その望み、叶えてあげる! 悪魔の甘い罠

    作者:芦原クロ

     都内某所、夜の公園で、疲れ切った表情のサラリーマンがベンチに座っている。
    「俺が上司だったら……」
    『上司になりたいの? その望み、叶えてあげるよ』
     いつの間にか、目の前に美少女が立っていた。
     短パンには、悪魔のような尻尾が付いている。
    「なに言ってんだ……上司にさせられるものなら、させてみろ」
     サラリーマンは、こんな美少女が自分に話し掛けて来るハズが無い、なにか裏が有るのだろうと思いながらも、半ばやけくそで返す。
    『夢に溺れて、堕ちてゆけばいいよ!』
     少女が言った瞬間、目の前は会社の風景に変わり、サラリーマンを慕う部下たちが集まって来る。
     公園には、サラリーマンと美少女以外、居ないので幻覚のようなものだろう。
     サラリーマンは幸せそうに、夜が明けても、その場から動くことは無かった。

    「……と、いう内容で、ラジオウェーブのラジオ放送が確認された。このまま放っておけば、ラジオ電波から生まれた都市伝説の手により、ラジオ放送と同様の事件が発生するだろう。何人もの一般人が無気力状態となり、何日も家に帰らない……そんな状況になるだろうな」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)は、パズルを解いていた手を止める。
    「この都市伝説は、願望通りの幻覚のようなものを見せて来るようだ。一般人なら無気力状態になり、そのまま幻覚を見続けるだろうが、灼滅者のお前達なら幻覚も破れる……ハズだ」
     ラジオウェーブのものと思われるラジオ電波の影響により、都市伝説が発生する前に、その情報を得ることが可能になったエクスブレインだが、予知では無い為、分からないことは多い。
    「この情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力だ。低確率だとは思うが、予測を上回る能力を持っている可能性が有る」
     そこだけは注意するようにと、念を押す。
     都市伝説はダークネスでは無いが、バベルの鎖の効果を持つので警察や一般人では対応することが出来ないのが現状だ。
    「幻などに負けずに、必ずこの依頼を成功に導いてくれると俺は信じてるぜ!」


    参加者
    立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312)
    関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)
    朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)
    枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)
    石井・宗一(高校生七不思議使い・d33520)
    高城・牡丹(高校生七不思議使い・d37764)

    ■リプレイ


    (「今回は願望通りの幻覚のようなものを見せて来る都市伝説の美少女さんか。一般人の方に被害が出ないうちに対処をしますか」)
     公園に到着し、石井・宗一(高校生七不思議使い・d33520)は1人、ベンチに座った。
    「それは、神社の裏手にある池の鯉が人間の男の子に恋をして、人間の姿……純情な少女の姿で現れた話。“好きです”と告白する。けれども鯉は、“好きです”以外、人間の言葉を話せない……」
     囮役の宗一は怪談を話し、百物語を展開。
    「望みを叶える、か……」
     関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)は、不意打ちなどを防ごうと周囲を警戒し、敵の出現を見逃さないようにしている。
     突如、美少女が出現した。
    『ねぇ、カッコイイおにーさん。恋愛願望が有るのかな? 望みが有るなら、私が叶えてあげるよ?』
     宗一の物語を聞いていた美少女が、気さくに話し掛ける。
    「望みかー、年相応の彼女が欲しいかな? 例えば、今、目の前に居る君とか?」
     自分で言っておいて、恥ずかしくなっている宗一。
    『な、ななな、なに言ってるの!? わ、わた、私が、あなたみたいなカッコイイ人を相手にするわけないでしょー!?』
     沈黙が少し流れたあと、美少女が顔を真っ赤にし、逃げ惑う。
    (「“望みを叶える”のは、実は恥ずかしがり屋で……友達を作る切欠を作ろうとしていた? 悪い言い方をするなら物で釣る的な感じ?)」)
     サウンドシャッターを使用し、音を遮断する、枸橘・水織(あくまでも優等生な魔法使い・d18615)。
    「何か見せられたとしても意志の力で、跳ね除けてみせる」
     立湧・辰一(カピタノスーダイーハトーブ・d02312)は、きりっとした表情で、しっかりフラグを立てている。
    「欲しいものや、願望か……今まで、運動をしてこなかったから自業自得なんだけど、運動神経かな」
     他にも欲しいものを色々と思い浮かべている、高城・牡丹(高校生七不思議使い・d37764)。
    『運動神経が欲しいの? その望み、叶えてあげるよ』
     冷静になった美少女が、牡丹に接近。
    「望みを叶えてくれるんだ! 私は、ふわふわした可愛い小動物に囲まれたいなあ」
     朝川・穂純(瑞穂詠・d17898)が警戒心ゼロで、要求した。


    『夢に溺れて、堕ちてゆけばいいよ!』
     能力を発動する為の、合言葉なのだろう。
     美少女の言葉に反応し、ぬいぐるみの様に愛らしい小動物が続々と現れる。
    「わあすごい、やったあ! もふもふ!」
     ウサギやハムスターにフェレット、フクロモモンガなどに囲まれ、モフモフぶりを堪能する、穂純。
    「みんな可愛い! 大事な友達だよう」
    『大事な、友達……』
     穂純の言葉に、ぴくっと反応する、美少女。
    「でも、動物多過ぎてもふもふの海に埋もれちゃう……」
    「大丈夫か、穂純?」
    「関島さんありがとう!」
     小動物に埋もれていた穂純を、引っ張り上げて助ける峻。
     穂純と峻の、仲睦まじい光景を、美少女は気になるのかチラチラと見ていた。
    「運動神経が……すごい」
     牡丹は幻覚を見せられ、水泳やビーチバレーで活躍している自分に、驚いている。
    (「願望通りの幻覚を見せる都市伝説か……。しかも見せられた一般人はずっと無気力状態になるのか厄介だな」)
     幻覚に浸っている牡丹に視線を向け、辰一は真面目に思案する。
    「人の欲望は際限なく増えて行く。だが、全てが叶う事はあり得ない。それを何の苦労も無く叶えて貰う代償に、幻覚に囚われ続けるとは、まさに甘い罠だな」
    「わー、関島さんが……褒めてる?」
     峻の言葉に穂純が笑顔で首をかしげると、美少女はぷいっと顔を背ける。
     誰にも見えないその顔は、真っ赤になっていた。
    「関島さんは望み、ないの?」
    「望みか……そう言えば今日は碌に物を食ってない。何か旨い物が食べたい気もする」
     峻を見上げて問う穂純に対し、言葉を返せば、ハンバーガーがきちんと袋に入った状態で出現した。
    「……何か出てきた。ハンバーガーか。だが正体不明の食べ物を口に入れる事は危険だ、そうだこれは罠だ……此処は耐えよう」
     普段の主食はパンの耳や半額弁当で、食生活がかなり偏っている、峻。
     美味しいものは食べたいけれどこれは危険と判断し、食欲をそそる香りにあらがい、峻は頑張って耐える。
    「あれっ? 関島さんハンバーガー食べないの? それなら私がもらっちゃうね!」
     警戒する峻の隣で、穂純は一切のためらいも無く、素早く全部食べてしまう。
    「すごく美味しかったよ!」
    「穂純、お前、躊躇いとか無いよな……何だろう、この敗北感は……」
     自分は頑張って耐えていたのに、警戒もせず完食した穂純に、唖然とする。
     基本的に真面目でストイックだが、妹分的な存在の穂純には、結構振り回されてしまう峻。
    「……穂純、帰りにコンビニにでも寄って行くか」
    「うん、コンビニ行こう! 楽しみ! まだお腹すいてて、アイスとか唐揚げ、食べたいなあ」
     安全な食べ物を食べたくなり、峻が穂純を誘うと、穂純は霊犬かのこを抱きかかえながら、幸せ満開な笑顔を浮かべた。
    「あ、でもお小遣いあんまり残ってなくて……」
     どうしようかと少し焦っている穂純の頭を、なだめるように撫でる、峻。
    「ああ、奢るので安心しろ。そのくらいの望みなら俺が叶えてやろう、任せとけ」
    「わあ関島さん奢ってくれるの? やったあ!」
     仲良しの2人を、羨ましそうに美少女がチラチラ見ている。
    「いっぱいあるけど、そういった場合はどれかひとつなのかな……あの日、読みたかった魔道書とか」
     幻覚から戻って来た牡丹が、他の願望を思い浮かべる。
    『全部叶えてあげるよ!』
    「魔道書だ。あの日は忍び込んだから、ゆっくり読めなかったんだよね」
     牡丹の願望を叶え、再び幻覚状態にする。
    「あー、お腹すいた」
     牡丹が呟くと、すぐさま、お菓子が出現。
     実物化したそれを美味しそうに食べる、牡丹。
    『と、友達? 家族?』
     一番切実な、牡丹の願望を読み取った瞬間、美少女がやや戸惑う。
     同類の眼差しを一瞬だけ向けてから、牡丹の望む幻覚を見せた。


    『次に行こう。イケメン眼鏡のあなたは?』
    「俺? 俺は願望は特にないし」
     美少女に話し掛けられたのは、辰一だ。
    (「あえて言うなら地元の平和か? ご当地ヒーローとして」)
    『願望が無い人間なんて、居るハズないよ。ねぇ、有るでしょ? 1つぐらい……』
     考える辰一の、無意識の願望を、美少女は読み取ってしまった。
    『見つけた。ふふ、男の子らしい願望ね。夢に溺れて、堕ちてゆけばいいよ!』
     美少女が、幻覚を見せる。
     辰一は、地元を苦しめる宿敵のご当地怪人との決着をつけ、怪人達がみんな可愛らしい眼鏡っ子の女子に変わり、灼滅者として生まれ変わった幻覚を見る。
     眼鏡っ子の女の子たちに囲まれ、仲良く銘菓を食べていたが、彼女らは辰一に体を密着させてきたり、「あーん」をねだって来たりと、うらやまけしからん幻覚状態におちいっている。
     辰一は、赤面して硬直したまま動かない。
    『キレイで可愛い、あなたは? どんな望みも叶えてあげるよ』
     美少女は水織に近づき、悪魔のような尻尾をゆらりと揺らしている。
    「“誰かを救える魔法使い”になるのが夢。でも、夢や願いは自分で叶えるもの……特に、こういった力で叶えるのは絶対に駄目」
     水織はきっぱりと断るが、美少女は食い下がる。
    『真面目ね、ステキ。でもホントに、無いのかな?』
     くすくすと笑いながら、まるでからかうように尋ねる美少女に対し、水織は少し思案する。
    「じゃあ……こんな事はやめて……みおと友達になって……っていうのはいいかな?」
    『え? え、ええー!? いや、むりむり、むりだから! 私みたいなのがキレイで可愛いあなたと友達なんて、むり!』
     美少女は顔を真っ赤にし、逃げようと後ずさる。
    「あなたの望みはなんですか? 出来る範囲で叶えてあげよっか?」
     幻覚が晴れた牡丹が、追い打ちをかけて来る。
    『いや、無いから! 大丈夫! 私が叶えるほうだから! えっと、えっと、でも今は逃げる!』
     美少女は大混乱し、あわあわと取り乱しながら公園をぐるぐる逃げ回る。
     そんな彼女を追いかけ、次第に追い詰めてゆく、水織。
    『まってほんとに! 友達は選んだほうがいいよ!?』
    「攻撃はボールや人形などを実物化させてぶつける……殺傷力は低い」
     水織に向けて柔らかいぬいぐるみなどを投げ、追いかけて来るのを阻止しようと必死な美少女。
     投げられたものを見て、冷静に判断している、水織。
    「逃げ場は、もう無いよ。みおと友達になって?」
    『あうあう』
     いつの間にか、壁際に追い詰められた美少女。
     女子なのに言動がイケメンと化している、水織。
    『もうどうにでもなっちゃえー!』
    「えっ!? ……何これっ!?」
     水織の着ていた服が、胸の谷間が良く見えるタンクトップに短パンといった、露出の高いものに変わる。
     都市伝説とまったく同じの、服だ。
    『友達ってなんだっけ? お揃いの服着たりするんだっけ? あとネイル? お化粧?』
     美少女はぼっちだったのか、まったく分からず疑問符を飛ばしまくり、水織の衣装を変えまくる。
     水織はとっさにキュアを試みるが、効果が無い。
     その間、着せ替え人形のごとく、水織の服装がセクシー系やカワイイ系など、色んなジャンルのものに変わってゆく。
    『み、みお……ちゃん、に喜んでもらいたいから、この力は全部、みおちゃんに……使うね』
     親し気な呼び名にすら慣れていない様子で、美少女は水織に喜んでもらいたい一心だ。
    「おかえり、ごめん。お楽しみを邪魔するつもりはなかったんだけど、そろそろこっちに戻ってきてほしかったから」
     牡丹は幻覚に浸ったまま帰って来ない辰一を、現実に呼び戻す。
     水織だけに力を使い、隙だらけの美少女を、牡丹が他の仲間たちに教える。
    「本当に欲しいものは自分の力で手に入れるべきだ。安易に与えられると輝きを失う」
     峻が俊敏に敵の死角へ回り込み、素早く強力な斬撃を浴びせる。
    「吸収できるのであれば、都市伝説さんを吸収します」
     連携した宗一は仲間たちに伝えながら、毒が塗られた大量の手裏剣を一斉に、敵へ投げる。
    「まぁまぁ楽しめたけど、これならいつも寝ているときに見ている夢と変わらないね」
     都市伝説を吸収しやすいように弱らせようと、牡丹が続き、魔法の矢を敵に飛ばす。
    「ちょっと名残惜しいけど……」
     愛らしい動物たちを目にやきつけてから、穂純は指輪から魔法弾を放つ。かのこは指示通り、回復と庇うことを優先している。
    『痛い! けど! みおちゃんがッ、幸せ過ぎて泣くまでッ、力を使うのをッ、やめない!』
     敵は反撃もせず、ただひたすら、水織に集中している。
    (「可愛い眼鏡っ子の彼女が欲しかったのか? 俺は?」)
     見せられた幻覚を思い出し、密かにうろたえながらも、辰一はオーラを込めた拳で、凄まじい連打を喰らわせる。
    『う、うう……もう、むり……』
    「一緒にきてくれるか?」
     消滅寸前の都市伝説に、手を差し出す宗一。
    『え? カッコイイおにーさん? え? プロポーズ? ええっ!?』
     混乱しながらも、差し出された宗一の手をおずおずと取り、都市伝説の美少女は吸収された。


    「これで被害は防げた」
     戦闘が終わり、峻は警戒を解く。
    「綺麗に後片付けをしてから帰ります」
     宗一は、後片づけを始めた。
    「帰ったら眠って、また夢を見ようかな」
     片づけを手伝いながら、牡丹が呟く。
    「すっかり静かな公園に戻ったね……ふわふわ動物達も可愛かったけど、やっぱりかのこが一番だよ」
     かのこを抱き寄せて撫でている、穂純。かのこも幸せそうだ。
    「友達になって、の願いを叶えた場合……一般人なら神隠し状態になったのかな? 行方不明事件的な」
     戦闘に参加出来なかったことを仲間たちに謝ってから、あれこれと考えを述べる、水織。
    「俺もまだまだ修行が足りない……」
     落ち込んで膝をつき、ひっそりと1人で自己嫌悪に走っている辰一だった。

    作者:芦原クロ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年7月23日
    難度:普通
    参加:6人
    結果:成功!
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