
「そういやお前、来週から海外に大学の研修に行くんだったよな? いやあ、結婚を約束した彼女さんを置いていくのは不安だろうが、なに、これはお前にとってのチャンスなんだ。心置きなく行ってこい!」
誰かが言った。
言われた青年は何かを言いたそうにして、結局何も喋る事ができなかった。
「日本に帰ってきたら婚約するんだっけ? いいよなー、お前には可愛い彼女がいて!」
別の誰かが言った。
言われた青年はやはり何かを言いたげな表情をして、そして何も言えなかった。
「お、噂をすれば」
最初の誰かが言った。
促されるままに後ろを振り向くと、なんと美少女がこちらに笑いかけているではないか。
「ハタオくん、気をつけてね。私、ハタオくんがこっちにいなくても浮気とかしないから安心してっ!」
「はは! だってよハタオ!」
「この~、見せつけてくれちゃってよォー!」
言われた青年――ハタオは全身に力を込め、やがて声を絞り出す。
「違う! 俺は海外になんて行かないし彼女なんているわけもない! 彼女いない歴=年齢なんだよッ!!」
すると周囲にいた誰かたちは消え、いつの間にかハタオは扉の前にいた。
扉は重厚なつくりで中の様子はとてもじゃないが窺い知れない。
「おい。見てこい、ハタオ」
「え……?」
どうやら自分の後ろには誰かがいるようだ。
とてもガタイがよく、そして何故が銃器を持っている。銃器はロシア製のようだが、それは今どうでもいい事だ。
「中に『ヤツ』がいるかどうか、扉を開けて確かめてこい」
そういえば自分の手にも銃が握られている。
という事は。
「開けるか! 開けたら絶対ヤバいだろうがッ!!」
手にしていた銃をバシーン! と床に叩きつけると(よい子の諸君は絶対にこんな真似をしてはいけない。モノによっては暴発の危険があるよ☆)またしても場面が転換した。
「すごいぜ勇者ハタオ! あんなにいたモンスターどもを一瞬で殲滅しちまいやがった!」
「さすが勇者のハタオ! これなら俺たちは楽にしていられるな!」
「何言ってるの。でも勇者さん、本当にすごいですね」
ハタオは剣を握っていた。何かとてつもない技を放った余韻のようなものが手に残っている。
そして推定仲間のような人間が3人。それぞれ見るからに戦士や魔法使いといった実にファンタジーじみた格好をしている。
そしてハタオを何と呼んだだろうか。勇者?
「この洞窟もいよいよ最深部ってところか」
「ここからは地図にもない、まさに前人未到の地ってわけよ!」
しかもダンジョンの中にいる? 未踏破の?
「慎重に進むとしましょう。ね、勇者さん」
「……そう、だな。慎重にい――」
ハタオは魔法使いの言葉を反芻し、推定仲間にそれを伝えようとしたのだが。
「おーっと! いきなり宝箱発見だぜ! 勇者よ、開けてみてくれよ!」
「ってアホかー! そんなの開けるか近付くかしたらぜってー即死トラップが発動するだろうがッ!! こんなダンジョンにいられるか! 俺は帰らせてもら……」
今、ハタオは何を口走ってしまったのか。
それを聞いた推定仲間たちはニヤリと笑った。「言ったな?」と言わんばかりの笑顔で。
「う、うわああああ!!」
何で、どうしてこんな事になったんだ!
こんな……こんな『死亡フラグ』を幾つも踏まされそうになるなんて……いつか死んでしまう!
嫌だ! 死にたくない! 死にたく――。
「って! 変なモノローグを流すな! それこそ死ぬ直前だろッ!!」
モノローグにまでツッコミを入れるとは。
なかなか面倒そうな奴だなー、とこの悪夢を見せている元凶であるシャドウは思っていたとか。
「人ってのは自分がいつ死ぬか知らずに生きている。だからこそ生きていられるんだろうな」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)がそう独りごちるように言った。
「だが、死期を告げられれば? 大抵の人間は冷静でいられなくなるだろう。それが……死亡フラグの恐ろしさだ」
何か格好いい事を言っていたようだけど、なんだろう。
死亡フラグという単語が出てくると途端にチープに思えてきたよ?
「普通はフラグを立ててしまった事にも気付かないもんだが、それとなく死亡フラグがどういうものかを知っていたとすれば厄介だ」
どういう流れなのかというと、つまりヤマトがダークネスの一種であるシャドウの活動を感知したわけで。
シャドウは一般人の精神世界(ソウルボード)に侵入して当人の弱みやトラウマを彷彿させるような悪夢を見せ、犠牲者の精神を蹂躙していくという趣味の悪い連中である。
シャドウに精神を蝕まれ続けると、それは即ち命の危険に繋がる。
「今回お前達にはハタオという大学生の精神世界にソウルアクセスし、シャドウを撃破して彼を救ってもらいたい」
そのためにはまず何をしたら良いのか?
それはまず、ハタオを悪夢から解き放つ必要がある。
「これはそうだな……この大学生、よく小説やらアニメやらゲームやらをやっているそうなんだが、そういった物語の中に出てくる『死亡フラグ』が大の苦手らしくてな……」
ついつい小説やらアニメやらゲームやらに「やめろ! そんな事はするんじゃない!」とツッコんでしまう程だそうで。
そして案の定死んでしまうキャラクターに涙するという……今時珍しいくらいのピュアな青年なのである。
「そういったピュアなハートを死亡フラグやネガティブな話が大好きなシャドウに付け込まれてしまった、と。そんな所だな」
ハタオ青年は今、自らが、あるいは周囲の人々がこの後死んでしまうようなあからさまなフラグを次々と突き付けられて苦しんでいる。
「そこから救い出すには……わかるよな? そうだ。死亡フラグをぶち壊しにしてやるか、思いっきり生存フラグを立ててやればいい!」
ヤマトは懐からルービックキューブを取り出すと、目の前にあった机の上に勢い良く置いた。
スコーン、と良い音がした。
恐らく意味はない。
「ハタオの悪夢は次々と死亡フラグを突き付けられていると言ったが、そのシチュエーションは多岐に渡っている。それは全て巨大な『舞台』の上で行われているようだな」
当の本人はそれを知覚していないようだけどな、とヤマトは続ける。
その舞台袖かどこかに巨大な旗を持った黒子の格好をしたシャドウが潜んでいると思われるが、この状態のシャドウを見つけることは大変困難を極める。
そこでハタオの死亡フラグを叩き折り、シャドウが作り上げた舞台を邪魔してやると「なんてことしやがる!」と目標がひょっこり現れるという寸法だ。
「ここでうまい事ハタオを立ち直らせるように希望を持たせてやれば、現実世界での回復も順調になるようだな。迫真のフラグ塗り替えを頼むぜ?」
シャドウは死亡フラグは大好きだが、その分ポジティブなフラグやシチュエーションは大の苦手としている。
対峙した後もとことんポジティブ空間を維持してやるとシャドウへの嫌がらせになるかもしれない。
「とはいえシャドウは元々強力なダークネスだ。大幅に弱体化するとかそういうのはなさそうだが、ま、戦いにおいて気持ちってのは大事だからな」
その上、そのシャドウの配下であるカラフルな全身タイツを着たような姿のモブが3体程オマケでついてくる。
いざ戦闘に突入すれば油断はできないだろう。
しかし忘れるな。ポジティブな展開を。
「逆にシャドウに死亡フラグを叩きつけてやるといい」
ヤマトはそう言いながらルービックキューブを懐に戻した。
やはり意味はなかった。
「と、そうだ。お前達、これを持って行ってくれ」
代わりに取り出したのは……ロケットだろうか。中に写真を収める事ができる小型の蓋付きペンダント。
まさかヤマト、お前……! 灼滅者たちは息を呑んだ。
「落し物みたいだから職員室にでも持って行ってくれ」
自分で持っていけばいいのに。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290) |
殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895) |
![]() 天衣・恵(天衣無縫の恵み・d01159) |
![]() 佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385) |
![]() 葉月・十三(死後十日・d03857) |
![]() 宮村・和巳(傷付けたくない殺人鬼・d03908) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
![]() ミレイ・ファシリンカ(魔弾の射手・d10130) |
●フラグブレイク
「いい加減ツッコミにも疲れてきた……もう、いっそ……」
闇の中で膝を付いた青年――ハタオの精神はもはや限界に近付いていた。
周囲は再び明るくなり、どこか見たような、そうでもないような光景が広がっている。
「シチュに変化が見られなくなってきたな……」
ネタのストックが切れたのか。そしてハタオの意識も途切れそうな、その時である。
「待て待てぃ! そこまでだ、シャドウ!」
声が聞こえた方にはエプロンドレスにも似た格好をし、指を力強く突き付けながら仁王立ちをする宮村・和巳(傷付けたくない殺人鬼・d03908)の姿が!
「き、キミは……」
「助けにきたッスよ、ハタオさん!」
心強い言葉に、しかしハタオは躊躇する。これもあの悪夢のような死亡フラグのひとつなのではないか。
「まあ、それでもいいか……。最期くらいはこんな可愛い女の子の傍で死ぬというのも」
「じ、自分は男ッスよ!」
「え」
どこからどう見ても和巳は美少女そのものなのだが。
「こんな可愛い子が……という奴か! それを今、この目で……」
「って、今はそれどころじゃないッス!」
「フ、そうだな。俺の最期が男の娘というのもまた一つの運命が巡る――」
「馬鹿、諦めちゃダメッス! 生き残る主人公は最後の最後、例え絶望的になっても僅かな希望を信じて突き進むものッス!」
必死に鼓舞する和巳だが、「しかし俺はただの三下」だと項垂れる。
「フラグは単なる言葉の1つ。死亡フラグも単なるパターンでしかありません」
すっかり弱腰のハタオにミレイ・ファシリンカ(魔弾の射手・d10130)が優しく声を掛ける。
「今度は……本物の女の子、だな?」
「本物?」
ミレイはちらりと和巳を見て頷いた。
「話を戻しますが、パターンに縛られては駄目です。そういう流れが嫌なら、自分から変えてしまえばいいんです!」
「そうは言うが、簡単な話ではないだろう?」
「そんな事はありません。さあ、まずはこの場から動きましょう」
ミレイはハタオの背後を指差す。そこにはハタオが気付かぬ内に扉が出現していたようだ。
それもただの扉ではなく『出口』と堂々と示された。
「いやいやいや」
扉の周囲は、あるいはその奥はとても安心できそうな空気を醸しだしてはいる。間違いなく安全な出口なのだと心から主張しているように。
どう考えても罠である。
「なんだ、行かないのか? それじゃあたしが先に行かせてもらおうかな」
そう言ってハタオの横をズンズンと歩き、すり抜ける淳・周(赤き暴風・d05550)。
「あ、おい待てって!」
「なーに、心配しなさんなって!」
赤く長い髪を軽やかに流し、周は扉を開け、
「せい!」
なかった。
ハタオにとっては何だかよくわからない力によって扉は丸々吹き飛ばされていた。
「な……何してんのー!?」
「扉開けたら真上に暗殺者がとかはよくある話。ならば後の先、カウンターを取るべし!」
「ヒューッ!」
実に勇ましいフラグクラッシュ……もといドアクラッシュに天衣・恵(天衣無縫の恵み・d01159)が口笛を吹く。
恵の目には周が三枚目の宇宙海賊にでも見えたのかもしれない。
「でもあれって、わりと犠牲者が出」
「言わせないし! てか、ちゃんと助けてるシーンだってあるし!」
それはさておき。
「カウンターもなにも……やり過ぎじゃないか?」
しかし周の言う通り、扉が爆散した瞬間にその付近から「ぎえぇ!」というような断末魔が聞こえた気がする。
いたんだ、暗殺者。
「これがパターンに縛られない、流れの強制変更です!」
ハタオは疑念を抱えながらもソウルボードに降り立った灼滅者たちに向き直り、尋ねる。
「本当に……俺を助けてくれるのか?」
「もうバッチリ守るッスよ。任せて欲しいッス!」
平たい胸を、いや実際平らなのだが。それを叩き、約束する和巳。
そして言ってから気が付く。
(「俺の三下っぽい口調と武器が槍ってのが死亡フラグな気が……」)
ともすれば、きっと真っ先にやられるだろうね。
「あ、でも、見た目可愛いから、そんな残酷な事には……」
「見た目では回避できないぞ。むしろもっと悲惨な――」
「それ以上いけない!」
ハタオのネガティブな指摘を恵がシャットアウト。
「さて、皆さん仲良くなられたところで参りましょうか」
「仲、良く?」
ミレイが先頭に立ち、大きな穴と化した元扉を潜る。
中は広く、何かの資材やドラム缶が転がっており、壁面や高い天井には鉄骨が露出している。
「廃工場みたいッスね」
5人が歩みを進めると、高く積み上げられた資材の影から峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)が出てきた。
「やあ、ここの敵はもう全部倒しておいたよ」
「……敵?」
「わたしの敵じゃなかったけどね」
スタニスラヴァは妖の槍を巧みに振り回し、やがて地面に突き刺す。
「それを言うなら『わたしたちの』だろ?」
もう一方、朽ちた機械の上から飛び降りてきた殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)が軽い口調でスタニスラヴァの言葉を訂正する。
「俺の活躍も忘れてもらっちゃ困るな、スタニスラヴァ」
「殿宮せんぱいの事は忘れてないよ。わたしよりも倒した敵の数が少ないって事をだけどね」
「うっ。それはあれだ、お前に花を持たせてやろうとだな」
千早も刀を仕舞い、スタニスラヴァの近くまで寄ろうと……。
「まったく、殿宮せんぱいは――」
「っ! 伏せろ!!」
「え?」
その数瞬後、甲高い声が廃工場内に響き渡った。
目を見開き倒れるスタニスラヴァ。手を伸ばすが、それを受け止める事が出来ない千早。
「スタニスラヴァ!」
「……っ、せん、ぱいは奴を……追って……」
背中から心臓の位置を狙撃されたようだ。
残党であろう狙撃手は自らの仕事を完遂した事を見届けると、穴の開いた壁からの脱出を試みようと飛び去った。
「……わかった。待ってろ! それからハタオ」
「唐突に振られた!?」
「俺が死んだら……あいつのことを頼む」
「!」
「まあ、80年……いやもっと先の話だけどな!」
笑いながらそう言い残し、千早は残党を追いかけるべく地を蹴った。
「それはもっとダメだー!」
千早の背中が見えなくなり、ふとスタニスラヴァの方を見ると。
「これのおかげで……助かった」
「助かってたー!!」
ぴんぴんしていた。
しかも彼女が言う『これ』とはその手の中にあるヘルメットのようだった。
「ヘルメットなんか被ってたっけ、キミ!」
「これがなかったら即死だったよ」
「それ以前に体撃たれたじゃん!」
「ハタオさん、フラグはね、イヤだからって逃げるべきものじゃないんだ。おるものなんだ、壊すものなんだよ」
そう諭され、ハタオはもうそれ以上ツッコミを入れることをやめた。
「いやー、あいつザコだったぜ」
千早も何事もなかったかのように帰ってきた。
「よくご無事で……」
「言っただろ。俺が死ぬのは80年以上先だってな」
フラグめいたセリフで有言実行を果たすとは。
「どれだけ死亡フラグが乱立したところで、主役は最後まで死にはしないんだ。そうだろ?」
「それはどう、かな」
和気藹々と工場を抜けると石切り場のような開けた場所に出た。
すると。
「すっかり囲まれてしまいましたね」
「そうみたい、だね」
葉月・十三(死後十日・d03857)と佐々・名草(無個性派男子(希望)・d01385)が謎の戦闘員に四方八方を取り囲まれているではないか。
「ここは私が突破口を開きます。ですから名草さんは」
「それしか手がないのなら、お願いするしかない、かな。僕、此処から帰ったら……いや、うん。よそう。だから……戻ってきたら聞いてくれる?」
「可笑しな事を言うものです。さて、もう時間もない事ですし……3つ数えたら注意を惹きます。その隙に」
十三の言葉にしっかりと頷く名草。
「1つ、2つ」
カウントをしながら得物に手をかける。
「み」
っつ。言い終わる前に十三が立っていた位置が爆発した。
「十三さん!?」
結構大声でやり取りしてたしね。
「……いやぁ私じゃなきゃ死んでましたね!」
しかし何と、十三は戦闘員の包囲網を突破した崖の上に!
「一体どういう……ハッ、これは」
爆煙が風に流れ、名草の隣にいた筈の十三は。
「これはぬいぐるみ! どういうこと!?」
「こんなこともあろうかとすり替えておいたのさ!!」
くまさんのぬいぐるみになっていた!
「あれ、これって僕だけまだピンチだよね」
「そうなりますね」
「……」
「……」
崖の上に立つ十三は息を吸い込み、
「ここでの主役はハタオさん。あなただ」
「この状況で振ってきた!?」
白衣をはためかせながら青年へと語りかける。
「あなたが心を強く持ち我々を信じてくれるならば我々は、どんなフラグにも負けない。踏まれても立ち上がる強い麦になれます!」
「え、ええと……」
戸惑いの表情がハタオに浮かぶ。
信じろ。その言葉は本物だろうか。
何か仲間一人、敵の輪の中に置き去りっぽいけれど。
「ハタオさん……そんな装備で大丈夫か?」
不意に和巳から問われる。装備? 十全であるとは言い難いが他に装備できるものなどあるだろうか。
「大丈夫だ、問題――」
いや違う。彼が言う『装備』とは物理的なモノではない。精神の鎧。気概やテンション。そして人を信頼する心……?
だとすればこの答えは間違っている。大天使にもボヤかれてしまうしね。
「一番いいのを頼む!」
「その言葉が聞きたかったッス!」
「主役は最後まで死なないって言っただろ? ハタオ、お前だってお前の人生の主人公だろ。もっと自信持って良いんだ」
「道は一つなんかじゃない、人が選択しようとした場所に路ができるんだ。フラグなんぞそれを踏まない道を選ぶか……叩き潰せば済む事!」
千早に、周に力を貰い、ハタオは今決意する。
「俺が、主人公。俺の道は俺が切り開けばいいのか!」
「死亡フラグは大体のことなら自分が強くなれば回避できるのだぜ!」
そうすれば自分を、そして誰かを護る事が出来るのだと恵は伝えた。
青年の瞳に炎が宿った。
「ならあんな戦闘員程度どうとでも――」
「あ、片付けちゃった」
「片付いてたー!」
「早く帰って怪しい外人のテレビ通販を観たかったから」
名草の戻ったら聞いて欲しい事とはそれだったらしい。それはヒドイ。まるで母さんのハニーアップルパイみたいだ。
「知ってる? 死亡フラグも積み重ねればギャグにしかならないんだよ」
「つまり、死亡フラグを目の当たりにしてもギャグだと思えば」
その通りだと名草は首肯した。
そう。全てがギャグだとすれば何も恐れる事はないのだ!
「って、それじゃ困るんだよ!」
突如轟く第三者の声。それは間違いなく。
●フラグメイク
「希望を持ったらつまんないじゃないかー!」
不定形にうねうねするこの黒い影こそシャドウ。嫌なフラグが大好きな困った個体だ。
「くっ……なんて凶悪なパワー、ついに出て来たッスね、黒幕!」
「え、そう? やっぱりそう思う? 絶望する?」
和巳のよいしょにホイホイ乗るシャドウ。
「負け確定の敵さん登場パターンですね」
「ありゃチョロいな」
「ですね」
実際は散々だった。
「くっ……ならば冥土の土産に聞かせてやろう。我が絶望を好む理由を。そして戦慄し、畏れよ!」
シャドウは取り繕うように声を張り上げるが。
「……言ったな? それ、お前の死亡フラグだぜ」
「あ」
千早の鋭い返しに一瞬怯むもシャドウは、
「小賢しい! ゆけ、モブの皆さん!」
「「「モブゥ!」」」
モブを出現させ戦闘態勢に入った。
「いぃいいいいやっはぁあああああ!!」
「「「モブアー!」」」
「僕は帰らせて貰う!! ――犯人を撥ねて!」
だが名草はライドキャリバー、轟天で一斉に轢きにかかっていた。
「犯人は――今轢いた中にいる!」
幾つもの懐中時計で彩った藍のコートを輝かせ、顔の左半分を仮面で隠した轢殺探偵・名草の誕生である。
「破ぁ!!」
気合一撃。恵の縛霊撃がモブの一体を消し去った。
「危ない所だったな。これで容疑者は一人消えた!」
「出身は寺なの?」
Mさん、もとい恵の援護で犯人の特定は少し容易になった。
「生存フラグだったものが死亡フラグに使われたりする例もあるよね」
そう呟きながらスタニスラヴァは鏖殺領域を使い、残り2人のモブを一掃する。
「例えば容疑者から外れた途端に、とか」
「ぐぬぅ、所詮はモブか。ならば我が打って出るしかあるまい!」
言うやいなやシャドウは黒く禍々しいビームで和巳を焼いた。
「うわっ!? あぁ……姉貴に女装させられたり、人形みたいに扱われたりした人生だったッスね……」
「走馬灯みたいに思い出を語り出したぞ」
「しっかし随分苦労してんな、和巳」
周たちに同情の目を向けられつつ、ゆっくりと闇に飲まれ……。
「って、こんな不幸な最期で死ねるかああ!?」
「ごふぁ!」
ず、抗う反動で槍アタック。
「走馬灯ってか心をへし折るフラグと言ったらヒロインが南の島に引っ越して、送られてきた手紙には数年気付かれなかった縦読みが……」
「もはや野球やってる場合じゃないな、あれ」
遠い目になりそうな周だったが、
「まあ気付いて助けに行くんだがな!」
バッドエンドで終わらせるつもりはない。炎の拳で全力殴打だ。
「ここで負けてはハタオさんへの説得力が皆無になりますからね」
ミレイはバスタービームで周の援護を、
「お前の黒歴史、引きずり出してやるよ」
そしてビームの影から飛び出した千早のトラウナックルが炸裂した。
「……絶対死ぬと思った奴が生き残っちゃった時の虚無感と言ったら」
「何てえげつなく歪んだ心をしたシャドウだよ」
こんな外道、さっさとご退場願いたいところだ。
「仲間がいる、守りたいものがある、帰る場所がある。死亡フラグなんか目じゃないほど生存する理由が私達にはある」
シャドウはぞくりと肌が粟立った感覚を覚えた。
いつの間に十三は自分の背後にいたのだ。
「では、あなたには何がありますか?」
「だ、黙れ! 我には野望が! 下々を死亡フラグまみれにして精神を荒廃させる野望が!」
「残念。武蔵坂学園じゃ日常茶飯事です!」
十三のガンナイフは一閃のもとにシャドウを斬り裂いていた。
「おのれ……おのれぇ。何故だ、何故だァァ!」
「そりゃ、ラスボスは最後には倒されるものッスからね!」
「ぐわああああ!!」
それらしい残響を残し、シャドウは巨大な爆炎の中に消えた。
「よかったじゃん最後に自分で死亡フラグ立てられて!」
屈託の無い笑顔の恵に見送られ、やがて一行の前からシャドウの気配が消えた。
「次立てるなら恋愛フラグにしろよ?」
そう千早に肩を叩かれたハタオは、もうあの絶望に満ちた顔をしていない。
彼は灼滅者たちの奮闘により、自分の物語を自分で紡ぎ始め出すのかもしれない。
無論、ハッピーエンドで終わるような物語を。
| 作者:黒柴好人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
|
種類:
![]() 公開:2012年11月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
|
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 12
|
||
|
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
|
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
||