ロードローラーの選別殺人～逃れえぬ選択

■リプレイ

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（「前回で私達の答えは示したはずだが。それが善人悪人、同盟するしない、そんな事で揺らいでいいとは私は思わんがね」）
　リーグレット・ブランディーバ（ノーブルスカーレット・d07050）は内心でそう思う。
　リーグレットの考えとは異なる見解を、李白・御理（白鬼・d02346）は抱いている。
「今回のロードローラーの襲撃は……黙認の方も多そうです」
「戦略としては奴らの同盟を阻止する方が得策だと俺も思う」
　御理の言葉に頷きそう答えたのは、文月・咲哉（ある雨の日の殺人鬼・d05076）。
「咲哉さんは、そう思っていたのか」
　木元・明莉（楽天日和・d14267）がそう応じれば咲哉は頭を横に振るう。
「見過ごす道も一つの道だってことだ。でも……俺には目の前の命を見過ごせない」
「オレ達が一般人を見殺しにしないって事っすよね」
　獅子鳳・天摩（幻夜の銃声・d25098）の問いかけに、咲哉が軽く頷き返した。
「命を奪う以外の道を探したい。それもまた俺たちなのだと思う。それはきっと誰の為でもなく、自分が自分であるためにな」
（「正直、共感は持てないけれど」）
　そこにあるのは情だからだと明莉は思う。
　今回の件は交渉事だ。
　情だけで決める話では無い。
（「それでも咲哉さんが今やりたいと思うことは……」）
　自分が自分である為に、命を奪う以外の道を探したいこと。
　その点に関しては、理解できない話ではない。
　ならばその助けになろうとするのも、信頼の証だろう。
「みなさんどちらも苦渋の決断だったのではないかと思います」
　御理が頷きつつ、北斎院・既濁（彷徨い人・d04036）を見やる。
　特に何を言うでもなく飄々としている彼の事を。
「それでも、僕達は一般人を守りたいと思いました。それならば、僕らは自分の意思で好きにやりましょう」
「そうだな」
　御理の言葉に、狂舞・刑（その背に背負うは六六零・d18053）が頷き返した。
「まっ、取り敢えずサクサク片づければいいんじゃん？　少なくともオレ達は同盟提案蹴るで一致しているわけだし？」
「そうね……たとえ、どんな理由があろうとも。越えてはならない一線はあるものね……」
　既濁の言葉に、氷上・鈴音（去りゆきし紅雪の友に誓う・d04638）が懐に忍ばせた方位磁石に触れながら頷いた。
　――かくて、介入は始まる。

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「な……なんだ……？！」
　武志が思わず息を呑むと同時に、ゴロゴロと刺すような殺気と共に接近してくるロードローラー。
　そこに割り込む、2人と1体の影。
　刺すような殺気を【十六夜】で受け流す咲哉と、体を張って庇う天摩とミドガルド。
（「これがオレ達が示す覚悟っすよ、ロードローラセンパイ」）
　たとえ爵位級と六六六人衆に手を結ばれても。
　一般人を見殺しにはしない。
　それが学園の在り方だと思うから。
「お、お前達……」
　連れて来ると同時に自らの背後に2人を庇った咲哉が王者の風。
「その場で大人しくしていろ」
　武志達にそう命じ咲哉が【十六夜】を構えなおす間に、御理が怪力無双で2人を担いでロードローラーの死角へと移動させる。
「よー、ダンプカーだっけ。元気そうだな、そろそろ帰って来いよ」
　既濁が接近して、その腕に雷を這わせて正拳突きを一発。
　叩きつけられた一撃に合わせる様に、明莉がその拳を硬質化させて大地を蹴って高みに上ってロードローラーの側頭部を打ち据え、リーグレットがProuderにて、既濁の一撃に凹んだロードローラーの身を抉っている。
「殺したいんだろう？　六六六人衆。私もだ、貴様らを灼滅したくて仕方がない。私達に在りうる関係なんて一つしかないんだよ」
「これより宴を……開始する！」
　リーグレットが切って捨てる様にそう告げるのを耳にしながら、刑が鋭く呟き影で編んだ鎖……殺影器『偏務石』を起動させ、その身を斬り裂く。
　放たれた刃はロードローラーの装甲を穿ち、カズミが接近して己が腕を叩きつけた。
「来い……例えどんな屑だろうと、『灼滅者』のオレは、一般人の殺人を許しはしねぇ」
　――そう、『灼滅者』としては。
　刑の呟きに合わせてスレイヤーカードに一つキスをし、浅葱の袴の神主服の上から菫色の狩衣を纏った鈴音が、車輪を斬り裂き、ロードローラーを足止め。
　立て続けに天摩が建速守剣でその巨大な車輪を袈裟懸けに斬り裂いている。
「そうっすね、狂舞センパイ」
　ダークネスにも海の様に話せる奴はいるし、一般人にも反吐が出るクズはいる。
　そう思うのは、天摩も同じだ。
　――けれども……。
　ミドガルドが車体をロードローラーにぶつけるのを見ながら息をつく天摩。
「これを見逃したらオレ達が前同盟跳ね除けたってのて自分達の手を汚したくないだけなのかと勝手に殺すならいいのかととられかねないっす」
「この道を選ぶ以上、俺達には厳しい戦いが強いられるだろうな」
　天摩に頷き返しながら、次の攻撃に備える咲哉。
「……今、俺達は其れを背負う責任と覚悟を問われているのかも知れないな」
　明莉が軽く頭を横に振る。
　今回命を奪われる覚悟だとか人もダークネスも同等にとかそんなもん一切関係の無い話の筈。
　何故なら、これは『交渉』だから。
　その交渉の対価として犯罪者達が選ばれた。
「宍戸もわかってやってんのか知らんけど、趣味の悪い遊びだ」
　明莉が冬に咲く桜より作られし魔の樹に蓄えた魔力を爆発させ、ロードローラーを大きく傾がせている。
　けれどまだ倒れる事無く車輪を転がし、中衛を踏み躙ろうとするロードローラー。
　明莉がひらり、と舞う様にその攻撃を躱。
「リーグレット！」
　リーグレットを天摩が庇うと同時に咲哉が【十六夜】を翻して下段から上段へと振り抜いて車輪を斬り裂き、合わせる様に鈴音が大上段から日本刀を振り下ろしている。
　下から上、上から下にかけての斬撃が交差し、ロードローラーの身を斬り裂くその隙を見逃さず、刑が左腕に巻き付けた影、殺影器『偏務石』を展開。
　四方向から放たれた刑の影がロードローラーを締め上げる間に、カズミがポルターガイスト現象を起こして周囲の電灯などを引き抜き叩きつけ、天摩が全ての罪を背負って前に進む覚悟を示す『Oath of Thorns』を加速させて、炎を纏った回し蹴りを叩きつけ、ミドガルドが機銃を雨あられと叩きつけている。
「既濁君、リーグレットさん」
　御理がまるで生きた様に撓る、黒く滑らかな蛇皮の尾飾り『八岐』を解き放ち、咲哉を癒しながら呟くのに合わせて、既濁がWILD CASEでその装甲をズタズタに斬り裂き、リーグレットがグラインドファイアでその身を焼き払う。
　止め止めなく放たれる連続攻撃に、数分後には、ロードローラーは窮地に陥っていた。
「逃すか」
　傷だらけのロードローラーを刑がティアーズリッパ―で斬り裂き、咲哉が合わせる様に【十六夜】に指を這わせて狙いを定め漆黒の弾丸を撃ちだし、その身を拘束。
「明莉！」
　明莉が一気に間合いを詰めて、その手を鋼鉄化させて痛打を放ち、天摩がそれに合わせる様に肉薄し、懐でトリニティダークカスタムの引金を引く。
　ホーミングバレットに大きく仰け反るロードローラーをミドガルドが体当たりを叩きつけ、鈴音が黒死斬でその身を穿ち。
　既濁がフォースブレイクを叩きこむと同時に、御理がその腕を鬼化させてその身を容赦なく殴りつけ。
　――そして。
「消えろ」
　呟きと同時に放たれたリーグレットのグラインドファイアがロードローラーを捉え、その全身を焼き尽くしていくのだった。

●
「とっとと本体が出てこい、完全に灼滅してくれる」
　消えゆくロードローラーを一瞥しながらリーグレットが言葉を投げつける。
「六六六やら吸血鬼の思い通りになるつもりはねぇよ」
　既濁も又、そう言葉を投げかければ。
「『命』というカードに『マイナス条件』を付けそこに『プラスの条件』が存在するかは見せずにさあどう判断しますか、と差し出してくる。そんな穴だらけの交渉のカードが自分の持ち札だと示されてはいどうぞ、と受け入れられる訳がないだろ。見殺しにするしない以前の問題だ。出直してこい」
　明莉が続けて軽く頭を振りながら、自らの意思をはっきりと言葉にし。
「ウツロギさん……オレはまだ、アンタが武蔵坂に帰って来る事を諦めていねぇ」
　唇をきつく噛み締めながらそう告げたのは刑。
　――その脳裏を過るは、かつて班こそ違えど共に海将フォルネウスを灼滅し……『海将』を引き継ぎ、二度と武蔵坂に帰ってこなかった知人の事。
「六六六人衆として業は深まるばかりだな、ウツロギ。それでも僅かな可能性の中に帰還を願う者が居る事は覚えておいてくれ」
　咲哉がそう告げると同時に。
　ブロック型のロードローラーは瞬く間に光となって消え去っていった。
「必ず終わらせる、その終焉に待つのが慟哭だとしても」
　鈴音の呟きが、ロードローラーの光を見送る様に風に乗って消えた。

●
「う……うう……」
　それは、武志と、黒服の男の呻き声。
　王者の風から解放されたか軽く頭を振っている。
「さて……お目覚めみたいっすね」
　天摩がトリニティダークカスタムを武志に突きつける。
　目の前で煌めく黒い銃口に身を竦ませる武志。
「あ……あの変なのは……？」
「あいつらは、俺達が倒したよ」
　明莉が軽く告げながら、ぐい、と前に出る。
　鈴音が制止しようとするが、咲哉が止める様にちらりと目配せ。
「取り敢えず、何処でそれを手に入れたかを教えて欲しいんだけど？」
「ば、バカなそれは……！」
　否定しようとする武志の傍に天摩の放った銃弾が着弾。
「おっと。答えたほうがいいっすよ。ついでに二度と麻薬は売らないようにした方が身のためっす」
「お、お前の持つそれは銃だろう！　それは銃刀法違反……」
　咲哉が軽く掌底を放つ。
「法を外れるなら、法を外れた制裁も受ける覚悟はあるんだろう？　このままいけば、お前達、またあいつに殺されそうになるぞ？」
　軽く睨みつける咲哉に根負けしたか、明莉に麻薬を得たルートを伝える武志。
　明莉がそのメモを取る間に、武志が思わず嘆息する。
「何でこんなことになる？　俺はただ、皆が欲しがるものを、相応の対価で売っただけなのに」
「お前が売っている商品で、どれだけの人間が間接的に殺せると思う？」
　メモの手を止めて静かに問う明莉に武志が軽く首を横に振る。
「少なくとも、私は一方的に売りつけていない！　欲している者がいるからそれをただ与えている……それだけだ！　その後、そいつがどうなろうとそれはそいつの責任だ！　ただ、それだけな……っ……？！」
　そこまで言ったところで明莉の発している殺気に思わず息を呑む、武志。
　もしもの時に備えて身を構える鈴音だが、天摩や咲哉は明莉を止めない。
　彼に対する信頼故に。
　あの時、確かに彼は散々迷っていたけれど、殺すのはやめた、と言っていた。
　その言葉を信じているから。
（「情に流されて殺すのは嫌いだからな」）
　殺気を放ちつつ息をつく明莉と天摩の銃による脅しを見守りながら、咲哉が続ける。
「お前がこれから行動を改めれば、今回みたいな目に遭う事は恐らくないだろう。少なくともさっきのロードローラーに襲われたり、こうして俺達に脅される恐怖からは逃れられる筈だ」
「……」
　武志はそれに、何も答えない。
「君の顔もう覚えたから。君が薬を売ろうとする限り何度でも潰してやるっすよ」
「ぐ……う……」
　天摩の言葉に呻く武志。
　其れに軽く肩を竦める天摩。
「あとあのロードローラーセンパイ1体じゃないから同じこと続けていればまた来るよ。その時また偶然オレ達がいればいいけどどうっすかねえ」
「わ、分かった……。私も命は惜しい。これからはこの様な事はしない」
「……法に守って貰うならば、お前も法を守る事だ」
　そう告げ、咲哉がくるりと踵を返し天摩や明莉と共にその場を後にする。
　警察官を呼びに行ったのだろう。
「貴方達……今度は五体満足じゃ過ぎないわ」
　万が一の危惧が外れたと思い、鈴音がそっと息を吐く。
「ポテト、なんちて」
　重苦しい空気を打ち破る様に軽い調子で呟いたのは、既濁。
「咲哉達が帰って来るまでオレがこいつら見張ってっから、先に帰ってくれ。まっ、天摩の脅しやら、明莉の殺気やらでこいつら腰抜かして動けないだろうから、オレだけいりゃ十分だろ」
「そうさせてもらおう」
「頼んだっす」
　リーグレットと刑が、其々に呟きその場を後にする。
「……分かったわ」
　何処かで引っ掛かりを覚えつつも戦友の言葉を疑い切れず鈴音が姿を消したところで武志達の前ですらりとWILD CASEを引き抜く既濁。
「さてと」
「待ってください、既濁君」
　既濁の耳に響く御理の声。
　御理は、厳しい表情で既濁を見据えていた。

●
「御理？　一緒に帰ったんじゃねぇの？」
「既濁君はついつい、人を殺めてしまうかも知れませんので。帰る振りをしてみました」
　ポリポリと頭を掻く既濁を御理が見つめている。
「多分、咲哉のやり方じゃ意味ないと思うぜ？　どうせこいつら警察司法にも根回しできる奴等だろうから、こんな平気で麻薬密売なんてやれてたんだろ？」
「それでもですよ、既濁君。僕は今此処で、この人達を見捨てることは出来ません」
「あー……矜持ってやつ？」
　軽く問いかける既濁に小さく頷く御理。
「人は弱い生き物なので、絶望の縁に立たされた時。誰かの手を握って縋って居たくなります」
　そう言ってちらりと後ろを見やる御理。
　そこには震える様にしている武志の姿。
　はっきりと『死』への恐怖に怯えている。
「死が目前に迫った絶望の時。誰も自分の手を握ってくれなかったら。世界に見捨てられてしまったら嫌じゃないですか」
「ん～、まあそうは言うけどな、御理？　俺は1人のただの殺人鬼よ。殺したいから、殺そうとしているだけよ？」
「それは僕も同じですよ、既濁君。自分が死にそうになった時。それを見捨てる様な世界を守りたくありません。それが本当の世界の姿だと言うなら僕の目の前でだけはそうありたい。そう思っているだけです。綺麗事でも正義でもないそういった願望があるから、僕は既濁君がこの人達を殺そうとするのなら、この人達に手を差し出します」
「う～ん、参ったな……」
　どうするかと既濁が頭を掻く間に。
　咲哉達が数人の警察官を連れて戻って来た。
　既濁は思わず溜息を一つつき、WILD CASEをスレイヤーカードに収納する。
「既濁君」
「分かったよ。今回は殺さない。まあ、警察官連れて来られちまったらどうしようもねぇ」
　ぶっちゃけ彼等を殺すのに何の抵抗もないけれど。
　そうなると咲哉達に全力で止められるだろう。
　正直、その時勝てる要素は無さそうだ。
　既濁が武器を収めるのを確認し、御理がそっと息をついた。

　――武志達がその後どうなるか……それは誰にも分からない。

作者：長野聖夜	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2017年7月26日 難度：やや易 参加：8人 結果：成功！
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