夏休みに突入した富士急ハイランド。
親子連れや恋人たちや友達グループ、そして本日は遊園地に隣接している野外ライブ会場では野外フェスが行われるということもあって、お目当てのアトラクションや場所へ向かうため、第一入園口の広場を行き交っていた。
天を仰いだ誰が先に見つけただろう。次々に空を指差す人々の前にそれは飛来した。
黄金の円盤だ。
徐々に近づいてくるそれは、古代の遺跡のようにも見え――と思う間もなく、広場の真ん中目がけて墜落した。
逃げ惑う人々の喧騒をよそに姿かたちを変え、いつの間にか円形のリングに姿を変えていた。
そのリングに現れたのは二人のアンブレイカブル。
「あら、アタシの相手はこねこちゃんなのね」
一人はホルスタイン柄のボディスーツにミルク色のパレオを巻いた巨漢オネエ。手にした鞭を打つ彼女が訝し気に睨んだ先には、道着姿の小柄な猫耳少女拳士。
「肉は叩くとうまくなるって、本当かな? ちょっと試させてよ」
ショートカットに人房だけ伸びた三つ編みが揺れる。鉢巻をキュッと頭に巻いて強気に敵を見据えれば、目にもとまらぬ速さで飛び出した。
「ヤァーーッ!」
パァンと音を立てたのは、ぽよんと揺れるオネエのお腹の肉。
「……痛くもかゆくもないわよ、こねこちゃん」
にやりと細める瞳は、ばっちりメイクにつけまつげ。悔しそうに見上げる少女拳士に振り下ろされるのは、むっちりとした肘鉄。
危うし少女拳士。いつしかこの闘いに魅了された一般人が息を呑む。だが、少女拳士はひらりと交わし、オネエの頭の上にいた。
「あぶなかったにゃー。力馬鹿には負けないよっ」
このキャットファイトに歓声が上がる。
「いいぞー、こねこちゃん!」
「おネエさん、負けるなー!」
観客の声援を受け、巨漢オネエグレート・ウシコと、少女拳士キューティー・コネコは、なかなか熱い戦いを繰り返していったが、素早い動きで翻弄するコネコに叩かれ続けたウシコが急にキレ始めた。
「ちょこまかちょこまか、ウザいのよォ――!」
吠えて漢を見せたウシコ。コネコの襟をむんずと掴むと、あっという間。
力任せに少女の身体をリングに叩きつけ、
「これで留めよ、アタシの胸に抱かれなさい!」
リングに沈んだのコネコの目に映ったのは、青空の下を通り過ぎるジェットコースター。そして、逆光を背に飛んだウシコの姿――。
黄金のリングに腹を打ち付けたウシコがしなやかなネコのように立ち上がると、リング外から大きな歓声が上がる。それは、闘いを制したものだけに与えられる賛美。
皆、まだ知らない気づかない。
このオネエが亡き少女拳士の力を吸収し、強大化したことを。
「武蔵坂学園が六六六人衆との同盟を拒否した事で、六六六人衆と同盟しているアンブレイカブルが新たな事件を引き起こそうとしているようだ」
資料とこうさぎのパペットを手に、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)が教室を見渡した。
「今回発生する事件。それは、多くの一般人のいる場所に『黄金の円盤リング』を出現させ、2体のアンブレイカブル同士を戦わせる。その結末に敗者と勝者がいるわけだが、その勝者に敗者の力を吸収させて強大化させる。という事件だ」
それだけならば、何の事は無い興業だ。だが、その先には殺戮がある。
強化されたアンブレイカブルは試合後に周囲の一般人を皆殺しにする事で、新たに得た力を自分の物として定着させるようだ。
「ここで一般人は自分で逃げ出せれば被害は最小限で済むのだが、周囲の一般人は『黄金の円盤リングの魔力』によって、試合に熱狂して逃げ出す事はしない」
試合後の熱狂のまま、勝者であるアンブレイカブルに喜んで殺されていく――。
「一般人は『黄金の円盤リングの魔力の影響下』にある。だから灼滅者のESPなどで無力化する事はできないし、催涙弾やその他の物理的な方法も効果が無いんだ」
つまり周囲の一般人を助ける為には、黄金の円盤リングでアンブレイカブルと戦う以外、方法は無い――。
「2体のアンブレイカブルのどちらかがどちらかを倒してしまった場合、強化されたアンブレイカブルは、周囲の一般人の虐殺を優先して行う。この時点で皆が攻撃をしかけたとしても、この虐殺を止める事はできない」
千星の表情が物語る、多くの被害が出てしまう悲惨な結末。
「最悪の結末を防ぐ為には、アンブレイカブルの戦闘の決着がつく前に皆が戦闘に介入するほか方法はないだろう」
この場合、試合中の2体のアンブレイカブルはタッグを組んで灼滅者と戦おうとするだろう。
「この戦いを皆の優勢に持っていくには、2体のアンブレイカブルが戦いで消耗したところに介入するのが良い。だけどギリギリを狙いすぎると決着がついてしまって周囲の観客に大被害がでる場合がある」
介入タイミングの見極めは重要だろうな。と難しい顔の千星は続ける。
「更に、この戦いでアンブレイカブルを灼滅した灼滅者は、黄金の円盤リングの魔力でアンブレイカブルの力を吸収して……闇堕ちしてしまう」
闇堕ち灼滅者は戦闘後も撤退せず黄金の円盤リングで戦い続け――最終的に周囲の観客を虐殺してしまうのだ。
それは最悪な結末。だけど、それをも防ぐのだとしたらこの方法しかない。
「それを防ぐためにも、闇堕ちした灼滅者との連戦する必要があるんだ」
闇堕ち灼滅者との連戦の可能性はある。だけど最初に撃破すべきは、二体のアンブレイカブル。
千星は書類を手に取る。
「まず一人目。巨漢オネエ、グレート・ウシコは重量型。回避能力は皆無に近く、全ての攻撃を当てることができるだろう。しかし攻撃の一つ一つは重く、一撃で致命傷になる可能性が高いな」
対するのは――。
「少女拳士、キューティー・コネコは軽量型。攻撃はパワーに劣るがすばしっこいため回避能力が高く、攻撃を当てることが容易ではないだろうな」
一通り説明を終えて千星は、重く息をついた。
「謎の力を放つ黄金の円盤リング……。おそらく、アンブレイカブルの首魁である大老達の力なのだろう。武蔵坂学園との同盟を諦めた途端にこれとは……」
だけど、このような暴挙を放っておくわけにはいかない。
「皆にはまた厄介ごとを頼まなければならないが、その胸の星の輝きの元、どうかよろしく頼む」
千星は資料を整えて、いつものように笑んで見せた。
参加者 | |
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アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153) |
刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884) |
槌屋・透流(ミョルニール・d06177) |
ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167) |
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470) |
秋山・梨乃(理系女子・d33017) |
ソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696) |
●
Golden Delight――富士急ハイランドの突如舞い降りた黄金のリングは、二人のアンブレイカブルの戦いに魅了された一般人の歓喜に包まれていた。
「図体ばっかりデカイ木偶の棒とは、まさにウシコのことだよねー」
あははと嘲笑うキューティー・コネコがパンパンとパンチを喰らわせていけば、グレート・ウシコの肉体が叩かれてぽよんぽよんと揺れる。
「はいはい、皆さんお手を拝借ー。美味しいお肉が食べたいなー♪ ぱんぱんぱんぱん!」
コネコが歌いながら観客を煽れば、彼女のパンチに合わせて観客も手拍子。
この観客の中にばらけて紛れた8人の灼滅者も、二列目で手拍子を打つ。
(「喜んで殺される、か。闇の力は恐ろしいな」)
アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153)は異様な歓喜の中、誰にも気づかれぬ程度の溜息をついた。
(「この人々を犠牲にするわけにはいきません」)
手拍子を打ちながらソラリス・マシェフスキー(中学生エクソシスト・d37696)も、敵の企てを阻止しようと誓う。
「……こっ、小賢しいわね、このクソガキっ!」
防戦一方、ガードするウシコの歯が軋んだ。
コネコの攻撃にはずば抜けた重さはない。だが、命中率は百発百中。対するウシコは命中三割。だが、当てればコネコに大ダメージを負わせていた。
コネコがウシコの真正面に立ったその一瞬、ウシコがコネコに掴みかかろうと飛び出した。
「ちょこまかちょこまか、ウザいのよォ――!」
その咆哮が乱入の時。
「ちょーっと待ったー!」
ウシコの咆哮よりも声高らかに。ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167)が円形に巡るリングロープに手をかけた。
「さぁさ、死神様のご乱入やで!」
スレイヤーカードを開放しながらロープをくぐったのは小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)。
強者の力の競演は興味深いが、それが一般人を巻き込むなら話は別。罠が仕込まれてると判っていても――。
「この試合、止めさせてもらうで!」
敵の胸倉を掴んだウシコと敵に掴まれたコネコが、きょとんとした表情を見せる。
「黄金闘技場の力をお前達に渡すわけにはいかないからな。邪魔させてもらうぞ」
別方向からは秋山・梨乃(理系女子・d33017)が、同じようにロープをくぐり。
「この人数が相手なら不足はあるまい。かかってくると良いぞ」
「本当に、見応えのある試合だったけれど……乱入させてもらう!」
一般人の命がかかっていなければ、こんな思惑のあるモノでなければ――。
得物を構えた刻野・晶(大学生サウンドソルジャー・d02884)が苦々しくアンブレイカブルを見据えた。
「なぁ、決着付けちまう前にオレたちと戦ってくれねぇか?」
白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が挑発するように悪い笑顔を見せれば、槌屋・透流(ミョルニール・d06177)は敵意を剥き出しにすることを惜しまない。
「貴様らを、狩りに来た。このふざけた催し、ぶち抜かせてもらう」
目の前の二人も、こんな試合も、こんな作戦を考えた首魁の思惑も……。
全員、闇堕ちは覚悟の上。
アンカーとソラリスもリングに上がり得物を構えると、きょとんとしていたウシコとコネコの表情も真剣みを増してゆく。
「……あいつら、灼滅者じゃなーい? しかもやる気満々のやーつ。この試合は一旦端っこに置いて、タッグを組みましょうコネコちゃん。で、あいつら思いっきり踏んづけてやりましょ!」
ウシコの提案にコネコは大きく頷いて、
「灼熱者が何しに来たのか知らないけど、この勝負に水を差した報いは受けて貰わないとだね。ってその前にウシコ、手を放してよ暑苦しいっ!」
と胸倉をつかんでいるウシコの手を払いのけると、8人の灼滅者に好戦的な笑顔を見せた。
●
Show Time――新たな乱入者に、リング周りのボルテージは上がる。
「さぁて、手始めに一発――」
ニヤリと笑ったウシコが走り出せばリングが揺れる。狙われたのは、明日香。
「お見舞いするわよっと!」
顎に強烈なアッパーが入り、吹っ飛ばされた。
「……馬鹿力が」
すぐに起き上がるが、やはり一撃の重さは相当なもの。顎を抑えて舌打ち交じりの明日香の隣を、槍を構えたワルゼーが駆けだしてゆく。
「ウシコ。まずはお前からだ!!」
こちらの攻撃は全て受けてくれる回避能力の低いウシコが、最初の標的。
回転する穂を唸らせて目の前のでかい図体を穿つと、ウシコの腹の肉が抉れて鮮血が飛び散る。
「いったぁい! 何するのよ!!」
「それはこっちのセリフだ!!」
吠えたウシコに明日香が吠え返す。それに呼応して、ダイダロスベルトが意思を持ったかのようにふわり漂ったかと思えば、鋭く風を切ってウシコの身体に突き刺さった。
「っ……まだ全然利かないわよ」
強気に笑んだウシコ。ふんっとお腹を張れば、帯の刃をはじき返す。
「ミケ、攻撃よろしくなのだ!」
梨乃は縛霊手の指先に霊力を集めて明日香に打ち出しながら、相棒に告げると、
「にゃーっ」
ウイングキャットのミケは駆けるように羽ばたいて。ウシコの額に思いっきりパンチを喰らわした。
「……存分に、ぶっ壊してやる」
ガトリングガンを構えた透流。照準をウシコに合わせれば、一気に引き金を引いて――。小気味のいい砲弾音が響くと同時にウシコの周りで大爆発が起こる。
「いやぁぁん! あつぅぅい!!」
「ウシコー!! 美味しい焼肉になってねぇー!」
心配そうで悲壮そうな顔して見せるコネコのセリフは、表情を伴わない。
「……心配するか貶すか、どっちかにしなさいよ!」
爆炎を払いのけたウシコの顔はコネコに対する怒りで顔つきが猛牛だ。
「灼滅者やっつけた後にあんた潰すわ。絶対よ!」
「やーだぷー!」
と、今にも仲間割れの空気を漂わせるウシコとコネコ。
「……と冗談はこのくらいにして、さぁて、私も本気出すっかね!」
とペロリ舌なめずりをしてみせたコネコの道着の帯がゆらりと動き、鋭さを持って目標に飛んでいく。
が、その間に割ったアンカーが腕で受け止めた。
ぐぬぬと悔しがるコネコに、アンカーは痛みをものともせずに侮り笑い。腕を振るって刃を落とせば黄金のリングに血が落ちた。
「君の相手は私だ。可愛がってやるぜ、コネコちゃん」
「は、どういうこと?」
――先にウシコを撃破するには、機動も命中も高いコネコの存在が邪魔になる。ウシコの援護にまわられたら、邪魔どころか脅威に変わるから。
たとえ一人でも、コネコのマークに付く必要があったのだ。
「コネコ……、使えない娘っ」
「本当に残念だったな。さぁ、覚悟を決めろ!」
愚痴るウシコに、好戦的に笑んだ小町が放った殺気が覆う。
「行くぞ、仮面」
自分に瓜二つのビハインドを攻撃に向かわせ、晶が奏でるのは神秘的な歌声。その歌声を背に仮面がウシコに霊撃を放つ。
ソラリスが影を伸ばせば、ウシコの身体を影の刃が貫いた。
熱戦にリング外が沸く中、リング内ではもう一つの熱戦も起こっていて。
「コネコちゃん、いっちょ揉んでやろうか。あ、揉めるほどないか」
「ぎゃー! へんたいだー! ろりこんだー! しつれいだー!!」
アンカーが挑発しながら飛ばしたスラッシャーを辛うじて交わしながら、胸元を抱えてコネコは逃げ回る。
ウシコはふんぬと影の刃を振り切ったが、額に滲む汗が微かな焦りを物語る。
「っ……、あの子と分断されたのが良くなかったわね……」
と、見据える先はコネコ。
「でもね、みすみすやられるアタシじゃないわよ!!」
と、手にしていた鞭を振るうと、テールからボディにかけて展開される無数の鋭い刃。
「でったー! ウシコの女王様スタイルっ!!」
コネコが煽ると観客が沸き、ウシコのばさばさ睫の奥の眼光が鋭く光る。
「アンタも本気出しなさいよ! じゃなきゃ、この刃の最初の犠牲者にするわよ!」
「怖っ! でもね、本気ならもう出してるよっ!」
コネコの道着の帯は意思を持つ。ウシコが鞭剣を高速で振り回して攻撃手のワルゼーと明日香、守り手のアンカーと梨乃とミケを薙ぎ斬り刻むと、コネコの帯はまるで翼の如く広がり、狙撃手である透流とソラリス、癒し手の晶を縛り付けた。
「皆っ!!」
唯一、攻撃を受けなかった小町が傷ついた仲間たちを見回した。
誰の血かわからない赤が新たに転々と黄金のリングを汚す。
「さぁ、会場のボルテージは最高潮よ。ヤり合いましょう、灼滅者さんたち」
ウシコはまだ余裕の笑みを浮かべている。あれだけ攻撃を浴びたというのに。
「……あたいらを、舐めるなよっ!」
ツインテールを揺らして得物を振りかざした小町に引き続き、次々と立ち上がった灼滅者たちの反撃が始まった。
歓喜の中の殺戮の連鎖は、ここで止めるのだ。
絶対に。
●
At that time――その時はやがてやってくる。
消耗しているのはお互い様で、黄金の床に倒れ伏せなかった者など誰もいなかった。現に守り手を中心に限界が見えている者もいる。
一方のアンブレイカブル。叩かれ続けてウシコはすでに何度か漢を見せて暴走し、コネコも激しいマークと牽制にに自分らしい戦いをさせてもらえてはいなかった。
灼滅者の読みは当たり、天秤はこちらに傾きつつある。
ならば、今ここが勝負の分かれ目――天王山。
「アタシをここまで追い込むなんて、大したものよ!」
満身創痍、吠えたウシコが鋼の拳をさらに握り込んでワルゼーに掴みかかるが。
「ミケっ!!」
咄嗟に梨乃はその名を呼び、守らせた。
険しい声を上げて消えてゆく相棒。だけど梨乃は眼鏡を上げて前を見据える。そんな彼女の横を白い影が掛けてゆく。
「助かったぞ、感謝する」
ワルゼーだ。
オーラの力を両手に集約して、危機感に息を呑んだウシコの顔面に立てば。
「ああああああっ!!」
傷だらけのその巨体に、ありったけの力を打ち込んだ。そして最後に一発ダメ押しの拳を横っ面に叩きこむとぐらりとウシコが倒れ、派手な音が響き渡る。
コネコが叫び、歓声が上がる。ウシコは腕に力を入れて起き上がる態勢に持っていこうとする。だけど、その間にスリーカウントは訪れた。
腕の力を抜いたウシコは灼滅者に目線だけ送って、目を閉じた。
「……アンタたち、見事だったわ……」
満足そうに笑んで爆発炎上。炎はワルゼーを包み込む。
「なっ……!」
炎はウシコの闇の力――自分というアイデンティティが掻き消えそうになるが。
「これが……、墜ちるということか……? ふん、存外大したものではない……!」
気合一閃。炎を吹き飛ばして見せて、自分というものを保つ。
――一人堕ちた。
だが、灼滅者は動揺を見せる事は無い。
初めから、戻れない道であることはわかっている。
それはコネコも同じ。
「ならば、全員倒すの目標!」
くるりと身をひるがえし、コネコの雷を帯びたアッパーは小町を吹き飛ばす。
「……やってくれるやないか」
起き上がった小町は笑顔。
「ここからはアンタが的だ! 覚悟しいや!」
叫びに応えて影の手がゆらり。一気にコネコの足元まで伸びると、息を呑ませる暇もなく触手がコネコを捕らえた。
「出来ることを、やるのだ……!」
ミケが消え、自分も余裕などない。だけどできることを――。
梨乃が手を揚げると、手の周りに魔方陣が浮かび上がる。純度が高まるタイミングは使用者が一番わかっている。
「いくのだー!」
手を下ろせば、魔法の矢は真っすぐコネコの鳩尾にめり込んだ。
続くソラリスも自分の限界が見えていた。だけどこれだけは。と、天星弓の弦を引いて彗星の如き重力を矢に宿らせ。弦を離せば、コネコの身体は耐えきれずにロープまで飛ぶ。
コネコはロープを掴みながら立ち上がると、ファイティングポーズをとって見せ。
彼女のファイトに歓声が上がる。
「……必ず守り抜いて見せる」
歓声を聞きながら晶が思うのは、周りの何十人何百人の一般人の安全だ。
晶が渾身の力を込めてリングスラッシャーを噴射させると、それを追いかけるように仮面も霊障波も飛ばし。コネコの身体を斬り刻み、侵してゆく。
「お前、さっき全員倒すとか言ってたな」
透流は構える剣を非物質化させながら走り出した。逃れようと思考を巡らせ焦りを隠せないコネコは目と鼻の先――。
「その目標は私たちがぶち抜く!」
誰の目にも見えない剣は、確実にコネコを貫く。
もう、逃さない――明日香は黄金の床を駆け、刹那でコネコの死角に回り込んだ。
「もう終わりだ、覚悟を決めな」
耳元で告げ、美しい弧を描きながら得物の鎌『絶命』を振り下ろす。
鋭い叫びが響く。
が、コネコの生を絶ったは、続いて伸びた影の刃。
影の主は、終始コネコに肉薄し仲間を庇い続け、一番傷い傷を追っていたアンカー。
「……細腕だがいいパンチだったよ。コネコちゃん」
叫びも上がらない。吹き出る血が海のようになり、小さな体が伏せた。
「……まいったな。でも、楽しかったから、いっか……」
コネコの強張る身体から、ふっと力が抜ける。そう言って天を仰げば、青空の下をジェットコースターが抜けてゆく。その滑走音と観戦者の歓声を聞きながら、小さな体が崩れていった。
コネコだった塵が黄金のリングに照らされて、キラキラ瞬く幾千の星の粒のようで。
無意識のうちにアンカーは自分を包む闇に手を伸ばしてそれをぐっと掴むなり、ぐらりとよろけ。
――闇が、来る。
勝者を湛える歓声が沸き起こった。それは、闘いを制したものだけに与えられる賛美。
だが、灼滅者に喜びも笑顔もない。
なぜなら、その歓声こそが新たな戦いの呼び声。
「……ワルゼーさん、アンカーさん……」
闇に呑まゆく二人を見つめて二人の名を呼んだソラリスは、肩で息をするのがやっとだ。
他の灼滅者も心配そうに、あるいは決意を込めて二人を見据える中、晶も中性的な顔を歪ませた。
「必ず、助ける……!」
この闘いに歓喜の声を上げる一般人も。
闇に堕ちた君たちも――。
To be continued――後編へ。
作者:朝比奈万理 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:アンカー・バールフリット(シュテルンリープハーバー・d01153) ワルゼー・マシュヴァンテ(はお布施で食べていきたい・d11167) |
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種類:
公開:2017年8月12日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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