狂戦士達のデスマーチ~前編

    作者:長野聖夜


     夕暮れ時のショッピングモール。
     最近になって出来たこの町の生活用品をほぼ一手に担うこのモールは、夕暮れ時でも人で賑わっていた。
     そんな黄昏時の喧噪の中。
     ショッピングモールのイベント広場に空から不意に落ちてくる黄金の円盤。
     プロレスのリングのおよそ2倍ほどの大きさのある其の上に立つ、2体の影。
     1人は、筋骨隆々の巨大な男。
     もう1人は、その手に鞭のようにしなる剣を持つ細身の女。
    「此処で決着をつけてやる! 行くぞ、舞姫!」
    「望むところですわ、武王!」
     武王が圧倒的な膂力で舞姫の懐に飛び込み、その顎目掛けて拳を振るえば。
     舞姫は、まるで流麗な舞を踊る様にそれを躱し、白鳥が湖の上で舞うが如き美しさでその手に持つ鞭の様な剣を突き入れる。
     その戦いの様は、正しく演舞の様で。
     気が付けば、一般人たちは蕩けた表情のままに彼らの『武闘』に見入り、声援を2人に送っていた。
    「負けるな、武王!」
    「行け、舞姫!」
     熱に浮かされた様な声援に押され武王と舞姫が舞う。
     ……その戦いに終止符を打ったのは舞姫。
     武王の渾身の一撃を華麗な足捌きで躱し、刃をその心臓に突き入れて。
    「私の勝ちですわ!」
     舞姫の高らかな宣言に、人々が熱狂的なまでの歓声を上げると同時に。
     武王が光となって舞姫の中へと吸い込まれ……舞姫は自らが強大な力を得たことを、心より実感するのだった。


    「皆、六六六人衆の同盟提案に対する対応お疲れさま。俺は、皆が六六六人衆との同盟を拒否した道を共に歩むと決めているよ」
     北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)の表情と言葉には労いが込められている。
     だが、程なくして優希斗の表情が曇りを帯びた。
    「ただ……その結果として、六六六人衆と同盟しているアンブレイカブルが新たな事件を引き起こそうとしているんだ」
     ――それはまるで、灼滅者達が選んだ選択を試す様で。
     軽く息をつき、淡々と続ける優希斗。
    「最近になって出来たとある町のショッピングモールのイベント広場……此処には沢山の一般人がいるけれど……此処に、『黄金の円盤リング』を出現させて、2体のアンブレイカブルを戦わせて、その勝利者に敗者の力を吸収させて強大化させる事件が起こる。今回、俺が視たのは『武王』と『舞姫』と言う2体の戦いだね」
     最終的には舞姫が勝者となり武王の力を吸収し、その力を自らに定着させるために周囲の一般人を皆殺しにする。
    「しかも厄介なことに、この2人が戦う黄金の円盤リングの魔力の影響で、一般人たちは、試合後の熱狂のまま、舞姫に喜んで殺されてしまう様なんだ」
     尚、一般人は黄金の円盤リングの魔力の影響下にいる為、催涙弾その他の物理的な手段は勿論、ESPでさえも無力化してしまう。
    「つまり……周囲の一般人を救うためには黄金の円盤リングで武王と舞姫の2体と戦う必要がある。しかも、その結果として新たなる問題が起きることも判明している。……それでも、皆、この頼みを聞いてもらえるかな?」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で返事を返した。


    「先ず、舞姫と武王が戦う場合、最終的に舞姫が勝利する。こうなった場合、舞姫は周囲の一般人の虐殺を優先して行うから、皆が攻撃を仕掛けたとしても、この虐殺を止めることは出来ないから、大きな被害が出るだろう」
     最大多数の一般人の幸福を鑑みるなら今回の件は見過ごせないだろうと優希斗は呟く。
    「此処で舞姫に力を付けられたら、一般人は勿論、皆にもより大きな被害が出てしまうからね。だから、其れを防ぐ為にも皆には舞姫と武王の戦闘に介入して貰う必要がある」
     灼滅者達が舞姫と武王の戦いに介入した場合両者は手を組んで灼滅者達と戦おうとする。
    「戦いを有利にするには、舞姫と武王が消耗したところを狙うのが一番なんだけど、あまりギリギリを狙うと決着がついてしまい周囲の観客に大被害が出る可能性があるから介入タイミングの見極めは重要だろうね。でも……」
     そこまで告げたところで僅かに顔を俯け、溜息をつく優希斗。
    「本当の問題はそこじゃない。この戦いで舞姫または武王を灼滅した灼滅者は黄金の円盤の魔力で灼滅した相手の力を吸収して闇堕ちする」
     まるで、武神大戦天覧儀の時の様に。
    「この戦いで闇堕ちした灼滅者は戦闘後も撤退することなく黄金の円盤リングで戦い続け最終的に周囲の観客を惨殺することになる。つまり……闇堕ちした灼滅者と皆は連戦する必要がある様なんだ」
     告げる優希斗は沈痛そうで。
    「それでも……皆、この事件を何とかしてもらえるだろうか?」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は其々の表情を浮かべるのだった。


    「闇堕ち灼滅者との連戦の是非はさておき、この事件に介入するなら皆には武王と舞姫と戦い、撃破してもらう必要がある。どちらもアンブレイカブルである以上、ストリートファイターのサイキックを使用してくるのは変わらないが、それ以外の手段が異なるようだ」
     武王は、クラッシャーでバトルオーラ相当のサイキックを得意とし。
     舞姫は、キャスターでウロボロスブレイド相当のサイキックを得意とする。
    「どちらもそれなりに強敵ではあるが、今の皆の実力なら同時に相手どっても勝てないことはないだろう。舞姫の方はシャウトも使用してくるから気を付けて欲しい」
     優希斗の言葉に灼滅者達は其々に返事を返した。

    「謎の力を放つ黄金の円盤リングだ。この力は多分、アンブレイカブルの首魁の大老達の力だろう、と俺は思う」
     軽く頭を振るう優希斗。
    「けれど、重要なのはそこじゃない。この戦い、皆が六六六人衆に突き付けた返答に対する『覚悟』を問う問題になるのではないかと俺は思っている。だから、俺はこう誓おう」
     ――仮に堕ちてでも、皆がこの戦いを止めてくれたのなら。
    「その堕ちた人を救うために俺も最善を尽くすことを。だから……どうか、よろしく頼む」
     優希斗の言葉を背に、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    レイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)
    四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    久我・なゆた(紅の流星・d14249)
    ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)
    レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)
    有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)

    ■リプレイ


     ――最近になって出来た都市のショッピングモールの夕暮れ時。
     黄昏時の喧騒の中、イベント広場に唐突に落ちてきた黄金の円盤で舞う様に戦う2体の影。
     戦いが始まり凡そ4分。
     武王の方の動きが、舞姫に比べて明らかに鈍くなってきている。
     当たれば一撃が重い武王に対して、舞姫は一撃こそ軽いがその分を機動力と手数で補っている。
     故に……舞姫側有利に戦闘が進んでいる。
     その戦いの様を見ていて……自身の体の底から熱が浮かんでくるのが放置できず、まるで裡を流れる血を掻き毟る様にしている、有城・雄哉(大学生ストリートファイター・d31751)。
    (「皆、そろそろいろは達の出番みたいだよ」)
    (「了解した」)
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)の声がインカムを通して聞こえ、雄哉と共に熱狂する観客に紛れていたレイ・アステネス(大学生シャドウハンター・d03162)が返事を返している。
    (「了解だぜ。……ったく、決闘するなら一般人巻き込むなっつの」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)も同様にインカムにそう返事を返しつつ、隣で一緒に観客に紛れていた槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)に軽く目配せ。
    「ま、何であれ俺達のやるこたかわらねえか。だろ、康也!」
    「そうだな、高兄!」
    (「……大丈夫、俺は絶対、全部守る!」)
     強気な笑みを浮かべる高明の表情に無茶をしないだろうかと内心心配しながら、誓いを新たにして康也が頷きを返していた。
    (「こっちも了解だよ」)
     久我・なゆた(紅の流星・d14249)がインカム越しに返事を返し、突入の算段を整えたところで小さく息を一つ。
    「――覚悟を試されているみたいだね、大老の試練とでも言うべきかな」
    「闇堕ち覚悟上等。病気と怪我以外で殴って治せないものはないんだ」
    「そうだね。覚悟なら……私にもある!」
     ハノン・ミラー(蒼炎・d17118)の呟きになゆたが頷く声をインカム越しに聞き取りながら、レオン・ヴァーミリオン(鉛の亡霊・d24267)が笑った。
    「余計な枷がついているが、なんとかなるってな。それじゃあ行こうかねみんな。頼りにしてるぜ?」
     レオンの言葉を合図に、灼滅者達はゆっくりと黄金の円盤リングへとその足を掛けた。


     唐突な訪問者の姿を見て、一般人の観客達の歓声が更に加速する。
    (「これ以上、一般人の犠牲を増やすわけにはいかない」)
     雄哉が自らの体の疼きを暴力的な殺意へと変異させ、イベント会場全体を包み込む結界を張る。
     一般人の新たな歓声がこの乱入者達に気が付いた武王と舞姫が戦いの手を止めた。
    「来たか、新たな挑戦者達よ」
    「私達の武闘に酔わないと言うことは……貴方達、灼滅者ですわね」
    「悪ィけど邪魔するぜ! てめーらはガッツリぶっ飛ばす!」
    「一般人の犠牲は無視できないパターン! 真剣勝負に水を差すようでごめんなさいね」
     熱意を込めて叫ぶ康也と心無い謝罪を告げるハノンに、傷の深い武王が呵々大笑する。
    「なに、これも一興よ。我が舞姫と汝等を一人残らず始末し、そしてこの戦いの覇者となるだけのこと」
    「あらあら、真の覇者は私ですことよ、武王。最も、この状況でしたら、先に片づけるべき障害があることは否定しませんがね」
     カラコロと何処か剣呑だが穏やかに笑う舞姫に着物姿のいろはが腰に帯びた愛用の金属製の純白鞘『五番の釘』に手を掛けながら問う。
    「名乗りなよ、それが戦の作法ってやつじゃないかな?」
    「そうですわね、改めまして。舞姫と申します。以後お見知りおきを」
    「武王だ。では、参ろうか」
    「久我・なゆた。……行くよ!」
     空手の礼に倣って一礼し、なゆたが紅の流星の如き線を引いて疾駆する。
     落下してくる隕石の様な紅の線を引きながら放たれた蹴りが、武王の腹部を強打すると同時に高明が一対の翼をデザインした鋏を羽撃かせる。
     黒鋼の双翼と名付けられた其れが、流星の如く煌めきを帯びながら武王の体を無造作に斬り裂いていく。
    「分かりやすいねぇ。嫌いじゃないよ、こういうの」
     それまでの戦いである程度その動きを観察していたレオンが飄々と対人外用振動突撃剣解体者エドガーで懐に潜り込み、その脚部を貫いている。
    「ぬうん!」
     一喝と共に、周囲に展開していた覇気を力に変えて自らの傷を癒していく武王の背後から、まるで蝶の様に舞うような速さで飛び出し、鞭状の剣を旋回させて飛び込んでくる舞姫。
     生み出された旋風が前衛を襲うが、康也が雄哉の、ガゼルがいろはの盾となりその攻撃を最小限に抑え込む。
    「そっちから来てくれたんなら、好都合だよ!」
     舞姫にそう告げ、ハノンがシールドバッシュ。
     放たれたその一撃は舞姫の決定打にはならなかったが、それでもその瞳に怒りの炎を抱かせるには十分だったようだ。
    「やりましたわね!」
     ガゼルの背から飛び出したいろはが、舞姫を無視して、一足で武王に踏み込み、そのまま純白鞘【五番の釘】を武王の急所……鳩尾に当たる部分へと抉りこむ。
    「むぅっ?!」
    「沈め」
     康也の脇から飛び出した雄哉がその足元の漆黒の影を放つ。
     放たれた影が咢を開き武王の肩を食らい、レイがその隙を見逃さずレイザースラスト。
     放たれた帯がギリギリと武王の腕を締め上げ、康也がクルセイドスラッシュ。
     肩を袈裟懸けに斬り裂かれ血しぶきを上げる武王の血が康也や雄哉に掛かるが、雄哉はそれに笑みを浮かべている。
     ――それは、愉悦。
     以前は無理矢理抑えていた自らの衝動がこみ上げてくる証。
     ガゼルが機銃を掃射し、舞姫を牽制する間に、レムがリングを光らせ、舞姫の刃を受けたガゼル達を回復している。

     ――新たに切られた開戦の合図は、周囲の観客達の熱狂をより一層際立たせていた。


    「邪魔をしないでいただきたいですわ、貴女!」
     舞姫が叫びながら、剣に雷を纏わせてハノンを斬り裂こうとする。
    「おっと、そうはさせないぜ!」
     返しながら高明が接近し、クロスグレイブによる格闘術を叩きつけている。
     十字架による乱打が効いたか勢いの減じられた舞姫の刃に袈裟懸けに斬り裂かれたハノンが僅かに苦痛の表情を浮かべつつ、武王にフォースブレイク。
     込められた魔力が圧倒的な熱量と共に爆発し、武王を嬲る。
    「この程度かあ!」
     絶叫しながら拳を乱打する武王。
     其れが無数の閃光となってハノンに集中しかかるが……。
    「槌屋」
    「絶対に、誰も倒させないぜ!」
     状況を観察し、次の一手を鑑みていたレイの呟きに促されて康也が割込み、その猛打を代わりに受けて踏み留まる。
     お返しとばかりにダイダロスベルトを放ち、武王の身を絡めとった。
    「守りを捨てるだと?!」
    「そこだよ!」
    「2人まとめて相手にし続けるのは大変なんでね」
     なゆたがその隙を見逃さずに大上段に振りかぶった日本刀を振り下ろして武王の拳を叩き斬るのを目で追いつつ軽口を叩きながら、レオンが合わせる様に青眼に構えた日本刀で斬撃を放つ。
     放たれたその刃が、なゆたが傷つけた拳を深々と斬り裂き、その拳による力を封じる間に、レムが尻尾のリングを光らせて、前衛を回復。
     その間にいろはの純白の中を彩る紅が、夕日を浴びて何処か妖姫めいていて美しい殺戮帯【血染白雪】を撃ちだし武王の身を締め上げる間に。
    「あああああっ!」
     身体の疼きが止まらない雄哉がその拳を鋼鉄化させて、武王に叩きつけている。
    (「有城……」)
     雄哉の様子をそれとなく見つめながらレイが状況を確認。
     ガゼルが舞姫の進撃を阻むべく車体を叩きつけてその攻撃を牽制する間に、レイはその足下の影を放つ。
     放たれた闇の獣が武王を食らい、その体の一部を奪っている。
    (「アステネス先輩か……!」)
     雄哉が影に囚われ、トラウマを重ねてのたうつ武王の様を見て、内心で舌打ちを一つ。
     意図的に止めを刺すのを妨害するのは、少々難しいかも知れなかった。
    (「堕ちるのは、僕だけでいい」)
     その筈なのに。
     そのまま雄哉が己が闇の象徴たるオーラを無数の拳へと変化させて叩きつけるのに合わせて、いろはが一呼吸で間合いを詰めて妖冷弾。
     五番の釘の先端から撃ちだされた弾丸が、武王を氷結させながら武王と舞姫の間に割込み、舞姫に敢えて背を向ける。
     がら空きのいろはの背を舞姫が斬り裂こうとするが、その時には……。
    「おっと、やらせないぜ!」
     何時の間にかその死角に踏み込んでいた高明が、黒鋼の双翼を羽撃たかせて、その足を斬り裂き、其れに合わせる様にいろはの背後にガゼルが現れてその一撃を受けながらもフルスロットルさせて己が受けた傷を癒している。
    「倒れろ!」
     傷だらけの武王が素早くレオン達の後ろに引いた高明を狙って自らの覇気を光線にして撃ちだすが……。
    「高兄!」
     康也が目の前に立ちはだかりその攻撃を防ぐと同時に、レイがラビリンスアーマー。
     帯にその身を温かく癒されながら、康也は武王の方へと踏み込み蒐執鋏で武王の体力を奪うその間になゆたが武王の懐に飛び込んでいる。
    「これで行くよ!」
     なゆたの閃光百裂拳に武王が傾ぎ、舞姫が援護するべく武王の傍に駆け付けようとするが、その時にはハノンがシールドバッシュ。
    「そっちには行かせないよ」
    「やってくれますわね……!」
     怒りに燃える舞姫を他所に、ハノンがちらりと後方を振り返れば、飄々とした様子でレオンが武王の死角に飛び込み黒死斬。
     再び足を斬り裂かれ、更にトラウマに襲われて体力を奪われる武王。
    「ぐ……ぐぅ……!」
    「終わりだぜ、武王」
     誰にも見えない程に小さく足を震わせながら、高明が十字架戦闘術を叩き込むべく武王の懐に潜り込もうとする。
    「……させない」
     それは、誰に向けられた言葉だったろうか。
     高明よりも、僅かに早く雄哉の放った影が武王を食らうべく迫るが……。
    「見過ごせないな」
     それよりも早くレイの帯が武王の腹部を貫通し武王の背中までを貫き止めを刺していた。


    (「……くっ!」)
     レイが武王に止めを刺すと同時に闇に呑まれていくその様を見ながら、康也が内心で悔しさに唇を噛み締める。
     出来ることなら仲間を闇堕ちから守りたかったが、2体を相手取りどちらかに止めを刺した者が闇堕ちするというルールは覆せない。
    「……心配するな。まだ大丈夫だ」
     その姿をミゼンへと変貌させながらも仲間達を見まわすレイの表情に嘘は無い。
    「武王がやられてしまいましたわね……」
     諦めとも取れる溜息をつきつつも余裕を崩さず戦闘態勢に入る舞姫。
     その名前通り、舞う様にひらりとその身を翻し鞭状の剣を伸ばして、レイを狙う。
     彼を殺せば力が吸収できると判断したのだろう。
    (「くそっ! どうして……!」)
     警戒していた筈なのに、その行動さえも読まれていたのだと気が付き、雄哉が影を方向転換させて舞姫を狙う。
     思わぬ方角からの一撃に、咄嗟に攻撃を中断した舞姫に向かってやり場のない感情を叩きつける様に、拳を鋼鉄化させて殴り飛ばす雄哉。
     強烈なその一撃に吹き飛ばされた舞姫に武王の居た空間を蹴って間合いを詰めた高明がその足を斬り裂き、更になゆたが紅の流星を描きながら舞姫を蹴り飛ばす。
    「2体目にまで止めは刺さないでくれよ? 後が大変だからね?」
    「分かっている」
     レオンがレイに告げながら解体者エドガーで舞姫の足を抉る。
     其れなりに負荷の掛かっている足を突撃剣が貫き、舞姫の左足の骨をも貫き完全に地面に縫い止めていた。
    「急ごうぜ!」
     康也が叫びながらクルセイドスラッシュ。
     まだ大丈夫の様だが、何時までレイが意識を留めていられるのか分からない。
     早めに倒すに越したことは無いのだ。
    「まあ、まだ手数が残っていたのは幸いかもね」
     いろはが呟きながら一足で舞姫の懐に飛び込み、純白鞘【五番の釘】で肺を抉っている。
    「がはっ……!?」
     肺を満たしていた空気を奪われ喀血しながら舞姫が自らの左足を失うことを恐れる事無く後退。
     だが、其れすらも逃さぬ、とばかりにガゼルが機銃をばら撒いてその身を牽制し、ハノンがDCPキャノンでその身を射抜く。
     レイが祈る様にクルセイドソードを構えてセイクリッドウインド。
     解き放たれた風が前衛の傷を瞬く間に塞いでいく。
     闇堕ちしている分、回復速度も圧倒的に早い。
    「よし、これなら……!」
    「行ける!」
     康也が快哉を上げながら、レイザースラストを放って舞姫を締め上げ、ハノンがシールドバッシュを叩きつけている。
     WOKシールドを叩きつけられ、吹き飛ぶ舞姫を、なゆたが中段に構えた日本刀で残虐に斬り裂くのに合わせてレムが猫パンチを叩きつけ、更に雄哉が己が闇を波動に変え連打。
    「うあああああっ!」
     それは、本能に呑まれた怪物の様な雄叫び。
     ふらつく舞姫との距離を縮地法で一瞬で詰めたいろはが、納刀していた大太刀【月下残滓】を一閃する。
     目に見えない速度で放たれた抜刀術に斬り裂かれ宙に浮いた舞姫の死角から、
    「さっさと行くぜ」
     レオンが飛び出して舞姫の急所を斬り裂きガゼルが空中の敵に体当たりを舞姫に叩きつけて地面に叩き落としたところで。
    「これで、終わりだぜ!」
     高明が舞姫にティアーズリッパ―。
     首を掻き切り、止めを高明が刺した様子に、康也が叫ぶ。
    「高兄!」
    「柳瀬先輩……」
     雄哉が思わず息を呑むのに対して、高明は笑顔で親指を立てて笑った。

     ――笑って、みせた。


    (「良かった……」)
     闇に意識を飲まれながら高明は思う。
    「高兄!」
    「こういう時位、兄貴分らしくカッコつけさせてくれや」
     本当は怖い。
     戻れないかも知れないと言う恐怖が不安となって湧いてくる。
     けれども……それ以上に康也が堕ちるほうがもっと怖い。
     それを見る位なら自分で良かったのだ、と心底思う。
    「高兄……!」
    「康也。お前達なら必ず俺達を助けてくれると信じているぜ。だから……帰ったら一緒に缶おでん食べような!」
     最後まで笑いながら、高明は愛機であるガゼルに手を伸ばす。
     ガゼルも又、高明と共に闇に呑まれるように取り込まれていく。
    「……アステネス先輩も、柳瀬先輩もどうして……! 堕ちて……そして殺されるのは……僕で良かったのに……!」
     ギリギリと唇を噛み締める雄哉に意識を失いつつあるレイが答えた。
    「有城……今のお前を此方に行かせることは出来ない。理由が知りたければ……私を救ってくれよ。私はお前達を信じている」
    「まあ、灼滅はされないでくれよ?」
     レオンの言葉を最後に。
     高明とレイが変貌を終える。
    「さて、此処からが本番だ諸君。全員まとめて連れ帰るぞ」
     パン、パン! と度手を叩いていろは達に呼びかけたのは、レオン。
    「そうだね、私達で2人を連れ戻そう!」
     なゆたが気を取り戻す様に康也達にそう告げれば。
    「よーし2回戦だ。気張っていきましょー!」
     ハノンが声を張り上げ目の前の2人と対峙した。

     ――後編へ続く!

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:レイ・アステネス(虚実・d03162) 柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232) 
    種類:
    公開:2017年8月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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