祭り屋台の血戦~前編

    作者:陵かなめ

    ●黄金円盤リング
     町内会連合の盆踊り会場には、たくさんの一般人が訪れていた。屋台も多数立ち並び、楽しい祭りになっているようだ。
     さてその祭り会場に、突如黄金の円盤が飛来する。
     唖然とする人々の目の前で、地面に激突した円盤は、黄金の円盤リングに変形した。
     何事だろうかと人だかりができる。
     不思議なことに、周囲の一般人は逃げ出すことなくリングを見つめた。
     そのリングに、颯爽と二体のアンブレイカブルが現れる。
    「決着をつけるぜ『疾走のガゼル・オメガ』、今日が貴様の命日だ」
    「笑わせるな『跳躍のヘビクイ・ファイ』よ。その翼、毟り取る!!」
     互いに威嚇し合い、ついに二体の戦いが始まった。
     リング狭しと走り、痛烈なキックを繰り出す疾走のガゼル・オメガ。対して、跳躍のヘビクイ・ファイは大跳躍からの体当たりで一撃必殺を虎視眈々と狙っているようだ。
    「そこだ!! 跳べ、ヘビクイ」
    「ガゼル!! いいぞ、走れ!! キックだ!!」
     リング周辺に集まった一般人から熱狂的な声援が贈られる。
    「くっ! 足が?!」
     あっと、誰もが息を呑んだ。
     激しい技の打ち合いの末、疾走のガゼル・オメガが痛めた片足に手を添える。
    「見えた!!」
     一瞬の隙を、跳躍のヘビクイ・ファイは見逃さない。
     大きく跳躍したヘビクイは、空中で体を反転させ、全身全霊を込めた魂の空中体当たりを繰り出す。
     ヘビクイの体がガゼルを貫いた。
     ガゼルは苦しそうに息を吐き出し、力尽きる。
     すると、ガゼルの力をヘビクイが吸収し始めた。
    「お、おお、おおおおおおッ!!」
     雄たけびとともに、ヘビクイは強大化していった。

    ●依頼
     武蔵坂学園が六六六人衆との同盟を拒否した事で、六六六人衆と同盟しているアンブレイカブルが新たな事件を引き起こそうとしているようだ。
     教室にて、千歳緑・太郎(高校生エクスブレイン・dn0146)がそのように説明を始めた。
    「今回わかったのは、たくさんの一般人のいる祭り屋台の並ぶ会場に『黄金の円盤リング』を出現させて、『疾走のガゼル・オメガ』『跳躍のヘビクイ・ファイ』と言う、2体のアンブレイカブル同士を戦わせる事件が起こるってことなんだよ。その勝利者に敗者の力を吸収させて強大化させるようなんだ」
     強大化したアンブレイカブルは、試合後に周囲の一般人を皆殺しにする事で、新たに得た力を自分の物として定着させるらしい。
    「周囲の一般人は、試合に熱狂していて逃げ出さないんだよ。円盤リングの魔力によるんだろうね。試合後の熱狂のまま、勝ったアンブレイカブルに喜んで殺されちゃうみたいなんだ」
     一般人は、黄金の円盤リングの魔力の影響下にある為、灼滅者のESPなどで無力化する事はできず、催涙弾その他の物理的な方法も効果が無い。
     つまり、周囲の一般人を助ける為には、黄金の円盤リングでアンブレイカブルと戦うしか無いということだ。
    「2体のアンブレイカブルのどちらかがどちらかを倒してしまった場合は、強化されたアンブレイカブルは、周囲の一般人の虐殺を優先するみたいだよ。灼滅者であるみんなが攻撃を仕掛けたとしても、この虐殺を止めることはできないから、多くの被害が出てしまうんだ」
     これを防ぐ為には、アンブレイカブルの戦闘の決着がつく前に、戦闘に介入しなければならない。灼滅者が戦闘に介入した場合、試合中の2体のアンブレイカブルはタッグを組んで灼滅者と戦おうとするだろう。
    「有利に戦うためには、2体のアンブレイカブルが戦いで消耗したところに介入するのが良いよね。けど、ギリギリを狙いすぎると決着がついてしまって、周囲の観客に大被害がでる場合があると思うんだ。介入のタイミングの見極めは、重要だよ」
     太郎は真剣な表情で集まった灼滅者たちを見た。
    「更に、この戦いでアンブレイカブルを灼滅した灼滅者は、黄金の円盤リングの魔力でアンブレイカブルの力を吸収して闇堕ちしてしまうよ。そして、この戦いで闇堕ちした灼滅者は、戦闘後も撤退せず、黄金の円盤リングで戦い続け、最終的に周囲の観客を虐殺してしまうんだ」
     その言葉に、緊張が走る。
    「そのため、闇堕ちした灼滅者との連戦をする必要があるんだ」

    ●情報
     さて、闇堕ちした灼滅者との連戦の可能性はあるが、まずは、2体のアンブレイカブルを撃破する必要がある。
     太郎は、二体のアンブレイカブルについてこう語った。
     『疾走のガゼル・オメガ』『跳躍のヘビクイ・ファイ』ともに、ストリートファイター相当のサイキックを使うとのことだ。
     疾走のガゼルはスナイパーのポジションで、そこそこ素早く動きながら蹴り技を繰り出してくる。威力は中程度だが命中率が高く、技を喰らい続けると危険だろう。
     跳躍のヘビクイは命中精度はさほどではないが、ダイナミックな体当たりの大技を放つ。ポジションはクラッシャーだ。
    「謎の力を放つ黄金の円盤リングって、たぶん、アンブレイカブルの首魁である大老達の力なんだろうね」
     闇堕ちを誘発する黄金の円盤リングとは厄介ではあるけれど、犠牲を出す事無く解決して欲しい、と。
     太郎はくまのぬいぐるみをぎゅっと握り締め、灼滅者たちを見た。


    参加者
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)
    シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)
    シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)

    ■リプレイ


    「屋台で食べ物買っといてもいいんじゃないかな?」
     リンゴ飴とか食べたいと牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が並んだ屋台を見た。
     祭り会場の中心に現れた黄金の円盤リングに一般人が集まり、屋台通りは少し閑散としている。
    「たしかに、リンゴ飴は美味しそうじゃのぅ」
     カンナ・プティブラン(小学生サウンドソルジャー・d24729)も、リングに向かう道を歩きながら、周辺の屋台を見た。
    「焼きそばに、たこ焼きもあるねって……」
     そう言いかけた黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)が先を指差す。
    「ああ、あっちが盛り上がってきたようだよ」
     三人はリング周辺から響く熱狂的な声援を聞いた。
     この分なら、細やかな演技無くとも、一般人に紛れ込むことができそうだ。
    「そこだ!! 跳べ、ヘビクイ」
    「ガゼル!! いいぞ、走れ!! キックだ!!」
     それほどに、リングを囲む一般人から熱狂的な歓声が沸き起こっている。
     二体のアンブレイカブルが黄金の円盤リングで死闘を繰り広げているのだ。
     灼滅者たちは、一般人に紛れながらできるだけリングに近い位置に移動した。
     疾走のガゼル・オメガが鋭い蹴りを繰り出し、跳躍のヘビクイ・ファイは大跳躍からの体当たりで襲い掛かっていった。
    (「またこういったものに関わることになるとは思わなかったわ。よほど縁があるようね」)
     熱狂する一般人に紛れリングを眺めながら各務・樹(カンパニュラ・d02313)は思う。
    「一般人を皆殺しになんてさせてたまるかってんだ」
     シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717)はアンブレイカブルの戦いの様子を見ながら、周辺の一般人にも目を向けた。
     夜の祭り会場では、誰も逃げることなくリングの戦いに魅入っている。
     シーゼルの言葉を聞いて八宮・千影(白霧纏う黒狼・d28490)が頷いた。
    (「……相手の思惑だの困難な戦いだの何でもいいんだよ。
      ……人が傷付けられようとしてる、ソレを阻止し、皆で帰んなきゃダメ、なんだよ」)
    「……だから今回も何時も通り頑張る」
     リングの戦いはさらに激しさを増している。
     何度かの技の打ち合いを見た後、伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267)が確認するように樹を見た。
    「そろそろ頃合か?」
    「そうね」
     戦い始まって五分、アンブレイカブル達の体力も減ってきているように思う。
    「くっ! 足が?!」
     その時、疾走のガゼル・オメガが痛めた片足に手を添えた。
     灼滅者たちが武器を手にする。
    「わたし達ならきっと抗える、だから覚悟を決めるですの……」
     シエナ・デヴィアトレ(治療魔で被虐嗜好な大食い娘・d33905)が言うと、皆、表情をいっそう引き締めた。
     戦いに介入すればその先に何があるのか、理解している。
     それでも、と。
    「行くぞ」
     蓮太郎の掛け声を合図に、灼滅者たちは黄金の円盤リングに飛び込んでいった。


    「貴様たちは?!」
    「われらと、戦うというのか!」
     疾走のガゼル・オメガと跳躍のヘビクイ・ファイは、戦いで負った傷も気にせずファイティングポーズをとった。灼滅者たちを対戦相手と対戦相手と認めた様子だ。
    「どうやらわたし達が戦うつもりなのだと、分かってもらえたようね」
     樹が片腕を異形巨大化させる。
    「それじゃあ、問答無用っすね~」
     麻耶はダイダロスベルトの帯を噴出し、狙いを定めた。
     リング上にいる者たちが、一斉に走り出す。
     場外からは、新たに始まった戦いを期待する声援。
     麻耶のレイザースラストがヘビクイの身体を貫いた。続けて、ウイングキャットのヨタロウが猫魔法で追い討ちをかける。
    「続けて行くわよ」
     よろめいたヘビクイを見て、樹も素早くに踏み込んできた。
     巨大化した腕を、叩きつけるように振り下ろす。
     ヘビクイは攻撃を避ける様子も無く、真っ向から灼滅者の業を受けた。
     勢いで彼の身体が吹き飛び宙を舞う。
    「ぐぅ、この痛み、貴様たちも戦う者だというのだな!!」
     言いながら、ヘビクイは身体を半回転させ地面に着地した。
     交代するようにガゼルが跳び、走る。
    「なれば、容赦はせぬッ」
     繰り出された鋭いキックが樹に向かった。その前に蓮太郎が立ち塞がり、一撃を受け止める。
    「ふんッ」
     勢いを殺されたガゼルだが、素早く地面に手をつき方向転換したかと思うと、拳を突き上げてきた。
    「キックはけん制だったな」
     蓮太郎はその動きを見て、本当の攻撃に備える。
    「雷よ、わが拳に宿れェ」
     繰り出されたアッパーカットを受けた蓮太郎は、痛みに耐えながらバベルブレイカーを手にした。
    「安心するが良い、その傷は妾がすぐに癒すのじゃ」
     傷を見て、カンナがダイダロスベルトの帯を伸ばす。
     カンナのシロフクロウの羽がふわりと揺れた。
     走る蓮太郎に帯追いつき、全身を覆う。
     傷が癒え守る力も高まった蓮太郎は、ジェット噴射を利用して大きく飛躍した。
    「そこだ!」
     真っ直ぐ武器を振り下ろし、ヘビクイの死の中心点を貫く。
    「ふっ、跳躍のヘビクイ・ファイに向かって跳躍してくるとはな!!」
     飛び散った自らの血を見て、ヘビクイが不敵に笑った。
    「おいおい、お前の相手はこっちにもいるんだぜ!」
     そこへシールドを構えたシーゼルが飛び込んでくる。
     蓮太郎がすぐに飛び退き、シーゼルはそのまま進んでヘビクイをシールドで殴りつけた。ヘビクイは改めてシーゼルを睨み付け、怒りの炎を瞳にともす。
    「そう言う事、ちなみに自由にさせないよ」
     いつの間に距離を詰めたのか、柘榴もヘビクイのすぐそばまで迫っていた。
     あっと思ったときには、ヘビクイの身体が斬撃によって切り刻まれている。
    「ふふ、なかなかやるな。しかしッ、跳躍のヘビクイ・ファイはこんなところで倒れるものか!!」
     傷口の地を指で掬いなめ取り笑う。
     ヘビクイは、次に力強く地面を蹴って飛び上がった。
    「来ますわ、お気をつけて」
     シエナの声が聞こえた。
     シーゼルは頷き、急速落下してくる敵の動きを見る。
     その勢いは徐々に加速し、まさに全身全霊をかけて体当たりを仕掛けてきた。
     これは、当たれば大ダメージになるだろう。
     だが。
    「喰らうかよ」
     間一髪、シーゼルは攻撃を避けた。
    「くっ」
     着地したヘビクイが態勢を立て直す。
    「引き離しますの」
     続けて攻撃されないよう、シエナが走りこんできた。流星の煌めきと重力を宿し、深いところから敵を蹴り上げる。
     続くライドキャリバーのヴァグノジャルムが突撃を仕掛け、ヘビクイを吹き飛ばした。
     ヘビクイの身体が地面に叩きつけられる。
     その瞬間を狙って、千影が灰色の弾丸を生み出した。
    「呪われし狼姫の牙、その身に受けてもらうよ」
     これは、石化をもたらす呪い。
    「呪創弾、石呪」
     撃ち出したペトロカースが命中すると、敵の身体の一部が石化した。


     息をもつかせぬ激しい戦いは続いていた。
     ガゼルはリングを所狭しと疾走し、正確な攻撃を繰り出してくる。
     ヘビクイは速さこそ無いものの、一撃必殺の大技は喰らえば大ダメージになった。
    「吹き飛ぶがいい、挑戦者よ!!」
     空中からの落下速度をも取り込んだ勢いで、ヘビクイが何度目かの体当たりを仕掛けてくる。
     狙われた蓮太郎は、避けきれないと判断し、守りの構えを取った。
    「させないぜ」
     その前に、シーゼルが踊り出る。
     全身全霊をかけた体当たりが炸裂した。
     痛烈な一撃に、知らず膝をつく。
    「やっぱ、喰らうと痛ェ」
     だが、敵の攻撃は一撃で沈んでしまうほどの威力を発揮しなかったようだ。
    「ボクの攻撃が効いてきたようだね」
     柘榴はそう言って、妖の槍から冷気のつららを撃ち出した。
     その言葉通り、柘榴が続けてきた攻撃により、敵の動きも鈍っていたのだ。
     冷気のつららは真っ直ぐヘビクイに飛び、正確に命中する。
    「まだいけるかえ? しっかりするのじゃ!」
     ヘビクイがいったん引いたところを確認し、カンナはシーゼルに駆け寄った。
    「ああ、回復を頼む」
    「ふむ、しかしこの傷は……」
     今までも、率先して敵の攻撃を受けていたシーゼルの傷は深い。癒えない傷も積み重なっているようだ。
     カンナはラビリンスアーマーでシーゼルを包み込むように癒しながら、シエナを見た。
    「お手伝いしますわ」
     その意図を察し、シエナもダイダロスベルトの帯を伸ばしシーゼルを守るように覆う。
     二人の癒す力により、シーゼルは再び立ち上がった。
    「ふう、まだ行けるぜ、それに」
    「それに、あと少しだよ」
     千影が言葉を引き継ぐようにして、敵を見据える。
     攻撃に勢いはあるものの、ヘビクイの体力は尽きかけていた。
    「呪創弾、痺呪」
     黄色い弾丸を生み出した千影は、再びファイティングポーズを取ったヘビクイに向けて制約の弾丸を放つ。
    「なんと――」
     ヘビクイは、穴の開いた自身の身体を驚きの表情で見つめた。
     あと一息だと誰もが感じる。
     踏み込んだのは蓮太郎だった。
    「これで、終わりだ!」
     ありったけのオーラを拳に集め、すさまじい連打で敵の身体を打つ。
     最後の一撃を振りぬいた時、ヘビクイの身体が見事に砕け落ちた。
    「み、見事なり」
     その言葉を残して、ヘビクイが消えた。
    「蓮太郎くん!」
     柘榴に呼ばれ、振り向く。
     瞬間、蓮太郎が闇の炎に包まれた。
    「俺の、意識を、保てるうちに、はやく」
     堕ちていく彼の言葉を聞き、灼滅者たちが弾ける様にいっせいに跳んだ。全員が狙いを定めガゼルに襲い掛かる。
    「分かっているわ。蓮太郎くんだけにとどめを刺させないから」
     蓮太郎の意識がかろうじてあることを確認し、樹は槍を突き出してガゼルを穿った。
    「跳躍のヘビクイ・ファイを倒すとは!」
     穿たれたガゼルは強引に樹の槍を引き抜き、距離を取る。
     ヨタロウにはリングを光らせるよう指示を出し、麻耶も攻撃をガゼルに向けた。
    「逃がさないっすよ」
     樹が穿った傷口に、麻耶が重ねて螺穿槍を繰り出す。
    「くっ?!」
     飛び散った血飛沫が、地面を染めていった。
     仲間たちも、次々に攻撃を繰り出す。
     必ず仕留めると、互いに声を掛け合い、励ましあいながら、戦場を走った。


    「なかなか、これは」
     何度も攻撃を受け、しかしガゼルは走り続けた。
     当初よりもスピードは落ちたものの、その攻撃の正確さは変わらない。
     ガゼルがシーゼルにつかみ掛かり、投げ飛ばしを仕掛けてきた。
     地面に叩きつけられたシーゼルは、何とか立ち上がり回復を要求する。
     いや、そう思いかけて、首を横に振った。
     体に力が入らない。
     悔しいが、今自分を回復されても、もう戦力には成れないだろう。
     盾役を一手に引き受け、傷を受けすぎた。
     しかし、シーゼルが敵の攻撃を受けていたからこそ、今、仲間は元気に走っている。
    「だから、頑張ってくれ。頼んだぜ」
     そう言って、その場に倒れこんだ。
    「ゆっくり休むのじゃ。そして、お主の分まで妾たちは行く。さあ、さっさとやっつけてしまおうぞ」
     カンナはシーゼルが意識を失うのを見届け、皆を励ますように叫び、傷を負った仲間を癒した。
    「そうよ。さあ、あと一息」
     樹は頷き、仲間たちを励ますように鼓舞する。
     走る仲間たちの先頭に立ち、マテリアルロッドをしっかりと握り締めた。
    「ふん、われの動きについてくると言うか!」
     ガゼルもまた、リング内を疾走し、灼滅者たちとの距離を取る。
    「ええ、どこまでも」
     樹はさらに足に力を込めて地面を蹴った。ぐんと敵との距離を縮め、力いっぱい殴りつける。
     魔力を流し込めば、その場所が内側から爆ぜるのが見えた。
     蓮太郎が皆をじっと見ている。動きは無いようだ。
     大丈夫、堕ちた仲間にとどめを刺させない。
     ヴァグノを伴ったシエナも攻撃の体勢を整えた。
    「いきますの」
     己の利き腕を巨大な砲台に変え、狙い定めて死の光線を放つ。
    「確実に、ね。ボクの牙は、人を不幸にする存在を砕く! ……だよ」
     合わせて、千影もガトリングガンを連射した。
     激しい弾丸が次々にガゼルの身体を貫き、蜂の巣にする。
     遠距離からの二人の攻撃を浴び、敵の身体が吹き飛んだ。
     リングに叩きつけられたガゼルの身体が、そのまま地面に転がる。
     柘榴は弱った敵に向け、影の刃を飛ばした。
     鋭い刃が敵の守りを切り裂き、深い傷を負わせる。
    「さあ、これで、こちらの攻撃がもっと効くはずだよ」
    「くそ、身体が」
     拘束され、守りを剥がれたガゼルが顔をゆがめた。
     麻耶がそこへ走りこむ。
    「てか倒れろ」
     最後の一撃を、躊躇う事は無かった。
     強く握り締めたマテリアルロッドを振り下ろす。
     力を込めて殴りつけ、その場所から魔力をがなしこんだ。
    「ああ、今、貴様たちは、強かった」
     ガゼルは順に灼滅者の顔を見て、膝から崩れ落ちその場に倒れこむ。
     アンブレイカブルの身体の内側から爆発が起こった。
    「おおおおおおおお!!」
    「決着がついたのか!!」
     リングの外から大歓声があがる。
     麻耶は熱狂的な声を聞きながら、闇に包まれた。
     ヨタロウを取り込み、堕ちていく。
    「きっと、抗えると信じていますわ」
     シエナが堕ちた二人を見た。
    「そうだよ、二回戦の始まりだね」
     千影が大きく頷く。
     あるいは傷をかばいながら、あるいは強く武器を握り締め。
     灼滅者たちは、次の戦いを予感した。

     ――後編へ。

    作者:陵かなめ 重傷:シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717) 
    死亡:なし
    闇堕ち:伊庭・蓮太郎(修羅が如く・d05267) 牧瀬・麻耶(月下無為・d21627) 
    種類:
    公開:2017年8月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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