古民家のマモリガミ

    作者:ライ麦

    「陽桜さんが、ラジオウェーブのラジオ放送を聞いたそうです」
     教室で、桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)が告げる。傍らに控える羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490) がぺこりと、軽く会釈をした。
    「以前、廃村の都市伝説に会ったことがあったので……古民家にちなんだ都市伝説にも会えるかなと思っていたら、偶然そんな感じのラジオ放送を聞いちゃったんです」
    「このままでは、ラジオウェーブのラジオ電波によって生まれた都市伝説によって、ラジオ放送と同様の事件が発生してしまいます。それを防ぐためにも……まずは、その内容を聞いていただけますか?」
     そう前置きして、美葉は陽桜から聞いた放送内容を語り始めた。

    「へぇ、ここがリフォームする古民家か。立派な家だなぁ」
     とある山奥の集落、のさらに奥の方に立つ古民家を眺めながら、リフォーム業者の中年男性が呟いた。木造平屋建てのその古民家は、長い年月のために所々崩れてはいるが広く、門構えも立派であった。資料用に写真を撮りながら、後輩らしき年若い青年も言う。
    「元は庄屋か何か、でしたっけ。しかし大分荒れちゃってますねぇ……この辺誰も来ないし。ここほんとに民宿にするんですかね?」
    「そのために俺らが改装すんだろ」
     そう言いながら、中年男性は身を屈めて古民家の中に入っていく。続いて入った年若の青年が、懐中電灯で周囲を照らした。
    「うわ、なんかホラーゲームにでも出てきそう……雰囲気ありますねぇ」
     青年が呟いた通り。元は立派な玄関だったであろうそこは、長い年月の果てに荒れ、あちこちが崩れて。暗闇と相まって、なんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。一瞬背筋を震わせた中年の男性も、恐怖を振り払うかのように努めて明るく言う。
    「こりゃあ、改装のしがいがありそうだなあ! よし、下見行くか!」
     そして、一歩踏み出したその時。何処からか声が響いた。
    『デ……テ………ケ……』
     二人は顔を見合わせた。
    「……あの、今なんか声がしたような」
    「き、気のせいだよ気のせい! それより仕事、仕事!」
     震える声で、それでも強気に言い放ち、中年の男性は先に進んで行く。青年も、先輩には逆らえずにおそるおそる後を着いていった。
     しかし、嫌な感じは拭えず。玄関から先、土間から広間へ、奥の間へと、先に進めば進むほど、余計に変な寒気と不安感が押し寄せてくる。長い廊下を歩きながら、たまらず、青年が漏らした。
    「ねぇ、引き返しません……?」
    「ば、ばか言ってんじゃねぇよ、仕事はどうすんだよ」
    「でも、なんか変な感じするし、それに……思い出したんすよ」
    「何を?」
    「依頼人の人が、『かつて、この家を災いから守るために人柱になった女性がいるらしい』って、話してたの……」
     そこまで言った時だった。
    『キ………エ……ロ………』
     またしても声がし、暗闇の中から白い着物を着た、髪の長い女性がぬぅっと現れた。驚きと恐怖のあまり声も出ない二人を物凄い形相で睨みつけながら、彼女は蒼白い手を彼らに向かって伸ばし……。

    「………そして、後日。その古民家から、男性二人の無残な遺体が発見された――と、いうところまでが、放送内容です」
     話しながら、美葉は青ざめた顔をして自分の体を抱きしめた。話しているうちに自分が怖くなってしまったんだろう。実際、放送内容はよくある怪談みたいな話である。だがこれはラジオウェーブによるラジオ放送であり、つまり放っておくと本当に死人が出る。
    「ですが、幸いにしてまだこの事件は発生していません……赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)さんの調査のおかげで、ラジオ電波の影響によって都市伝説が発生する前に、その情報を得る事ができるようになったからです。今のうちに都市伝説を倒して、事件を未然に防ぎましょう」
     そう言って、美葉は詳しい説明を始めた。

    「この都市伝説は、件の古民家に入れば出現自体はしますが。最初は警告してくるだけで、姿は現さないみたいですね。警告にも関わらず古民家内を歩き回っていると姿を現して攻撃してくる、と」
     最初に警告してくれるだけ親切な都市伝説かもしれない。だが倒さないと、改装業者の男性二人組が殺されてしまうので。面倒でも古民家の中を歩き回る必要がありそうだ。
    「都市伝説の攻撃方法は、手で掴んでダメージを与えてくるのと、長い髪を伸ばして拘束してくるのと、鬼火を生み出して叩きつけてくるのと。三種類あるみたいです。それから、叫びによって自らを回復させたりもするようです」
     ただし、と美葉は付け加える。
    「この情報は、ラジオ放送の情報から類推される能力なので……可能性は低いですが、予測を上回る能力を持つ可能性があります。念のためにご注意ください」
     ちなみに、と彼女は言った。
    「調べてはみたんですが。件の古民家で災いから家を守るために人柱となった女性がいるって話については……そういった言い伝えがあるのはあるみたいですけれど。本当にあったかどうかについては、よく分かりません」
     ただ、あくまで言い伝えレベルの話ではあるが。かつてその古民家では、生まれたばかりの後継ぎがすぐに死んだり、家の者が重い病に倒れたり、使用人が不慮の事故で亡くなったりと、不幸が立て続けに起きたらしい。何か土地神に障りがあったらしく、それを鎮めるために自ら人柱に志願したというのが伝わっているストーリーではあるが。度重なる不幸はただの偶然だったかもしれないし、何しろ昔のことで真相も分からない。分かるのは、ただそこに都市伝説がいるということだけ。
    「よしんば、災いから家を守るために人柱となった女性がいるって話が事実であったとしても。あくまで現れるのはその話を元にして生まれた都市伝説であって、本当に家を守っている神様ってわけじゃないので」
     遠慮なく倒してきて欲しいと美葉は言う。
    「本当の守り神だったら、人殺したりしないでしょうからね」


    参加者
    羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)
    高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)
    戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)
    中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)
    月森・夜深(竜ヶ渕村の騙り部・d33272)
    媛神・白菊(にくきゅうぷにぷにのおおかみ・d34434)
    新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)
    竜ヶ崎・美繰(高校生七不思議使い・d37966)

    ■リプレイ


    「古民家に出現する都市伝説って、なんかホラーハウスみたいね」
     件の古民家を眺めながら、新堂・アンジェラ(業火の魔法つかい・d35803)が呟いた。木造平屋建てのそれは、門構えこそ立派だが。長い年月の果てに荒れ果て、屋根も一部が崩れ落ちて。廃墟マニアでもない限り入りたくない雰囲気を醸し出している。誰も近づかないのもむべなるかな。おまけに。
    「こういうので出るって言うのって、大概そこで誰かが死んだとかそういうので、それも怪談の定番だし……」
     そう彼女が言う例に漏れず。ここでも、災いのせいで誰かが死んだとか、その災いを鎮めるために女性が人柱になったという伝承がある。真相は分からないが。アンジェラの言葉に、中崎・翔汰(赤き腕の守護者・d08853)も口を開いた。
    「人柱になった女性の話か……。実際のところはどうだったかわからないけど、こんな形で利用されるのは見過ごせないな」
     媛神・白菊(にくきゅうぷにぷにのおおかみ・d34434)も頷く。
    「繁栄を願い災いを鎮めるため自ら身を捧げた者が災いの元凶との誹りを受けようとはの。彼の存在が伝承であれ真実であれ都市伝説による不名誉は晴らしてやらねばな」
    「そうね、人柱になったって人の気持ちはともかく、一般人に被害が出ないように都市伝説は灼滅しなきゃね。しっかりがんばるわ」
     頷くアンジェラの傍ら、高麗川・八王子(KST634初期メンバー・d02681)も拳を握り締めた。
    「座敷童のような、良いマモリガミなら歓迎ですが、人に危害を加えるとなれば、正義の味方として、許すわけにはいかないでち!」
     笑えない肝試しスポットは放置するわけにはいかないでち! と気合いを入れる彼女を横目に、戒道・蔵乃祐(逆戟・d06549)は塩を手に玄関先に近づいた。
    「玄関先に盛り塩もしておこう……気休め気休め…………!? もうある!? やめてくれよマジで……テンション下がるわマジで……」
     誰が置いたのか。既に設置済みの盛り塩を見て肩を落とす彼に、羽柴・陽桜(ねがいうた・d01490)は、
    「まぁ、玄関に盛り塩があること自体はそう珍しくもないですし……」
     と慰めの声をかける。
    「そうそう、出る出ないに関わらずな」
     翔汰も笑って言う。その顔が若干引きつってるのは気のせいだろうか。ともあれ、彼らは閉ざされた扉を開け、古民家の中に足を踏み入れた。
    「古ぼけた家……本当に出そうだべな……」
     ホコリを吸わないよう、服の襟を口元まで上げながら竜ヶ崎・美繰(高校生七不思議使い・d37966)が呟く。翔汰も愛用のマフラーで口元を覆いつつ、持参した照明で中を照らした。
    「本当、いかにも出てきそうなところだよな……。でも、荒れ果てているけど、こうして見てみると立派な家だってことがよくわかるな」
     彼の言う通り。梁は崩れ落ち、床には穴が開いてはいるものの。玄関は広く、埃を被った調度品も上質なものであることが見てとれる。それらを横目に見ながら、蔵乃祐は断末魔の瞳の使用を試みた。しかし、できなかった。断末魔の瞳は「サイキックによって人が殺された場所でのみ使用できる」もの。ということはつまり。
    「ふーむ……エクスブレインが言っていた通り、今の所都市伝説の犠牲者はまだ出てない様ですね」
     とは言えど。それは「サイキック」の犠牲者に限られるわけで。急に蔵乃祐はガタガタ震え出した。
    「ふ、ふふふふふふ静まれ! 静まれ! 僕の恐怖心!! こ、ここは僕に任せて先に! 後ろから付いてきますので!! でも! あんまり早く先に進んで置き去りにするのはやめてね!?」
     そう懇願する蔵乃祐に、月森・夜深(竜ヶ渕村の騙り部・d33272)はくすりと笑みを漏らし。
    「それでは、僭越ながらわたくしが先頭を務めさせていただきますね。こう見えてもわたくし、怖いものには強いのです」
     と灯りを片手に歩きだす。白菊もまつり二号にLEDランタンをぶら下げさせ、後に着いて歩き出した。
    「敵に遭遇する前に戦闘に適した広い部屋を見つけたいのう。わらわの実家も古い家じゃし見当をつけられんかの?」
     そう言いながら、周囲をきょろきょろ見回す。アンジェラも歩きながら周囲を見回した。
    「何か特別なものとか、手がかりになるものとかあるかしら。都市伝説の謂れになるものなら、手がかりにもなるだろうし。あちこち開けたり覗いたりしてみればいいかな」
     言いながら、早速目についた障子を開けている。すかさず蔵乃祐が叫んだ。
    「妙な御札や南京錠で施錠された窓の無い間取りの部屋はノータッチでよろしくお願いしまーーす!!」
    「あら、蔵乃祐おにいちゃま。大丈夫ですわ、祟られそうになってもわたくしがお守りいたしますゆえ」
    「いやそういうことではなくてですね!?」
     そんな会話を繰り広げる二人を尻目に、美繰は退屈そうにあくびをした。全く怖がる素振りがない。そんな彼に、簡単にマッピングを行いながら陽桜は尋ねた。
    「夜深さんも美繰さんもこういう場所は慣れてらっしゃるのです?」
    「ん~……」
     曖昧に首を傾げる美繰の傍ら、夜深は鼻歌交じりに覗いた和室の中を見回しながら答えた。
    「寂れた村の育ちですから、廃墟など慣れたもの。それに、どんな怪奇よりもなによりも怖いものを知っておりますゆえ」
    「そうそう、怖い怖いと思うから怖くなるのじゃよ。わらわも、昔オオカミ姿で放浪しておった頃は雨宿りや一夜の寝床としてこのような建物に潜りこむ事もあったからのう……慣れっこじゃ」
     このようにのう、と、白菊はニホンオオカミに戻る。
    「そうなんですか、あたしは先日の廃墟肝試しぶりでちょっとだけ怖いなぁって」
     一緒に参加していた八王子もコクコク頷いた。そういえば、ここもあの肝試しの主催者が喜びそうな場所だ。
    (「彼が私たちを連れてきそうな不思議スポットを増やすようでアレでちけど、兎に角頑張るね……」)
     八王子が内心でため息をつく中、陽桜は後方に呼びかけた。
    「えと、蔵乃祐さんは大丈夫ですかー?」
    「言っておきますけど明らかに聞いていた都市伝説とはかけ離れた姿のものが出たら僕は帰りますからね! 逃げますからね!!」
     返ってきた返事に、陽桜はやっぱり、と苦笑を漏らした。
    「いやいや分かってるんです、災いは偶然かもしれない。寧ろ創作なのかも? だけどちょっとだけどちょっと僕だって怖いなあ! だって誰にも証明出来ない『本物』の悪意が此処には在るかもしれないじゃないですか……」
     そこまで言った時、突然ギシギシと廊下が軋む音がした。蔵乃祐と翔汰が同時にビクッと肩を震わせる。
    「な、なんだ!? もう都市伝説が出たのか!?」
     慌てて周囲を見回す翔汰……が見たのは、わざとらしく床をギシギシ言わせている美繰だった。
    「ちょっと美繰!?」
    「すまんべ」
     しれっと言う美繰。本当に反省しているのか? というところで。不意に、おどろおどろしい声が響いてきた。
    『デ……テ………ケ……』
     その声に、一同は警戒を強める。そしてさらに床をギシギシ言わせる美繰。
    「「だから!」」
     仲間達の総ツッコミを受けて、さすがにやめた。陽桜のマッピングを元に、一行は広い場所を目指して移動する。そして、やがて襖で区切られた大広間に辿り着いた。襖は全て開いており、奥が見渡せる。奥には神棚があった。そして、その前には意味ありげな縄が一本ぶら下がっている……。
    「あれって……」
     そうアンジェラが呟いた時だった。
    『キ………エ……ロ………』
     またしても声がし。どこからか、白い着物の、髪の長い女性がぬぅっと現れた。
    「……出てきた」
     特に驚くことはなく、ようやく現れた元凶に対して軽く身構える美繰。すかさず白菊は人間の姿に戻り、陽桜はサウンドシャッターを展開させる。只でさえ怖がられている家だから、これ以上悪い噂が広がらないように。
    「足元が悪そうなので、気を付けて戦いましょう!」
     武器を構えながら八王子は呼びかけ、
    「さあさ、皆様、お耳を拝借」
     夜深はゆるりと両手を広げる。
    「愉しい愉しい、お噺の時間でございますよ」


     オオオ……と声にならない声を上げながら、都市伝説は美繰に向かって髪を伸ばし、絡めとる。その髪を、美繰は雲耀剣で断ち切った。
    「……おめぇさんに恨みはねけど、……他の人に迷惑かかんねようにすっためだかんな」
     それでもなお絡みつく髪を、夜深が優しく祭霊光で振り払う。
    「ありがとう……だべ……」
     小声で礼を言う美繰に、夜深は「どういたしまして」とにこり微笑んだ。
    「仮に家を守っているにしても、犠牲者を出させるわけにはいかないからな!」
     次いで、翔汰が自在に動く帯で都市伝説を貫く。それを見ながら、陽桜は思った。
    (「家を守ろうとする強い想いが念になったのか、只々自分を人柱にした人達と家に恨みを抱く設定なのか」)
     どちらにしても悲しいと思う。言葉も想いも通じるものではないといっても、
    (「最期は少しでも恨みの念を晴らしてあげられたら」)
     そう願って、陽桜も翔汰と同じ技で貫いた。あまおとが斬魔刀で斬りかかり、蔵乃祐もシールドで思い切り殴りつける。サイキックでボコボコにできる相手なら怖くない。盾として、怒りでできるだけ引き付けるつもりだ。
    「これで切り裂いてやるわ!」
     アンジェラが龍の骨をも叩き斬る、強烈な斧の一撃を浴びせる。八王子は爆発する手裏剣を投げつけ、白菊は半獣化させた片腕で都市伝説を引き裂いた。
    「悪しき祟り神の噂も今日までじゃ。忌まわしき因縁ここに断ち切り、良き縁を結ばん!」
     続くまつり二号が、しゃぼん玉を飛ばして援護する。そのしゃぼん玉を避け、都市伝説は蒼白い手で蔵乃祐の腕を掴んだ。途端、生気を吸い取られ、思わずふらつく。掴まれたところから体が冷えていくような感覚……。
    「大丈夫か!?」
     すかさず翔汰が「Bravely guardian」で敵を殴りつけ、引き剥がす。
    「蔵乃祐おにいちゃま、ご無理をなさらぬよう」
     夜深も、無数の白い細い手が巻き付いたような帯で優しく蔵乃祐を包み込んだ。
    「フォローが必要なときは、はおちを呼んで下さいね♪」
     八王子もウインクし、得意のJRはち光線で敵の怒りをこちらにも向けた。ありがとうございます、と礼を言い、それでもなお盾として。蔵乃祐は妄葬鋏で敵の注意を引き付ける。陽桜も「死」の力を宿した断罪の刃を振り下ろし、相手の回復を阻害した。あまおとが六文銭射撃で援護する中、白菊は「結ビ詩」で都市伝説を切り裂き、まつり二号がたつまきで相手の視界を奪う。そこに美繰がぼそぼそと語る怪談が襲い掛かった。怪談が都市伝説に執着し、張り付いている隙に、アンジェラは炎を纏う蹴りを叩き込む。
    「総てを焼き尽くす紅蓮よ!」
     白い着物をなめるように、紅い炎が燃え上がる。お返しとでもいうのか。都市伝説は両の手に青白い炎を生み出し、アンジェラに叩きつけ……ようとして、蔵乃祐への怒りに引きずられた。叩きつけられた鬼火をあえて引き受け、蔵乃祐は銀爪で都市伝説を引き裂く。すかさず澳津鏡・辺津鏡で敵の「罪」を断ち切りつつ、白菊はまつり二号に命じた。
    「まつり二号、戒道どのの炎を消すのじゃ!」
    「ナノ!」
     主の命に従い、まつり二号はふわふわハートで消火に当たる。その隙に翔汰は重力を宿した飛び蹴りで敵の機動力を奪い、美繰は怪談を語って怪奇現象を発生させた。
    「炎には炎で対抗よ!」
     アンジェラが今度は武器に宿した炎を叩きつける。炎を消すため、そして蓄積した傷を癒すため。都市伝説は裂帛の叫びを上げた。しかし、八王子、陽桜にかけられた癒しを阻害する力のせいもあり。思うように回復できない。そこに灼滅者達は次々に攻撃を叩き込んだ。都市伝説がふらつく。もう限界が近いのだろう。それを見てとり、八王子はスタイリッシュにご当地の力を宿したジャンプキックを放った。
    「悪霊と化す前の純粋な気持ちを胸に蘇らせ成仏して下さい! 青春18キック!!」
    「……おやすみなさい」
     続く陽桜が、満開の桜の枝が抱く古き石の十字架で格闘術を繰り出す。まるで墓標を打ち立てるかのように。その攻撃が、都市伝説の足を止めた。もう回復の必要もない。夜深はそっと都市伝説に問いかけた。
    「あなたは家を守るため、覚悟して立たれたのでしょうか。それとも――? ……いいえ、それを『あなた』に訊ねても詮無きことですわね。お忘れください。そして、お眠りなさいまし」
     ダイダロスベルトの「杏珠ちゃん」が、無数の白い細い手で都市伝説を貫く。呻き声を上げたか上げないか。「マモリガミ」は、白い靄のようになって消えて行った。


    「荒らしたままだとなんか悪いし、戦場のあとは片付けていくわね」
     戦闘後、アンジェラはできる範囲で片付けを始める。そうですね、と頷き、陽桜も手伝った。片づけながら二人は、ちらと奥の神棚とその前に垂れ下がる古びた縄を見やる。見た範囲で特別そうなもの、伝承の手掛かりになりそうなものはこれぐらいだが、片付けついでに調べてみても何も分からなかった。しかし、「土地神を鎮めるために人柱に立った」という伝承が真実ならば。あるいはこの縄で……そこまで考えて、二人は首を振った。やめよう。
    「ラジオウェーブも暗躍が続いているんだよな。どうにか手がかりを掴めればいいんだけど……」
     重い空気を変えるように、翔汰はそう呟いて天井を仰いだ。そうじゃなぁ、と同意しつつ、白菊は出来る範囲で土地を清め、人柱の女性を祀る。最後に手を合わせ、呟いた。
    「民宿に生まれ変わったら、屋敷を訪れる旅人を祝福し末永く見守る存在になって欲しいのう。座敷童の様な幸をもたらす存在になって欲しいものじゃ」
    「うんうん。そうなったら良いですね♪」
     八王子も笑顔で頷く。
    「無事民宿にリフォームされたら遊びに来てみたいのう」
     そう笑顔で返す白菊に、蔵乃祐は、
    (「いや、でも曰くつきの物件……」)
     という言葉は飲み込んで。
    「長居は無用! さあ帰りましょうか!」
     とさっさと古民家を出ようとする。
    「あら、蔵乃祐おにいちゃま。人ならざるものを気にされていらっしゃるなら大丈夫ですわ。わたくしは慣れておりますし。それに――」
     何か言いかけた夜深の言葉を遮り、蔵乃祐は喚いた。
    「違うの! 違うの! レンタルDVD今日中に返さないと延滞になっちゃうからあ!!」
     それが真実か否かはともかく。そう言うなら、と一行は古民家を後にした。心の中、夜深は先ほど言いかけた言葉を呟く。
    (「それに、わたくしは知っています。『人間より怖いものはない』ということを……」)
     夏のぬるい風が肌を撫でていく。門を出る際、美繰は少しだけ名残惜しそうに家を見上げた。家の中から誰かが手を振っている、そんな気がした。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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