ご当地怪人たちからの招待状

    作者:六堂ぱるな

    ●差し出された次なる手
    「同盟の提案があった。今度はご当地怪人勢力からな」
     開口一番そう言った埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は、学園宛に届けられた招待状を灼滅者たちに掲げてみせた。
    「ご当地怪人勢力の幹部に武蔵坂学園との同盟を進言したのは軽田・命(ノーカルタノーライフ・d33085)先輩らしい」
     招待状の差出人であるレギン・アンゼル(ソロ充サウンドソルジャー・d20919)は、アフリカンパンサーと協力してダークネスの繁殖実験を行っているようだ。米田・空子(ご当地メイド怪人・d02362)はグローバルジャスティスのメイドを目指し、ご当地怪人勢力内で働いているという。命を含め、ガイオウガ決死戦や武蔵坂防衛戦にて闇堕ちした彼女たちの安否が判明したのは吉報だが。
    「ついては同盟会議のため、ご当地戦艦スイミングコンドル2世が鹿児島県屋久島沖に来るので、会見を希望する灼滅者を招待する。来てくれるなら世界各地のご当地名物で歓迎するとある」
     提案の内容は次のとおり。
     大規模抗争が発生した際、ご当地怪人が武蔵坂学園の要請に応じて一度だけご当地戦力を援軍として貸与する。その代わり、武蔵坂学園側は以下の二つを約束して欲しい。
     1、次回のサイキック・リベレイターをご当地怪人に対して使用すること。
     2、一般人を死傷させないご当地怪人の作戦を一回見逃し、介入しないこと。
     簡単に言うならば互いに一度ずつ相手を助けるということだ。
    「ロードローラーの作戦行動を対応班の過半数が阻止したことで、六六六人衆と爵位級ヴァンパイアの同盟締結は間違いないだろう。この提案は情勢を考えれば渡りに船……ともいえる」
     受け入れ易いかに見える提案だが、一般人を死傷させない条件とはいえ、見逃すことになる彼らの作戦がどんな意味を持つかが問題だ。
     切り替えるように咳払いをした玄乃が続ける。
    「また、この同盟提案を拒否する場合のことも提案させて貰おう。相手の場所がわかっていて、相手が会う準備があるというのだ。これは攻撃のチャンスでもある」
     灼滅者が100人も入り込めればご当地戦艦スイミングコンドル2世を攻略し、アメリカンコンドル以下ご当地幹部を灼滅や、闇堕ちした灼滅者を救出或いは灼滅する作戦を行うことも可能だろう。
     ご当地怪人たちの活動拠点であるスイミングコンドル2世を轟沈できれば、大きな打撃を与えることができる。
    「アンゼル先輩、軽田先輩、米田先輩がご当地怪人勢力に所属している以上、サイキックアブソーバーなどの情報は露見しているだろう。その上で彼らが、一見我々に有利な提案をしてきていることをよく考えてくれ」
     ご当地怪人たちは言動や一点集中の思考経路などから甘く見られがちだが、危険なダークネスには違いない。彼らの悲願たるグローバルジャスティス復活、ともなれば、爵位級ヴァンパイアに匹敵する強敵となる可能性もある。
    「無論、同盟を受け入れるか否か、この機をもってご当地怪人を攻撃するのか、決定するのは諸兄らだ。参加者は話しあい、慎重に意思を決定して貰いたい」
     深く一礼し、議論を促すように玄乃は口を閉ざした。


    ■リプレイ

    ●岸壁にて
     招待の当日、鹿児島県屋久島沖にご当地戦艦スイミングコンドル2世が姿を現した。
     船縁には目に痛いぐらいの色とりどりのご当地怪人たちが出揃って『歓迎 武蔵坂学園御一行様』という横断幕を掲げていた。花火も上がっている。
     即座にその襲撃に出た六千六百六十六議院・壱号(d37563)だったが、警戒していた灼滅者たちに早々と捕縛された。
    「予想はしていましたが、やはりですか」
    「オレはジェフと警備をしてるから、ゆっくり交渉してね」
     溜息をつく安藤・ジェフ(d30263)と並んで、竹尾・登(d13258)がにこりと笑って仲間たちを振り返る。暗殺以外にも、他勢力からの介入がないかを警戒してのことだ。
     縛り倒した壱号にアトシュ・スカーレット(d20193)がぽそりと話しかける。
    「気持ちはわかる、ダークネスなんざと手を組むのは俺も癪に触る。だが、現実を見ろ。楽しそうな強敵ぞろいだが、学園が支払う代償はどれだけになる?」
    「せめて話し合いが終わるまで待ってもらえないかな?」
     三蔵・渚緒(d17115)も壱号に声をかけた。武蔵坂学園は意見も思想もバラバラだが、だからこそ色んな面から物事を見て考えられる。ご当地怪人とも歩み寄れる道を探せたらいい。
    「四面楚歌になってはたまらぬわ」
     取り押さえるのに手を貸した媛神・白菊(d34434)は、足元を見られているようで不本意ながら、次の戦争での不干渉を取り付けたいのが本音だ。
     しかし実際のところ、灼滅者による評決は僅差で同盟拒否となっていた。
    「俺難しいこと分からんし、同盟でいいんじゃね?」
     灼滅者たちとご当地怪人たちを眺めながら梯・槐(d37878)がつまらなさそうに呟く。彼が何処かへ行かないか目を光らせながら如月・麗月(d37915)が応じた。
    「次の戦争を考えれば援軍は必要だろうな」
    「でも一般人に死傷者はでないけど、被害は出たりするとか嫌なんだよなぁ」
     十束・唯織(獅子の末那識・d37107)も頷く。同盟を組むにしても作戦の中身を聞いてからでなくては考えられない。
     即同盟、とならなかったのは、恐らくは灼滅者の多くが同じように考えた為だろう。
     ご当地戦艦スイミングコンドル2世の甲板で待ち受けていたアメリカンコンドルの前に進みでて、完全武装のアンカー・バールフリット(d01153)が口火を切った。
    「交渉相手と認識していただけている事は素直に喜ぶことにします」
     アメリカンコンドルが鷹揚に頷いいたところで、ですが、と続ける。
    「見逃すことになる『ご当地怪人の作戦』が結果的にこちらの満足のいく内容であったとしても、現時点での同盟は時期尚早だと思います。再交渉があるなら作戦の内容について説明はいただきたいが」
    「単純に戦力としてなら、喉から手が出る程欲しい。だが、貴方がたご当地怪人が、人類を守る上でのパートナーとなり得る存在かは別問題だ」
     黙っていられず、シルフィーゼ・フォルトゥーナ(d03461)も精一杯背伸びして訴えた。
    「作戦内容がわからにゅのでは邪魔しないと約束はできにゅ。一般人を死傷しなくとも儂らには見逃しゅことができにゅことがありゅことはわかっておりゅじゃろう」
    「同盟自体を拒否しようとは思いませんが、情報や言葉が不足しているように思えます。同盟とかの話はお互いに細かい内容を話し合ってからです……」
     狩野・翡翠(d03021)が補足する。作戦では死傷させなくても、作戦の結果、死傷者が発生する可能性がある場合は受け入れにくい。浦波・梗香(d00839)も口を添えた。
    「私は人類の一人として、ダークネスが人類を組み敷き、支配する社会体制に異議を唱えたい。真の意味での共存共栄が望めるのであれば、全力で協力したい限りだがな」
    「リベレイターの力を介さずにご当地怪人の皆さんと一緒に歩めたらいいなって思いますから、リベレイターの狙いをご当地怪人さんへ定めるのは嫌だなって思います」
     照射をすれば打倒することになる。それならしたくないと羽柴・陽桜(d01490)は思っている。思いのほかあっさりと、アメリカンコンドルは頷いた。
    「マー沖縄でもファイトしたばかりですし、無理もないデショウ。すぐ結論を出すのは難しいかもしれまセン」
    「鵜呑みにできるような状況でもないことはご理解いただきたい」
    「オーケー、今日のところは同盟のイエスノーは置いといテ、ユーたちを歓迎する海外ご当地怪人たちの博覧会をエンジョイしてゆくといいデショウ」
     アンカーに頷くアメリカンコンドルの後ろで、海外ご当地怪人たちが土産物や食べ物を手にひしめいていた。文字通りの満艦飾、艦首からマストまでは万国旗が掲げられ、ご当地をアピールしたいご当地怪人たちがみっちりと甲板にまで溢れている。
    「2回目の会談でお互いの条件を詰めてくカンジで。今回がスイミングコンドル2世だったから、次回は武蔵坂学園でどう?」
    「それも面白そうデスネー!」
     鹿島・狭霧(d01181)の提案に陽気な声をあげて、アメリカンコンドルは先頭にたって灼滅者たちを艦内へと案内していった。

     通路を進むアメリカンコンドルに寄り、万事・錠(d01615)が切り出した。
    「出来ればそっちに居る三名の引き渡しを頼みたい。仲間を救出出来れば武蔵坂学園からの心証はかなり上がる。信頼の積み重ねって大事だぜ」
    「無論すぐにとは言いません。此方と其方、双方の目的が果たされた時で構いません」
     愛想良く海外ご当地怪人たちと話していたリーファ・エア(d07755)も同じ要望を口にし、アガーテ・ゼット(d26080)と伴・創(d33253)が列の前へ出てくる。
    「私たちはレギン・アンゼルさんと話したいのだけれど」
     アガーテはレギンにガイアパワーの奪い方についてアフリカンパンサーに考慮を求めようと、創はダークネスが繁殖可能になった時、灼滅者の利益も見い出し得るかを問いたかったのだが。アメリカンコンドルが肩を竦めて振り返った。
    「闇堕ち灼滅者は連れてきていマセン。ココにいたらユーたちは彼らのレスキューで、同盟の話どころでないデショウ?」
    「俺は命ちゃんに会いにきたんだ、怪人に用はねぇよ。他の幹部にもな」
     声を荒げたのは田中・良信(d32002)だった。軽田・命にまだ声が届くはずだと信じ、帰ってこいと伝えたかったのだ。
    「作戦の詳細まで教えろとは言いません。でも認識の齟齬で揉めるのは嫌だし、明確化はお互いのためだと思うのでぜひ検討してほしいのです」
     羽丘・結衣菜(d06908)に続いて咬山・千尋(d07814)も言い募る。
    「闇堕ち灼滅者を返さないってんなら、グローバルジャスティスの目的なり、ダヴィンチコードの正体なり、同盟にあたって聞きたいことや要望はあるんだ」
    「正直何を企んでいるかわからないから、警戒せざるを得ないのです。本当に武蔵坂と同盟を結びたいのなら、余計な不安は取り去るべきです」
     椎那・紗里亜(d02051)の真摯な言葉を聞きながら、フェンリル・ルーク(d37887)も真剣に話し合いに聞き入っていた。
    「ピンチな時に助っ人が来てくれるなら受け入れる必要もあるんちゃうかな?」
     無邪気に首を傾げる八橋・かなで(d37860)に華上・玲子(d36497)が頷いた。
    「今回は、学園にとっては非常にピンチだと思うね……昨日の敵は今日の友とはいかんけど、一度だけ同盟組むことは必要じゃないかな?」
     尤もな意見ではあったが、小野屋・小町(d15372)が困ったような笑顔を見せる。
    「正直、信用できるか言われるとNOとしかいえへんやね。今後ともよろしゅうに、となるか次会う時は敵、となるかは向こうの話す内容次第やね」
    「『内容次第』だ。妙な事を狙っているなら、使うだけ使って破棄させてもらう。予め警告するのが、俺流の礼儀だと思ってくれ」
     ナイフを後ろ手に隠したままでいるよりは余程誠実だろう、と平・和守(d31867)は語る。話がこじれないよう、灯屋・フォルケ(d02085)がやんわりと提案をしてみた。
    「今の案では全面的な協力は難しいですが、大きな宣伝をしたい時や上手くいかず悩んでいる怪人が過激化する前に、学園に相談・監督願いをする制度を作れないでしょうか」
    「面白いことを考えマスね、ユーたちは」
     アメリカンコンドルが灼滅者たちを連れてきたのは食堂だった。様々な種類のテーブルが並び、正装したディーラーの居並ぶそこはカジノだ。カードにルーレット、色々なゲームが用意されている様はラスベガスのカジノのようでもある。
    「これがミーのブースデース! 他にも艦内には海外ご当地怪人たちの屋台や土産物ブースがありマス。ネゴシエートは後日として楽しんでいきなサイ!」

    ●ご当地勢力の歓待
     海外ご当地怪人たちの歓待は本気のようだった。アメリカンコンドルの傍らまで行った戒道・蔵乃祐(d06549)は問いを投げかけた。
    「同盟に、貴方自身の意思は有りますか? 過ぎた事で済まされる程、今まで死んでいったご当地幹部たちの死は軽く無いでしょう」
    「何故デス? ミーには実害がありマセンし、グローバルジャスティス様にミーの実績をお認め頂けるチャンスというものデショウ!」
     一瞬言葉を失ったが蔵乃祐が言葉を続ける。
    「悪魔と関わる全作戦を放棄し、彼等と縁を切って貰いたい」
    「ボクは出来る事なら、ダークネスとも共存共栄したいんです。同盟の条件として生殖型ゾンビの情報を学園に提供とか、利用停止提案とかは受け入れ可能です?」
     問いかける仙道・司(d00813)に、アメリカンコンドルは首を振った。
    「アー、さっきも言いマシタが、同盟の条件は後日改めて交渉しマショウ。今回の同盟を拒否するのナラ、コチラもまた考えねばならないコトがありマスシ」
     そう言われても桜井・夕月(d13800)としては懸念が拭えない。
    「でも今までがっつり敵対してきたと思うんですが。自分は気にしないけど、学園嫌いな怪人さんとかの説得的なの大丈夫? 不意打ちは嫌だよ?」
    「今まで敵対しあっていていきなり助け合わないかって言われたら、お前らご当地はどう考えるんだよ。簡単に条件呑むほど、頭は軽くないだろ」
     敵意をたたえた茶倉・紫月(d35017)の声は低い。
    「リベレイターを撃てば殺されるはずだよな? 何を企んでいる?」
     意図を見極めたい三影・紅葉(d37366)の声が尖る。
    「一般人に危害を加えないからと安易に承諾できないね。将来間接的に危害を加えるのなら答えはNOだ」
     ソロモンの悪魔の力を借りて生殖型ゾンビを大量生産、が狙いではないかと空月・陽太(d25198)は考えていた。少し空気が険悪になったと感じた彩瑠・さくらえ(d02131)が柔らかな声で間に入る。
    「同盟を結ぶにあたっての希望を、此方が無条件に聞き入れるのは違うと思うということなんだよ」
    「リベレイターの照射先は学園生の総意で決まる。武蔵坂として照射が確約しやすいよう、幾つか情報を聞きたいね」
     紫乃崎・謡(d02208)が水を向けたのを機に、神無日・隅也(d37654)もアメリカンコンドルへ問いかけた。
    「……個人的に、質問があるが、大丈夫か……? 次の話し合いの、参考にしたい……」
    「同盟を組んでいないノニ、内情を語るわけがないデショウ。マー同盟の際にどんなことが気になるのか、そちらが語るダケなら勝手というものデース」
     にべもないとはこのことだったが、カマをかけてみたいレイラ・サジタリウス(d21282)が乗ってみた。
    「ガイオウガの力って今、どうなってます? ご当地怪人同士の合体とかもやってましたよね? 合体怪人の一件で個体数減っていて、統率も乱れてます?」
    「サア、どうデショウ?」
    「アメリカのご当地怪人なのに日本にいるの? アメリカに帰らないの?」
     ラプラエロ・クロス(d37566)の問いには答えない。四刻・悠花(d24781)は黙ってアメリカンコンドルの様子を窺うことに集中していた。作戦を見逃すという危険は冒さずに済んだが、彼は自信に満ちて感情が読めない。
    「所謂クロフネってやつ? かっこいいね! はいチーズ♪」
     声をかける境・楔(d37477)に、アメリカンコンドルがノリよくポーズをとった。
    「黒船来航って初代スイミングコンドル号なの? 刺青羅刹が刺青を取り合ってた理由知ってる?」
    「ノーコメントデース」
    「鞍馬天狗や刺青羅刹達に何か因縁でもあるようですが、思う所があるのでしたら知りたいな、と」
     刺青の力を渇望した事もある九形・皆無(d25213)だが、その力に対する危惧もある。なりを潜めた彼らを捜し出したいが、アメリカンコンドルの返答はなかった。
    「学園が今回の同盟提案を受け入れることで、ご当地怪人側がどんな利益を得るんだったのか知りたいな」
     尋ねてみた比良坂・柩(d27049)だが、こちらもスルー。
     松原・愛莉(d37170)が生殖型ゾンビについての質問や、研究結果を破棄してくれないかという希望も伝えたが、手応えはなかった。同盟相手ならともかく今は応じないということだろう。
     話し合いを見守りながら、鈍・脇差(d17382)も考えを巡らせる。
    (「生殖型ゾンビの改変で爆発的に配下を増やせるだろう。俺達が約束を破った時は、ナミダ姫達の不信感が煽られる――援軍の阻止、そこまで計算してるのかもな」)
    「アフリカンパンサーは捨て置けないけれど、一時的な協力関係ならやぶさかではない。同盟に関しては前向きに検討したくは思っている」
     無駄に敵を作る必要もないと思うからこそ、北条・葉月(d19495)もそう告げた。

     一方でご当地怪人たちを殲滅したいわけではない灼滅者たちもいる。
    「守れない可能性のある約束は出来ない。何をするかの目的と手段、何を目標にするのかははっきりと教えて欲しい」
     明確な条件提示を求めるのは木元・明莉(d14267)ばかりではない。貴夏・葉月(d34472)も己の想いを語った。
    「私は灼滅者が世界の守護者だなんて思っていませんし、思いたくもない。ダークネスだから悪とも思っていません。無条件で仲良くなんてのもないですよ。条件を伺ってから考えます」
    「多様性があるから楽しいと思うんだ。癒しのためにダークネスを必要とするのに滅ぼし尽くすなんて、飢え死にの未来しかないだろう」
     だから君らとも話そうと思う、と神無月・優(d36383)は語る。
    「この数年間、そちらが一般人や灼滅者を直接害した数よりも、ずっと多くのご当地怪人を武蔵坂が灼滅しているのではと思う。僕自身も多くのご当地怪人の灼滅に関わってきた。その点については個人として謝罪させてほしい」
     ヴィンツェンツ・アルファー(d21004)の謝罪には、むしろ不思議そうだった。
    「変なことを気にするのデスね。マア気持ちは受け取っておきマショウ」
    「出汁の味はどうだった?」
     アッシュランチャーの騒動の際、スイミングコンドル2世で顔を合わせた桃野・実(d03786)に問われて、アメリカンコンドルが首周りの羽毛を逆立てた。
    「ウォーターサーバーにダシとやらを突っ込んだのはユーですカ! もうちょっとインパクトのある味を求めマース!」
     戦って楽しくて会ったら嬉しいご当地勢力のことは、学園よりも信じられると実は思っている。だからこそ同盟を望んでいた。
    「保険が欲しいなら俺の身柄を預ける」
    「良かったらソウルボードを此方と協力して研究してみたいと思っている。私はご当地怪人の方に寝返る。理由は只死にたくないからだ」
     力説するレイ・ソウル(d21239)を、アメリカンコンドルは歯牙にもかけなかった。
    「でもユーたちは灼滅者デスシ。闇堕ちして来るのでアレバ歓迎しマスよ」
     語るだけなら勝手ならと、東雲・菜々乃(d18427)は次回の同盟提案の際の条件をまとめて書きつけていた。
    「援護をする時には手を抜かずに全力でお願いしますね」
    「同盟が成立していれば当然デショウ」
     菜々乃と条件を書きつけた色射・緋頼(d01617)は息をついた。
     個人的にはダークネスと友好は深めたい。それが灼滅者や他の友好的な組織や人にとっていいものであるならば。
    「ま、こっちにとって都合のいい事を言ってきているのは分かるけどね」
     結んだ同盟を反故にすることも考えて同盟を望んだ陽乃下・鳳花(d33801)だったが、こうなっては仕方ない。

    ●ご当地怪人との交流
     同盟を望む灼滅者の中には海外ご当地怪人たちとの交流を楽しむ者たちもいた。
    「歓迎、楽しませてもらってるよ。ロブスタ種のダッチ珈琲……これはインドネシアの怪人さんが用意したもの?」
    「おう、俺だ。味わってってくれ!」
     ガラスポットの頭をした怪人が喜んで振り返り、神鳳・勇弥(d02311)は笑顔を返した。
     学園はその生徒の数だけの意見があって統一は難しい。利害じゃなく互いを理解しようと歩み寄る関係になれたらいいと思う。
    「難しい事を考えて自分らを追い込むくらいなら、其方の思惑通りに踊った方が、私たちらしいかなって思うしね」
    「細かいことはまた今度だしな」
     月夜・玲(d12030)に浅黒い肌のご当地怪人がケバブを差し出す。同じように受け取りながらルフィア・エリアル(d23671)が笑った。
    「難しい事なんて考えない方が案外上手くいくのさ。怪しければ途中で切るだけだがな」
    「とりあえず低いハードルは飛ぶに限るのだわ!! 皆てきとーにやっといて!」
     海外ご当地怪人たちの屋台の列へレスティア・アルファ(d37853)が駆けこんでいく。
    「世界各地の名物があるということは、ご当地ジャンクフードもあるんだろう?」
     途端に仁藤・仁(d37851)に怪人たちが群がる。
    「よし、伝統のフィッシュ&チップスだ!」
    「うちのボスナがいいに決まってる!」
     レース・レーン(d37855)としては相手にどんな思惑があろうとも、あえて乗るのが面白いと思っていた。
    「世界各地のご当地名物か……何かおいしい物でもあるかな」
     そこらじゅうからうちが美味しいと声があがる。
    「ご当地品お土産に持って帰って良い? タッパー持ってきたし、詰めて帰るね」
     やる気満々のリディア・ベータ(d37854)に怪人たちが持ってけ持ってけと声をあげる。
    「久しぶりにがっつり勝利を頂きたかったんだけどねー。ああ、ご飯は貰っていくね。食べ放題でしょ、今回」
     ヤムウォンセン怪人の差し出す皿をフレグラン・ロッソ(d37896)が受け取り、長篠・殺識(d37682)もパーティを満喫していた。
    「美味しそうな、不思議な、面白そうな、食べ物いっぱいありそー! よーし全力でお腹いっぱい食べるぞー!」
    「面倒だからお勧めのご当地品案内してよ。フルコースでお願いね」
    「おフランスじゃなくたって旨いフルコースはあるんだぜ」
     ロゼリィ・ロンド(d37859)の背を押してボルシチ怪人が屋台へ連れて行く。
     どの怪人も己のご当地への愛に溢れていて、トルコの怪人からサバサンドを貰いながらミカエラ・アプリコット(d03125)は会場の和やかな雰囲気に安心していた。
     世界各国の米料理を楽しむ淳・周(d05550)が、牛スープのフォーを食べながらアメリカンコンドルに声をかけた。
    「ライスバーガーとか好みか?」
    「ミーはバンズのバーガーで結構デース!」
    「お土産も持って帰りたいね、ご当地缶詰とかないの? 結構好きなんだよね、缶詰」
     『ヤンソンの誘惑』をつまむ西川・巧(d38151)に、頭が魚の怪人が請け合った。
    「それならシュールストレミングだ!」
    「私はお土産とかないか見てくるね。世界各地のペナントとか買って帰りたいな」
     並ぶ屋台を見廻す笹垣・涼子(d37856)に、世界各地のペナント怪人がお土産アタックを始める。
    「球体関節人形を作ってみたいですの」
     声をあげたシエナ・デヴィアトレ(d33905)は、寄ってきた怪人たちと穏便に当地の品々を広める方法について話し合い始めた。
     歓待を受けるばかりではない。食材を持ち込んだ崇田・來鯉(d16213)が海外ご当地怪人たちに、お好み焼きと肉じゃがを振舞っている。
    「お返しにご馳走しなきゃヒーローの名が廃るよ!」
    「おお、こりゃソースが効いて美味い!」
     海外ご当地怪人たちからも歓声があがり、ファルケ・リフライヤ(d03954)がギターを手に立ちあがった。
    「一般人にも受ける営業ってやつを一緒に模索してやってもいいぜ。ということで一曲歌ってやろう!」
     まだ死にたくない灼滅者たちが飛びついて音痴を止める。いずれ粋な喧嘩になりそうで機嫌よく飲み食いしていた撫桐・娑婆蔵(d10859)は、ふと思い出した。
    「そういや『第2回ご当地怪人選手権』で、宇都宮ぎょうざの羽怪人なる手合いと邂逅したんでさァ。彼は元気にしておりやしょうか?」
    「そいつかは知らんが宇都宮ぎょうざの羽怪人はいるぜ!」
     すぐ近くでは獅子鳳・天摩(d25098)が、頭部がピザの怪人と肩を組んでいる。
    「作戦内容教えずに同盟飲めなんて、それは無理って人がたくさん出るってわかるっしょ。そういうとこかわいいけど、誰が発案なんすか」
    「俺らはわからんなあ」
     のんきな返事を返すご当地怪人たちと、何とか共存の可能性を探っていきたい。灼滅者とは方向性が違っても彼らのご当地愛は本物だから、敬意を持って相対したいと文月・直哉(d06712)は考えている。
    「現状、力のある勢力3つを相手取るとなると、一時的にでも当てにできる戦力は多い方が有り難いと思ったんだけどね」
     苦笑する月村・アヅマ(d13869)にまあまあと怪人がホットドッグを勧め、共存の可能性があるのであれば受け入れたい紅羽・流希(d10975)は世界中の怪人たちから料理を学んでいた。
    「出来れば、一緒に作りながらコツを教えてほしいです……」
     お互いの愛するものを尊重出来れば、お互いに敬意を持つことができれば共存出来る。そう信じる居木・久良(d18214)も穏やかな笑顔で怪人たちと交流している。
    「ご当地怪人さんも含めてダークネスさんは、とってもまっすぐだね。ご自分が信じた目的の為なら、周りを気にしない位に」
     久成・杏子(d17363)の言葉に辺りの怪人たちが照れ笑いを浮かべる。
     彼らがリベレイターの発射情報を元にソロモンの悪魔との交渉するのではと考えていた饗庭・樹斉(d28385)だったが、同盟拒否でそれはない。
     師走崎・徒(流星ランナー・d25006)からすれば、ご当地愛そのものは悪くないのに、なんやかんやで世界征服に繋がってしまう理由がわからない。少なくともご当地怪人達のご当地愛に嘘偽りは無く、ご当地を貶めるような真似は絶対にしないと風真・和弥(d03497)は断言出来る。
    「別に真っ向拒否したい訳じゃナイ。ただ、何をするか分かりもせずに簡単には頷けないんよね」
     もてなしを受けながら堀瀬・朱那(d03561)が笑顔で怪人と語っていた。戦艦怪人謹製の海軍カレーを堪能しながら白石・明日香(d31470)も頷く。
    「作戦の内容がもうちょっと具体的なら、リベレイター照射の決断もしやすかったかもな」

     一般人に危害を加えないでほしい。夏秋・明日香(d37564)のようにシンプルに考えている灼滅者は多い。それは四軒家・綴(d37571)もだが、ちょっとストレスが吹きだした。
    「なんなんだ同盟って! なんでこのタイミングなんだッ!? 先の大戦前とか色々あったろうがッ! 諸々ちゃんと説明しろコラァーッ!」
    「腰が、背中がッ!」
     手近なご当地怪人にアルゼンチンバックブリーカーをかましている。
     富山・良太(d18057)は灼滅者を殺害する、又は学園に被害を与える作戦も困ると思っていたし、その点は秋山・清美(d15451)や秋山・梨乃(d33017)の姉妹も同じだ。
    「私達の敵は一般人を殺し虐げる存在です。灼滅者がダークネス絶対殺すマンではないのと同様、ご当地怪人は無意味な殺人者でもないと信頼しています」
     会話の場が設けられたこと自体をフィアッセ・ピサロロペス(d21113)は喜んでいたし、この一時だけじゃなく、ご当地怪人とずっと仲良くしたいとエメラル・フェプラス(d32136)は思っていた。
    「せっかくの機会を大事にしたいの。もう少しゆっくり、じっくり、話し合えないかな?」
    「ナミダ姫から『安易にダークネス組織を滅ぼすのは控えて欲しい』と頼まれてもいるしな。穏便かつ友好的に話し合いを進めたいな」
     片倉・光影(d11798)は今後同盟を組む余地はあるかもしれないと踏んでいる。
    「これから灼滅者と決着を付ける気なのかい? それとも、ダークネス・灼滅者・一般人が全員納得する様な策を用意していたりするのか?グローバルジャスティスサマってのは」
     赤槻・布都乃(d01959)の認識としては美味い飯奢るヤツに悪いのはいない。水燈・紗夜(d36910)も悪くは思っていなかった。
    「僕達と君達の視点は全然違うと思うのさ。視点の違いを見せてくれたまえよ。それをお互いが理解できれば、立場をはっきりとさせ易くなるだろう」
    「こっちも無下にはしたくはないけれど」
     今後はご当地怪人が一般人に被害の無い程度の活動をするなら、こちらから攻勢に出ない事や同盟も考えてもいいというのが神夜・明日等(d01914)の意見だ。
     今回の申し出の思惑、ご当地怪人がどういった未来を望んでいるか。泉・星流(d03734)が聞いてみたいと思っていることは多い。

    ●生殖実験の先
     アッシュランチャーの作戦でこの艦に乗り込んだ野乃・御伽(d15646)は、あの時とは違う明るい雰囲気を楽しんでいた。それはそれとして質問もする。
    「手の内も見せずにはいそうですかって同盟結ぶわけにはいかねーんだわ。ダークネスの繁殖実験をしてるんだろ?」
    「繁殖できるようになったとき、貴方たちは人類をどう見る? 恵みを分かち合う友? 不要な害虫? 答えによっては約束を守れるか怪しくなると思うんですけど、どうなんでしょーか?」
     ハノン・ミラー(d17118)が気になっていたことであり、海灯・一花(d37790)の疑問でもあった。
    「人間は解放されるのか、今まで通りか、無用にとして各種族の赴くままにさせるつもりなのか。答えてくれる?」
    「成功した場合の一般人被害の減少率はどれくらいの見込みだろうか。ご当地勢と武蔵坂は同盟、牽いては共存共栄しやすいが、その意志はあるか?」
     重ねて赤城・碧(d23118)が問うと、アメリカンコンドルは立ち上がった。勿体ぶった様子でカジノの中央へ歩み出ると、灼滅者が注目しているのを確認して嘴を開く。
    「すべての元凶は『人間を苦しませなければ、ダークネスが生まれない』という法則ではありまセンか? この法則がなければ『ダークネスは人間を苦しませなくてもよくなる』ので、争わなくてよくなるデショウ」
     灼滅者たちは言葉を失った。しんとカジノの中が静まりかえる。
    「ダークネスの生殖実験はその為なのデス。それならば、ユーたちがミーたちの実験を否定する理由はナッシングではないデショウカ?」
     一般人だけを死傷させないことが最優先じゃない。ダークネス=死すべし、でもない。だから森田・供助(d03292)は問いかける。
    「ダークネスのみでの生殖方法を完成させる……だけならまだしも、人や俺らみたいな他の生命の根幹を大きく変えるなら、それは、否ってなる」
    「デハ、この研究成果は人間の為にはならないとデモ?」
     そう問われれば、誰もすぐには答えが出なかった。言葉が出ない灼滅者を見渡し、アメリカンコンドルが翼を広げる。
    「これ以上のユーたちや人間たちとの共存プランはないデショウ!」
     ご当地怪人たちの目的によって灼滅者は彼らと共存できるのか、戦うしかないのか方針を立てることができるはずだと無常・拓馬(d10401)は思う。
     彼らの目指すものがもし本当に『人間を必要としない繁殖』なら――?
     最期は殺し合いになろうが、まずは相手を理解したい。そう考えていたレオン・ヴァーミリオン(d24267)は考えを巡らせる。
    (「ダークネスが「後継」を、子供を残せるようにする? うっかり人類が滅んだら君らも一緒に死ぬ。だから、人類がいなくなっても繁栄できるようにする、かな?」)
     ダークネスが繁殖能力を得れば、人間を苦しませずに共存共栄ができる。
     それは『人間を苦しませない』という一面において正しい。

     逆を言えば『人間を苦しませなければダークネスが生まれない』からこそ、ダークネスはより多くのダークネスを産みだす為に、人間を保護し発展させてきた。
     繁殖能力を得たダークネスが仲間を生み出せるようになれば、ダークネスにとって人間は保護する価値がなくなる。
     もしその時、邪悪なダークネスが『特に意味も無いちょっとした快楽の為に、人類を滅ぼそう』としても、ダークネス側にそれを止める理由はない。
     人類を滅ぼすだけなら、地球上には可能な兵器が既に存在する。兵器を管理しているのは人間なのだから、ダークネスが唆して全面核戦争を引き起こそうとしたなら止める手段はないだろう。

     人類をダークネスから守るには、『人類がいなければ、ダークネスは存続できない』という枷が必要なのではないだろうか。

     激しい戦いを切り抜けられたなら、同盟の交渉は改めて考えることになるだろう。
     山のような土産物や折りづめを持たされた灼滅者たちは、学園へと戻っていった。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2017年8月10日
    難度:簡単
    参加:104人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 15
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