植本使のキルロイ参上~剣折る盾

    作者:魂蛙


     回転する剣が逃げ惑うサラリーマン風の男の首を刎ねる。矢の様に飛ぶ刀は、立ちすくむカップルを纏めて貫いた。そして、上空から急降下する六六六人衆が六一五位、植本・使は振り下ろした大剣で車を中身ごと叩き潰した。
     大剣を手放し対向車線上の車両のボンネットに飛び乗った使は、虚空から引き出した槍でフロントガラスを何度も何度も何度も突いて紅に染め上げる。
    「わお。次は内側にもワイパーつけようね」
     車両の後部に回り込んだ使は、老婦を貫いて壁に突き刺さっていた大鎌を手元に引き寄せ、血糊を振り払いつつ肩に担ぐ。気軽に後部座席のドアを開けた使は、絶望の眼差しで振り向く女と女が覆いかぶさるようにして守るチャイルドシートを、袈裟斬りで両断した。
     使が1つ念じれば、浮遊する刀剣達が路上を悲鳴と断末魔で埋め尽くす。使は自らも手中に召喚した得物を振るい、路上に無数の血溜まりを残しつつ駆け抜ける。
    「お? おぉっと」
     信号の看板に気付いた使は、そこで急ブレーキ。同時に一帯の浮遊武器も溶けるように虚空に消滅した。
     使は来た道を振り返り、流血に染まるその惨状に満足げに頷く。そして、懐から地図を取り出し、たった今殺戮と共に通った進行ルートを赤いペンでなぞり始めた。既に地図上に書き込まれていた同様の赤い線と共に、それは文字の体を成している。
    「う、え、も、と、つ、か、さ……と。できた!」
     地図上に赤ペンで綴られたそれは、使の血文字による落書きの完成を意味していた。
    「Killロイ惨状……なんちゃって」
     誰にでもなく照れ笑いを浮かべた使は、能天気な鼻歌を残してその場を後にするのだった。


    「六六六人衆が起こす大量殺戮を予知した。事件を起こすのは植本・使(うえもと・つかさ)。序列は六一五番で、かつてお前達と戦ったことのある六六六人衆だ」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)の説明が始まると、教室に集まった灼滅者達の表情が引き締まった。
    「殺戮を阻止しつつ使を撃退し、アジトに帰還した所でトドメを刺す。2つのチームによる二段構えの作戦で、奴を灼滅するんだ」
     撃退班と決戦班、2つのチームが今回の作戦に参加する事になる。
     ヤマトは撃退班に向けて、説明を続ける。
    「ふざけた話だが、使は犠牲者の血をインク代わりに、地図上に自分の名前を落書きしている」
     完成によって何らかの効果を発揮するような儀式的な物ではない。純然たる悪戯書きとして、使はそれを行っている。
    「出現地点に待ち伏せ、使を迎撃してもらう。殺戮の対象がいないと使は現れない為、事前に避難を呼びかける事はできない。一般人の防衛は、戦闘と並行して行う事なるぞ」
     戦闘が始まってから誰かが別行動で避難誘導する、というのも避けた方がいい。人数が欠けた状態で戦うには、使は危険すぎる相手だ。
    「自分の名前を落書きするという名目上、使の進行ルートは決まっていて、ある程度の一般人を殺害する度に使はルート上を前進しようとする。つまり、この前進を遅らせる事ができれば、それだけ犠牲者の数も抑えられる」
     殺戮対象となるのは、ルート上の歩道と車道にいる一般人だ。近隣の建物内にいる一般人は外に出ない限りは安全で、使がルートを逸れる事もない。
     使が自らに課すこの手の「ルール」を律儀に守る傾向にあるのは、前回の事件からも明らかだ。
    「落書きの完成の他に使が撤退する条件は、大きなダメージを負うか、騒ぎが広がり過ぎてルート上に充分な殺戮対象がいなくなった場合だ。いずれにせよ、撤退しようとする使はそれ以上追うな。一般人の被害を拡大させる事になりかねん」
     仮に灼滅者の妨害がなかった場合、使は5分程度で今回の殺戮を完遂する。使に充分なダメージを与える時間を稼ぐ為にも、一般人防衛と前進妨害が必須となるだろう。
    「使はダイダロスベルトやリングスラッシャーに近い性質を持つ、滞空する武器を自在に操って戦う。ポジションはキャスター、使用サイキックは殺人鬼のティアーズリッパー、ウロボロスブレイドのブレイドサイクロンとウロボロスシールド、日本刀の月光衝に相当する4種だ」
     ダイダロスベルトやリングスラッシャーに近い性質を持つ武器だ。破壊は容易だが、使による武器の再召喚もまた同様である。
     使は前回の事件においても、片手間で一般人を殺戮しつつ灼滅者達とも互角以上に渡り合う、という凄まじい能力を見せつけている。今回もまた周囲の人々への避難の呼び掛け、殺されそうになった人々の守護、そして使との戦闘を並行して行う事になるだろう。
    「サイキック・リベレイター照射の副作用によって、六六六人衆の戦闘力は強化されつつある。チャンスは今しかない。これ以上の殺戮を防ぎ、そして使を灼滅するんだ。お前達が力を合わせれば、必ずできる」
     ヤマトは力強い激励で、戦いに赴く灼滅者達を送り出した。


    参加者
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)
    病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)
    冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    咲宮・響(薄暮の残響・d12621)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)

    ■リプレイ


    「あれぇ?」
     植本・使が素っ頓狂な声を上げる。キャップのつばを押し上げて見る視線の先に、立ちはだかる者達。それが只の人間でない事はすぐに理解できた。
    「あ、なぁるほど」
     その正体を察した使は、ぽんと手を打った。
    「何か随分と久しぶりだね。知ってる顔はないけど」
     行く手を遮る灼滅者達に、使は人懐こい笑みを浮かべて声を掛ける。
     が、華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)は纏ったワインレッドのオーラ、ヴォーヌ・ロマネを以て対話は不要と突きつけた。
    「そう。最後の一画だし、殺り甲斐があっていいんじゃないかな」
     灼滅者達の敵意を歓待した使が、無造作に右腕を持ち上げる。
    「おにゅあまーく!」
     車道の上空数mの所を横断する形で、使に呼び出された刀剣が刃を地に向け並んでいく。
    「げっせっ!」
     舌を打った咲宮・響(薄暮の残響・d12621)が、これ以上の車の流入を防ぐべく着火した発煙筒を道路に投げ込む。使はそれに構う事無く、右腕を振り下ろした。
    「ごー!!」
     直後、一斉に降り注いだ刃は直下の車両を容赦なく貫きながら道路を区切るように突き立った。
    「華宮・紅緋、これより交戦を開始します」
     紅緋が使目掛けて神薙刃を放つも、使が正面に召喚した武器が組み重なって盾となり風の刃を破砕する。神薙刃を追う形で飛び出していた紅緋はオーラを纏った体で武器を押し退けて突破、そのまま使に飛び掛かった。
    「さあ、根比べといきましょう、植木使いさん」
    「植木は使わないなぁ。でも……」
     紅緋のトラウナックルをガードで受けた使がちらりと見やった先で、サラリーマン風の男の頭上に無数の槍が現れた。降り注ぐ槍は容赦なく男を貫いて地面に突き立ち、男に頽れる事さえ許さない。
    「生け花! ……死んじゃってるけど」
     車道と歩道、2ヶ所で起きた異常事態に周囲の人々が絶句する。その思考の空白を突いて、深く息を吸い込んだ病葉・眠兎(奏愁想月・d03104)がハイパーリンガルを併用しつつ彼女らしからぬ大声を張り上げる。
    「逃げろ! 離れろ! 建物に隠れろ!」
    「此処から離れろッ!」
     叫んだ小早川・里桜(花紅龍禄・d17247)のパニックテレパスが決定打となり、悲鳴と混乱が場を支配した。
     冴凪・勇騎(僕等の中・d05694)とハノン・ミラー(蒼炎・d17118)は逃げ惑う人々を誘導しつつ、襲い掛かる浮遊武器を叩き落としていく。
    「さぁ、勝負だよ、悪い六六六人衆!」
     震脚で地面を踏み鳴らし構えた幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)がスレイヤーカードを解放、
    「桃の八極拳、受けてみてっ」
     体を包む光がフリルをあしらった衣装として実体化する。桃琴が重心を落とすとフリルスカートが高まる闘気にふわりと膨らみ直後、桃琴が強く地を蹴り飛び出した。
    「六六六人衆のいいようには、させないんだからっ」
     紅緋の追撃を振り切った使は即座に長剣を呼び出し掴み、桃琴の右拳を受ける。桃琴は更に踏み込みながら繰り出す左右の連打で圧を掛けていき、使の反撃の横薙ぎを潜って躱しつつサイドに回り込み、ガードの空いた使の脇腹に抗雷撃を叩き込んだ!
     吹っ飛んだ使がビルの外壁に激突する。すぐさま浮遊武器が駆け付ける様に使の足元の壁に突き刺さり、更に後続の武器が階段状に続く。それを足掛かりに駆け上がった使は踏み切りつつ壁を蹴り、まだ人々が逃げ惑う車道へと一気に跳んだ。
    「行かせるか!」
     使と市民の間に位置取っていた朝間・春翔(プルガトリオ・d02994)が跳躍、妖の槍を突き出しつつ使と激突する。一合の後、春翔は使の太刀の袈裟斬りは叩き落とすように捌くも、使の背後から肩越しに来る大鎌の追撃をまともに受ける。それでも春翔は体の制御は失わず、体ごと振るう槍の薙ぎ払いで使を押し返した。
     着地しつつも片膝を着いた春翔に眠兎が駆け寄り治療を施す。車上に着地した使の前には灼滅者達が展開し、容易には抜かせまいと壁を作った。
     使が無造作に放り投げた太刀は凄まじい勢いで飛び、歩道の隅で蹲っていた女の胸を貫く。
    「さて。そろそろ筆を進めようかな」
     周囲に武器を召喚した使は、いとも気軽に呟くのだった。


     車のボンネットをひしゃげる脚力でもって弾丸の如く飛び出した使を、勇騎がクロスグレイブで迎え撃つ。随行する武器から斧と剣を掴み取って交差させつつ振り下ろす使の一撃を、勇騎はクロスグレイブを振り上げ弾く。踏ん張った使が再度前に出て振るう剣と斧に周囲の武器の斬撃が重なり、分厚いラッシュとなって勇騎に襲い掛かった。
    「この先に行きたいんだけどさ、通してくれない?」
    「ここで止める。……必ずだ!」
     勇騎は二重の袈裟斬りを浴びながらもクロスグレイブを振り被り、横薙ぎの一撃で使の体勢を崩す。更にフォロースルーからクロスグレイブを頭上で一周、遠心力を上乗せした一撃を叩き付ける。受けつつも自ら跳んで衝撃を殺した使が、そのまま独楽のような旋転から斧を振り下ろした。
    「まだまだ止まらないよ!」
     勇騎は何とかガードを間に合わせるも、重い衝撃に痺れて体勢を立て直すのが遅れる。
    「俺達は1人じゃねぇんだぜ?」
     着地した使を反射的に飛び退かせたのは、響の放ったガトリング連射だった。
    「なら、これを止めるには何人要るかな?」
     使が車の向こう側に飛び込んだ直後、車の影から大量の武器が噴出するように飛び出し、方々に飛散する。
    「行ったぞ、里桜!」
     飛来する武器を迎撃しながらの響の言葉に頷いた里桜は武器の進路上に陣取り、バスターライフルを構える。ビームの狙撃で1本は撃墜したもののもう1本は間に合わないと判断し、即座に後退して逃げ遅れた人々を背にして立ちはだかる。
     大量に召喚した影響で細かい操作は効いていないのか、真っ直ぐに飛んでくる剣。その切っ先はガードを上げた里桜の腕に刺さり、そして厚く纏ったオーラに阻まれて止まった。
    「早く逃げるんだ!」
     振り返り市民を叱責した里桜は、柄を握って剣を引き抜いた暴れる剣を力尽くで抑え込み、その刃身に手刀を振り下ろして叩き割った。
     浮遊武器への対応で手薄になった所を突いて使は突破を試みるが、マークしていた紅緋が行く手を遮る。
     それでも強引に押し通る事を選択した使は、足元から突き上げる紅緋の影業モンラッシェの刃を跳躍で越える。そこにガードレールを踏み台代わりに跳んだハノンが蹴りで強襲するも、使は召喚した浮遊武器を盾にこれを防いだ。
    「コメントに……困る……掃除が大変、すごく迷惑」
     反動で跳ねつつ旋転したハノンが右の廻し蹴りで武器を蹴散らし、立て続けに左のローリングソバットを使に叩き込む。
    「それは清掃員さんが頑張ってくれるよ。ほらあれ、こよーのそーしゅつってやつ?」
     使が鋭く手首を返すと、蹴散らされた武器が制御を取り戻しハノンに逆襲する。
    「全く笑えない冗談ですね」
     着地際を狙って突っ込んだ紅緋の拳をガードで受けた使は、更に紅緋が踏み込むその瞬間に細かいステップを刻んで立ち位置を入れ替えた。
     紅緋は即座に反転追撃しようとするも、その眼前に武器が降り注いで阻む。
     桃琴が付近の浮遊武器を叩き落としながら使を追い、オーラキャノンを投射する。後方から迫る光弾を跳んで躱した使は、中空で静止した武器を足場に再跳躍して桃琴の第2射も回避する。
     ビルの外壁を蹴って強襲する使が振り下ろすナイフが、ガードを上げた桃琴の右腕に突き刺さる。
    「痛ぅ……かまえたっ」
     痛みは覚悟で乗り越えた桃琴は腕に力を込めて刺さった刃を固め、離脱の遅れた使の鳩尾に左の掌底を押し当てる。直後、桃琴の掌から溢れ爆発的に膨張するオーラが使を吹っ飛ばした!
     後退りながら受け身を取った使は、追いついた紅緋が飛ばす神薙刃を虚空から掴み出したナイフを振るって弾き飛ばす。
     使の前進を許した事で、また多くの市民が使の射程圏内に捉えられた。市民に混乱そのものは伝わっているが、それが明確な避難の意思に繋がっていない。灼滅者達も避難を促すが、使がばら撒いた浮遊武器の襲撃の方が早い。
     いち早く市民を庇いに動いたのは眠兎だ。ライドキャリバーのケッテンラビット号に車から逃げ出す人々の対応を任せ、自身は歩道に立ちはだかった。
    「1人でも多く……守ります!」
     眠兎が投げ放った護符が前面に結界を形成、殺到する武器の群れを弾き飛ばす。
    「おお? こっちも頑張らないと」
     使は楽しげに呟き、人々が逃げ交う車道を駆ける。
    「余所見なんて余裕だな? 俺らのお相手してくれるんじゃねぇの?」
     すれ違い様に男を斬り捨てた使に、それ以上の暴虐を許すまいと突っ込んだ響が体当たりをぶちかました。使はトラックの車体に押し込まれたものの、呼び寄せた浮遊武器が響の背後に殺到する。
    「響!」
    「あいよ!」
     刃が響の背中に届くより早く、悉く槍で弾き飛ばしたのは春翔だ。春翔が振り返り様に槍を薙ぎ払う絶妙のタイミングで響が頭を下げ、その向こうの使に薙ぎ払いが直撃する。
    「今の内に!」
     春翔の言葉に頷いたが勇騎が怪力無双で玉突き事故を起こした車両を退け、里桜がそれを避難ルートとして逃げ遅れた市民を誘導する。
     体勢を立て直した使は灼滅者達の連携を身をもって知り、浮かべる笑みに苦笑の色を混じらせていた。
    「ちょっとペース上げないと、厳しいかも?」
     剣と盾の押し相撲。命懸けの拮抗が、崩れようとしていた。


     先に仕掛けたのは使だった。浮遊武器を従えた使の攻勢に灼滅者達が押され、遂には進行ルートの7割程に至る交差点にまで来ていた。ここが正念場であると確信した双方による、激しい攻防が始まる。
     使の一撃を受け、右手で地面を掴むような3点接地で大きく後退るハノン。矢のように飛んでくる刀の追撃は展開したWOKシールドで弾き飛ばし、クラウチングスタートの体勢から弾ける様に飛び出した。
     ハノンは両手で握ったマテリアルロッドで鎌をカチ上げ、斧を叩き落とし、一気に使に肉迫する。使が繰り出す槍の刺突をヘッドスリップで躱しつつ、ハノンが懐に飛び込んだ。
    「あんたみたいな迷惑野郎は――」
     ロッドが使の土手腹を直撃するインパクトの瞬間、ロッド先端を魔力が炸裂する。
    「――ぶん殴られて吹っ飛ばされるのがお似合いだってんだよ!」
     ハノンがフルスイングでロッドを振り抜き、使をぶっ飛ばす!
     地面を転がりながらも受け身を取って立ち上がる使を、紅緋が追撃する。紅緋はオーラを纏った拳で迎撃する浮遊武器の刃を砕き、踏み込みからのストレートを使に叩き込む。ガードして後退った使の足元からモンラッシェの刃が突き上げ、2度、3度と使を打ち上げた。
     既に跳躍し使の直上を取った紅緋は、荒ぶるオーラを圧縮するように組んだ両拳を振り下ろし、使を地面に叩き付けた!
     地面に激突しながらも使は即座に跳ね起き、紅緋の着地際を狙う。
    「させないよっ」
     その行く手を遮ったのは桃琴だ。がっちりとガードを固めた桃琴は、使の斬撃のラッシュに耐えて紅緋が離脱する時間を作る。
     だけではない。
     桃琴は使のラッシュの切れ目、渾身の直突きを打ち込むその隙をじっと窺っていたのだ。
    「これで、どうだーっ」
     刹那の間隙を打ち抜、固く握り固めた桃琴の右拳が、使の水月を捉えた!
     数歩よろめきながらもダウンは堪えた使が、召喚した戦斧を大上段にから振り下ろす。桃琴はバックステップで直撃は避けたものの、アスファルトを爆砕するその凄まじい余波に吹っ飛ばされた。
     眠兎は桃琴に防護符を飛ばしながら、使の行く手をケッテンラビットと共に遮った。
     減速なしで突っ込む使が豪快に薙ぎ払う斧が、ケッテンラビットを撥ね飛ばす。更に刃を返して振り下ろす使の斧が眠兎を吹っ飛ばし、乗用車の車体に叩き付けた。
     使は召喚した槍を飛ばし、眠兎を追撃する。眠兎は既に体を起こしていたが、その場から動かない。動けなかった。
     車に激突した瞬間、見えてしまったのだ。既に浮遊武器に殺害された、運転席の男。そして、後部座席で泣きじゃくる、幼い子供を。
     覚悟を決めて立ちはだかった眠兎は、肩を貫かれながらも槍を止めてのけた。
    「おお。無茶するなぁ」
    「殺すしかできないヒトには、理解らないでしょうけれど……!」
     引き抜いた槍を地面に叩きつけて折った眠兎は使を睨み、そして夜霧隠れを発動する。眠兎は霧を目くらましに車内の子供を救出して後退、代わって霧を突き破り使に突っ込むのは周辺に散った浮遊武器の排除と生存者の避難誘導を完了した勇騎と里桜、春翔、響の4人だ。
    「動きを止める!」
     重心を低く地を這うように駆ける春翔の槍の水平斬りが使の太腿を切り裂き、その動きを鈍らせる。退避しきれないと判断した使は正面に武器を召喚、組み重ねて盾とする。
    「せいやァッ!!」
     が、次いで突っ込んだ響がオーバーハンド気味に振り抜く拳の一撃が、盾を粉砕する。
    「行けるか、里桜!」
    「ああ、問題ない!」
     並んで飛び出した勇騎と里桜が、同時にクロスレンジに飛び込む。
     虚空から剣を掴み出して振り下ろす使の初動を勇騎が上段蹴りで潰し、直後に里桜が踏み込み肘打ちを抉り込み使の体勢を崩す。2人は背中を合わせて互いのフォロースルーを相殺、そのまま鏡合わせで踏み込み掌打で使の胸を捉えた。
     瞬間、掌から放つ勇騎の制約の弾丸と里桜のオーラキャノンが――、
    『はァああっ!!』
     ――零距離で炸裂した!!


     ブッ飛んだ使はバク宙で姿勢を制御、そのまま街灯の上に着地する。
    「あー。もう誰もいないね」
     街灯の上でしゃがんだ使はキャップを押し上げて先を見渡し、そして残念そうに溜息をついた。
    「かっすかすに掠れてるし、最後まで書ききれなかったし。これは、ダメダメだなぁ」
     潔いまでの敗北宣言だったが、まだ多少の余力を残しているように見える使のそれを、灼滅者達は素直に受け入れる気にはなれなかった。
    「これ以上殺り合うのはちょっとしんどいし仕方ない、帰ろうかな。じゃ、そーゆーことで!」
     ひらひらと手を振りその場を後にする使を、灼滅者達は追う素振りだけ見せておき、そのまま撤退を許した。
    「怪我人はいませんか!?」
     一息つく暇も惜しんで一般人の治療の為に動き出したのは眠兎だ。
    「勇騎も怪我はないか?」
    「お互いに、な」
     勇騎と里桜は互いを気遣い合ってから、使が逃げた先を見つめる。
    「あとは、あいつにケリをつけてもらうだけだ」
     無茶をしがちな妹を想った勇騎の呟きに、桃琴が頷いて拳を握った。
    「うん、必ずあいつは倒してくれるよ! ……桃たち頑張ったものね!」
     使にダメージを与え、仲間の灼滅者達が待ち伏せるアジトに撤退させた。多くの人々の命も守った。盾としての使命は、果たした。
     そして使の灼滅は、剣たる灼滅者達に信頼と共に託されたのだった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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