死闘に生きる者達~前編

    作者:雪神あゆた

    「かんぱーい」
     と唱和するグループ。別のテーブルでは、日ごろの愚痴を垂れ流す男性や、歌いだす女性もいた。
     そんな夜のビアガーデン会場。その中央に、突如、黄金の円盤が飛来した。
     その円盤の上に、二体の人型が現れる。
     柔道着を身に着けた巨漢の男。対するのは、赤いマスクと赤いレオタードを纏った細身の女。
    「行くぞ、ミラクルマスク!」
     と男が叫べば、
    「よくってよ、剛力!」
     女が応じる。
     男の名は剛力。女の名はミラクルマスク。二人は戦いだす。
     先手を取ったのは剛力。剛力はミラクルマスクの腕をとり投げる。
     背中をリングに叩きつけられたミラクルマスクは、が、腹筋をバネに立ちあがる。そのままジャンプ。剛力に踵落とし!
     目まぐるしい攻防、ビアガーデンの客は歓声を上げる。
    「素敵よ、剛力さーん!」
    「ミラクルマスク頑張れー」
     声援の中、戦いは激化。剛力の投げはミラクルマスクを何度もリングに叩きつけた。が、ミラクルマスクの蹴りも剛力の足を打ち動きを鈍らせる。
     そして。攻め手の衰えた剛力の顔にミラクルマスクの膝が刺さり――剛力は倒れた。
     ミラクルマスクは腕を突き上げ、
    「剛力、貴方の力、貰いますわ!」
     剛力の力を吸収。ミラクルマスクの体中の筋肉が膨れ上がった。

     学園の教室で姫子は説明を開始する。
    「武蔵坂学園が六六六人衆との同盟を拒否した事で、六六六人衆と同盟を組むアンブレイカブルが新たな事件を起こそうとしています。
     その事件は、一般人が多くいる場所に『黄金の円盤リング』を出現させ、アンブレイカブル2体同士を戦わせ、その勝者に敗者の力を吸収させ強大化させる事件。
     強化されたアンブレイカブルは試合後に周囲の一般人を皆殺しにし、新たに得た力を自分の物として定着させるようです。
     周囲の一般人は、黄金の円盤リングの魔力で、逃げずに試合に熱狂し、試合後も熱狂のまま、勝者のアンブレイカブルに喜んで殺されていきます。
     一般人は、黄金の円盤リングの魔力の影響下にある為、灼滅者のESPなどで無力化はできず、催涙弾その他の物理的な方法も効果がありません。
     つまり、周囲の一般人を助ける為には、黄金の円盤リングでアンブレイカブルと戦うしかないのです。
     皆さん、急ぎ現場に向かい、アンブレイカブルと戦ってください」
     現場は神奈川県のビル屋上のビアホール。
    「ただし、注意点があります」
     2体のアンブレイカブルのどちらかがどちらかを倒した場合、強化されたアンブレイカブルは、ビアホール内の一般人の虐殺を優先して行う。
     灼滅者が攻撃をしかけても、虐殺は止められない。多くの被害が出るだろう。
    「これを防ぐ為には、アンブレイカブルの戦闘の決着がつく前に、戦闘に介入しないといけません」
     灼滅者が戦闘に介入すれば、試合中の2体のアンブレイカブルはタッグを組んで灼滅者と戦おうとする。
     有利に戦う為には、2体のアンブレイカブルが戦いで消耗したところに介入するのが良いが、ギリギリを狙いすぎると決着がついてしまい、周囲の観客に大被害がでる場合があるので、介入のタイミングの見極めは重要だ。
    「更に、重要事項があります」
     この戦いでアンブレイカブルを灼滅した灼滅者は、黄金の円盤リングの魔力でアンブレイカブルの力を吸収して闇堕ちしてしまう。
     この戦いで闇堕ちした灼滅者は、戦闘後も撤退せず、黄金の円盤リングで戦い続け、最終的に周囲の観客を虐殺する。
     そのため、闇堕ちした灼滅者と連戦しなくてはならないのだ。
    「闇堕ちした灼滅者との戦いも乗り越えなくてはなりません。ですがその前に、まず2体のアンブレイカブルを撃破しなくてはなりません」
     アンブレイカブルのうち一体は、柔道着を着た巨漢。『剛力』と名乗る。
     もう一体は、マスクを被った細身長身の女。『ミラクルマスク』と名乗る。
     二人ともストリートファイターのサイキックを使いこなす。
     そのうえ、剛力は追撃効果のある術式の投げ技を使う。
     また、ミラクルマスクは、プレッシャーを与える神秘の蹴り技を駆使する。
    「二体ともそこそこの強敵。が、今の皆さんなら二体相手でも、なんとか勝てるはず」

    「謎の力を放つ黄金の円盤リング……。おそらく、アンブレイカブルの首魁である大老達の力。
     闇堕ちを誘発する厄介なものですが、どうか犠牲を出さず解決してください」
     お願いします、と姫子は深く頭をさげた。


    参加者
    アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)
    御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    宮守・優子(猫を被る猫・d14114)
    九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)
    三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)

    ■リプレイ

    ●戦いのゴングは音もなく鳴る
     夜のビアガーデン。設置された照明が、中央の黄金リングをあかあかと照らしている。
     リングでは、二体のアンブレイカブルが技を交わし合っている。覆面の女・ミラクルマスクと柔道着の男・剛力だ。
     観客たちは二体へ、熱狂のこもった声援を飛ばしている。
     彼らに混じり、灼滅者の一人、御神・白焔(死ヲ語ル双ツ月・d03806)の煌青色の瞳は冷静に戦場を捉えていた。戦闘開始から四分後、白焔の口が動く。
    「剛力の足運びがやや乱れだしたな。息も荒くなっている」
     白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)は同意する。
    「後少しで介入しましょう。いろんな意味で覚悟が問われる事件ですね……皆さんも心の準備は済みましたか?」
     ジュンの言葉に小さく頷く白焔。
     二人の指摘通り、剛力は動きに精彩を欠き始めていた。そして剛力のアッパーカットが空を切る。
     北逆世・折花(暴君・d07375)は剛力が技を外したのを確認し、
    「タイミングは今だね、行こう」
     告げるや地面を蹴る。姿勢を低くし移動。リングはすぐそばだ。
     店員に扮していた宮守・優子(猫を被る猫・d14114)もリングへ走ろうとしていた。近くで自分の写真を撮っていた三影・紅葉(あやしい中学生・d37366)へ、優子は声をかける。
    「自分は、アタッカーの皆さんとは別の方向から行って、気を引くっす」
    「分かった、気を付けてくれ。一般人に被害が出ないように、アンブレイカブルをぶちのめそうぜ!」
     答える紅葉は既に封印を解いていた。手に、武器たる一本のベルト。
     封印を解き各々の武器を手に、リングへ移動する八人。

     八人がリングに上がる前に、アンブレイカブル二体は戦いを止めた。灼滅者らの接近に気づいたのだ。
    「いいんですの? リングにいらっしゃるなら――」
    「――容赦はしない」
     ミラクルマスクは灼滅者らへうっすら笑う。剛力は両手を広げ構えを見せる。
     アプリコーゼ・トルテ(三下わんこ純情派・d00684)は躊躇なく跳躍。ミニスカの裾をひらひらさせつつ、リングへ飛び乗る。
     こちらを見る二体のアンブレイカブルに、長杖の先を向け、
    「あちしらもまぜてもらうっすよ!」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)と九形・皆無(黒炎夜叉・d25213)もリング内へ、
    「死闘に生きる……か。なるほどアンブレらしい戦いの場だな、だが殺戮なんて見過ごせるわけがない」
     月の様に鋭く光る【十六夜】を右手で構える咲哉。
    「貴方たちが殺し合うのはいいでしょう。我々を巻き込むのも許容しましょう。が、一般人を贄とするのなら、我々灼滅者がお相手しましょう」
     皆無は丁寧な口調から意志を滲み出させつつ、灰の瞳で敵を見据える。
     二人はリングを駆け、敵との距離を一気に詰めた。仲間達も彼らに続く。

    ●リングに染みる汗と血と
     先手を取ったのは、ミラクルマスク。彼女は高くジャンプ、宙を舞う。
    「貴方がたの闘志、受け取りましたわ。ならば全力でおこたえいたしましょうっ!」
     落下と同時、足を突き出す。踵が前衛の折花の肩を強打。ふらつく折花。
     その折花へ、剛力が迫る。手が、折花を掴む寸前、
     紅葉が腕を振った。ベルトを伸ばす。先端で剛力の腕を貫いた。飛び散る赤。
    「やるな、灼滅者」
    「やるなだって? 俺たちの攻撃はまだまだこんなもんじゃないぜ」
     紅葉は剛力に応え、意味ありげに笑う。
    「どういう意味――」
    「死を撒くモノは、冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
     問い返そうとする剛力に、背後から白焔の冷たい声。白焔は既に剛力の背後に回り込んでいたのだ。
     白焔は剛力の足へ、槍の穂先を突き立て、さらに斬る。黒死斬。その鋭さに、歪む剛力の顔。
     その隙をつき、折花が腰を低くした。呼吸を止め拳を握り、鉄鋼拳。剛力の体をくの字に折り曲げる。
    「休む暇なんて与えない。一気に行くよ!」
     折花の鋭い声が、仲間たちの耳へ。

     灼滅者らは剛力を囲み攻めたてる。
     優子も剛力の側面で剣を振り上げ、クルセイドスラッシュ! 手ごたえは確かにあった。
     主に加勢すべくライドキャリバー・ガクも剛力へ疾走。
     が、剛力は怯まず腕を伸ばしてくる。
    「ただでやられると思うなよ?」
    「それは自分の台詞っす!」
     優子は、己を掴み投げようとする腕を、サイドステップで回避。
     が、次の一分後に飛んできた拳は、よけられなかった。
     顔面に拳を受けた優子の後頭部へ、さらにミラクルマスクの肘が命中。鈍い音。
     ミラクルマスクは足を上げる。追い打ちをかけようと。
     皆無は佛継弥勒掌を嵌めた手を前へ突き出した。
    「あなたは私が抑えます!」
     風が吹き、真空の刃が発生。皆無の刃が、ミラクルマスクを切り刻む。
     皆無は声を張った。
    「白金さん、トルテさん、どうか今のうちに!」
    「了解です、今いきます!」
    「あっしにお任せっす! 剛力さん、やらせはしないっすよ!」
     皆無の声に応じ、ジュンとアプリコーゼが動き出す。
     ジュンはマジピュアコスチューム・ホワイトの裾をなびかせつつ、杖を振る。フォースブレイクを剛力の脇腹に叩き込んだ。
     その背後でアプリコーゼがマジカルな長杖をくるくる回す。
     杖をぴたっと止め、マジックミサイル。
     予言者の瞳を既に行使していたアプリコーゼの狙いは正確。アプリコーゼの矢は、剛力の筋肉を貫通。
     剛力は傷口を抑えつつ、跳ねる。距離をとろうというのか。
     が、剛力が移動した先に、咲哉が立っていた。敵の行動を予測し先回りしていたのだ。
     驚く剛力へ、咲哉は光る刃を一閃。剛力の足から、血を吹き出させる。
     体力のほとんどを失った剛力。が、まだ立っている。
    「まだまだァ……!」
    「強い意志だ。ならその意志ごと、切り潰す」
     アンブレイカブルと咲哉の視線がぶつかる。

    ●決着、そして
     戦いは続く。折花と優子、ガクが守り、皆無がミラクルマスクの抑えを担当。彼らが稼いだ時間を活用し、ジュン、紅葉、アプリコーゼ、白焔、咲哉が、剛力を容赦なく攻める。
     守りを固めつつ、敵の体力を削るための攻撃的な陣形。剛力の体力を迅速にかつ大きく削っていく。
     が、敵の反撃も必死。今も、ミラクルマスクの抗雷撃が優子の顎を痛打した。
     これまで仲間を庇ってきた優子の傷は浅くはない。優子は脂汗を浮かべた。それでも、
    「痛い……けど、敵だって傷ついているっす。だからガク、撃つっす!」
     声を出す優子。ガクが銃撃を開始。
     優子自身は足元に目をやる。リングの上で影が蠢き、伸び、刃へと変化。その刃で、剛力を斬る!
     剛力の全身から血が噴き出し、剛力は倒れ、消え――そして、闇の力が優子の中に流れ込んでくる。
    「があっ……ああああっ……でも、まだっす、まだ自分は……っ!」
     まだ敵は一体いる。それを倒すまではと、優子は灼滅者の自分を保つ。

     一体のアンブレイカブルの消滅に、ビアホールは歓声で満たされる。口笛を吹く男、『どっちもがんばってー』叫ぶ女。
     パチパチ、とミラクルマスクは手を打ち鳴らした。
    「素敵ですわね、灼滅者の皆さん。でも。そんな皆さんを、わたくしが単騎にて倒せば……もっと、素敵ですわよねっ!?」
     灼滅者へ挑発的に笑むミラクルマスク。が、
    「そう思い通りにはいかないっす! いいや、あちしらがいかせないっすよ!」
    「そうだね。ここで君に負けるわけにはいかない」
     アプリコーゼが威嚇するように尻尾をふる。眉一つ動かさず真顔で敵を見るのは、折花。
     二人の前で、ミラクルマスクの手が動く。閃光百烈拳。
     折花はその拳を顔で受けた。
     が、折花は一歩も引かない。
     殴られた直後に拳を突き出す。折花の鉄鋼拳が敵の腹を抉る。
    『ガァッ』折花の拳の威力に押されてか、一歩二歩さがるミラクルマスク。
    「さがるなら、追い撃ちっす!」
     アプリコーゼが長杖を横に一振り。アプリコーゼは風の刃を生み出し、さがる敵を斬る!

     ミラクルマスクは出血しつつも、抵抗し続ける。そして今、ディフェンダー二人を潜り抜け、咲哉へ迫った。
     次の瞬間には、蹴りが、咲哉へ刺さる。態勢を崩す咲哉。
    「おほほほほ! このまま、蹴り潰しますわ!」
     皆無は敵の笑声を聞きつつ咲哉に駆け寄る。一度深呼吸すると、蹴られた部位に手を宛がう。
     皆無は剛力が倒れてから、治療に専念し、戦線を支え続けていた。
     今も、皆無は佛継弥勒掌から淡い光を放ち、咲哉を治癒。
    「先ほど蹴り潰すと言いましたが、それは無理です」
    「ああ、不可能だ。絶対に」
     皆無の言葉に、咲哉が続けた。言い終えると咲哉は【十六夜】の柄を両手で握る。上段に構え、斬!
     咲哉の斬撃の速度は敵の回避を許さず、傷を深く刻みつけた。
     一方、白焔は仲間に小声で問う。
    「三影、五秒後に左側からしかけてくれ、いけるか?」
    「了解だ。ガンガン行こうぜ」
     白焔は紅葉の返事が来ると同時、敵の右側面をとる。
     次の瞬間には、炎を纏う白焔の爪先が敵の首に刺さった。
     紅葉は敵の左に回っていた。十字架をブンっと振る。発生した赤いオーラごと十字架を敵に叩きつける。
     白焔と紅葉の連携技に、ミラクルマスクは燃やされ、体力を吸われる。ミラクルマスクはその場に崩れ落ちる。
     が、手足がびくりと動き、掌がリングについた。
     その横にジュンが立つ。
    「まだ立ちあがろうというのですね。でも、これで……終わりです!」
     クロスグレイブを相手の背骨へ叩きつける。轟音。揺れる敵の体。そして、ミラクルマスクは永遠に活動を停止した。

     白焔はミラクルマスクが完全に消滅したのを確認。視線を優子とジュンへ走らせる。
    「闇堕ちはやはり避けられぬようだな」
     優子は手と膝をリングへ付ける。ジュンも、拳を血が出んばかりに強く握りしめていた。
    「こ、これ以上は……むり……っす。後は――」
    「後は……後のことは、皆さん、お願いします。ぐっ……ううっ」
     それだけを言うのがやっとだった。後は二人の口から、荒い息と、言葉にならない悲鳴が溢れる。
     優子とジュンの体がびくりと揺れた。二人の体が変化し始める、闇に堕ちたダークネスへと。
     紅葉は仲間に尋ねる。
    「連戦だが、皆、ダメージは大丈夫か?」
    「ボクは問題ない。まだいけるよ」
     問いに小さく首肯し、呼吸を整える折花。他の者にも深い傷はないようだった。
     咲哉は闇に変わりゆく仲間へ声をかけた。
    「安心しろ。二人に殺戮を実行させなどしない」
     再度戦闘姿勢をとる咲哉たち。

     そして死闘は、さらなる局面、後半へ。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:白金・ジュン(ボランティア灼滅者・d11361) 宮守・優子(猫を被る猫・d14114) 
    種類:
    公開:2017年8月15日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ