲げてまでの……殺しは認めない……」
     だから、まるで猫のように素早く敵に跳びついて、すでに傷ついたブロックを粉々の破片に切り裂き撒き散らす!
    「……でも……犯罪者の情報提供には……感謝するの……」
    「一体、何の話なの……! どうして私が子供たちを売るなんて、証拠もないのに変なこと言わないで!」
     妨害が入ったことで余裕を取り戻した園長は、震える全身を隠しきれぬまま、そんな虚勢を張るのだった。
     すると蒼珈・瑠璃(光と闇のカウンセラー・d28631)の瑠璃色の瞳が、不可解そうな彩りを帯びる。
    「確かに、まだ証拠はありませんね。貴方たちはどのようにして、この人の悪事を見抜いたのですか? それと……貴方たちのトップは何をお考えなのですか?」
     ロードローラーの頭部パーツは文字通り貼りついた嗤い顔を作ったままで、何も答えたりはしなかった。代わりに彼が返すのは……小躍りするように飛び跳ね押しつける前輪。
     それを真紅の『不死贄』にて受け止めたクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)の腰が、普段より深く沈みこんだのに気づいた者は、恐らくは瑠璃を除いていなかっただろう。
    「ほら! やっぱり証拠なんてないんでしょう!」
     喚く女の声が耳の奥に響く。
     子供を平然と私欲のために捧げる悪意。思い出すのはあの日に見た光景。あの日、この手に伝わってきた感触。
    「力なき者を……保護を求める子供たちを裏切る大人を、俺は絶対に許さない」
     思わず気が遠くなるほどの憎悪。けれど、その時に別れを告げた妹プリューヌの、今も彼のすぐ傍で向けてくれる微笑みを想えば、クレンドはかつての選択と同じ意志の強さをもって、ゆっくりと、呑まんとする記憶とローラーとを押し返すことができる。
    「だが……お前たちも俺たちも、絶対的な力の持ち主だ。たとえ悪とはいえ力なき者を殺したならば……俺は、そいつらと何が違うんだ?」

    ●身勝手すぎる殺人者
    「貴方達と私達は、気が合わないよ」
     布帯を飛ばしてローラーを受け、清浄なる光にて仲間の傷を癒し、菜々は彼らとの決別を自ら証す。もしも一人では足りぬ仕事なら、ナノとも互いに助け合いながら。
    「六六六の人達は、気が合う組織が、ほんとにあるの?」
     けれどもロードローラーは、そんなのお構いなしに跳ね、灼滅者たちを次々轢き潰さんとした。彼を避け、止め、あるいは受けることすらも、決して困難なものではないけれど。
     だから瑠璃の弓矢が狙い定めて、頭ブロックと髪ブロックの隙間を貫いた時、プロペラのように振り回される髪ブロックは、彼女の肩から飛びだしていったウィングキャットの『アオ』を十分に傷つけるには至らなかった。
     疑問が浮かぶ。
    「彼は……分体とはいえハンドレッドナンバーにしては、かなり弱いようにも思えます」
    「確かに、オレ自身の成長を考慮に入れても、前に戦った時と比べて手応えはないな」
     答えるのは登。
    「ただ、弱く見せかけて何かを誘ってるって訳じゃなくて、元から強い分体を寄越す気がなかったって感じだ」
    「……だとしたら、随分と舐められたもんだな」
     流希の国広を握る手に力が入った。それを真っすぐに敵の車体に突き刺したならば、必ずどこかにいるロードローラーの本体に聞こえるように、腹の底から声を出す!
    「おい、聞いてるか、本体よ? お前がそうやって遊んでいる間に、俺たちはいずれお前を迎えに行くからよ。それまでに……さっき言った言葉の意味、よく考えておきな」
     めんどくさそうに首を傾げていたロードローラーだったが……直後、新たな衝撃に襲われる! 顔面を燃やした蹴撃の主の姿を彼が追おうとした時には、アリスは既に敵の背を踏みつけて頭上を越えて、さらに天井をもう一度蹴って、とうに後方まで跳び退いてしまったところ。
     そんな灼滅者たちの奮闘と、次第にボロボロになってゆくロードローラーの姿を見比べたならば、超常の戦いなど解らぬ園長にすら、どちらが優勢であるかは一目瞭然であっただろう。このまま奇妙な巨大玩具が砕かれてしまえば、自分の罪は有耶無耶になる……そんな風に思ったのかは知らないが、恐るおそる壁際を進んで、数メートル先の扉を目指す園長。
     ……だが。
    「あ、ところで園長さん。子供を売買した書類は園長さんが持ってるんじゃないのかな? 嘘ついたら帰るからね」
     そんな登の脅し文句に、園長は思わず足を止めた。けれども彼女は怯え、小刻みに首を振るだけで、灼滅者たちの望むような答えは返さない。
     とんだ身勝手な悪党もいたものだ。女が驚いて予測不可能な動きをしない保障さえあったなら、ギィは黒く染まったオーラの逆十字架を、女ギリギリをかすめるように放ち、彼女に怖い目に遭って貰うのに。
     いや……理由はもうひとつ。罪に必要以上の代償を支払わせるのを良しとするならば、彼は、彼が救うべき相手を手放していいということにもなってしまう!
    「ロードローラー!」
     珍しく、ギィが声を荒げた。
    「あきら――いや、戦神アポリアっすか? あいつに伝えるっすよ! 自分はまだあきらを諦めてないって!」
     それでもやはり同じように、ロードローラーからの返答はない。ならば、灼滅者たちもこれ以上、彼に対して用はない!
     幾度も重なる攻撃が、彼を構成するブロックに穴を開けてゆく。彼はせいぜい無様に足掻くが、クレンドに盾で抑え込まれてしまったならば、まだ動くブロックで幾度かその盾を殴りつけるくらいしかできやしない。
     その様子を、呆けた顔で眺める園長。その目の前で、千尋の足元から無数の影のカードが持ちあがってゆく。
     一度、園長に汚いものを見るような目を向けた千尋の姿は、すぐにカードが変じた武器たちにより覆い隠される。
    「こんな馬鹿な奴でも、見殺しにするのは寝覚めが悪いんだよ」
     そんな声と、影の武器たちが激しく動き回る光景の後……部屋には、灼滅者たちの姿と、園長と、無数のプラスチック製の残骸だけが残っていた。

    ●哀れなる小悪党
     壁の一面を埋める棚。その中にぎっしりと詰まった書類を前に、登は腕を組んでいた。
    「これだけの書類があるのになぁ……。本当に子供を売った証拠もないの?」
     園長に詰問しようと振り向いてみる……すると部屋の中央に引き立てられてきた園長は、ひっ、と小さな悲鳴を上げたところだった。
     千尋に腕を掴まれた園長は、首筋に彼女の犬歯を寄せられている。
     急いで両者の間に割り込んで、無理やり引き離そうとするアリス。
    「……何してるの? ……殺したら……めっ……だよ……」
    「あー、そういうのじゃないよ」
     対して、頭を掻きながら答える千尋。
    「今までのことを一度忘れさせて、『警察の捜査』って形にしておけば、こいつも素直になるかと思っただけだ」
    「……それなら……大丈夫……こうすればいい……」
     そう返したアリスの瞳が、不意にある種の畏怖を帯びた。
     小柄な身体から発せられる、孤高の狼を思わせる威圧感。女はもう一度小さく悲鳴を上げて、ヒステリックな早口でまくし立てる!
    「本当よ! 本当にここにはないんだから! だってそうでしょう……こんなところに置いておいて誰かに見つかったなら、分け前を取られることになっちゃうじゃない!」
     それを聞いたクレンドが園長の胸倉を掴むのを、瑠璃はどうして止められようか? じっとそれ以上の行為に出そうになるのを耐えながら、クレンドは無言で女を睨みつけている。
     女の自白はさらに続いた。
    「家よ! 全部家にあるわ! 金庫の中の……必要なら開けるから中身を見たっていいわ! でもきっと、貴方たちの探してるようなものは見つからないでしょうね……私が直接顔を合わせるのは代理人みたいなものだし、たとえ本当の相手を知ったとしても、記録になんて残したら、私の方がタダじゃ済まないに違いないんだから……」
     ようやく、クレンドの手が女を取り落とす。瑠璃がやけに具体的に持ちかけた女の言葉から察するに、彼女はその場しのぎの出任せではなく、真実を曝けだす方を選んで、灼滅者たちの顔色を窺ったに違いない。その上で、その真実がろくな役に立たぬと理解してしまったからこそ、クレンドも女を手放したのだろう。
    「ままなりませんねぇ……」
     天井を仰ぐ流希。なるほど、六六六人衆のいう『法で裁けない』とはそういう意味だったに違いない。
     彼女の犠牲となった子供たちの中から、一人でもまだ間に合う子供を救うためならば、流希は警察でも議会でも民生委員でも、誰の手でも借りるつもりでいた。今いる子供たちのために園長の代わりが必要ならば、彼自身が園で働いてでも、その責務を果たすつもりだ……が、それで本当にこの事件を解決できるのだろうか?
     それでも……彼の執念は、女に、こんな観念を植えつけるのだ。
     どれほどの時間がかかっても、必ずやいつか、灼滅者たちは十分な証拠を見つけだすだろう。そして彼女の安寧な日々は、全てが崩れ去るのだろう、と。
    「待って……! そんな事をしたら私はどうなるの!? それに私がいなくなったら困るのは今ここにいる子供たちなのよ!? 私だって、得たお金を全部自分のために使ってるわけじゃないわ……幾らかは施設の運営や、子供たちへのプレゼントにも使ってるのよ! 貴方たちはそんな子供たちの権利を……」
    「……言い訳は必要ないと言ったはず……あなたの言葉には興味ない……。……それに……これからのお金のことを言うなら……証拠はなくても話が漏れた時点で……お得意様は……あなたを見限って切り捨ててる……もう遅い……」
     女には、アリスにできる反論など残っていなかった。その場にへたり込む女の耳に、ギィの、この期に及んでも子供たちをダシにするのかと呆れる声が聞こえてくる。
    「けれど実際問題、必要以上に悪評、広まるようなら、困るのは子供達」
     そのために何ができるだろうと思い廻らす菜々。少しでも多くの里子に出された子らを救おうと、何食わぬ顔して廊下に飛びだし、行き先と現状を職員らに尋ねて情報を収集する。余計な悪い噂が立たない範囲で、慎重に動くのが、大変である上に芳しい成果にはならぬとしても。
    「自首すれば死刑にはならないし、顧客たちの報復に怯える心配もない。その代わり、売った子たちの顔を刑務所でよく思い出すといいよ」
     登が女にそんな声をかけたお蔭で、女も幾分素直に罪を償うつもりになったことだろう。
     だけどこれからあるに違いない、子供達の困難を想像したのなら、菜々は少しだけ悲しくなるから、普段よりナノを多めにぐにぐに、むにむにつねる。それと決裂した交渉の行く末が、厳しい戦いへと繋がるだろうと、心配と強い意志、つねる手と胸に抱くようにして。
    「ああ、そうみたいだな……世界は悪で満ちている。でも……」
     遠くを見ながら千尋は答えた。
    「世界を動かしているのは決して、悪意だけじゃないはずだ」
     ならば、時折クレンドを支配しそうになる憎悪も、決して、恐れるべきものではないに違いない。
    「人間、自分の命を自由にできるのは、自分だけだ。どんなに憎くても……な」
     甘すぎると言われても仕方のない弱点。灼滅者としての自身との自己矛盾。
     けれど、彼がそれと共に歩むつもりでいるのなら、瑠璃は、きっと喜んでその力となるだろう。
     いつしか、彼が心の平穏を取り戻すため。売られた子供たちが幸福を手に入れるため。あるいはもっと大きな未来……人々がダークネスに脅かされぬ世界を作るため。
     彼らは、その力を振るい続けるのだろう……その身と心が闇に砕かれぬ限り。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月26日
    難度:やや易
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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