汝、己が武をここに示せ~前編

    作者:天木一

    ●武闘
     ビルの屋上にあるビアガーデン。日が落ち始めてもまだまだ暑い中大勢の人で賑わい、汗を流しながらビールジョッキ片手に食事と会話を楽しんでいる。
     そこへ空から突然黄金の円盤が飛来すると、中央へとぶつかる。衝撃に人々が吹き飛び、地面を転がった。
     起き上がった人々が目にしたのは、ビアガーデンの中央に突如として現れた黄金の円盤リング。
     そのリングの上に2体の男が現れた。
     片方は全身が分厚い筋肉に覆われた、ショートタイツとレスリングシューズを纏ったプロレスラー。その太い腕はあらゆるものを粉砕し、その強固な鋼の体はあらゆる攻撃を跳ね返す。
     もう一方の男は一回り小さく細身でありながら道着から覗く手や首から引き締まった体であると一目で分かり、全身刃物のような雰囲気を持つ空手家。その金属のように硬く鍛え抜かれた拳は鋼をも貫き、蹴りは暴風のように敵を薙ぎ倒すだろう。
    「不死身の筋肉を持つ男……その名も力丸だぁ!」
    「……粉砕拳、虎鉄」
     互いに名乗りを上げ殺気を放って睨み合う。緊張が高まりその時がやってくる。
    「さあ、ショータイムといくか!」
    「生き残るはどちらか一人。いざ尋常に!」
     呼吸が合うと両者がぶつかり合う。虎鉄の拳が胸を捉え、血を吐きながらも力丸が腕を掴んで投げ飛ばす。
    「うおおおお!」
    「やれーーぶっ殺せー!」
     熱に浮かされたように人々が声援を送り出す。酒を手に足を踏み鳴らし、異常な熱気がリングを中心に巻き起こる。
     血が飛び散り、地が揺れ、竦み上がるような雄叫びが上がる。
     殴られて肋骨が砕け、ドロップキックが顔を変形させる。蹴りは膝の骨を折り、抱え上げて投げ落とすと全身に痺れが起きる。
     両者一歩も引かぬ戦い。永遠に続くかと思える死闘にも終わりが近づく。
    「これが全身全霊の一撃……貴様が本当に不死身か試してやろう」
    「ハハッハ―!! 受けてやる!」
     最後の力を振り絞り虎鉄が右の拳を突き出す。それは体の中心を捉え、そこから解放された力が全身に逆流し力丸は全身から血を噴き出す。
    「グゥッ……ハァーーー!」
    「何!? まだ動けるか!」
     命が尽きる前に力丸は虎鉄を持ち上げて空に投げた。そして己も飛んで逆さになった虎鉄をがっちり腕を回して捕まえる。そのまま落下し、頭からリングに打ち付けた。
    「俺様の……勝ちだァアアア!!」
     頭を砕かれ動かぬ虎鉄に片足を乗せ、腕を上げて力丸が勝利の雄叫びを上げる。
    「うおおおおおおおおお!」
     観客も同じように腕を突き上げ、熱狂した空気が伝播する。
    「これで俺様はもっと強くなる!」
     その身に倒した相手の力が吸い上げられ、筋肉が膨張して本当の鋼のようになり強大化した。

    ●事件
    「武蔵坂学園が六六六人衆との同盟を拒否した事から、六六六人衆と同盟関係にあるアンブレイカブルが新たな事件を起こそうとしているみたいなんだ」
     能登・誠一郎(大学生エクスブレイン・dn0103)が新たな事件の発生を灼滅者へ伝える。
    「多くの人がいる場所に『黄金の円盤リング』を出現させ、2体のアンブレイカブルを戦わせて、勝者に敗者の力を吸収させて強大化させるという事件みたいだね」
     勝利し強化されたアンブレイカブルは、周囲の一般人を皆殺しにして、新たに得た力を慣らし定着させるようだ。
    「一般人は『黄金の円盤リング』の魔力の影響下にあって、逃げる事も無く喜んで殺されてしまうんだ」
     『黄金の円盤リング』の力はESPで上書き出来ない、催涙弾等の物理的な方法も無効化してしまう。
    「一般の人々を助けるには、『黄金の円盤リング』でアンブレイカブルと戦うしかないんだ」
     搦め手は通じない。正面からぶつかり合い打倒する。それだけが唯一の方法だ。
    「2体のアンブレイカブルのどちらかが勝利して強大化された場合、一般人の虐殺を優先するんだ。そこへみんなが攻撃を仕掛けても強大化した相手を止められず被害が出てしまうよ」
     そんな事態を防ぐべく、決着がつく前に戦いに介入しなくてはならない。
    「でも灼滅者が来たと分かると、アンブレイカブルはタッグを組んでみんなを攻撃してくるんだ。有利に戦うには両者が消耗したところで介入するべきだけど、ギリギリを狙い過ぎると手遅れになる可能性があるから気を付けて」
     決着が見えた段階では手遅れとなる可能性が高いだろう。
    「ここからが今回の事件の一番重要な点だよ。この戦いでアンブレイカブルを灼滅した灼滅者は、『黄金の円盤リング』の魔力でアンブレイカブルの力を吸収してしまい闇堕ちしてしまうんだ」
     闇堕ちした灼滅者は、戦闘後も『黄金の円盤リング』で戦い続け、最終的には一般人も皆殺しにしてしまう。
    「だからみんなにはアンブレイカブルを倒し、その後、闇堕ちした仲間と連戦してもらう事になるんだ」
     アンブレイカブル2体を倒し、続いて闇堕ちした仲間との戦うという厳しい任務となる。
    「何にしてもまずアンブレイカブルを倒さないと始まらないよ。2体のアンブレイカブルを確実に倒して欲しい。タフなプロレスラーと、攻撃に特化した空手家が相手だよ」
     プロレスラーの力丸は防御力が高く、タフで倒すのが厄介な相手。空手家の虎鉄は攻撃力が高く、苛烈に攻撃主体の戦闘をする相手だ。2体同時に戦えば苦戦するが勝てない相手ではない。
    「戦場になるのはビルの屋上にあるビアガーデン。夕方の敵が戦い始める頃に到着できるよ」
     どのタイミングで介入するか好きに選ぶことができる。
    「厄介な事件だけど、多くの犠牲が出るのを止めなくっちゃならない。それにこれだけ大掛かりな作戦を阻止出来ればアンブレイカブルには大きな打撃になると思うよ。危険な任務だけど、みんなならきっと犠牲を出さずに終わらせられるって信じてるよ」
     誠一郎が灼滅者を見渡す。それに応えるように深く頷き、灼滅者は顔を合わせ作戦を立て始めた。


    参加者
    神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)
    神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)
    高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)
    獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)
    三崎・真月(炎乳天使・d36777)
    篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)

    ■リプレイ

    ●黄金のリング
    「やれーーっ殺せーー!」
    「そこだ! いけ! ぶったたけ!」
     多くの人で賑わうビル屋上のビアホール。照明のような夕日に照らされる中央の黄金の円盤リングに向かって人々が声援を飛ばしている。そこで闘うは空手家の虎鉄とレスラーの力丸。互いの力は拮抗し、攻めの虎鉄、受けの力丸と互いの長所が噛み合った戦いが繰り広げられていた。
    「……今回はとんでもない依頼ね。……でも放ってはおけないわ」
     屋上を覆う熱気に目をパチクリさせながらも、篠崎・零花(白の魔法使い・d37155)は表情の無い顔で周囲を窺い乱入のタイミングを計る。
    「これはまたどこかで見たようなものですね。大老にはこういう能力が標準装備なんですかね? でも、一般人を問答無用で巻き込む点では業大老よりも今回のジークフリート大老のが悪質ですね。
     敵に見つからぬよう高野・妃那(兎の小夜曲・d09435)が人陰から呟く。
    「いきなりリングでデスマッチ……観戦代が命では割高なのね」
     華上・玲子(甦る紅き拳閃・d36497)は熱狂する人々を見渡す。
    「うおおお! そこだ!」
     叫びに釣られてリングを見ると、虎鉄の拳が腹にめり込んでいる場面だった。互いに傷が目に見えて増えている。
    「そろそろ仕掛けてもいい頃合いだわ」
     零花が周囲の仲間達に視線を向け頷き合う。一斉に灼滅者達がリングに向かって動き出した。
    「まつきちゃんの手伝いもだけど、大勢の人たちも助けるためにもがんばるなり!」
     勢いよく玲子がリングに上がると、力丸に向かってご当地の力を宿した光線を放って自分に注意を引き付ける。
    「何だお前は!」
     突然の闖入者にちょうど攻撃を仕掛けようとしていたところを邪魔された力丸が怒鳴る。
    「夏の祭りには酒と喧嘩、乱入が不躾とは言わないよな?」
     大剣を振り上げて接近した神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)は、炎を宿らせた刃を振り下し肩から胴へと斬りつけ、力丸の鋼のような硬い肉を裂いて高熱で焼いて傷口を炭化させた。
    「ロードローラの時は己の力不足で倒れたけど……今回は絶対にまけれない!」
     気合を入れて三崎・真月(炎乳天使・d36777)は輝くリングに上がり、力丸を指差して呼び掛ける。
    「レスラーとしてどちらが強いか勝負よ!!」
     そして飛び掛かって炎を発するミドルキックを浴びせた。
    「さーて、こっからは灼滅者VSアンブレイカブルっすよ」
     軽い口調で獅子鳳・天摩(幻夜の銃声・d25098)は割って入るように飛び込んで、虎鉄の顔面に蹴りを叩き込んで力丸との距離を離す。
    「勝負に横槍とは……ならば先にお前らを始末する」
     虎鉄は標的を力丸から意識を灼滅者達に切り替えた。
    「……まるで、武神大戦天覧儀を、思い、ださせ、ます、ね……お相手、願えます、か?」
     冷静な顔で挑戦の言葉を呟いた神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が、矢のように帯を高速で撃ち出し虎鉄の太腿を貫いた。
    「………私の前で闇堕ちなんてもう出したくないですが、そうも言ってられませんね」
     覚悟を決めて妃那は歌を奏で、その美しい声で力丸を魅了する。
    「殺せば闇堕ちか……面白い。更なる力が手に入るなら喜んで修羅になろう……そう、今もよりも強く、誰よりも強く!」
     不敵な笑みを浮かべたヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)は敵の前に立つ。
    「水をさして悪いが……貴様ら二人共、此処で果てろ」
     隠す事無く殺気を放ちながら虎鉄に向けて妖刀を低く抜き打ち、切っ先で脛を斬り裂いた。

    ●武を示す
    「まずはその自慢の筋肉を攻略します!」
     真月は包丁を突き刺し、捻って傷口を悪化させる。
    「その程度じゃあ俺様の筋肉は突破できん!」
     力丸はそんな傷を気にも留めずに、真月の体を持ち上げてボディスラムで投げ落とした。そしてもう一度引き起こそうと髪を掴む。その腕を大剣が斬り裂いた。
    「どこを見ている、貴様の相手は俺だぞ」
    「ハッ、2人でこの不死身の力丸を相手に出来るつもりかぁ!」
     手を離し、勢いをつけて跳躍した力丸がドロップキックを放つと、闇沙耶は大剣の平で攻撃を受け止め衝撃に仰け反る。だが着地に合わせ足元から影を広げて力丸を包み込んだ。
    「2人じゃないよ、ぼくも居るなりよ!」
     拘束されている隙に、玲子はドス黒い血液のような影を刃にして力丸の背を斬りつけた。3人で力丸を取り囲み虎鉄と引き離し連携させないように動く。
    「ふーーーーっ必倒!」
     大きく踏み込んで虎鉄が拳を砲弾のように打ち込んでくる。それをライドキャリバーのミドガルドが割り込んで拳を車体で受け止め、横滑りして吹き飛ばされた。
    「……可能な限り2体共、速やかに灼滅するわ」
     零花は白い魔導書を開くとページが勝手に捲れて止まると、虎鉄と力丸を巻き込んで爆発を起こして炎上させる。そこへウイングキャットのソラが飛び掛かり虎鉄の顔に肉球を叩き込んだ。
    「……片方を、早く、倒せば、有利に、なり、ます……」
     その爆風を突っ切った蒼は腕を獣のように変化させて腹を殴りつけ、虎鉄の体をくの字によろめかせる。
    「まずは貴様からだ! すぐに刀の錆にしてやる!」
     続けて素早く敵の背後に回り込んだヘイズは刀を振るって背中を斬りつけた。
    「守りを捨てて攻撃に特化しているようですね」
     すぐに妃那は天使のような歌声を響かせ、ミドガルドの傷を治癒する。
    「強さを求める姿勢には共感を覚えるけど、おたくらなんで強くなろうとしてんの?」
     そんな疑問を口にしながら天摩はローラーダッシュで速度を上げ、撥ね上げた燃える足で回し蹴りで虎鉄の側頭部を狙う。
    「さて、理由など忘れたな……」
    「俺様は世界一のレスラーになるためだ!」
     両者から返答があり、ストイックに虎鉄は拳を打って蹴りを弾き、力丸は豪快に笑いながら掴み掛かる。
    「こっちの相手をしてもらうなりよ」
    「そんなもので不死身の俺様を倒せるか!」
     玲子は剣で斬りつけて力丸を留めようとするが、剣ごと抱え上げられそのままフロントスープレックスで背後に投げ飛ばされた。
    「本当に不死身かどうか試してみますね!」
     そこへ勢いをつけてリングを蹴った真月は、ドロップキックを胸にぶちかます。
    「不死身というのは大仰なのではないか?」
     よろめいた力丸に炎を纏う大剣を闇沙耶は横一線、胴を薙いで血を噴き出させた。
    「ハッハー! ならば見せてやる不死身の肉体を!」
     筋肉を膨張させて力丸が傷を塞ぐと、闇沙耶の腕を掴んで引き寄せアームホイップで投げ飛ばした。
    「このままフォールしてやる!」
     そして力丸は上から襲い掛かろうとする。
    「こちらは一人で戦っている訳ではないのでな」
     倒れたまま闇沙耶は影を伸ばし敵の脚を掴み取るように押さえつけた。
    「個人の力で負けていても、仲間と力を合わせれば勝てるなり!」
     そこに玲子は鏡餅への想いを込めて光線を放ち、力丸の顔を焼いた。
    「そちらが投げが得意なら、投げでも勝ってみせます……!」
     その隙に真月は力丸の背後から腰に手を回し、ジャーマンスープレックスで後方へ投げ飛ばした。
    「せぇええ!!」
     虎鉄の気合の乗った拳が零花の顔に向かって放たれる。当たれば一撃で顔を砕きそうな正拳突き。
    「……当たると、危ない、です、ね……」
     そこへ蒼は帯を放ち、肩に突き立てて軌道を逸らした。すれ違った拳の風圧は零花の頬を切り体をよろめかせる。
    「2体のアンブレイカブル、強敵ですが私たちならば倒せます」
     ギターを掻き鳴らした妃那は、力強いメロディで仲間達の心に勇気を湧き立たせる。
    「……腕を強化しているようね、ならそれを消すわ」
     零花は魔力の光線で虎鉄を撃ち抜き、その腕に宿るオーラを吹き飛ばした。
    「六六六を殺すため……今、此処で! 俺のために、死ねっ!」
     敵の間合いの外からヘイズは大太刀を振り下ろし、両断せんと刃が敵の頭に迫る。それを虎鉄は頭突きでずらし、刃は肩の肉を抉った。
    「いぃあああ!」
    「最初の目的とか、そういうの大事と思うんすよ」
     虎鉄がヘイズの胴を叩き折ろうと回し蹴りを放つと、それに合わせて天摩も蹴りを放ち、蹴りと蹴りがぶつかり合い勢いが止まる。勢いに負けて先に姿勢を崩したのは天摩だった。
    「おあああぁ!」
     そこへ虎鉄がもう一度蹴りを放とうと体を入れ替える。
    「……攻撃後の、隙を、突き、ます……」
     だがそれを予期してローラーダッシュで滑り込んだ蒼は、下から炎を纏った足で虎鉄の顎を打ち上げた。
    「頭を打ったら強くなろうと思った動機を思い出すかもしれないっすよ」
     天摩は3連の銃身を持つ拳銃を撃ちながら近づき、虎鉄が弾丸を躱したところへ足払いで姿勢を崩し、振り上げた銃のグリップを顔面に叩き込んだ。
    「求めるは一撃の強さ、最強の武……全身全霊の一撃、受けてみろ」
     くるりと虎鉄が突然振り向き最速で放つ右の拳。回り込もうとしていたヘイズが胸に直撃を受けて吹っ飛んだ。
    「この歌声はその自慢の拳にも負けません」
     妃那の歌声が傷を癒して骨を繋ぎ、飛びそうになるヘイズの意識をはっきりさせて立ち上がる気力を与えた。そこへ虎鉄は追撃に踏み込む。
    「……最強なんて、幻のようなものよ」
     その眼前に広がるように零花の影が虎鉄を呑み込み、己が拳の通じない敵の幻を見せる。目を閉じた虎鉄は拳の一撃でその影を打ち破った。
     その間に起き上がったヘイズは刀を鞘に納め血の混じった唾を吐き捨てる。そしてただ一直線に駆け虎鉄の迎撃する拳を紙一重で躱し、すれ違って背後を取ると抜刀する。
    「その力、貰い受ける! 紅刃一閃!」
     迷いなく走る刃は虎鉄の首を刎ね飛ばした。

    ●猛るレスラー
    「こちらは片付きました、残るは一人だけですっ」
     妃那は影を伸ばして敵を蔦で巻き付けるように縛り付け動きを止める。
    「なに!?」
     見れば力丸は8人の灼滅者に囲まれていた。
    「さて、後は貴様だけだ。こちらも攻勢に移らせてもらう」
     闇沙耶は上段に大剣を構え、大きな踏み込みと共に斬撃を浴びせて袈裟斬りに体を抉る。
    「おいおい、俺様にやられる前にやられちまうたあな、やっぱり俺様のが強いってことか!」
     虎鉄が灼滅されたのを見ても力丸は動じる事無く、灼滅者達に向かって闘志を燃やす。
    「ここからが本当のショータイムだ! レスラーの真骨頂を見せてやらぁ!」
    「どんな攻撃も受け切ってみせるなり!」
     突っ込んでくる力丸から庇おうとした玲子が空に投げ飛ばされ、宙で逆さになったところに組み付かれる。そのまま頭からリングに落下してくる。
    「……加勢、します……」
     遠い間合いから高く跳んだ蒼は、一気に距離を縮めて横から飛び蹴りを浴びせ、バランスを崩した力丸は横倒しになって玲子と共に落下した。
    「……少しでも、硬い体を弱体化するわ」
     魔導書を手にした零花は魔光で力丸の強固なオーラの鎧を砕く。
    「この筋肉の鎧はレスラーの血と汗の結晶! 決して破れねェ!」
     立ち上がった力丸は腕を伸ばし掴み掛かる。
    「最強のレスラーを目指すなら、オレらを倒してみるんすね」
     スライディングで接近した天摩は足元からローキックで膝を打ち抜く。続けてミドガルドが突進して撥ね飛ばそうとする。だが逆に力丸に掴まれて持ち上げられ、ブレーンバスターで地面に叩きつけられた。
    「貴様もこの刀に血を吸われて俺の糧になるか?」
     跳躍して飛び越えたヘイズが、血塗れの刀を振り下しながら着地して力丸の背中に真っ直ぐな傷を刻む。
    「このまま押し切ります!」
     真月はエルボーを叩き込むが、力丸は食らいながら組み付きバックドロップで真月を投げた。すぐにソラは尻尾のリングを光らせ、仲間達を癒していく。
    「俺様の体は不死身だ!」
    「体は鍛えられるっすけど、心の方はどうっすかね」
     すれ違うように横を通り抜けながら天摩は十握剣を振り抜き、鋼の肉体をすり抜け霊魂だけを傷つけた。力丸の体が大きくよろめく。
    「その自慢の体を削り取ってやろうっ!」
     リングを所狭しと駆け回りながらヘイズは刀を振り、四方から力丸の全身に傷をつけていく。
    「海将ルナ・リードに戦神アポリア、彼らが闇堕ちする場にいて助ける事も出来ず見てることしか出来なかった私は。次堕ちるのなら私の番のはずなんです、いいえ、私の番でなければならないんですっ!」
     想いを込めて妃那は風を巻き起こして刃のようにぶつけ、敵の体を斬り裂き血を撒き散らす。ぐらりと倒れそうな力丸はそれでも踏み留まる。
    「……こうすれば、力が入らないわ」
     魔力を高めて零花は力丸の足元で爆発を起こし、その体を宙に浮かせた。
    「まつきちゃん! 今なり!」
     玲子がビームを放って敵の顔を焼き目晦ましにする。
    「ここで自分の壁を越えてみせる!」
     そこへ全力で駆ける真月は体当たりするように胸からぶつかり、力丸を吹っ飛ばした。その体は地面を転がり仰向けに倒れる。
    「……俺様はレスラーだ。何度だって……立ち上がる!」
    「うおおおおおお!」
     むくっとブリッジするように起き上がる全身傷だらけの姿に観客達が湧きたつ。
    「不死身の名に恥じぬ男だ、ならこちらも全力で応じよう」
     大剣に炎を渦巻かせた闇沙耶は、掬い上げるように大剣を逆袈裟に走らせる。それを左腕を盾にして力丸は受けるが刃が骨を断ち腕が吹き飛ぶ。
    「レスラーは諦めない!」
     力丸は根性だけで動き、右腕だけで闇沙耶を抱え上げ高々と跳躍した。
    「……機があれば、躊躇わず、倒すと、決めて、来ました……」
     そこへ躊躇せずに飛び込んだ蒼は獣の腕を伸ばして割り込み、力丸の頭を掴んで落下し地面に後頭部から叩きつけ、頭をぐしゃっと潰した。

    ●堕ちる2人
    「おおおおおおおお」
    「やった! やりやがったーー!」
     観客たちの湧く中、仲間達の視線は敵に止めを刺したヘイズと蒼に向けられる。
    「……後は、お願い、しま、す……」
     何かを堪えるように声を震わせた蒼は、今にも消えてしまいそうな儚さを持っていた。
    「俺は死なない、だからぶっ殺すつもりで頼むぜ」
     こんな時でもヘイズは笑ってみせる。
    「後の事は任せろ。きっちり終わらせてやる」
     動じず自信を持って闇沙耶が深く頷く。
    「また……でも、すぐに助けてみせます!」
     仲間が闇堕ちた姿に妃那は苦しそうに顔を歪める、だが強い意思でもって目を逸らさずに正面から見据えた。
    「大丈夫っす、絶対に助けてみせるっすよ!」
     軽い調子で天摩はお任せと胸を叩く、だがその声には少し熱い意志が混じっていた。
    「目を覚まさせてあげるなりよ!」
    「まだ私は力を出せるはずです!」
     ずっと前衛で闘い続けた玲子と真月は、傷つき疲れを覚えながらも仲間の為に活を入れる。
    「……必ず正気に戻すわ。だから……」
     真剣な表情で零花がじっと2人を見る。それだけで言いたい事は伝わった。心は決してダークネスに負けはしない。
     2人の闇堕ちが始まり、戦いは次のラウンドに進む。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) ヘイズ・フォルク(夜鷹の夢・d31821) 
    種類:
    公開:2017年8月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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