慈眼城のナミダ姫~三つの選択

    作者:彩乃鳩


     慈眼城の直下、天王山トンネル内部。
     トンネルの両端を封鎖したスサノオにより、交通の途絶えた天王山トンネル内で、スサノオの姫・ナミダと、有力なスサノオ達が、儀式の準備を進めていた。
    「慈眼城のスサノオ化が成功すれば、我らの戦力は大幅に増強されるであろう」
    「それだけではない。この儀式が成功すれば、数多のブレイズゲートの全てのスサノオ化も可能になる。そうなれば、爵位級ヴァンパイアをも凌駕する事だろう」
    「だが、心配なのは灼滅者よな。この儀式には多くの力を結集してしまう。儀式の最中に、灼滅者の横槍が入れば、姫をお守りする事ができるかどうか……」
     スサノオ達が、儀式の意義と、そして懸念を示すなか、ナミダ姫は大丈夫であると言い切った。
    「灼滅者は、一般人を苦しめ殺すような行為を嫌うが、この儀式による一般人への被害は皆無なのだ。それどころか、ブレイズゲートが消失する事は、地域の安全にも繋がる。灼滅者が我らを邪魔する理由は無いだろう」
     その言葉に頷く、スサノオ達。
    「灼滅者達は、アンブレイカブルを合流させた六六六人衆との決戦を控えている。その上で、我らを敵に回すような愚挙は行わないであろう」
     その言葉に納得したのか、スサノオ達は会話を止め、無言で儀式の準備を進め始めるのだった。


    「慈眼城の直下にある天王山トンネルが通行止めになっているのは知っていますか?」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が説明を始める。
    「不審に思った、天王山トンネル内部に潜入した高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)さんが持ち帰った情報によると、スサノオの姫・ナミダとスサノオ達が、ブレイズゲートである慈眼城を喰らってスサノオ化するという儀式を進めているみたいです」
     スサノオ達が慈眼城を狙うという事については、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)も予見していたし、漣・静佳(黒水晶・d10904)と紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は、スサノオ大神の力を得たスサノオ達により、ブレイズゲートが利用されるだろう事を予期していたが、思っていたよりも大事になりそうだという。
     現時点で、スサノオ勢力とは、ある程度の友好関係があり、六六六人衆との決戦時にもある程度の協力が見込まれている。
     だからといって、スサノオもダークネスである事には違いない。
     ブレイズゲートという強力な力を、スサノオが喰らってしまう事は、ダークネス勢力の強化に繋がってしまうだろう。
    「どうするのが正解かはわかりませんが、放置する事はできません」
     灼滅者達には現場に向かってもらい。
     各自の判断で行動することになる。
    「妃那さんの情報によれば、儀式の最中はスサノオ達の力は儀式に注ぎ込まれる為、戦いを挑めばスサノオの姫・ナミダの灼滅も可能な状況のようです。これまでの交流はありますが、このままダークネス組織の強大化を見過ごすのも難しく、灼滅を視野に襲撃するという選択はありえるでしょう」
     ナミダ姫の灼滅に成功したならば、スサノオ勢力を壊滅状態とする事ができる。
     ただ、攻撃を仕掛けたがナミダ姫の灼滅に失敗した場合、スサノオ勢力と武蔵坂の関係は修復不能な敵対関係となる可能性が高いので、攻撃を仕掛けるならば万全を期す必要がある。
    「ナミダ姫への襲撃を行わない場合、慈眼城の攻略を行うという方法もあります。儀式の結果なのか、慈眼城には、戦闘力が大幅に強化された『壬生狼士』や『壬生狼魂』が出現しているようです」
     この『壬生狼士』や『壬生狼魂』を撃破する事で、『慈眼城』を喰う事で得られるスサノオの力を大きく減少させる事ができる。この方法を取った場合も、スサノオ勢力との関係は悪化するが、偶然ブレイズゲートを探索した結果であると言い抜けられるので、敵対関係とまではならない筈だ。
    「最後は、儀式中のナミダ姫の所に出向いた上で、慈眼城の儀式を認め、恩を売ったり友好を深めるという選択もありえるでしょう」
     慈眼城の探索と交渉を同時に行う事で、スサノオの戦力強化を抑えつつ、関係悪化を最小限に収める事もできるかもしれない。
    「ダークネス勢力の中では、スサノオは決して強大な勢力と言うわけではありませんでした。しかし、ブレイズゲートのスサノオ化は、その前提を覆してしまう危険性があります。また、スサノオ勢力を壊滅させる好機ではあるのですが、どうするべきかは、皆さんにお任せします」


    参加者
    神凪・陽和(天照・d02848)
    黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)
    空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)
    刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)

    ■リプレイ


    (「うん、この通路は大丈夫そうだね」)
     犬変身した空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は、先行偵察を行っていた。仲間に合図して、敵がいないことを報せる。それに合わせて、他の面々も慎重に進軍を重ねていた。
    「陽太さんに前を行ってもらっているのですから、攻略に活かさないとですね」
    「ええ。私たちはあくまでも、ナミダ姫の儀式の件は知らずに探索に来たとしておかないと」
     神凪・陽和(天照・d02848)と黎明寺・空凛(此花咲耶・d12208)も警戒しながら歩を進めた。今回のスサノオ勢力のアクションに対して、この班の役割は出来る限り『壬生狼士』や『壬生狼魂』を撃破して、『慈眼城』を喰う事で得られるスサノオの力を大きく減少させる事だった。そのためには多少の演技も必要となる。
    「慈眼城にはこれまで何度も入ったし、その意味では少しやりやすいかな」
    「今までの探索で、部屋の位置や仕掛けは確認できていますしね」
     四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)や刃渡・刀(伽藍洞の刀・d25866)の言うように、慈眼城には馴染のある者もいる。地の利という意味では決して悪くない戦場ではあるはずだった。
    「あ、空月君が何かを見つけたみたいだなんだよ」
     高坂・透(だいたい寝てる・d24957)が皆を促すと、彼のパーカーでのフードで寝ていたナノナノもいそいそと起き出した。いつも眠たげで隙あれば居眠りをする主人に良く似たサーヴァントである。
    「出たね」
     陽太が人の姿に戻り、フードを脱ぐ。
     感情無き無表情な視線の先には、壬生狼士らの姿がある。後ろにいた仲間達も、すぐさま戦闘態勢に入る。
    「初戦ですね、行きます」
     先陣を切ったのは陽和。
     幻狼銀爪撃により、己の片腕を半獣化させ鋭い銀爪で力強く相手を引き裂く。まずはBS耐性を付けておこうという狙いであった。
    「まず態勢を整えますね」
     空凛は天魔光臨陣を発動。
     巨大なオーラの法陣を展開し、EN破壊の効果を配ることにした。まずは飛びこんだ義妹のいる前衛へと付与を行う。
    (「スサノオ勢力とはこれまで何度か肩を並べて戦ったこともあるし、あまり敵対しているって感じがしないんですよね。かと言って、このまま見逃すというのも違うような気がするし。中途半端だけど、いつも通り目の前の敵を倒しに行こ」)
     悠花は棒を自在に操り、敵を突き崩しにかかった。
     壬生狼士らの攻撃をかいくぐり、鋭い一撃を与える。思う所はあるが、いつも通りの動きで、いつも通りの攻略を装う。
    (「あくまで『ナミダ姫の儀式のことは知りませんでしたー』って体で動かないとね」)
     透は味方への有利なエンチャントを行うことを優先した。
     ワイドガードのシールドを広げ、周辺の味方をまとめて防御。同時にバッドステータスへの耐性も高める。
    「力を持ちすぎることと敵対することは同義だよ」
     そっと呟いて、陽太はフリージングデスを唱える。
     敵前列を座標として指定。地点周辺に存在する全ての体温や熱量を、急激に奪いとる。不可視の攻撃によって突如何もかもが凍りつく。
    「千鳥、皆と連携を」
     刀は初手でイエローサインを前衛陣に使う。
     サーヴァントは霊撃で武器封じを行った。灼滅者達によって開かれた戦端。敵の壬生狼士らも、負けじと斬撃で迎え撃ち白刃が飛び交う。一気に戦闘は激しさを増した。
    「敵の抵抗もなかなか強力ですね……でも、蹴散らします」
     陽和はブレイドサイクロンでクラッシャーの火力を発揮。
     剣を高速で振り回し、加速で威力を増しつつ敵群を斬り刻む。剣陣渦巻く死地へと迷いなく飛び込む姿は、敵を倒すのみならず仲間の士気をも上げることに貢献する。
    「回復と援護は任せてください」
     空凛はサーヴァントともども仲間の後押しに専心する。
     攻撃用の補助を配り終えると、今度はラビリンスアーマーで一人一人の装甲を強化して存分に戦えるようにサポートした。
    「メディックへの攻撃はさせません」
     そんな仲間の背中を、悠花が護衛する。
     壬生狼士の重い剣戟を受け止めると、カウンターで魔力を込めた突きを繰り出す。敵を殴りつけると同時に魔力を流し込み。相手は体内から大爆発を起こした。
    「僕も負けてられないねぇ」
     透も相手の気迫のこもった切っ先を、構えた得物で受け流す。
     更にそのままグラインドファイアに移行した。炎を纏った激しい蹴りが炸裂。敵を業火が包みこみ、大やけどを負わせる。
    「敵の戦力は、出来る限り削がないとね」
     陽太のセブンスハイロウ。
     魔弾の射手の名に恥じぬ精密な狙撃。七つに分裂したリングスラッシャーが、次々に敵を的としてピンポイントで襲いかかる。まさに削ぎかかっているという表現がぴったりだった。
    「……五刀流、参ります」
     刀は敵の動きに合わせて、静かに抜刀。
     敵の攻撃を斬り払う。両手に二刀、ビハインドの二刀、影の一刀。五刀を操る五刀流の使い手。ダークネスとの戦いは剣の頂きへ登るため。鋭い一閃から、冴え冴えとした月の如き衝撃が生まれ、壬生狼士のうち一体が消滅した。


    「これで何回目の戦闘でしょうか」
    「今日は、よく敵に遭いますね」
     陽和がグラインドファイアで攻撃しつつ首を傾げ、空凛は祭霊光でヒールを行って応える。灼滅者達は、戦っては休憩し、また探索。探索しては接敵を繰り返していた。通常の攻略にかこつけて、相当数の敵の駆逐に成功しているものの。それに比例して、こちらの疲労も積み重なる。
    (「後ろから襲われないように注意しないといけませんね」)
     疲れているときだからこそ、気を引き締めねばならない。
     悠花の留意もあって、ダークネス側に先手をとられて遅れをとるような事態には今の所なっておらず。緋色のオーラを宿した武器が、また一体の壬生狼魂を打ち砕いた。
    「万が一撤退するときのためにも、退路は常に確保しておかないとねー」
     透は皆をキュアしながらも後方を確認する。
     いつ何時、何が起こるか分からないのが今回の戦いだ。今頃、他の班がどうなっているかも現状は不明だ。自分達と同じように戦火に身を晒しているか、それとも……何にしても備えに越したことはない。
    「隙ありだ」
     陽太の封縛糸が、タイミングを逃さずはしる。
     鋼糸を敵に巻き付け、その動きを封じ。そのまま敵を何層にも切り刻む。標的となった壬生狼士はたらまず、光の泡となって破裂する。
    「まだまだ、いけます」
     刀は傷を負いつつも、レッドストライクを勢いよく打ち放つ。
     本人の言葉通り。衰えぬ闘志で敵を殴り飛ばして、味方が待ち構えている方へと飛ばす。これもチームプレイだ。
    「任せてください」
     陽和の神霊剣が、仲間が誘導した敵へと突き刺さった。
     敵の霊魂と霊的防護だけを直接破壊する一撃。相手は外的損傷がないままに、動くことができなくなり膝を折って倒れる。これでまた一つ、スサノオ勢力強大化の可能性を潰したことになるはずだった。
    (「スサノオの力が一般人に向く可能性は見過ごせない……その通りですね」)
     空凛も攻撃へと転じる。
     除霊結界を発動し、霊的因子を強制停止させる空間を構築。パラライズを一気に敵へと与えて行った。
    「敵の動きが鈍りました……これなら」
     果敢に悠花は、懐に入り込み相手の攻撃を引きつけるようにいなしていった。
     粘り強く抗戦を続け。集気法で体力を回復しては、また最前線へと立つ。戦線が崩れないように維持することへの献身は誰にも負けない。
    「ブレイクするよー」
     透は相手がある程度の強化の兆しを見せるたびに、レガリアスサイクロンを仕掛けた。
     暴風を伴う強烈な回し蹴りで、周囲の敵を守りごと薙ぎ払い。宣言通りに、ダークネス達のエンチャントを引き剥がす。
    「……戦局が傾いてきたね」
     冷静に陽太は、影喰らいを当てにいく。
     影業が形を変えて、敵へと迫る。巨大な影がターゲットを飲み込み、その影に覆われた者はトラウマを発現させる。攻勢に次ぐ攻勢で灼滅者達は、一挙に決着をつけにいった。
    「攻めどきですね」
     刀のグラインドファイアが、相手の炎を上書きするように燃え盛る。
     まさに侵略すること火のごとく。敵に動く暇を与えず、サーヴァントと共に追い風に乗って攻め入った。その勢いは止まらない。
    「空凛、大丈夫?」
    「ええ。心配はいりません。それより今は――」
    「目の前の敵を、一体でも多く倒して禍根を断つこと、だよね」
     陽和は義姉に気を配ることを怠らず。同時に力を振り絞って、渾身のサイキックを叩きつける。空凛も慕ってくれる義妹に、全力で応えるように協力して狩りを効率化する。強い信頼感あってこその攻勢だ。
    「あともう一息」
     敵の砲火に身を晒し続けた悠花だが、その戦意は減じない。
     壬生狼士の刃から味方を守り、重い打突を返して敵を押し返す。強気な布陣で、最後まで奮戦した。
    「やっちゃえー、なの」
     透が壁となって、攻撃を受け流し。
     その影からサーヴァントがひょっこりと姿を現す。死角からのしゃぼん玉を避ける術を、ダークネスは持たず。パチンという音を立てて、残りの一体が四散する……慈眼城が鳴動を始めたのは、そんな時だった。
    「地震か!」
    「まさか」
    「とにかく避難をっ」
    「逃げますよ。えぇ、全力で!」
     灼滅者達は、一目散で駆けだす。
     慈眼城は全体が白い炎に変化していった。やがて1体の巨大なスサノオと、その足元に群れる、壬生狼型のスサノオの軍勢へと変化を遂げる。
     夥しい数だ。
     けれども、変化が終わった時。
     スサノオの軍勢の半分近くが崩れて消えてしまい、残りが実体化した。巨大なスサノオは悲しそうな遠吠えを残して去り。実体化した壬生狼型スサノオは、灼滅者達のいる方に敵意を向けて……そのまま撤退していった。
    「いや、ヒヤッとしたね」
     フードを被りなおした陽太は軽薄な笑みを浮かべた。
     突然のことに驚いたが。敵は実体化して撤退したのだ。となれば、こちらの役目もこれまで。戦闘は終わったと判断すべきだった。
    「配下の壬生狼スサノオ戦力の半分が実体化できなかった……大戦果といって良いでしょうね」
     刀の弁に皆が頷く。
     自分達の、そして他の灼滅者達の働きが功を奏したのは間違いない。スサノオが得られる力を減らすという当初の目的は達成された。後は、これからどう転ぶか。予断を許さぬ状況で、それぞれ思いを胸中に秘めたまま。
     灼滅者達は、ブレイズゲートをあとにした。

    作者:彩乃鳩 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月1日
    難度:やや難
    参加:6人
    結果:成功!
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