●両雄並び立たず
陽が傾いた夕暮れ時、夜空に咲く大輪の花火を楽しみに集まっていた人々の頭上に、黄金の円盤は飛来した。
人の少ないエリアに墜落した円盤は変形し、黄金のリングへ姿を変える。
突如現れた古代遺跡のようなリングの入口をくぐり、すらりと背の高い女がリング中央へ歩み出てきた。背に巨大で無骨な刃物が括られている。
「我が名は『断絶せる』ダリラ。相手は誰だ」
「『迅雷』の凜がこれに。一手御指南賜りたく」
ちょうど反対側の入口に、鈍く輝く金色の棍を携えた青年が飄々と立っていた。
両者の距離が縮まり、視線が火花を散らす。
呆気にとられる人々がゆっくりとリングの周りに集まってきた、次の瞬間。
雷光を帯びた凜の拳がまともにダリラの顎を捉えた。リングの上を後方へ滑りながら、巨大な刃物を構えてダリラが放つは裂帛の気合。追ってしなる棍の打撃を受けながら、空ごと断ち切るような斬撃が迎え撃つ。
脇腹を裂かれながら踏み込む凜の拳が鈍い音をたててダリラの鳩尾を穿った。凄惨な笑みを浮かべた女がよろめいて踏みとどまり、反撃の肘打ちが凜の骨の折れる音を響かせる。
見たこともない次元の戦いを目にした人々から歓声が上がった。それは熱に浮かされたような、何かの虜になったような、不可解な熱狂で。
時に血飛沫が飛び骨の折れる音が響く闘争に観客は魅せられていた。
そうして、死力を尽くした戦いに終わりが訪れる。
「……我が身の未熟よ」
真っ向からの斬撃を受けて腹腔まで斬り下げられた凜が、荒い息をついて崩れ落ちると。腹をおさえたダリラが軽く笑った。
「何、どちらが倒れても不思議はなかった」
観客たちの歓呼の声が響く。
動かなくなった凜の身体から巨大な力を吸い上げ、ダリラの傷は見る間に癒えていった。
●狂宴ふたたび
教室に現れた埜楼・玄乃(高校生エクスブレイン・dn0167)は苦り切った顔をしていた。
「アンブレイカブルによる厄介な案件が発生したことは諸兄らも周知のことと思うが、私も二例目を察知した」
武蔵坂学園が六六六人衆との同盟を拒否したことにより、アンブレイカブルが動き始めたのだ。首魁である大老達の力で起こっている事案らしい。
「勝者は敗者の力を吸収し強大化するが、何より問題なのは、新たに得た力の定着のために周辺の一般人の殺害を最優先するということだ。それを防がねばならない」
相変わらず黄金のリングの魔力により、その場にいる一般人たちは勝負に夢中になる。熱狂のあまり、勝負の勝者に喜んで殺戮される有様だ。灼滅者のESPでは精神的にも物理的にも太刀打ちできず、避難誘導も追い散らすこともできない。
今回の場所は北海道の留寿都村にある高原リゾートだ。その場の夏休みにやってきた観光客が全て殺害されたら大変な被害となる。
「よって今回も、アンブレイカブルたちの戦闘の決着がつく前に介入して貰いたい」
乱入しただけなら、アンブレイカブルたちはタッグを組んで灼滅者に対抗する。確実を狙いすぎると勝負がついてしまい、強大化したアンブレイカブルを相手に灼滅者が一般人を守ることは不可能となる。
両者が充分に弱った辺りでの介入が理想だが、問題点もある。
「この戦いでアンブレイカブルに止めを刺した灼滅者は、黄金のリングの魔力でアンブレイカブルの力を吸収してしまい闇堕ちする。これは避けられない」
闇堕ちした灼滅者は撤退もしない。リングで戦い続け、最後の勝者となれば周辺の観客を虐殺する。よって残った灼滅者でこれを止めなくてはならない。
確実に誰かが、悪くすれば二人が闇堕ちして敵となる、連戦ありきの戦いなのだ。
「1人で二人のアンブレイカブルに止めを刺した場合、救出が極めて困難になる。参戦する諸兄らは忘れないで欲しい」
玄乃が資料に視線を落とした。
女アンブレイカブルのダリラは背負った巨大で無骨な刃物を軽々と扱い、無敵斬艦刀のサイキックに近い攻撃を行う。狙い澄まして打ち込まれる一撃に注意が必要だ。
一方のアンブレイカブル、凜はマテリアルロッドに似た棒術の扱いに長けている。攻撃属性が多彩で、強大な攻撃力に任せて戦闘を押しきろうとしてくる。
どちらもそこそこに強敵なので油断は禁物だが、十全に力を尽くせば勝利の目はある。黄金のリングの広さはプロレスのリングの2、3倍はあるから、戦いに不自由はしない。
一通りの説明を終えて、玄乃は複雑な表情で灼滅者を見渡した。
「闇堕ちありきの戦いはいい気がしないが……諸兄らも含め、犠牲の出ないように願いたい。まずはアンブレイカブルの打倒を宜しく頼む」
参加者 | |
---|---|
守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289) |
近衛・一樹(紅血氷晶・d10268) |
迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801) |
エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318) |
合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209) |
静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456) |
荒谷・耀(一耀・d31795) |
秦・明彦(白き雷・d33618) |
●挑むものたち
リゾート地で行われる花火大会の会場は、別種の熱気に包まれていた。
誰も暮れなずむ空など気にしていない。黄金のリングで繰り広げられる戦いに魅入られた人々を見渡し、エリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)は忌々しげに呟いた。
「いつぞやの武神大戦と違って問答無用に一般人を巻き込むのは、ハッ、六六六人衆の序列を持ってるジークフリート大老らしいわね」
「とどめを刺した者が闇堕ち……以前にもありましたけど厄介ですね。私の中のあいつがおとなしくしてればいいですが」
近衛・一樹(紅血氷晶・d10268)が顔をしかめる。以前闇堕ちを経験している彼は勿論、内なる闇が波立つのを感じて合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)も苦笑じみた表情にならざるをえない。
「やれやれ、私という封印を破ろうと躍起になってるのを感じるよ」
鏡花の裡のダークネスとて、解き放てば人々にとって危険に違いない。
観光客の合間に紛れながらリングでぶつかりあう二人のアンブレイカブルを見上げ、秦・明彦(白き雷・d33618)は犠牲者を出すまいと決意を新たにしていた。
そばに心配そうな守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が寄り添っている。二度も堕ちた彼女を危険に晒すぐらいなら今度は俺だろう――とも。
「厳しい任務だが二人の絆なら乗り越えられる!」
笑顔でそう言う明彦に、結衣奈は頷いた。もし彼が堕ちれば自分が連れ戻すのだ。逆もまた然り。
誰かが堕ちることが前提だ。仲間が連れ戻してくれると信じているが、一歩間違えれば一般人を大量虐殺しかねない危険な戦いになる。そこに恐怖を覚えないものはいない。
ビハインドであるシズナの傍らで、静守・マロン(シズナ様の永遠従者・d31456)が黙然と戦いを見つめている。舞台にいるアンブレイカブル、凜とダリラのどちらかが体力を半分まで削られたら介入することが決まっている今は、カウントダウンのようなもので。
「覚悟は出来とる……だからここに来た。逃げることはいつでもできるけど……立ち向かうことは今しかできんのや!」
ぐっと拳を握りしめて息をつく迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)を、心配そうに彼の相棒である霊犬・ミナカタが見上げていた。
凜の操る棍の一撃を鮮やかな身ごなしでかわしたダリラが気合一喝、巨大な剣を振り下ろす。リングそのものを断ち割らんばかりの斬撃は凜の身体を深く抉った。棍を取り落としかけた凜が血を吐いて踏みとどまる。
灼滅者たちが見たところ、凜の残る体力は半ばを割りこんだようだった。
「行きましょうか」
封印を解いて蒼穹を手にした荒谷・耀(一耀・d31795)が穏やかに呟く。相手取れるだけの実力だと言われているとはいえ敵はふたり。警戒を忘れるべきではない。
灼滅者たちは地を蹴りリングへ向かう。
かくして、死闘の火蓋は切られた。
●舞台へようこそ
争う両者が距離をとった瞬間、灼滅者たちはリングの上に次々と踏み込んでいった。異変に気付いたダリラと凜が一行へ目を走らせる。
「私達武蔵坂学園も黄金円盤リングでの戦い、参戦させてもらうよ!」
告げる結衣奈のまとったダイダロスベルトがダリラへ向かってうねると、首筋に切りつけて戻った。同時に明彦が稲光を撒き散らす拳を構えて凜へ飛びかかる。虚を突かれた凜が拳撃を受けてたたらを踏んだ足の腱を、耀の天星弓が狙って撃ち抜いた。
「くっ!」
「覚悟してもらうのである!」
仲間を庇う為に一際前へ出て、マロンがダイダロスベルトを凜の胸めがけて疾らせた。敢えての立ち位置はダリラによる止めから彼を庇うためでもある。剣を携えたシズナも跳び退る凜を追い、浅いながら斬撃を食らわせた。
「よう、あんたらをこのまま戦わせておくわけにはいかないんだ。だからちょいと俺たちの相手をしてもらうぞ?」
「面白い。よかろう、来るがいい!!」
携えた槍の穂先から妖気を氷へ変えて撃ちこむ一樹の言葉を、ダリラは呵々と笑い飛ばした。裂帛の気合で傷を塞いだ彼女へ、炎次郎が掲げた指輪から麻痺をもたらす魔法弾を撃ちこむ。
灼滅者の異能の力にも観客たちから熱い声援がとんだ。
(「闇堕ちは防げずとも、せめて犠牲者は出したくないわね」)
胸の内で呟いて、エリノアは真紅のオーラが形作る逆十字でダリラを引き裂いた。凜の灼滅までは彼女を足止めしたいところだ。
よろめく凜の反撃が前衛たちを範囲に収めた轟々たる竜巻を引き起こす。予想された反撃ではあったが攻撃手の傷は抑えたい。一樹の前には明彦が、耀は顕現した鏡花の霊犬、モラルが庇って飛び込み、傷を引き受けた。
ミナカタとモラルの浄霊眼が怪我人の傷を癒す傍ら、凜の死角へ踏みこんだ鏡花の鞭剣が彼の首筋に血の華を咲かせて機動力を封じる。
血を滴らせながらも凜は棍を構え直した。乱入してきた灼滅者の全てが自分へ向かっておらず、ダリラの攻撃範囲から外れている。勝ち目がなくもないと見たのだろう。
「迅雷の、来ぬのか? 夜が明けてしまうぞ!」
凜を挑発するダリラの前へ回りこみ、エリノアはオーラを手に集中させると一気に放った。躱し損ねて腹を撃ち抜かれたダリラが、一樹や炎次郎が凜へ向き直ったのに気づいてにやりと笑う。
「其方だけで『断絶』を冠される私を相手取るつもりなら、無謀というものだぞ」
「断絶させられる前に串刺しにしてあげるわ」
足止めできていれば上々、エリノアがつまらなさそうに返した。
●堕ちる雷
明彦のクルセイドソードが破邪の輝きを放った。同時に繰り出される斬撃が深々と凜の背を切り裂き、赤い警戒色を帯びた標識で打ち据えた結衣奈が軽い身ごなしで退く。
「そちらが武の力なら。こちらは絆の力だよ!」
結衣奈を追わんとする凜の前に一樹が槍を手に滑りこんだ。棍を受け流した一瞬に妖力を凝らせ、氷の弾として撃つ。
「しゃらくさい!」
直撃されながら吠えた凜の拳が一樹めがけて放たれる――その間に飛び込んだモラルが殴打され吹き飛んだ。
射線が通った瞬間を見逃さなかった耀の矢が霊力のきらめきをまとい、彗星のように宙を駆けて凜に突き立つ。身を守る加護を破られた彼を、炎次郎の操る影がざっくりと傷つけた。ふらついたところでミナカタの魔を斬る刀が追い討ちをかける。
そこへ笑いすら含んだ声が轟いた。
「仲間に入れて貰えんか!」
エリノアの妨害を突き抜けたダリラが、前衛の灼滅者を射程に収めた強大無比な斬撃を繰り出した。刃の下にいれば全てが断ち切られかねない一撃が落ちてくる。
咄嗟に明彦が凜を突き飛ばした。彼女に凜の止めを刺されてはたまったものではない。
「くあっ!」
食らえばただでは済まない一樹をマロンがなんとか庇った。代わりに深い傷を負った彼女へ、駆け戻ってきたモラルが癒しの力をかける。
「えらいよ、モラル」
魂を分けた相棒にそう囁いて、鏡花は巨大な十字の碑文を携え凜に肉迫した。
「少しおとなしくしていて貰えないかしら」
大技の隙をついてオーラを手に集中し、エリノアが放った砲撃がダリラの腹を撃ち抜いた。少なくない出血にもまだ笑みをこぼしながら、ダリラが楽しげに笑う。
打ち払おうとする凜の棍を避けて懐へ飛び込み、鏡花は渾身の力で碑文で殴りつけた。衝撃で泳いだ体に突きを見舞い、上段から頭へ振り下ろすと鈍い手応えを感じる。
シズナが遠距離から放った毒を含んだ衝撃波にまかれて咳き込む凜へ、マロンが本性を解き放った腕で爪をたて引き裂いた。
「ぐおあああっ!」
今度こそ苦鳴をあげた凜がよろけた。それでもまだ踏みとどまり、棍を掲げ魔力を集中して空に轟く雷を引き起こす。
とはいえ、もういくらももたないはずだ。至近距離からの雷撃を浴びながらも、耀は破邪の光を宿した叢雲を手に距離を詰めた。痛みを堪え真正面から渾身の斬撃を食らわせる。額から胸までに深い傷を追い、凜がぐらりと傾いた。
その足元から為す術もなく黒い影に包まれ、くぐもった悲鳴がもれ聞こえてくる。炎次郎の影が凜にトラウマを呼び起こし、更なるダメージを刻みこんでいるのだ。
「おあ……あ、ああ……!」
長く尾を引いた絶叫が途切れ影が凜を吐き出す。ふらりと膝をつく頭上にリングを蹴った明彦が舞っていた。蹴撃は星が落ちるように重く、骨をへし折り。
凜の生命の灯をかき消したのは、明彦だった。
●立ちはだかる闇
膨大な力の奔流を受け入れた明彦は、一樹を殴り飛ばそうとするダリラの攻撃に割って入った。雷をはらんだ拳撃に腹を抉られて苦鳴を漏らしながらも、霊力を集中して耀が負った傷を塞ぐ。
彼へ心配げな視線を向けながらも、結衣奈は傷の深いマロンをダイダロスベルトで包んで癒した。その目線をダリラも見逃さない。
「ほう、其奴と親しいのか。怒りは覚えんのか、挑んで来ぬのか?」
しかし結衣奈はきっぱり首を振って挑発を受け流した。
「傷を癒し、護りを紡ぐ。わたしの役目を全力全開で務めるよ!」
「私も自分の役目を全うしなくてはならないね」
不敵な笑みを浮かべた鏡花がローラーダッシュの加速に乗る。リングとの摩擦で炎の尾を引くしなやかな脚をはねあげ、鮮やかな踵落としをダリラの額に食らわせた。
「がっ?!」
鏡花を追うどころではないダリラがのけぞる間に、エリノアはサファイアブルーの柄をしっかりと握りしめた。おん、と鳴いたミナカタとモラル浄霊眼で傷が癒えるのを感じながら、妖気が水晶の穂先に氷弾として宿ると同時にダリラへ撃ちこむ。
苛立った表情になったダリラの横面へ、踏みこんだマロンがシールドを叩きつけた。同時に背後からはシズナの剣が突き立てられる。
「怒りを覚えているならかかってくるのである!」
「ちょこまかと鬱陶しいものだ!」
「こちらも忘れてもらっては困りますね」
反射的にマロンを追おうとするダリラの脇腹を、螺旋を描くような捻りを加えた一樹の槍が深々と抉った。貫通寸前の手応えを確認した一樹がバックステップで距離をとる。
灼滅者をぐるりと見渡して、血をだらだら流すダリラがにたりと笑った。
「では一人ずつ血祭りに上げるべきか!」
「できるものならね」
切り返した耀は既にダリラの死角へ回りこんでいた。絶大な攻撃力を誇るダリラだが、仲間のカバーを信じている。天叢雲剣の写しである叢雲がしたたかに脚を切り裂き、バランスを崩しながらもダリラが反撃を繰り出した。
刃の下にいれば骨の一片までも粉砕されたに違いない斬撃は、耀の代わりにエリノアが引きうけた。
「く、うっ!」
斬るというよりは叩き潰すような攻撃に息を詰まらせたものの、エリノアは気力を奮い立たせて後退した。巨刃を軽々と扱っていたダリラだが、今は少し重そうにしている。とはいえ攻撃のダメージは相変わらず洒落にならない。
「さすがアンブレイカブル、ってとこか。当たったら痛そうな一撃だ」
溜息まじりの一樹がふるうマテリアルロッドがダリラの腹にめりこんだ。間髪おかず魔力を流しこんで内側から灼き払うと、びくんと長身に震えが走る。
「エリノアちゃんは私に任せてね!」
「じゃあ静守さんは俺が治そう」
結衣奈が盾の加護をもたらすダイダロスベルトで、明彦がオーラを癒しの力へ変えて、それぞれ声をかけあって治療を分担した。ダリラの攻撃は二度に一度当たる程度になっているが、仲間の傷は嵩んでいる。
●舞台に上がった宿命
「約束の串刺しと行きましょうか」
轟音と共にバベルブレイカーのジェット噴射に身を任せ、エリノアがダリラの懐へ飛び込んだ。杭は死の中心点、心臓へまともに突き刺さる。
ぐっと呻いたダリラが彼女の頭を掴んで突き飛ばした瞬間、炎次郎が放った影が鋭く尖って伸びた。杭の抜けた痕へ容赦なく突き立つ影にダリラが歯を食いしばる一方、ミナカタの癒しの力でマロンがいくらか息をつく。
「彼女の治療を頼むよ」
モラルにエリノアの治療を命じた鏡花は、音もなくダリラの背後へ回りこんで首筋を裂いた。血を撒いてふらつくダリラへシズナの毒まじりの衝撃波が襲いかかる。
「逝ってよいぞよ!」
苦しげなアンブレイカブルの頭を狙い、リングを蹴ったマロンが星のきらめきを帯びた蹴撃を見舞った。脳震盪間違いなしの衝撃を踏みとどまり、炎にまかれたダリラが刃を振りあげる。標的は――挑発したマロン。
「食らいなああああっ!」
肉の裂ける音が響いたが、結衣奈が幾重にもかけた盾の加護は受けるダメージをかなり軽減した。それでも激痛はどうしようもない。
「っくう……!」
「仲間から離れんかい!!」
炎を噴き上げるクルセイドソードを手に、炎次郎が一気にダリラへ斬りかかった。
仲間を闇堕ちさせるぐらいなら、リスクは自分が引き受ける。
斬撃は女の背を裂き、身を焼く炎の勢いを更に増した。ぐらりと長身が傾いたと思うと遂に力が抜けて膝をつく。
「灼滅者を、あまく見た、結末か……」
自らの血で言葉も出なくなったダリラが前のめりに倒れた。
生命を失った身体から抜け出た力が、炎次郎へ凄まじい勢いで流れ込んでいく。
自分が堕ちてもきっと結衣奈が連れ戻してくれる、そう信じている。身体を白銀の鎧が覆い始め、銀毛の狼の皮が顔を隠してしまう前に明彦は結衣奈に笑いかけた。
「今度は、俺を頼むな」
「大丈夫。絆の力で必ず取り戻すよ」
必ず助け出せると信じているから、結衣奈も微笑む。
いつの間にか炎次郎の霊犬ミナカタの姿がない。めきめきと音をたてて骨格が変化していく。彼の炎で近くへ寄ることもかなわず、一樹は唇を噛んだ。
「何としても止めますから、あなたも頑張って下さい」
「そうやな……よろしゅう、頼ム、ナ」
言葉が途切れ、人の姿形を失っていく。
一番未熟な自分が堕ちるのが最善手だと思ったのに。止めを刺すにはわずかに及ばなかったマロンが項垂れる。荒い息をつく彼女に肩を貸して、エリノアも痛みに眉を寄せた。
耀と鏡花は油断なく、闇堕ちした両者の動きを注視する。彼らを取り戻すには彼らの目的を知らなければならない――。
リングの中で漂う力を吸収し、炎次郎の姿は巨大な猫科のものへ変わった。渦巻く炎をものともせず、不敵な笑みを浮かべる騎士がその傍らに立つ。
いざ、戦いは次なる局面を迎える。
作者:六堂ぱるな |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801) 秦・明彦(白き狼・d33618) |
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種類:
公開:2017年8月19日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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