慈眼城のナミダ姫~儀式、目前にして

    作者:陵かなめ

     慈眼城の直下、天王山トンネル内部。
     トンネルの両端を封鎖したスサノオにより、交通の途絶えた天王山トンネル内で、スサノオの姫・ナミダと、有力なスサノオ達が、儀式の準備を進めていた。
    「慈眼城のスサノオ化が成功すれば、我らの戦力は大幅に増強されるであろう」
    「それだけではない。この儀式が成功すれば、数多のブレイズゲートの全てのスサノオ化も可能になる。そうなれば、爵位級ヴァンパイアをも凌駕する事だろう」
    「だが、心配なのは灼滅者よな。この儀式には多くの力を結集してしまう。儀式の最中に、灼滅者の横槍が入れば、姫をお守りする事ができるかどうか……」
     スサノオ達が、儀式の意義と、そして懸念を示すなか、ナミダ姫は大丈夫であると言い切った。
    「灼滅者は、一般人を苦しめ殺すような行為を嫌うが、この儀式による一般人への被害は皆無なのだ。それどころか、ブレイズゲートが消失する事は、地域の安全にも繋がる。灼滅者が我らを邪魔する理由は無いだろう」
     その言葉に頷く、スサノオ達。
    「灼滅者達は、アンブレイカブルを合流させた六六六人衆との決戦を控えている。その上で、我らを敵に回すような愚挙は行わないであろう」

     その言葉に納得したのか、スサノオ達は会話を止め、無言で儀式の準備を進め始めるのだった。

    ●依頼
     慈眼城の直下にある天王山トンネルが通行止めになっているのは知ってるかな?
     千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)は集まった灼滅者たちに向かってこんな風に説明を始めた。
     不審に思った高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が、天王山トンネル内部に潜入し持ち帰った情報によると、スサノオの姫・ナミダとスサノオ達が、ブレイズゲートである慈眼城を喰らってスサノオ化するという儀式を進めているみたいだと言う。
     スサノオ達が慈眼城を狙うという事については、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)も予見していたことだ。漣・静佳(黒水晶・d10904)は、スサノオ大神の力を得たスサノオ達により、ブレイズゲートが利用されるだろう事を予期していた。

    「けれど、これは思っていたよりも大事になりそうなんだ」
     太郎は言った。
     現時点で、スサノオ勢力とは、ある程度の友好関係があり、六六六人衆との決戦時にもある程度の協力が見込まれている。
     だからといって、スサノオもダークネスである事には違いない。
     ブレイズゲートという強力な力を、スサノオが喰らってしまう事は、ダークネス勢力の強化に繋がってしまうだろう。
    「どうすることが正解なのかは分からないけれど、放置することはできないんだよ。みんなには現場に向かい、各自の判断で行動してほしいんだ」

     妃那の情報によれば、儀式の最中はスサノオ達の力は儀式に注ぎ込まれる為、戦いを挑めばスサノオの姫・ナミダの灼滅も可能な状況のようだ。
     これまでの交流はあるが、このままダークネス組織の強大化を見過ごすのも難しく、灼滅を視野に襲撃するという選択はありえるだろう。
    「ナミダ姫の灼滅に成功したら、スサノオ勢力を壊滅状態とする事ができると思うよ」
     ただし、と、太郎は続ける。
     攻撃を仕掛けたがナミダ姫の灼滅に失敗した場合、スサノオ勢力と武蔵坂の関係は修復不能な敵対関係となる可能性が高い。攻撃を仕掛けるならば万全を期す必要がるとのこと。

     ナミダ姫への襲撃を行わない場合、慈眼城の攻略を行うという方法もある。
     儀式の結果なのか、慈眼城には、戦闘力が大幅に強化された『壬生狼士』や『壬生狼魂』が出現しているようだ。
     この『壬生狼士』や『壬生狼魂』を撃破する事で、『慈眼城』を喰う事で得られるスサノオの力を大きく減少させる事ができるだろう。
    「この方法を取った場合も、スサノオ勢力との関係は悪化するんだけど、偶然ブレイズゲートを探索した結果だよって言い抜けられるから、敵対関係とまではならない筈だよ」

     最後は、儀式中のナミダ姫の所に出向いた上で、慈眼城の儀式を認め、恩を売ったり友好を深めるという選択もありえるだろう。
    「慈眼城の探索と交渉を同時にする事で、スサノオの戦力強化を抑えながら、関係悪化を最小限に収める事もできるかもしれないよ」
     以上、太郎から三つの選択肢が提示された。
    「スサノオ勢力を壊滅させるチャンスなんだけど、どうするかはみんなにお任せするね」
     そう言って、太郎は説明を終えた。


    参加者
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)
    マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)
     

    ■リプレイ

    ●あくまで偶然の探索
     集まった灼滅者たちが慈眼城に足を踏み入れた。
    「さあ、今日も頑張って探索して行きましょう」
     武器を構えた神凪・燐(伊邪那美・d06868)は、そう言って仲間たちの顔を見る。
     たまたま、偶然、今日この場所を探索しているだけだと言う雰囲気をかもし出しながら、内心では今回の儀式については思うところがあった。
     今回の儀式で得る大きな力が一般人に向かない保証はない、と言う思いから、燐はあえて敵の力を削ぎに来たのだ。
    「そうだな、頑張って進もうか」
     頷いたセレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)は、ナミダ姫も謎が多いな、と、心の中で思う。
     ……そもそもスサノオとブレイズゲートの関係は何だろうか?
     疑問や今知っている情報が頭に次々と浮かんできた。
    (「まあ私達が今やるべきことは少しでも力を削ぐ事。交渉にいった班の検討を祈りつつ頑張ろうか」)
     そういう意味も込めて、セレスは頑張ろうと言った。
    「さて、楽しい探索の時間だね」
     陽乃下・鳳花(流れ者・d33801)も仲間に続く。
     ウイングキャットの猫にはディフェンダーの位置につくよう指示を出し、慈眼城内部を眺めた。儀式によってどのような変化が起きるのだろうか。
     今はまだ分からないけれど、しっかりと観察するつもりである。
    (「だいじょうぶ。わたしにはみんながいる」)
     マギー・モルト(つめたい欠片・d36344)は寄り添うウイングキャットのネコの背を撫でた。
     仲間たちとともに、偶然ブレイズゲートの探索に来ている風を装っているけれど、これは、普段のブレイズゲート攻略とはわけが違うのだ。知らず、ひりつくような緊張がマギーの全身を包んでいた。
    「普段通りに行きましょう。大丈夫ですよ」
     そんな彼女の様子に気づき、燐がマギーの顔を覗き込んだ。
    「そうだね。ボクたちは今から普通にここを探索するんだからね」
     ロードゼンヘンド・クロイツナヘッシュ(花束を・d36355)もマギーに笑顔を向ける。
     二人の言葉を聞いて、マギーがゆるく息を吐き出した。
    「そうね。少しでも、できることをしなくちゃね」
     知識や経験に富んだ仲間たちがそばにいることが彼女の背中を押す。
    「うん。みんな、はぐれない様に。あとは、声掛けかな」
     ロードゼンヘンドが確認するように皆を見た。
     この班がすべき事は、なるべく多くの壬生狼魂らの灼滅だ。口に出さずとも、承知していると仲間たちが頷きあう。
     彼らの戦いで、スサノオの力を大きく減少させる事ができるかどうかが決まるのだから。
    「じゃあ、進むね」
     皆の盾になるように鳳花が一歩前に出て歩き始める。
     灼滅者たちは周囲を確認し、鳳花に続いた。

    ●壬生狼士たち
     いくつかの通路を抜け、壬生狼士たちと遭遇した。
     激しい戦いになるも、灼滅者たちは協力し合い確実に敵をしとめていく。
    「蹴り上げる、そこに飛ばすぞ!」
     セレスがエアシューズを煌かせ、刀を構えた壬生狼士の懐に飛び込んだ。
    「任されました。狙います」
     同時に、燐は狙える場所まで走り魔法の矢の準備を始める。
    「っ、なに?!」
     とっさに守りの姿勢を取ろうとする敵よりも早く、セレスの飛び蹴りが炸裂した。
     壬生狼士はなすすべもなく吹き飛び、空中に放り出される。
    「行ったぞ」
    「はい、そこですね」
     続けて燐が高純度に詠唱圧縮し作り上げた『魔法の矢』を放った。
     矢は真っ直ぐ壬生狼士に向かい、確実にその体を貫く。
     声にならない叫びを上げ、敵の体が消えていった。
    「くっ、灼滅者、儀式の阻止に来たのか?!」
     残った壬生狼士は、一体だ。
     日本刀を抜刀し、燐に向かって踏み込んできた。
    「おっと、やらせないよ」
     その前に鳳花が立ちはだかる。
     攻撃を代わりに受け止め、敵を引き離すように鋭い銀爪を振るった。半獣化させた片腕から繰り出される幻狼銀爪撃が壬生狼士の体を引き裂いていく。
     たまらず、敵が飛び退いた。
     だが逃がさないというようにマギーが影を伸ばす。
    「儀式? 今日は、何かあるというのかしら?」
    「……」
     小首を傾げて見せると、壬生狼士はぐっと黙り込んだ。
     かまわず、伸ばした影で敵を飲み込む。
    「大丈夫かい? 回復するね」
     その間を利用してロードゼンヘンドはシールドリングを鳳花に向けて飛ばした。傷は浅い。傷口がふさがったのを確認し、走っても大丈夫だとサインを出す。
    「ありがとう! 助かったよ」
     再び走り出した鳳花が、ウィンクして礼を言った。
     今なお、敵は影にとらわれている。ウィングキャットたちも次々に追い討ちをかけた。
    「これで、終わりね」
     マギーが影から敵を吐き出す。壬生狼士は力尽きたように地に伏せた。
    「ボク たちは偶然ここに来ていた。そしたらお前らがいただけ。お前らは運が悪いだけ、だ」
     ロードゼンヘンドは消え行く壬生狼士にそう宣言した。
    「なんと……!」
     壬生狼士は悔しそうに顔を歪め、今度こそ本当に息絶える。
     偶然を装っている灼滅者の思惑は、うまく行っているようだ。敵はこちらの意図に気づかないまま、消滅していった。
    「みんな、怪我の具合はどうかな? 心霊手術はまだ必要ないよね?」
     ロードゼンヘンドが仲間の無事を確認する。
     仲間たちの傷は軽いようだ。
    「よし、であるなら、先に進もうか」
     セレスが言うと、他の仲間たちは前を向いて通路の先を見据えた。
     少しでも多くの壬生狼士や壬生狼魂を撃破する。
     目的をはっきりと共有し、灼滅者たちは進んでいった。

    ●撃破、撃破、撃破
     階層を進んでいくと、やはり何度か壬生狼士や壬生狼魂たちとの戦闘になった。
     その都度、灼滅者たちは各々の役割を果たし、次々に敵を撃破して行った。
     マギーが後方から敵を狙い足止めする。
     次に繋がるよう連携を意識し、敵を貫くのはセレスだ。
     鳳花は仲間を守りながら、回復にも気を配り、できる時には攻撃にも加わって敵の体力をそぎ落とした。
     ロードゼンヘンドは、常に仲間の様子を見ながら回復の手段を選び仲間を支えている。
     そして、燐は高威力の攻撃で敵を打ち砕いた。
    「よし、敵の全滅を確認した。順調だな」
    「攻撃目標を明確にしていたのが良かったね」
     セレスとロードゼンヘンドが確認しあった。
     目標も、目的も、皆が同じく認識しているので、これまで順調に進んでいるといえるだろう。攻撃回復共にバランスの取れた戦いで、危なげなくここまで来ている。
     さらに進もうとしたとき、目の前に壬生狼士が三体現れた。
     すぐに灼滅者たちは戦いの体制を整える。
    「灼滅者か。目的は何だ?」
     壬生狼士たちが揃い、抜刀した。
    「またか、今日はやけにお前たちと戦いになるな」
     黄色標識にスタイルチェンジした交通標識を仲間に向けて振るいながら、ロードゼンヘンドがため息をつく。
     同時に、前衛の仲間に耐性を与えた。
     敵が踏み込んでくるのを見て、セレスも動く。
    「目的といわれてもな。私たちは探索していただけなのだが」
     言いながら、フリージングデスを放った。
     これは突如肉体が凍り付く、恐るべき死の魔法。壬生狼士たちの周辺から凍りつき、更に氷が敵にまとわりついた。
     敵が動きを止めたことを確認し、セレスはマギーを見る。
     攻撃のチャンスだと、マギーが寄生体の肉片から強酸性の液体を生成した。
    「わたしは、戦う。みんなのためなら、傷つくのは怖くない」
     一緒に戦うみんなを喪わないために。少しでも役に立つために、と、気持ちを奮い立たせ強酸性の液体を敵に飛ばす。
     壬生狼士たちはダメージを受け腐食した箇所をかばいながらよろよろと立ち上がった。
    「なるほど。ならば、勝負だ灼滅者!!」
     戦闘力が強化されているのか、やはり簡単には沈まないようだ。
     敵がそれぞれ目標を定め突撃してくる。
    「庇えるなら庇うっ、傷ついた人がいたら、回復だよっ」
     猫に指示を出しながら、鳳花は仲間を庇って前に出た。
     振り下ろされた刀の刃が、彼女の体を切り刻む。
    「おっと、なかなかやるね」
     斬られた箇所が熱を持って痛み出した。
     鳳花はすぐに帯で全身を鎧の如く覆い、自らの傷を癒す。
     刀を引き抜いた三体が、揃って後方に跳んだ。ある程度の距離を取りながら戦うスタイルのようだ。
     そのど真ん中に燐が踏み込んでいった。
    「確かに、強化されているようですね」
     非物質化させた剣で、霊魂と霊的防護だけを直接破壊する。
     放たれた神霊剣が、敵の一体を追い詰めた。
     動ける灼滅者たちは、一斉に弱った壬生狼士に飛び掛り止めを刺す。
     少々の抵抗にあったが、残り二体も次々に撃破した。

    ●白い炎
    「でも、さすがに体力がきついかも」
     仲間を庇い続けてきた鳳花が肩で息をし始めた。
     ロードゼンヘンドは彼女の体力を回復させるため、ヒーリングライトを潰そうとした。
     しかし、まさにその時である。
    「何でしょうか?」
     燐が周辺を見回す。
    「地震、なの?!」
     マギーは思わず壁に手をついた。
     慈眼城が鳴動しているのだと、皆が気づく。
    「様子がおかしい。避難しよう」
     ただ事ではないと感じ取ったロードゼンヘンドは、皆を促し走り出した。
     仲間たちもすぐに後を追う。
     灼滅者たちは、急ぎ慈眼城から避難した。
     何が起こったのか。
     振り向いた鳳花が呆然と慈眼城を指差した。
    「あれ、白い炎だよね」
     皆も振り返り慈眼城を見る。慈眼城全体が白い炎に変化していっているようだ。
    「巨大なスサノオと、壬生狼型のスサノオだと?」
     セレスの言葉通り、白い炎は1体の巨大なスサノオと、その足元に群れる壬生狼型のスサノオの軍勢に変化した。
    「あんなにも沢山のスサノオが」
     マギーが目を見張る。
     そして、変化が終わった。
    「見て、スサノオの軍勢が消えるよ」
     じっと変化の様子を見ていたロードゼンヘンドが言う。スサノオの軍勢の半分近くが崩れて消えてしまい、残ったものが実体化したようだ。
    「あ、もしかしたら、私たちが撃破した相応のものが消えたのではないでしょうか?」
     思い至り、燐が皆を見た。
    「だとしたら、大戦果だ。壬生狼スサノオ戦力の半数を実体化させなかったのだからな」
     セレスも大きく頷く。
     巨大スサノオこそ復活してしまったが、配下の壬生狼スサノオ戦力の半分を実体化させなかった事は、事実大戦果だ。
     戦力を削りに行った他の班の者も頑張ったのだろう。
     消えたスサノオの軍勢を見て、巨大なスサノオが悲しそうな遠吠えをあげた。
    「去っていくんだね」
     鳳花の言う通り、巨大なスサノオは去っていく。
     そして。
    「! 敵意」
     マギーの背に冷たい汗が流れた。
     実体化した壬生狼型スサノオが、灼滅者に敵意を向けたのだ。
     他の仲間にも緊張が走る。
     だが、戦うつもりはないのか、軍勢はそのまま撤退していった。

    「私たちも撤退しましょうか」
     燐はそう言って仲間たちを順に見た。
     偶然ブレイズゲートを探索していたと繕っている以上、これ以上ここにとどまって交渉の様子などを確認することは難しいだろう。
     特に反対する者はいない。
     実体化した壬生狼型スサノオに敵意を向けられたときには一瞬ひやりとしたが、今回の探索では十分な成果があったといって良いだろう。
     灼滅者たちはそれを確認し、帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月1日
    難度:やや難
    参加:5人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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