慈眼城のナミダ姫~白炎、牙鳴らし

    作者:高遠しゅん

     慈眼城の直下、天王山トンネル内部。
     スサノオの力により両端を封鎖されたそこで、スサノオの姫・ナミダと、有力なスサノオ達が、儀式の準備を進めていた。
     ――慈眼城のスサノオ化が成功すれば、我らの戦力は大幅に増強されるであろう。
     ――この儀式が成功すれば、数多のブレイズゲートの全てのスサノオ化も可能になる。そうなれば、爵位級ヴァンパイアをも凌駕する事だろう。
     準備にいそしむスサノオたちが口にするのは、ブレイズゲートをナミダ姫が喰らい吸収することでのスサノオ勢の戦力増強のこと。
     だが、それにはひとつの懸念があった。
     ――灼滅者の横やりが入らなければいいが。
     多くの力を結集する儀式の最中に灼滅者が事を仕掛けてきたなら、ナミダ姫を守ることができるかどうか。
     その懸念にはナミダ姫自身が大丈夫と言い切った。
    「灼滅者は、一般人を苦しめ殺すような行為を嫌うが、この儀式による一般人への被害は皆無なのだ。それどころか、ブレイズゲートが消失する事は地域の安全にも繋がる。灼滅者が我らを邪魔する理由は無いだろう」
     スサノオたちは、姫の言葉に頷いた。
     それに灼滅者たちは六六六人衆とアンブレイカブルとの決戦を控えている。
     ――我等を敵に回すは愚挙。
     納得したスサノオたちは、再び儀式の準備に戻っていく。
     気配を殺した高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が、その様子を窺っていることも知らずに。


    「慈眼城の直下にある天王山トンネルが、通行止めになっているのは知っているかい」
     緊急の呼び出しを受けた灼滅者たちの前で、櫻杜・伊月(大学生エクスブレイン・dn0050)は手帳と地図に書き込むことに忙しい。
     不審に思った学園の灼滅者、高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が潜入調査したところ、スサノオの姫・ナミダとスサノオ達が、ブレイズゲートである慈眼城を喰らいスサノオ化するという儀式を進めているという情報を得ることができたという。
     また、スサノオ達が慈眼城を狙うという事については、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)も予見しており、漣・静佳(黒水晶・d10904)と紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は、スサノオ大神の力を得たスサノオ達によりブレイズゲートが利用されるだろう事を予期していたけれど。
    「これが、思っていたよりも大事になりそうだ」
     伊月は息をつく。
    「現時点でスサノオ勢力とは、ある程度の友好関係がある。六六六人衆との決戦時にも協力が見込まれている」
     スサノオもダークネスであることに違いない。ブレイズゲートという強力な力を、スサノオが喰らってしまう事は、ダークネス勢力の強化に繋がってしまうだろう。
    「力を手に入れるところを傍観するわけにはいかない。どの選択肢が正解なのかは、見えないのだが」
     現場に向かい、各自の判断で行動を行ってほしい。
    「方法は、君たちの判断に任せることになる」

     妃那の情報によれば、儀式の最中はスサノオ達の力は儀式に注ぎ込まれる為、戦いを挑めばスサノオの姫・ナミダの灼滅も可能な状況のようだ。
     これまで培ってきた交流はあるが、このままダークネス組織の強大化を見過ごすことも難しい。灼滅を視野に入れて襲撃する選択もあり得るだろう。
    「ナミダ姫の灼滅に成功したならば、スサノオ勢力を壊滅状態とする事ができるだろう」
     ただ、攻撃を仕掛けたがナミダ姫の灼滅に失敗した場合、スサノオ勢力と武蔵坂の関係は修復不能な敵対関係となる可能性が高く、攻撃を仕掛けるならば万全を期す必要がある。
     ナミダ姫への襲撃を行わない場合、慈眼城の攻略を行うという方法もある。
     儀式の結果なのか、慈眼城には、戦闘力が大幅に強化された『壬生狼士』や『壬生狼魂』が出現しているようだ。この『壬生狼士』や『壬生狼魂』を撃破する事で、『慈眼城』を喰う事で得られるスサノオの力を大きく減少させる事ができるだろう。
    「この方法を取った場合も、スサノオ勢力との関係は悪化するが、偶然ブレイズゲートを探索した結果であると言い抜けられるので、敵対関係とまではならない筈だ」
     最後に、儀式中のナミダ姫の所に出向いた上で、慈眼城の儀式を認め、恩を売り友好を深めるという選択もあり得る。
    「慈眼城の探索と交渉を同時に行う事で、スサノオの戦力強化を抑えつつ、関係悪化を最小限に収める事もできるかもしれない」
     対策は大きく分けて三種類だ。

    「ダークネス勢力の中では、スサノオは強大な勢力と言うわけではなかった。しかし、ブレイズゲートのスサノオ化は、その前提を覆してしまう危険性がある」
     決断はすべて灼滅者たちの選択に委ねられた。
    「スサノオ勢力を壊滅させる好機ではあるのだが、どうするべきかは君たちの判断に任せることになる」
     君たちであれば、良き未来に繋がる方法を見いだせる。
    「全員での帰還を、私は学園で待っている。頼んだよ」


    参加者
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    桜之・京(花雅・d02355)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    漣・静佳(黒水晶・d10904)
    辻凪・示天(彼方ノ深淵・d31404)
    ペーター・クライン(殺人美学の求道者・d36594)

    ■リプレイ


     耳のすぐ側を掠めるように、鋭い突きが風を切る。
    「……ったく、面倒は嫌いだっつーのに」
     ここしばらくの任務は縦に横に思惑の糸が錯綜し、斬り捨てて先に進めぬ煩雑さが鬱陶しい。ダグラス・マクギャレイ(獣・d19431)が舌打ちする。
     その間にも正確に撃ち出された妖気が冷気の槍と化して、立ち塞がる壬生狼の残影を穿ち抜いた。
    「そうかしら。私はこのやり方、嫌いではないの」
     とろりとした笑みを鴇色の瞳にのせ、桜之・京(花雅・d02355)が歌い上げるのは、心動かし惑いを呼ぶ女神の哀歌。囚われた敵影が同士討ちを始めるなか、ペーター・クライン(殺人美学の求道者・d36594)は唇の中で主なる天の父に恨み言を言いそうになり、さすがに不敬と息をつく。
     スサノオの儀式の最中に、ブレイズゲートを探索しているのは『不幸な偶然』ということにしてある。面倒ごとに巻き込まれている感は否めないけれど。
    「だからといって、このまま帰るのも癪ですよね」
     笑みを浮かべ、軽く地を蹴って傷を負った壬生狼の背後に滑り込む。身を包む帯が狙い違わず狼のうなじから首筋を切り裂き、そのまま塵とさせた。
     手にしたギターで柔らかな旋律を響かせ、傷を癒すのは高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)。天王山トンネルに忍び込み、スサノオの儀式の情報をもたらした本人だ。
     予想とは少し違う形ではあったが、スサノオの動きを把握できたことに達成感はあるにしろ、どうにも気になるのは元々いた慈眼衆や羅刹の分割存在たち。
     以前は刺青羅刹などがこの城で、何やら画策していたようなのだけれど。
    「分割存在になって慈眼城に潜んでるとかは、まさかないですよね?」
    「そこまで、考えると……少し、不安です、わ」
     漣・静佳(黒水晶・d10904)も、手にした標識に黄色の光を明滅させながらも、表情を陰らせた。静佳もまた、スサノオがブレイズゲートに目を付けることを危惧していたひとりだ。
     自分たちの班は、ブレイズゲートのもつ力を少しでも削ぐためにと慈眼城へ来たが、この行動が現在地下深くのナミダ姫との交渉に向かった班にどう影響するのか。しかし、丸のままの慈眼城をみすみす喰らわせてしまうことも懸念の一つ。
    「ここでスサノオ達を、無条件に強化させるわけにはいかない」
     辻凪・示天(彼方ノ深淵・d31404)が指に嵌める黒銀の指輪が鈍い光を放ち、背後に回り込もうとする一匹の壬生狼の胸を貫いた。周囲の気配を探り、淡々と己の役目を果たす彼の両目は隠されていて、表情らしい表情は窺うことはできない。示天も確かにナミダ姫の交渉の顛末は気になるが、事が起きたならその時に対処すればいいと思う。
     けらけら高笑い、最前衛で自在刀【七曲】を振るう楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は、むしろ普段と変わらないことをあからさまに強調する。
    「アレレー、何だか普段と空気が違ェ気がすッぞー?」
     大上段から刀を振り下ろせば、防ごうとした刀ごと壬生狼を真っ二つに断ち切った。返す刀で二匹目も斬りあげ、仕上げにもう一匹……と、にゃあと至近で猫の声がした。
    「アリアーナ、守って!」
     空を裂く刀、愛らしく羽ばたく羽を散らす魂の半分に、仙道・司(オウルバロン・d00813)が後方から声を上げた。ギターに癒しの曲を響かせたなら、傷がみるみる消えていく。
    「おイタがすぎるぜェ、犬ッコロ」
     斬と振るえば静けさが降りる。
    「このフロアは、あらかた片付いたようですね」
     司が呟けば、視線を周囲に廻らせていた示天が頷く。目の前には、上階と地下に続く階段が黒々と口を開けている。
    「他の班の気配もないのね。別行動をしていたら、はぐれてしまっていたのかしら」
     確かに慈眼城攻略班は、同じタイミングで行動を開始していた。それなのに入口をくぐれば鉢合わせることも、気配すらも感じられないのだ。
     未だにブレイズゲートには謎が多いと、京が呟く。
    「私が隠れて見てたのは、バレてないみたいでよかったです」
     妃那がほっとしたように笑った。羅刹たちも跋扈していた慈眼城は、スサノオの儀式のためか壬生狼の住処となってしまったようだが、強化されているとはいえ特別に警戒されている様子はない。
    「回復の手も、整えてあります、わ」
     全員で帰ること、それが静佳の密やかな決意だ。この先は危険度が増すことは知っている。だからこそ一人も倒れさせない。全員で心霊手術の準備も抜かりなく、これならば充分奥へ進める。
    「ならば進みましょう。スサノオの力を、たっぷり削げたらいいですね」
     ペーターは満面の笑み。こうしている時間すら惜しいくらいだ。
    「『下』で何か起これば、こっちにも伝わるだろうぜ」
     油断なく周囲に気を張り巡らせるダグラスもまた、未だ物足りなさを感じている。半ば憂さを晴らしに来たのだ、まだまだ足りない。
    「はい確認。俺たちゃー今日、たまたま来ちゃった灼滅者ご一行サマってコトで。んじゃ、清く正しくいつも通りにLet's灼滅! 行ってみよっかァ!!」
     盾衛の号令に視線を交わし合う。
    『偶然スサノオが大がかりな儀式をしてる最中に、偶然スサノオが狙うブレイズゲートに偶然気合い入れて鍛錬に来ちゃった灼滅者』たちは、地下に潜る階段へと足を進めた。


    『この先へ往くこと罷りならん』
    「罷りならんと言われましても」
     この先に用がありますので、通らせていただきますから。
     ペーターの繰り出す裁きの光条が、刀を振り上げる壬生狼の胸元に吸い込まれる。立て続けに爆ぜた光に目を細め周囲を見渡せば、ほの暗いあちこちから幽鬼のごとく壬生狼が形を成してくる。
    「これ全部倒したら、どうなるでしょうね」
    「さあな」
     真紅の柄、槍を構えたダグラスが唇の端を上げた。今までも一部のダークネスには散々煩わされてきた。ここで爵位級にも匹敵する力を付けるなど、更なる面倒ごとが増えるに違いない。
    「そう簡単に増えられて堪るか」
     肌を浅く裂いた刀の痛みも痛快だ。鋭い爪牙の一閃が、形を成したばかりの壬生狼に食らいつく勢いで引き裂いた。お前らが喰らう心算なら、こちらも正面から喰らってやる。
    「相手を務めて貰うぜ」
     回復手を務めながら、妃那は物思う。
     慈眼城にはスサノオだけではなく、他のダークネスの分割存在も多かった。特に羅刹の存在は、分割存在としても見逃すことはできないはずだ。
    「地上の方も、行けたら行ってみませんか」
     ガラシャと名乗っていた慈眼城の主、彼女はこの状況をどう思っているのだろう。もし何かの形で知ることができたなら。
    「悪くない提案ね」
     視界に入る壬生狼は四体。浅葱の羽織を数えながら、京は妃那に微笑み返す。その間編み上げた白布の翼が、全方位の壬生狼を絡め取り十重二十重に捕縛する。
     スサノオは己を強化したい。灼滅者はそれを見過ごせない。込み入っているように見えても、今回の騒動の根底は単純だ。ダークネスと灼滅者の生業が噛み合わない事など、今まで幾度もあったではないか。ブレイズゲートを喰らうことで力を増す、その手際は例えば、六六六人衆などより余程真っ直ぐで好感すらある。
     もし、そのままの慈眼城をナミダ姫が喰らったなら、どれほどの『強敵』となるのだろうか?
    「見過ごせないのが、惜しいくらい」
    「はい?」
    「内緒よ」
     京の小さな囁きは、妃那には届かなかったようだ。

    『我らが城に踏み入る者に、一刀を持って天誅を下す』
    「テンチューとか知らねェけど! 特に理由は無ェけど御用改めDEATH!!」
     大きく跳ぼうかと思ったら、天井が思いのほか低かった。なんてことなど気にもせず、盾衛は水を得た魚のように壬生狼の合間を駆け巡る。一見して手当たり次第にも見えるが、時折閃く藍の瞳の奥は、敵の動きなど見通し把握済みだ。
    「おやつの骨でもくれてやっから、神妙にしやがれ。壬生のワンコロチャンどもよゥ」
    「アリアーナ、一緒にいきましょうっ」
     司も負けずとウイングキャットのアリアーナに笑いかけた。みゃあんと元気な返事を聞き、エアシューズのホイールを鳴らし飛び出した。浅葱の羽織の合間を縫うように駆け、風に乗り数体を巻き込み薙ぎ払う。
     力を借りたこともあるスサノオ、ナミダ姫の考えと灼滅者は共存できればいいと思う。色々考えてもいたけれど、この場はナミダ姫と話し合いに行った班の成果を信じるだけだ。それに、
    「戦ってる方が性に合ってるんじゃないかって、思うんですよ。ね、アリアーナ」
    「皆さん……その、お気を付け、て」
     なんだか楽しそうに見える。静佳は小さな笑みを唇に乗せた。続けざまに黄の光を明滅させ、縦横に癒しを広げていく。
     スサノオたちとはこれまでも大きな諍いなく付き合い続けてきた。これからもその関係を続けていけるだろうか。彼等の領域と灼滅者と一般人、住み分けて未来を見据えることは叶わないのだろうか。
    「交渉班の皆さんを、信じたいと……思います」
    「同等の力関係であればこそ、交渉は成立する」
     一匹ずつ、正確に、精密に。正面に現れた壬生狼を捉え切り裂いて、示天は頷く。
     儀式によって力を得たスサノオが、将来的に灼滅者たちを邪魔とする可能性は、決して低くはないだろう。彼等はダークネス、脅威となるものの存在を野放しにしているほど愚かではない。
     万一『いずれ邪魔になる可能性の高い灼滅者を、他勢力に便乗して排除する』と言う発想に至った時、灼滅者が止められるように。
    「多少心証は悪くなるだろうが」
     一匹でも多く壬生狼を倒し、力の元となるものを灼滅するのが、今、ここにいる自分たちが為すべき事だ。

    『壬生狼の魂は死なず。大戦にて再び集い、大義を為さん……』
     消えていく壬生狼の一匹が吠える。
    「この台詞、百ペンくらい聞いたぜ」
     刀を鞘に収め、盾衛が斬られた肩を押さえて毒づく。盾衛に心霊手術を施すのは示天だ。
    「分割存在には……時の流れや情勢も、何もないの、かしら」
     どこか哀れに思うと、癒しの光を分け与えながら静佳が俯けば、その背に京が微笑みかける。
    「何も考えずに戦うだけでいいなんて、案外気楽かも知れないわよ」
     私は御免被りたいけれど。
     もう一つ階段を降りたなら、白い炎を纏う巨大なスサノオが待っていることは知っている。ここに辿り着くまでに負った傷はそう深くはないが、強化されている以上は万全の体制で挑みたい。
    「行けるようなら、上の方にも行きたいです。羅刹の分割存在たちが」
    「……待って」
     妃那の言葉を遮るのは司だった。
    「何か、聞こえませんか」
     みゃ! とウイングキャットが毛を逆立てた。
    「……地響……いや、地震か」
     床に触れながらダグラスが言う間にも、体に感じる揺れが大きくなっていく。
    「これはなんだか、わかりやすいタイムリミットの雰囲気ですね」
     ペーターが天井を見上げれば、細かい塵が落ちてきた。
     慈眼城全体が鳴動する。
     壁や床が、天井がひび割れ、底も見えない闇に落ちていく。
    「急いで脱出しましょう。脱出の時間はあるはずですっ」
     司の声に、最深部攻略を諦め、階段へと最速で駆けていく灼滅者たち。
     その背に遠く、狼の鳴き声が追いすがる――。


     立っていられないほどの揺れの中、地上へと飛び出したなら、そこは地震の様子も何もない。普段と変わらぬ様子の入口付近だった。距離をとれば、脱出してきた他の侵入班たちがいることも分かった。
    「揺れていたのは、ブレイズゲートの中だけということか」
     示天が呟く。それも道理だ。儀式中のナミダ姫の元へ向かった交渉班が、何らかの成果を上げたのか。それともナミダ姫がブレイズゲートを『喰らい始めた』のか。
     儀式によって変化しつつあるならば、不思議も何も無い。
    「……城が!」
    「白く、燃えて。あれは!」
     廃墟が積み重なったような形をしていた慈眼城が、次第に輪郭を失い、白く燃えさかる巨大な狼に変化していくのを、灼滅者たちは息を呑んで見上げた。
     いつか慈眼城の地下で戦ったものとは、比べられぬほど。山のような巨大さだ。
    「壬生狼も、あんなに」
     その足元には、見たこともない数の壬生狼型のスサノオが実体化していく。
     視線の先には慈眼城から脱出した灼滅者たちがある。
     冷たく、射るような視線。紛れようもない殺気。
     数えきれぬほどの壬生狼が、飢えた獣の如き殺気を灼滅者たちに向けてくる。
    「……あー、俺らもしかして、やべェ?」
    「面白い。戦(や)ろうってのか」
     張り詰めた緊張感は、不意に途切れた。
     巨大なスサノオの足元に実体化した壬生狼の、およそ半数ほどが霧消したのだ。

     ――おおう、おおう、おおう。
     どこか哀しみを帯びたスサノオの遠吠えが響き渡る。
     それきり、スサノオたちは灼滅者に背を向け、何処かへと消えていく。
     最後に視線だけを残し、巨大なスサノオも溶けるように消えた。

    「消えた壬生狼は、俺たちが灼滅した成果ってことでしょうか」
     さすがにあの数と戦闘となれば、劣勢どころか一方的に蹂躙されて終わっていたかも知れない。最後に肝を冷やしたが、目的は充分果たしたと言えるだろう。
     慈眼城は跡形も無い。内部にいた無数の分裂存在たちがどうなったのかは、今やナミダ姫に聞くしかない。
     どちらにしても、もうここにいる理由は無いのだ。
    「学園に、帰りましょう」
     交渉班の成果がどうなったのか、報告も聞かなければ落ち着けない。
    「帰ろう」
     みゃあ、とウイングキャットが鳴いてふわり羽ばたいた。
     猫に導かれるように、灼滅者たちは足を踏みだした。

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月1日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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